説明

晶析方法および晶析装置

【課題】種晶なしの冷却晶析において、既存の晶析装置に対する改造や設備を追加することなく、任意の粒径で、任意の粒子数の単分散粒子を生成することができる晶析方法および晶析装置を提供する。
【解決手段】本発明の晶析方法は、種晶なしの冷却晶析において、化合物を溶解した飽和溶液を冷却して、飽和溶液から化合物の結晶を析出させる晶析方法であって、予め求められた前記飽和溶液の急冷前後の温度差ΔTと、前記飽和溶液の急冷によって生じる種晶の粒子数および平均粒径との関係に基づいて、前記飽和溶液を急冷し、前記温度差ΔTに応じた粒子数および平均粒径の種晶を生成し、前記飽和溶液の温度を急冷後の温度に過飽和度消費時間維持して、過飽和度が消費された後に、前記飽和溶液を、任意の冷却温度プロファイルに従って冷却することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬分野やファインケミカル分野に好適であり、種晶なしの冷却晶析においてインターナルシーディングと呼ばれる手法を用いて、粒径分布の幅が狭く、所定の粒径の結晶粒子群を生成する晶析方法および晶析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、化合物(結晶として取り出す物質)を溶解した溶液の温度を低下させ、これによって生じる溶液の過飽和状態と、化合物の飽和濃度との差を駆動力として、化合物を析出させて結晶を生成する冷却晶析が行われている。
なお、晶析とは、液相より結晶を析出させることにより、液相から特定の化合物を分離することを言う。
【0003】
冷却晶析では、溶液を冷却する際の冷却温度プロファイルが重要であるとされており、異なる冷却温度プロファイルをそれぞれ有する冷却法として、制御冷却法、直線冷却法または自然冷却法が知られている(例えば、非特許文献1参照)。これらの冷却法の中でも、制御冷却法は、結晶量が少ない初期には温度変化を小さく(冷却速度を遅く)し、結晶量が多くなる終期には温度変化を大きく(冷却速度を速く)することにより、飽和溶液の過飽和度が終始低く一定に保たれるので、二次核の発生が抑制されて、単分散粒子のみが得られるため、有効な方法とされている。
【0004】
また、種晶を用いない冷却晶析において、線形冷却中に、in−situ粒径分布測定装置であるFBRM(Focused Beam Reflectance Measurement)により結晶の核化を検出した後、一度、加熱操作し、その後、再度、線形冷却を行う冷却晶析方法が知られている(例えば、非特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】「新版・工業晶析操作」の第5頁、平成18年1月31日発行、編者:分離技術会、発行所:分離技術会
【非特許文献2】Chem,J.W.;Chow,P.S.;Tan,R.B.H,Automated in−line technique using FBRM to achieve consistent product quality in cooling crystallization.Crystal Growth & Design 2007,7(8),1416−1422.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、非特許文献1における制御冷却法は、種晶(シーディング)を用いない冷却晶析においても有効であるとされているが、この制御冷却法を実施しても、他の冷却温度プロファイルを有する冷却法(直線冷却法、自然冷却法)を実施した場合と比べて晶析終了後のプロダクトの重量基準粒径分布に関して大差なく、晶析終了後に単分散粒子が安定して得られることがなかった。
【0007】
また、非特許文献2における冷却晶析方法は、FBRMの設置が必須条件となり、その費用が嵩むため、小規模な晶析装置への導入は費用対効果の点から容易ではなかった。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、種晶なしの冷却晶析において、既存の晶析装置に対する改造や設備を追加することなく、任意の粒径で、任意の粒子数の単分散粒子を生成することができる晶析方法および晶析装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の晶析方法は、種晶なしの冷却晶析において、化合物を溶解した飽和溶液を冷却して、前記飽和溶液から前記化合物の結晶を析出させる晶析方法であって、予め求められた前記飽和溶液の急冷前後の温度差ΔTと、前記飽和溶液の急冷によって生じる種晶の粒子数および平均粒径との関係に基づいて、前記飽和溶液を急冷し、前記温度差ΔTに応じた粒子数および平均粒径の種晶を生成し、前記飽和溶液の温度を急冷後の温度に過飽和度消費時間TIMEind維持して、過飽和度が消費された後に、すなわち、過飽和度消費時間TIMEind後、前記飽和溶液を、任意の冷却温度プロファイルに従って冷却することを特徴とする。
