説明

時刻表示部材の塗装方法および時刻表示部材

【課題】時刻表示部材の塗装を簡便にできる塗装方法およびこの方法で塗装された時刻表示部材を提供すること。
【解決手段】電着によって紫外線硬化型の塗膜2を形成することにより、略均一な塗膜2を実現できる。その後、基材11の時刻表示面3側から直進性のある紫外線を照射して、塗膜2を硬化するので、文字板1のうち、紫外線が照射されない裏面9を除く部分、すなわち、時刻表示面3、側面6、およびエッジ部7の塗膜2などを選択的に硬化できる。そして、裏面9の未硬化の塗膜2は除去液に浸漬することにより、機械的な除去工程なしに簡便に除去でき、結果として紫外線が照射された部分のみに選択的に塗装ができる。したがって、裏面9のマスキング、焼付け工程が不要となり、塗装を簡便に行なうことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、時刻表示部材の塗装方法および時刻表示部材に関する。
【背景技術】
【0002】
時計に使用される文字板等の時刻表示部材には、デザイン上の外観をよくする、あるいは時刻表示部材自体の耐蝕性等向上の点から塗装が施される。
従来、スプレー塗装により文字板等に塗膜を形成する方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
しかし、特許文献1に示されるスプレー塗装では、文字板の表示面側にのみ必要な塗装を行うには、塗装前に裏面のマスキングが必要である。マスキングを行わないと、文字板の裏面に塗膜が付着する。特に、アナログ式の時計のように駆動部を有したムーブメントを備える時計では、裏面に塗膜が付着したままにしておくと、塗膜の剥落等によりムーブメントに塗膜のかけらが進入し、停止や故障の原因となる。
また、スプレー塗装では、均一な膜厚の塗膜が得られにくく、液溜まりも生じやすい。その結果、略字植え穴や指針用穴に塗膜が詰まってしまう。そのため、塗装後の工程として、やすりがけや穴えぐり作業などの機械的な塗膜の除去工程を部品ごとに行っている。
その他、有機溶剤の使用とそれに伴う塗装室等の付帯設備が必要であるという課題もある。
【0003】
そこで、電着塗装により、均一な膜厚に塗膜を形成する方法が知られている(例えば、特許文献2参照)。
特許文献2に示される電着塗装では、略均一な膜厚の塗膜を得ることが可能なので、前述した機械的な塗膜の除去工程は不要になる。また、有機溶剤を使用しないので、それに伴う塗装室等の付帯設備も必要なくなる。
【0004】
【特許文献1】特開平5−164856号公報(第1頁)
【特許文献2】特開平5−312968号公報(第2頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、電着塗装において必要な部分に塗装を行うには、塗装の必要な部分のみが導電性を持つようにする必要がある。例えば、文字板となる基材が金属である場合、塗装の必要がない裏面に絶縁処理を施した後に電着塗装をしなければならない。絶縁処理を行うには、工程が何段階も必要であるため、面倒である。また、電着後の塗膜の焼付け工程も必要で、絶縁処理の工程も含め工数がふえ、簡便な塗装が難しいという課題がある。
【0006】
本発明の目的は、時刻表示部材の塗装を簡便にできる塗装方法およびこの方法で塗装された時刻表示部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の時刻表示部材の塗装方法は、導電可能な基材に紫外線硬化型の塗膜を電着により形成する塗膜形成工程と、前記基材の時刻表示面側から紫外線を照射して前記塗膜を硬化する硬化工程と、前記塗膜を除去液に浸漬することで、前記紫外線が照射されていない前記塗膜の未硬化部分を除去する除去工程とを備えていることを特徴とする。
【0008】
この発明によれば、電着によって紫外線硬化型の塗膜を形成することにより、略均一な塗膜が形成される。その後、基材の時刻表示面側から直進性のある紫外線を照射して塗膜を硬化するので、時刻表示部材のうち紫外線が照射されない裏面を除く部分、すなわち、時刻表示面、側面、およびエッジ部の塗膜などが選択的に硬化される。そして、裏面の未硬化の塗膜は、除去液に浸漬することにより、機械的な除去工程なしに簡便に除去され、結果として紫外線が照射された部分のみに選択的に塗装がされるようになる。したがって、裏面の絶縁処理や焼付け工程が不要となり、塗装が簡便に行える。
【0009】
