説明

施策・意思決定支援システム

【課題】国立大学法人等、研究活動が全方位的に広がっている研究組織等の組織が、特許出願、共同研究、政策決定等を効率的にしかも簡単に行うことが可能となる施策・意思決定支援システムを提供する。
【解決手段】実行主体の時間の関数としての属性情報および実行内容のキーワード群を入力する入力装置11と、入力装置11に入力されたデータから多次元パラメータ空間を生成し記憶する記憶装置14と、記憶装置14に記憶されたデータに基づいて、多次元パラメータ空間における複数の実行主体および複数の実行内容に関して、未来の時刻における施策遂行の効果または意思決定の結果の有効性を計算する演算装置15と、演算装置15の演算結果を出力する出力装置16とにより施策・意思決定支援システムを構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、施策・意思決定支援システムに関し、例えば、特許出願、共同研究、政策決定等に適用して好適なものである。
【背景技術】
【0002】
資本主義に基づく市場が発展し、その市場での取引がコンピュータ化あるいは電子化されて久しいが、経済学におけるファイナンス(金融)の分野は、これまでの膨大なデータの蓄積ならびに世界各地の市場において日々蓄積されて行くデータと、この市場の推移、発展を記述するモデルとの両方が存在するという意味において、自然科学、特に物理学の手法が、コンピュータによる最新の理論計算に基づいて、適用できる分野となって来ている。
【0003】
実際、経済学、特にファイナンス分野において、ハミルトニアンやラグランジアンを定式化し、ハミルトンの原理や最小作用の原理等に基づいて、経済のダイナミズムを記述する試みがなされている(例えば、非特許文献1参照。)。
非特許文献1では経路積分(パスインテグラル)までは言及されていなかったが、一旦ラグランジアンが求まれば、これを用いて経路積分の手法が適用できることは、ファインマンによりまず量子力学において発見されて久しい(例えば、非特許文献2参照。)。
【0004】
また、量子力学のみならず、統計力学、一般相対性理論、ポリマーフィジクス、更にはファイナンシャルマーケットに対するファインマンの経路積分の適用も行われている(例えば、非特許文献3参照。)
実際、いろいろな経済的仕組みに対応してラグランジアンを導入し、経路積分の手法を駆使して、ファイナンスの理論的定式化が議論され、ストックオプションやフォワードインテレストレート(forward interestrate) を考慮したファイナンスにおけるハミルトニアンやラグランジアンの詳細な検討が行われている(例えば、非特許文献4参照。)。
【0005】
以上は純理論的な解析であるが、これを実際に数値計算可能なレベルまで落とし込んでくるものとして、汎用ソフトウエアMathematica を用いての解析が、古典物理学のみならず、量子力学や非線形ダイナミクスにも適用され、物理・数学上の抽象的な表現をそのままシンボリックにプログラミングし計算することが、並行して示されてきた(例えば、非特許文献5参照。)。
また、最近、Mathematica を用いて位相空間におけるファインマンの経路積分が、フリーバウンダリーな時間に対しても計算できることが示されている(例えば、非特許文献6参照)。
【0006】
このように、経済学の考慮の対象となる価値(価格)は、今や、実体としての貨幣の範囲を超え、ストックオプション、デリバティブ等の抽象的な金融取引商品にまで及んできている。
かかるより安定でリスクの少ない利潤を求めるという人間の経済的な営みの最たるものである相場の変動等が、経路積分という本来、純理論物理学的な処方で記述できるということは、最近の特筆すべき進展のひとつである。
【0007】
かかる抽象的な経済的価値は知的財産という形をとって上述の先行技術の理論体系の中にも入って来うる。特にこれは、最近法人化して私企業のダイナミズムを取り込もうとしている国立大学法人をその考慮の対象とする時に重要な意味を持ってくる。
すなわち、国立大学が法人格を持つことによりストック(株)を持つことができるようになってきて、国からの予算が減額されて研究資金等を自前で稼ぐ必要性とその法的支えとの両方が顕在化し、また古来より知の創造を行う拠点であった国立大学は、知的財産をその主要ポリシーに取り込む必要のある、上述の経済理論の対象に勇躍、入ってきた。
【0008】
