説明

新規タングステンペルオキシド化合物

【課題】
不飽和結合化合物のエポキシ化反応において高い触媒活性を有する新規なタングステンペルオキシド化合物を提供することを目的とする。また本発明は、前記した新規なタングステンペルオキシド化合物を含む触媒に関するものである。
【解決手段】
特定の構造を有するタングステンペルオキシド化合物が、不飽和結合化合物と酸化剤のエポキシ化反応において高い触媒活性を示すことがわかり本発明を完成するに至った。すなわち、セレン元素またはテルル元素を含有する特定の構造を有するタングステンペルオキシド化合物、および該化合物を含む触媒によって達成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不飽和結合化合物のエポキシ化反応で高い酸化触媒活性を示すセレン元素又はテルル元素を含有するタングステンペルオキシド化合物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ペルオキソタングステン化合物は、その特異な構造から有機化合物を酸化する性質を発現し、これまでSi(例えば非特許文献1参照)、P(例えば非特許文献2〜4参照)、As(例えば、非特許文献5参照)、S(例えば、非特許文献6参照)等の元素を含有するタングステンペルオキソ化合物が合成され、これらは、例えば、アルケンのエポキシ化反応を進行させることが知られている。しかしながら、該化合物は、基質に対して当量必要であったり、高価なリン含有化合物やハロゲン含有溶媒を用いなければならない等、触媒の設計に工夫の余地があった。
【0003】
【非特許文献1】J.−Y.Piquemal、C.Bois、J.−M.Bregeault、Chemical Communications,(英)、1997、p.473
【非特許文献2】C.Venturello、R.D'Aloisio、J.C.Bart、M.Ricci、Journal of Molecular Catalysis,(蘭)、1985、Vol.32、p.107
【非特許文献3】Y.Ishii、K.Yamawaki、T.Yoshida、T.Ura、H.Yamada、T.Yoshida、M.Ogawa、The Journal of Organic Chemistry,(米)、1988、Vol.35、p.3587
【非特許文献4】K.Sato、M.Aoki、M.Ogawa、T.Hashimoto、D.Panyella、R.Noyori、Bulletin of the Chemical Society of Japan、1997、Vol.70、p.905
【非特許文献5】J.−Y.Piquemal、L.Salles、G.Chottard、P.Herson、C.Ahcine、J.−M.Bregeault、The European Journal of Inorganic Chemistry,(独)、2006、p.939
【非特許文献6】L.Salles、F.Robert、V.Semmer、Y.Jeannin、J.−M.Bregeault、Bulletin de la Societe Chimique de France,(仏)、1996、Vol.133、p.319
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、不飽和結合化合物のエポキシ化反応において高い触媒活性を有する新規なタングステンペルオキシド化合物を提供することを目的とする。また本発明は、前記した新規なタングステンペルオキシド化合物を含む触媒に関するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、前記課題を解決する手段として特定の構造を有するタングステンペルオキシド化合物が、不飽和結合化合物と酸化剤のエポキシ化反応において高い触媒活性を示すことがわかり本発明を完成するに至った。すなわち、セレン元素またはテルル元素を含有する特定の構造を有するタングステンペルオキシド化合物、および該化合物を含む触媒によって達成される。
【発明の効果】
【0006】
