説明

昇降装置の制御システム

【課題】荷物の昇降装置において、作業者は荷物の把持と操作とを同時に行うことができ、良好な操作感覚で望む方向へ望む速度で荷物を昇降させることができる。
【解決手段】サーボモータ1の正逆駆動によって巻上げ・巻下げされるロープ2により昇降されまたは位置が維持される荷物に作業者が操作力である力を加えて作業者の望む方向へ望む速度で当該荷物を昇降させるために前記サーボモータ1の駆動を制御するシステムにおいて、ロープ2の下部に掛かる力であって作業者の操作力、荷物の質量および荷物の加速度による力の大きさを計測する力計測手段3と、力計測手段3の計測結果に基づき演算部がサーボモータ1の回転の方向および速度を演算してサーボモータ1に駆動指令の信号を出す制御手段4とを具備した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、昇降装置の制御システムに係り、より詳しくはサーボモータの正逆駆動によって巻上げ・巻下げされるロープにより昇降されまたは位置が維持される荷物に作業者が力を加えて作業者の望む方向へ望む速度で当該荷物を昇降させるために前記サーボモータの駆動を制御するシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の制御システムの一つとして、荷役物を昇降する機構と、この昇降機構を駆動する駆動源と、この駆動源を制御する為の制御部及び操作部を有し、人間が操作部を持ち、荷役物を持ち上げようとする時に出す反重力方向への持上げ力の大きさを、操作部に設けた力センサーで検出し、その持上げ力の大きさに応じて荷役物搬送機の吊り上げ力を増幅させ、その持上げ力と吊り上げ力で荷役物を昇降させる力制御方法を有する荷役物搬送機において、荷役物を持ち上げようとする力が大きくなるにつれ、持上げ力に対する吊り上げ力の比率を常にまたは近似的に増大させることで、シリンダーへのエアー量を制御するようにしたものがある。
また、特に、上鋳枠のブシュを下鋳枠の合わせピンに嵌入して上・下鋳枠を重ね合わせる工程を手作業によって行う場合には、クレーンの操作ボタンの操作により、天井クレーンなどで吊るした上鋳枠を下鋳枠の真上に移動させて位置合わせを行ったあと、上鋳枠を下降させて下鋳枠上に載置していた。
【0003】
しかし、このように構成された従来の制御システムでは、作業者が荷物から分離された操作レバーを操作することにより、荷物の移動速度および方向の指令が出されるようになっているため、作業者は荷物の把持と操作とを同時に行うことができず、その結果、作業者は良好な操作感覚で荷物を昇降させることができない問題があった。
また、上・下鋳枠の重ね合わせ作業では、上鋳枠を下鋳枠の真上に移動させた時に上鋳枠が振れるため正確な位置合わせが困難であり、したがって、何度も操作ボタンを押して上鋳枠の位置を微調整する必要があり非効率であった。しかも、上鋳枠と操作パネルを両手で同時に持って作業をするため、操作が極めてやりにくく、作業者にとって身体的負担が大きくなるなどの欠点があった。
【特許文献1】特開平11-147699号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
解決しようとする問題点は、荷物の昇降装置において、作業者は荷物の把持と操作とを同時に行うことができない結果、良好な操作感覚で荷物を昇降させることができない点である。また、上・下鋳枠の重ね合せ作業では、作業者の負担が大きくなる上に、この作業を効率的にして短時間に完了させることができない点である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の問題を解消するために本発明における昇降装置の制御システムは、サーボモータの正逆駆動によって巻上げ・巻下げされるロープにより昇降されまたは位置が維持される荷物に作業者が操作力である力を加えて作業者の望む方向へ望む速度で当該荷物を昇降させるために前記サーボモータの駆動を制御するシステムであって、前記ロープの下部に掛かる力であって作業者の操作力、荷物の質量および荷物の加速度による力の大きさを計測する力計測手段と、この力計測手段の計測結果に基づき演算部が前記サーボモータの回転の方向および速度を演算してサーボモータに駆動指令信号を出す制御手段と、を具備したことを特徴とする。
【0006】
