説明

時計用軸受、ムーブメント、及び時計

【課題】押さえばねの外径を可変とし、一作業による小径化を可能とすることで、押さえばねの枠体への着脱作業を容易化し、作業効率を向上することができる時計用軸受、ムーブメント及び時計を提供する。
【解決手段】外径Dを備える押さえばね316は、把持部316dをピン356により軸中心I方向に変位させることで、弾性部316eが弾性変形し、係止部316aも軸中心I方向に変位することで外径D’へと小径化し、枠体312の内径Bを挿通可能となることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弾性支持体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、被固定体を枠体などに固定する際、弾性体による固定方法が採られている。
ここで、図22において、非特許文献1に示した時計用軸受510は、てんぷ受505(図示しない)に圧入固定される枠体512と、ほぞ522のラジアル方向変位を制限する穴石514と、内周面に穴石514が圧入固定される穴石枠511と、ほぞ522のスラスト方向変位を制限する受石515と、枠体512に穴石514を備えた穴石枠511及び受石515を固定する押さえばね516(弾性支持体)とにより構成され、ほぞ522のラジアル方向及びスラスト方向への変位を制限する。
【0003】
枠体512は、押さえばね516の係止片516aを挿通するための切り欠き部512aと、押さえばね516の係止片516aを内包するための溝部512bとが備えられている。
【0004】
枠体512への押さえばね516の固定は、例えば始めに押さえばね516に備えられた2本の係止片516aを枠体512の溝部512bに内包し、次に係止片516aの残りの1本を切り欠き部512aに挿通し、最後に押さえばね516をほぞ522の軸中心に対して回転させることで全ての係止片516aが溝部512bに内包されることにより行われる。また、取外しは前述の固定作業を逆順に行う。
【0005】
また、図23において、特許文献1の時計用軸受206は、押さえばね205(弾性支持体)及び枠体201の形状が、非特許文献1のそれとは異なる。押さえばね205は、中央支持部2091に2本の腕2101が向かい合う方向に形成され、それぞれの腕2101は連結腕2052と円弧部2081、及び連結腕2054と円弧部2082に分岐し、円弧部2081、2082の端にはそれぞれ連結腕2051、2053が形成されている。連結腕2051、2052、2053、2054の端には、それぞれ係止片2071、2072、2073、2074が備えられている。また、枠体201には、直径方向切り欠き部2012と、平行切り欠き部2013と、凹部2014が備えられている。
【0006】
枠体201への押さえばね205の固定は、例えば始めに押さえばね205の係止片2073、2074を、枠体201の直径方向切り欠き部2012を挿通して平行切り欠き部2013へ引っ掛ける。次に、枠体201の凹部2014に収まるようにピンセットで連結腕2052、2053をつまみ、連結腕2052、2053の距離を近づく方向に変位させた状態で連結腕2052を直径方向切り欠き部2012に挿通し、係止片2072を平行切り欠き部2013へ引っ掛ける。最後に、枠体201の凹部2014に収まるようにピンセットで連結腕2051、2054をつまみ、連結腕2051、2054の距離を近づく方向に変位させた状態で連結腕2051を直径方向切り欠き部2012に挿通し、係止片2071を平行切り欠き部2013へ引っ掛けることにより行われる。また、取外しは前述の固定作業を逆順に行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許出願公開第2006/0215499号明細書
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】「時計理論マニュアル−2− 輪列」、第二精工舎、1972年、p124−126
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、非特許文献1に示した押さえばね516の枠体512への固定作業は、第1段階として2本の係止片516aの溝部512bへの引っ掛け作業、第2段階として残りの1本の係止片516aの切り欠き部512aへの挿通作業、第3段階として挿通した最後の係止片516aを溝部512bに引っ掛けるための押さえばね516の回転作業、の3段階の作業が必要となり、作業に手間がかかり、作業時間が長くなってしまうという問題がある。
【0010】
また、特許文献1に示した時計用軸受206の押さえばね205の固定作業も、第1段階として2本の係止片2073、2074の平行切り欠き部2013への引っ掛け作業、第2段階として係止片2072の平行切り欠き部2013への引っ掛け作業、第3段階として係止片2071の平行切り欠き部2013への引っ掛け作業、の3段階の作業が必要となり、作業に手間がかかり、作業時間が長くなってしまうという問題がある。
【0011】
さらに、非特許文献1、特許文献1に共通して、卓上などに置かれた押さえばね516、205がピンセットで拾い難いという問題がある。
また、押さえばね516、205をピンセットで摘んだときに押さえばね516、205がピンセットから外れ、周囲に飛んでしまい、紛失してしまうという問題がある。
【0012】
さらに、枠体512、201には押さえばね516、205の係止片516a、2071〜2074を挿通可能とするための切り欠き部512a、2012が必要となり、切り欠き部512a、2012を形成するための加工工程の増加、それに伴う加工時間の増加や加工コストの増大に繋がるという問題がある。
【0013】
そこで、本発明は、上述の事情に鑑みてなされたものであり、押さえばねの枠体への取り付け、または取外し作業を1回の作業で行うことを可能にすることで、組立作業性の向上を図ることができる弾性支持体、時計用軸受、ムーブメント及び時計を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、上述した課題を解決するために以下の手段を提供する。