本発明では、セレン元素またはテルル元素を含有する新規なタングステンペルオキシド化合物を得た。該タングステンペルオキシド化合物は不飽和結合化合物と酸化剤によるエポキシ化反応において高い触媒性能を示し、従来の触媒では反応させることが難しかったエポキシ化合物を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明の第一の実施態様は、下記式(1):


【0008】
[式中、MはSeまたはTeである]で示される骨格を有するタングステンペルオキシド化合物であり、このような骨格を有していれば、どのような化合物でも良い。
【0009】
本発明の第二の実施態様は、下記式(2):

【0010】
[式中、MはSeまたはTeを表わし、X、Yはそれぞれ独立してO、OH、置換基を有しても良い芳香環含有基、または炭素数1〜8のアルキル基で示される基、あるいはX、Yが[O{WO(O]である]で示されるタングステンペルオキシド化合物である。
【0011】
炭素数1〜8のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、シクロヘキシル基、n−へプチル基、n−オクチル基、2−エチルヘキシル基等の直鎖、分岐または環状のアルキル基が挙げられる。
【0012】
上記置換基を有しても良い芳香環含有基の芳香環含有基としては、炭素数6〜18の芳香環含有基、より好ましくは、炭素数6〜12の芳香環含有基であり、例えばフェニル基、ナフチル基、ベンジル基などが挙げられる。また、芳香環含有基に存在し得る置換基としては、例えばフッ素、塩素、臭素等のハロゲン原子、アシル基、アルキル基、フェニル基、アルコキシル基、ニトロ基、アミノ基、カルボニル基、シアノ基等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。これらの置換基は、芳香環1個に対して1〜5個置換可能であり、複数個置換される場合には、同種もしくは異種のいずれであってもよい。
【0013】
本発明の前記式(2)で示したタングステンペルオキシド化合物としては、例えば、下記のものが挙げられるが、本発明の化合物はこれらに限定されるものではない。
[SeO{WO(O2−、[SeO{WO(O2−、[HOSeO{WO(O、[(HO)SeO{WO(O]、[HCSeO{WO(O、[CSeO{WO(O、[(CSeO{WO(O2−、[SeO{WO(O4−、[TeO{WO(O2−、[TeO{WO(O2−、[HOTeO{WO(O、[(HO)TeO{WO(O]、[HCTeO{WO(O、[CTeO{WO(O、[(CTeO{WO(O]、[TeO{WO(O4−等が挙げられる。
【0014】
本発明のタングステンペルオキシド化合物は、プロトン、アルカリ金属カチオン、アルカリ土類金属カチオン、アンモニウムカチオンや四級アルキルアンモニウムカチオン等のカチオンを保有することができる。中でも四級アルキルアンモニウムカチオンが好ましい。不飽和結合化合物のエポキシ化反応において高い触媒活性を有するためである。
【0015】
前記四級アルキルアンモニウムカチオンの4個のアルキル基は、各々異なっても又は全て同じでもよく、全て同じアルキル基であることがより好ましい。前記アルキル基は、炭素数が1〜12の直鎖及び/又は分岐を有するアルキル基が好ましく、炭素数が1〜12の直鎖のアルキル基がより好ましく、炭素数が1〜8の直鎖のアルキル基が更に好ましく、テトラ−n−ブチルアンモニウムカチオンが最も好ましい。
【0016】
上記のカチオン原料としては、硝酸塩であることが好ましい。硝酸塩の使用は、不純物の混入やタングステンへの配位を防ぎ、前記タングステンペルオキシド構造を保持しやすいためである。
【0017】
本発明で使用できるタングステン原料としては、タングステン酸ナトリウム、タングステン酸カリウム、タングステン酸セシウム、タングステン酸カルシウム、タングステン酸バリウム、タングステン酸、酸化タングステンが挙げられ、好ましくはタングステン酸である。また、セレン原料としては、亜セレン酸、亜セレン酸カリウム、亜セレン酸ナトリウム、セレン酸、セレン酸ナトリウム、二酸化セレンなどが挙げられ、好ましくはセレン酸である。テルル原料としては、亜テルル酸カリウム、亜テルル酸ナトリウム、テルル酸、テルル酸ナトリウム、二酸化テルルなどが挙げられ、好ましくはテルル酸である。
【0018】
本発明のタングステンペルオキシド化合物の実施形態の一つである[(n−CN][SeO{WO(O]の製造方法を以下に記載する。しかしながら、本発明は下記の実施形態に制限されるものではない。
