説明

施肥制御装置及び施肥制御プログラム

【課題】作物の生育状態に応じた施肥量の管理を簡便且つ適切に行うことが可能な施肥制御装置及び施肥制御プログラムを提供する。
【解決手段】本発明に係る施肥制御装置50及び施肥制御プログラムによれば、作物1の定植日からの経過日数に応じて変化する施肥量データ列Dに基づいてその日の施肥量の設定を行う。また、作業者が入力する生育アシスト情報により施肥量データ列Dと実際に栽培している作物1の生育状態のズレを修正する。これにより、養液栽培における施肥量の管理を簡便且つ適切に行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、養液栽培における施肥の管理を行う施肥制御装置及び施肥制御プログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
養液栽培とは、作物を肥料成分を含んだ養液で栽培する土壌を使用しない栽培方法である。この養液に肥料を施用する施肥管理法としては、大きく分けて濃度管理法と量的管理法とが存在する。濃度管理法とは養液中の肥料成分の濃度で施肥量を管理する最も一般的な管理法である。ここで、下記[特許文献1]では、複数の養液栽培槽を濃度管理法で管理する養液栽培装置に関する発明が開示されている。
【0003】
また、量的管理法とは肥料成分を必要な量だけ施用するものであり、常にある程度の濃度で全ての肥料成分を養液中に含有する濃度管理法と異なり、作物の生育状態に応じてより積極的に施肥量を制御することができる。このため、濃度管理法と比較して作物の生育コントロールが行い易く、収穫量の増加や高品質化、及び肥料の節約によるコストダウンが期待できる管理法である。尚、量的管理法には全ての肥料成分をそれぞれ量的管理する手法と、一部の肥料成分のみを量的管理する分施法とに分けられる。後者の分施法は、量的管理されないその他の肥料成分については濃度管理法で管理されるのが一般的である。このため、分施法は量的管理法と濃度管理法とが混在する複合的な施肥管理法といえる。尚、ここでの施肥量とは、量的管理における肥料量はもとより濃度管理における肥料濃度をも含むものとする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−75586号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の量的管理法であれ濃度管理法であれ、基本的にある程度の生育段階までは作物の生育に応じて施肥量を増加させることが好ましい。しかしながら、施肥量を作物の生育状態に応じてその都度変化させることは煩雑な作業である。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、作物の生育状態に応じた施肥量の管理を簡便且つ適切に行うことが可能な施肥制御装置及び施肥制御プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、
(1)養液栽培槽10への施肥を管理する施肥制御装置50において、
作物1を養液栽培槽10へ定植した日からの経過日数と当該作物1の生育指標とに対応した複数のステップで構成される施肥量データ列Dと、
作物1の生育状態を示す生育アシスト情報を入力可能な入力部34と、
前記施肥量データ列Dに基づいてその日の施肥量を設定する施肥量設定部36と、を備え、
施肥量設定部36は、生育アシスト情報が入力された場合に当該生育アシスト情報と前記生育指標とが一致するステップに移行し、その後の施肥量を設定することを特徴とする施肥制御装置50を提供することにより、上記課題を解決する。
(2)作物1がトマト類であり、
前記作物1の花房を根本側から順に第1段花房、第2段花房、・・第n段花房としたときに、生育アシスト情報が第n段花房が開花したことを示す情報もしくは第n段花房に実が着いたことを示す情報であることを特徴とする上記(1)記載の施肥制御装置50を提供することにより、上記課題を解決する。
(3)養液栽培槽10への施肥を管理する施肥制御プログラムにおいて、
作物1を養液栽培槽10へ定植した日からの経過日数と当該作物1の生育指標とに対応した複数のステップで構成される施肥量データ列Dに基づいて、その日の施肥量を設定する手順と、
