説明

新規ナトリウム排出亢進性および血管拡張性ペプチドを生産するための組換え技術

【発明の詳細な説明】
関連出願の相互参照 これは,1988年5月31日に提出された米国特許出願第200,383号の一部継続出願である,1988年6月14日に提出された米国特許出願第206,470号の一部継続出願である1989年1月19日に提出された米国特許出願第299,880号の一部継続出願である。
技術分野 本発明は,一般に,脳および心臓組織に見い出されるナトリウム排出亢進性および/または血管拡張性ペプチドに関する。更に,本発明は,ブタの組織から得られるナトリウム排出亢進性および/または血管拡張性ペプチドをコードする遺伝子ならびに他の種におけるアミノ酸配列によって関連づけられるペプチドをコードする遺伝子に関する。更に,本発明は,ヒトの心房からのナトリウム排出亢進性および/または血管拡張性ペプチドをコードする遺伝子に関する。
背景技術 通常の細胞外液パラメータ,すなわち血管中の体液(fluid)の容量および圧力,を維持するペプチドが心房内に存在することは,よく知られている。心房性ナトリウム排出亢進性ペプチド(心房性ナトリウム利尿ペプチド)と命名された,密接に関連した一連のペプチドが,いくつかの種から単離され,同定され,これらのペプチドの類似体が調製されている。
ラット心房組織の粗抽出物のナトリウム排出亢進効果は,7年以上前に示された。利尿性およびナトリウム排出亢進性プロペプチドを有する多数のペプチドが,それ以来,心房組織から単離され,配列決定された。Flynn,T.G.,ら,Biochem Biophys Res Commun(1983)117:859-865;Currie.M.G.,ら,Science(1984)223:67-69;Kangawa,K.,ら,Biochem Biophys Res Commun(1984)118:131-139;米国特許第4,496,544号;米国特許第4,508,712号;Kangawa,K.,ら,Biochem Biophys Res Commun(1984)119:933-940;Garcia,R.,ら,Biochem Biophys Res Commun(1985)126:178-174;Katsube,N.,ら,Biochem Biophys Res Commun(1985)128:325-330;米国特許第4,607,023号;第4,577,864号;および第4,618,600号;同時係続出願第616,488号;第766,030号;および第870,795号。心房性ナトリウム排出亢進性ペプチド(ANP)と呼ばれるこれらのペプチドは,その環内に17のアミノ酸を含む環式ジスルフィド(ジスルフィド結合を提供する2つのシステインを含む)である。それらをコードする遺伝子は,より大きなタンパクをコードし,このタンパクは,次いで,ANPのセットを構成する,より短いタンパクへとプロセッシングされる。
単離された心房性ペプチドの様々な類似体はまた,同時係属出願第921,360号;第138,893号;および第174,739号において説明されている。
これらのペプチドおよびその類似体は,体液容量および血管の直径を制御することによって,血圧を制御するのに有効であると理解されている。多数の病状は,うっ血性の心臓疾患,肝硬変およびネフローゼ症候群を含む異常な体液の滞留によって特徴づけられる。これらの疾病は,循環系の静脈側に過剰な体液が蓄積されること,および腎臓の灌流不足と関連し,これらは,糸球体の浸透率(GFR)の低下につながる。更に,腎臓への灌流が低下することにより,レニンの分泌,循環系においてアンギオテンシンの形成につながるタンパク分解酵素,および小動脈の強力な収縮筋が刺激される。レニンはまた,ナトリウム保持ホルモンであるアルドステロンの副腎腺からの放出を刺激する。
高血圧は,それ自身,細胞外液容量の増加による,もうひとつの重篤な結果であり,死に至る主要な原因である。
ナトリウムおよび水分滞留に関連する疾病に関する治療方法は,変化しており,様々な利尿性物質の投与を含む。しかし,すべての個体を満足させるような治療剤は存在せず,利用され得る材料の範囲を広げることが重要である。本発明は,有用な治療薬の範囲の補足に加えて,脳および心房において見い出され,中央および末端機能に明るい光を投げかけ,それによって正常な個体が適切な体液バランスを維持するという点で重要な物質を更に提供する。更に,これらのペプチドおよびタンパクのいくつかは,生理的活性を変化および改変した。
ブタの脳からのこれらの因子の1つは,Sudoh,P.,Nature(1988)332;78-81によって単離され,配列決定された。それは、ブタの脳および心房組織において合成される26個のアミノ酸のペプチドである。心房組織において、ペプチドは、分析された心房性ナトリウム排出亢進性ペプチド(ANP)活性の濃度の約1/100で存在する。しかし、脳において、ペプチドは、ANPよりも豊富であり得る。このブタの脳のナトリウム排出亢進性ペプチドまたはpBNPの活性のスペクトルは、ブタANPのスペクトルに類似する。ヒトANP(hANP)およびpBNPの部分のアミノ酸配列の比較を以下に示す。対応するブタANPの関連部分は,ヒトの配列と同一である。


相同でない9つの部分(星印)がある。ラットまたはヒトANP配列において見い出されるIleまたはMetのLeuへの保存された(conservative)置換は、既知の容認され得る置換である。
宮崎医科大学の,これと同一のグループからの後続の論文では,更にこれらのタンパクを特定決定している。Sudoh,T.,ら、Biochem Biophys Res Comm(1988)155:726-732は、ブタの脳から、C末端に上記のブダBNPの26のアミノ酸およびN末端に付加的な配列であるSer-Pro-Lys-Thr-Met-Arg-という6個のアミノ酸でなる延長部分を含む、32アミノ酸のナトリウム排出亢進性ペプチド("BNP-32")を単離することについて報告している。次ぎのページに続く論文において,組織における様々なナトリウム排出亢進性ペプチドのレベルが報告されている。Ueda,S.,ら,(同書),pp.733-739は,脳および脊髄におけるブタBNPおよびブタBNP-32のレベルを局在化し,測定するために放射性免疫アッセイを使用した。その結果により,BNPおよびBNP-32はブタの脳における免疫反応性BNPの主要な形であり,髄質橋(medulla-pons),尾状核(striatum)および脊髄において最も高い濃度が見い出されることが示された。心房性のナトリウム排出亢進性ペプチドのブタの形(pANP)もまた,ブタの脳においてBNPの特徴よりも約13倍低いレベルで発見された。Minamino,N.,ら(同書),pp.740-746は,末端組織におけるブタBNPおよびANPの放射性免疫アッセイの結果を報告している。BNPの濃度は,アッセイされた組織の心臓心房において最も高かった。このタンパクの免疫反応性形態は,主として12kdの高分子量形態として特徴づけられ,心房組織内の免疫反応性BNPの全体の15%未満は,低分子量形態のpBNPまたはpBNP-32である。
この出版の後続編において,Minamino,N.,ら,Biochem Biophys Res Comm(1988)157:402-409は,この高分子量形態のBNPをブタの心臓から単離し,特性決定することを報告した。このタンパクの完全なアミノ酸配列を得,そのカルボキシ末端に26のアミノ酸pBNP(および32のアミノ酸PBNP-32)を含むことを示した。全長のタンパクは,106のアミノ酸を含む。最後に,Maekawa,K.,ら(同書),PP.410-416は,ブタBNPの前駆体タンパクをコードするcDNAのクローン化およびその配列分析について報告している。cDNAライブラリーをブタの心臓心房から得,関連するBNPでコードされた遺伝子を単離し,配列決定した。この遺伝子は,N末端に,25の残基推定シグナルペプチドを含むことが発見され,これに,報告されたタンパクの106のアミノ酸に対応するコドンが後続している。
これらの結果は,一般により長い前駆体とも関連のある,心房由来のナトリウム排出亢進性ペプチドの研究から得られる情報と一致する。本出願の親出願において,ブタBNPをコードする遺伝子が提供されており,これによって,これらの前駆体タンパクの上流部分の推定アミノ酸配列が推定された。この親出願において得られたcDNAが,不完全にプロセッシングされ,イントロンを含んでいる一方,以下に記載の標準技術を使用してこの配列を更に処理することによって,イントロンの位置が確立された。この親出願は,他の種からナトリウム排出亢進性関連ペプチド(NRP)を同定するのに適用され得る直接的な手法を開示した。概説された直接的な手法は,ヒトNRPをクローニングしなかった。更に,以下に説明されるように,プローブとして,ブタBNPのみを使用してヒトNRPを得ることは可能ではなかった。ヒトNRPを得るためには,中間クローンである,イヌBNPを使用する必要があった。従って,本発明は,様々な脊椎動物源からナトリウム排出亢進性ペプチド(NP)およびナトリウム排出亢進性関連ペプチド(NRP)のグループを提供する。
発明の開示 本発明は,pBNPの完全な遺伝子配列、そのプレプロ形、およびこの遺伝子およびその変性形によってコードされたタンパクを大量に合成する能力を提供する。本発明はまた、ナトリウム排出亢進活性を有する同様の蛋白をコードする遺伝子配列を他の脊椎動物種から回収することを可能にすると共に、それらを合成する能力を提供する。ブタBNP、その前駆体およびより短い関連脳タンパクをコードするcDNAを第1図に示す。Sudoh(前出)によって説明された26のアミノ酸pBNPをコードする「プロセッシングされていない」cDNAの断片には、アンダーラインを引いている。
