説明

日回し車構造体及びこれを備えた時計

【課題】日送り不良の生じる虞れの低減された日回し車構造体及びこれを備えた時計の提供。
【解決手段】時計2の日回し車構造体1は、時計の中心部R1から離れた部位R2において地板10に回転自在に支持されたハブ部50と、該ハブ部から周方向に湾曲して延びた湾曲アーム部及び該湾曲アーム部の先端部に形成され日車の歯に係合する日回し用係合爪部を備えた日回しアーム部70と、ハブ部と一体的な円板状の板本体部61及び該板本体部の外周に形成された歯車部分62を備えた日回し歯車部60とを有する。日回しアーム部70が、地板に対面する側面に地板の対向面に向かって突出した日回しアーム側部突起部75を備え、板本体部61が複数の板ばね状アーム部80A,80Bを備え、板ばね状アーム部が基端部で板本体部に一体的に接続され、先端部に地板に向かって突出した厚さ方向位置規正用突起部84A,84Bを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、日回し車構造体及びこれを備えた時計に係る。
【背景技術】
【0002】
日車をまわす日回し車は、24時間に一回転することから、該日回し車に時刻表示針をつけて、該日回し車を24時車(以下では、「24時間車」ともいう)としても働かせることは知られている。
【0003】
例えば、図4の(a)及び(b)に示したように、筒車110の回転に応じて日回し中間車112を介して回転され日回し爪122によって日車130を回転させる日回し車120についてその真124に24時間針126を取付けて日回し車120自体を24時車として働かせるようにした時計101は知られている。
【0004】
しかしながら、日回し車120は、筒車(時車)110の如き通常の時刻表示車と異なり、時計の中心部Cから離れた周縁部(外縁部)に位置し、且つ通常の時刻表示車110等と異なり時針や分針や秒針の如き時刻表示指針が取付けられることを通常は想定していないことから、輪列受の如き受106の補助なくして地板102のみによってその回転中心軸ないし真124が支持されるので、該回転中心軸124が安定に支持され難い虞れがある。すなわち、日回し車120の日回し真124の場合、該回転中心軸124が地板102の延在面に対して垂直には支持され難かったり、軸方向の隙間や径方向の隙間が製造公差の故に大きくなると該回転中心軸124が多少なりとも傾動されて24時針126が文字板に対して斜めになる針アオリが生じる虞れもある。また、日車130の薄型化が図られる場合、日回し車120の回転中心軸124が揺動すると、日回し爪部122が日車130の歯132から外れて日送りが不良になる虞れもあり得る。
【0005】
なお、筒車について、そのアオリを低減させるべくその平板状歯車部の本体部に複数のばね部を形成することは提案されている(特許文献1や2)。しかしながら、この特許文献1や2のような筒車は時計の周縁部に配置される日回し車とは異なり、元々、支持手段を厚さ方向に配置する余地があり、通常は時計の中心部で地板及び受により(分車や秒車を介して)安定に支持され得る。また、元々ばね部のない筒車等にばね部を追加することは、該筒車の平板状歯車部の本体部に追加するばね部の分だけ厚さを増加させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−2868号公報