本発明に係る時計用軸受は、軸体と、軸体のラジアル方向及びスラスト方向の動きを規制する規制部材(穴石、受石)と、規制部材を収容する枠体と、枠体に対して取り付けられ、外部から規制部材に与えられる振動を吸収可能に支持する弾性支持体とを備える時計用軸受であって、枠体は、弾性支持体を取り付けるために用いられる溝を備え、前記弾性支持体は、溝に嵌め込まれる複数の係止片と、軸体に向けて複数の係止片のそれぞれを同時に移動させるために用いられる複数の把持部とを備え、係止片は、把持部によって移動させられることにより、溝に嵌め込まれるものであることを特徴としている。この構成によれば、時計用軸受の組立作業において、弾性支持体に備えられた複数の係止片を同時に移動させることができるため、弾性支持体の枠体への着脱作業を容易化でき、作業時間を短縮することができる。また、弾性支持体の外径を小径化することができるため、係止片を挿通するための枠体の切り欠き部が不要となり、切り欠き部の加工工程の省略により加工時間を短縮し、及び加工コストを低減することができる。また、弾性支持体に把持部を複数備えることで、専用の作業用治具を用いたときに弾性支持体を卓上などから拾いやすくなることや、把持したときに外れ難くすることができる。
【0015】
また、複数の把持部は、複数の係止片のそれぞれを軸体の回転中心に向かって移動させるものであることを特徴としている。
この構成によれば、軸方向への変形無しで弾性支持体における係止片の外径を小径化することができるため、簡単な把持で弾性支持体の係止片を枠体の溝部へ挿通させることができる。
【0016】
また、複数の把持部は、複数の係止片のそれぞれを軸体の直交方向に対して斜めに変形させるものであることを特徴としている。
この構成によれば、係止片のそれぞれを軸体の直交方向に対して斜めに変形することができるため、弾性支持体の係止片を枠体の溝部へより挿通しやすくなる。
【0017】
また、複数の把持部の各々は、弾性支持体に備えられた開口部であることを特徴としている。
この構成によれば、作業用治具に備えられた複数のピンで複数の把持部を掴んだ後に、一部のピンが把持部から外れた時でも、残りの把持しているピンが開口部(把持部)に内包されているため、弾性支持体は平面方向において移動を規制される。従って、弾性支持体は周囲に飛ばず、開口部によって移動を規制されていない重力方向に落ちるため、落ちた弾性支持体の発見が容易であり、弾性支持体を紛失してしまうのを防ぐことができる。
【0018】
また、複数の把持部の各々は、複数の係止片のそれぞれに連結された複数の連結部を備え、複数の連結部は円弧状に形成されたものであることを特徴としている。
この構成によれば、軸体と垂直方向において、係止片に連結された連結部のばね定数をより小さくすることができる。よって、小さな力で係止片を移動することができるため、把持する力の微調整ができ、また把持による疲れも低減することができるため、組立作業性が向上する。
【0019】
また、弾性支持体は、弾性支持体よりも厚さが薄い薄厚部を備え、複数の把持部は、薄厚部を介して係止片を軸体の直交方向に対して斜めに変形させるものであることを特徴としている。
この構成によれば、薄厚部におけるばね定数は、弾性支持体の薄厚部以外の部位のばね定数よりも小さくなるため、係止片を軸体の直交方向に対して斜めに変形させる際に小さな力で変形することが可能となる。
【0020】
また、複数の把持部は、軸体側の端部にテーパーを備えることを特徴としている。
この構成によれば、把持部の力点位置をずらすことができるため、係止片を軸体の直交方向に対して斜めに変形させる際に小さな力で変形することが可能となる。
【0021】
また、複数の把持部は、軸体の周方向に等間隔に備えられることを特徴としている。
また、複数の把持部は、軸体に対して対称となる位置に備えられることを特徴としている。
これらの構成によれば、把持部を掴んだときの弾性支持体への力のバランスが軸体に対して対称になるため、弾性支持体の変形も軸体に対して対称となる。これにより、組立作業時に弾性支持体が作業用治具から外れ難くなるため、組立作業性が向上する。
【0022】
また、複数の係止片は、溝に嵌め込まれる端部にテーパーを備えることを特徴としている。
この構成によれば、係止片のテーパーがガイドの役割を果たし、弾性支持体の係止片を枠体の溝へ内包しやすくなるため、組立作業性が向上する。
【0023】
また、複数の把持部は、軸体側に切り欠き部を備えることを特徴としている。
この構成によれば、作業用治具のピンの形状に合った切り欠き部を把持部に形成することで、ピンと把持部の接触面積や接触箇所を増やすことができるので、ピンと把持部に作用する摩擦力が大きくなり、弾性支持体の治具による把持力を大きくすることができる。その結果、弾性支持体は治具から外れ難くなるため、弾性支持体を取り扱う際に弾性支持体を治具から飛ばしてしまったり、また紛失してしまったりするのを防止することができる。
【0024】
また、本発明に係るムーブメントは、輪列、脱進機、及び調速機を備えた時計のムーブメントであって、輪列または脱進機または調速機の少なくともいずれかに本発明の時計用軸受が用いられていることを特徴としている。
この構成によれば、上記本発明の時計用軸受を備えているので、組立作業性の高いムーブメントを提供することができる。
【0025】
また、本発明に係る時計は、上記本発明のムーブメントと、該ムーブメントを内包するケーシングとを備えていることを特徴としている。
この構成によれば、上記本発明のムーブメントを備えているので、組立作業性の高い時計を提供できる。
【発明の効果】
【0026】
本発明に係る時計用軸受によれば、弾性支持体の枠体への着脱作業を容易化でき、作業時間を短縮することができる。また、枠体の切り欠き部が不要となり、切り欠き部の加工工程の省略により加工時間を短縮し、加工コストを低減することができる。さらに、弾性支持体を卓上などから拾いやすくなることや、把持したときに弾性支持体が保持治具から外れ難くすることができる。
【0027】
