説明

昇降装置

【課題】簡単な装置構成で且つ低消費電力で昇降対象物を安定して且つ滑らかに昇降制御するコンパクトで低価格な昇降装置を提供する。
【解決手段】所定方向に昇降自在に構成された昇降対象物10と、所定方向に回転自在に構成された回転体12と、回転体に直結されたダイレクトドライブモータ14と、ダイレクトドライブモータで回転体を回転させた際の回転運動を直線運動に変換して昇降対象物に伝達する運動伝達機構とを備えており、運動伝達機構には、回転体に設けられ且つ所定の傾斜角度の傾斜面30が形成されたクサビ部材28と、昇降対象物に設けられ且つクサビ部材の傾斜面に沿って摺動する摺動部材32と、昇降対象物を所定方向に沿って平行移動させるガイド部材とが設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば移動台やステージなどの昇降対象物を所定方向に昇降する昇降装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から例えば移動台やステージなどの昇降対象物を所定方向に昇降する種々の昇降装置が知られており、例えば図5に示す昇降装置は、矢印H1方向に可動する可動テーブル2と、可動テーブル2の周囲に等間隔で直立配置された複数本のボールネジ(図5では、2つのボールネジ4a.4bを示す)と、可動テーブル2の外周に沿って設けられたガイドリング(昇降対象物)6とを備えており、ガイドリング6は各ボールネジ4a.4bに螺合されている。この場合、各ボールネジ4a.4bを回転させてガイドリング6を矢印H2方向に昇降することにより、可動テーブル2に対するガイドリング6の高さ位置を調節することができる(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
ところで、上述したような従来の昇降装置において、各ボールネジ4a.4bはモータ8a.8bにより個別独立して駆動制御されている。この場合、例えば各モータ8a.8bの単位時間当たりの回転速度や出力が異なると、その分だけ各ボールネジ4a.4bの回転速度や回転量に差が生じ、その結果、ガイドリング6を平行に維持した状態で昇降させることが困難になってしまう虞がある。具体的には、ボールネジ4aの回転速度や回転量がボールネジ4bよりも大きい場合、ガイドリング6の一端側部6aの昇降速度や昇降量が他端側部6bよりも大きくなる。このような状態でガイドリング6を昇降すると、ガイドリング6は、その一端側部6aが他端側部6bよりも常に先行した傾斜状態で昇降することになる。
【0004】
この場合、ガイドリング6と各ボールネジ4a.4bとの間の摩擦力が増加し、各ボールネジ4a.4bが磨耗したり、各ボールネジ4a.4bに螺合しているガイドリング6の螺合部分が磨耗して、昇降装置を長期に亘って連続的に使用することが困難になってしまう。また、ガイドリング6が傾斜すると、可動テーブル2と干渉することも想定され、その場合、可動テーブル2を安定して且つ滑らかに可動させることも困難になる。
【0005】
更に、従来の昇降装置にはボールネジ4a.4bの個数分だけモータ8a.8bを用意しなければならないため、装置の部品点数が増加し、その結果、装置構成が複雑になると共に、製造コストも上昇してしまう。
更にまた、複数のモータ8a.8bを同時に駆動する際には、比較的多くの電力を消費するため、昇降動作が頻繁に繰り返される場合、その分だけ消費電力も増加してしまう。特にガイドリング6の昇降速度を変化させる場合には、それに合わせて各モータ8a.8bの回転速度や回転量を制御させなければならないが、かかる制御に要する消費電力は、各モータ8a.8bを一定の回転速度や回転量で制御する場合に比べて大きなものとなる。
【0006】
比較的低い消費電力でガイドリング6を滑らかに平行移動させるためには、各モータ8a.8bの単位時間当たりの回転速度や出力を等しくすれば良いが、そのためには各モータ8a.8bを高精度に制御する必要がある。このような要求に応えるためには、モータ制御用の回路構成を別途構築しなければならず、手間もかかり面倒であると共に、部品点数が増加して製造コストも上昇してしまう。
【0007】
また、ボールネジ4a.4bを用いた昇降装置では、ボールネジ4a.4bの占有領域を高さ方向に確保しなければならず、その分だけ昇降装置の高さ寸法が拡大し装置が大型化してしまう。高さ方向の小型化を図るためには、ボールネジ4a.4bを横方向に配列する仕様も考えられるが、そうすると横方向の占有領域が拡大し、結果的に装置が大型化してしまう。