【特許文献2】実願昭53−174758号(実開昭55−94585号)のマイクロフィルム。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は前記諸点に鑑みなされたものであって、その目的とするところは、日送り不良の生じる虞れの低減された日回し車構造体及びこれを備えた時計を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の日回し車構造体は、前記目的を達成すべく、時計の中心部から離れた部位において地板に回転自在に支持されたハブ部と、該ハブ部から周方向に湾曲して延びた湾曲アーム部及び該湾曲アーム部の先端部に形成され日車の歯に係合する日回し用係合爪部を備えた日回しアーム部と、前記ハブ部と一体的な円板状の板本体部及び該板本体部の外周に形成された歯車部分を備えた日回し歯車部とを有する日回し車構造体であって、前記日回しアーム部が、地板に対面する側面に地板の対向面に向かって突出した日回しアーム側部突起部を備え、前記板本体部が複数の板ばね状アーム部を備え、板ばね状アーム部が基端部で板本体部に一体的に接続され、先端部に地板に向かって突出した厚さ方向位置規正用突起部を備える。
【0009】
本発明の日回し車構造体では、「日回しアーム部が、地板に対面する側面に地板の対向面に向かって突出した日回しアーム側部突起部を備え、前記板本体部が複数の板ばね状アーム部を備え、板ばね状アーム部が基端部で板本体部に一体的に接続され、先端部に地板に向かって突出した厚さ方向位置規正用突起部を備える」ので、円板状の板本体部が、地板に対して実際上平行に延在するように、日回しアーム側部突起部及び厚さ方向位置規正用突起部によって支持され得る。ここで、日回しアーム部は、元々、ハブ部から周方向に湾曲して延びた湾曲アーム部の形態を有するので、日回し車構造体の板本体部が複数の板ばね状アーム部を備えることによって、全体として少なくとも三つのアーム状ばね部を有することになる。
【0010】
また、実際上アーム状ばね部の形態の日回しアーム部のうち地板に対面する側面に地板の対向面に向かって突出した日回しアーム側部突起部が形成され、且つ複数の板ばね状アーム部の先端部に地板に向かって突出した厚さ方向位置規正用突起部が形成されているので、結果として、少なくとも三つのアーム状ばね部の夫々に地板に向かって突出した突起部(日回しアーム側部突起部及び複数(少なくとも二つ)の厚さ方向位置規正用突起部)を備えることになる。従って、本発明の日回し車構造体では、本来ある日回しアーム部のアーム状ばね弾性を、時計の厚さ方向にも活用して、別のアーム状ばね部(板ばね状アーム部)と協働して、日回し車構造体のアオリを最低限に抑える。すなわち、日回し車構造体は、時計の外延部ないし周縁部に沿って回転する日車の歯部と係合することから必然的に時計の中心部(通常時刻表示針が配置され、且つ回転自在に支持される領域)から離れたところで、輪列受の如き受部材の助けなく地板のみによって回転中心軸が支持されることから、不安定になり易いけれども、本発明の日回し車構造体では、日回しアーム部のばね弾性及び少なくとの二つの別のアーム状ばね部(板ばね状アーム部)のばね弾性により、日回し車構造体の板本体部が、地板の延在面に平行になるようにアオリが最低限に抑えられた状態で安定に支持され得る。
【0011】
本発明の日回し車構造体では、典型的には、日回し車本体部が前記板ばね状アーム部を二つ有し、二つの板ばね状アーム部の二つの厚さ方向位置規正用突起部が日回し車構造体の回転中心から等距離のところに位置している。
【0012】
その場合、二つの厚さ方向位置規正用突起部が同程度の支持を与え得るから、日回し車構造体の板本体部が地板の延在面に平行になるようにアオリが最低限に抑えられた状態で安定に支持され易い。
【0013】
本発明の日回し車構造体では、典型的には、日回しアーム部の日回しアーム側部突起部及び二つの板ばね状アーム部の二つの厚さ方向位置規正用突起部が、日回し車構造体の回転中心から等距離のところにおいて、周方向に実際上等間隔に配置されている。
【0014】
その場合、日回し車構造体の板状本体部が、周方向に実際上等間隔に配置された三つの突起部(日回しアーム側部突起部及び二つの厚さ方向位置規正用突起部)によって地板に対して支持される(120度間隔で三点支持される)ので、平面を規定する状態で安定に支持され得る。
【0015】
