説明

新設ケーブル布設用の装置及び布設方法

【課題】既設の電線等を利用して、新設ケーブルを布設する装置、及び布設方法の提供。
【解決手段】支持線が架設されている二地点の間に新設ケーブルを布設するための装置であって、複数のS字形状ガイド11を装着したロープ5よりなるケーブル布設用具1と、牽引ロープとからなることを特徴とする新設ケーブル布設装置であり、さらに前記の新設ケーブル布設装置を用いて、支持線に前記S字形ガイド上部湾曲部引掛ける手順と、前記のケーブル布設用具の固定端を一の電柱又は一の電柱近辺の支持線に結合する手順と、前記S字形ガイド下部湾曲部に新設ケーブルを引掛ける手順と、前記ケーブル布設用具の自由端側に新設ケーブルの端末を固定する手順と、前記ケーブル布設用具の自由端に結合された牽引ロープを牽引する手順と、目的とする二地点に新設ケーブルを固定する手順と、ケーブル布設用具を回収する手順とからなる新設ケーブルの布設方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電柱間、または住宅と近隣電柱間に架設された既存ケーブルを利用して、新設ケーブルを布設するための装置及び布設方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の映像配信、データ通信等のブロードバンドサービスの拡大により、光ファイバによる家庭向けデータ通信サービス(以下FTTHと略称する。)の加入者が増加している。このFTTHでは、光ファイバを架空の幹線光ケーブルからクロージャを介して加入者宅等に引き込むのに、例えば、ドロップ光ケーブルと言われている光ケーブルが多く用いられている。住宅等への光ファイバの引き込みは、例えば電柱等に布設された幹線光ケーブルを、クロージャで分岐し、分岐した光ファイバをドロップ光ケーブルに接続することにより行われている。
【0003】
従来、新設ケーブルを布設する方法としては、引き込み用のドロップ光ケーブルとしてケーブル本体部と吊線部を切断容易な首部で一体に連結したものを用い、吊線部の両端を架設の目的である両地点にそれぞれに固定して、ケーブル本体部を吊下げ支持する方法がある。例えば電柱から住宅へケーブルを引き込む場合は、電柱側で新設ケーブルの一端を固定して幹線光ケーブルと接続し、次に新設ケーブルの他端を目的の電柱または住宅側へ引きずりながら延長した後に、他端を引っ張って、新設ケーブルを緊張させ、他端を住宅側で固定し、屋内機器と接続して工事を完了する。この場合に、新設ケーブルを住宅側へ延長してから新設ケーブルを引っ張るまでの間は、一時的に新設ケーブルは地面または道路上に置かれることとなる。
【0004】
前記による工事の場合は、(1)ケーブル布設が道路を横断する場合には、前記置かれたケーブルが交通の妨げとなる。(2)車や人との事故を防ぐため、交通整理員が必要となる。(3)ケーブル布設が圃場を横断する場合には、作物を棄損する。(4)施工スケジュールが遅延する、等の問題があった。
【0005】
このために、例えばメッセンジャーワイヤーまたは既設の電話線や電力線を支持線として、これに光ケーブルを螺旋状に巻き付けて引き込む方法も提案されている(例えば特許文献1、特許文献2を参照。)。
【0006】
上記の光ケーブルを支持線に螺旋状に巻き付けて引き込む方法の場合は、作業が煩雑である上に、支持線とドロップ光ケーブルの螺旋状部分とが密着せず、隙間が大きくあいた状態となる場合があり、車両等による引掛け事故や鳥類の悪戯による断線の恐れもあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−142319号公報
【特許文献2】特開2009−48128公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記の事情に鑑み、既設の電線等を利用して効率的に新設ケーブルを布設するための装置、及び布設方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
<1> 本発明は、支持線が架設されている二地点間に新設ケーブルを布設するための装置であって、複数のS字形状ガイドを装着したロープよりなるケーブル布設用具と、牽引ロープとからなることを特徴とする新設ケーブル布設装置である。
<2>前記S字形ガイドは、S字形ガイドの直線部中央にロープ保持具が備えられていることが好ましい。