従って、1つの局面では、本発明は、ブタの脳の26アミノ酸のナトリウム排出亢進性ペプチドをコードする配列を含む組換え体cDNAプローブに向けられており、該組み換え体cDNAプローブは、第1図のDNAまたはその有効部分を含む。本発明はまた、このプローブまたはこのプローブから得られたプローブを使用して回収された組換え体DNA配列に向けられており、従って、あるいは、第3図および第5図に示されるイヌおよびヒト源からのペプチドのコード配列の有効部分を含む有効なプローブを含む。
もう1つの局面では、本発明は、ナトリウム排出亢進活性を有し、次式を有するペプチドに向けられており、

ここでR1は、下記の群から選択され、

または、第8図にブタ、イヌまたはヒトBNPの天然の上流配列として示された、10番目から109番目のアミノ酸配列、またはその複合体であり;
R2は(OH),NH2,またはNR′R″であり、ここでR′およびR″は、それぞれ独立して低級アルキル(1-4C)であり、もしくは、

または、それらのアミド(NH2またはNR′R″)である;
但し、式(1)がR1‐Cys-Phe-Gly-Arg-Arg-Leu-Asp-Arg-Ile-Gly-Ser-Leu-Ser-Gly-Leu-Gly-Cys-R2であり、R1がAsp-Ser-Glyである場合には、R2はAsn-Val-Leu-Arg-Arg-Tyrとはなり得ない。
他の局面では,本発明は,上記のペプチドをコードする組換え体DNA配列,および適切に形質転換された宿主中においてこれらのペプチドの生産を行うことが可能な組換え体発現系に関する。本発明はまた,形質転換された細胞を培養し,細胞培養物から所望のペプチドを回収することによって組換え体手段を使用して本発明のペプチドを生成する方法に関する。
本発明はまた,1ケ所または2ケ所が,保存されたアミノ酸置換を含む,このクラスのペプチドの変性形に向けられている。
本発明はまた,本発明のペプチドを使用する薬学的組成物および処理方法に関する。
図面の簡単な説明 第1図は,イントロンの位置が確立された,ブタBNPをコードする,プロセッシングされていない形の回収されたcDNAの完全な配列を示す。26アミノ酸pBNPペプチドをコードする配列の部分にはアンダーラインが引かれており,ヌクレオチド残基660-723および1276-1289から構成される。
第2図は,pBNPでコードされるcDNAのプローブとして合成されたオリゴヌクレオチドを示す。
第3図は,ナトリウム排出亢進活性を有するイヌタンパクをコードする遺伝子のコード部分についての,DNAおよび推定タンパク配列を示す。
第4図は,ヒトANP(左側のパネル)およびイヌNRP(右側のパネル)でプローブされたヒトゲノムDNAのサザンブロットを示す。
第5図は,ヒトNRPをコードするヒトゲノムクローンのDNAおよび推定アミノ酸配列を示す。
第6図は,本発明のブタ,イヌおよびヒトタンパクのプレプロの形のアミノ酸配列の比較を示す。
発明の実施するための形態A.定義 本願で使用されるように,「脳ナトリウム排出亢進性ペプチド(BNP)は,定められた厳密な条件の下で,第1図に示されるDNAの有効部分にハイブリダイズする能力を有するDNAによってコードされ,ナトリウム排出亢進活性を有するアミノ酸配列を示す。すべての脊椎動物の脳は,pBNPとして本願に開示されているものに類似するペプチドを包含する,この活性を有するペプチドの小集団と,このアミノ酸配列を含むより長い前駆体タンパクと,その活性断片とを含むと考えられる 本願で使用されるように,「ブタ脳ナトリウム排出亢進性ペプチド(pBNP)」は,Sudohらによって単離され,上記に提示された26アミノ酸配列を示す。「pBNPをコードするcDNA」は,残基660〜723および1276〜1289を含む,本願の第1図に示されるヌクレオチド配列を示す。cDNAにおけるpBNPコドンの分離は,この特殊なクローンのテンプレートを形成したmRNAの不完全なプロセッシングによるためであると思われる。このクローンは,1988年6月10日に,アメリカン タイプカルチャー コレクション,Rockville,MD,に寄託されており,その受託番号は,ATCC 40465である。
第1図に示されるpBNPをコードするcDNAは,下記に説明するように,前駆体タンパクをコードする付加的な配列を含んでいるため,pBNPをコードする部分自身を分離する配列によって表現されるイントロン以外の付加的なイントロンに対応するヌクレオチドを含んでいると思われ,他のいくつかの脊椎動物種において対応し,関連する脳ナトリウム排出亢進性ペプチドをコードするゲノムまたはcDNA配列を得るための有効なプローブとして使用され得る。本出願に使用されるように,「前駆体脳ナトリウム排出亢進性ペプチド」は,遺伝子配列によってコードされたナトリウム排出亢進活性を有するペプチドを示し,その遺伝子配列から,例えば,pBNPタンパクが得られるが,異なる長さのペプチドを得るためにプロセッシングされる。同様のプロセッシングの相違は,他の脊椎動物にも存在すると思われる。このようなナトリウム排出亢進性ペプチドの全クラスは,本発明のDNAプローブによって回収される。例えば,pBNPをコードするDNAのリーディングフレームの検査は,N−末端に延長したペプチドが仮定され得るように,N−末端の延長を示す。ANP前駆体である「プロANP」は,異なるANPペプチドにつながる心房および脳組織において異なる方法でプロセッシングされる。心房において発見されるペプチドから類推することによって,BNPの重要な末端の形は,トリペプチドであるThr-Met-ArgがN−末端から延長するpBNPの29残基ペプチドであると思われる。付加的な上流残基であるSer-Pro-LysおよびGly-Ile-Arg-Ser-Pro-Lysが更にN−末端から延長するペプチドもまた予想される。従って,pBNPを含むリーディングフレームを調べることによって,N−末端配列が更に延長するであろう付加的な上流プロセッシング部位の仮定が可能となる。
その他の延長した前駆体ペプチドは,第1図の配列情報を使用して,標準の技術によって発見され得る。心房ナトリウム排出亢進性ペプチド前駆体から類推することによって,シグナル配列を含んでいると思われる最も長い前駆体の起点が,ヌクレオチド61および120を連結するラインにおける最上部のリーディングフレームに示されるメチオニンコドンまたは密接に配置された下流ATGに存在することは明白である。従って,リーディングフレームは,この翻訳の起点からpBNPをコードする領域まで維持されないことは明白である。このことは,回収されるcDNAクローンに転写される少なくとももう1つのイントロンが存在することを示す。このイントロンの位置および最長の形の前駆体ペプチドの全配列の推定については,以下に更に詳細に説明する。いずれにせよ,pBNPに関連する前駆体BNPペプチドは,この描写された遺伝子によってコードされた他のナトリウム排出亢進性ペプチドを含み,ペプチドの類似群は,集合的に指定されたナトリウム排出亢進性ペプチド(NP)であり,他の種において「ナトリウム排出亢進性関連ペプチド」(NRP)を含む。
その他の有用な用語は,用語「プレプロ」NRPであり,これは,ナトリウム排出亢進活性を有する様々な形態のペプチドの分泌に影響する天然の関連シグナル配列と,この活性に絶対必要な環式部分の上流で融合される分泌ペプチドのアミノ酸配列とを有するコードされたペプチドを示す。上流配列を有する「プロ」形態は,ペプチドの環式形態を表現し得る。第1図,第3図および第5図に,ブタ,イヌおよびヒトのタンパクをそれぞれ詳細に示す,本発明に包含される3つの特異的な実施態様に関して,「プレ」配列を表現する推定シグナル配列の位置は,「プロ」形態を示す前駆体形態であると思われる,全長成熟タンパクと共に各図面に示されている。様々なプロセッシング部位が得られるため,これらの図面および第6図に示される複合配列において,上向き矢印によって示されるように,「プロ」NPおよび「NP」の明確な区別は,無意味なことであると思われる。本発明によって定義されたペプチドは,上記式(1)において提示されており,Sudohのブタ「BNP」に対応する同定された26アミノ酸領域に先行するか,あるいはその環式部分に連結するN−末端の形の長さにかかわらず,ナトリウム排出亢進および/または血管拡張活性を有する。
「発現系」は,適合する宿主おけるその発現に影響を与え得る適切な制御配列に作動可能なように連結されたコード領域を含むDNAを示す。発現系は,常にプロモータを含むが,目的の宿主に応じて,リボソーム結合部位またはCAP部位などの重要な付加的DNAと,終結配列と,必要に応じてプロモータの上流または他の作動可能な位置にあるエンハンサ配列を含み得る。本発明の組換え体発現系は,BNPをコードする本発明のDNA,例えば,脊椎動物源から得られ,発現に影響を与え得る付加的なDNA配列に作動可能なように連結されたBNPを含む。発現系は,宿主細胞の染色体とは独立して自己複製するプラスミドまたはウィルスベクターのような転移ベクター上に存在するか,または宿主細胞に挿入されると,染色体に取入れられ得るように構築され得る。
B.他の関連ブダBNPおよび脊椎動物NRP遺伝子の回収 ある局面では,本発明は,第1図に示されるcDNA中にコードされたブタBNPタンパクの群のすべての要素およびその保存された形物に関する。最長の前駆体タンパクをコードするアミノ酸配列の推定およびプロセッシングされた形態の推定は,ここに提供されたプロセッシングされていないcDNAを使用して成し遂げられる。この標準的なアプローチにおいて,潜在的なイントロン,即ち残基100から約660の間のイントロンを連結するcDNAの短い部分を表現するオリゴヌクレオチド配列は,合成され,標識され,およびBNPを産生する細胞から単離されたmRNAのノザンブロットをプローブするために使用される。大半のmRNAは,プロセッシング形態である。従って,適切な長さの伝令にうまくハイブリダイズするオリゴヌクレオチドは,cDNAのコード領域を表現する。容易にハイブリダイズしないオリゴヌクレオチドは,イントロン領域を表現する。重なる合成cDNAを使用することによって,イントロンの位置は,正確に同定され得る。このことにより,最大の前駆体タンパクをコードする完全な配列の推定が可能になり,関連するBNPタンパクが形成される配列を限定する。