日回しアーム部の湾曲アーム部は日回し用係合爪部で日車の歯に係合して該日車に回転力を付与すべく日回し車構造体の回転中心軸線に垂直な面内で弾性的に撓み得るように構成されることから、時計の厚さ方向に関する日回しアーム部の湾曲アーム部の厚さ(長さないし幅)は、典型的には、板ばね状アーム部の厚さよりも厚い。しかしながら、三つの突起部(日回しアーム側部突起部及び二つの厚さ方向位置規正用突起部)によって地板に対して三点支持する場合には、各突起部が地板に対して弾性的に押付けられる力が実際上同じであることが好ましい。従って、典型的には、日回しアーム部の湾曲アーム部の腕の長さや日回し車構造体の回転中心軸線に垂直な面内での厚さ(径方向の厚さ)が適切に調整ないし設定され、また、板ばね状アーム部の腕の長さ及び日回し車構造体の回転中心軸線の延在方向に関するアーム部の厚さが適切に調整ないし設定される。
【0016】
日回しアーム側部突起部は、典型的には、日回しアーム部の先端部の側面に形成される。その場合、日回しアーム部の湾曲アーム部の先端部までの腕の長さを変えることにより撓みに係る弾性力を変え得る。また、日回しアーム側部突起部が日回しアーム部の先端部(の側面)にあることにより、日回しアーム部の先端部にある日回し用係合爪部の、時計の厚さ方向に関する位置決めも確実に行われ易く、日車の歯が薄くなっても、該日車の歯に、日回し用係合爪部が確実に係合ないし噛合されて日回しを行い得る。従って、日車の薄型化や時計の薄型化も可能になる。
【0017】
本発明の日回し車構造体では、典型的には、各板ばね状アーム部が周方向に関して日回しアーム部と同じ向きに延びている。
【0018】
その場合、回転に対する抵抗のばらつきが低く抑えられて、安定に支持され易い。但し、所望ならば、アーム状ばね部が周方向に関して日回し爪部と反対向きに延びていてもよい。また、アーム状ばね部が複数ある場合には、一部のアーム状ばね部が周方向に関して日回し爪部と同じ向きに延び、残りのアーム状ばね部が周方向に関して日回し爪部と反対向きに延びていてもよい。
【0019】
本発明の日回し車では、典型的には、板ばね状アーム部が、該板ばね状アーム部の先端部の厚さ方向位置規正用突起部と日回し車構造体の回転中心とを結ぶ仮想線に対して直交する向きに延びている。
【0020】
その場合、回転に対する板ばね状アーム部の抵抗が最低限に抑えられて、安定に支持され易い。
【0021】
本発明の日回し車構造体では、典型的には、前記日回しアーム部の日回しアーム側部突起部及び板ばね状アーム部の前記厚さ方向位置規正用突起部が、ドーム状の形状を有する。
【0022】
その場合、突起部(日回しアーム側部突起部及び厚さ方向位置規正用突起部)が地板に押し付けられる弾性力を比較的大きくしても地板から受ける回転抵抗(摩擦)が最低限に抑えられ得る。但し、回転抵抗(摩擦)が過度に大きくならない場合には、他の形状でもよい。なお、日回し車構造体の日回しアーム部や日回し歯車部や板ばね状アーム部は典型的には、樹脂製であり、典型的には、地板と同程度の硬さの材料からなるか地板の方が多少硬い。また、この場合、日回しアーム側部突起部や厚さ方向位置規正用突起部部の夫々は、夫々、実際上一点で地板に当るので、位置決めし易い。但し、所望ならば、日回しアーム側部突起部や各厚さ方向位置規正用突起部部が、ある程度拡がりのある面で、又は間隔をおいた複数箇所で地板に当るようにしてもよい。
【0023】
本発明の日回し車構造体では、典型的には、前記ハブ部が、時計の中心部から離れた部位において地板に回転自在に支持された日回し真に嵌着されている。
【0024】
その場合、日回し真が金属で形成され、ハブ部は板状本体部等と共に樹脂で成形され得る。
【0025】
本発明の日回し車構造体では、典型的には、前記日回し真に取付けられた24時針を有する。
【0026】