なお、飽和溶液の過飽和度を消費するまでの時間(過飽和度消費時間)TIMEindとは、晶析対象となる化合物を溶解した飽和溶液を急冷した後、飽和溶液の温度を急冷後の温度に過飽和度が消費されるまでの維持時間のことである。
【0010】
本発明の晶析方法において、前記種晶の粒子数および平均粒径と、前記結晶の所望とするプロダクト粒径の目標値とから算出され、結晶の成長開始温度から成長終了温度の温度差ΔTによって前記飽和溶液から析出する結晶の理論晶析量が全て前記種晶の成長となるように、前記飽和溶液を冷却することが好ましい。
【0011】
本発明の晶析装置は、種晶なしの冷却晶析に用いられ、化合物を溶解した飽和溶液を冷却して、前記飽和溶液から前記化合物の結晶を析出させる晶析を行う晶析装置であって、前記飽和溶液を収容する容器、および、前記飽和溶液を冷却および/または加熱する手段を有する晶析槽と、予め求められた前記飽和溶液の急冷前後の温度差ΔTと、前記飽和溶液の急冷によって生じる種晶の粒子数および平均粒径との関係に基づいて、前記飽和溶液を急冷し、前記温度差ΔTに応じた粒子数および平均粒径の種晶を生成し、前記飽和溶液の温度を急冷後の温度に過飽和度消費時間TIMEind維持して、過飽和度が消費された後に、すなわち、過飽和度消費時間TIMEind後、前記飽和溶液を、任意の冷却温度プロファイルに従って冷却するという温度制御を行う温度制御装置と、を備えたことを特徴とする。
【0012】
本発明の晶析装置において、前記温度制御装置は、前記種晶の粒子数および平均粒径と、前記結晶の所望とするプロダクト粒径の目標値とから算出され、晶析開始温度から晶析終了温度の温度差ΔTによって前記飽和溶液から析出する結晶の理論晶析量が全て前記種晶の成長となるように、前記飽和溶液を冷却するという温度制御を行うことが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明の晶析方法によれば、種晶なしの冷却晶析において、直線冷却プロファイルによる冷却晶析のみを実施した場合に比べて、晶析開始時に飽和溶液を急冷する操作を一度行うことによって、任意の粒子数の種晶を発生(インターナルシーディング効果)させることができるので、インターナルシーディングによって生成した粒子は、それ以降の結晶成長過程において、二次核化に、飽和溶液に含まれる溶質を奪われることなく、結晶を成長することが可能となる。すなわち、インターナルシーディング効果により、飽和溶液の急冷後(種晶発生後)の冷却は冷却プロファイルに依存せず、シードチャートに従った冷却晶析を実現できるので、所望とするプロダクトサイズ(粒径)の単分散粒子の結晶を製造することが実現可能となる。
また、単に冷却温度プロファイルに従う温度制御によって得られる粒径分布や、運転員の手動操作により経験と勘に頼った温度制御によって得られる粒径分布とは異なり、安定的に所望の粒径の単分散粒子を得ることができる。
【0014】
本発明の晶析装置によれば、種晶なしの冷却晶析において、直線冷却プロファイルによる冷却晶析のみを実施した場合に比べて、温度制御装置により、晶析開始時に飽和溶液を急冷する操作を一度行うことによって、任意の粒子数の種晶を発生(インターナルシーディング効果)させることができるので、インターナルシーディングによって生成した粒子は、それ以降の結晶成長過程において、二次核化に、飽和溶液に含まれる溶質を奪われることなく、結晶を成長することが可能となる。すなわち、インターナルシーディング効果により、飽和溶液の急冷後(種晶発生後)の冷却は冷却プロファイルに依存せず、シードチャートに従った冷却晶析を実現できるので、所望とするプロダクトサイズ(粒径)の単分散粒子の結晶を製造することが実現可能となる。
また、本発明の晶析装置によれば、単に冷却温度プロファイルに従う温度制御によって得られる粒径分布や、運転員の手動操作により経験と勘に頼った温度制御によって得られる粒径分布とは異なり、安定的に所望の粒径の単分散粒子を得ることができる。
さらに、本発明の晶析装置は、既存の晶析装置の改造や、既存の晶析装置への設備の追加なしに適用できるため、特別なハードウェアおよびソフトウェアを必要とせずに、温調器の設定温度のみで単分散粒子製造を可能とする。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】急冷温度差ΔTを変えて、飽和溶液を急冷する様子を示すグラフである。
【図2】急冷温度差ΔTと、その際に発生する種晶の粒子数Nとの関係の一例を示すグラフである。
【図3】急冷温度差ΔTと、その際に発生する種晶の平均粒径Lとの関係の一例を示すグラフである。
【図4】急冷温度差ΔTと過飽和度消費時間TIMEindとの関係の一例を示すグラフである。
【図5】硫酸カリウムの溶解度曲線を示すグラフである。
【図6】本発明の晶析方法における冷却温度プロファイルの一例を示すグラフである。
