説明

新規なアンモニウム塩

【課題】N−オレイル−N,N−ジ(2−ヒドロキシエチル)−N−アルキルアンモニウム=クロリドに比べて耐水性が優れ、樹脂用帯電防止剤(例えば、粘着剤用帯電防止剤)として有用である新規なN−オレイル−N−ジ(ヒドロキシエチル)−N−アルキルアンモニウム塩を提供すること。
【解決手段】式(1):
【化1】


(式中、Rは炭素数1〜6のアルキル基を示す。Aはヘキサフルオロホスフェートアニオン又はビス(ペルフルオロアルキルスルホニル)イミドアニオンを示す。)で表されるアンモニウム塩。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なN−オレイル−N,N−ジ(2−ヒドロキシエチル)−N−アルキルアンモニウム塩に関する。
【背景技術】
【0002】
N−オレイル−N,N−ジ(2−ヒドロキシエチル)−N−アルキルアンモニウム塩としては、N−オレイル−N,N−ジ(2−ヒドロキシエチル)−N−アルキルアンモニウム=クロリド(以下、クロリド塩という。)が公知であり(例えば、特許文献1及び2参照)、帯電防止剤として使用される。しかしながら、クロリド塩は耐水性が乏しく、水洗したりすると帯電防止効果が消失するという問題があった。すなわち本発明者らが、クロリド塩を配合した樹脂組成物を用いてクロリド塩の耐水性を測定したところ、その樹脂組成物を水洗することにより帯電防止効果が低下した(後述の比較例1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−60322号公報
【特許文献2】特開2007−31585号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、耐水性が優れた樹脂用帯電防止剤(例えば、粘着剤用帯電防止剤)として有用で、新規なN−オレイル−N−ジ(ヒドロキシエチル)−N−アルキルアンモニウム塩を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者が、上記課題を解決するために鋭意検討を行ったところ、式(1)で表わされるアンモニウム塩(以下、アンモニウム塩(1)という。)が、耐水性が優れた帯電防止性を樹脂に付与できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
即ち本発明は、式(1):
【0007】
【化1】

(式中、Rは炭素数1〜6のアルキル基を示す。Aはヘキサフルオロホスフェートアニオン又はビス(ぺルフルオロアルキルスルホニル)イミドアニオンを示す。)で表されるアンモニウム塩に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明のアンモニウム塩(1)は、耐水性が優れた帯電防止性を樹脂に付与できるため、有用な化合物である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明を具体的に説明する。
ヘキサフルオロホスフェートアニオンとは、
式(2):PF (2)
で表されるアニオンを意味する。またビス(ぺルフルオロアルキルスルホニル)イミドアニオンとは、式(3):(RfSO (3)
(式中、Rfはぺルフルオロアルキル基を示す)で表されるアニオンを意味する。
式(1)中、Rで示される炭素数1〜6のアルキル基としては、直鎖又は分枝鎖状の炭素数1〜6のアルキル基が挙げられ、好ましくは直鎖のアルキル基である。具体的には例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等が挙げられる。
【0010】
アンモニウム塩(1)の具体例としては、N−オレイル−N,N−ジ(2−ヒドロキシエチル)−N−メチルアンモニウム=へキサフルオロホスフェ−ト、N−オレイル−N,N−ジ(2−ヒドロキシエチル)−N−エチルアンモニウム=へキサフルオロホスフェ−ト、N−オレイル−N,N−ジ(2−ヒドロキシエチル)−N−プロピルアンモニウム=へキサフルオロホスフェ−ト、N−オレイル−N,N−ジ(2−ヒドロキシエチル)−N−イソプロピルアンモニウム=へキサフルオロホスフェ−ト、N−オレイル−N,N−ジ(2−ヒドロキシエチル)−N−ブチルアンモニウム=へキサフルオロホスフェ−ト、N−オレイル−N,N−ジ(2−ヒドロキシエチル)−N−ペンチルアンモニウム=へキサフルオロホスフェ−ト、N−オレイル−N,N−ジ(2−ヒドロキシエチル)−N−ヘキシルアンモニウム=へキサフルオロホスフェ−ト、N−オレイル−N,N−ジ(2−ヒドロキシエチル)−N−メチルアンモニウム=ビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミド、N−オレイル−N,N−ジ(2−ヒドロキシエチル)−N−エチルアンモニウム=ビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミド、N−オレイル−N,N−ジ(2−ヒドロキシエチル)−N−プロピルアンモニウム=ビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミド、N−オレイル−N,N−ジ(2−ヒドロキシエチル)−N−ブチルアンモニウム=ビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミド、N−オレイル−N,N−ジ(2−ヒドロキシエチル)−N−ペンチルアンモニウム=ビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミド、N−オレイル−N,N−ジ(2−ヒドロキシエチル)−N−ヘキシルアンモニウム=ビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミド等が挙げられるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
アニオンがビス(ぺルフルオロアルキルスルホニル)イミドアニオンであるアンモニウム塩(1)は、アニオンがヘキサフルオロホスフェートアニオンであるアンモニウム塩(1)に比べて、熱分解開始温度が高い(すなわち、熱安定性が良好)ので好ましい。
【0011】
本発明のアンモニウム塩(1)は、例えば式(4):
【0012】
【化2】