本発明に係るムーブメント及び時計によれば、軸受の組立や修理の作業が容易なムーブメント及び時計を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】図1は、本発明の実施形態における機械式時計のムーブメント表側の平面図である(一部の部品を省略し、受部材は仮想線で示している)。
【図2】図2は、本発明の実施形態における香箱からがんぎ車の部分を示す概略部分断面図である。
【図3】図3は、本発明の実施形態におけるがんぎ車からテンプの部分を示す概略部分断面図である。
【図4】図4は、本発明の第1実施形態における弾性支持体(押さえばね)を備えた時計用軸受の上面図(a)と、図(a)中切断線A−A’における断面図(b)である。
【図5】図5は、本発明の第1実施形態における弾性支持体(押さえばね)の上面図(a)と、側面図(b)である。
【図6】図6は、本発明の第1実施形態における弾性支持体(押さえばね)の変形について説明する上面図である。
【図7】図7は、本発明の第1実施形態における弾性支持体(押さえばね)を枠体に取り付ける際の弾性支持体(押さえばね)の動きを説明するための時計用軸受の断面図である。
【図8】図8は、本発明の第2実施形態における時計用軸受の上面図(a)と、図(a)中切断線G−G’における断面図(b)である。
【図9】図9は、本発明の第2実施形態における弾性支持体(押さえばね)の上面図である。
【図10】図10は、本発明の第2実施形態における弾性支持体(押さえばね)の変形を説明するための上面図である。
【図11】図11は、本発明の第3実施形態における時計用軸受の上面図(a)と、(a)中切断線K−K’における断面図(b)である。
【図12】図12は、本発明の第3実施形態における弾性支持体(押さえばね)の上面図である。
【図13】図13は、本発明の第3実施形態における弾性支持体(押さえばね)の変形について説明する上面図である。
【図14】図14は、本発明の第4実施形態における弾性支持体(押さえばね)の斜視図である。
【図15】図15は、本発明の第4実施形態における弾性支持体(押さえばね)の図14中の切断線W−W’における押さえばね変形前の断面図(a)と、押さえばねの変形の原理を説明する図(b)と、切断線W−W’を参照する押さえばね変形後の断面図(c)である。
【図16】図16は、本発明の第5実施形態における弾性支持体(押さえばね)の斜視図である。
【図17】図17は、本発明の第5実施形態における弾性支持体(押さえばね)の図16中の切断線X−X’における押さえばね変形前の断面図(a)と、押さえばねの変形の原理を説明する図(b)と、切断線X−X’を参照する押さえばね変形後の断面図(c)である。
【図18】図18は、本発明の第6実施形態における弾性支持体(押さえばね)の斜視図(a)と、上面図(b)である。
【図19】図19は、本発明の第6実施形態における弾性支持体(押さえばね)の押さえばね変形前の側面図(a)と、押さえばね変形後の側面図(b)である。
【図20】図20は、本発明の第7実施形態における弾性支持体(押さえばね)の上面図(a)と、図(a)中切断線AB−AB’における断面図(b)である。
【図21】図21は、本発明の第8実施形態における弾性支持体(押さえばね)の上面図である。
【図22】図22は、先行技術文献である非特許文献1を示す図である。
【図23】図23は、先行技術文献である特許文献1を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
次に、本発明に係る弾性支持体の実施形態を図面に基づいて説明する。
(第1実施形態)
(機械式時計)
図1は機械式時計のムーブメント表側の平面図であり、図2は香箱からがんぎ車の部分を示す概略部分断面図であり、図3はがんぎ車からテンプの部分を示す概略部分断面図である。なお、図1では一部の部品を省略し、受部材は仮想線で示している。
【0030】
図1〜図3に示すように、機械式時計のムーブメント100は、ムーブメント100の基板を構成する地板102を有している。地板102の巻真案内穴102aには、巻真110が回転可能に組み込まれている。文字板104(図2参照)はムーブメント100に取り付けられる。一般に、地板102の両側のうち、文字板104が配される側をムーブメント100の裏側と称し、文字板104が配される側の反対側をムーブメント100の表側と称する。ムーブメント100の表側に組み込まれる輪列を表輪列と称し、ムーブメント100の裏側に組み込まれる輪列を裏輪列と称する。なお、ムーブメント100にケーシング(不図示)を設けることにより携帯用時計として構成される。
【0031】
おしどり190、かんぬき192、かんぬきばね194、裏押さえ196を含む切換装置により、巻真110の軸線方向の位置が決められている。きち車112は巻真110の案内軸部に回転可能に設けられている。巻真110が、回転軸線方向に沿ってムーブメント100の内側に一番近い方の第1の巻真位置(0段目)にある状態で巻真110を回転させると、つづみ車の回転を介してきち車112が回転する。丸穴車114は、きち車112の回転により回転する。また、角穴車116は、丸穴車114の回転により回転する。角穴車116が回転することにより、香箱車120に収容されたぜんまい122(図2参照)を巻き上げる。
【0032】
二番車124は、香箱車120の回転により回転する。がんぎ車130は、四番車128、三番車126、二番車124の回転を介して回転する。香箱車120、二番車124、三番車126、四番車128は表輪列を構成する。
【0033】
表輪列の回転を制御するための脱進機及び調速機は、テンプ140と、がんぎ車130と、アンクル142と、を含む。二番車124の回転に基づいて、筒かな150(図2参照)が同時に回転する。筒かな150に取り付けられた分針152が「分」を表示する。筒かな150には、二番車124に対するスリップ機構が設けられている。筒かな150の回転に基づいて、日の裏車の回転を介して、筒車154が回転する。筒車154に取り付けられた時針156が「時」を表示する。
【0034】