その場合、日回し車自体が、24時車として機能する。本発明の日回し車では、アオリが抑制されるので、24時針が傾動して文字板や他の針に係止される虞れが少ない。
【0027】
本発明の時計は、前記目的を達成すべく、上述のような日回し車構造体を備える。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の好ましい一実施例の日回し車構造体を備えた本発明の好ましい一実施例の時計の一部を示した平面説明図(文字板側から見た平面説明図)。
【図2】図1の時計の断面説明図。
【図3】図1の時計の日回し車構造体を拡大して示した平面ないし背面説明図(裏蓋側(地板側)から見た平面(背面)説明図)。
【図4】24時車として機能する従来の日回し車を備えた従来の時計の一部を示したもので、(a)は平面説明図、(b)は断面説明図。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明の好ましい一実施の形態を添付図面に示した好ましい実施例に基づいて説明する。
【実施例】
【0030】
本発明の好ましい一実施例の日回し車構造体1を備えた本発明の好ましい一実施例の時計2は、その一部を図1及び図2に示したように、中心軸線Cのまわりで回転可能な時車22、分車24及び秒車26を中央部ないし中央領域R1に備え、中心軸線Cのまわりで回転可能な日車90を周縁ないし外縁部すなわち周縁ないし外縁領域R2に備える。
【0031】
時計1の支持基板となる地板10は、中央部に開口11を備えると共に、文字板側表面に、中央凹部12や他の凹部13,14等を有する。
【0032】
時車22、分車24及び秒車26は、地板10に加えて輪列受の如き受(図示せず)によって直接的に又は間接的に支持されている。時車(筒車)22の真ないし筒22aには時針22bが取付けられ、分車24の真ないし筒24aには分針24bが取付けられ、秒車26の真26aには秒針26bが取付けられている。6は文字板、7は日車押え、8は中心パイプである。秒車26は小歯車ないし秒かな(図示せず)で中間歯車(図示せず)を介して分車24の歯車部ないし分歯車24cに噛合され、分車24は小歯車ないし分かな24dで中間歯車ないし日の裏車(図示せず)を介して時車(筒車)22の歯車部ないし筒歯車22cに噛合されている。
【0033】
時車22は地板10の中央凹部12内又は該地板10のうち中央凹部12よりも文字板側に配置され、分車24及び秒車26の歯車部は、地板10の中央開口部11よりも裏蓋側に配置されている。
【0034】
地板10の凹部13には、突起部15が形成され、該突起部15には日回し中間車30が回転自在に嵌合されている。なお、その代わりに、日回し中間車30が突状軸部を備え該軸部が地板10の凹部(穴部)に回転自在に支持されるようになっていてもよい。その場合、日回し中間車30の突状軸部のうち日車押え7に対面する側の中心に凹部を形成しておくと共に日車押え7に凸部を形成しておき、該凸部を日回し中間車の凹部に嵌合させて、日回し中間車30を支えるようにしてもよい。日回し中間車30は、歯車部32で筒車22のかな部22dに噛合されている。
【0035】
地板10の凹部14は有底穴部ないし小凹部16を備え、該穴部16には、金属製の軸支持体17が大径基部17aで嵌着され、その小径軸部17bが凹部14を貫通して突出している。大径基部17aと小径軸部17bとの間には、軸支持体17の地板10に対する安定な嵌着及び正確な位置決めをより確実にするためのフランジ状部17cが形成され、軸支持体17は、大径基部17aで地板10の穴部16に嵌着されると共に、フランジ状部17cで凹部14の底壁表面14aないし穴部16の外周表面14aに密接せしめられている。
【0036】