【0019】
タングステン酸を過酸化水素水溶液に加え、薄黄色の溶液になるまで撹拌する。次に得られた溶液を濾別して不溶物を除き、セレン酸を加え撹拌する。更に硝酸テトラ‐n‐ブチルアンモニウムを加え撹拌する。生成した白色沈殿物を濾別し、水とジエチルエーテルで洗浄する。得られた白色沈殿物を乾燥後、アセトニトリルに溶解させ、過酸化水素に滴下して再結晶することにより白色板状結晶状の[(n−CN][SeO{WO(O]を得る。
【0020】
前記製造方法で使用できる過酸化水素の濃度は限定されず100%の過酸化水素も使用可能である。しかしながら、入手し易さと安全に取り扱うことを考慮すると0.1〜70質量%の水溶液が好適であり、好ましくは3〜50質量%である。
【0021】
本発明のタングステンペルオキシド化合物は、種々の酸化反応や酸塩基反応等の有機反応用の触媒として用いることができ、中でも酸化反応や酸塩基反応を液相で行う際に好適に用いられる。該触媒はタングステンペルオキシド化合物を含んでいればどのような形態でもよく、具体的には、α−アルミナ、シリカ、酸化ジルコニウム、酸化チタンなどの無機担体に坦持したもの、結晶状、または反応溶媒に溶解させるなどいずれの形態でも使用でき、他の触媒と混合することも可能である。
【0022】
前記酸化反応の具体例としては特に限定されず、例えば、〈1〉不飽和結合の酸化(アルケンやアルキンの不飽和二重結合や不飽和三重結合の酸化)、〈2〉水酸基の酸化、〈3〉ヘテロ原子の酸化(硫黄原子や窒素原子等の酸化)、〈4〉飽和炭化水素部位の酸化、(5)芳香環の酸化、〈6〉これら〈1〉〜〈5〉以外の酸化カップリング反応等の酸化反応等が挙げられる。このような酸化反応により被酸化性官能基が酸化され、酸化された有機化合物が製造されることになる。
【0023】
前記酸塩基反応の具体例としては特に限定されず、例えば、〈7〉エステル化反応、〈8〉炭素骨格異性化反応、〈9〉重合反応、〈10〉付加反応、〈11〉開環反応、〈12〉脱離反応、〈13〉アセタール化反応〈14〉、ケタール化反応、〈15〉芳香族求電子置換反応、〈16〉芳香族求核置換反応、〈17〉アルドール反応、〈18〉ピナコール転移反応、〈19〉ベックマン転移反応、〈20〉カニッツァロ反応、〈21〉クライゼン縮合反応、〈22〉ダルゼンズ縮合反応、〈23〉ディールズアルダー反応、〈24〉フリーデルクラフツ反応、〈25〉フリース転移反応、〈26〉ガッターマン・コッホ反応、〈27〉マンニッヒ反応、〈28〉マイケル反応、〈29〉プリンス反応、〈30〉グリコシル化反応、〈31〉加溶媒分解反応、〈32〉1,3−双極性環状付加反応、〈33〉これら〈7〉〜〈32〉以外の酸塩基反応等が挙げられる。
【0024】
前記反応は、気相反応もしくは液相反応のいずれの反応方法にも、本発明の触媒を使用することが可能であるが、例えば、過酸化水素を酸化剤に用いたアルケンのエポキシ化反応を行う場合には、反応活性を考慮すると液相中で反応を行うことがより好ましい。アルケンの酸化剤によるエポキシ化反応について以下に例示することができる。
【0025】
エポキシ化反応において使用するアルケンとしては、非環式であっても環式であってもよく、具体的には、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ヘキセン、1−ペンテン、イソプレン、ジイソブチレン、1−ヘプテン、1−オクテン、1−ノネン、1−ウンデセン、1−ドデセン、1−トリデセン、1−テトラデセン、1−ペンタデセン、1−ヘプタデセン、1−オクタデセン、1−ノナデセン、1−エイコセン、プロピレンのトリマーおよびテトラマー類、1,3−ブタジエン、スチレン、ビニルトルエン、ジビニルベンゼン等の末端オレフィン;2−ブテン、2−オクテン、2−メチルー1−ヘキセン、2,3−ジメチルー2−ブテン等の分子内オレフィン;シクロペンテン、シクロヘキセン、1−フェニル−1−シクロヘキセン、1−メチル−1−シクロヘキセン、シクロヘプテン、シクロオクテン、シクロデセン、シクロペンタジエン、シクロデカトリエン、シクロオクタジエン、ジシクロペンタジエン、メチレンシクロプロパン、メチレンシクロペンタン、メチレンシクロヘキサン、ビニルシクロヘキサン、ノルボルネン等の環式オレフィン等が挙げられる。アルケンの種類としては、一種または二種以上用いることができる。一分子中に存在する二重結合部位は、一個であってもよいし、二個以上であってもよい。