香箱車120は、香箱歯車120dと、香箱真120fと、ぜんまい122と、を備えている。香箱真120fは、上軸部120aと、下軸部120bと、を含む。香箱真120fは、炭素鋼などの金属で形成されている。香箱歯車120dは黄銅などの金属で形成されている。
【0035】
二番車124は、上軸部124aと、下軸部124bと、かな部124cと、歯車部124dと、そろばん玉部124hと、を含む。二番車124のかな部124cは香箱歯車120dと噛み合うように構成されている。上軸部124a、下軸部124b及びそろばん玉部124hは、炭素鋼などの金属で形成されている。歯車部124dはニッケルなどの金属で形成されている。
【0036】
三番車126は、上軸部126aと、下軸部126bと、かな部126cと、歯車部126dと、を含む。三番車126のかな部126cは歯車部124dと噛み合うように構成されている。
【0037】
四番車128は、上軸部128aと、下軸部128bと、かな部128cと、歯車部128dと、を含む。四番車128のかな部128cは歯車部126dと噛み合うように構成されている。上軸部128aと、下軸部128bは、炭素鋼などの金属で形成されている。歯車部128dはニッケルなどの金属で形成されている。
【0038】
がんぎ車130は、上軸部130aと、下軸部130bと、かな部130cと、歯車部130dと、を含む。がんぎ車130のかな部130cは歯車部128dと噛み合うように構成されている。アンクル142は、アンクル体142dと、アンクル真142fと、を備えている。アンクル真142fは、上軸部142aと、下軸部142bとを含む。
【0039】
香箱車120は、地板102及び香箱受160に対して回転可能に支持されている。
すなわち、香箱真120fの上軸部120aは、香箱受160に対して回転可能に支持される。香箱真120fの下軸部120bは、地板102に対して、回転可能に支持される。二番車124、三番車126、四番車128、がんぎ車130は、地板102及び輪列受162に対して回転可能に支持されている。すなわち、二番車124の上軸部124a、三番車126の上軸部126a、四番車128の上軸部128a、がんぎ車130の上軸部130aは、輪列受162に対して回転可能に支持される。また、二番車124の下軸部124b、三番車126の下軸部126b、四番車128の下軸部128b、がんぎ車130の下軸部130bは、地板102に対して、回転可能に支持される。
【0040】
アンクル142は、地板102及びアンクル受164に対して回転可能に支持されている。すなわち、アンクル142の上軸部142aは、アンクル受164に対して回転可能に支持される。アンクル142の下軸部142bは、地板102に対して、回転可能に支持される。
【0041】
香箱真120fの上軸部120aを回転可能に支持する香箱受160の軸受部と、二番車124の上軸部124aを回転可能に支持する輪列受162の軸受部と、三番車126の上軸部126aを回転可能に支持する輪列受162の軸受部と、四番車128の上軸部128aを回転可能に支持する輪列受162の軸受部と、がんぎ車130の上軸部130aを回転可能に支持する輪列受162の軸受部と、アンクル142の上軸部142aを回転可能に支持するアンクル受164の軸受部には、潤滑油が注油される。また、香箱真120fの下軸部120bを回転可能に支持する地板102の軸受部と、二番車124の下軸部124bを回転可能に支持する地板102の軸受部と、三番車126の下軸部126bを回転可能に支持する地板102の軸受部と、四番車128の下軸部128bを回転可能に支持する地板102の軸受部と、がんぎ車130の下軸部130bを回転可能に支持する地板102の軸受部と、アンクル142の下軸部142bを回転可能に支持する地板102の軸受部には、潤滑油が注油される。この潤滑油は、精密機械用油であるのが好ましく、いわゆる時計油であるのが特に好ましい。
【0042】
地板102のそれぞれの軸受部、香箱受160の軸受部、輪列受162のそれぞれの軸受部には、潤滑油の保持性能を高めるために、円錐状、円筒状、または円錐台状の油溜め部を設けるのが好ましい。油溜め部を設けると、潤滑油の表面張力により油が拡散するのを効果的に阻止することができる。地板102、香箱受160、輪列受162、アンクル受164は、黄銅などの金属で形成してもよいし、ポリカーボネートなどの樹脂で形成してもよい。
【0043】
(テンプの構造)
次に、本実施形態のテンプの構造について説明する。
図3に示すように、テンプ140は、てん真140a及びひげぜんまい140cを備えている。
【0044】
ひげぜんまい140cは、複数の巻き数をもったうずまき状(螺旋状)の形態の薄板ばねである。ひげぜんまい140cの内端部は、てん真(軸本体部)140aに固定されたひげ玉140dに固定され、ひげぜんまい140cの外端部は、テンプ受167に回転可能に取り付けられたひげ持受170に取り付けたひげ持170aを介してねじ締めにより固定されている。時計用軸受310に備えられた枠体312は、その外周部がテンプ受167及び地板102に固定されている。また、緩急針168は、テンプ受167に回転可能に取り付けられている。さらに、テンプ140は、地板102及びテンプ受167に対して回転可能に支持されている。
【0045】
ここで、テンプ140は、中心軸線Cを中心に回転可能に構成されており、てん真140aの両端にはほぞ321,322が形成されている。下側(裏側)のほぞ321と、上側(表側)のほぞ322は、時計用軸受310に対して回転可能に支持されている。
【0046】
(耐振機能)
図3において、ムーブメント100に衝撃などの外力が加わったとき、テンプ140は、ほぞ321またはほぞ322を介して時計用軸受310内の穴石314または受石315に力を加える。このとき、穴石314または受石315は、加えられた力によって変位しようとするが、押さえばね316の弾性力により、所定の位置に押し戻される。前述の挙動により、ムーブメント100に衝撃などの外力が加わっても、穴石314または受石315は力の作用する方向に逃げることができるため、ほぞ321、322に過剰な力が加わって折れて計時が停止するのを防ぐことができる。前述の機能を、耐振機能という。