軸支持体17の小径軸部17bには、日回し車構造体1を構成し軸受穴41を備えた金属製の軸部材40が該軸受穴41において中心軸線Aのまわりで回転自在に嵌合されている。小径軸部17bは、軸部材50を軸受穴41で摺動回転自在に支持し得るように、接触領域が低減されるべく中間部が小径化されている。軸部材40は、大径のハブ状部42と、中径部43と、先端の小径軸部44とを有し、大径部42と中径部43との間にフランジ状部45を更に有する。軸受穴41は、軸部材40の大径部42、フランジ状部45及び中径部43内に延びている。
【0037】
日回し車構造体1の金属製軸部材40は、中径軸部43において日車押え7の開口7aに遊嵌され、小径軸部44のうち文字板6から突出した端部46には、24時針ないし24時間針47が取付けられている。
【0038】
日回し車構造体1は、上記の金属製軸部材40に加えて、樹脂製の日回し車本体4を有する。
【0039】
日回し車本体4は、図1及び図2に加えて図3の拡大図からわかるように、中央ハブ部50、板状の日回し歯車部60、並びに日回しアーム部としての日回し爪部70及び板ばね状アーム部としての厚さ方向位置規正ばね部80A,80B(両者を区別しないとき又は総称するときは符号80で表す)を有する。
【0040】
中央ハブ部50は、時計1の厚さ方向Zの厚さが厚い厚肉環状部51の形態で、金属製軸部材40の大径ハブ状部ないし大径軸部42に嵌合される孔部52と金属製軸部材40のフランジ状部45に嵌合される大径孔部53と、軸部42及びフランジ状部45の段差面に当接する段差面54とを有し、該孔部52,53で軸部材40に嵌着されている。このハブ部50の厚さは、凹部14の深さと概ね同程度である。
【0041】
ハブ部50の外周面は、概ね円柱状でありより詳しくはこの例では敢えて表現すれば概ね三角柱状又は六角柱状である。
【0042】
ハブ部50のうち裏蓋側に近接した部位の外周には、板状の日回し歯車部60がその板本体部61の内周縁部61aで一体的に繋がっている。板状日回し歯車部60は、板本体部61の外周縁部に、平歯車の形態の歯車部分62を備え、該歯車部分62で日回し中間車30のかな部33と噛合している。従って、文字板側から見た場合、時車22のC1方向回転に伴って日回し中間車30が中心軸線Bのまわりで反時計回り(B1方向)に回転されると、該日回し中間車30の回転に応じて中心軸線Aのまわりで時計回り(A1方向)に回転される。
【0043】
ハブ部50のうち概ね三角柱状の厚肉環状部51の一側部55から日回しアーム部としての日回し爪部70が円弧状に延設されている。日回し爪部70は、ハブ部50と日回し歯車部60の板本体部61との間に沿って円弧状に延びた湾曲アーム部77を有する。日回し爪部70の湾曲アーム部77のまわりには、該日回し爪部70の変形を許容する円弧状開口63,71が形成されている。開口63と開口71とは、日回し爪部70の先端部72を取囲む開口部73でつながっている。日回しアーム部としての円弧状の日回し爪部70は、その先端部72に日回し用係合爪部としての係合部(係合爪)74を備えると共に、該先端部72のうち地板10に対面する側の表面72aに凹部14の底壁14aに向かって突出した突起部75を備える。日回しアーム側部突起部としての突起部75は、凹部14の底壁14aに軽く押し付けられている。日回し爪部70は、先端部72の係合爪74で日車90の内周の歯91に噛合される。
【0044】
日回しアーム部としての日回し爪部70の湾曲アーム部75は日回し用係合爪部74で日車90の歯91に係合して該日車90にA1方向の回転力を付与すべく日回し車構造体1の回転中心軸線Aに垂直な面(例えば図1や図3の面)内で弾性的に撓み得るように構成されることから、該面に沿う方向での湾曲アーム部75の厚さJ(図3)よりも、時計2の厚さ方向Zに関する日回し爪部70の湾曲アーム部75の厚さ(長さないし幅)H(図2)の方が相当大きい。また、この厚さHは、板ばね状アーム部80の厚さK(図2)よりも相当厚い。
【0045】