<3>さらに本発明は、支持線が架設されている二地点間において前記新設ケーブル布設装置を用いて、支持線に前記S字形ガイド上部湾曲部を引掛ける手順と、前記のケーブル布設用具の固定端を一の電柱又は一の電柱近辺の支持線に結合する手順と、前記S字形ガイド下部湾曲部に新設ケーブルを引掛ける手順と、前記ケーブル布設用具の自由端側に新設ケーブルの端末を固定する手順と、前記ケーブル布設用具の自由端に結合された牽引ロープを牽引する手順と、目的とする二地点に新設ケーブルを固定する手順と、新設ケーブル布設装置を回収する手順とからなる新設ケーブルの布設方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の布設装置及び布設方法を使用すると、従来の布設方法に比較して作業能率が高く、また既設ケーブルとは独立した新設ケーブルが架設されることから、光ケーブルを支持線に螺旋状に巻き付ける場合に生じる支持線とドロップ光ケーブルとの隙間による車両等による引掛け事故や鳥類による断線の恐れが解消される。またケーブルを布設する2地点上に道路や圃場、池等の地上の障害がある場合であっても、これらの障害に妨げられることもなく円滑に作業ができ、交通整理員等の必要もなく、布設スケジュールが遅延することもない。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明のケーブル布設用具を示す正面概略図
【図2】ケーブル布設用具に用いられるS字形ガイドを示す正面概略図
【図3】S字形ガイドに用いられる回転カラーを示す斜視図
【図4】新設ケーブル布設方法を示す正面概略図
【図5】新設ケーブル布設完了時を示す正面概略図
【図6】新設ケーブル布設完了後のS字形ガイド回収を示す正面概略図
【図7】実施例に使用のケーブル布設用具の一部を示す正面図
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、上記課題を解決するために、電柱間に架設された既設ケーブルやメッセンジャーワイヤー等の支持線を利用して、新しいケーブルを布設する装置及び布設方法である。本発明の新設ケーブル布設装置はケーブル布設用具と牽引ロープとからなる。前記ケーブル布設用具を図1に示す。図1に示す通り、ケーブル布設用具1はロープ5に複数のS字形ガイド11を適宜の間隔に装着したものである。前記ロープ5としては、柔軟性と強度を有するものであれば、三つ打ロープ(ストランド3本を撚り合わせたロープ)、クロスロープ、樹脂被覆ロープ等のいずれのロープを用いることができるが、中でも三つ打ロープがS字形ガイドの装着の観点からは好ましい。ロープに装着されるS字形ガイド11相互の間隔は、支持線の勾配等に合わせてケーブル架設が円滑に行われる範囲で任意に選択できるが、支持線が水平の場合には100cm〜300cmが好ましく、150cm〜250cmがより好ましい。
【0013】
前記ケーブル布設用具1に用いられるS字形ガイド11を図2に示す。S字形ガイドは本体がS字状に成形された器具で、直線部13、上部湾曲部15、下部湾曲部17により構成されている。該S字形ガイド11の材料は、通常の架設作業で破損しない強度を有し、表面が滑らかなものであればいずれの材質も選択できるが、中でも強化プラスチックや硬鋼線材が好ましく、硬鋼線材がより好ましい。硬鋼線材を用いる場合は防食のためにメッキが施されていることが好ましい。
【0014】
該S字形ガイド11は、上部湾曲部15先端と直線部13との距離Aが支持線の径の2〜6倍程度であることが好ましく、下部湾曲部17先端と直線部13との距離Bが新設ケーブルの径の2〜6倍程度であることが好ましい。また上部湾曲部及び下部湾曲部の各先端は、ロープのストランド間への挿入等の作業性を考慮して、頂部が丸形の尖形が好ましい。
【0015】
前記S字形ガイド11をロープに装着する方法としては、該ロープが三つ打ロープの場合はS字形ガイド11をストランドの間に挿入することにより行う。この場合はS字形ガイド11の直線部13の中央に、装着具としてストッパー19を備えることが好ましい。該ストッパー19は、S字形ガイド11がロープ5のストランド間に挿入されたときに、S字形ガイド11をロープに繋止して安定させる。また三つ打ロープ以外のロープを使用する場合は、S字形ガイドに装着具としてスリーブ(図2には示されていない。)を備え、スリーブにロープを通して圧着することにより行う。