作物1の生育状態を示す生育アシスト情報が入力された場合に当該生育アシスト情報と前記生育指標とが一致するステップへ移行しその後の施肥量を設定する手順と、
をコンピュータに実行させることを特徴とする施肥制御プログラムを提供することにより、上記課題を解決する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、養液栽培における施肥量の管理を簡便且つ適切に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明に係る施肥制御装置のブロック図である。
【図2】本発明に係る施肥量データ列の例を示す図である。
【図3】本発明に係る比例施用の時刻範囲の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明に係る施肥制御装置及び施肥制御プログラムについて図面に基づいて説明する。図1に示す本発明に係る施肥制御装置50は、作物1を養液栽培する養液栽培システム100の一部を構成し、養液栽培槽10に供給する養液中の施肥量を管理するものである。そして、施肥制御装置50は、作物1を養液栽培槽10に定植してからの経過日数をカウントするカウンタ部30と、作物1の定植日からの経過日数と作物1の生育指標とに対応した複数のステップで構成されその日の施肥量の設定の基となる施肥量データ列Dと、この施肥量データ列Dが記録されているハードディスクや半導体メモリ等の記録部32と、作物1の生育状態を示す生育アシスト情報やその他の情報、及び装置設定等を入力可能な入力部34と、施肥量データ列Dに基づいてその日の施肥量を設定する施肥量設定部36と、施肥量設定部36の設定に応じた施肥量の養液を調製し養液栽培槽10に供給する施肥制御部38と、養液のpHを所定の範囲内に制御するpH制御部60と、養液の液温を所定の範囲内に制御する温度制御部70と、を有している。尚、養液は養液栽培槽10と養液調製タンク20とを循環していることから、ここでの施肥とは養液調製タンク20内の養液へ肥料成分を投入することを指す。
【0011】
次に、本発明に係る施肥制御装置50及び施肥制御プログラムの動作を養液栽培システム100の各部の動作とともに説明する。尚、図1に示す養液栽培システム100は、養液栽培槽10の余剰な養液を養液調製タンク20へ還流するとともに、一部の肥料成分、例えば窒素成分を量的管理し、その他の肥料成分を濃度管理する分施法の例を示している。無論、本発明に係る施肥制御装置50及び施肥制御プログラムはこの構成に限定されるものではなく、例えば、全ての肥料成分を量的管理するシステムや、全ての肥料成分を濃度管理するシステム、余剰な養液を排水する掛け流し式のシステムにも適用が可能である。
【0012】
先ず、第1肥料原液タンク22に量的管理する肥料成分と用水(水道水、井水、農業用水など)を投入し所定の濃度の肥料原液aを調製する。次に、作業者は入力部34を用いて肥料原液aの濃度情報を施肥制御装置50に入力する。入力部34としてはタッチパネルやテンキー等の周知の入力手段を用いることができる。施肥制御装置50は入力された濃度情報を内部メモリ等に記録する。尚、量的管理する肥料成分が複数の場合には基本的に肥料成分毎に肥料原液タンクを設け、それぞれの肥料成分の肥料原液を各々の肥料原液タンクで個別に調製する。そして、各肥料原液の濃度情報を内部メモリ等に記録する。
【0013】
また、第2肥料原液タンク23に用水と濃度管理する複数の肥料成分を適切な割合で投入し、複数の肥料成分が所定の割合で混合した肥料原液bを調製する。尚、濃度管理用の肥料原液bを複数に分けて調製する場合には、第2肥料原液タンク23を複数設置しても良い。
【0014】
次に、作業者は養液栽培槽10に作物1(苗)を所定の株数、定植する。尚、養液栽培槽10には遮光性の蓋12が被せられ、養液栽培槽10内の養液の蒸発を防止する。また、図1では作物1を養液のみで栽培する例を示しているが、養液栽培槽10には椰子、ピートモス等の有機培地やロックウール等を敷いて養液栽培を行っても良い。次に、作業者は定植した作物1の総数である総栽培株数を施肥制御装置50に入力する。施肥制御装置50は入力された総栽培株数を内部メモリ等に記録する。次に、作業者は作物1を養液栽培槽10に定植したことを施肥制御装置50に入力する。これにより、カウンタ部30が経過日数のカウントを開始する。
【0015】