日回し歯車部60のうち概ね三角柱状の厚肉環状部51のまわりには、上記の日回し爪部70に加えて厚さ方向位置規正ばね部80A,80Bが形成されている。すなわち、板ばね状アーム部としての厚さ方向位置規正ばね部80A,80Bは、日回し歯車部60のうち概ね三角柱状の厚肉環状部51のまわりの板状部61において、一端部81A,81B(両者を区別しないとき又は総称するときは符号81で表す)から概ね周方向に延設された板ばね本体部85A,85B(両者を区別しないとき又は総称するときは符号85で表す)を備える。
【0046】
板ばね状アーム部としての厚さ方向位置規正ばね部80A,80Bも、ハブ部50と日回し歯車部60の板本体部61との間に沿って延び、該厚さ方向位置規正ばね部80A,80Bのまわりには、該厚さ方向位置規正ばね部80A,80Bの変形を許容するU字状の開口82A,82B(両者を区別しないとき又は総称するときは符号82で表す)が形成されている。厚さ方向位置規正ばね部80A,80Bは、その先端部83A,83B(両者を区別しないとき又は総称するときは符号83で表す)のうち地板10に対面する側の表面83aA,83aB(両者を区別しないとき又は総称するときは符号83aで表す)に、凹部14の底壁側に向かって突出した厚さ方向位置規正突起部としての突起部84A,84B(両者を区別しないとき又は総称するときは符号84で表す)を備える。突起部84A,84Bは、凹部14の底壁14aに軽く押し付けられている。
【0047】
上述のように、湾曲アーム部75のZ方向の厚さHの方が厚さ方向位置規正ばね部80のZ方向の厚さKよりも相当大きいけれども、湾曲アーム部75の腕の長さの方が厚さ方向位置規正ばね部80の腕の長さよりも長いので、日回し爪部70の湾曲アーム部75の突起部75が地板10の凹部14の底面14aを押す力は、各厚さ方向位置規正ばね部80の突起部84が地板10の凹部14の底面14aを押す力と実際上同程度になっている。
【0048】
なお、各厚さ方向位置規正ばね部80は、直線状に延び、該直線の延在方向は、中心軸線Aの点を中心として、各厚さ方向位置規正ばね部80の突起部84を通る円の該突起部84のところにおける接線の方向と実際上一致している。従って、各厚さ方向位置規正ばね部80に対応する突起部84において働く接線方向の引張り力は該ばね部80の延在方向に一致するから、ばね部80が横向きの力を受ける虞れがない。また、突起部75,84A,84Bは、中心軸線Aから等距離にあり、且つ該線(点)Aを中心として周方向に概ね120度の等角度間隔で配置されている。
【0049】
次に、以上の如く構成された日回し車構造体1を備えた時計2の日回し動作について、図1から図3に基づいて説明する。
【0050】
時計2において、時間の経過と共に秒車26、分車24及び時車22がC1方向に回転すると、該時車22の回転が日回し中間車30を介して日回し車構造体1に伝達され、日回し車構造体1が、中心軸線Aのまわりで回転される。
【0051】
日回し車構造体1のこのA1方向回転の際、日回し爪部70の先端部72の地板側突起部75、厚さ方向位置規正ばね部80Aの先端部83Aの地板側突起部84A及び厚さ方向位置規正ばね部80Bの先端部83Bの地板側突起部84Bが、地板10の凹部14の底壁面14aに対して弾性的に押し付けられた状態に保たれる。従って、日回し車構造体1の日回し車本体4の板状の日回し歯車部60が、回転中心軸線Aに対して、実際上垂直に保たれ得る。すなわち、日回し車構造体1の日回し車本体4の金属製軸部材40が実際上回転中心軸線Aと平行で且つ該線Aに沿った状態に保たれ得る。換言すれば、日回し車構造体1の日回し車本体4の板状の日回し歯車部60及び金属製軸部材40のアオリが最低限に抑えられ得る。その結果、金属製軸部材40の小径軸部44に取付けられた24時間針が文字板6に沿って該文字板6の延在平面に平行にアオリなく回転され得る。また、日回し車構造体1の日回し車本体4の板状の日回し歯車部60が、回転中心軸線Aに対して垂直な平面内で回転され得るので、日回し中間車30から日回し車構造体1の歯車部分62への回転の伝達が効果的に行われ得るだけでなく、日送り爪部70の先端の係合爪部75による日車90の歯91への係合が確実に行われて、日送りが安定且つ確実に行われ得る。その結果、地板10によって支えられるけれども輪列受その他の受による支持を欠く日回し車ないし24時間車であっても、中心軸線Aに対して垂直な面内で安定に回転され得る。