【図7】本発明の晶析装置の一実施形態を示す概略構成図である。
【図8】本発明の晶析装置を構成する温度調節器を示す概略構成図である。
【図9】本発明の実施例および比較例による種晶なしの冷却晶析によって得られた硫酸カリウムの結晶の粒径分布を示すグラフである。
【図10】FBRMの粒子数測定値から重量に変換した結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の晶析方法および晶析装置の実施の形態について説明する。
なお、この実施の形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
【0017】
「晶析方法」
本発明の晶析方法は、種晶なしの冷却晶析において、化合物を溶解した飽和溶液を冷却して、その飽和溶液から化合物の結晶を析出させる晶析方法であって、予め求められた飽和溶液の急冷前後の温度差ΔTと、その飽和溶液の急冷によって生じる種晶の粒子数および平均粒径との関係に基づいて、飽和溶液を急冷し、温度差ΔTに応じた粒子数および平均粒径の種晶を生成し、飽和溶液の温度を急冷後の温度に過飽和度消費時間TIMEind維持して、所望のプロダクトサイズLとなるようにΔTを設定し、飽和溶液を、任意の冷却温度プロファイルに従って冷却する方法である。
【0018】
本発明の晶析方法では、目的の化合物を、所定の溶媒に溶解して、その化合物の溶液を調製する。
【0019】
本発明を適用可能な化合物は、溶媒に溶解可能である物質であれば特に限定されないが、例えば、硫酸カリウム、硫酸銅、チオ硫酸ソーダ、硫酸ニッケル、クエン酸、グルタミン酸ソーダなど、溶液温度の変化に対して溶解度が大きく変化する化合物が挙げられる。
【0020】
上記の化合物を溶解する溶媒としては、特に限定されないが、化合物の種類に応じて適宜選択され、例えば、水;メタノール、エタノール、2−プロパノール、ブタノール、ジアセトンアルコール、フルフリルアルコール、エチレングリコール、ヘキシレングリコールなどのアルコール類;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸−n−ブチルなどのエステル類;ジエチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル(メチルセロソルブ)、エチレングリコールモノエチルエーテル(エチルセロソルブ)、エチレングリコールモノブチルエーテル(ブチルセロソルブ)、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテルなどのエーテル類;アセトン、メチルエチルケトン、アセチルアセトン、アセト酢酸エステルなどのケトン類;トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素などから選択される1種または2種以上が用いられる。
【0021】
また、本発明では、所定の晶析開始温度にて飽和溶液となるように、目的とする化合物を所定の溶媒に溶解して、その化合物の溶液を調製する。すなわち、溶液を調製する際(化合物を溶媒に溶解する際)の温度は、その溶液が飽和溶液となる温度でなくてよく、溶液の温度が所定の晶析開始温度になった時に飽和溶液となるように、溶液を調製する。
【0022】
また、本発明では、溶液の体積は特に限定されないが、攪拌器により、晶析槽内の溶液に結晶を均一に分散できる大きさであればよい。
【0023】
本発明の晶析方法では、飽和溶液を急冷した場合、その急冷の温度幅(飽和溶液の急冷前後の温度差、急冷温度差)ΔTとその際に発生する種晶の粒子数(総粒子数)Nとの関係、急冷温度差ΔTとその際に発生する種晶の平均粒径Lとの関係、および、急冷温度差ΔTと飽和溶液の過飽和度を消費するまでの時間(過飽和度消費時間)TIMEindとの関係を予め予備実験により求めておく。
【0024】
本発明の晶析方法では、図1に示すように、急冷温度差ΔTを変えて、飽和溶液を急冷することにより、予め以下に示す近似式(1)〜(3)を作成しておく。
ただし、これらの近似式の精度は、飽和溶液の急冷による各々の現象を再現できればよく、その関数形に限定はない。
なお、本発明において、飽和溶液の急冷は、図1に示すように、急冷前の温度から、目的とする温度まで一気に(極めて短時間に)温度を下げるようにする。具体的には、急冷前の温度から、目的とする温度まで、冷却装置の最大の能力で飽和溶液を急冷する。また、結晶成長時間TIMEgrowthは冷却速度Rを一定としたが、任意の温度プロファイルでもよい。
【0025】
まず、急冷温度差ΔTを変えて、飽和溶液を急冷し、図2に示すような、急冷温度差ΔTと、その際に発生する種晶の粒子数Nとの関係を求める。
そして、図2に示す急冷温度差ΔTと、その際に発生する種晶の粒子数Nとの関係から、下記の式(1)で表される近似式を作成する。
【0026】
【数1】

【0027】