翌日になると、カウンタ部30は経過日数を1日とする。カウンタ部30の経過日数が変化すると、施肥制御装置50の施肥量設定部36は記録部32に記録されている施肥量データ列Dのうちから経過日数と対応するステップの施肥量データを参照する。ここでは、経過日数が1日であるから経過日数1日と対応するステップNo.1の施肥量データを参照する。
【0016】
ここで、記録部32に記録されている施肥量データ列Dの例を図2に示す。図2に示す施肥量データ列Dのうち、A列がステップを示し作物1の定植日からの経過日数とほぼ対応する。また、B列が作物1の生育指標を示す。ここでは、トマト類、即ち各品種のトマト(大玉トマト、中玉トマト)、及びミニトマトの生育指標を例に示す。トマト類では通常、7〜8枚の葉をつけた後に第1の花房を着け、その後は葉約3枚ごとに第2、第3の花房を順次着けながら生育して行く。そして、第1の花房から順に開花し、実を付ける。トマト類ではこの花房の開花もしくは花房に実をつけた着果が、施肥量を管理する上での最も適した生育指標となる。よって、トマト類の例ではB列の生育指標は作物1の花房を根本側から順に第1段花房、第2段花房、・・第n段花房と数え、何段目の花房が開花もしくは着果したかを示すものが好ましい。図2の例では、B列が“0”の場合には第1段花房が未開花であることを示し、“1”の場合には第1段花房が開花であることを示している。尚、花房の開花の判断は、花房の蕾が概ね開花した時点としても良いが、花房の開花が開始した時点とすることが好ましい。
【0017】
施肥量データ列DのC列は量的管理する肥料成分の作物1株当たりの施肥量である。この施肥量は栽培試験により予め取得されたものである。尚、量的管理する肥料成分が複数の場合にはC列はその分だけ増加する。
【0018】
施肥量データ列DのD列は濃度管理する肥料成分の設定濃度を示す。このD列は全ての肥料成分を量的管理する場合や設定濃度が全栽培期間に亘って固定している場合には特に設ける必要は無い。尚、肥料成分の濃度管理は、肥料濃度の増減に伴って変化する養液の電気伝導度(EC値)に基づいて行われるのが一般的である。よって、施肥量データ列DのD列の数値は目標とする養液のEC値(mS/cm:ミリジーメンスパーセンチメートル)を示している。
【0019】
また、施肥量データ列DのE列は後述する比例施用時の作物1株当たりの施肥量である。このE列も量的管理する肥料成分が複数の場合にはその分だけ増加する。尚、比例施用時の施肥量データは必ずしも施肥量データ列Dに記載する必要は無く、比例施用専用の施肥量データ列に分割して設定しても良い。この構成によれば、施肥量データ列Dのデータ量を削減することができる。
【0020】
次に、施肥量設定部36は参照したステップNo.1の施肥量データに基づいて、経過日数1日目の量的管理施肥の施肥量を2mg/株に、濃度管理施肥の施肥量をEC値0.8に設定する。そして、これら設定値を施肥制御部38に出力する。施肥制御部38は施肥量設定部36の設定に応じた施肥を行い、設定した肥料量の養液を養液調製タンク20に調製する。尚、量的管理施肥は例えば日の出時刻等の予め設定された時刻に行われる。よって、通常は濃度管理施肥が先に行われる。施肥制御部38による濃度管理施肥は例えば次のようにして行う。
【0021】
先ず、養液調製タンク20内の養液が最低水位を満たしていない場合、施肥制御部38は用水管の電磁弁40を開け養液調製タンク20に用水を補水する。尚、養液調製タンク20には水位計24が設置されており、施肥制御部38はこの水位計24により養液調製タンク20内の養液の量を認識することができる。電磁弁40が開いて用水が養液調製タンク20に補水されると養液の水位が上昇する。そして養液の水位が規定水位を満たしたことを水位計24が示すと、施肥制御部38は電磁弁40を閉じ補水を停止する。尚、用水の供給管には流量計28が設置されており、用水の補水量を計測することができる。この補水量は後述の比例施肥時に使用する。
【0022】
次に、施肥制御部38は第2肥料原液タンク23に設置された液送ポンプ23pを動作させ、濃度管理用の肥料原液bを養液調製タンク20に施用する。これにより、養液調製タンク20内の養液の肥料濃度が上昇し、これに伴って養液のEC値も上昇する。養液調製タンク20にはECセンサ26が設置されており養液のEC値情報を随時、施肥制御部38に出力する。施肥制御部38はECセンサ26からのEC値情報により養液のEC値が設定値である0.8となったところで液送ポンプ23pの動作を停止する。これにより、養液調製タンク20内の養液の肥料濃度は施肥量設定部36で設定されたEC値0.8の濃度に調製される。尚、養液調製タンク20内には図示しない撹拌手段が設置され、養液は十分に撹拌される。