【特許文献1】特開2001−300846号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、このような問題を解決するためになされており、その目的は、簡単な装置構成で且つ低消費電力で昇降対象物を安定して且つ滑らかに昇降制御するコンパクトで低価格な昇降装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
このような目的を達成するために、本発明は、所定方向に昇降自在に構成された昇降対象物と、所定方向に回転自在に構成された回転体と、回転体に直結されたダイレクトドライブモータと、ダイレクトドライブモータで回転体を回転させた際の回転運動を直線運動に変換して昇降対象物に伝達する運動伝達機構とを備えており、運動伝達機構には、回転体に設けられ且つ所定の傾斜角度の傾斜面が形成されたクサビ部材と、昇降対象物に設けられ且つクサビ部材の傾斜面に沿って摺動する摺動部材と、昇降対象物を所定方向に沿って平行移動させるガイド部材とが設けられている。
このような発明において、クサビ部材は、回転体と同心円状に設けられており、回転体が回転した際に摺動部材が当該クサビ部材の傾斜面に沿って摺動することにより昇降対象物を平行移動させる。
この場合、クサビ部材の傾斜面は、同一の傾斜角度を成す1つの傾斜面で構成しても良いし、異なる傾斜角度を成す複数の傾斜面で構成しても良い。また、摺動部材は、クサビ部材の傾斜面に沿って回転すること無く摺動させたり、クサビ部材の傾斜面に沿って回転しながら摺動させても良い。
また、ガイド部材は、昇降方向に沿って延出したガイドレールと、ガイドレールに沿って摺動するスライダと、スライダの摺動範囲を設定するストッパとを備えており、昇降対象物はスライダに接続されている。
また、運動伝達機構には、摺動部材をクサビ部材の傾斜面に押し付ける押付手段が設けられている。この場合、押付手段として、昇降対象物に付勢力を与えて摺動部材をクサビ部材の傾斜面に押し付ける付勢バネを備えても良いし、昇降対象物の自重を利用して摺動部材をクサビ部材の傾斜面に押し付けても良い。
また、クサビ部材は、回転体と同心円状に分割して所定間隔で複数個設けても良いし、回転体と同心円状に連続して設けても良い。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ダイレクトドライブモータで回転体を回転させた際の回転運動を直線運動に変換して昇降対象物に伝達する運動伝達機構を備えたことにより、簡単な装置構成で且つ低消費電力で昇降対象物を安定して且つ滑らかに昇降制御するコンパクトで低価格な昇降装置を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の一実施の形態に係る昇降装置について添付図面を参照して説明する。
図1(a)〜(c)に示すように、本実施の形態の昇降装置は、所定方向(例えば垂直方向)S1,S2に昇降自在に構成された昇降対象物10と、所定方向R1,R2に回転自在に構成された回転体12と、回転体12に直結されたダイレクトドライブモータ14と、ダイレクトドライブモータ14で回転体12を回転させた際の回転運動を直線運動に変換して昇降対象物10に伝達する運動伝達機構とを備えている。
【0012】
昇降対象物10としては、例えば各種物品を移動させて位置決めする移動台やステージなどを想定することができるが、ここでは特に限定しない。また、回転体12は、平坦な円板状を成しており、昇降対象物10の下方に対向して設けられている。回転体12の裏面には回転軸12aが装着されており、この回転軸12aを介して回転体12はダイレクトドライブモータ14に直結されている。
【0013】
ダイレクトドライブモータ14は、例えば図4に示すように、円筒状の固定部16と、固定部16の外周に沿って同心円状に設けられた回転部18と、固定部16に対して回転部18を回転自在に支持する複数のクロスローラベアリング20と、固定部16と回転部18との間に介挿された永久磁石22及び電機子(アーマチュア)24とを備えており、電機子24に通電して当該電機子24と永久磁石22との間の磁気作用を生じさせることにより、回転部18を所望の方向R1,R2に回転させることができる。