ただし、上記の式(1)において、Nは飽和溶液の急冷後に発生する種晶の粒子数(総粒子数)[♯/kg−solvent]、ΔTは飽和溶液の急冷温度差[℃]、a〜aは係数をそれぞれ表している。(例えば、化合物が硫酸カリウムの場合、a=64.094、a=6537.4、a=−27404である。)
【0028】
また、急冷温度差ΔTを変えて、飽和溶液を急冷した際、図3に示すような、急冷温度差ΔTと、その際に発生する種晶の平均粒径Lとの関係を求めておく。
そして、図3に示す急冷温度差ΔTと、その際に発生する種晶の平均粒径Lとの関係から、下記の式(2)で表される近似式を作成する。
【0029】
【数2】

【0030】
ただし、上記の式(2)において、Lは飽和溶液の急冷後に発生する種晶の平均粒径[μm]、ΔTは急冷温度差[℃]、b〜bは係数をそれぞれ表している。(例えば、化合物が硫酸カリウムの場合、b=−0.0025、b=0.2699、b=−10.185、b=501.14である。)
【0031】
さらに、急冷温度差ΔTを変えて、飽和溶液を急冷した際、図4に示すような、急冷温度差ΔTと、飽和溶液の過飽和度を消費するまでの時間(過飽和度消費時間)TIMEindとの関係を求めておく。
そして、図4に示す急冷温度差ΔTと、過飽和度消費時間TIMEindとの関係から、下記の式(3)で表される近似式を作成する。
【0032】
【数3】

【0033】
ただし、上記の式(3)において、TIMEindは過飽和度消費時間[min]、ΔTは急冷温度差[℃]、d〜dは係数をそれぞれ表している。(例えば、化合物が硫酸カリウムの場合、d=−0.0053、d=0.4909、d=−15.348、d=178.74である。)
【0034】
晶析開始にあたり、まず、プロダクトサイズLを決定するために、晶析開始温度T、粒子数制御温度Tを決定する。
なお、晶析開始温度Tとは、晶析を開始する際の飽和溶液の温度である。
また、粒子数制御温度Tとは、急冷後の飽和溶液の温度である。
急冷温度差ΔTは、T−Tで与えられる。そして、急冷温度差ΔTの低下によって生ずる種晶の粒子数Nは、上記の式(1)により算出される。
また、急冷温度差ΔTの低下によって生ずる種晶の平均粒径Lは、上記の式(2)により算出される。
【0035】
上記の式(1)、(2)から求められた粒子数Nと平均粒径L、種晶の形状係数k、種晶の結晶密度ρ、および、反応容積(飽和溶液量)Vに基づいて、インターナルシード量Wが、下記の式(4)により算出される。
【0036】
【数4】

【0037】
ただし、上記の式(4)において、Wはインターナルシード量(種晶の発生量)[kg]を表している。
【0038】
次に、所望とする結晶のプロダクトサイズ(粒径)Lを決定し、上記の式(4)によりインターナルシード量Wを算出し、上記の式(2)により平均粒径Lを算出することにより、二次核が発生することなくインターナルシードが成長すると仮定した理論析出量Wthは、下記の式(5)により算出される。
【0039】
【数5】

【0040】
一方、粒子数制御温度T、晶析終了温度Tから計算される理論析出量W´thは、下記の式(6)より算出される。
なお、晶析終了温度Tとは、晶析を終了した際の飽和溶液の温度である。
【0041】
【数6】

【0042】
ただし、上記の式(6)において、W´thは理論析出量、C(T)は粒子数制御温度Tにおける化合物の溶解度、C(T)は晶析終了温度Tにおける化合物の溶解度である。
【0043】
ここで、図5に示すような化合物(ここでは、硫酸カリウム)の溶解度曲線は、下記の式(7)で表される。
【0044】
【数7】

【0045】
ただし、上記の式(7)において、cは化合物の溶解度[kg−solute/kg−solvent]、Tは溶解温度[℃]、c〜cは係数をそれぞれ表している。(例えば、化合物が硫酸カリウムの場合、c=−7.14×10−6、c=2.46×10−3、c=6.29×10−2である。)
【0046】
また、晶析終了温度Tは、上記の式(5)と式(6)が等しくなるように、すなわち、下記の式(8)が最小となるように探索法により求められる。
【0047】
【数8】

【0048】
ただし、上記の式(8)において、Jは評価関数を表している。
また、探索法としては、山登り法、焼きなまし法などの一般的な手法が用いられる。
ここで、探索法を適用した理由は、晶析対象となる化合物ごとに溶解度曲線の関数形やその係数が異なるため、温度を溶解度(濃度)の陽関数として解析解を求めることが困難だからである。
なお、過飽和度消費時間TIMEindを、少なくとも過飽和度を消費する時間、上記の式(3)で設定される時間以上とする。
【0049】
また、飽和溶液の急冷によって発生した種晶が成長して、所望のプロダクトサイズの結晶となるまでの時間(結晶成長時間)TIMEgrowthは、上記の式(8)で求めたTを用いると、ΔT=T−Tで求めることができるので、直線冷却では下記の式(9)で表される。
【0050】