このアプローチの変形においては,部分的cDNA画分が,ブタの心房から単離されたmRNAからの増幅された形態で生成した。増幅のためのcDNAを,この組織から単離されたポリA+RNAをオリゴヌクレオチド3895でハイブリダイゼーションさせることによって得た。オリゴヌクレオチドプライマーは,第1図に示すように,塩基100〜123(同定鎖)および652〜685(相補償)に対応していた。ポリメラーゼ鎖反応を使用して,増幅を行った。ただし,増幅された生成物を,調製したアガロースゲル上で分析すると,2つのバンドが得られる。相対発生量が低い,大きい方のバンドは,スプライスされていない前駆体から得られる小さい方のDNAを示し,発生量の高いバンドは,更に十分にプロセッシングされたcDNAであると思われる。このバンドをゲルから溶離し,配列決定したところ,第1図の塩基223〜468に対応する延長部分は存在せず,回収されたDNAは,第3図に示される配列を有していた。
従って,標準的な技術を使用して,Greenbergら,Nature(1984)312:656-658によって説明されるように,心房ナトリウム排出亢進性ペプチド前駆体に見い出されるイントロンに対応する推定上流イントロンの位置が,容易に得られた。第1図に示すように,131アミノ酸のリーディングフレームが得られる。シグナル配列は,アミノ酸1〜25によって表現され,プレプロ形態のブタBNPをプロ形態に転換する開裂部位は,プレプロ配列の部位26におけるSer25とHisとの間にあると考えられる。Sudohによって報告され,26個のアミノ酸を有するブタBNPの配列は,アミノ酸残基81〜106(106〜131)によって表現される。
回収されたcDNA上にコードされたブタBNPsのクラスへの接近を提供することに加えて,第1図のcDNAは,様々な脊椎動物種からの関連NRPタンパクのクラスをコードする対応の前駆体遺伝子への接近を提供する。
第1図に示されるpBNPをコードするcDNAまたはその有効部分は,当該技術分野で一般に知られている多数の手法によって,他の脊椎動物宿主から得られた遺伝子ライブラリーにおいて,プローブとして使用され得る。ブダBNPは,適切な条件の下でヒトNRPにハイブリダイズすることが可能であると考えられるあらゆる理由が存在した。しかし,pBNPがヒトライブラリーにハイブリダイズする条件は決定され得なかった。進化という観点から,ブタBNPが対応するイヌタンパクよりも対応するヒトタンパクに関連しているようであることは驚きであった。従って,ブタBNPがヒトNRPを同定することができず,イヌ遺伝子が中間体として作用する必要のあったことは予想されなかった。
所望の遺伝子の源は,脊椎動物種に適切なゲノムライブラリーまたはペプチドを合成する細胞からのcDNAライブラリーであり得る。以下に説明するように,これらのペプチドは脳で合成されるが,通常生成されたANPよりも低いレベルで心房組織においても発生することが知られている。従って,更に容易に接近し得る心房組織はまた,脳組織よりもむしろ,プローブされるべきcDNAライブラリーを調製するのに使用され得る。この場合,高い厳密性および+/−ハイブリダイゼーションが,より優勢なANPをコードするDNAを区別するのに使用され得る。ゲノムおよびcDNAライブラリーの両方を調製することは当該技術分野でよく知られている。事実,いくつかのゲノムライブラリーは,市販されている。cDNAライブラリーを調製するための好ましい技術は,Hyunh,V.T.,ら,DNA Cloning Techniques--A Practical Approach(IRL Press,Oxford,1984)ならびにOkayamaおよびBerg,Mol Cell Biol(1983)3:280−289によって開示されている。好ましくは,例えば,以下に例示される手法に従う。
次いで,ハイブリダイズする配列を得るために,ゲノムまたはcDNAライブラリーは厳密ではない条件の下でプローブされる。次いで,回収された配列は分析され,標準的な手法に従って,配列決定され得る。
第1図のpBNPをコードするDNA全体は,プローブとして使用されるか,あるいは有効部分が使用され得る。有効部分を構成するものは,プローブされるライブラリーの特性に依存し,実験的に決定され得る。一般に,ゲノムライブラリーが所望の遺伝子の回収のための源である場合には,残基601〜1300あたりから延長するpBNPをコードするcDNAのセグメントが好適である。このセグメントは,pBNPタンパクのコード配列に干渉するイントロンを結合する。配列の上流部分もまた,使用し得た。無論,クローン全体を使用するのに特別な欠点は存在しない。他方,cDNAライブラリーが調べられる場合には,通常の通りにスプライシングされたコード領域を表現するcDNAの部分のみを使用することが所望される。従って,例えば,好適なプローブは,pBNPコドン(部分660〜723および1276〜1289)を示す隣接DNAまたは幾分か小さなその断片であり得る。
無論,実際のプローブは示されている配列,または好ましくはそれらの相補体であり得る。
事実,第1図のブタDNAは,他の種からゲノムライブラリーにおいて関連するタンパクをコードする遺伝子を回収することが可能であるが,ヒトNRPを直接回収することはできない。ブタ,ラット,イヌ,ネコおよびウサギからのゲノムライブラリーは,以下の条件の内の少なくとも1つで,第1図のプローブにハイブリダイズする能力を示した。
(1)50%のホルムアミド,6 x SSC,5 x デンハート,10mMのリン酸ナトリウム,42℃における10μg/mlの剪断DNAおよび(2)20%のホルムアオド,6 x SSC,5 x デンハート,10mMのリン酸ナトリウム,37℃における10μg/mlの剪断DNA。
両方のハイブリダイゼーション条件下で,洗浄は,1xSSc,0.1%のSDSで,50〜60℃において,1時間であった。
ヒトゲノムDNAは,これらの条件の下で第1図のDNA配列にハイブリダイズしなかったが,ヒトNRPを得るために,イヌNRPを使用することは可能であった。ヒトNRP遺伝子配列を得るためにイヌNRP配列を使用する必要性は,無論,予想され得なかった。
ブタのプローブを使用してイヌDNAを得ることによって,第3図に示される配列を有する挿入物が得られ,pdBNP-1と指定され,1988年12月14日にアメリカン タイプ カルチャーコレクションに,受託番号ATCC-67862として寄託された。この配列をプローブとして使用し,EcoRIで消化されたヒトゲノムDNAから得られ,ナトリウム排出亢進活性を有する同様のタンパクをコードするクローンが見い出された。このヒトDNAは,第5図に示されるような配列を有し,phBNP-1と指定され,1988年12月14日にアメリカン タイプ カルチャーコレクションに,受託番号ATCC-67863として寄託された。
ブタ,イヌおよびヒト種からのナトリウム排出亢進活性を有する推定プレプロ形態のペプチドをコードするアミノ酸配列は,第6図に示されている。ブタおよびイヌ種は,ヒト配列よりもナトリウム排出亢進活性を推定的に司る領域において,より相同的であると思われる。第6図における情報を使用して,ナトリウム排出亢進活性を有するペプチドのクラスが,特定され得る。このクラスは,以下の式で示される。


ここでR1は,下記の群から選択され,

または,第6図にブタ,イヌまたはヒトBNPの天然の上流配列として示された,10番目から109番目のアミノ酸配列,またはその複合体であり;
R2は(OH),NH2,またはNR′R″であり,ここでR′およびR″は,それぞれ独立して低級アルキル(1-4C)であるか,もしくは,



または,それらのアミド(NH2またはNR′R″)である;
但し,式(1)がR1−Cys−Phe−Gly−Arg−Arg−Leu−Asp−Arg−Ile−Gly−Ser−Leu−Ser−Gly−Leu−Gly−Cys−R2であり,R1がAsp-Ser-Glyである場合には,R2はAsn−Val−Leu−Arg−Arg−Tyrとはなり得ない。
上記に使用されているように,第6図において,ブタ,イヌまたはヒトのBNPまたはNRPの天然上流配列として示されている配列の「複合体」は,そこに示されているような,上流配列を示し,ここで各部分は,3つのすべて種に示される代替的なアミノ酸を交換可能に含む。これらの配列の複合体は,式(1)と上記のR1およびR2の定義とに特定的に示されている配列に関する複合体のように構築される。
更に,これらのペプチド配列は,特定部分の代わりに,L形態よりもむしろD形態を使用する置換を含む,1つまたは2つの保存されたアミノ酸置換を用いることによって変性され得る。標準固相技術を使用して,これらのペプチドが合成され得るため,例えば,保存された置換を,遺伝子によってコードされるアミノ酸に限定する必要はない。
特定の脊椎動物種のBNPグループをコードする前駆体遺伝子を回収すると,その種に関連するBNPペプチドの推定は,決定された配列の翻訳と,プロセッシング部位の同定との問題である。心房ナトリウム排出亢進性ペプチド対応部に関するパターンによって,指針が提供される。心房ペプチドから類推すると,BNPタンパクは,上記に示されるpBNPの配列の位置4および20におけるシステイン残基の酸化によって形成される環式ジスルフィドであると考えられる。特定種のコードされたBNPペプチドのクラスは,配列中に1つまたは2つの保存されたアミノ酸置換を含む,このジスルフィド結合した環の外側にある切形の形態と,示されているpBNPの延長形態とを含むと考えられる。