しかし、企業においては、意思決定、例えば特許に関していうと特許出願の要否などの意思決定は、当該企業における事業内容にマッチするか否かを基準として、経験に基づいて行われていた。このため、生物学の相関マップに似て、特許と当該企業における事業内容との関連は明示されていても、その間のダイナミズムは見えてこない。
すなわち、図6に示すように、企業においては、その事業内容により自然に特許出願を行う分野は決定されてくるが、図7に示すように、国立大学法人など、研究活動が全方位的に広がっている研究組織では、無為無策に特許出願することは特許予算の破綻を意味する。また、このような研究組織では、上記のような企業ならば有効である意思決定手段が適用できない。そこで、このような研究組織においては、全方位的研究活動をベースに未踏の科学技術の領域(新しい技術思想空間)を切り開き、その新領域における未来技術を先取りする特許(ビジョナリー(visionary)特許)を取得することが重要だが、まだそのスキームは存在しない。
【0009】
国立大学は、法人化したとはいえ、今のままでは、損益計算(P/L)等に基づいて経営を行っている(したがってダーウイニズムが機能する)企業とちがい、単に形式的に民間会社の形式(例えば、中期目標の設定や職員の非公務員化)等を導入しても、資金として入ってくるのは国からの予算であるのに対し、成果として出て行くものは能力を培った学生や論文等研究成果、知的財産権と全く形が違うもので、いわば大きな捩れがあり、フィードバックが適正にかからないため、大きな困難に直面する可能性がある。
【0010】
他方、企業に目を転じると、リストラによる研究開発部門の整理により、大企業が事業化に必要な技術を全て自主開発することが困難となり、国立大学法人、私立大学、ベンチャー企業等とのいわゆるウィンウィン(win-win)の関係を重視する傾向が一部で顕在化してきている。
日本では優秀な種となるアイデアや技術があっても、その実現、実用化は、これまでは「寄らば大樹の陰」とばかりに大企業に委ねられてきた。特に技術畑の人間は、経営の観点が希薄で、必然的に保守的(コンサーバティブ)にならざるを得ず、スピンオフすること等はあまり考えない。そして、その大企業では経営幹部への出世の道がたとえ閉ざされても、企業にしがみついてきていた。それが日本の一般的な技術エリートのこれまでの典型例であり、日本企業の新規ビジネス開拓力は、裏打ちする方法論のないまま、その本来の力を発揮できないでいる。
【0011】
株の安定的持合に礎をおいてきた日本的経営が、株主への利益還元の旗印のもと短期的利益を重視するアメリカ的経営に変化してきている現在、多くの大企業では、長期的な研究戦略の維持が難しくなり、景気変動や業績不振のサイクルの度に、次世代商品開発のための技術開発をする役割を持つ研究所が、自分では資金を得ることが容易でないため、研究テーマの削減、断絶等が生じやすくなってきた。その結果、潜在的に重要な研究テーマのその後の発展が当該企業としては不可能となることが頻繁に起きるようになってきた。別の視点での開発計画、あるいは別の企業で技術開発をすれば商品化の可能性が大いにあるものも、日の目をみることがなくなることが多くなってきている。
【0012】
すなわち、日本という全体的な規模でみると「利益を産む可能性」、「国際的競争力を強化する可能性」の芽を摘んでいることになる。削減される研究テーマの中には別の企業で継続すれば大きな成果に結びつくかも知れないテーマもあるし、「ベンチャーとして立ち上げたら良いビジネスに発展する可能性を持つテーマ」も現状では立ち消えになってしまう可能性が高くなっている。
企業が一時的な不況乗り切り策として中断する多数の研究テーマの喪失は国レベルでは膨大な損失となる可能性があるから、そのテーマの今後の研究・開発・市場導入の持って行き方を、システマティックに将来を見越して展開する方法について検討することは極めて重要であるが、現状ではこれについて十分検討されているとはいえない。
【0013】
過去に例をとれば、財界の先人は本能的にこの問題を解決し、財閥や企業コングロマリットを形成してきた。現在の一部の人々は上述の現状を打破しようと奮闘しているが、そのやり方は、従来の陋習にとらわれているといえるかも知れない。
あるいは、陋習とはいわないまでも、計画立案、実行検討の実際の現場では、プランニングの直接担当者の個人的な能力や考え方や資質等により、その対応が千差万別となっている。やはりここでも、このような場合に有効な施策・意思決定支援システムがないことが問題となっている。