【数9】

【0051】
ただし、上記の式(9)において、TIMEgrowthは結晶成長時間[min]、ΔTは上記の種晶を含む飽和溶液を冷却して、所望のプロダクトサイズの結晶となるまでの間(結晶の成長開始から成長終了までの間)の飽和溶液の温度差(結晶成長温度差)[℃]、Rは過飽和度消費時間TIMEind終了後の一定の冷却速度[℃/min]をそれぞれ表している。
【0052】
予定した全晶析時間をTIMEallとすれば、過飽和度消費時間TIMEindと結晶成長時間TIMEgrowthが決定した時点で、これらの時間の関係は、下記の式(10)〜(12)で表されるいずれかの関係に該当する。
【0053】
【数10】

【0054】
【数11】

【0055】
【数12】

【0056】
本発明では、上記の式(10)で表されるように、過飽和度消費時間TIMEindと結晶成長時間TIMEgrowthの合計時間が、全晶析時間TIMEallより小さい場合、全晶析時間TIMEallを短縮してもよい。
あるいは、過飽和度消費時間TIMEindと結晶成長時間TIMEgrowthの合計時間が、全晶析時間TIMEallより小さい場合、冷却速度Rを調節し、上記の式(11)を満たすように結晶成長時間TIMEgrowthを増加させてもよい。
【0057】
また、上記の式(12)で表されるように、過飽和度消費時間TIMEindと結晶成長時間TIMEgrowthの合計時間が、全晶析時間TIMEallより大きい場合、全晶析時間TIMEallを延長し、全晶析時間TIMEallを長くする。
【0058】
そして、飽和溶液の急冷により種晶を発生(インターナルシーディング)させた後、種晶(インターナルシード)が存在することから、その後の冷却晶析(結晶成長)において、二次核化が抑制され、冷却温度プロファイルを任意に設定することができる。
本発明に適用可能な冷却晶析の冷却温度プロファイルとしては、制御冷却法、直線冷却法、自然冷却法が挙げられる。
【0059】
また、二次核化を抑制できるインターナルシード量Wは、粒子数Nから換算可能であり、理論析出量Wth、所望のプロダクトサイズL、平均粒径Lを用いれば、理論析出量Wthを表す上記の式(5)により、インターナルシード量Wを算出することができる。
つまり、急冷温度差ΔTによって、上記の式(5)により一意に定まるインターナルシード量Wと、上記の式(2)により一意に定まる平均粒径Lから、結晶の所望とするプロダクトサイズLを得るために必要なインターナルシーディング後の結晶成長温度差ΔTを求めることができる。なお、結晶成長温度差ΔTの冷却温度プロファイルは、シード量が十分であればよいが、過大な過剰量は望ましくない。
また、急冷温度差ΔTと結晶成長温度差ΔTを求めるためには、晶析対象物質(化合物)の溶解度曲線を予め作成する。
【0060】
上述した本発明の晶析方法における冷却温度プロファイルの一例を図6に示す。
【0061】
本発明の晶析方法によれば、種晶なしの冷却晶析において、直線冷却プロファイルによる冷却晶析のみを実施した場合に比べて、晶析開始時に飽和溶液を急冷する操作を一度行うことによって、任意の粒子数の種晶を発生(インターナルシーディング効果)させることができるので、インターナルシーディングによって生成した粒子は、それ以降の結晶成長過程において、二次核化に、飽和溶液に含まれる溶質を奪われることなく、結晶を成長することが可能となる。すなわち、インターナルシーディング効果により、飽和溶液の急冷後(種晶発生後)に過飽和度消費時間TIMEind経過させることにより、過飽和度が消費され、その後の冷却は冷却温度プロファイルに依存せず、所望とするプロダクトサイズ(粒径)の単分散粒子の結晶を製造することが実現可能となる。
【0062】
また、単に冷却温度プロファイルに従う温度制御によって得られる粒径分布や、運転員の手動操作により経験と勘に頼った温度制御によって得られる粒径分布とは異なり、安定的に所望の粒径の単分散粒子を得ることができる。
【0063】
「晶析装置」
図7は、本発明の晶析装置の一実施形態を示す概略構成図である。図8は、本発明の晶析装置を構成する温度調節器を示す概略構成図である。
この実施形態の晶析装置10は、晶析槽11と、温度制御装置12とから概略構成されている。
【0064】
晶析槽11は、晶析の対象となる化合物を含む溶液を収容する反応容器13と、この反応容器13の外周を覆うように設けられたジャケット14と、反応容器13内に収容された溶液を攪拌するための攪拌器15とから概略構成されている。
【0065】
反応容器13の容積は、流れの状態として完全混合が満たされていれば特に限定されず、ここに収容する溶液の量に応じて適宜攪拌器のサイズ、形状、回転数を調整するが、後述する冷却加熱装置16による溶液の温度制御が容易であり、各計測器の検出部が晶析槽11の上部から挿入できる大きさが望ましく、具体的には、100mL以上であることが好ましい。