推定(または生成された)ペプチド配列は,20%のホルムアミド,5 x デンハート,6 x SSC,100mg/mlのRNA,および42℃におけるけ0.05%のピロリン酸ナトリウムを含む緩衝液中でハイブリダイゼーションし,次いで1 x SSC,0.1%のSSDで60℃で,または上記の条件(1)または(2)で洗浄することによって,示されている厳密性に対応する条件の下で,このペプチド配列をコードするDNAが,第1図のpBNPをコードするcDNAに直接または間接にハイブリダイズする場合には,本発明の特定のナトリウム排出亢進性タンパクの範囲に属する。更に,このDNAによってコードされたペプチドは,以下に説明するようにアッセイされたナトリウム排出亢進活性を示すに違いない。
「直接のハイブリダイゼーション」は,ナトリウム排出亢進性ペプチドをコードするDNAが,第1図に示されるDNAまたはその有効部分自体にハイブリダイズすることを意味する。「間接のハイブリダイゼーション」は,DNAが第1図のブタBNPにハイブリダイズする能力を有するDNAにハイブリダイズすることを意味する。従って,第5図に示されるヒト配列は,第3図のイヌ配列を介してブタBNPに間接的にハイブリダイズする。しかし,ブタBNPは,ヒトNRPに直接的にハイブリダイズしなかった。
本発明はまた,第1図のcDNAによってコードされたBNPタンパクの変性形態に関する。これらのBNPの1つまたは2つの部分は,活性が保持される限りにおいて改変され得る。保存されたアミノ酸置換は好ましい。即ち,例えば,酸性アミノ酸としてアスパラギン酸/グルタミン酸,塩基性アミノ酸としてリジン/アルギニン/ヒスチジン,疎水性アミノ酸としてロイシン/イソロイシン/メチオニン/バリン,親水性アミノ酸としてセリン/グリシン/アラニン/スレオニンである。しかし,ペプチドは,組換え方法によって,または遺伝子から調製される必要がないため,置換は,D−またはβアミノ形態のようなコードされないアミノ酸を含む。
B.BNPとNRPの作製 本発明のBNPとNRPは,種々の方法で作製され得,それらの方法には,組換え法の使用が包含される。
BNPペプチドとNRPペプチドをコードする,回収された遺伝子は,次いで操作され,種々の組換え系を用いて発現される。回収された遺伝子のいずれかのサブセグメントによってコードされる配列を有するペプチドは,翻訳されたタンパクをプロセッシングしない宿主系で発現系を適切に設計することによって得られ得る。例えば,発現系は,いずれかの隣接配列を適切に修飾し,所望のN末端の直前にATG開始コドンを,所望のC末端の後に停止コドンを配置することによって構築される。次いで,所望のコード配列は,必要に応じて,原核生物宿主または真核生物宿主で機能する制御系に,作動可能な結合で連結される。数多くの制御系が当該技術分野で公知である。
ナトリウム排出亢進性ペプチド前駆体は,特定の真核生物系で明らかにプロセッシングされるので,組換え宿主の選択には注意を払う必要がある。あるいは,タンパク分解酵素によって開裂されやすいと考えられている位置で代わりのアミノ酸をコードするように遺伝子配列を修飾することによってプロセッシングを防止することができる。例えば,pBNPの1位のアスパラギン酸の直前のアルギニンをトレオニン残基で置き換えることができ,その結果,得られたペプチドはその部位でのトリプシン開裂に対して感受性がなくなる。あるいは,これらのペプチドをプロセッシングし得る酵素が欠如した宿主で発現させることができる。
種々の脊椎動物種のナトリウム排出亢進性に関連するペプチドの類をコードする遺伝子は,pBNPをコードするDNAから構築されたプローブが入手しやすいので,得られやすくなる。したがって,これらの遺伝子は,部位特異的変位によってコドンを1つ以上のアミノ酸で置き換えることにより操作され得,ナトリウム排出亢進活性を維持しているこれらのペプチドの類似体をコードする配列を得ることができる。
発現ベクターの構築および適切なDNA配列由来の組換え体の作製は,それ自体当該技術分野で公知の方法によって実施される。
発現は,原核生物系または真核生物系で実施され得る。原核生物は,E.coli.の種々の株によって最も頻繁に説明される。しかしながら,バチルス属(例えば,Bacillus subtilis),Pseudomonasの種々の種,または他のバクテリアの株のような,他の微生物株も用いられ得る。そのような原核生物系では,複製部位と,宿主に適合する種由来の制御配列とを含むプラスミドベクターが用いられる。例えば,E.coli.は,典型的には,Boliverら(Gene(1977)2:95)による,E.coli.種由来のプラスミドである,pBR322の誘導体を用いて形質転換される。原核生物制御配列が一般に用いられ,この制御配列は,ここでは,転写開始のためのプロモータ,必要に応じてオペレータ,およびリボソーム結合部位配列を含むと定義される。それには,β‐ラクタマーゼ(ペニシリナーゼ)およびラクトース(lac)プロモータ系(Chanら,Nature(1977)198,1056),トリプトファン(trp)プロモータ系(Goeddelら,Nucleic Acids Res(1980)8:4057),およびλ由来のPLプロモータおよびN遺伝子リボソーム結合部位(Shimatakeら,Nature(1981)292:128)のような一般的に用いられるプロモータが包含される。原核生物と適合する,いずれの利用可能なプロモータ系も用いられ得る。
真核生物宿主で有用な発現系は,適切な真核生物遺伝子由来のプロモータを包含する。酵母で有用なプロモータのクラスには,例えば,糖分解酵素を合成するためのプロモータが包含される。それには,3-ホスホグリセレートキナーゼのためのプロモータ(Hitzemanら,J Biol Chem(1980)255:2073)が含まれる。他のプロモータには,エノラーゼ遺伝子由来のもの(Holland,M.J.ら,J Biol Chem(1981)256:1385)またはYEp13から得られたLeu2遺伝子由来のもの(Broach,J.ら,Gene(1978)8:121)が包含される。
適切な哺乳類プロモータには,メタロチオネイン,SV40由来の初期または後期プロモータ(Fiersら,Nature(1978)273:113),または,ポリオーマ,アデノウイルスII,ウシ乳頭腫ウイルスまたはトリ肉腫ウイルス由来のプロモータのような他のウイルスプロモータが包含される。適切なウイルスエンハンサおよび哺乳類エンハンサは上記に引用されている。植物細胞が発現系として用いられる場合には,ノパリン合成プロモータが適切である(Depicker,A.ら,J Mol Appl Gen(1982)1:561)。
発現系は,標準法によりBNP配列に作用可能に結合された前述の制御配列から,当該技術分野でよく理解されている標準結合法と制限法を用いて構築される。単離されたプラスミド,DNA配列,または合成されたオリゴヌクレオチドは,開裂され,整えられ,所望の形態に再結合される。
部位特異的なDNAの開裂は,一般的に当該技術分野で理解されている条件下で適切な制限酵素(または複数の制限酵素)で処理することによって実施される。上記の条件の特定のものはこれらの市販されている制限酵素の製造者によって指定されている。例えば,New England Biolabs,Product Catalogを参照のこと。一般に,プラスミドまたはDNA配列約1μgは,約20μlの緩衝液溶液中1単位の酵素で開裂される;ここでの実施例では,典型的には,DNA基質が確実に完全消化されるように過剰の制限酵素が用いられる。変更も可能であるが,約37℃で1時間から2時間のインキュベーション時間が採用される。各インキュベーションの後,フェノール/クロロホルムで抽出することによって,タンパクを除去し,続いてエーテル抽出を行ってもよい。そして,水溶性の画分からエタノールで沈澱させることによって核酸を回収し,続いてセファデックスG−50スピンカラムにかける。必要に応じて,標準法を用いたポリアクリルアミドゲルまたはアガロースゲル電気泳動により,開裂された断片のサイズによる分離を行ってもよい。サイズによる分離の一般的な記述は,Methods in Enzymology(1980)65:499-560に見られる。
制限開裂断片は,4種のデオキシヌクレオチド三リン酸(dNTP)の存在下,50mMトリス(pH7.6),50mM NaCl,6mM MgCl2,6mM DTTおよび5〜10μM dNTP中,20〜25℃で15〜25分間のインキュベーション時間を用いて,E.coli.DNAポリメラーゼIの大きな断片(クレノウ)で処理することによって平滑末端化され得る。クレノウ断片は,5′側の粘着末端を埋めるが,たとえ4種のdNTPが存在しても、突出する3′側の1本鎖をけずる。必要に応じて,粘着末端の特性が指示する制限内でただ1種のdNTP,すなわち選択されたdNTPを供給することによって選択的な修復が実施できる。クレノウ断片で処理した後,混合物をフェノール/クロロホルムで抽出し,エタノールで沈澱させ,続いてセファデックスG−50スピンカラムにかける。適切な条件下でS1ヌクレアーゼで処理することによって,いずれの1本鎖部分も加水分解される。