【0014】
回転体12の回転軸12aは、ダイレクトドライブモータ14の回転部18に直結させることができるため、回転部18の回転運動はダイレクトに回転軸12aを介して回転体12に伝達され、回転体12を所望の方向R1,R2に回転させることができる。このとき、固定部16と回転部18との間に介挿されたレゾルバ(角度検出器)26により回転部18の回転角度を検出することにより、回転体12を所望の方向R1,R2に所望の角度だけ正確に回転させることができる。
【0015】
ダイレクトドライブモータ14は、その直径に比べて積厚が薄く、回転体12の回転軸12aに直接取り付けることができるため、当該モータ14を昇降装置にセットするために必要なスペースを小さくすることができ、その結果、昇降装置のコンパクト化を図ることができる。また、取付けの自由度が大きく、適応性に優れ、回転軸12aとの結合度も良好であるため、回転体12を安定して且つ滑らかに回転させることができる。
【0016】
運動伝達機構には、回転体12に設けられ且つ所定の傾斜角度の傾斜面30が形成されたクサビ部材28と、昇降対象物10に設けられ且つクサビ部材28の傾斜面30に沿って摺動する摺動部材32と、昇降対象物10を所定方向に沿って平行移動させるガイド部材とが設けられている。
クサビ部材28は、回転体12上に同心円状に設けられており、回転体12が回転した際に摺動部材32が当該クサビ部材28の傾斜面30に沿って摺動することにより昇降対象物10を矢印S1,S2方向に平行移動(昇降)させる。
【0017】
この場合、クサビ部材28は、回転体12と同心円状に1個、或いは、同心円状に分割して所定間隔で複数個設けても良いし、回転体12と同心円状に連続して設けても良い。本実施の形態では、その一例として、複数のクサビ部材28は回転体12と同心円状に連続して等間隔に3つ設けられている。具体的には、3つのクサビ部材28の間には、底面部34が同心円状に配置されており、これにより3つのクサビ部材28が底面部34を介して互いに連続して設けられる。この構成において、底面部34は平坦面を成し、そこから上り勾配の傾斜面30が形成されたクサビ部材28が所定間隔で繰り返される。
【0018】
本実施の形態では、その一例として図1及び図2(d)並びに図3に示すように、3つのクサビ部材28が回転体12と同心円状に等間隔で連続して設けられており、各クサビ部材28の相互間に底面部34が構成される。なお、3つのクサビ部材28の形状(傾斜面30の形状や傾斜角度及び傾斜面の長さなど)は互いに同一形状(相似)している。また、底面部34の形状(特に長さ)も互いに互いに同一形状(相似)している。
かかる構成において、ダイレクトドライブモータ14で回転体12を矢印R1方向に回転させると、3つの底面部34にそれぞれ位置付けられた各摺動部材32は、各底面部34に沿って同一速度で移動した後、各クサビ部材28の傾斜面30に沿って同一速度で上昇する。
【0019】
この場合、摺動部材32は、クサビ部材28の傾斜面30に沿って回転すること無く摺動(非回転摺動)させても良いし、クサビ部材28の傾斜面30に沿って回転しながら摺動(回転摺動)させても良い。
非回転摺動に適用する摺動部材32は、傾斜面30に対する摩擦抵抗を軽減するため、その接触面積が小さな形状を成すことが好ましい。例えば球面形状や楕円形状などの摺動部材32であれば、傾斜面30に対する接触面積を小さくすることができる。なお、これ以外の形状であっても摩擦抵抗が軽減できれば特に制限されることは無い。また、接触面積が大きな摺動部材32を適用した場合でも、摺動部材32と傾斜面30との間に例えば潤滑剤を塗布すれば摺動性を向上させることができる。
【0020】
回転摺動に適用する摺動部材32としては、例えば回転ローラやボールなどを想定することができるが、本実施の形態では一例として、摺動部材32として例えば図2(b)に示すようなカムフォロアを適用する。
カムフォロアは、棒状のスタッド36と、スタッド36の先端外周に設けられた外輪38と、スタッド36と外輪38との間に転動自在に配列された複数のころ40とを備えており、カムフォロア(摺動部材32)がクサビ部材28の傾斜面30に沿って摺動する際、外輪38が傾斜面30上を転動することにより、カムフォロア(摺動部材32)を滑らかに摺動させることができる。なお、スタッド36の基端にはナット42を螺合させるネジ部36aが形成されている。