【0023】
また、養液調製タンク20にはpHセンサ62が設置されており、養液調製タンク20内の養液のpH値情報をpH制御部60に出力する。pH制御部60はpHセンサ62からのpH値情報を受けて、酸性のpH調整液が入ったpH調整液タンク64の液送ポンプ64pもしくは、アルカリ性のpH調整液が入ったpH調整液タンク65の液送ポンプ65pを適宜動作させる。これにより酸性もしくはアルカリ性のpH調整液を養液中に供給し、養液のpH値を予め設定された適切な範囲内に制御する。
【0024】
また、養液調製タンク20には温度センサ72が設置されており、養液調製タンク20内の養液の温度を温度制御部70に出力する。温度制御部70は温度センサ72からの養液温度の情報を受けて、養液温度が予め設定された温度範囲よりも低い場合には液温制御ユニット74を加温動作させる。これにより、温水が養液調製タンク20内に設置された熱交換器76内を循環して、養液の加温が行われる。また、温度制御部70は養液温度が予め設定された温度範囲よりも高い場合には、液温制御ユニット74を冷却動作させる。これにより、冷水が熱交換器76内を循環して、養液の冷却が行われる。このpH制御部60によるpH管理及び、温度制御部70による液温管理は施肥制御装置50の動作中は基本的に継続して行われる。
【0025】
また、施肥制御部38は養液ポンプ20pを動作させ、養液調製タンク20内の養液を養液栽培槽10へ間欠的に供給する。尚、養液栽培槽10は複数でも構わない。養液栽培槽10への養液の供給は、養液栽培槽10が養液のみの場合には基本的に昼夜を問わず作物1の栽培期間中は継続して行われる。また、養液栽培槽10に培地が敷いてある場合には、通常日中に行われる。そして、養液栽培槽10に余剰な養液が生じた場合、この余剰な養液は還流流路Rを通して養液調製タンク20に還流する。
【0026】
養液栽培槽10への供給や作物1による吸収蒸散等により養液の量が減少すると、養液調製タンク20内の水位が低下する。そして養液の水位が最低水位を下回ると、施肥制御部38は電磁弁40を開けて養液の水位が規定水位となるまで用水を補水する。そして、前述の施肥制御部38による濃度管理施肥、pH制御部60によるpH管理、温度制御部70による液温管理が行われる。
【0027】
次に、施肥制御部38による量的管理施肥に関して説明する。先ず、施肥制御部38は施肥量設定部36が設定した量的管理施肥の施肥量と、先に入力された作物1の総栽培株数とからその日に施用する施肥量を算出する。次に、先に入力された量的管理施肥用の肥料原液aの濃度情報から養液調製タンク20内に供給すべき肥料原液aの施用量を算出する。例えば、総栽培株数が3000株で、肥料原液aの濃度が1wt%であれば、ステップNo.1の量的管理施肥の施肥量は2mg/株であるから、
施用する施肥量(g)は 0.002×3000(株)=6g
肥料原液aの施用量は 6(g)/0.01(wt%)=600g≒600cc となる。
【0028】
次に、施肥制御部38は予め設定された時刻、例えば日の出時刻前後になると、第1肥料原液タンク22に設置された液送ポンプ22pを動作させ、肥料原液aを養液調製タンク20に施用する。肥料原液aの施用量は流量計22qにより施肥制御部38に出力される。施肥制御部38は流量計22qからの施用量が、先に算出されたその日の施用量となったところで液送ポンプ22pの動作を停止する。これにより、養液調製タンク20の養液に量的管理される肥料成分がその日の施用量分、投入される。尚、この量的管理施肥は1度に全量行っても良いし、複数回に分けて行っても良い。ただし、夜間は作物1の吸収蒸散量が減少するため、量的管理施肥は午前中もしくは15:00前後までに終了することが好ましい。
【0029】