【0014】
【非特許文献1】R. J. Barro, X. Sala-i-Martin,“Economic Growth ”, McGraw-Hill Inc. New York 1995, p.498
【非特許文献2】「いかにして物理法則は発見されたか」R.P.ファインマン著、江沢 洋 訳、ダイヤモンド社、1968年、p.248
【非特許文献3】H. Kleinert,“Path integrals in Quantum Mechanics, Statistics, Polymer physics, and Financial Market”, World Scientific Publishing Co. Pte. Ltd., River Edge, NJ, 2004, p.1342
【非特許文献4】「Quantum Finance 」,B.E. Baaquie, Cambridge University Press, Cambridge, UK, 2004, p.49, p.80
【非特許文献5】“Mathematica for Theoretical Physics ”,G. Baumann, Springer- Verlag, HeidelBerg, 2004, p.485, p.587
【非特許文献6】A. Layasoff,“Path integral methods for parabolic partial differential equations”The Mathematica Journal 9 (2004) 299-422
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
そこで、この発明が解決しようとする課題は、国立大学法人等、研究活動が全方位的に広がっている研究組織等の組織が、特許出願、共同研究、政策決定等を効率的にしかも簡単に行うことが可能となる施策・意思決定支援システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
代表例として大学を機軸とした「知」の価値を回す仕組み・システムを創出することを考える。このために、いわば古典力学から量子力学への飛躍に習って、「知の価値」を、金銭を演算子化したものとしていかに再定義し、経済のより広義の通貨として運用していくかについて考え、その実現を目指す。すなわち、知的価値創造過程をいわば量子力学における「第2量子化」して、知を通じて額に汗をかいたことを反映する知的財産・ストックに進化させることまで敷衍・拡張することを考える。
【0017】
人間の戦略的な思考は時間軸上に立つ灯台に例えられよう。この灯台は、後方を照らす時は、科学・技術を含む人類の全文化の集大成を意識し、前方を照らす時は、至りうる未来の全てを想起している。その光は円錐状に拡大するが、遠い将来ほど多様なことが起こりうることを反映している。
未来を自在に創るに勝る楽しみはないであろう。にも関わらずそれがなかなか行われないのは、単にその手段が(普通は)無いと思われているからにすぎない。
将来戦略の要になるのは知的財産であり、大学がその鍵を握る。研究と特許をもとに、戦略的知的財産の創造とシステムを構築し、以って再び百年のオーダーで日本が活力ある成長を遂げる礎を確立しようと企図しても(認識できる範囲での)経験的なものに頼らざるを得なかった。
【0018】
これからの人類の発展の鍵を握るものは、「未来」という、時間軸上「今」より先にある(いわば量子力学的な「エンタングルド・ステート(entangled state)」に近い)漠とした可能性の集合の中から、いかにしてその中でもより良いものを、現在の後継として引き寄せるかにある。
そこで、図5に示すように、起こりうる未来としての光円錐内に、知的財産、特にビジョナリー特許を、実現を期する未来の「有力候補」として布陣し、かかる特許を群として“Future as it can be ”の総体、つまり有り得べき”未来”の集合体とならしめるとともに、現在から未来に向かう時間発展の中で、その可能ないくつもの筋道の中からできるだけ自陣(すなわち研究組織、それを含む自治体、国家等)に有利なように持っていくことが可能となるようにする。
本発明者は、鋭意研究の結果、時間を含む多次元パラメータ空間(多変数空間)における演算、中でも現在から未来の一時刻の間に対する経路積分の計算を利用し、その結果に基づいて施策決定または意思決定を行うことが有効であるという考えに至り、この発明を案出するに至ったものである。