【0016】
前記S字形ガイド11の上部湾曲部15及び/又は下部湾曲部17には、図3に示す回転可能なカラー21が複数個取り付けられることが好ましい。該カラー21を上部湾曲部15に取り付けることにより、布設時の支持線との抵抗を少なくすることができる。該カラー21はS字形ガイド11に挿入して回転使用するために十分な径とし、幅は3mm〜10mmが好ましい。該カラーの材質は、表面が滑らかで一定の強度を有するものであればいずれも選択でき、例えば硬質プラスチックのような材質が好ましい。
【0017】
前記の新設ケーブル布設装置を用いて、支持線が架設された二地点間に新設ケーブルを布設する場合の方法を図4により説明する。図4において、符合25と27とは新設ケーブルの布設を目的とする二地点の電柱を示し、両電柱の間には支持線31が架設されており、一の電柱25には幹線光ケーブル33が既に架設されている。
【0018】
前記電柱25から電柱27へ新たなケーブルを布設するにあたり、新設用のケーブルのほかに、電柱25と電柱27との間の距離の0.8〜1.5倍の長さの前記ケーブル布設用具1、および支持線31の地上からの高さより長い牽引ロープ37を準備する。
【0019】
本発明は以下の手順で行われる。まず前記ケーブル布設用具1に装着された全てのS字形ガイド11の上部湾曲部15を支持線31に引掛ける。該作業はあらかじめS字形ガイドの上部湾曲部を揃えておくことにより、1回の作業で済ませることができる。次にケーブル布設用具1の一端(以下固定端という。)を、電柱25の任意の場所または支持線31の電柱25に近い任意の場所39に結合する。前記の2手順は、順序が相互に前後してよい。
【0020】
次にケーブル布設用具1の他端(以下自由端という。)に近い任意の場所に、新設ケーブル35の端末を固定する。次に新設ケーブル35を順次S字形ガイドの下部湾曲部17に引掛ける。該作業もあらかじめS字形ガイドの下部湾曲部を揃えておくことにより、1回の作業で済ませることができる。前記2手順も、順序が相互に前後してよい。またケーブル布設用具1の自由端には、牽引ロープ37を結合する。
【0021】
次に前記の状態で、ケーブル布設用具1の自由端に結合された牽引ロープ37を、地上より牽引して、ケーブル布設用具1の自由端を電柱27に誘導する。このとき、S字形ガイドの上部湾曲部15及び下部湾曲部17に、前記カラー21が取り付けられていると、牽引がスムーズにおこなわれる。
【0022】
図5に示すように、新設ケーブル35が、電柱27に到達した後に、新設ケーブル35を電柱25、及び電柱27に固定する。
【0023】
次に前記支持線上の任意の場所39で結合されたケーブル布設用具1の結合を解除する。次に図6に示すように、ケーブル布設用具1を電柱27側に手繰り寄せて回収する。この際あらかじめ手繰り寄せ用のロープを、ケーブル布設用具1の固定端側に結合しておくと回収が容易である。またケーブル布設用具1の自由端に結合された牽引ロープ37を電柱25側へ回収してもよい。ケーブル布設用具1の回収時も、S字形ガイド11の上部湾曲部と下部湾曲部にカラー21が取り付けられていると、回収作業がスムーズにおこなわれる。上記により、新設ケーブル37の布設工事が完了する。
【実施例1】
【0024】
以下、本発明について、実施例に基づいて詳しく説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。本実施例において、図4に示す通り、一の電柱25と他の電柱27との間には支持線として用いられる径10mmの既設ケーブル31が架設されており、一の電柱25には幹線光ケーブル33が既に架設されている。電柱25と電柱27との間の距離は50mで、既設ケーブル31は地上高5mであった。また新設ケーブルは、5.5mm×2.0mmの2心光ドロップケーブルを用いた。
【0025】
本実施例で用いたケーブル布設用具1の一部を図7に示すが、該ケーブル布設用具の長さは50mであった。ロープ5には、25個のS字形ガイドを2,000mm間隔に装着した。該ロープは、径6mmの三つ打ロープを用いた。
【0026】
前記ケーブル布設用具1に用いたS字形ガイドを図7に示すが、高さ(C)200mm、幅(D)80mm、線径(E)4mmのメッキ済みの硬鋼線材製を用いた。該S字形ガイド11の直線部13とS字の上部湾曲部15先端との距離Aを40mmとし、下部湾曲部17先端との距離Bを30mmとした。