本発明の時刻表示部材は、前述の時刻表示部材の塗装方法で塗装されたことを特徴とする。
この発明によれば、前述の塗装方法で塗装された時刻表示部材は、前述と同様の作用、効果を有し、簡便な塗装方法で得られる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、時刻表示部材の塗装を簡便にできる塗装方法およびこの方法で塗装された時刻表示部材を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1および図2は、本実施形態に係る時刻表示部材である時計用の文字板1を示している。図1には平面図、図2には概略断面図を示した。図3には、文字板1の塗装工程が示されている。
【0012】
文字板1には、時刻表示用の略字8が略字植え穴4に嵌め込まれ、指針用穴5があけられている。また、裏面9には、文字板1を図示しないムーブメントに固定するための固定用足10が取り付けられている。
文字板1の時刻表示面3、略字植え穴4の内面、指針用穴5の内面、側面6、およびエッジ部7には、塗膜2が形成されている。裏面9と固定用足10には、塗膜2は形成されていない。塗膜2の膜厚は略12μmである。
【0013】
このような、文字板1の塗装方法を図3に基づいて説明する。本実施形態の文字板1は、プラスチックの材料にめっきを施し基材11とし、その上に半透明な塗膜2を形成して、塗膜2を通してめっきの金属調を外観視できるものである。
めっき処理工程(A)において、プラスッチックの材料に、金属調を表現するためのめっきを施して基材11とする。絶縁材料であるプラスチックにめっきを施すには、無電解Ni処理やスパッタリング等により一旦導電性被膜を形成し、その後めっき(図示していない)を施す。めっきの材料は、塗膜2を形成した際の外観によって選択でき、金や銀等を選ぶことができる。本実施形態では、めっき処理の際にマスキングを行うことなく、時刻表示面3、略字植え穴4の内面、指針用穴5の内面、側面6、エッジ部7、裏面9、および固定用足10の全ての面にめっきを施す。
なお、基材11の材料は、導電性のある金属材料やセラミック等であってもよい。基材11の材料が導電性を有する金属材料からなり、所望の金属調が得られれば、めっき処理はしなくてもよい。また、塗膜2の色調、色彩のみで外観を表現する場合は、不透明な塗膜2を使用すればよい。このように、基材11と塗膜2の種類を選ぶことにより、種々の外観が表現できる。プラスチックやセラミックの絶縁材料に不透明な塗膜2を形成する場合は、導電性被膜のみ形成して導電可能な基材11として電着を行う。
【0014】
次に、塗膜形成・乾燥工程(B)を行う。最初に、電着により塗膜2を形成する。処理条件は、塗膜2の厚み、材質によって異なるが、印加電圧120Vで、処理時間二分間で行う。電着には、水にアクリル系の透明な紫外線硬化型樹脂と所定量の顔料とを分散させた半透明の電着塗料溶液を用いる。また、必要に応じて界面活性剤等の添加剤を加える。電着終了後、乾燥工程により、塗膜2を70℃で20分間乾燥して、水分を蒸発させる。
以上のように、めっきを施した全ての面に硬化前の半透明の塗膜2を形成する。すなわち、本実施形態では、裏面9に絶縁処理を行うことなく、時刻表示面3、略字植え穴4の内面、指針用穴5の内面、側面6、エッジ部7、裏面9、および固定用足10の全ての面に電着を行う。
【0015】
その後、硬化工程(C)を行う。ここでは、基材11の時刻表示面3側から高圧水銀灯を用いて紫外線(UV)を1200mj/cm照射して、塗膜2を硬化させる。紫外線の照射によっても膜厚に大きな変化は生じない。紫外線の照射は、時刻表示面3、略字植え穴4の内面、指針用穴5の内面、側面6に照射されるように、かつ文字板1の裏面9側に照射されないように、適切に傾け、回転させながら行う。
【0016】
最後に、除去工程(D)によって、裏面9および固定足10の未硬化部分の塗膜を除去する。除去は、文字板1全体を燐酸液に浸漬処理することにより行う。その後、中和洗浄を行い、乾燥して文字板1を得る。必要に応じて略字8等を取り付けて、最終的に文字板として時計に組み込み使用する。
【0017】
このような本実施形態によれば、以下の効果がある。
(1)電着によって紫外線硬化型の塗膜2を形成することにより、略均一な塗膜2を形成できる。その後、基材11の時刻表示面3側から直進性のある紫外線を照射して、塗膜2を硬化するので、文字板1のうち、紫外線が照射されない裏面9側を除く部分、すなわち、時刻表示面3、側面6、およびエッジ部7の塗膜2などを選択的に硬化できる。そして、裏面9の未硬化の塗膜2は除去液に浸漬することにより、機械的な除去工程なしに簡便に除去でき、結果として紫外線が照射された部分のみに選択的に塗装ができる。したがって、裏面9のマスキング、焼付け工程が不要となり、塗装を簡便に行なうことができる。