【0052】
なお、図2に示したように、以上において、日回し車構造体1の日回し車本体4についていえば、凹部14の底壁表面14aと日車押え7の対向面7bとの間隔Dは、時計の厚さ方向Zに関する突起部75,84A,84Bの突出長に対応する長さΔだけ、日回し車本体4の厚さEよりも大きい(Δ=D−E)ことになる。
【0053】
ところが、仮に、突起部75,84A,84Bがない場合に上記差異Δに相当する間隙を保った状態で日回し車を中心軸線Aのまわりで回転させようとすると、日回し車の中心軸線を正確に軸線A(厚さ方向Z)に平行にし、且つ該平行状態を正確に保ったまま日回し車を回転させる必要があり、シビアな要求になる。換言すれば、突起部75,84A,84Bを凹部14の底壁表面14aに対して弾性的に押し付けて突出長Δに相当する間隙を形成する方が、日回し車構造体1の姿勢を所定の状態に安定に保ち易い。すなわち、突起75,84A,84Bの突出長Δは、日回し車構造体1のある地板10の凹部14の底壁14aと日車押さえ7の対向面7bとの間隔をほとんど増大させない。日回し車の場合、特に、元々日回し爪があることから、該日回し爪の変形に伴う厚さ方向への突出を避けるべく、多少なりとも厚さ方向に間隙を残しておくことが望まれるので、突起75,84A,84Bの突出長Δは、日回し車構造体1のある地板10の凹部14の底壁14aと日車押さえ7の対向面7bとの間隔を実際上増大させない。
【0054】
なお、以上において、日回し爪部70の先端部72の地板側突起部75、厚さ方向位置規正ばね部80Aの先端部83Aの地板側突起部84A及び厚さ方向位置規正ばね部80Bの先端部83Bの地板側突起部84Bは、中心Aから実際上等距離(半径)のところにおいて、相互に概ね120度の角度間隔をもって地板10の凹部14の底壁14aを押しているとして説明したけれども、所望ならば、突起部75,84A,84Bの相対配置は、多少異なっていたり、多少ばらついていてもよい。
【0055】
また、この例では、厚さ方向位置規正ばね部80が、二つある例(日回し爪部70の突起部75以外に、突起部84が二つある例)について説明したけれども、厚さ方向位置規正ばね部80が、三つ以上あって、該厚さ方向位置規正ばね部80の先端の突起部84が三つ以上あってもよい。その場合でも、典型的には、全体として四つ以上の突起部75,84,84,84,・・・は、周方向にみて実際上等角度間隔で、等半径部に配置される。
【符号の説明】
【0056】
1 日回し車構造体
2 時計
4 樹脂製日回し車本体
6 文字板
7 日車押え
7a 開口
7b (地板に対向する)表面
8 中心パイプ
10 地板
11 開口(中央開口部)
12 中央凹部
13,14 凹部
14a 底壁表面(穴部の外周表面)
15 突起部
16 有底穴部(小凹部)
17 支持体
17a 大径基部
17b 小径軸部
17c フランジ状部
22 時車(筒車)
22a 真(筒)
22b 時針
22c 筒歯車
22d かな部
24 分車
24a 真(筒)
24b 分針
24c 分歯車
26 秒車
26a 真
26b 秒針
30 日回し中間車
32 歯車部
33 かな部
40 金属製軸部材
41 軸受穴
42 大径ハブ状部(大径軸部)
43 中径部(中径軸部)
44 小径軸部
45 フランジ状部
46 端部
47 24時針(24時間針)
50 中央ハブ部
51 厚肉環状部
52 孔部
53 大径孔部
54 段差面