合成オリゴヌクレオチドは市販の自動オリゴヌクレオチド合成装置を用いて調製される。アニーリングの前の,あるいは標識のための1本鎖のキナーゼ処理は,5mMトリス(pH7.6),10mM MgCl2,5mMジチオスレイトール,1〜2mM ATP,1.7pmole 32P‐ATP(2.9mCi/mmole),0.1mMスペルミジン,および0.1mM EDTAの存在下で,0.1nmoleの基質に対して過剰(例えば,約10単位)のポリヌクレオチドキナーゼを用いて実施される。
結合は,以下の標準条件と温度下で15〜30μlの容量で実施される。すなわち,20mMトリスHCl(pH7.5),10mM MgCl2,10mM DTT,33μg/ml BSA,10mM〜50mM NaCl,そして,40μM ATP,0.01〜0.02(Weiss)単位のT4 DNAリガーゼを0℃で(「粘着末端」結合に対して),あるいは,1mM ATP,0.3〜0.6(Weiss)単位のT4 DNAリガーゼを14℃で(「平滑末端」結合に対して)のいずれかである。分子間「粘着末端」結合は,通常33〜100μg/mlの全DNA濃度(5〜100nMの全末端濃度)で実施される。分子間の平滑末端結合(通常10〜30倍モル過剰のリンカーを用いる)は,1μMの最終濃度で実施される。
「ベクター断片」を用いたベクターの構築では,5′側のリン酸を除去し,ベクターの結合を防ぐために,通常,ベクター断片を細菌のアルカリホスファターゼ(BAP)で処理する。BAP消化は,Na+とMg+2との存在下,ベクター1μg当りBAP約1単位を用いて,約150mMトリス中pH8,60℃で約1時間実施される。核酸断片を回収するために,調製物は,フェノール/クロロホルムで抽出され,エタノールで沈澱され,セファデックスG−50スピンカラムにかけることによって脱塩される。あるいは,2回消化されたベクターの必要でない断片をさらに制限酵素で消化することによって再結合を防止することができる。
配列の修飾が必要な,cDNAまたはゲノムDNA由来のベクター部分に対して,プライマーの部位特異的変異が用いられる。これは,差異されるべき1本鎖のファージDNAに,限定された不一致を除いては相補的なプライマー合成オリゴヌクレオチドを用いて実施され,これにより所望の変異が現れる。簡単に言えば,合成オリゴヌクレオチドは,ファージに相補的なストランドを合成するためのプライマーとして用いられ,得られた2本鎖DNAはファージを維持する宿主バクテリアに形質転換される。形質転換されたバクテリアの培養物は,寒天上にプレートされ,ファージを有する単一の細胞からプラークを形成させる。
理論的には,新しいプラークの50%が1本鎖として変異された形態を持つファージを含み,50%が元の配列を有する。得られたプラークを,確実に一致するもののハイブリダイゼーションはおこるが,元のストランドと不一致のものはハイブリダイゼーションが十分に防止される温度で,キナーゼ処理した合成プライマーとハイブリダイズさせる。プローブとハイブリダイズしたプラークを取り出し,培養して,DNAを回収する。部位特異的変異法の詳細は,以下の特定の実施例に記載されている。
プラスミド構築のための正しい結合は,まず,E.coli.遺伝子貯蔵センター(E.coli.Genetic Stock Center)から得た,E.coli.株MM294,CGSC#6135,または他の適切な宿主を連結混合物で形質転換することによって確認され得る。成功裏に得られた形質転換体は,当該技術分野で理解されているように,アンピシリン,テトラサイクリンまたは他の抗生物質に対する耐性によって選択される。この形質転換体由来のプラスミドは,次いで,Clewell,D.B.ら,Proc Natl Acad Sci USA(1969)62:1159の方法にしたがって調製され,続いて必要に応じてクロラムフェニコール増幅(Clewell,D.B.,J Bacteriol(1972)110:667)される。単離されたDNAは,制限法,および/または,Sanger,F.ら,Proc Natl Acad Sci USA(1977)74:5463,さらにMessingら,Nucleic Acids Res(1981)9:309に記載のジデオキシ法による配列決定により,あるいは,Maxamら,Methods in Enzymology(1980)65:499の方法により分析される。
構築されたベクターは,次いで,適切な宿主に形質転換される。
用いられる宿主細胞によって,そのような細胞に適した標準法を用いて形質転換が行われる。Cohen,S.N.,Proc Natl Acad Sci USA(1972)69:2110に記載されているような塩化カルシウムを用いるカルシウム処理,またはManiatisら,Molecular Cloning:A Laboratory Manual(1982),Cold Spring Harbor Press,p.254に記載のRbCl法が,原核生物細胞や,実質的な細胞壁の障壁を有する他の細胞に用いられる。Agrobacterium tumefaciensを用いる感染(Shaw,C.H.ら,Gene(1983)23:315)は,ある種の植物細胞に用いられる。そのような細胞壁を持たない哺乳類細胞には,Grahamとvan der Eb,Virology(1978)52:546のリン酸カルシウム沈澱法が好ましい。酵母への形質転換は,Van Solingen,P.ら,J Bacter(1977)130:946,および,Hsiao,C.L.ら,Proc Natl Acad Sci USA(1979)76:3829の方法にしたがって実施される。
次いで,形質転換された細胞は,BNP配列の発現に好ましい条件下で培養され,そして,組換えによって産生されたタンパクが培養物から回収される。
組換えによる産生に加えて,演繹された配列が直接ペプチド合成を実施できるほど十分に短いペプチドは,標準的な固相法を用いて調製され得る。
したがって,本発明の範囲内の化合物は,当該技術分野で周知の方法,例えば,固相ペプチド合成法などによって化学的に合成され得る。この合成は,αアミノ基が保護されたアミノ酸を用いてペプチドのカルボキシ末端から開始される。他の保護基が適切であるとしても,全てのアミノ基に対してt-ブチルオキシカルボニル(Boc)保護基が用いられ得る。例えば,Boc-Val-OH,Boc-Leu-OH,Boc-Arg-OH,またはBoc-Tyr-OH(すなわち,選択されたBNP類似体のカルボキシ末端アミノ酸)が,クロロメチル化ポリスチレン樹脂支持体にエステル化され得る。ポリスチレン樹脂支持体は,架橋剤として,0.5〜2%のジビニルベンゼンを用いた,スチレンの共重合体が好ましい。架橋剤は,ポリスチレンポリマーを所定の有機溶媒に完全に不溶性にする。Stewartら,Solid-Phase Peptide Synthesis(1969),W.H.freeman社,サンフランシスコ,およびMerrifield,J Am Chem Soc(1963)85:2149-2154を参照のこと。これらの方法およびペプチド合成の他の方法は,米国特許第3,862,925号;第3,842,067号;第3,972,859号;および第4,105,602号にも例示されている。
合成は,マニュアル法を用いても,例えば,アプライドバイオシステム430Aペプチド合成装置(フオースターシティー,カルフォルニア州)またはバイオサーチSAM II自動ペプチド合成装置(Biosearch社,サンラファエル,カルフォルニア州)を用いて製造者から提供される操作説明書にある指示に従って自動で行ってもよい。
もちろん,自動化された合成法も配列を制御することができるので,この合成法を用いて,上記のようにして遺伝子を修飾することによって得られたアミノ酸配列に上記の修飾が利用できる。さらに,置換されたアミノ酸が遺伝子によってコードされる必要はない。したがって,D体またはβアミノ酸によって,天然に存在するアミノ酸が置き換えられ得る。
本発明のBNPを合成する前述の方法は,これに制限される意図はなく,本発明のBNPは従来のいずれの方法でも調製され得る。BNPは,上記で特定された厳密な条件下で第1図のcDNAにハイブリダイズする遺伝子によってコードされること,および,以下で述べるレセプターアッセイでナトリウム排出亢進活性を示すことのみが要求される。
C.アッセイ系 種々の脊椎動物種および由来の本発明のナトリウム排出亢進性ペプチド(NP)およびその修飾物のメンバーは,ナトリウム排出亢進活性を分析する標準的な方法を用いて所望のナトリウム排出亢進活性を有することを確認され得る。インビトロおよびインビボの両方で数多くの系が利用可能である。インビトロでの試験の最も簡単な形態は,腎臓および,内因性のナトリウム排出亢進性化合物のクリアランスに影響を持つ他の部位において,レセプターに対するペプチドの親和性を試験する,結合アッセイである。したがって,心房由来のナトリウム排出亢進性ペプチドに対するアッセイ法に類似の方法では,一般的なナトリウム排出亢進活性は,培養されたウシ大動脈平滑筋(BASM)細胞およびウシ大動脈内皮(BAE)細胞由来のレセプターへの結合に対して,候補となるペプチドが,例えばヨウ素化によって標識されたpBNPと競合する能力によって分析され得る。競合は関連するクリアランスレセプターへの結合に特徴的である。さらに,サイクリックGMPのレベルは,これらの同じ細胞で測定され得る。そして,それはインビボで観察される生物学的活性の原因である,関連する生物学的レセプターへの,ペプチドの結合に対して,特徴的である。
ここで請求の範囲に示された組成物の範囲内に入るためには,候補となるペプチドは,ここで記述された厳密な条件下でpBNPをコードするDNAに直接または間接的にハイブリダイズし得る遺伝子配列によってコードされるか,あるいは,式(1)で定義されるか,または上述のその修飾形でなければならない。さらに,候補ペプチドは,インビトロのレセプター結合アッセイで競合アッセイによって示されるクリアランスレセプターへの結合,またはサイクリックGMPレベルの変化によって示されるエフェクターレセプターへの結合のいずれか,あるいはその両方の活性を示さなければならない。ペプチドが,ナトリウム排出亢進活性および利尿活性に対するインビボの試験に関連する方法でクリアランスレセプターの結合を阻害する場合,ペプチドは,サイクリックGMP活性のようなpBNPに関連する直接的な生物学的活性を持っていてもよいし,持たなくてもよい。ペプチドは,血管拡張剤でもあり得る。