(式中、Rは前記に同じ。Xはハロゲン原子を示す。)で表されるアンモニウム=ハライド(以下、アンモニウム=ハライド(4)という。)を式(5):
(5)
(式中、Mは水素イオン又はアルカリ金属イオンを表す。Aは前記に同じ。)で示される酸又はそのアルカリ金属塩(以下、酸類(5)という。)とアニオン交換反応させることにより製造することができる。
【0013】
アニオン交換反応に使用される酸類(5)としては、ヘキサフルオロリン酸塩類(すなわち、MPF)及びビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド酸類(すなわち、M(RfSON)が挙げられる。
【0014】
ヘキサフルオロリン酸塩類としては、具体的には、ヘキサフルオロリン酸、ヘキサフルオロリン酸ナトリウム、ヘキサフルオロリン酸カリウム、ヘキサフルオロリン酸リチウム等のヘキサフルオロリン酸アルカリ金属塩、ヘキサフルオロリン酸アンモニウムなどが挙げられ、ビス(ペルフルオロアルキルスルホニル)イミド酸類としては、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、ナトリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、カリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、リチウムビス(トリフルオロエタンスルホニル)イミド、ビス(トリフルオロエタンスルホニル)イミドナトリウム、カリウムビス(トリフルオロエタンスルホニル)イミド等のアルキル金属ビス(トリフルオロアルキルスルホニル)イミドが挙げられる。
酸類(5)の使用量は、アンモニウム=ハライド(4)1モルに対し、通常0.6モル以上、好ましくは0.8モル〜1.5モルであり、より好ましくは0.9〜1.1モルである。
【0015】
アンモニウム=ハライド(4)としては、N−オレイル−N,N−ジ(2−ヒドロキシエチル)−N−メチルアンモニウム=クロリド、N−オレイル−N,N−ジ(2−ヒドロキシエチル)−N−メチルアンモニウム=ブロミド、N−オレイル−N,N−ジ(2−ヒドロキシエチル)−N−メチルアンモニウム=ヨージド、N−オレイル−N,N−ジ(2−ヒドロキシエチル)−N−エチルアンモニウム=クロリド、N−オレイル−N,N−ジ(2−ヒドロキシエチル)−N−エチルアンモニウム=ブロミド、N−オレイル−N,N−ジ(2−ヒドロキシエチル)−N−エチルアンモニウム=ヨージド、N−オレイル−N,N−ジ(2−ヒドロキシエチル)−N−プロピルアンモニウム=クロリド、N−オレイル−N,N−ジ(2−ヒドロキシエチル)−N−プロピルアンモニウム=ブロミド、N−オレイル−N,N−ジ(2−ヒドロキシエチル)−N−プロピルアンモニウム=ヨージド、N−オレイル−N,N−ジ(2−ヒドロキシエチル)−N−ブチルアンモニウム=クロリド、N−オレイル−N,N−ジ(2−ヒドロキシエチル)−N−ブチルアンモニウム=ブロミド、N−オレイル−N,N−ジ(2−ヒドロキシエチル)−N−ブチルアンモニウム=ヨージド、N−オレイル−N,N−ジ(2−ヒドロキシエチル)−N−ペンチルアンモニウム=クロリド、N−オレイル−N,N−ジ(2−ヒドロキシエチル)−N−ペンチルアンモニウム=ブロミド、N−オレイル−N,N−ジ(2−ヒドロキシエチル)−N−ペンチルアンモニウム=ヨージド、N−オレイル−N,N−ジ(2−ヒドロキシエチル)−N−ヘキシルアンモニウム=クロリド、N−オレイル−N,N−ジ(2−ヒドロキシエチル)−N−ヘキシルアンモニウム=ブロミド、N−オレイル−N,N−ジ(2−ヒドロキシエチル)−N−ヘキシルアンモニウム=ヨージド等が挙げられる。