【0018】
(2)除去工程(D)で、裏面9側の未硬化の塗膜2をすべて除去できるので、電着塗装に必要なめっき処理を行う際には、裏面9にもマスキングなしでめっきを施し、基板11全体に塗膜2を電着させることができ、マスキング工程が不要なことで、工程をさらに簡略化できる。
【0019】
(3)除去工程(D)を液体で行うことができるので、複数の文字板1の処理を一度に大量にできる。また、機械的な除去工程と比較して、部品基材を傷つけることなく、不必要な塗膜2のみを確実に除去できる。
【0020】
(4)電着による塗膜2の形成なので、10μm程度の略均一な膜厚の塗膜2を、2分程度の処理時間で得ることができる。また、スプレー塗装とは異なって液溜り等が発生せず、穴えぐり等の付帯作業を不要にできる。
【0021】
(5)透明な紫外線硬化型樹脂に所定量の顔料を含む半透明の材料を使用したので、塗膜2を通してめっき面を外観視でき、透明感のある金属調の塗装面を得ることができる。また、顔料の種類を変えることにより、必要な色調、色彩を得ることができる。さらに、めっき処理によるめっきを薄くすれば、文字板1が電磁波を透過するため、ソーラ、電波時計にも応用できる。
【0022】
(6)塗膜2の形成は、電着塗装によるので、有機溶剤はほとんど必要がない。それに伴い、特別な作業環境を不要にできる。
【0023】
なお、本発明は前述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
例えば、前記実施形態では、文字板に塗膜を施していたが、本発明では、指針や略字等の表示面にのみ塗膜を施してもよい。
この場合、裏面の余分な塗膜による不必要な重量が指針や略字に備わることがないため、それらを軽量化できる。特に、腕時計の指針の場合は指針回転のためのトルクが弱く、指針の軽量化は重要である。また、細かい部品は、後工程で機械的に不必要な塗膜を除去するのが困難であるため、本発明のように液体で塗膜が除去できれば有用である。
【0024】
本発明を実施するための最良の構成、方法などは、以上の記載で開示されているが、本発明は、これに限定されるものではない。すなわち、本発明は、主に特定の実施形態に関して特に図示され、かつ、説明されているが、本発明の技術的思想および目的の範囲から逸脱することなく、以上述べた実施形態に対し、形状、材質、数量、その他の詳細な構成において、当業者が様々な変形を加えることができるものである。
したがって、上記に開示した形状、材質などを限定した記載は、本発明の理解を容易にするために例示的に記載したものであり、本発明を限定するものではないから、それらの形状、材質などの限定の一部もしくは全部の限定を外した部材の名称での記載は、本発明に含まれるものである。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の一実施形態にかかる文字板を示す平面図。
【図2】文字板を示す断面図。
【図3】文字板の塗装工程を示す図。
【符号の説明】
【0026】
1…時刻表示部材としての文字板、2…塗膜、3…時刻表示面、11…基材。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電可能な基材に紫外線硬化型の塗膜を電着により形成する塗膜形成工程と、
前記基材の時刻表示面側から紫外線を照射して前記塗膜を硬化する硬化工程と、
前記塗膜を除去液に浸漬することで、前記紫外線が照射されていない前記塗膜の未硬化部分を除去する除去工程とを備えていることを特徴とする時刻表示部材の塗装方法。
【請求項2】
請求項1の時刻表示部材の塗装方法で塗装されたことを特徴とする時刻表示部材。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−29975(P2006−29975A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−209139(P2004−209139)
【出願日】平成16年7月15日(2004.7.15)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)