【0019】
すなわち、上記課題を解決するために、第1の発明は、
実行主体の時間の関数としての属性情報および実行内容のキーワード群を入力する入力装置と、
上記入力装置に入力されたデータから多次元パラメータ空間を生成し記憶する記憶装置と、
上記記憶装置に記憶されたデータに基づいて、上記多次元パラメータ空間における複数の実行主体および複数の実行内容に関して、未来の時刻における施策遂行の効果または意思決定の結果の有効性を計算する演算装置と、
上記演算装置の演算結果を出力する出力装置とを有することを特徴とする施策・意思決定支援システムである。
【0020】
典型的には、記憶装置に記憶されたデータに基づいて、多次元パラメータ空間における複数の実行主体および複数の実行内容に関して、未来の時刻における施策遂行の効果または意思決定の結果の有効性が所定の閾値を越えるように、実行主体の属性情報および実行内容のキーワード群を補完し、または、実行主体そのものの一部または全部の選定改変を促すようにする。実行内容は、例えば、特許出願、共同研究、政策決定等であるが、これらに限定されるものではない。
【0021】
第2の発明は、
コンピュータを用いて実行主体および指揮者の少なくとも一つとの間で施策決定または意思決定の支援を行う施策・意思決定支援システムであって、
a)実行主体に対し、時間の関数としての実績、活動資金、マンパワー等のデータのコンピュータへの入力を促し、当該データをデータベース化し、
b)目的に応じて予め設定された相互作用のもと、上記データベースを用いて経路積分を計算し、
c)指揮者に対し、上記経路積分の計算結果に基づいて施策遂行の効果または意思決定の結果の有効性に対する評価関数値を表示し、
d)指揮者に対し、上記相互作用に付加項、摂動等を与えた場合または実行主体を交代させた場合の結果を表示し、施策オプションの選択を促し、
e)上記選択された施策に関連付けられた期待値、パラメータ敏感性、初期値依存性情報等を読み出して指揮者に対して出力するようにしたことを特徴とする施策・意思決定支援システムである。
【0022】
第3の発明は、
コンピュータを用いて実行主体および指揮者の少なくとも一つとの間で施策決定または意思決定の支援を行う施策・意思決定支援システムであって、
a)指揮者に対し、将来のマイルストーンを含む、施策の希望将来価値の値を設定しコンピュータへ入力するよう促し、当該値をデータベース化し、
b)目的に応じて予め設定された相互作用のもと、上記データベースを用いて経路積分を計算し、
c)実行主体に対し、上記経路積分の計算結果に基づいて施策遂行の効果または意思決定の結果の有効性に対する評価関数値を表示し、
d)各実行主体の管理可能データに付加項、摂動等を与えた場合の結果を表示し、実行主体に対し、実行オプションの選択を促し、
e)上記選択された施策に関連付けられた期待値、パラメーター敏感性、初期値依存性情報等を読み出して実行主体に対して出力するようにしたことを特徴とする施策・意思決定支援システムである。
【発明の効果】
【0023】
この発明によれば、国立大学法人を含む、研究活動が全方位的に広がっている研究組織等の組織において、特許出願、共同研究等の意思決定や施策決定を効率的にしかも簡単に行うことができる。また、より効率を高めるにはどのように活動をデザインしていけばよいか指針を得ることができる。
また、この手法に基づいて特許出願を行い、特許化を進めることにより、図5に示すように未来に向かって研究活動を行うに際し、眼前には自前の特許が飛び石の如く見出されるのであるから、未来のリンクをつけることは、こうした戦略なしに進める場合にくらべれば圧倒的に容易である。これは丁度、World Wide Webという一種の非計量空間を拵えてそこに新しい「領土」を築くことをIT技術が可能にしたのと同じく、研究者は内在するイメージと母なる自然が応えてくれる物質・材料・機能を以って、Future as it can be