レセプター結合アッセイ 特定のANPレセプター部位は,腎臓,副腎,血管および培養細胞のような標的組織で同定されてきた。Mapier,M.A.ら,Proc Nat Acad Sci USA(1984)81:5946-5940:DeLean,A.ら,Endocrinology(1984)115:1636-1638;Schenk,D.B.ら,Biochem Biophys Res Comm(1985)127:433-442。そのような組織は,BNP結合のレセプターを有する。そのレセプターは,ANPに対するレセプターと同じであってもよいし,同じでなくてもよい。ANPまたはANP類似体がこれらの特異的レセプター部位に結合することが生物学的活性の必要条件であると仮定されるので,BNP関連ペプチド,またはそれらの修飾形のこれらのレセプターへの結合は,生物学的活性を予想すると考えられる。
アッセイは,一般に,Schenk(前述)およびScarborough,R.M.ら,J Biol Chem(1986)261:12960-12964の開示にしたがって発展してきた。Scarborough,R.M.の開示においては,培養されたBASM細胞およびBAE細胞への結合について,ANP類似体が標識された天然のANPと競合する能力を評価している。標識されたpBNPを用いる,同じようなアッセイが,候補となるBNP族ペプチドの評価に用いられ得る。pBNP(上記)は,カルボキシ末端のY残基がヨウ素化され,(125I)‐pBNPと表される。類似の「競合置換」レセプター結合アッセイは,当該技術分野では,特定のリガンドーレセプター相互作用を試験するための一般的な事例と考えられる。
このアッセイでは,0.5nMの(125I)‐pBNPまたは(125I)‐ヒトNRPを,異なる量の標識されていない,pBNP,hNRP,dNRPまたは候補ペプチド(pBNPをコードするcDNAにハイブリダイズする遺伝子によってコードされる)が存在する,BASM細胞の個々の試料中でインキュベートする。
pBNPの濃度の増加,あるいは,成功裏に得られた候補ペプチドによって,(125I)‐pBNPのBASM細胞関連レセプターへの結合が効果的に防止される。(125I)‐pBNP結合の最大量の50%を示す未標識ペプチドの濃度をKi(app)と呼び,レセプター結合の親和性を反映する。したがって,Ki(app)=100nMのペプチドは,Ki(app)=10nMのペプチドより実質的に弱い,レセプターとの相互作用を示す。これらのBNP類似体が,1つ以上のレセプター部位で機能すると仮定すると,増加したレセプターの親和性は,生物学的有効性の増加を反映するべきである。
上記の競合アッセイに適したナトリウム排出亢進性ペプチドが,試験された本発明のペプチドに関連して選択されるべきである。例えば,ANPとBNPによって用いられたレセプターは,同じであっても異なっていてもよい。いずれかの別の種の形態も,式(1)の候補ペプチドに対する適切なアッセイ反応で競合剤として用いられ得る。
全身を用いた哺乳類バイオアッセイ 本発明のNP配列(上記のレセプターアッセイで活性を示したもの)の生物学的活性は,麻酔をかけたラットとイヌで確認され得る。レセプターの結合親和性とインビボでの効果のと相関関係は,生物学的活性に対するレセプターアッセイの予測値を示す。
1.麻酔されたラットでの利尿性とナトリウム排出亢進性 1つの方法では,カニューレを,麻酔をかけたラットの左右の尿管と大腿部静脈に配置し,尿を尿管から回収する。NP組成物を大腿部静脈を通して投与する。NPの注入の前に,生理食塩水を30分間注入し,尿を5分間のベースライン期間6回にわたって回収し,尿の容積を重量測定によって決定する。
これらのベースライン回収期間の後,種々のNPを30分または60分間注入し,注入の間と注入後60分間(その間ラットは,生理食塩水に戻す)にわたって,5分間の期間で尿の容積を測定する。データは,注入の直前の6回の5分間ベースライン対象期間で平均した尿の流速によって評価され,NPの投与中および投与後の値を「ベースライン」の対照値と比較する。そして,NPの応答が,算出され,ベースライン対照応答に対する百分率としてプロットされる。このようにして,実質的にベースライン±SDを上回るペプチドに対する応答が,統計的に重要な増加であると解釈され得る。
2.麻酔されたイヌでの利尿性とナトリウム排出亢進性 本発明のNPの生物学的活性は,ペントバルビタールで麻酔されたイヌでも確認され得る。この実施例では,カニューレを,麻酔されたイヌの左右の尿管または膀胱と,大腿部静脈に配置し,尿を回収する。NPを,大腿部静脈を通して投与する。NPの注入の前に,生理食塩水を30分間注入し,そして,10分間回収期間で3回尿を回収する。尿の容積を重量測定によって決定し,尿ナトリウムの量を分光学的に決定する。
これらの3回のベースライン回収期間の後,選択されたNPを60分間注入し,尿の速度と尿ナトリウム排泄物を注入後さらに60分間測定する。注入(60分)と回収(60分)の間,10分間の採収期間が得られる。生理食塩水のみを投与される対照動物を並行して試験する。
種々のNP部分を注入されたイヌの尿の流速とナトリウムの排泄速度を,生理食塩水を注入された対照の動物に対して比較することによってデータを評価する。
単離された組織のバイオアッセイ インビボでのNPの効果は,レセプターの妨害(内部NPの結合と除去を含む)により,内部NPの効果を強化する能力によって単独で達成され得る。これが特定のNPに対しての場合である範囲では,NPの利尿効果とナトリウム排出亢進効果は,NPが特に供給されない限り存在しないような単離された組織では,減少するか,または消失すると予想される。
したがって,単離された組織のバイオアッセイにおいてNPの活性が低い(しかしながら,これらアッセイでも活性は存在する)としても,NP組成物は,本発明の範囲内である。
D.用途と投与 簡潔に言えば,本発明のナトリウム排出亢進性ペプチドは,細胞外液のレベルが高いことに関連する,高血圧のような疾患の治療に有用である。この化合物は,Remington's Phermaceutical Siences,Mack Publishing社,Eston,Pa(最新版)に記載されているような従来のペプチドの処方物で投与される。好ましくは,ペプチドは,注射によって投与され,好ましくは,静脈注射によって,この投与経路に適した処方物を用いて投与される。投与量のレベルは,被検体の約0.01〜100μg/kgである。
これらの化合物およびそれらを含有する組成物は,効率の悪い腎臓の灌流や腎糸球体の濾過速度の低下に起因する高血圧および腎疾患に加えて,種々の浮腫状態の治療の治療薬としての用途が見いだされ得る。このような浮腫状態には,例えば,うっ血性心不全,ネフローゼ症候群および肝硬変などがある。本発明のナトリウム排出亢進性ペプチドは,特にうっ血性心不全に効果的である。
したがって,本発明は本発明の化合物を効果的な量で含有する組成物をも提供する。その化合物は,それらの毒性のない付加塩,アミド,エステルを包含し,単独で上記の治療学的な利点を提供する。そのような組成物も,生理学的に許容できる液体,ゲルまたは固体の希釈剤,アジュバント,および賦形剤とともに提供され得る。
これらの化合物および組成物は,家畜の様な獣医学的用途,および,ヒトの臨床学的用途において,他の治療薬と同様の方法で哺乳類に投与され得る。一般に,治療学的効果に必要な投与量は,ホストの体重に対して約0.001〜100μg/kg,より一般的には,0.01〜100μg/kgの範囲内であろう。あるいは,この範囲内の投与量で,所望の治療効果が得られるまで,長時間(通常24時間を超える)にたって定常的に注入して投与してもよい。
典型的には,そのような組成物は,液体状の溶液または懸濁液のいずれかの注射可能なものとして調製される;注射の前に液体中に溶解または懸濁されるのに適した個体形態も調製され得る。調製物は乳化されてもよい。活性成分は,しばしば,生理学的に許容され,そして活性成分と相溶性の,希釈剤または賦形剤と混合される。適切な希釈剤および賦形剤は,例えば,水,生理食塩水,ブドウ糖,グリセロールなどとそれらの組合せである。さらに,必要に応じて,組成物は,少量の補助物質を含有してもよい。補助物質としては,湿潤剤または乳化剤,安定化剤またはpH緩衝剤などがある。
組成物は,従来,例えば皮下注射または静脈注射によって,非経口的に投与されている。他の投与形態に適した別の処方には,坐剤,鼻腔内エアロゾル,および場合によっては経口処方物がある。坐剤の伝統的なバインダーと賦形剤には,例えば,ポリアルキレングリコールまたはトリグリセライドが包含される;そのような坐剤は,0.5〜10%,好ましくは,1〜2%の範囲内の活性成分を含有する混合物から形成され得る。経口処方物は,例えば薬理学的等級のマンニトール,ラクトース,デンプン,ステアリン酸マグネシウム,サッカリンナトリウム,セルロース,炭酸マグネシウムなどのような,通常用いられる賦形剤が含まれる。これらの組成物は,溶液,懸濁液,錠剤,丸剤,カプセル,徐放性処方物,または粉末の形態であり,10〜95%,好ましくは25〜70%の活性成分を含有する。