この量的管理施肥により養液全体の肥料濃度は上昇し、養液のEC値が先の設定値0.8より大きくなる可能性がある。しかしながら、施肥制御部38は基本的に希釈動作は行わない。また、量的管理施肥直後に用水が補水されるタイミングでは、量的管理施肥の肥料濃度と濃度管理施肥の肥料濃度とが合算されて濃度管理されることとなる。しかしながら、この点は誤差範囲として許容する。また、このような誤差を低減するために、量的管理施肥前に、用水の補水と濃度管理施肥とを必ず行うような構成としても良い。
【0030】
養液調製タンク20内で調製される養液の量は、養液栽培槽10への1日の供給量及び養液栽培槽10の容量等から適切に設定され、養液調製タンク20へ投入された量的管理の肥料成分は当日中にほぼ全量が養液栽培槽10へ施用され、作物1により消費される。尚、養液調製タンク20は最低水位以下にはならないが、通常1日に複数回の補水が行われるためここでの残留分は無視して良い。
【0031】
翌日になると、カウンタ部30は経過日数を2日とする。そして、施肥量設定部36は施肥量データ列Dのうちから経過日数2日と対応するステップNo.2の施肥量データを参照し、同様に量的管理施肥と濃度管理施肥とを行う。このようにして、施肥制御装置50は、カウンタ部30のカウントする経過日数と対応するステップの施肥量データを参照し、量的管理施肥と濃度管理施肥とを行っていく。
【0032】
尚、施肥制御装置50では作物1の草勢情報を入力することができる。草勢情報は作業者が作物1の生育状況を確認して入力するものであり、作物1の茎葉の状態が通常よりも強勢の場合には例えば「強勢」と入力する。草勢情報で強勢が入力された場合、施肥量設定部36は参照した施肥量データの量的管理の施肥量及び、濃度管理の施肥量のいずれか一方もしくは双方から予め設定された割合を減算して施肥量の設定を行う。例えば、強勢時には量的管理の施肥量に0.85(−15%)を乗算した値を量的管理の施肥量とする。反対に、作物1の茎葉の状態が通常よりも弱勢の場合には例えば「弱勢」と入力する。草勢情報で弱勢が入力されると、施肥量設定部36は参照した施肥量データの量的管理の施肥量及び、濃度管理の施肥量のいずれか一方もしくは双方から予め設定された割合を加算して施肥量の設定を行う。例えば、弱勢時には量的管理の施肥量に1.30(+30%)を乗算した値を量的管理の施肥量とする。この草勢情報の入力により施肥量の微調整が可能となり作物1の生育をより細かにコントロールすることができる。尚、草勢情報による施肥量の補正は、基本的に次の草勢情報の入力もしくは草勢情報の解除が行われるまで継続して適用される。また、草勢情報は強勢、弱勢、解除(通常)の3段階に限定されるものではなく、さらに多段階としても良い。
【0033】
次に、作物1の生育が進み、例えば経過日数18日目にほとんどの作物1の第1段花房が開花したとする。この花房の開花や着果は作業者が判断する。その際の判断は基準木もしくは養液栽培槽10で栽培されている作物1全体の生育状況を見て行う。作業者は作物1の第1段花房が開花したと判断すると、入力部34を用いて第1段花房開花の生育アシスト情報を施肥制御装置50に入力する。施肥量設定部36は第1段花房開花の生育アシスト情報が入力されると、翌日の施肥量データの設定をカウンタ部30の経過日数によらず入力された生育アシスト情報と生育指標とが一致する施肥量データに移行して行う。図2の例では、ステップNo.20の生育指標が第1段花房未開花を示す“0”であり、ステップNo.21の生育指標が第1段花房開花を示す“1”であるから、ステップNo.21の施肥量データに移行して翌日の施肥量の設定を行う。そしてその後は、ステップNo.21を基準とした経過日数で施肥量データを参照し施肥量の設定を行う。例えば、基準であるステップNo.21を参照して施肥を行った翌日は、ステップNo.21から1日が経過したステップNo.22を参照して施肥量の設定を行う。
【0034】
反対に作物1の生育が遅く、ステップNo.21即ち経過日数が21日を過ぎても第1段花房が開花せず、第1段花房開花の生育アシスト情報が入力できない場合を考える。この場合、以下の手法が考えられる。先ず第1の手法は、第1段花房開花の生育アシスト情報が入力されるまで、ステップNo.20即ち第1段花房開花前の施肥量データを基に施肥量の設定を行うものである。この構成によれば、実際の作物1の生育状態に則した施肥管理を行うことができる。第2の手法は、生育アシスト情報の入力を待たずに次のステップに移行するものである。