55 一側部
60 (板状の)日回し歯車部
61 板本体部
61a 内周縁部
62 歯車部分
63 円弧状開口
70 日回し爪部(日回しアーム部)
71 円弧状開口
72 先端部
73 開口部
74 係合部(日回し用係合爪部)
75 突起部(日回しアーム側部突起部)
77 湾曲アーム部
80,80A,80B 厚さ方向位置規正ばね部(板ばね状アーム部)
81,81A,81B 一端部
82、82A,82B U字状の開口
83,83A,83B 先端部
84,84A,84B 突起部(厚さ方向位置規正突起部)
85,85A,85B 板ばね本体部
90 日車
91 歯
A,B,C 中心軸線
A1,B1,C1 回転方向
D 凹部の底壁表面と日車押えの対向面との間隔
E 日車本体の厚さ
H 湾曲アーム部の厚さ(幅)(時計の厚さ方向)
J 湾曲アーム部の厚さ(アーム部の延在面)
K 厚さ方向位置規正ばね部の厚さ
R1 中央部
R2 外縁部(周縁部)
Z 時計の厚さ方向
Δ 突起部の突出量(=D−E)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
時計の中心部から離れた部位において地板に回転自在に支持されたハブ部と、
該ハブ部から周方向に湾曲して延びた湾曲アーム部及び該湾曲アーム部の先端部に形成され日車の歯に係合する日回し用係合爪部を備えた日回しアーム部と、
前記ハブ部と一体的な円板状の板本体部及び該板本体部の外周に形成された歯車部分を備えた日回し歯車部と
を有する日回し車構造体であって、
前記日回しアーム部が、地板に対面する側面に地板の対向面に向かって突出した日回しアーム側部突起部を備え、
前記板本体部が複数の板ばね状アーム部を備え、板ばね状アーム部が基端部で板本体部に一体的に接続され、先端部に地板に向かって突出した厚さ方向位置規正用突起部を備える
日回し車構造体。
【請求項2】
日回し車本体部が前記板ばね状アーム部を二つ有し、二つの板ばね状アーム部の二つの厚さ方向位置規正用突起部が日回し車構造体の回転中心から等距離のところに位置している請求項1に記載の日回し車構造体。
【請求項3】
日回しアーム部の日回しアーム側部突起部及び二つの板ばね状アーム部の二つの厚さ方向位置規正用突起部が、日回し車構造体の回転中心から等距離のところにおいて、周方向に実際上等間隔に位置している請求項2に記載の日回し車構造体。
【請求項4】
各板ばね状アーム部が周方向に関して日回しアーム部と同じ向きに延びている請求項1から3までのいずれか一つの項に記載の日回し車構造体。
【請求項5】
板ばね状アーム部が、該板ばね状アーム部の先端部の厚さ方向位置規正用突起部と日回し車構造体の回転中心とを結ぶ仮想線に対して直交する向きに延びている請求項1から4までのいずれか一つの項に記載の日回し車構造体。
【請求項6】
前記日回しアーム部の日回しアーム側部突起部及び板ばね状アーム部の前記厚さ方向位置規正用突起部が、ドーム状の形状を有する請求項1から5までのいずれか一つの項に記載の日回し車構造体。
【請求項7】
前記ハブ部が、時計の中心部から離れた部位において地板に回転自在に支持された日回し真に嵌着されている請求項1から6までのいずれか一つの項に記載の日回し車構造体。
【請求項8】
前記日回し真に取付けられた24時針を有する請求項7に記載の日回し車構造体。
【請求項9】
請求項1から8までのいずれか一つの項に記載の日回し車構造体を備えた時計。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−39007(P2011−39007A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−189451(P2009−189451)
【出願日】平成21年8月18日(2009.8.18)
【出願人】(000002325)セイコーインスツル株式会社 (3,629)