として膨大なる「未来時空間」を創造するとともに、明るく力強い躍進する未来を提示できる。すなわち、「特許」をして、Future as it can be として、より明るく望ましい未来の候補として提示・提供して行くこと、および、それに対する対価を払うことをシステム化できる。また、特許をベースとした共同研究のスキームをより未来志向で設定することができる。研究組織全体、特にリサーチ&ビジネス構想等を通じてこれから得られる研究成果を基に特許出願して行くことが可能となる。すなわち、走りながら特許によって飛び石(stepping stone)の布石も打って行く。こうすることで、例えばこれから10年の基礎研究が、種つくり、土耕し、肥料施し、苗床つくりになり、相俟って百年レンジの持続可能(sustainable)なハーベスティングを支えることを可能とする。意図的に自陣に有利なように「未来」を確定して行くには、例えば重要特許に関する出願直後の機動的審査請求、度重なる拒絶にも屈しない強靭な発明者と弁理士とのタッグチームの形成・支援システム、特許成立後の特許権行使やありうべき係争に備えた体制の整備・充実といった積極的な施策を行っていくことができる。
【0024】
これによって、次のようなことが可能となる。すなわち、既に述べたように、現在は、日本という全体的な規模でみると「利益を産む可能性」、「国際的競争力を強化する可能性」の芽を摘んでいることになるが、削減される研究テーマの中には別の企業で継続すれば大きな成果に結びつくかも知れないテーマもあることから、「ベンチャーとして立ち上げたら良いビジネスに発展する可能性を持つテーマ」が現実化する可能性が高くなる。また、企業が一時的な不況乗り切り策として中断する多数の研究テーマの喪失が国レベルで膨大な損失となる可能性を排除し、そのテーマの今後の研究・開発・市場導入の持って行き方を、システマティックに将来を見越して展開することが可能となる。
【0025】
かつて、いわゆる人工生命が、Life as it could be として定義されたが、その向こうを張って、「演算子化された知価」をFuture as it can be としての「コンセプト特許」として、人間の頭の中の思考と将来のreal realityとの間に位置する中間状態(ひょっとすると化けるかも知れないが、そのままお蔵入りしてしまうこともありうる幻と現実の間のアイデア)として多数、「観測気球」的に打ち上げておいて、あたかも現在から未来に移行する際の飛び石的に、臨機応変に利用することができる。
そして、知の価値(を演算子化したもの)を通じて、企業におけるいわゆる金銭と同じく、入ってくるものも出て行くのも「(演算子化した)金銭」という形に持ち込むことができ、ダーウイニズムが機能するようにすることができる。
その意味で研究者の役割は極めて大きいが、この発明により知的財産よりもたらされる資金の研究への還流等を以って支えつつ、再び日本が活力ある成長を百年のオーダーで遂げる端緒を切っていかせることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、この発明の一実施形態について図面を参照しながら説明する。
例えばナノテクノロジーを含む基礎科学研究に関して、世界の動きが急である。全てを網羅的に研究するのは、事実上不可能であるし、仮に実行したとしても終った頃には既に時代遅れのものである恐れが強い。そこで、蓄積情報や数値データを時系列データとして再整理する。これに時間変化を織り込んで、時間の関数としてのデータとして記憶装置に記憶する。この場合、各時刻にスナップショットとしてのデータの相関解析を行うのでなく、相互作用を仮定し、ラグランジアンを導いて、上述の時系列データに経路積分の処方を適用して、未来の期待値を求める。
【0027】
一般に事象=イベントを表現するには、時間の関数として、だれ(なに)がなにをやったかということを記述する。実行内容は、例えば図1に示すような多次元パラメータ空間(位相空間)に対して考えると良い。事象=イベントは、どういった実行主体(プレイヤー)が、どういう属性に基づき、いかなるフィールド(環境)でいかなる実行内容をなすかで定義されると考えてよい。従って主要なものとしては、実行主体の、一般に時間tの関数としての属性パラメータ(状態変数)と、実行内容を示すいろいろな性質よりなる、時間の関数としてのパラメータ(制御変数)とにより空間が張られる。図1では、状態変数は研究キーワーズ、研究や特許出願等の実績等、制御変数は、研究者の能力、研究資金等の金銭、マンパワーなどである。
【0028】
このとき、政策決定あるいは意思決定は、施策の効果の期待値、あるいは意思決定による効果の値が、次に示すようなある評価関数F(上述の多次元パラメータ空間→R(実数空間)への写像)に対し、ある一定値以上の値をとることをその判断基準とすることができる(できれば最大化、あるいは極大値を取る地点で、GOをかける)。