この場合、第1段花房開花の生育アシスト情報が入力されなくとも、ステップNo.21、ステップNo.22、・・・と経過日数に応じてステップが進行する。この構成によれば、作業者が生育アシスト情報の入力を忘れた場合でも作物1への施肥量の不足を防止することができる。第3の手法は、第1の手法と第2の手法を組む合わせ、予め設定された期間、例えば5日間は第1の手法をとって生育アシスト情報が入力されるまでステップの進行を止め、5日間が過ぎても生育アシスト情報が入力されない場合には、第2の手法をとってステップNo.21ステップNo.22、・・・と経過日数に応じてステップを進行させるものである。この構成によれば、第1の手法と第2の手法の双方の利点を取り入れることができる。尚、上記の手法は、施肥制御装置50への設定操作により作業者が選択可能とすることが好ましい。
【0035】
以上のようにして、作業者は第n段花房が開花すると第n段花房が開花したことを示す生育アシスト情報を入力する。そして、施肥量設定部36は入力された生育アシスト情報と生育指標とが一致するステップの施肥量データに移行して、その後の施肥量の設定を行う。この生育アシスト情報の入力により、施肥量データ列Dと実際に栽培している作物1の生育状態のズレを修正することができる。
【0036】
次に、比例施用に関して説明する。本例では作物1の収穫開始前には比例施用は行わず、収穫開始から比例施用を行う例を説明する。これは、特にトマト類の場合に適した施用方法である。無論、作物1の定植直後から比例施用を行っても構わないし、収穫開始後も全く行わなくとも良い。
【0037】
作業者は作物1の収穫を開始すると、収穫開始を示す生育アシスト情報を入力する。施肥量設定部36は収穫開始を示す生育アシスト情報が入力されると、収穫開始の生育指標を有するステップの施肥量データに移行して施肥量の設定を行う。図2においては、便宜的に“99”が収穫開始を示す生育指標とする。よって、施肥量設定部36はステップNo.85の施肥量データに移行して量的管理の施肥量を24mg/株に、濃度管理の施肥量をEC値2.5に設定する。また、比例施用の作物1株当たりの施肥量を7mg/株に設定する。そして、施肥制御部38は前述したようにEC値2.5となるように濃度管理施肥を行う。そして、設定時刻になった時点で施肥量を24mg/株の施肥量で量的管理施肥を行う。
【0038】
次に、施肥制御装置50は、作物1による養液の吸収蒸散量に応じて比例施肥を行う。ここでは、吸収蒸散量を取得する方法として用水の補水量を用いる。尚、吸収蒸散量は日射量から間接的に取得しても良い。前述のように作物1が養液を吸収蒸散すると養液調製タンク20内の養液の量が減少する。そして最低水位を下回ると施肥制御部38は用水の補水を行う。このときの補水量は流量計28が計測し施肥制御部38に出力する。施肥制御部38は補水量が予め設定された補水量に達すると、施肥量設定部36で設定された施肥量の比例施用を行う。例えば、比例施用を行う補水量を0.5L/株と設定した場合、総栽培株数3000株では補水量1500L毎に比例施用を行う。そのときの施肥量はステップNo.85の施肥量データから7mg/株である。よって、
比例施用の施肥量(g)は 0.007×3000(株)=21g
肥料原液aの施用量は 21(g)/0.01(wt%)=2100g≒2.1L となる。
従ってこの場合には、1500Lの補水が行われる度に、肥料原液a 2.1Lの比例施用が行われる。ただし、夜間は作物1の吸収蒸散量が減少するため、夕刻に比例施用を行うとその肥料成分が翌日まで養液調製タンク20内に残留する可能性がある。よって、比例施用は予め設定された、例えば図3に示すように月単位で設定された時刻範囲内に行うことが好ましい。この場合、5月には時刻範囲である12:00を過ぎた時点で補水量が1500Lを超えたとしても比例施用は行われない。この比例施用の時刻範囲の設定は月単位でなくとも、季節単位、週単位、日単位で設定可能としても良い。
【0039】
また、過度の施肥は作物1に対し悪影響を及ぼす可能性がある。よって、1日の初めに行われる量的管理施肥を基底施用とすると、基底施用と比例施用の合計には上限値を設定することが好ましい。例えば、量的管理施肥の上限施肥量を45mg/株とした場合、基底施用と比例施用との合計の施肥量が
0.045×3000(株)=135g