【0026】
前記エポキシ化反応に用いられるアルケンはまた、例えば、−CHO、−COOH、−CN、−COOR、−OR(Rは、アルキル、シクロアルキル、アリールまたはアリールアルキル置換基を表す)、芳香族基、ハロゲン基、ニトロ基、スルホン酸基、カルボニル基、水酸基等の官能基を有していても良い。一分子中に存在する二重結合部位は、一個であってもよいし、二個以上であってもよい。これらの中でも水酸基を有するアルケンが特に好ましい。水酸基を有するアルケンとしては、アリルアルコール類やホモアリルアルコール類があり、ホモアリルアルコール類としては、例えばイソプロペニルアルコール、3−ブテノール、3−メチル−3−ブテノール、3−ペンテノール、4−メチル−3−ペンテノール、3−ヘキセノール、1−メチル−3−ヘキセノール、3−ヘプテノール、3−オクテノール、3−ノネノール、3−デセノール、3−ウンデセノール、3−ドデセノール、3−シクロヘキセノール、3−シクロオクテノール等が挙げられる。ホモアリルアルコール類のエポキシ化反応は、従来知られている触媒では難しく本発明の触媒を使用すると高収率で反応できることから、好ましい実施態様の一つである。
【0027】
前記エポキシ化反応の酸化剤は、過酸化水素が好ましく、実用的には0.01〜70質量%の水溶液、アルコール類の溶液が好適であるが、100%の過酸化水素も使用可能である。使用量としては、反応基質と過酸化水素のモル比(反応基質のモル数/過酸化水素のモル数)が100/1以下となるようにすることが好ましく、より好ましくは10/1以下である。また、1/100以上となるようにすることが好ましく、より好ましくは、1/50以上である。
【0028】
本発明のタングステンペルオキシド化合物の使用量としては、反応基質100重量部に対して、0.0001重量部以上とすることが好ましく、3000重量部以下とすることが好ましい。より好ましくは、0.01重量部以上であり、1500重量部以下である。また、2種以上のタングステンペルオキシド化合物を触媒として用いる場合には、その合計重量を前記範囲内になるように調整するのが好ましい。
【0029】
前記反応を液相中で行う場合、用いる溶媒としては、水および/または有機溶媒を用いることになり、有機溶媒としては一種または二種以上用いることができる。用いられる有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、ノルマルまたはイソプロパノール、第三級ブタノール等の炭素数1〜6の第一、二、三級の一価アルコール;エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等の多価アルコール;ジエチレングリコール、トリエチレングリコール等のエチレンオキシド、プロピレンオキシドが開環したオリゴマー類;エチルエーテル、イソプロピルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、アセチルアセトン等のケトン類;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、安息香酸メチル等のエステル;エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のカーボネート類;ジメチルホルムアミド、ニトロメタン、アセトニトリル、ベンゾニトリル等の窒素化合物;リン酸トリエチル、リン酸ジエチルヘキシル等のリン酸エステル等のリン化合物;クロロホルム、ジクロロメタン等のハロゲン化炭化水素;ノルマルヘキサン、ノルマルヘプタン等の脂肪族炭化水素;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素;シクロヘキサン、シクロペンタン等の脂環式炭化水素等が挙げられる。
【0030】