【数1】

vは考えている対象において政策(意思決定)の有用性、望ましさ、達成度の高さ等を表すものである。k(t)は図1の多次元パラメータ空間における時間tの関数としての状態変数であり、c(t)は同空間における制御変数である。
【0029】
この時、ラグランジアンは
【数2】

と書ける。μは経済学上のシャドープライスに相当する量である。また、r(t)は平均ディスカウントレートである。μの上のドットは時間微分を表す。ここで、ハミルトニアン
【数3】


【数4】

と表される。ただし
【数5】

である。
【0030】
相互作用のある系に対しては、ラグランジアン密度は例えば
【数6】

という形をとる。ここで、fは経済学上のフォワードインテレストレートに相当する量であり、hは同じく経済学上のボラティリティー関数σの対数をとった量に相当する。α、βは各々場の量f、hに対応して、それらのドリフトタームを表す。ρは場の量f、hとの相関を表す量である。ξは場の量hのストカスティック性を表す量である。また、μ、κは場の量f、hの変動をコントロールする量である。この時、経路積分を、下に示すような構成によって計算することができる。
【0031】
今、上述のFを演算子的に
【数7】

と記述すると、評価対象に対する期待値
【数8】


【数9】

で与えられる。ここで
【数10】

である。
【0032】
図2にこの発明の一実施形態による施策・意思決定支援システムの構成を示す。
この施策・意思決定支援システムには、施策・意思決定支援のサービス提供者(サーバー)と施策・意思決定支援のサービスの提供を受ける顧客1および顧客2とが関わる。顧客1は実行主体(プレーヤー)、顧客2は顧客1が所属する研究組織等の組織の指揮者、意思決定者等(オーガナイザー)である。
図2に示すように、顧客1である実行主体群(プレーヤー群)は、N台(n=1〜N)の入力装置11に実行主体群の属性情報(研究者属性情報等)および実行内容のキーワード群(研究キーワード群等)等を入力する。入力装置11としては一般的にはコンピュータ(ユーザーコンピュータ)が用いられる。これらの入力装置11に入力されたデータは記憶装置12に記憶される。
【0033】
各記憶装置12に記憶されたデータは、サービス提供者のサーバー13の記憶装置14に送られ、例えば図1に示すような多次元パラメータ空間が生成されて記憶される。記憶装置14に記憶された多次元パラメータ空間のデータは演算装置15に送られる。この演算装置15では、多次元パラメータ空間のデータに応じて適切なラグランジアンLが設定され、このラグランジアンLを用いて上述の計算式により未来のある時刻までに亘る経路積分が実行される。この経路積分の計算結果が与えられた条件を満足するものであれば、顧客2であるオーガナイザーのGO/NOGO判断出力装置16にその結果が送られる。顧客2は、この結果に基づいて施策・意思決定実行後の効果を定量的に得ることができ、意思決定または施策決定を行う(GOまたはNOGO)。
【0034】
上記の経路積分の計算結果が与えられた条件を満足しないものであれば、サーバー13の補完データジェネレーター17により、記憶装置14に記憶された多次元パラメータ空間に変更を加える。具体的には、実行主体の属性情報および実行内容のキーワード群等を補完することによる実行主体および実行内容を再設定する。すなわち、実行主体に与える制御変数の変更(例えば、付与する予算額の変更等を含む)、実行主体自体の変更(ポジション間のトレード、更迭、新規採用等)等を行う。こうして、経路積分の計算結果がある一定条件を満たすように(通常は、効果の定量値がある一定水準以上になるように)、再度経路積分を実行する。この時の最適化されたパラメータは補完データジェネレーター17から、顧客2であるオーガナイザーの最適化済みパラメータ出力装置18に送られ、顧客2はこの最適化されたパラメータを取得することができる。
【0035】
図3に演算実行例を示す(一般にはストカスティック変数に従って評価関数は微細構造を示しうるので、図3の直線はその包絡線とみなすことができる)。図3中、細い線は、ある一定の目標に向かって実行主体群を設定し、施策を遂行したときの効果の定量値の未来時間tにおける期待値を示す。図3より、施策を行う上で比較優位になるタイミングが存在することがわかる。これは、この施策に対する二の矢、三の矢を放つタイミングを示唆していると解釈される。