【0016】
アニオン交換反応は通常水溶媒中で行われる。水の使用量は特に制限はないが、アンモニウム=ハライド(4)1重量部に対して通常20重量部以下、好ましくは0.3〜10重量部であり、特に好ましくは0.5〜4重量部である。
【0017】
アンモニウム=ハライド(4)、酸類(5)及び水の混合順序は特に限定されず、アンモニウム=ハライド(4)と水を混合した後に酸類(5)を添加してもよいし、酸類(3)と水を混合した後にアンモニウム=ハライド(4)を添加してもよい。また、着色が問題となる場合には、アンモニウム=ハライド(4)と水を混合した後に、活性炭等の脱色剤を用いて処理し、濾過して得られた濾液をアニオン交換反応に用いることもできる。
【0018】
アニオン交換反応における反応温度は、通常0℃以上、好ましくは10〜80℃、特に好ましくは20〜60℃である。
【0019】
反応終了後の反応液からアンモニウム塩(1)を取り出す方法としては、反応液に有機溶剤(例えば、メチルエチルケトン、酢酸エチル、トルエン、塩化メチレン等)を添加し、アンモニウム塩(1)を有機溶剤に抽出することができる。得られた抽出層を所望により水洗し、次いで有機溶剤を留去することにより、残渣としてアンモニウム塩(1)を得る方法等が挙げられる。
【実施例】
【0020】
つぎに、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はなんらこれらに限定されるものではない。下記の実施例中、H−NMRは日本電子データム株式会社製核磁気共鳴装置AL−400を使用し、溶媒にCDClを用いて400MHzで測定した。表面抵抗率は三菱化学株式会社製抵抗率計MCP−HT250を用い、印加電圧500Vにて測定した。熱分解開始温度(試料の重量が当初の5%減となったときの温度)はセイコーインスツルメンツ株式会社製示差熱熱重量同時測定装置TG/DTA220を用い、窒素雰囲気下で測定した。
【0021】
実施例1
N−オレイル−N,N−ジ(2−ヒドロキシエチル)−N−メチルアンモニウム=クロリドのイソプロピルアルコール溶液(ライオン・アクゾ株式会社製エソカ−ドO/12:有効成分74.5%)67.1gと水100.6gの混合溶液にヘキサフルオロリン酸カリウム22.7gを加え、次いで1時間室温で攪拌して反応させた。メチルエチルケトン95.0gを加えて攪拌後反応液を静置した後、分液した。得られたオイル層にメチルエチルケトン86.5gと水165.4gを加えて攪拌後反応液を静置した後、分液した。得られたオイル層を水100.6gで洗浄した。その後オイル層に含まれる溶媒を減圧下で除去してワックス状のN−オレイル−N,N−ジ(2−ヒドロキシエチル)−N−メチルアンモニウム=へキサフルオロホスフェ−ト62.8g(収率99%)を得た。
得られたN−オレイル−N,N−ジ(2−ヒドロキシエチル)−N−メチルアンモニウム=へキサフルオロホスフェ−トのH−NMRの分析結果及び熱分解開始温度を次に示す。
【0022】
H−NMR(CDCl) δ:ppm5.43−5.38(m,2H)、4.50(brs,2H)、4.00(brs,4H)、3.50(t,4H)、3.32(t,2H)、3.09(s,3H)、2.07−1.94(m,4H)、1.78−1.62(m,2H)、1.45−1.10(m,22H)、0.88(t,3H)