前記溶媒の中でも、水、炭素数1〜4のアルコール類、ジクロロメタン、ヘプタン、アセトニトリル、ベンゾニトリル、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ニトロメタン、酢酸エチル、酢酸ブチル、安息香酸メチル、安息香酸エチル、フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジブチル、フタル酸ジオクチル、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等や、これらの混合物を用いることが好ましい。オレフィン化合物が反応条件において液体である場合には、前記溶媒を使用することなくニートで反応を行うことも可能である。本発明においては、前記タングステンペルオキシド化合物のカウンターカチオン種と溶媒の選択により触媒を不均一化することも可能である。中でも、セシウム、四級アルキルアンモニウム、プロトンの少なくとも一つをカウンターカチオンに選び、ニトロメタン、酢酸エチル、酢酸ブチル、安息香酸メチル、安息香酸エチル、フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジブチル、フタル酸ジオクチル、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネートから選ばれる少なくとも一つの溶媒を使用することがより好ましい。
【0031】
本発明におけるエポキシ化反応は、中性〜酸性溶液中で実施することが好ましく、pH調整のために反応系中に酸性物質を加えても良い。酸性物質としては、例えば、ブレンステッド酸、ルイス酸等が挙げられ、一種または二種以上を用いることができる。ブレンステッド酸としては、例えば、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、ホウ酸等の鉱酸や酢酸、安息香酸、蟻酸、トリフルオロメタンスルホン酸等の有機酸類、ゼオライト類、混合酸化物類等の無機酸類が好適であり、ルイス酸としては、塩化アルミニウム、塩化第二鉄、塩化ホウ素化合物、塩化第二錫、フッ化アンチモン、塩化亜鉛、チタン化合物、ゼオライト類、複合酸化物等が好適である。また、無機及び/又は有機の酸性塩を用いることもできる。
【0032】
前記エポキシ化反応において、相間移動触媒や界面活性剤を共存させることができる。また光照射下での反応を行うことも可能である。
【0033】
前記エポキシ化反応は、0℃以上が好ましく、より好ましくは15℃以上である。また100℃以下が好ましく、より好ましくは、80℃以下である。反応時間は、1分以上が好ましく、また150時間以内が好ましい。より好ましくは、3分以上であり、48時間以内である。反応圧力は、特に問わないが、20atm以下が好ましい。より好ましくは、10atm以下であり、減圧下で反応を行うこともできる。
【実施例】
【0034】
以下に実施例を挙げて、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらにより何ら限定されるものではない。なお、「TBA」は「テトラ−n−ブチルアンモニウム」、「THA」は「テトラ−n−ヘキシルアンモニウム」、を意味するものとする。
【0035】
(実施例1)(TBA)[SeO{WO(O]の合成
WO(1.75g、7.0mmol)を15%過酸化水素水(9.25mL、42mmol)に加え、薄黄色の溶液となるまで32℃で30分間攪拌した。得られた溶液を濾過し、80%HSeO(2.1mL、28mmol)を加えて0℃で60分間攪拌した後、過剰の硝酸テトラ−n−ブチルアンモニウム(3.05g、10mmol)を一度に加えた。0℃で30分間攪拌した後、得られた固体を濾過し、過剰量の水とジエチルエーテルで洗浄した。乾燥後、固体(0.20g)をアセトニトリル(1.0mL)に溶かし、ここに一滴の過酸化水素を加えて5℃に冷却した後、貧溶媒にジエチルエーテルを用いて再結晶することにより、目的化合物を得た。収量:0.11g(55%収率)。183W−NMR(11.20MHz、CDCN、298K、NaWO):δ=−569.2(Δν1/2=3.9Hz)、77Se−NMR(51.30MHz、CDCN、298K、(CHSe):δ=1168.9(Δν1/2=3.7Hz)、UV/Vis(CHCN):λmax(ε)258.8nm(1258(molW)−1dmcm−1)、IR(KCl):972、915、884、864、847、831、779、739、698、654、593、576、520、463、393、371cm−1;Raman:ν=987、974、922、884、868、838、783、599、583、542、398、336、306、264cm−1、MS(ポジティブ、CSI、CHCN):m/z:1398[(TBA)SeO{WO(O、2554[(TBA){SeO{WO(O、3709[(TBA){SeO{WO(O、元素分析:計算値(%)(C327214SeW):C33.26、H6.28、N2.42、Se6.83、W31.82、実測値(%):C33.21、H6.30、N2.48、Se6.53、W31.21。