【0027】
前記S字形ガイド11の上部湾曲部15には、20個のカラーを、下部湾曲部17には30個のカラーを取り付けた。該カラーは、径が8mm、幅が5mm、材質がポリウレタン樹脂とした。
【0028】
前記ケーブル布設用具1を用いて、新設ケーブルを布設する方法を図4に示す。まずケーブル布設用具1に装着された25個のS字形ガイドの上部湾曲部を支持線31に引掛けた。本作業はあらかじめS字形ガイドの上部湾曲部を揃えておくことにより、1回の作業で済ませた。次にケーブル布設用具1の固定端を、支持線31の電柱25より1mの所に、結びつけて固定した。またケーブル布設用具1の自由端に固定された牽引ロープ37の長さは8mであった。
【0029】
次に、次にケーブル布設用具1の自由端から0.5mの所に新設ケーブル35の端末を固定し、新設ケーブル35を順次S字形ガイドの下部湾曲部17に引掛けた。本作業もあらかじめS字形ガイドの下部湾曲部を揃えておくことにより、1回の作業で済ませた。
【0030】
次に、ケーブル布設用具1の自由端に結合された牽引ロープ37を、地上より牽引して、ケーブル布設用具1の自由端を電柱27に誘導した。
【0031】
図5に示すように、新設ケーブル35が、電柱27に到達した後に、新設ケーブル35を電柱25、及び電柱27に固定した。次に前記ケーブル布設用具1の固定端を、結合された場所39から解除した。次に図6に示すように、ケーブル布設用具1を電柱27側に手繰り寄せて回収し、新設ケーブル37の布設工事が完了した。
【0032】
上記による電柱25と電柱27の間50mの布設に要した作業時間は、新設ケーブルのドラム搬入から回収作業の終了まで、作業者2名により28分を要した。一方本発明のケーブル布設用具1を用いず、従来の新設ケーブルの布設方法である地上部を引きずることにより布設した場合の所要時間は、作業者2名により42分を要した。また本実施例においては道路を横断する架設ではなかったが、道路を横断する架設の場合の従来方法においては、上記のほかに交通整理要員等が必要となる。したがって本発明の方法は極めて効率の高い方法であることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明を使用することにより、ケーブルを布設する2地点上に道路横断や圃場、池等の地上の障害がある場合であっても、これらの障害に妨げることもなく円滑に且つ効率的に新設ケーブルの架設が可能となる。
【符号の説明】
【0034】
1 ケーブル布設用具
5 ロープ
11 S字形ガイド
13 S字形ガイド直線部
15 S字形ガイド上部湾曲部
17 S字形ガイド下部湾曲部
19 ストッパー
21 カラー
25 電柱
27 電柱
31 支持線
33 幹線光ケーブル
35 新設ケーブル
37 牽引ロープ
39 ケーブル布設用具1の固定端の固定場所


【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持線が架設されている二地点の間に新設ケーブルを布設するための装置であって、複数のS字形状ガイドを装着したロープよりなるケーブル布設用具と、牽引ロープとからなることを特徴とする新設ケーブル布設装置。
【請求項2】
前記S字形ガイドが、S字形ガイドの直線部中央にロープ保持具が備えられている請求項1に記載の新設ケーブル布設用具。
【請求項3】
支持線が架設されている二地点の間において、請求項2に記載の新設ケーブル布設装置を用いて、支持線に前記S字形ガイド上部湾曲部を引掛ける手順と、前記のケーブル布設用具の固定端を一の電柱又は一の電柱近辺の支持線に結合する手順と、前記S字形ガイド下部湾曲部に新設ケーブルを引掛ける手順と、前記ケーブル布設用具の自由端側に新設ケーブルの端末を固定する手順と、前記ケーブル布設用具の自由端に結合された牽引ロープを牽引する手順と、目的とする二地点に新設ケーブルを固定する手順と、ケーブル布設用具を回収する手順とからなる新設ケーブルの布設方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−15585(P2011−15585A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−159494(P2009−159494)
【出願日】平成21年7月6日(2009.7.6)
【出願人】(390021119)ヒエン電工株式会社 (7)