【0047】
(弾性支持体の構造)
次に、本実施形態の弾性支持体の構造について説明する。
本実施形態における弾性支持体は、押さえばね316である。
【0048】
図4は、本実施形態における弾性支持体(押さえばね)を備えた時計用軸受の上面図(a)と、図4(a)中切断線A−A’における断面図(b)であり、図5は、本実施形態における弾性支持体(押さえばね)の上面図(a)と、側面図(b)であり、図6は、本実施形態における弾性支持体(押さえばね)の変形について説明する上面図であり、図7は、本実施形態における弾性支持体(押さえばね)を枠体に取り付ける際の弾性支持体(押さえばね)の動きを説明するための時計用軸受の断面図である。
【0049】
図4において、時計用軸受310は、てんぷ受167(図示しない)に圧入固定される枠体312と、穴石枠311と、穴石枠311の内周面に圧入固定された穴石314と、受石315と、穴石枠311及び受石315を枠体312に固定するための押さえばね316とを備えている。
【0050】
押さえばね316は、当接部316cにより受石315の上面315aに当接し、また係止部316aが枠体312の溝部312bに内包されることで、受石315、穴石314、穴石枠311を枠体312に固定する。
【0051】
図5において、押さえばね316は平面形状をしており、枠体312の溝部312bに内包される係止部316aと、治具で押さえばね316を把持する際に用いる把持部316dと、受石315と当接する当接部316cと弾性変形する弾性部316eとにより構成されている。押さえばね316の厚さHは、0.01〜1mmの範囲内であるのが望ましい。
【0052】
図6において、変形前の押さえばね316fの形状を破線で、変形後の押さえばね316gの形状を実線で示している。押さえばね316fは外径Dを有し、把持部316dにそれぞれピン356を挿入し、軸中心Iに向かってピン356により把持部316dを移動させると、押さえばね316のある平面上で弾性部316eが弾性変形し、係止部316aも軸中心Iに向かって移動し、外径D’(<D)を有する押さえばね316gとなる。
【0053】
また、押さえばね316gからピン356を引き抜くと、押さえばね316fに復帰する。
押さえばね316の外径Dは、1〜5mmの範囲内であるのが望ましい。
【0054】
また、外径Dは、溝部312bの径と同じ、もしくは溝部312bの外径よりも数μm小さければ良い。溝部312bの外径と、外径Dとの間のクリアランスを最小限とすることで、押さえばね316の中心位置を軸中心Iに近づけることができる。よって、受石315や穴石314、また穴石枠311が、ほぞ321(322)の軸方向に対して傾くのを抑えることができる。
【0055】
ピン356として、ピンセットや押さえばね316専用の作業用治具を用いることとし、専用治具においては精密機械用の工具であるピンバイスの構造を模したものを用いると作業が容易となる。特に、専用治具のピン356が押さえばね316の厚さ方向と平行に形成されていると、ピン356と押さえばね316の接触面積が増え、摩擦が大きくなるので、押さえばね316が把持中に落ちたり飛んでしまったりするのを防ぎやすくなる。
【0056】
図7は、押さえばね316を時計用軸受310に取り付ける前、取り付け中、取り付け後の3つの状態を示している。取り付け前の押さえばね316を押さえばね316h、取付中の押さえばね316を押さえばね316i、取付後の押さえばねを押さえばね316jとする。
【0057】
枠体312の外側にある押さえばね316hは、その外径がDであるため、Dより小径の枠体312の内径Bを挿通することができない。そこで、ピン356により押さえばね316hの把持部316dを把持し、把持部316dを軸中心I方向に移動させることにより、係止部316aを軸中心I方向に変位させ、小径化して外径D’となる押さえばね316iの状態にする。
【0058】
押さえばね316iは、外径D’より大径の枠体312の内径Bを挿通することができる。枠体312の内径Bを押さえばね316iが挿通した後に、押さえばね316iからピン356を離すと、弾性部316eの弾性力により、押さえばね316jの外径がDに復帰し、係止部316aが枠体312の溝部312bに内包され、押さえばね316jは枠体312に固定される。また、押さえばね316jを枠体312から取り外す際は、前述の取り付け作業を逆順に行う。
【0059】
なお、本実施例では押さえばね316における係止部316a、把持部316d、弾性部316eを2箇所ずつ備える形状で説明したが、係止部316a及び把持部316dはそれぞれ2箇所以上、弾性部316eは1箇所以上備えていれば、本実施例の内容を逸脱しない範囲で多様な形状を採ることができる。
【0060】
上述のとおり、本実施例における弾性支持体(押さえばね316)は、ピンセットや専用治具により扱うことができ、特に専用治具を使用する方がピンセットを使用するよりも押さえばね316が外れ難くなり、押さえばね316の取り扱いを容易とすることができる。また、押さえばね316の枠体312への脱着において、係止部316aの溝部312bへの挿通作業が一度で行えるため、押さえばね316の脱着作業が容易となり、作業時間を短くすることができる。さらに、枠体312に従来必要であった切り欠き部512aが不要となるので、加工工程を減らすことができる。さらに、溝部312bの外径と、押さえばね316の直径Dとの間のクリアランスを最小にすることができるため、受石315や穴石314、また穴石枠311がほぞ321、322の軸方向に対して傾くのを抑えることができる。
【0061】
(第2実施形態)
図8は、本発明の第2実施形態における時計用軸受の上面図(a)と、図(a)中切断線G−G’における断面図(b)であり、図9は、第2実施形態における押さえばねの上面図であり、図10は、押さえばねの変形を説明するための上面図である。
【0062】
図8、図9に示すように、押さえばね317は、把持部317d、係止部317a、弾性部317eをそれぞれ3箇所ずつ備えている。押さえばね317は、押さえばね316とは把持部、係止部、及び弾性部の数が異なる。第1実施形態でも述べたように、押さえばね317は、本発明の内容を逸脱しない範囲で多様な形状を採ることができる。