図3中、太い線は、細い線を与えたパラメータセット(セット1)と別のパラメータセット(セット2)を用いて施策を遂行したときの効果の定量値の未来時間tにおける期待値を示す。セット1で行った場合の最大値(極大値)にくらべセット2の実行主体群で行った場合の方が、施策を行う上で比較優位になることがわかる(求める効果が期待されるまで、実行主体の編成を変える判断基準を与えている)。
【0036】
図4はこの施策・意思決定支援システムをコンピュータネットワークで構成した例を示す。図4に示すように、入力装置11としてのコンピュータ51に、顧客1である実行主体、例えば研究者がキーボード、マウス等の操作により実行主体の属性情報、実行内容のキーワード群等を入力する。各コンピュータ51はハードディスク等に個別データベースを有している。サービス提供者はサーバ13としてコンピュータ52を有している。顧客2であるオーガナイザーはコンピュータ53を有している。
【0037】
この施策・意思決定支援システムの使用方法の具体例を説明する。
例えば国立大学法人等の研究者等の実行主体は、サービス提供者に、想定している目的を遂行する上での施策のオーガナイザー(指揮者(例えば、知的財産本部等))の管理のもと、実績、予算、エキスパティー、キーワーズ等の個々の要素データの過去未来に亘る実績・予想時系列データをコンピュータ51に入力してデータベースに蓄積し、ネットワークを通じて提供する。
【0038】
サービス提供者は、次に、目的に対応して定まる相互作用の下、ラグランジアンを導入し、これの経路積分を上記データベースの時系列データを用いて、図2に示したプロセスに従って計算する。
サービス提供者は、施策のオーガナイザーに対し、前記計算情報に基づいて施策に対する評価関数値を表示する。
サービス提供者は、選択された施策に関連付けられた期待値、パラメータ敏感性、初期値依存性情報等を読み出してオーガナイザーに対して出力する。
オーガナイザーは、前記相互作用に付加項や摂動を与えた場合の結果を基に、施策オプションの中から一つを選択する。
【0039】
もう一つの具体例について説明する。
オーガナイザーはコンピュータ53を用いてサービス提供者に、想定している施策の内容と目標値とを伝える。
サービス提供者は、実行主体に(オーガナイザーによって設定された)、目標を遂行する上で参考となる実績、予算、マンパワー、エキスパティー、今後の想定マイルストーン等、過去から未来に亘る時系列データをコンピュータ51へ入力するよう促す。
【0040】
次に、目的に対応して定まる相互作用のもとラグランジアンを導入し、これの経路積分を上記データベースの時系列データを用いて図2に示したプロセスに従って計算する。
サービス提供者は、施策のオーガナイザーが予め想定した目標値を上述の計算の結果が満たすかどうか調べる。
満たさなかった場合は、実行主体の管理可能な変数を多少振って、期待値が満たすかどうか調べる。それでも駄目なときは、実行主体自体を変更して、同様の計算を行い、調べる。満たすまで上記のループを繰り返す。
満たした時点で、選択された施策に関連付けられた有効な実行主体の編成、パラメーター敏感性、初期値依存性情報を読み出してオーガナイザーに対して出力する。
【0041】
以上この発明の一実施形態について具体的に説明したが、この発明は、上述の実施形態に限定されるものではなく、この発明の技術的思想に基づく各種の変形が可能である。
例えば、サービス業者の役割をソフトウエアパッケージ化して、これを実行主体(プレーヤー)あるいはオーガナイザーが利用することで両者間の2体問題として応用することも勿論可能である。また、経路積分をオーソドックスなものと仮定したが、これと等価な計算体系を用いることも可能である。例えば、ブラックショールズ式の枠組みを変形して適用することも可能である。また、知的財産権に限らず、評価関数が定義できるような意思決定、施策決定、商取引に応用することも可能である。また、上述の実施形態における入力装置11は、必要なデータをWeb等のデータベースから適宜自動抽出する「データ生成プログラム」で置き換えることも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】この発明において用いる多次元パラメータ空間の一例を示す略線図である。
【図2】この発明の一実施形態による施策・意思決定支援システムを示す略線図である。
【図3】この発明の一実施形態による施策・意思決定支援システムにおける演算結果の一例を示す略線図である。