このように構成されたものは、作業者が望む方向へ荷物を上昇または下降させるため荷物に力を加えると、力計測手段は、作業者の操作力、荷物の質量および荷物の加速度による力の大きさを計測してその計測結果を制御手段に送信する。この力計測手段からの計測結果の送信により制御手段は、計測結果に対応したサーボモータの回転の方向および速度を演算してサーボモータに駆動指令信号を出す。これにより、作業者が加えた力に対応した力が付与されるとともに作業者が補助されて荷物は作業者の望む方向へ望む速度で移動されることとなる。
【0007】
また、上・下鋳枠の重ね合せ作業においては、作業者が望む方向へ上鋳枠を上下、前後、左右の方向に移動させるため、上鋳枠に力を加えると、力計測手段は、作業者の操作力、鋳型の質量および鋳型の加速度による力の大きさを計測してその計測結果を制御手段に送信する。この力計測手段からの計測結果の送信により制御手段は、計測結果に対応したサーボモータの回転の方向および速度を演算してサーボモータに駆動指令信号を出す。これにより、作業者が加えた力に対応した力が付与されるとともに作業者が補助されて上鋳枠は作業者の望む方向へ望む速度で移動されることとなる。
【0008】
なお、本発明において、演算部に (式)K=kpωn2 /(s2+2ζωns+ωn2)で表させるコントローラーKを記憶することにより、力計測手段からの計測情報である、荷物の質量、作業者の操作力および荷物の加速度によって生じる力に基づき、前記演算部は、前記コントローラーKにより荷揺れなどの共振があってもシステムが飛散せず、かつ、最小時間で所定の昇降速度を演算することができる。
【発明の効果】
【0009】
以上の説明から明らかなように本発明は、サーボモータの正逆駆動によって巻上げ・巻下げされるロープにより昇降されまたは位置が維持される荷物に作業者が操作力である力を加えて作業者の望む方向へ望む速度で当該荷物を昇降させるために前記サーボモータの駆動を制御するシステムであって、前記ロープの下部に掛かる力の大きさを計測する力計測手段と、この力計測手段の計測結果に基づき前記サーボモータの回転の方向および速度を演算してサーボモータに指令信号を出す制御手段と、を具備したから、作業者は荷物の把持と操作とを同時に行うことができるため、作業者は荷物に対して良好な操作感覚を得ながら荷物を望む方向へ望む速度で昇降させることが可能になるなどの優れた実用的効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、天井走行クレ−ンに装着された巻揚げ機に本発明を適用した最良の形態について図面に基づき詳細に説明する。なお、上鋳枠の場合も同様であるので、荷物には鋳型または中子付き鋳型を内蔵した上鋳枠を含むものとして説明する。
図1に示すように、本巻揚げ機においては、ロープ巻上げドラム(図示せず)の回転軸にこれを正逆回転させるサーボモータ1の出力軸が連結してあり、さらにロープ巻揚げドラムから巻き下げられたロープ2の下端にはロープ2の下端に掛かる力の大きさを計測する力計測手段としてのロードセル3が装着してある。ロードセル3の下端には昇降すべき荷物4がフック(図示せず)を介して掛止されている。また、前記ロードセル3にはこれの計測結果に基づき、前記サーボモータ1の回転の方向および速度を演算する演算部としてのコンピュータを含みかつコンピュータの演算結果に基づき前記サーボモータ1に駆動指令信号を出す制御手段4が電気的に接続してある。
【0011】
次に、このように構成した巻揚げ機の作用について説明する。ロープ2によって吊り下げられた荷物Wを作業者が望む方向である上方または下方へ押すと、ロードセル3がロープ2に掛かる力の大きさを計測して制御手段4に送信する。すると、巻揚げ機を介しての作業者による荷物Wの昇降を補助すべく、制御手段4の演算部においては下記に示す原理に基づき演算が行われる。
【0012】
すなわち、基本的な原理としては、図2に示すように、作業者が荷物Wに操作力f[N]を加えると、ロードセル3が力f[N]を検知して、コントローラーKは制御入力u(=rv[m/s]指示速度)を生成し、この結果、巻揚げ機は命じられた速度νに従って荷物Wを上昇または下降させる。
ここで、m[kg]は荷物Wの質量である。
なお、z軸方向は下向きを正とする。
【0013】
上述の作用は以下に示す理論によって行われる。すなわち、
制御された荷物Wの昇降速度v=rv=K
(1)
の関係式が成り立つ。