【0063】
図10に示すように、押さえばね317fは、把持部317dを3本のピン356で軸中心Iの方向に移動させられることにより、係止部317aも軸中心Iの方向へ移動し、押さえばね317gへの変形を可能とする。つまり、押さえばね317は、押さえばね317fの外径Dを、押さえばね317gの外径D’まで小径化することができる。従って、押さえばね317は枠体312の内径Bを挿通することができ、押さえばね317は枠体312に着脱することができる。押さえばね317の変形に使用するピン357の数が3本必要であるため、ピンセットではなく押さえばね317専用の作業用治具を用いる。
【0064】
上述のとおり、本実施例における弾性支持体(押さえばね317)は、把持部317d、係止部317a、弾性部317eがそれぞれ3箇所ずつ形成されており、ピン357が3本形成された専用治具を使用する。押さえばね317を拾い上げたり、持ち運んだり、変形させたりする際、3箇所で把持することができるため、専用治具から押さえばね317がより外れ難くなり、押さえばね317の取り扱いがより容易となる。
【0065】
(第3実施形態)
図11は、本発明の第3実施形態における時計用軸受の上面図(a)と、(a)中切断線K−K’における回転断面図(b)であり、図12は、弾性支持体(押さえばね)の上面図(a)と側面図(b)であり、 図13は、弾性支持体(押さえばね)の変形について説明する上面図である。
【0066】
図11において、時計用軸受310bは、枠体312と、穴石枠体311と、穴石枠311の内周面に圧入固定された穴石314と、受石315と、穴石枠311及び受石315を枠体312に固定するための押さえばね318とを備えている。押さえばね318は、当接部318cにより受石315の上面315aを押さえ、また係止部318aが枠体312の溝部312bに内包されることで、受石315、穴石314、穴石枠311を枠体312に固定する。
【0067】
図12において、押さえばね318は、平面形状であり、当接部318cを備え、軸中心Iを中心とした円形の受石押さえ部318hと、枠体312の溝部312bに内包される係止部318aと、把持部318dと、受石押さえ部318hと係止部318a及び把持部318dとを繋ぐ弾性部318eにより構成されている。
【0068】
図13において、押さえばね318は、弾性部の弾性変形により、外径Dを小径化し、外径D’とすることができる。
図13では、変形前の押さえばね318fを破線で示し、変形後の押さえばね318gを実線で示す。
【0069】
外径Dの押さえばね318fは、把持部318dのそれぞれに専用治具であるピン356を挿入し、軸中心Iに向かってピン356を移動させ、弾性部318eが弾性変形し、ピン356は矢印Pだけ移動し、それに伴い把持部318d及び係止部318aも移動することで、外径D’の押さえばね318gへと小径化する。また、押さえばね318gからピン356を引き抜くと、押さえばね318fに復帰する。
【0070】
また、押さえばね318と溝部312b間の径方向のクリアランスにおいて、外径Dは、溝部312bの外径と同じか、数μm小さければ良い。
溝部312bの外径と、外径Dとの間のクリアランスを最小限にすることで、押さえばね318の中心位置を軸中心Iに近づけることができる。よって、受石315や穴石314、また穴石枠311がほぞ321、322の回転軸方向に対して傾くのを抑えることができる。
【0071】
上述のとおり、押さえばね318の形状にすることで、1つの把持部318d及び係止部318aに対して1つの弾性部318eしか備わっていないため、ピン356の力が複数の弾性部に分散することがないため、小さな力で押さえばね318を小径化することができる。また、弾性部318eのバネ定数を設計時に調整することで、弾性部318eの弾性変形をさらに容易に行うことができる。
【0072】
(第4実施形態)
図14は、本発明の第4実施形態における弾性支持体(押さえばね)の斜視図であり、図15は、弾性支持体(押さえばね)の図14中の切断線W−W’における押さえばね変形前の断面図(a)と、押さえばねの変形の原理を説明する図(b)と、切断線W−W’を参照する押さえばね変形後の断面図(c)である。
【0073】
図14において、第4実施形態の弾性支持体の第1実施形態との違いは、さらい319lが設けられており、弾性部319eに薄厚部319bが備えられていることである。さらい319lは、弾性部319eの押さえばね319が受石上面315aに当接する側の面に形成される。
【0074】
図15(a)において、さらい319lの最大深さYは、弾性部319eの中心に位置する。最大深さYは、押さえばね319の高さHに対し、0<Y≦H*4/5の範囲にあるのが望ましい。また、変形前の押さえばね319の外径は、外径Dである。
図15(b)において、点Qは把持部319dの中心点、点Rは線分Q−Q’の中点、点Sはさらい319lの形成後の押さえばね319の重心位置を示す。
【0075】
重心Sは支点、点Q,Q’は荷重点、ベクトルZ1は把持部319dをピン356(図示しない)で把持する際の把持力ベクトルとしたとき、ベクトルZ1は荷重点Q,Q’から支点Sに向かうベクトルZ2とベクトルZ2と垂直に交わり点Rに向かうベクトルZ3とに分解される。
【0076】
ベクトルZ3は、支点Sと荷重点Q,Q’とを結ぶ線分SQ,SQ’と垂直に交わるベクトルであるため、支点Sを中心に点Q,Q’を回転させるためのモーメントが発生し、押さえばね319は重心Sと弾性部319eにおけるさらい319lの最大深さYのある位置とを結ぶ直線を中心に折れ曲がる。
また、弾性部319eは、押さえばね319と同一曲面上でも変形する。
【0077】
図15(c)において、折れ曲がって小径化した押さえばね319は、外径D’となり、枠体312の内径Bを相通することができ、押さえばね319の枠体312への着脱が可能となる。
【0078】
