説明

時間変化的および周波数選択的なチャネルを推定するための方法

【課題】時間変化的および周波数選択的なチャネルを推定するための方法を提供する。
【解決手段】直交周波数分割多重化(OFDM)ネットワーク120において時間変化的および周波数選択的なチャンネル130が、1組のOFDMシンボルの1組のパイロットトーン100に対応する受信信号を受信機122のバッファに最初に格納することによって推定され、パイロットトーンが、あらかじめ決められて、OFDMシンボルの周波数搬送波およびタイムスロットに挿入される。受信信号の共分散行列が推定される。対角行列が、分散行列、および受信信号中のノイズの分散に基づいて推定される。対角行列は、時間領域における非零(ノンゼロ)経路の遅延を示す。各OFDMシンボルに対するチャネルインパルス応答(CIR)が、対角行列および受信信号を使用して推定される。そして、チャネル周波数応答(CFR)を得るために、CIRが周波数領域へ変形される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、一般的に通信網に関し、特に、チャネルインパルス応答(CIR)推定である、直交周波数分割多重化(OFDM)および推定チャネル状態情報(CSI)に関するものである。
【背景技術】
【0002】
通信網では、同期検波のために、瞬時チャネル状態情報(CSI)が受信機で必要になる。実際には、これを達成するために、送信機は、受信機側であらかじめ決められて知られているパイロットトーンを含むパイロット信号を送信する。その後、受信機は、受信信号に基づいてCSIを評価する。
【0003】
OFDMでは、パイロットトーンが副搬送波上に挿入されたCSIを推定するために、パイロットシンボルに支援された変調(PSAM)を使用することができる。副搬送波の一部または全体をパイロットトーンに割り当てることができる。パイロットトーンが多くなるほど、CSIの精度が改善される。しかしながら、パイロットトーンは帯域幅を消費し、有効データレートを減少させる。
【0004】
多重通路伝送(マルチパス)により、ワイヤレスチャネルには、周波数ドメイン(領域)においてランダムな変動があり、それによりチャネル周波数を選択的にさせている。また、モビリティ(変動性)はドップラー効果に帰着する場合があるので、チャネルは時間変化的になる。多重通路伝送および時間変動の組合せで、ワイヤレスチャネルは時間ドメイン(領域)および周波数領域の両方における変動で2重に選択的になる。
【0005】
2重に選択的なチャネルを推定する1つの方法は、時間領域および周波数領域にパイロットトーンを挿入することである。そして、2次元フィルタを、時間および周波数においてパイロットトーンを処理するCSI推定器として、構成することができる。しかしながら、これは高い計算の複雑さおよび追加的処理遅延を必要とする。
【0006】
挿入されるパイロットトーンの数は、時間領域および周波数領域において、チャネル選択性に関連づけることができる。チャネルが周波数領域において高い選択性を有している場合、より多くのパイロットトーンを周波数領域において割り当てることができる。同様に、時間変化的チャネルに対して、より多くのパイロットトーンを時間領域において割り当てることができる。
【0007】
実際には、特定のOFDMシンボルのすべての副搬送波がパイロットトーンに割り振られる、ブロック型のパイロットトーン割当が、低速フェージング且つ周波数選択的チャネルに対して役立つ。対照的に、特定の副搬送波(周波数)がパイロットトーンに割り当てられる、櫛型のパイロット割当が、高速フェージングチャネルに対して適切である。
【0008】
チャネル推定は、時間領域と共に周波数領域においても、行うことができる。周波数領域では、チャネル周波数応答(CFR)が推定される。時間領域では、チャネルインパルス応答(CIR)が推定され、そこでは、チャネル周波数応答がCIRの離散的フーリエ変換によって見つけ出される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
この発明は、パイロットトーンを使用して、無線通信ネットワークにおいてチャネルを推定する方法を提供する。送信機は、周波数搬送波およびタイムスロットに周期的に挿入されるパイロットトーンを送信する。
【0010】
送信機での、周波数領域および時間領域においてパイロットトーンの数およびそれらの割振を決定する方法が、記述される。また、受信機でのチャネル推定プロセス(処理)が記述される。
【課題を解決するための手段】
【0011】
具体的には、直交周波数分割多重化(OFDM)ネットワークにおいて時間変化的および周波数選択的なチャネルが、1組のOFDMシンボルの1組のパイロットトーンに対応する受信信号を受信機のバッファに最初に格納(記憶)することによって推定され、パイロットトーンが、あらかじめ決められて、OFDMシンボルの周波数搬送波およびタイムスロットに挿入される。受信信号の共分散行列が推定される。対角行列が、分散行列、および受信信号中のノイズ(雑音)のバリアンス(分散)に基づいて推定される。対角行列は、時間領域における非零(ノンゼロ)経路の遅延を示す。各OFDMシンボルに対するチャネルインパルス応答(CIR)が、対角行列および受信信号を使用して推定される。そして、チャネル周波数応答(CFR)を得るために、CIRが周波数領域へ変形される。
【発明の効果】
【0012】
従来のチャネル推定と比較して、この発明は次の利点を有する。
a.この発明は、シンボル間の、遅延経路のそれらの構造における相関の活用により、2重に選択的なチャネルにおけるパイロット副搬送波の必要数を低減することができる。
b.この発明は、周波数領域における周波数選択性に依存しない。したがって、非常に周波数選択的なチャネルにおいても、より少数のパイロットトーンしか必要としない。
c.この発明は、チャネル共分散行列のようなチャネルスタティスティックについての先験的な知識を必要としない。
d.この発明は、多数のシンボルに対して非零経路遅延を検知することにより、計算の複雑さを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】この発明の実施の形態1によるワイヤレスネットワークの概略図である。
【図2】この発明の実施の形態1による直交周波数分割多重化(OFDM)シンボルのブロック図である。
【図3】この発明の実施の形態1によるチャネルを推定する方法のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
実施の形態1.
図1に示されるように、我々の発明の実施の形態は、パイロットトーン100を使用して、直交周波数分割多重化(OFDM)無線通信ネットワーク120の受信機122において、チャネル130を推定するための方法300を提供する。送信機121は、パイロットトーンを周期的に送信する。
【0015】
ランダムなパイロットトーン割当
図2に示されるように、1組のパイロットトーン100が、直交周波数分割多重化(OFDM)シンボル200の周波数搬送波101およびタイムスロット102に挿入される。例示シンボルは、各OFDMシンボルにおいて1組の、10個のタイムスロットおよび8個の周波数を使用する。
【0016】
単一のOFDMシンボルの1組のパイロットトーンの中のパイロット副搬送波の数は、チャネル120における非零(重要な)遅延経路の数に依存することができる。その周波数の数に基づいて、送信機は、1組のパイロットトーンを、一様に且つランダムに、割当周波数に割り振る。パイロットトーンの数およびそれらの周波数は、受信機であらかじめ決められて知られている。
【0017】
時間領域内のパイロットトーンの発生回数は、ドップラースプレッド(拡散)、受信機のモビリティ(移動性)、または受信機が動作する環境、に依存することができる。例えば、屋内環境では、パイロットトーンは、アウトドア(屋外)やモバイル(移動)環境においてよりも頻繁には送信することができない。
【0018】
受信機でのチャネル推定
送信機と受信機との間の各チャネル130は、インパルス応答として、次式のようにモデル化される。
【0019】
【数1】