ここで、力fは操作力fから荷物Wの加速度dv/dtによる見かけの重量を差し引いたものであるから、
=f−mdv/dt
(2)
となり、荷物Wは操作力fにより以下の伝達関数で表させる昇降速度を得る。
ν(s)=K(s)F(s)/[1+msK(s)] (3)
したがって、K(s)のゲインを大きくすることにより、作業者は僅かな力で荷物を昇降することができる。
ここで、sはラプラス演算子[1/s]、Fは操作力[N]である。
【0014】
ところで、コントローラーのパラメータとして、定常状態で、制御された荷物Wの昇降速度rv=kpとなる、操作力から巻き上げ下げ速度の変換係数kp[(m /s/N)]を定義する。
ここで、kpは操作力1[N]当りの荷重の移動速度[m /s]を示す。
この変数はユーザの要求によって決定され、荷物Wの搬送速度を遅くし荷物Wの正確な位置決めを行いたい場合にはkpを小さく選び、わずかな力で高速に搬送したい場合はkpを大きく選ぶ。
【0015】
また、巻揚げ機の共振周波数とそのピークゲインの変動を乗法変動として考慮すると次式のように表わすことができる。
【0016】
【数1】

【0017】
ここで、波バーPは実際の伝達関数、Pは式P(s)=Fm(s) /Rv=msで表されるノーマルな伝達関数、Δは変動である。
【0018】
また、図3にモデル化誤差とおもみ関数の見積もりの関係を示す。この図3において、左図細線がΔを見積もった伝達関数であるとすると、ロバスト性の安定化のために、|Wr|>|Δとなる重み関数Wrを
Wr=ωps /ωc(s+ωp) (5)
として、図3の左図太線を得る。
なお、この図3において、ωc[rad /s]は交差角周波数、ωp[rad /s]はΔピークとなる周波数である。
【0019】
また、本発明のように、混合感度の問題の制御のブック図は図4に示すようになる。そして、wからz間での伝達関数は本システムの相補感度関数で、ロバスト安定の条件は重み関数Wrを考慮して||Twz2||<1となる。
したがって、要求するコントローラは(6)式で示すように定式化できる。
【0020】
【数2】

【0021】
ここで、w(=f)からz1までの伝達関数Twz1は、操作力fと荷物速度rvの誤差に相当する。本演算手段の目的はステップ状の操作力に対し、定常速度kp[(m /s/N)]にできるだけ速く整定するコントローラーKを設計することであるから、次式のように重み関数Wsを決定する。
Ws=1 /s (7)
【0022】
なお、上記のコントローラーKは、下記のようにして得られる。
すなわち、重み関数Wr、Wsおよびノーマルな伝達関数P(s)の次数の合計が2であるので、最適コントローラーは2次となる。したがって、コントローラーの構造を次式のように表すことができる。
=kp(as2+bs+c) /(s2+2ζωns+ωn2) (8)
ここで、aおよびbは定数、cは変数、sはラプラス演算子[1/s]、ζは減衰係数、ωnは固有角周波数[rad/s]である。
【0023】
また、ロバスト安定性の観点から、a=b=0となる。a≠0、b≠0とすると、変動が大きい場合にロバスト安定条件を満たさなくなる場合が起こる。
【0024】
定常状態における式v=kp fを満たすために以下のように変数cを得る。
【0025】
【数3】

【0026】
したがって、コントローラーの解析解は次の方程式となる。
=kpωn2 /(s2+2ζωns+ωn2) (10)
このとき、伝達関数Twvr、Twz1およびTwzは以下のように書き表せる。
【0027】
【数4】

【0028】
ところで、荷物Wの残留振動あるいはオーバーシュートは、非常に危険であり、ζ'は1.0より大きくしなければならない。したがって、ζは以下のように制約される。

ζ>1.0- kpmωn/2 (12)
【0029】
また、ロバスト安定条件より、伝達関数のノルム|Twz2|は以下のように1未満である。
【0030】
【数5】