上述のとおり、押さえばね319は、押さえばね319の同一平面上のみならず、てん真140aの回転軸Cと垂直な方向を中心とした曲げによる変形も行うことができ、容易に外径Dから外径D’へ小径化することができる。また、押さえばね319が回転軸Cと垂直な方向を中心とした曲げによる変形を行うことで、係止部319aを枠体312の溝部312bへ入れやすくすることができ作業容易性が向上する。
なお、本実施例では、本実施例の内容を逸脱しない範囲で多様なさらい形状を採ることができる。
【0079】
(第5実施形態)
図16は、本発明の第5実施形態における弾性支持体(押さえばね)の斜視図であり、図17は、弾性支持体(押さえばね)の図16中の切断線X−X’における押さえばね変形前の断面図(a)と、押さえばねの変形の原理を説明する図(b)と、切断線X−X’を参照する押さえばね変形後の断面図(c)である。
【0080】
図16において、第5実施形態の弾性支持体の第1実施形態との違いは、テーパ部320mが形成され、把持部320dの高さFが押さえばね320の高さHよりも小さいことである。テーパ部320mは、把持部320dの片側のエッジに形成されている。
【0081】
図17(a)において、テーパ部320mの高さFは、押さえばね319の高さHに対し、0<F≦0.5Hの範囲にあるのが望ましい。また、変形前の押さえばね320の外径は、外径Dである。
図17(b)において、点U,U’は把持部320dの中心点、点Vは線分U−U’の中点、点Tは押さえばね320の重心位置を示す。
【0082】
重心Tは支点、点U,U’は荷重点、ベクトルZ’1は把持部320をピン356(図示しない)で把持する際の把持力ベクトルとしたとき、ベクトルZ’1は荷重点U,U’から支点Tに向かうベクトルZ’2とベクトルZ’2と垂直に交わり点Vに向かうベクトルZ’3とに分解される。
【0083】
ベクトルZ’3は、支点Tと荷重点U,U’とを結ぶ線分TU,TU’と垂直に交わるベクトルであるため、支点Tを中心に点U,U’を回転させるためのモーメントが発生し、押さえばね320は重心Tと弾性部320eの中心とを結ぶ直線を中心に折れ曲がる。
また、弾性部320eは、押さえばね320と同一曲面上でも変形する。
【0084】
図17(c)において、折れ曲がり、小径化した押さえばね320の外径は、外径D’となり、枠体312の内径Bを相通することができ、押さえばね320の枠体312への取り付け、取外しが可能となる。
【0085】
上述のとおり、支点となる重心Tに対して、荷重点U,U’の位置が、ほぞ321(322)の軸方向のてんぷ140がある方向にずれるため、押さえばね320を把持したときに曲げモーメントが発生し、押さえばね320の同一平面上のみならず、てん真140aの回転軸Cと垂直な方向を中心とした曲げによる変形も行うことができ、容易に外径Dから外径D’へ小径化することができる。また、押さえばね320が回転軸Cと垂直な方向を中心とした曲げ変形を行うことで、係止部320aを枠体312の溝部312bへ入れやすくすることができ、作業容易性が向上する。
【0086】
なお、本実施形態では、本実施例の内容を逸脱しない範囲で把持部320dの高さFを備える方法を多様に採ることができる。例えば、テーパ部320mは切り欠きやさらいなどで備えても良い。
また、本実施形態は、第4実施形態と組み合わせることで、より曲げ変形を容易にすることができ、押さえばねの小径化をより容易に行うことができる。
【0087】
(第6実施形態)
図18は、本発明の第6実施形態における弾性支持体(押さえばね)の斜視図(a)と、上面図(b)であり、図19は、本発明の第6実施形態における弾性支持体(押さえばね)の押さえばね変形前の側面図(a)と、押さえばね変形後の側面図(b)である。
図18(a),(b)において、押さえばね360は、係止部360aと、弾性部360eと、把持部360dにより構成されている。
【0088】
図19(a)において、変形前の押さえばねは外径Dを備える。また、把持部360dは、弾性部360eと係止部360aのある平面から角度θの傾きを備えている。例えば、角度θの範囲は30°≦θ≦60°であるのが望ましい。把持部360dをピンセットもしくは専用治具のピン356(図示しない)により矢印AA、AA’の方向に変位させると、弾性部360eが弾性変形し、把持部360dと繋がっている係止部360aも変位する。
【0089】
図19(b)において、変形後の押さえばね360nの外径はD’となり、枠体312の内径Bを挿通することができる。これにより、押さえばね360の枠体312への着脱が可能となる。
【0090】
上述のとおり、押さえばね360は、てん真140aの回転軸Cと垂直な方向を中心とした曲げ変形をし、容易に外径Dから外径D’へ小径化することができる。また、押さえばね360が回転軸Cと垂直な方向を中心とした曲げ変形を行うことで、係止部360aを枠体312の溝部312bへ入れやすくすることができ、作業容易性が向上する。さらに把持部360dは、弾性部360eと係止部360aのある平面から角度θの傾きを備えているため、ピンセットまたは専用治具のピン356での拾い上げが容易となる。
【0091】
なお、本実施形態では、本実施例の内容を逸脱しない範囲で多様な把持部360dの形状や角度θを採ることができる。
また、本実施形態は、第4実施形態と組み合わせることで、より曲げ変形を容易にすることができ、押さえばねの小径化をより容易に行うことができる。
【0092】
(第7実施形態)
図20は、本発明の第7実施形態における弾性支持体(押さえばね)の上面図(a)と、図(a)中切断線AB−AB’における断面図(b)である。
【0093】
第7実施形態の第1実施形態との違いは、係止部361aにテーパ部360oが備えられていることである。押さえばね361にテーパ部360oが備えられていることにより、枠体312への取り付けの際、テーパ部360oが溝部312bへのガイドの役割を果たし、係止部361aの溝部312bへの挿入が容易となる。
【0094】
上述のとおり、係止部361aにテーパ部360oが備えられていることにより、係止部361aの溝部312bへの挿入が容易となるため、作業性が向上する。