【0020】
ここで、αは複素利得であり、τはl番目の経路に対応する遅延であり、またTサンプリング間隔である。また、非零(重要な)遅延経路がある。
【0021】
をチャネルインパルス応答(CIR)のベクトルとして表わせば、チャネル周波数応答(CFR)は、
【数2】

として表わすことができる。ここで、Fは離散的フーリエ変換(DFT)行列であり、
【数3】

はCFRのベクトルである。
【0022】
所定数のパイロットトーンが送信されると、受信信号は、
【数4】

として表わすことができる。ここで、
【数5】

は、それぞれ、CFR、伝送されたパイロット信号、およびk番目のOFDMシンボルでのn番目の副搬送波に対する付加的なガウスノイズ、である。
【0023】
上記のCFRを使用して、受信信号は、
【数6】

である。ここで、Fはパイロット搬送波に対応する行を含むDFT行列の小行列であり、また、
【数7】

は独立し且つ一様分布したガウスノイズのベクトルであり、また、
【数8】

はk番目のOFDMシンボルのCIRである。
【0024】
パイロットトーンの数が不十分な場合には、基底追跡(basis pursuit)(BP)、マッチング追跡(matching pursuit)(MP)、または直交マッチング追跡(orthogonal matching pursuit)(OMP)等の圧縮検知プロセス(compressed sensing process)を使用して、
【数9】

を推定することができる。圧縮検知は、当該技術において知られているように、予備的知識、例えば信号の構造や冗長性、を利用するスパース(疎な)すなわち圧縮可能な信号を取得し再構成する。
【0025】
【数10】

の推定は、多数のOFDMシンボルに亘って共同で行われる。ここで、瞬時チャネル利得が時間変化的である場合でも、チャネルのパワー(電力)遅延プロファイル(PDP)が固定されていると仮定する。すなわち、
【数11】

は次式のような2つの成分に分離される。
【0026】
【数12】

【0027】
ここで、対角行列Qは、各経路が零係数を有しているか、または非零係数を有しているかを表し、また、
【数13】

はk番目のOFDMシンボルでの実際の係数利得のベクトルである。上記の仮定で、行列Qおよび
【数14】

の統計量は、多数のOFDMシンボルに対して固定されている。
【0028】
k番目のOFDMシンボルでは、受信信号ベクトルは次式のように表わされる。
【0029】
【数15】