なお、反応容器13の容積が、例えば、5000Lを超えると、攪拌器15による撹拌が不均一となるため、溶液内の粒径分布に場所的にばらつきを生じるから、大きい粒子は反応容器13の底部に沈む傾向となり、結果として、目的とする粒径分布の結晶を生成し難くなることがある。
【0066】
ジャケット14は、反応容器13との間に熱冷媒流体を保持するための空間を有し、ジャケット14内の熱冷媒流体と反応容器13内の温度差(温度勾配)を利用して、反応容器13内の加熱・除熱を行い、反応容器13内の温度(内温)を調整している。
【0067】
冷却加熱装置16は、ジャケット14内の空間に、冷媒としての冷却水または熱媒としての水蒸気を供給するためのものであり、冷却水を供給する冷却水供給源17と、水蒸気を供給する水蒸気供給源18とを備えている。冷却水供給源17に用いられる冷媒は水以外の媒体でもよく、また、水蒸気供給源18に用いられる熱媒は気体である必要はなく、冷媒と同じ物質の熱媒であればよい。
冷却水供給源17は、途中にバルブ19を備えた冷却水供給管20と、冷却水供給管20に連接された供給管23を介して、ジャケット14に接続されている。
水蒸気供給源18は、途中にバルブ21を備えた水蒸気供給管22と、水蒸気供給管22に連接された供給管23を介して、ジャケット14に接続されている。
なお、供給管23の途中には、ジャケット14に供給する媒体の温度を測定する温度測定部24が設けられている。
【0068】
また、冷却水供給源17からジャケット14内への冷却水の供給、および、水蒸気供給源18からジャケット14内への水蒸気の供給は、温度制御装置12の温度調節器31によって選択される。すなわち、温度調節器31によってバルブ19の開度が制御され、これにより、ジャケット14内への冷却水の供給量が調整される。また、温度調節器31によってバルブ21の開度が制御されて、ジャケット14内への水蒸気の供給量が調節される。
【0069】
なお、水蒸気は、水と混合されると一瞬にして凝縮し、液体となる。また、温度調節器31は、PIDカスケード制御や晶析槽11の熱移動プロセスを定式化したプロセスモデルを内包するモデル予測制御のカスケード制御で構成してもよい。モデル予測制御では、ジャケット14から反応容器13への一次遅れ時定数、無駄時間と、さらに、熱冷媒の混合プロセスも一次遅れ時定数と無駄時間を考慮し、モデル予測制御の内部モデルを構成し、予め設定した冷却温度プロファイルに遅れなしに反応容器13内の温度を制御する。
そして、ジャケット14内に供給された媒体と、反応容器13内の溶液との間で熱移動が生じ、反応容器13内の溶液の温度は、所定の温度に制御される。
【0070】
なお、反応容器13内の溶液の温度を、所定の温度に制御するためには、ジャケット14内に、冷却水と水蒸気を個別に、すなわち、排他的に温度調節器31によって、バルブ19とバルブ21を開閉し、媒体を供給する。
【0071】
攪拌器15は、反応容器13内の溶液およびその温度分布を均一にするために設けられている。
攪拌器15による溶液の攪拌速度は、特に限定されないが、析出した結晶を崩壊させることなく、結晶が反応容器13内に均一に分散し、かつ、結晶の成長を阻害しない程度であることが好ましい。
【0072】
温度制御装置12は、温度調節器31、冷却温度プロファイル設定器32、表示/操作器33、晶析設定演算器34とから概略構成されている。
【0073】
温度調節器31は、反応容器13内の内温制御とジャケット14内のジャケット入口温度制御とのカスケードに接続されたPID制御もしくはモデル予測制御による主調節器35および従調節器36から構成されている。
主調節器35は、温度制御装置12内に実装され、反応容器13内の溶液の温度を測定する温度測定部(測温抵抗体)37とその変換器38が接続されている。また、主調節器35には、冷却温度プロファイル設定器32が接続されている。冷却温度プロファイル設定器32は、原料の仕込み量や晶析終了後の処理を含む全晶析時間における予め設定された冷却温度プロファイル(例えば、図6)に従い温度調節器31への内温設定値(反応容器13内の温度)を出力する。
【0074】
従調節器36には、ジャケット14内の空間に供給する冷却水または水蒸気の温度(ジャケット14の入口温度)を測定する温度測定部24を有する変換器39が接続されている。
変換器38、変換器39から出力される温度は、温度調節器31の入力となり、温度調節器31の出力に基づいて冷却水供給バルブ19、水蒸気供給バルブ21のバルブ開度を算出する。
【0075】
主調節器35は、反応容器13内の溶液の温度が、表示/操作器33により入力された冷却温度プロファイル(上述の冷却温度プロファイル)を目標値とし、変換器38から入力された反応容器13内の溶液の温度との偏差に基づいて、ジャケット14の入口温度の設定値を、従調節器36に出力するようになっている。
【0076】