また、本実施形態は、第1〜第6実施形態のそれぞれと組み合わせることで、押さえばねの枠体312への取り付けをより容易に行うことができる。
【0095】
(第8実施形態)
図21は、本発明の第8実施形態における弾性支持体(押さえばね)の上面図である。
第8実施形態の第1実施形態との違いは、把持部362dに切り欠き部362pが備えられていることである。切り欠き部362pの形状は、ピン356(図示しない)の形状に従って形成される。切り欠き部362pの形状が、ピン356の形状に従って形成されるため、ピン356で押さえばね362を把持する際、把持部362dに形成された切り欠き部362pとピン356との接触面積が増えることにより、接触箇所の摩擦抵抗が増大し、押さえばね362がピン356からより外れ難くなる。
【0096】
上述のとおり、把持部362dに切り欠き部362pが備えられていることにより、ピン356で押さえばね362を把持する際、押さえばね362がピン356からより外れ難くなるため、作業性が向上する。
また、本実施形態は、第1〜第7実施形態のそれぞれと組み合わせることで、押さえばねの枠体312への脱着作業をより容易に行うことができる。
【0097】
なお、本発明の技術範囲は、上述した各実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、上述した実施形態に種々の変更を加えたものを含む。すなわち、上述した実施形態で挙げた構成等はほんの一例に過ぎず、適宜変更が可能である。
【0098】
例えば、本発明の各実施形態における弾性支持体は、テンプ140のほぞ321、322を受ける軸受に使用して説明をしているが、本発明における弾性支持体はテンプ140(調速機)以外にも、輪列や脱進機などにも適宜使用可能である。
また、上述した各実施形態を適宜組み合わせても構わない。
【符号の説明】
【0099】
310、310a,310b…時計用軸受、311…穴石枠、312…枠体、溝部…312b、312c…挿通穴、314…穴石、315…受石、315a…受石上面、316、317、318、319、320、360、361、362…押さえばね、316a、317a、318a、319a、320a、360a、361a、362a…係止部、316d、317d、318d、319d、320d、360d、361d、362d…把持部、316e、317e、318e、319e、320e、360e、361e、362e…弾性部、321,322…ほぞ、323…てん真、356…ピン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸体と、
前記軸体のラジアル方向及びスラスト方向の動きを規制する規制部材と、
前記規制部材を収容する枠体と、
前記枠体に対して取り付けられ、外部から前記規制部材に与えられる振動を吸収可能に支持する弾性支持体と、
を備える時計用軸受であって、
前記枠体は、前記弾性支持体を取り付けるために用いられる溝を備え、
前記弾性支持体は、
前記溝に嵌め込まれる複数の係止片と、
前記軸体に向けて前記複数の係止片のそれぞれを同時に移動させるために用いられる複数の把持部と、
を備え、
前記係止片は、前記把持部によって移動されることにより、前記溝に嵌め込まれるものであることを特徴とする時計用軸受。
【請求項2】
前記複数の把持部は、前記複数の係止片のそれぞれを前記軸体の回転中心に向かって移動させるものであることを特徴とする請求項1に記載の時計用軸受。
【請求項3】
前記複数の把持部は、前記複数の係止片のそれぞれを前記軸体の直交方向に対して斜めに変形させるものであることを特徴とする請求項1に記載の時計用軸受。
【請求項4】
前記複数の把持部の各々は、前記弾性支持体に備えられた開口部であることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の時計用軸受。
【請求項5】
前記複数の把持部の各々は、前記複数の係止片のそれぞれに連結された複数の連結部を備え、前記複数の連結部は円弧状に形成されたものであることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の時計用軸受。
【請求項6】
前記弾性支持体は、前記弾性支持体よりも厚さが薄い薄厚部を備え、
前記複数の把持部は、前記薄厚部を介して前記係止片を前記軸体の直交方向に対して斜めに変形させるものであることを特徴とする請求項3に記載の時計用軸受。
【請求項7】
前記複数の把持部は、前記軸体側の端部にテーパーを備えることを特徴とする請求項3または6のいずれかに記載の時計用軸受。
【請求項8】
前記複数の把持部は、前記軸体の周方向に等間隔に備えられることを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載の時計用軸受。
【請求項9】
前記複数の把持部は、前記軸体に対して対称となる位置に備えられることを特徴とする請求項1から8のいずれかに記載の時計用軸受。
【請求項10】
前記複数の係止片は、前記溝に嵌め込まれる端部にテーパーを備えることを特徴とする請求項1から9のいずれかに記載の時計用軸受。
【請求項11】
前記複数の把持部は、前記軸体側に切り欠き部を備えることを特徴とする請求項1から10のいずれかに記載の時計用軸受。
【請求項12】
輪列、脱進機、及び調速機を備えた時計のムーブメントであって、前記輪列または前記脱進機または前記調速機の少なくともいずれかに、請求項1から11に記載の時計用軸受が用いられていることを特徴とするムーブメント。
【請求項13】
請求項12に記載のムーブメントと、前記ムーブメントを内包するケーシングとを備えていることを特徴とする時計。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【公開番号】特開2013−79919(P2013−79919A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−221279(P2011−221279)
【出願日】平成23年10月5日(2011.10.5)
【出願人】(000002325)セイコーインスツル株式会社 (3,629)