ペプチド化合物は,中性の形態でまたは塩の形態で組成物中に処方され得る。薬理学的に許容される毒性のない塩には,酸付加塩(遊離のアミノ基により形成される)と,例えば塩酸またはリン酸のような無機酸,または例えば塩酸またはリン酸のような有機酸,あるいは酢酸,シュウ酸,酒石酸,マンデル酸などのような有機酸とで形成される塩が,包含される。遊離のカルボキシル基とで形成される塩は,例えば,ナトリウム,カリウム,アンモニウム,カルシウムまたは水酸化第2鉄のような無機塩基,およびイソプロピルアミン,トリメチルアミン,2-エチルアミノエタノール,ヒスチジン,プロカインなどの有機塩基から誘導され得る。
ナトリウム排出亢進活性,利尿活性,または血管弛緩活性を示す,本発明の化合物に加えて,本発明の化合物は,そのような有用な化合物の合成において中間体としても用いられ得る。あるいは,適切に選択することによって,活性レベルが減少しているか,または完全に消失している,本発明の化合物は,他の利尿性,ナトリウム排出亢進性または血管弛緩性の化合物(本発明の範囲外の化合物も包含される)の活性を調製するために機能し得る。活性の調整は,例えば,クリアランスレセプターに結合し,レセプターのターンオーバー(turnover)を刺激し,分解酵素またはレセプター活性に別の基質を提供して,それらの酵素またはレセプターを阻害することによっておこなわれる。この方法を用いる場合,そのような化合物は他の活性化合物との混合物として送達されるか,あるいは,例えばそれ自身のキャリア中で別々に送達され得る。
本発明の化合物は,標識試薬(通常,抗体)を用いるイムノアッセイに用いる抗血清を調製するためにも用いられ得る。ポリペプチドは,必要であれば,ジアルデヒド,カルボジイミド,または市販のリンカーを用いて,抗原性を与えるキャリアに結合され得ることが好都合である。これらの化合物と免疫学的試薬は,発色基,蛍光体(例えば,フルオレセインまたはローダミン),放射性同位体(例えば,125I,35S,14C,または3H)または磁化粒子のような種々の標識によって当該技術分野で周知の方法により標識されてもよい。
これらの標識された化合物および試薬,あるいは,それらを認識し,それらに特異的に結合し得る標識試薬は,例えば,診断用試薬としての用途が見いだされ得る。生物学的試料由来のサンプルは,本発明の化合物を用いて,通常の抗原決定基を有する物質の存在またはその量について分析され得る。さらに,当該技術分野で公知の方法によってモノクローナル抗体を調製することができ,その抗体は,例えば,免疫学的に関連する化合物のインビボでの過剰生産を中和するための治療上の用途が見いだされ得る。
適切な対象物には,水またはナトリウムイオンを高度に蓄積する症状を有する動物が含まれる。獣医学的用途およびヒトの治療用の用途の両方が適している。
以下の実施例は,例示を意図するものであり,本発明を限定する意図はない。
実施例1ブタのBNPをコードするDNAの回収 液体窒素中で凍結させたブタの心臓の組織を得て,それを心房部と心室部に大別した。凍結した心房部の組織(5g)を,まず,乳鉢と乳棒で粉砕し,次に,組織粉砕器で粉末にし,50mMのトリス(pH7.5)と,5mMのEDTAと,5%のβ−メルカプトエタノールとを含む多量(25ml)の5Mグアニジンチオシアネートに溶解した。そして,サルコシルを2%まで加え,その試料を65℃で2分間インキュベートした。その後,7000 x gで10分間,遠心分離して不溶性の物質を取り除いた。そして,2.5gのCsClを加え,5.8MのCsClの10mlのクッション上に重層し,再び,25,000rpmで12時間,遠心分離することにより,全RNAをこの上清から単離した。続いて,この上清を吸引し,ペレットがトリス(50mM)と,EDTA(5mM)と,β−メルカプトエタノール(2%)とを含む緩衝液に溶解した。それから,一旦,RNA溶液をフェノール抽出し,エタノールで沈澱させた。ポリA+RNAをオリゴdtセルロースクロマトグラフィーで単離した。
ブタの心房のmRNA(5μg)に相補的な2本鎖DNAを,RNAse H法で合成した。そして,このcDNAを標準的な方法でメチル化し,EcoRIリンカーを連結し,そして消化した。次に,全cDNAを,すでに調製されたλファージアームに連結し,標準的な方法でパッケージングした。このパッケージング反応物をプレーティングすることによって,ほとんど全て(>95%)が1〜5kbの範囲内の挿入物をを有することを示すこのライブラリーから無作為に単離された約1.75 x 105のファージを含むライブラリーが得られた。
pBNP cDNAを検出するためにプローブを設計した。第2図2図に示されるように,ヒトANP cDNAに関する保存性はオリゴ3351が構築する際に推定された。こうして,図に示されたヒトANPをコードする配列を,pBNPをコードする配列を得るのに必要な程度にだけ修飾した。第2のオリゴ3352は,AとCよりもGとTを好む哺乳動物のコドンの選択性にしたがって設計された別の60-merであった。さらに,60-mer3376は,偽陽性を取り除くために,ヒトANP配列に適合するように合成された。
上記のライブラリーから,およそ300,000のファージをプレートし,ニトロセルロースフィルタで重複してはがした。シリーズA(15枚のニトロセルロースフィルタ)を変性し,中和し,2時間焼いた。そして,ハイブリダイゼーション緩衝液(20%ホルムアミド,5 x Denhardtの溶液,6 x SSC,0.05% ピロリン酸,100μg/ml サケの精子DNA)中で2時間プレハイブリダイズさせた。次に,標識オリゴヌクレオチドプローブ(3351 1.5 x 107cpm)を加えて,これらのフィルタを42℃で一晩インキュベートした。続いて,フィルタを40分間,20℃で,6 SSC,0.1% SDS中で,それから,10分間,65℃で,1 x SSD中で2回洗浄した。シリーズBを,オリゴ3352を使わないこと以外は同様にして処理した。この場合,最後の洗浄は60℃で行った。両方の場合とも,フィルタを乾燥させて,オートラジオグラフィーを行った。オリゴ3351でプローブすると,約450の陽性(プレートされた全クローンの0.2%)が得られた。これらのほとんどは,このオリゴを用いた先のスクリーニングに基づくと,ブタのANPであると考えられる。シリーズBでは,4つのクローンがオリゴ3352にハイブリダイズした。これらのハイブリッドは,60℃では安定だが,65℃では安定でない。これら4つのうち,クローン14のみがオリゴ3351ともハイブリダイズした。そして,これを取り出して,もう一度精製した。それから,この精製されたファージを,増殖させた。そして,DNAをCsClステップグラディエントで36,000rpmで遠心分離して単離し,フェノール抽出し,透析し,そしてエタノールで沈澱させた。ファージDNAは,EcoRIで制限酵素分析すると,1.5kbのDNA挿入物を含んでいた。次に,この挿入物を,M13配列決定ベクターにサブクローン化して,配列を決定した。このBNP mRNAの量は,このライブラリーのANPより約400倍少なく,すなわち,0.0005%だった。
クローン14からの挿入物のDNA配列を第1図に示す。BNPのコード領域は,このクローン中に存在する。しかしながら,それは,26アミノ酸BNPのVal22残基において,イントロンと思われるものによって中断されている。したがって,このクローンは,1または2以上のイントロンが存在するプロセッシングされていないmRNAを含んでいるようである。
実施例2上流に存在するイントロンの同定 上で述べたように,表1のDNA配列は,リーディングフレームにおいて変化を示す。さらに,このDNA配列は,Greenbergら(前出)によって記載されているような,ANPをコードする遺伝子から類推すると,上流にイントロンを含み得る。このイントロンの位置を決定するために,その想定上の位置を取り巻く配列を増幅法のプライマーとして使用し,イントロンを含まないスプライシングされたDNAを得た。
ポリA+RNAを,Chirgwin,J.M.,Biochemistry(1979)18:5294-5299のグアニジンイソチオシアネート法で,次に,オリゴ‐dTセルロースクロマトグラフィーを用いて,ブタの心房組織から単離した。そして,約2μgのブタの心房のmRNAを,400ngのオリゴヌクレオチド3895(前出)をプライマーとして,0.5mMのDNTPと,50mMのTris-HCl,pH8.3と,10mMの塩化マグネシウムと,10単位のRNasinと,50単位の逆転写酵素とを含む20μlの反応液中で培養した。続いて,得られたDNAを,Saiki,R.K.,Science(1988)239:487-491に記載されているように,増幅させた。37℃で1時間培養してから,反応液の半分を,67mMのTris-HCl,pH8.8と,6.7mMの塩化マグネシウムと,16.6mMの硫酸アンモニウムと,10mMのメルカプトエタノールと,6.7μMのEDTAと,1mMのdNTPと,10%のDMSOと,400ngの各プライマーオリゴヌクレオチドとの中に,100μlまで希釈した。このオリゴヌクレオチドプライマーは,第1図に示されたpBNPクローンの塩基100〜123(同一鎖)と652〜685(相補鎖)とに対応したものである。
反応混合物を5分間沸騰させて変性させ,続いて,42℃でインキュベートしてプライマーアニーリングを行った。Thermus aquaticusのポリメラーゼ(3単位)を加えて,その試料を72℃で3分間,さらに,インキュベートした。この一連の作業(98℃,1min;43℃,1分間;72℃,3分間)を,それ以上ポリメラーゼを加えずに,30回繰り返した。100μlの鉱油層のもとで,さらに反応を起こさせ,10μlのアリクオットを取り出し,標準的なアガローズゲル電気泳動法によって分析した。得られたDNAの断片を,エチジウムブロマイドで染色して可視化し,調製アガロースゲルを用いた電気泳動法で精製した。そして,増幅されたDNA断片を,キナーゼ処理し,M13に連結し,そして配列決定した。