を超えた場合には、比例施用の可能な時間内であっても比例施用は行わない。尚、上限施肥量は施肥制御装置50のメモリ等に予め記録しておいても良いし、作業者が定植の際に直接入力するようにしても良い。また、施肥量データ列Dが上限施肥量のデータを備えていても良い。この構成によれば、経過日数や作物1の生育指標に応じて上限施肥量も変化させることが可能となる。
【0040】
作物1の収穫期間が終了し作物1の栽培が終了すると、作業者は施肥制御装置50の施肥管理動作を終了する。この時、作物1の栽培期間中に入力された生育アシスト情報を施肥量データ列Dに反映しても良い。例えば、量的管理施肥及び濃度管理施肥の日々の施肥量と、生育アシスト情報が入力されたステップNo.とを新たな施肥量データ列Dとしてメモリ等に記録しておき、次回の栽培時にはこの新たな施肥量データ列Dを用いて作物1の養液栽培を行うようにしても良い。また、複数回栽培を行ってその平均的な施肥量データを新たな施肥量データ列Dとして用いても良い。またさらに、極めて良好な収穫が得られた時の施肥量データを新たな施肥量データ列Dとして登録可能としても良い。これらの構成によれば、養液栽培システム100の設置場所に則したより優れた施肥量データ列Dにより施肥管理を行うことができる。
【0041】
尚、図2の施肥量データ列Dでは経過日数1日ごとに1ステップとしたが、複数日、例えば2日毎、3日毎で1ステップとしても良い。また、施肥量データが等しい連続したステップをまとめて1つのステップとしても良い。これらの構成によれば施肥量データ列Dのデータ量を削減することができる。
【0042】
以上のように、本発明に係る施肥制御装置50及び施肥制御プログラムによれば、作物1の定植日からの経過日数に応じて変化する施肥量データ列Dに基づいてその日の施肥量の設定を行う。また、作業者が入力する生育アシスト情報により施肥量データ列Dと実際に栽培している作物1の生育状態のズレを修正する。これにより、養液栽培における施肥量の管理を簡便且つ適切に行うことができる。また、草勢情報を入力することにより施肥量の微調整が可能となり作物1の生育をより細かにコントロールすることができる。
【0043】
尚、上記の施肥制御装置50は一例であるから、各部の構成、動作、手順等は特にこれに限定されるものではなく、本発明は本発明の要旨を逸脱しない範囲で変更して実施することが可能である。
【符号の説明】
【0044】
1 作物
10 養液栽培槽
34 入力部
36 施肥量設定部
38 施肥制御部
50 施肥制御装置
D 施肥量データ列

【特許請求の範囲】
【請求項1】
養液栽培槽への施肥を管理する施肥制御装置において、
作物を養液栽培槽へ定植した日からの経過日数と当該作物の生育指標とに対応した複数のステップで構成される施肥量データ列と、
作物の生育状態を示す生育アシスト情報を入力可能な入力部と、
前記施肥量データ列に基づいてその日の施肥量を設定する施肥量設定部と、を備え、
施肥量設定部は、生育アシスト情報が入力された場合に当該生育アシスト情報と前記生育指標とが一致するステップに移行し、その後の施肥量を設定することを特徴とする施肥制御装置。
【請求項2】
作物がトマト類であり、
前記作物の花房を根本側から順に第1段花房、第2段花房、・・第n段花房としたときに、
生育アシスト情報が第n段花房が開花したことを示す情報もしくは第n段花房に実が着いたことを示す情報であることを特徴とする請求項1記載の施肥制御装置。
【請求項3】
養液栽培槽への施肥を管理する施肥制御プログラムにおいて、
作物を養液栽培槽へ定植した日からの経過日数と当該作物の生育指標とに対応した複数のステップで構成される施肥量データ列に基づいて、その日の施肥量を設定する手順と、
作物の生育状態を示す生育アシスト情報が入力された場合に当該生育アシスト情報と前記生育指標とが一致するステップへ移行しその後の施肥量を設定する手順と、
をコンピュータに実行させることを特徴とする施肥制御プログラム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2012−179006(P2012−179006A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−44006(P2011−44006)
【出願日】平成23年3月1日(2011.3.1)
【出願人】(000104227)カネコ種苗株式会社 (1)
【Fターム(参考)】