【0021】
このような各摺動部材32は、取付板44を介して昇降対象物10に位置決めして取り付けられており、これにより各底面部34及び各クサビ部材28の傾斜面30に対向した位置に正確に位置決めされている。なお、各摺動部材32を取付板44に固定する方法としては、例えば図2(b)に示すように、取付板44から垂直下方に延出した固定枠46にネジ孔48を形成し、スタッド36のネジ部36aをネジ孔48に挿通した状態でナット42を螺合することにより、各摺動部材32を取付板44に固定することができる。
【0022】
また、取付板44を介して昇降対象物10に取り付けられた各摺動部材32を、各底面部34及び各クサビ部材28の傾斜面30に沿って高精度に摺動させるためには、各摺動部材32毎に高さ調整を行う必要がある。その方法としては、例えば図2(b)に示すように、固定枠46に対して回転可能なブッシュ50を構成し、このブッシュ50の回転中心からずれた位置(偏心した位置)にネジ孔48を形成する。そして、ブッシュ50を回転するとネジ孔48が偏心して回転(楕円状に回転)することにより、かかるネジ孔48に締結された摺動部材32を上下動させることができ、このときの移動量を制御することで高さ調整を行うことができる。
【0023】
このような構成によれば、例えば図1(b)に示すような昇降対象物10が最も低い位置(初期位置)に位置付けられた状態において、各摺動部材32は各底面部34に位置付けられており、その状態でダイレクトドライブモータ14により回転体12を矢印R1方向に回転させると、各摺動部材(カムフォロア)32が各底面部34からクサビ部材28の傾斜面30に沿って回転しながら摺動する。このとき、各摺動部材(カムフォロア)32が傾斜面30を登ることで、かかる摺動部材32が取り付けられた昇降対象物10を最も高い位置(上限位置)まで矢印S1方向に上昇(平行移動)させる(図1(c))。
【0024】
逆に、図1(c)に示すように、昇降対象物10が上限位置に位置付けられた状態において、各摺動部材32は傾斜面30の上部に位置付けられており、その状態でダイレクトドライブモータ14により回転体12を矢印R2方向に回転させると、各摺動部材(カムフォロア)32がクサビ部材28の傾斜面30に沿って回転しながら摺動する。このとき、各摺動部材(カムフォロア)32が傾斜面30から底面部34まで降りることで、かかる摺動部材32が取り付けられた昇降対象物10を初期位置まで矢印S2方向に下降(平行移動)させる(図1(b))。
【0025】
ところで、昇降対象物10を平行移動(昇降)する際に、当該昇降対象物10が例えばふら付いたり偏心する場合も想定されるため、昇降装置にはガイド部材が設けられている。
ガイド部材は、昇降装置のベースBsから垂直方向に立ち上げられた一対のフレーム52にそれぞれ設けられており、昇降対象物10を両側からガイドする。
ガイド部材は、昇降方向S1,S2に沿って延出したガイドレール54と、ガイドレール54に沿って摺動するスライダ56と、スライダ56の摺動範囲を設定するストッパ58とを備えており、昇降対象物10は支持プレートSpを介してスライダ56に接続されている。なお、支持プレートSpは、昇降対象物10の両側に装着されている。また、ガイドレール54及びスライダ56は、市販のものをそのまま利用すれば良い。
【0026】
このようなガイド部材によれば、昇降動作時にスライダ56がガイドレール54に沿って安定して摺動することにより、かかるスライダ56に接続された昇降対象物10を例えばふら付いたり偏心すること無く平行移動(昇降)させることができる。
この場合、昇降対象物10の昇降動作中に、例えばダイレクトドライブモータ14による回転体12の回転速度や、外部振動(外部から昇降装置に作用した振動)が要因となり、各摺動部材(カムフォロア)32がクサビ部材28の各傾斜面30から離間したり跳ね上がってしまう場合が想定される。このような場合、かかる摺動部材32が取り付けられた昇降対象物10も浮き上がったり振動してしまうことになる。
【0027】
そこで、このような事態を回避するため、昇降装置の運動伝達機構には、摺動部材32をクサビ部材28の傾斜面30に押し付ける押付手段が設けられている。
押付手段は、昇降対象物10の両側に装着された支持プレートSpとベースBsとの間に架設されており、昇降対象物10を常時ベースBs方向に付勢することにより、摺動部材32を傾斜面30に押し付ける。