従調節器36は、主調節器35とカスケード制御を構成し、主調節器35から入力されたジャケットの入口温度の設定値、変換器39から入力されたジャケット14の入口温度から、反応容器13内の溶液の温度が、表示/操作器33により入力された冷却温度プロファイルに従って低下するように、冷却水供給源17からジャケット14内へ冷却水を供給するためのバルブ19の開度、および/または、水蒸気供給源18からジャケット14内へ水蒸気を供給するためのバルブ21の開度を制御し、ジャケットの入口温度を調節するようになっている。
【0077】
表示/操作器33は、晶析開始時の飽和濃度(飽和溶液の初期濃度)C、晶析開始温度T、反応容積(飽和溶液量)V、理論晶析量Wth、結晶の所望のプロダクトサイズL、全晶析時間TIMEallを予め設定するとともに、冷却温度プロファイル設定器32に設定した冷却温度プロファイル、析出した結晶の粒子数(総粒子数)、反応容器13の内温設定値などを表示することができるようになっている。このような表示/操作器33としては、制御専用のコントローラや一般的なパーソナルコンピュータなどが用いられる。
【0078】
晶析設定演算器34は、表示/操作器33から入力された晶析条件(結晶の所望のプロダクトサイズL、晶析開始温度T、冷却速度R、晶析終了温度T、結晶の形状係数k、結晶の結晶密度ρ、反応容積(飽和溶液量)V、晶析開始時の飽和濃度(飽和溶液の初期濃度)C)、溶解度曲線に基づいて、図6に示す結晶成長温度差ΔT、全晶析時間TIMEall、過飽和度消費時間TIMEind、結晶成長時間TIMEgrowthを演算するようになっている。
【0079】
この晶析装置10を用いた晶析方法を説明することにより、この晶析装置10の作用を説明する。
まず、任意の温度の飽和溶液を調製するために、所定量の溶媒と、その温度において溶媒に溶解する所定量の化合物とを、反応容器13に入れる。
次いで、攪拌器15により反応容器13内の溶媒と化合物を攪拌、混合するとともに、主調節器35から、反応容器13内の溶液の内温が目標値となるようなジャケット14の入口温度の設定値を従調節器36に出力する。さらに、そのジャケット14の入口温度の設定値、変換器38から入力された反応容器13内の溶液の温度、検出器39から入力されたジャケット14の入口温度に従って、従調節器36により、反応容器13内の溶液を加熱するように、冷却水供給源17からジャケット14内へ冷却水を供給するためのバルブ19の開度、および/または、水蒸気供給源18からジャケット14内へ水蒸気を供給するためのバルブ21の開度を制御する。
これにより、溶媒と化合物を加熱して、溶媒に化合物を溶解し、この化合物を含む溶液を調製する。
【0080】
この溶液の調製時において、溶媒および化合物を加熱するための内温の目標温度は、特に限定されないが、得られる溶液に化合物の結晶が残存しないように飽和溶液温度よりも5℃程度高く設定し、溶解時間を短縮するためには飽和溶液温度よりも10℃以上の目標温度としてもよい。
なお、調製直後の溶液は、必ずしも飽和溶液である必要はなく、晶析を開始する際に飽和溶液となるように、冷却水供給源17からジャケット14内へ冷却水を供給して、その溶液を所定の温度まで冷却する。
【0081】
次いで、溶液の温度が晶析を開始する飽和温度に達した後、しばらくの間、溶液の温度を、その温度に保持する。
そして、温度調節器31は、予め表示/操作器33により入力された急冷温度差ΔTに従って、溶液を冷却するように、冷却水供給源17からジャケット14内へ冷却水を供給するためのバルブ19の開度を制御し、飽和溶液を所定の温度幅(急冷温度差ΔT)で急冷する。
【0082】
なお、本発明において、飽和溶液の急冷は、図1に示すように、急冷前の温度(晶析開始温度T)から、目的とする温度(粒子数制御温度T)まで一気に(極めて短時間に)温度を下げるようにする。
そして、飽和溶液を粒子数制御温度Tまで急冷した後、その粒子数制御温度Tを維持するために、主調節器35から、反応容器13内の飽和溶液を加熱および/または冷却するように、ジャケット14の入口温度の設定値を従調節器36に出力する。
さらに、そのジャケット14の入口温度の設定値、変換器38から入力された反応容器13内の飽和溶液の温度、および、変換器39から入力されたジャケット14の入口温度に従って、従調節器36により、反応容器13内の飽和溶液を加熱するように、冷却水供給源17からジャケット14内へ冷却水を供給するためのバルブ19の開度、および/または、水蒸気供給源18からジャケット14内へ水蒸気を供給するためのバルブ21の開度を制御する。
【0083】
次いで、粒子数制御温度Tを、上記の式(3)により設定された過飽和度消費時間TIMEind時間以上の時間保持して、その後の結晶成長時間はTIMEgrowthは冷却速度Rとなるように、主調節器35が、反応容器13内の溶液を冷却するように、ジャケット14の入口温度の設定値を従調節器36に出力する。