【0036】
(比較例1)(THA)[PO{WO(O]の合成
カウンターアニオンをTHAとした以外は、(非特許文献2)を参考に合成した。
183W−NMR(11.20MHz、CDCN、298K、NaWO):δ=−588.2(W−p=18.4Hz、Δν1/2=7.3Hz)、UV/Vis(CHCN):λmax(ε)252.5nm(1277(molW)−1dmcm−1)、IR(KCl):977、853、843、797、757、728、660、649、603、591、573、549、525、444cm−1;Raman:ν=990、864、821、655、597、580、543、391、333、305、266、237cm−1、MS(ポジティブ、CSI、CHCN):m/z:2569[(TBA)PO{WO(O、元素分析:計算値(%)(C7215624PW):C39.05、H7.10、N1.90、P1.40、W32.22;実測値(%):C38.82、H6.97、N1.36、P1.36、W33.28。
【0037】
(実施例2)
3−メチル−3−ブテノール(1.0mmol)、アセトニトリル(6.0mL)、30%過酸化水素水(1.0mmol)を試験管に加え、ここに(TBA)[SeO{WO(O](3mol%:対過酸化水素)を加えて、32℃で8時間攪拌した。目的とするエポキシ化合物(3,4−エポキシ−3−メチル−1−ブタノール)の収率は86%、選択率は98%であり、反応速度は、0.54mM/分であった。収率、選択率、及び、反応速度は、ガスクロマトグラフィー分析より算出した。
【0038】
(比較例2)
触媒を(TBA)[SeO{WO(O]から(THA)[PO{WO(O]に変えた以外は、実施例2に従って反応を行った。反応速度は、0.15mM/分であった。
【0039】
(実施例3)
基質を3−メチル−3−ブテノールからシス−3−ヘプテノールに変え、触媒量を3mol%から1mol%に変えた以外は、実施例2に従って反応を行った。目的とするエポキシ化合物の収率は86%、選択率は98%であった。
【0040】
(実施例4)
基質を3−メチル−3−ブテノールからシス−3−ノネノールに、触媒量を3mol%から1mol%に、反応時間を8時間から7時間に変えた以外は、実施例2に従って反応を行った。目的とするエポキシ化合物の収率は83%、選択率は98%であった。
【0041】
(実施例5)
基質を3−メチル−3−ブテノールからシス−3−デセノールに、触媒量を3mol%から1mol%に、反応時間を8時間から7時間に変えた以外は、実施例2に従って反応を行った。目的とするエポキシ化合物の収率は89%、選択率は99%以上であった。
【0042】
(実施例6)
基質を3−メチル−3−ブテノールからトランス−3−ヘキセノールに、触媒量を3mol%から5mol%に、反応時間を8時間から10時間に変えた以外は、実施例2に従って反応を行った。目的とするエポキシ化合物の収率は80%、選択率は95%であった。
【0043】
(実施例7)
基質を3−メチル−3−ブテノールから4−メチル−3−ペンテノールに、触媒量を3mol%から1mol%に、反応時間を8時間から10時間に変えた以外は、実施例2に従って反応を行った。目的とするエポキシ化合物の収率は46%、選択率は74%であった。
【0044】
(実施例8)
基質を3−メチル−3−ブテノールから2−(1−シクロヘキセニル)エタノールに、反応時間を8時間から6時間に変えた以外は、実施例2に従って反応を行った。目的とするエポキシ化合物の収率は60%、選択率は80%であった。
【0045】
(実施例9)