【図4】この発明の一実施形態による施策・意思決定支援システムの具体的な構成例を示す略線図である。
【図5】国立大学法人に期待される研究の方向性および特許化の指向性の未来プラニングを示す略線図である。
【図6】企業における研究の方向性および事業化の方向性を説明するための略線図である。
【図7】大学における研究および教育の方向性を説明するための略線図である。
【符号の説明】
【0043】
11…入力装置、12…記憶装置、13…サーバー、14…多次元パラメータ空間、15…演算装置、16…GO/NOGO判断出力装置、17…補完データジェネレーター、18…最適化済みパラメータ出力装置、51、52、53…コンピュータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
実行主体の時間の関数としての属性情報および実行内容のキーワード群を入力する入力装置と、
上記入力装置に入力されたデータから多次元パラメータ空間を生成し記憶する記憶装置と、
上記記憶装置に記憶されたデータに基づいて、上記多次元パラメータ空間における複数の実行主体および複数の実行内容に関して、未来の時刻における施策遂行の効果または意思決定の結果の有効性を計算する演算装置と、
上記演算装置の演算結果を出力する出力装置とを有することを特徴とする施策・意思決定支援システム。
【請求項2】
上記記憶装置に記憶されたデータに基づいて、上記多次元パラメータ空間における複数の実行主体および複数の実行内容に関して、未来の時刻における施策遂行の効果または意思決定の結果の有効性が所定の閾値を越えるように、実行主体の属性情報および実行内容のキーワード群を補完し、または、実行主体そのものの一部または全部の選定改変を促すことを特徴とする請求項1記載の施策・意思決定支援システム。
【請求項3】
上記実行内容が特許出願であることを特徴とする請求項1記載の施策・意思決定支援システム。
【請求項4】
上記実行内容が共同研究であることを特徴とする請求項1記載の施策・意思決定支援システム。
【請求項5】
上記実行内容が政策決定であることを特徴とする請求項1記載の施策・意思決定支援システム。
【請求項6】
コンピュータを用いて実行主体および指揮者の少なくとも一つとの間で施策決定または意思決定の支援を行う施策・意思決定支援システムであって、
a)実行主体に対し、時間の関数としての実績、活動資金、マンパワー等のデータのコンピュータへの入力を促し、当該データをデータベース化し、
b)目的に応じて予め設定された相互作用のもと、上記データベースを用いて経路積分を計算し、
c)指揮者に対し、上記経路積分の計算結果に基づいて施策遂行の効果または意思決定の結果の有効性に対する評価関数値を表示し、
d)指揮者に対し、上記相互作用に付加項、摂動等を与えた場合または実行主体を交代させた場合の結果を表示し、施策オプションの選択を促し、
e)上記選択された施策に関連付けられた期待値、パラメータ敏感性、初期値依存性情報等を読み出して指揮者に対して出力するようにしたことを特徴とする施策・意思決定支援システム。
【請求項7】
コンピュータを用いて実行主体および指揮者の少なくとも一つとの間で施策決定または意思決定の支援を行う施策・意思決定支援システムであって、
a)指揮者に対し、将来のマイルストーンを含む、施策の希望将来価値の値を設定しコンピュータへ入力するよう促し、当該値をデータベース化し、
b)目的に応じて予め設定された相互作用のもと、上記データベースを用いて経路積分を計算し、
c)実行主体に対し、上記経路積分の計算結果に基づいて施策遂行の効果または意思決定の結果の有効性に対する評価関数値を表示し、
d)各実行主体の管理可能データに付加項、摂動等を与えた場合の結果を表示し、実行主体に対し、実行オプションの選択を促し、
e)上記選択された施策に関連付けられた期待値、パラメーター敏感性、初期値依存性情報等を読み出して実行主体に対して出力するようにしたことを特徴とする施策・意思決定支援システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−293501(P2007−293501A)
【公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−119227(P2006−119227)
【出願日】平成18年4月24日(2006.4.24)
【出願人】(504173471)国立大学法人 北海道大学 (971)