この反応から得られた2つのDNA配列は,以下の通りである。すなわち,約650bpの方は,低い相対量であり,おそらくスプライスされていないものであると推定された。他方,より多量の約350bpの方のバンドは,十分にプロセッシングされたDNAであると考えられた。実際,第1図に示されているこの配列は位置100〜684逆向きの矢印の間に見られる。
実施例3NRPをコードする遺伝子の回収 第1図の全1504塩基配列,すなわち,塩基601〜1300を構成する,より短いセグメントは,他の脊椎動物種の類似NRPペプチドコードする遺伝子を得るために,プローブとして使用される。(しかし,以下の実施例5で述べるように,ヒトNRPをこの直接的な方法で得ることはできなかった。)この方法では,ゲノムDNAのブロットは,基質として使用されている。適当な種の肝臓に由来する約10μgのゲノムDNAを,BamHIあるいはPstIで一晩消化する。そして,その消化されたDNAをエタノールで沈澱し,0.8%のアガロースゲルで電気泳動させた。そして,そのゲルを,一晩ニトロセルロースフィルタ上にブロットさせる。次に,フィルタを変性させ,焼き,そして42℃で,プレハイブリダイゼーション緩衝液(20%のホルムアミド,5 x Denhardtの6 x SSC,100mg/ml RNA,0.05%ピロリン酸ナトリウム)中で,プレハイブリダイズさせた。
cDNAをニックートランスレーションにより標識し,同様のゲルより2枚のパネルに42℃で,一晩,プレハイブリダイゼーション緩衝液中でハイブリダイズさせた。そして,これらのフィルタを,60℃と65℃で,1 x SSC,0.1% SDS中で洗浄して,オートラジオグラフ用フィルムに感光させた。
次に,特定種の類似NRPをコードする遺伝子を増幅させ,標準的な方法で配列決定した。こうして推定された配列を操作して,発現系への挿入のために適した制限部位を供与することができ,かつ,部位特異的変異処理によって所望の停止コドンおよび開始コドンを供与することができる。
ブタと,ラットと,イヌと,ネコと,ウサギと,ヒトとの生体のゲノムDNAを,下記の2つの異なったハイブリダイゼーション条件下で,第1図に示されたcDNAを使用したサザンブロット法でプローブした:(1)50% ホルムアミド,6 x SSC,5 x Denhardt,10mM硫酸ナトリウム,10μg/mlの剪断DNA,42℃にて;および(2)20% ホルムアミド,6 x SSC,5 x Denhardt,10mM硫酸ナトリウム,10μg/mlの剪断DNA,37℃にて。
いずれの場合にも,清浄は,1 x SSC,0.1% SDS中で,50〜60℃にて1時間,行った。
ハイブリダイゼーションは,pBNPとヒトDNAとの間では起こらなかった。
実施例4イヌNRPの回収 Clontech Inc.より得たイヌのゲノムライブラリーから,上記の実施例3の条件(1)のもとで2個のクローンが得られた。そして,これらの同定されたクローンのDNAを,HaeIIIあるいはAluIで消化し,M13にサブクローン下した。得られたプラークを,ブタのプローブへのハイブリダイゼーションのためにスクリーニングし,陽性クローンの配列を決定した。第1図のBNPをコードする配列を検出することにより,クローンの同定が確認された。そして,全遺伝子を含む2.9kb HindIIIの断片をpBR322にサブクローン化し,pdBNP-1と名づけた。BNP遺伝子をコードするこのクローンの一部分のDNA配列を,第3図に示す。pdBNP-1プラスミドは,1988年12月14日に,アメリカンタイプカルチャーコレクションに,受託番号ATCC-67862で寄託された。
実施例5ヒトNRPの回収 ヒトゲノムライブラリーは,実施例3に記載のように,第1図のブタDNAを使ったプローブとのハイブリダイゼーションに対応するシグナルを得ることができなかった。上記実施例3の条件(1)のもとでプローブとしてpdBNP-1を使用すると,第4図に示すように,消化されたヒトゲノムDNAのブロット中に可視化することのできた顕著な数個のバンドが生じた。調製アガロースゲルを使用して,6〜7kbのサイズ範囲内にEcoRIで消化されたヒトゲノムDNAを単離した。そして,単離されたDNAを,λ‐ZAP2(Strategene Inc.)にクローン化し,パッケージした。得られたミニライブラリーを上記実施例の条件(1)のハイブリダイゼーション条件を用いて,スクリーニングした。7個の陽性シグナルを精製して,挿入物をpBLUSCRIPTベクターにサブクローン化した。ハイブリダイゼーション陽性のHaeIIIおよびAluIで消化したプラスミドDNAのM13サブクローンの配列を決定した。プラスミドphBNP-1のコード領域の配列は,第5図に示されている。そして,そのプラズミドは,1988年12月14日に,アメリカンタイプカルチャーコレクションに,受託番号ATCC-67863で寄託された。
Mount,S.,Mucleic Acids Res(1982)10:459-472に記載されたイントロンスプライス連結コンセンサス配列を使うと,ヒトcDNA配列の最初のエクソンは,ブタの配列に比べてBNP前駆体領域中に,2つの余分のアミノ酸を含んでいるようである。これは,ヒトの心房RNAのPCR増幅によって確認され得る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】ナトリウム排出亢進活性を有し、次式で示されるペプチド:R1‐Cys-Phe-Gly-Arg-Lys-Met-Asp-Arg-Ile-Ser-Ser-Ser-Ser-Gly-Leu-Gly-Cys-R2ここでR1は、下記から選択され、

ここでR3は、次式で示される102アミノ酸配列:

またはそのC端末部分であり;
R2は、(OH)、NH2、NHR′またはNR′R″であり、ここでR′およびR″はそれぞれ独立して低級アルキル(1-4C)であるか、もしくはR2は、Lys;Lys-Val;Lys-Val-Leu;Lys-Val-Leu-Arg;Lys-Val-Leu-Arg-Arg;Lys-Val-Leu-Arg-Arg-His;またはそれらのアミド(NH2、NHR′またはNR′R″)である。
【請求項2】R1がSer-Pro-Lys-Met-Val-Gln-Gly-Ser-Gly-であり、およびR2がLys-Val-Leu-Arg-Arg-Hisまたはそのアミドである、請求項1に記載のペプチド。
【請求項3】被検体にナトリウム排出、利尿および/または血管拡張を誘導するための薬剤組成物であって、請求項2に記載のペプチドを有効量で、適切な薬学的賦形剤とともに含有する、組成物。
【請求項4】組換え宿主細胞に含有されたときに、請求項1に記載のペプチドをコードするDNAを発現させる能力を有する、組換え発現系。
【請求項5】請求項4に記載の発現系を有するように操作された、組換え宿主細胞または細胞培養物。
【請求項6】ナトリウム排出亢進活性を有するペプチドを製造する方法であって、該ペプチドをコードするDNAの発現がなされ得る条件下で、請求項5に記載の細胞を培養すること;および培養物から該ペプチドを回収すること;
を包含する方法。
【請求項7】請求項1に記載のペプチドをコードするDNAで実質的になる、単離され精製された形の組換えDNA。

【第1−1図】
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【第1−2図】
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【第3−3図】
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【第2図】
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【第3−1図】
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【第3−2図】
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【第4図】
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【第5−1図】
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【第5−2図】
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【第6−1図】
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【第6−2図】
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【特許番号】第2511160号
【登録日】平成8年(1996)4月16日
【発行日】平成8年(1996)6月26日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平1−506595
【出願日】平成1年(1989)5月31日
【公表番号】特表平3−505280
【公表日】平成3年(1991)11月21日
【国際出願番号】PCT/US89/02373
【国際公開番号】WO89/12069
【国際公開日】平成1年(1989)12月14日
【微生物の受託番号】 ATCC   67862
【微生物の受託番号】 ATCC   67863
【微生物の受託番号】 ATCC   40465
【出願人】(999999999)サイオス ノバ インコーポレイテッド
【参考文献】
【文献】特開昭63−107997(JP,A)
【文献】Nature,Vol.332,P.78−81(1988)