【0031】
なお、第2項と第3項は条件ζ'>1のもとで1未満となる。
したがって、ωnに関して次の関係を得る。
ωn&#8249;平方根ωc/mkp (14)
【0032】
また、コントローラーは、Twz1のH2ノルムを最小限にするように設計されなければならない。単純な計算によって、式(11)から次式を得る。
【0033】
【数6】

【0034】
なお、最小限のためにはζ'>1.0の制約下で、ζ'はできるだけ小さくなくてはならず、かつωnは式(14)の制約下で、できるだけ大きくなくてはならない。したがって、
【0035】
【数7】

を得る。
【0036】
以上の考察によって、演算部として以下の最適ロバストコントローラーが決定される。
【0037】
【数8】

【0038】
このとき、最適なH2ノルムは次式となる。
【0039】
【数9】

【実験例】
【0040】
コントローラーの実験条件は表1のとおりである。
【0041】
【表1】

【0042】
操作力と変換係数kpに関する定常状態の特性を、図5に示す。実験の結果は理論値と一致し、例えば操作力10.0[N]の力で重量30.3[kg]の荷物を0.06[m/s]の速度で動かすことが確認できた。
【0043】
また、操作力とそのときの、荷物Wの速度の応答を図6に示す。実験の結果はシミュレーションと一致し、振動もなく安定に制御されており、本発明の妥当性が確認できた。
【実施例】
【0044】
それぞれの大きさが縦・横約0.8m、高さ約0.4mで、それぞれの重量が約30kgであって位置合わせ用のピン・ブシュを有する上・下鋳枠において、上述の実験例と同様の条件で上鋳枠を下鋳枠上に載置する作業を行ったところ、振動もなく安定した状態で上鋳枠を下鋳枠上に載置することができた。
なお、鋳型内臓の上鋳枠の重量が10〜500Kgの場合には作業者は負担なく上鋳枠を昇降できたが、500Kgを超えると、操作力に対するノイズによりシステムが安定稼動しない場合があって好ましくなく、また10Kg未満ではクレーンが不要である。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明を適用した最良の形態の構造を示す概略図である。
【図2】図1に示す構造物に係る制御のブロック図である。
【図3】モデル化誤差と重く関数の見積もりとの関係を示すグラフである。
【図4】混合感度問題のブロック図である。
【図5】操作力と定常速度の関係を示すグラフである。
【図6】操作力に対する昇降速度の応答の状態を示すグラフである。
【符号の説明】
【0046】
1 サーボモータ
2 ロープ
3 ロードセル
4 制御手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
サーボモータの正逆駆動によって巻上げ・巻下げされるロープにより昇降されまたは位置が維持される荷物に作業者が操作力である力を加えて作業者の望む方向へ望む速度で当該荷物を昇降させるために前記サーボモータの駆動を制御するシステムであって、
前記ロープの下部に掛かる力であって作業者の操作力、荷物の質量および荷物の加速度による力の大きさを計測する力計測手段と、
この力計測手段の計測結果に基づき演算部が前記サーボモータの回転の方向および速度を演算してサーボモータに駆動指令の信号を出す制御手段と、
を具備したことを特徴とする昇降装置の制御システム。
【請求項2】
請求項1に記載の昇降装置の制御システムにおいて、
前記演算部には (式)K=kpωn2 /(s2+2ζωns+ωn2)で表させるコントローラーKが記憶されていて、前記力計測手段からの計測情報である、荷物の質量、作業者の操作力および荷物の加速度によって生じる力に基づき、前記演算部は、前記コントローラーKにより最小時間で所定の昇降速度を演算することを特徴とする昇降装置の制御システム。
ただし、kpは変換係数 [(m /s/N)]、ωnは固有角周波数[rad/s]、sはラプラス演算子[1/s]、ζは減衰係数である。
【請求項3】
請求項1または2に記載の昇降装置の制御システムにおいて、
前記荷物は、鋳型内臓の鋳枠であって重量が10〜500Kgであることを特徴とする昇降装置の制御システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−143391(P2006−143391A)
【公開日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−335500(P2004−335500)
【出願日】平成16年11月19日(2004.11.19)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成16年5月23日から5月26日 社団法人日本鋳造工学会主催の「第144回 全国講演大会」において文書をもって発表
【出願人】(000191009)新東工業株式会社 (474)
【出願人】(304027349)国立大学法人豊橋技術科学大学 (391)