【0028】
押付手段としては、付勢バネ(例えば、引張りバネ)60を適用することが可能であり、この付勢バネ60の一端を支持プレートSpに固定し、他端をベースBsに固定する。これにより、昇降対象物10に付勢力(引張力)が与えられるため、昇降対象物10に取り付けられた摺動部材32をクサビ部材28の傾斜面30に常時押し付けることができる。この結果、昇降対象物10の昇降動作中、各摺動部材(カムフォロア)32がクサビ部材28の各傾斜面30から離間したり跳ね上がってしまうような事態を回避することができるため、昇降対象物10を浮き上がったり振動させること無く、常時安定して昇降させることができる。
【0029】
なお、押付手段としては、昇降対象物10を比較的高重量に構成し、当該昇降対象物10の自重を利用して摺動部材32をクサビ部材28の傾斜面30に押し付けるような構成でも良い。この場合、昇降対象物10を高重量に構成する方法としては、昇降対象物10自体を高重量の材料(例えば、鉄、鉛)で形成する方法、材料は問わずに昇降対象物10の厚みを大きくする(昇降対象物10の体積を大きくする)ことで高重量化させる方法などが考えられる。
また、付勢バネ60として圧縮バネを適用しても良く、この場合、圧縮バネの押圧力が昇降対象物10に作用するように当該圧縮バネの配置構成を設計すれば良い。
【0030】
このように昇降対象物10を昇降する際には、その昇降領域を設定する必要がある。例えば回転体12の回転範囲が大きいと、昇降対象物10を矢印S1方向(図1(b))に上昇させる際、各底面部34から各傾斜面30を登った各摺動部材32が当該傾斜面30を超えて次の底面部34に落下してしまう。このとき、各摺動部材32の落下と共に昇降対象物10も急激に下方に落下することになり、昇降対象物10や各摺動部材32が損傷したり破損する虞がある。
【0031】
また、昇降対象物10を矢印S2(図1(c))に下降させる際、各傾斜面30を降った各摺動部材32が各底面部34を超えて次の傾斜面30の側壁30cに衝突してしまう。このとき、摺動部材32が側壁30cに衝突した際の衝撃は、当該摺動部材32から固定枠46及び取付板44を介して昇降対象物10に伝達されるため、その衝撃の強さによっては昇降対象物10や各摺動部材32が損傷したり破損する虞がある。
【0032】
そこで、このような事態を回避するため、昇降装置のガイド部材には、スライダ56の摺動範囲を設定するストッパ58が設けられている。ストッパ58は、ガイドレール54の上端側に配置されており、フレーム52に取り付けられている。また、ガイドレール54の下端側には、衝撃吸収機能を有するダンパ62が配置されており、フレーム52に取り付けられている。これにより、スライダ56は、ストッパ58とダンパ62との間で摺動することになる。
【0033】
ストッパ58は、昇降方向S1,S2に沿って上下動して高さ位置を調節することができるように構成されている。図2(c)に示すように、ストッパ58は棒状のスタッド64の先端に固定されており、スタット64の基端側にはナット66を螺合させるネジ部64aが形成されている。また、フレーム52には、回転可能なブッシュ68が構成されており、このブッシュ68の回転中心からずれた位置(偏心した位置)にネジ孔70が形成されている。そして、スタッド64のネジ部64aをネジ孔70に挿通した状態でナット66を螺合することにより、ストッパ58をブッシュ68を介してフレーム52に取り付けることができる。この構成において、ブッシュ68を回転するとネジ孔70が偏心して回転(楕円状に回転)することにより、かかるネジ孔70に締結されたストッパ58を上下動させることができ、このときの移動量を制御することで高さ位置を調整することができる。
【0034】
この場合、ストッパ58を上下動させる際に、ストッパ58とスライダ56との間にブロックゲージG(図2(a))が一時的に介挿される。ブロックゲージGの高さ寸法Tは、スライダ56の摺動範囲に一致しているため、かかるブロックゲージGを挟むようにストッパ58の高さ位置を調節すれば良い。その後、ブロックゲージGを取り外すことにより、ストッパ58とスライダ56との間にスライダ56の摺動範囲が設定される。
【0035】