熱分解開始温度:320℃
【0023】
実施例2
N−オレイル−N,N−ジ(2−ヒドロキシエチル)−N−メチルアンモニウム=クロリドのイソプロピルアルコール溶液(ライオン・アクゾ株式会社製エソカ−ドO/12:有効成分74.5%)103.6gと水126.9gの混合溶液に70.5重量%ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド酸リチウム水溶液78.5gを加え、次いで1時間室温で攪拌して反応させた。
反応後、反応液の分液をおこない、得られたオイル層を水79gで2回洗浄した。その後オイル層に含まれる溶媒を減圧下で除去して液体のN−オレイル−N,N−ジ(2−ヒドロキシエチル)−N−メチルアンモニウム=ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド113g(収率75%)を得た。
得られたN−オレイル−N,N−ジ(2−ヒドロキシエチル)−N−メチルアンモニウム=ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドのH−NMRの分析結果及び熱分解開始温度を次に示す。
【0024】
H−NMR(CDCl3) δ:ppm5.36−5.34(m,2H)、4.06−4.04(m,4H)、3.58−3.51(m,6H)、3.41−3.37(m,2H)、3.15(s,3H)、2.02−1.99(m,4H)、1.71(br,2H)、1.33−1.25(m,22H)、0.87(t,3H)
熱分解開始温度:260℃
【0025】
応用例1
SKダイン909A(総研化学株式会社製粘着剤)100重量部、N−オレイル−N,N−ジ(2−ヒドロキシエチル)−N−メチルアンモニウム=へキサフルオロホスフェ−ト2重量部、希釈溶剤として酢酸エチル100重量部を加えて溶解してコート液を調整した。このコ−ト液をポリエステルフィルム上にバーコーダを用いて乾燥厚み約10μmの厚みでコートし、80℃で3分間加熱させて試験片を作成した。得られた試験片を23℃、50%RHの雰囲気中に3時間保持した後、21℃、50%RHで試験片の表面抵抗率を測定した。また耐水性試験としては、試験片の塗膜表面を水を含浸させた不織布でふき取る操作を行った。ふき取り操作は50回往復が終了するまで行い、23℃、50%RHの雰囲気中に3時間保持した後、21℃、50%RHで試験片の表面抵抗率を測定した。その結果を表1に示す。
【0026】
応用例2及び比較例1
応用例1のN−オレイル−N,N−ジ(2−ヒドロキシエチル)−N−メチルアンモニウム=へキサフルオロホスフェ−トの代わりに表1に示すアンモニウム塩を用いた以外は、応用例1と同様にして試験片を作成し、かかる試験片の表面抵抗率を応用例1と同様にして測定した。その結果を表1に示す。
【0027】
【表1】

【0028】
表1の結果から、本発明のアンモニウム塩を帯電防止剤としてコートしたポリエステルフィルムは、表面を水洗しても表面抵抗率がほとんど低下しないことがわかった。又、水洗後では、N−オレイル−N,N−ジ(2−ヒドロキシエチル)−N−メチルアンモニウム=クロリドと比較して、表面抵抗率はいずれも小さくなった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1):
【化1】

(式中、Rは炭素数1〜6のアルキル基を示す。Aはヘキサフルオロホスフェートアニオン又はビス(ペルフルオロアルキルスルホニル)イミドアニオンを示す。)で表されるアンモニウム塩。