基質を3−メチル−3−ブテノールからシス−4−ヘプテン−2−オールに、触媒量を3mol%から1mol%に、反応時間を8時間から9時間に変えた以外は、実施例2に従って反応を行った。目的とするエポキシ化合物の収率は84%、選択率は99%、シス/トランス=54/46であった。
【0046】
(実施例10)
基質を3−メチル−3−ブテノールから3−シクロヘキセノールに、触媒量を3mol%から2mol%に、反応時間を8時間から4時間に変えた以外は、実施例2に従って反応を行った。目的とするエポキシ化合物の収率は80%、選択率は85%、シス/トランス=58/42であった。
【0047】
(実施例11)
基質を3−メチル−3−ブテノールから3−シクロオクテノールに、触媒量を3mol%から2mol%に、反応時間を8時間から6時間に変えた以外は、実施例2に従って反応を行った。目的とするエポキシ化合物の収率は96%、選択率は90%、シス/トランス=54/46であった。
【0048】
(実施例12)
シス−3−ヘプテノール(0.5mmol)、アセトニトリル(6.0mL)、30%過酸化水素水(0.5mmol)を試験管に加え、ここに(TBA)[SeO{WO(O](1mol%:対過酸化水素)を加えて60℃で4時間攪拌した。目的とするエポキシ化合物の収率は87%であった。続いて、この溶液にシス−3−ヘプテノール(0.5mmol)、30%過酸化水素水(0.5mmol)を新たに加えて、60℃で6時間攪拌したところ、同様に反応は進行し、2回目の反応における目的とするエポキシ化合物の収率は84%であった。
【0049】
(実施例13)
シクロオクテン(5.0mmol)、アセトニトリル(6.0mL)、30%過酸化水素水(1.0mmol)を試験管に加え、ここに(TBA)[SeO{WO(O](1mol%:対過酸化水素)を加えて50℃で30分間攪拌した。目的とするエポキシ化合物の収率は99%以上(対過酸化水素収率)、選択率は99%以上(対過酸化水素選択率)であった。
【0050】
(実施例14)
基質をシクロオクテンからシクロヘキセンに、反応時間を30分間から70分間に変えた以外は、実施例13に従って反応を行った。目的とするエポキシ化合物の収率は92%、選択率は96%であった。
【0051】
(実施例15)
基質をシクロオクテンからノルボルネンに、反応時間を30分間から80分間に変えた以外は、実施例13に従って反応を行った。目的とするエポキシ化合物の収率は99%以上、選択率は99%であった。
【0052】
(実施例16)
基質をシクロオクテンからシス−3−オクテンに、反応時間を30分間から50分間に変えた以外は、実施例13に従って反応を行った。目的とするエポキシ化合物の収率は99%以上、選択率は99%であった。
【0053】
(実施例17)
基質をシクロオクテンから1−オクテンに、反応時間を30分間から200分間に、触媒量を1mol%から5mol%に変えた以外は、実施例13に従って反応を行った。目的とするエポキシ化合物の収率は75%、選択率は97%であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1):


[式中、MはSeまたはTeである]で示される骨格を有するタングステンペルオキシド化合物。
【請求項2】
下記式(2):

[式中、MはSeまたはTeを表わし、X、Yはそれぞれ独立してO、OH、置換基を有しても良い芳香環含有基、または炭素数1〜8のアルキル基で示される基、あるいはX、Yが[O{WO(O]である]で示されるタングステンペルオキシド化合物。
【請求項3】
請求項1または2記載の化合物を含む触媒。
【請求項4】
不飽和結合化合物を原料とし酸化剤により酸化させてエポキシ化合物を製造することを特徴とする請求項3記載の触媒。

【公開番号】特開2010−76997(P2010−76997A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−249911(P2008−249911)
【出願日】平成20年9月29日(2008.9.29)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)文部科学省、科学技術試験研究委託事業、題目「革新的環境・エネルギー触媒の開発」
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】