このようにスライダ56の摺動範囲を設定することにより、各摺動部材32が傾斜面30から落下したり側壁30cに衝突するといった事態を回避することが可能となり、その結果、昇降対象物10や各摺動部材32を安全に動作させることができる。なお、このような昇降動作中、ダイレクトドライブモータ14の回転角度がレゾルバ(角度検出器)26により常時検出されており、それにより回転体12の回転角度が制御される。例えば昇降対象物10を上昇させる場合には、各摺動部材32が各底面部34から傾斜面30を登ってその上部で停止(傾斜面30を超える前に停止)するように回転体12の回転角度が制御される。一方、昇降対象物10を下降させる場合には、各摺動部材32が傾斜面30を降って各底面部34で停止(傾斜面30の側壁30cに衝突すること無く停止)するように回転体12の回転角度が制御される。
【0036】
ところで、昇降対象物10の昇降動作において、昇降開始時では昇降対象物10を早く昇降させ、上限位置(図1(c))で昇降対象物10を停止させる際は、その直前から徐々に昇降速度を落とすことが好ましい。一定の昇降速度のまま停止位置(例えば、傾斜面30の上部)まで昇降対象物10を昇降させて、そこで制動をかけると急停止状態となり、ダイレクトドライブモータ14に対する負荷(消費電力)が大きくなり、モータの焼き付きの原因となる。また、急停止すると昇降対象物10に載置或いはセットされた部材などがズレたり落下するといった不具合も想定される。
【0037】
上述した実施の形態において、クサビ部材28の傾斜面30は、同一の傾斜角度を成す1つの傾斜面を想定しているが、その場合、昇降対象物10の昇降速度は一定となる。この場合、傾斜面30の傾斜角度が大きいと、それに応じて昇降速度が上がって停止時には急停止状態となる。このような問題を解消するためには、傾斜面30の傾斜角度を小さくすれば良いが、そうすると、クサビ部材28の全長を長く確保しなければならず、その結果、3つのクサビ部材28で構成される同心円の直径が大きくなってしまうため、昇降装置が大型化してしまう。
【0038】
そこで、図3に示すように、各傾斜面30を異なる傾斜角度θ1,θ2(θ1>θ2)を成す複数の傾斜面30a,30bで構成することが好ましい。このように傾斜面30の上部辺り(傾斜面30b)の傾斜角度を小さくすることにより、昇降対象物10を停止させる際の上昇速度を落とすことができる。例えば昇降対象物10を矢印S1方向(図1(b))に上昇させる際、各摺動部材32が各底面部34から各傾斜面30aを登る間は、比較的大きな傾斜角度θ1に応じて昇降対象物10の上昇速度は高速状態に維持される。そして、各摺動部材32が各傾斜面30bを登って上限位置(図1(c))に至る間は、比較的小さな傾斜角度θ2に応じて昇降対象物10の上昇速度は低速状態に維持される。
【0039】
このように各傾斜面30を異なる傾斜角度θ1,θ2を成す複数の傾斜面30a,30bで構成することにより、徐々に昇降速度を落として昇降対象物10を停止させることができる。この結果、制動時のダイレクトドライブモータ14に対する負荷(消費電力)を小さくすることが可能となり、モータの焼き付きも生じない。また、昇降対象物10に載置或いはセットされた部材などがズレたり落下するといった不具合も生じない。
【0040】
なお、昇降対象物10を下降させて停止する場合には、各摺動部材32は平坦面の底面部34上を転動するため、制動時のダイレクトドライブモータ14に対する負荷(消費電力)の問題は生じない。
また、図3では、各傾斜面30を異なる傾斜角度θ1,θ2を成す2つの傾斜面30a,30bで構成したが、これに限定されることは無く、異なる傾斜角度を成す3つ以上の傾斜面で構成しても良い。かかる傾斜面の数や傾斜角度は昇降対象物10の種類や大きさ及び重量、或いは、昇降装置の使用目的や使用環境に応じて任意に設定することができることは言うまでも無い。
【0041】
以上、本実施の形態によれば、ダイレクトドライブモータ14で回転体12を回転させた際の回転運動を直線運動に変換して昇降対象物10に伝達する運動伝達機構を備えたことにより、簡単な装置構成で且つ低消費電力で昇降対象物10を安定して且つ滑らかに昇降制御するコンパクトで低価格な昇降装置を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】(a)は、本発明の一実施の形態に係る昇降装置の平面図、(b)は、昇降対象物が初期位置に位置付けられた状態を示す昇降装置の側面図、(c)は、昇降対象物が上限位置に位置付けられた状態を示す昇降装置の側面図。