【0030】
受信信号の共分散行列は、次式のように決定される。
【0031】
【数16】

【0032】
ここで、
【数17】

は受信信号にけるノイズ(雑音)のバリアンス(分散)である。
【0033】
而して、次式のようになる。
【0034】
【数18】

【0035】
実際には、
【数19】

は多数のOFDMシンボルから次式のように決定することができる。
【0036】
【数20】

【0037】
【数21】

は、受信機で利用できないPDPを表わす。その場合、PDPは、一定または指数関数的に減衰する関数であると仮定することができる。
【0038】
上記に定義したように、行列Qの中の対角線成分は、遅延経路が零係数を有するか、または非零係数を有するかを表す。したがって、非零(重要な)遅延経路の検出は、行列Qの非零対角線成分の検出に相当する。
【0039】
様々な圧縮検知プロセス、BP、MPまたはOMPを、行列Qの対角線成分を検出するために使用することができる。
【0040】
非零遅延経路の検出の後、k番目のOFDMシンボルでの遅延経路に対応する係数は、次の式から推定することができる。
【0041】
【数22】

【0042】
ここで、
【数23】

はDFT行列の小行列であり、それは単に非零遅延経路に対応する列のみを有しており、また、
【数24】

は単に非零遅延経路のみを有する。推定される
【数25】

は、最小自乗(LS)推定を使用して見つけることができる。
【0043】
図3は、我々の発明の実施の形態による、チャネルを推定するための方法300を示す。
【0044】
パイロットトーンの組に対応する受信信号は、バッファ310に格納311されている。
【0045】
1組のK個のOFDMシンボル(ここで、Kはチャネル環境に基づいてあらかじめ決められる)を受信した後に、受信信号の共分散行列が決定312される。OFDMシンボルの、周波数搬送波、タイムスロットおよび数は、受信機であらかじめ決められ、知られている。
【0046】
対角行列Qは、共分散行列およびノイズのバリアンス(分散)に基づいて推定313される。行列Qは、時間領域における非零(重要な)経路の遅延を示す。行列Qは、BP、MPまたはOMPのような圧縮検出プロセスを使用して推定される。
【0047】
k番目のOFDMシンボルに対するCIRは、行列Qおよび受信信号Y[k]を使用して、推定314される。
そして、CIRは、CFRを得るため、周波数領域へ変形315される。
【0048】
従来のチャネル推定と比較して、この発明は次の利点を有する。
a.この発明は、シンボル間の、遅延経路のそれらの構造における相関の活用により、2重に選択的なチャネルにおけるパイロット副搬送波の必要数を低減することができる。
b.この発明は、周波数領域における周波数選択性に依存しない。したがって、非常に周波数選択的なチャネルにおいても、より少数のパイロットトーンしか必要としない。
c.この発明は、チャネル共分散行列のようなチャネルスタティスティックについての先験的な知識を必要としない。
d.この発明は、多数のシンボルに対して非零経路遅延を検知することにより、計算の複雑さを低減することができる。
【0049】
この発明は好適な実施の形態の例示により記述されたが、様々な他の修正および変更がこの発明の精神および範囲内においてなされることがあることを理解すべきである。したがって、この発明の真実の趣旨および範囲内に入るような、すべての変更例および変形例をカバーすることが、添付の特許請求の範囲の目的である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
直交周波数分割多重化(OFDM)ネットワークにおいて時間変化的および周波数選択的なチャネルを推定するための方法であって、
1組のOFDMシンボルの1組のパイロットトーンに対応する受信信号を、受信機でバッファに格納すること、ここで、前記パイロットトーンはあらかじめ決められて、前記OFDMシンボルの周波数搬送波およびタイムスロットに挿入され、
前記受信信号の共分散行列を推定すること、
前記共分散行列および前記受信信号におけるノイズのバリアンスに基づいて対角行列を推定すること、ここで、前記対角行列は時間領域における非零経路の遅延を示し、
前記対角行列および受信信号を使用して各OFDMシンボルに対するチャネルインパルス応答(CIR)を推定すること、
前記チャネル周波数応答(CFR)を得るために、前記CIRを前記周波数領域へ変形すること、
を備える、方法。
【請求項2】
前記パイロットトーンの組は、送信機で、一様に且つランダムに伝送信号に挿入される、請求項1の方法。
【請求項3】
単一のOFDMシンボルの前記パイロットトーンの組の中の前記パイロット副搬送波の数は、前記チャネルにおける遅延経路の数に依存し、ここで、前記遅延経路は非零であり重要である、請求項1の方法。
【請求項4】
前記数は、前記チャネルにおけるドップラースプレッドに依存する、請求項3の方法。
【請求項5】
前記数は、前記受信機のモビリティに依存する、請求項3の方法。
【請求項6】
前記数は、前記受信機が動作する環境に依存する、請求項3の方法。
【請求項7】
前記CIRは、圧縮検出プロセスを使用して推定される、請求項1の方法。
【請求項8】
前記CIRを推定することは、前記OFDMシンボルの組に亘って共同で行われる、請求項1の方法。
【請求項9】
瞬時チャネル利得が時間変化的である場合でも、前記チャネルの電力遅延プロファイルは固定される、請求項1の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−46131(P2013−46131A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−181272(P2011−181272)
【出願日】平成23年8月23日(2011.8.23)
【出願人】(597067574)ミツビシ・エレクトリック・リサーチ・ラボラトリーズ・インコーポレイテッド (484)
【住所又は居所原語表記】201 BROADWAY, CAMBRIDGE, MASSACHUSETTS 02139, U.S.A.