【図2】(a)は、昇降範囲を設定している状態を示す昇降装置の側面図、(b)は、摺動部材の構成を断面して示す斜視図、(c)は、ストッパの取付構成を示す部分断面斜視図、(d)は、同心円状に連続して等間隔に3つ設けられたクサビ部材の構成を示す斜視図。
【図3】クサビ部材の傾斜面の構成を示す側面図。
【図4】ダイレクトドライブモータの構成を断面して示す斜視図。
【図5】従来の昇降装置の構成を示す図。
【符号の説明】
【0043】
10 昇降対象物
12 回転体
14 ダイレクトドライブモータ
28 クサビ部材
30 傾斜面
32 摺動部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定方向に昇降自在に構成された昇降対象物と、
所定方向に回転自在に構成された回転体と、
回転体に直結されたダイレクトドライブモータと、
ダイレクトドライブモータで回転体を回転させた際の回転運動を直線運動に変換して昇降対象物に伝達する運動伝達機構とを備えており、
運動伝達機構には、回転体に設けられ且つ所定の傾斜角度の傾斜面が形成されたクサビ部材と、昇降対象物に設けられ且つクサビ部材の傾斜面に沿って摺動する摺動部材と、昇降対象物を所定方向に沿って平行移動させるガイド部材とが設けられていることを特徴とする昇降装置。
【請求項2】
クサビ部材は、回転体と同心円状に設けられており、回転体が回転した際に摺動部材が当該クサビ部材の傾斜面に沿って摺動することにより昇降対象物を平行移動させることを特徴とする請求項1に記載の昇降装置。
【請求項3】
クサビ部材の傾斜面は、同一の傾斜角度を成す1つの傾斜面で構成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の昇降装置。
【請求項4】
クサビ部材の傾斜面は、異なる傾斜角度を成す複数の傾斜面で構成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の昇降装置。
【請求項5】
摺動部材は、クサビ部材の傾斜面に沿って回転すること無く摺動することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の昇降装置。
【請求項6】
摺動部材は、クサビ部材の傾斜面に沿って回転しながら摺動することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の昇降装置。
【請求項7】
ガイド部材は、昇降方向に沿って延出したガイドレールと、ガイドレールに沿って摺動するスライダと、スライダの摺動範囲を設定するストッパとを備えており、昇降対象物はスライダに接続されていることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の昇降装置。
【請求項8】
運動伝達機構には、摺動部材をクサビ部材の傾斜面に押し付ける押付手段が設けられていることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の昇降装置。
【請求項9】
押付手段は、昇降対象物に付勢力を与えて摺動部材をクサビ部材の傾斜面に押し付ける付勢バネを備えていることを特徴とする請求項8に記載の昇降装置。
【請求項10】
押付手段は、昇降対象物の自重を利用して摺動部材をクサビ部材の傾斜面に押し付けることを特徴とする請求項8に記載の昇降装置。
【請求項11】
クサビ部材は、回転体と同心円状に分割して所定間隔で複数個設けられていることを特徴とする請求項1〜10のいずれかに記載の昇降装置。
【請求項12】
クサビ部材は、回転体と同心円状に連続して設けられていることを特徴とする請求項1〜10のいずれかに記載の昇降装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−137583(P2006−137583A)
【公開日】平成18年6月1日(2006.6.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−330048(P2004−330048)
【出願日】平成16年11月15日(2004.11.15)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)