さらに、そのジャケット14の入口温度の設定値、変換器38から入力された反応容器13内の飽和溶液の温度、および、変換器39から入力されたジャケット14の入口温度に従って、従調節器36により、反応容器13内の溶液を冷却するように、冷却水供給源17からジャケット14内へ冷却水を供給するためのバルブ19の開度、および/または、水蒸気供給源18からジャケット14内へ水蒸気を供給するためのバルブ21の開度を制御し、飽和溶液を、任意の冷却温度プロファイル(例えば、制御冷却法、直線冷却法、自然冷却法)に従って冷却し、晶析を継続する。
【0084】
そして、飽和溶液の温度が予め設定した晶析終了温度Tに達した時点で、飽和溶液の冷却を終了して、温度制御装置12により、冷却温度プロファイルに従う温度制御を終了し、冷却温度プロファイルの最終温度を保持し、晶析を完了する。
【0085】
本実施形態の晶析装置10によれば、種晶なしの冷却晶析において、直線冷却プロファイルによる冷却晶析のみを実施した場合に比べて、温度制御装置12により、晶析開始時に飽和溶液を急冷する操作を一度行うことによって、任意の粒子数の種晶を発生(インターナルシーディング効果)させることができるので、インターナルシーディングによって生成した粒子は、それ以降の結晶成長過程において、二次核化に、飽和溶液に含まれる溶質を奪われることなく、結晶を成長することが可能となる。すなわち、インターナルシーディング効果により、飽和溶液の急冷後(種晶発生後)の冷却は冷却温度プロファイルに依存せず、上記の式(5)に従った冷却晶析を実現できるので、所望とするプロダクトサイズ(粒径)の単分散粒子の結晶を製造することが実現可能となる。
【0086】
また、晶析装置10によれば、単に冷却温度プロファイルに従う温度制御によって得られる粒径分布や、運転員の手動操作により経験と勘に頼った温度制御によって得られる粒径分布とは異なり、安定的に所望の粒径の単分散粒子を得ることができる。
さらに、晶析装置10は、既存の晶析装置の改造や、既存の晶析装置への設備の追加なしに適用できるため、特別なハードウェアおよびソフトウェアを必要とせずに、温調器の設定温度のみで単分散粒子製造を可能とする。
【実施例】
【0087】
以下、実施例および比較例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0088】
「実施例」
図7に示したような晶析装置を用いて、硫酸カリウム(KSO)の冷却晶析を行った。
晶析槽の反応容器としては、容積が3Lのものを用いた。
溶媒として水(HO)を用いた。
晶析槽の反応容器内にて、この溶媒に80℃の飽和溶液となるような硫酸カリウムを秤量し、溶解しながら、容器の内温を85℃に調節し、硫酸カリウムが全て溶解するのを待ち、80℃における硫酸カリウム飽和溶液を調製した。
次いで、温度調節器の内温設定値を60℃とし、この硫酸カリウム飽和溶液を、80℃から60℃に急冷した。
次いで、60℃に急冷した飽和溶液の温度を、その温度に保持する時間(粒子数制御時間)が60分経過した後、飽和溶液内に発生した種晶を用いた結晶成長(冷却晶析)における結晶成長時間を120分、晶析終了温度を30℃と設定し、60℃から30℃まで120分かけて、直線状の線形冷却温度プロファイルに従って冷却し、硫酸カリウムの結晶を生成した。
【0089】
「比較例」
図7に示したような晶析装置を用いて、硫酸カリウム(KSO)の冷却晶析を行った。
晶析槽の反応容器としては、容積が3Lのものを用いた。
溶媒として水(HO)を用いた。
晶析槽の反応容器内にて、この溶媒に60℃の飽和溶液となるような硫酸カリウムを秤量し、溶解しながら、容器の内温を65℃に調節し、硫酸カリウムが全て溶解するのを待ち、60℃における硫酸カリウム飽和溶液を調製した。
次いで、この硫酸カリウム飽和溶液を、60℃から30℃まで120分かけて、直線状の線形冷却温度プロファイルに従って冷却し、硫酸カリウムの結晶を生成した。
【0090】
「結果」
上記の実施例および比較例による種晶なしの冷却晶析によって得られた硫酸カリウムの結晶の粒径分布を図9に示す。
図9は、FBRM(Focused Beam Reflectace Method、レーザー後方散乱光計測による粒径測定法)を適用した粒子数測定装置により測定された結果を示し、重み1/Lengthに設定し、縦軸は単位時間当たりのFBRMの総粒子数測定値、横軸は対数粒径分布を示す。
図9の結果から、実施例では、粒径148.5μmにピーク値(極大値)を有し、そのときのFBRMの粒子数測定値は335[♯/s]、総粒子数は2917[♯/s]であった。
一方、比較例では、単に硫酸カリウムを線形冷却温度プロファイルに従って冷却したため、粒径123.8μmにピーク値(極大値)を有し、そのときの粒子の総粒子数測定値は501[♯/s]、総粒子数は4440[♯/s]であった。
本発明による効果として、インターナルシーディング効果による二次核化の影響が少なくなり、総粒子数は34.3%少なくなった。このことは、結晶1つあたりの重量が増加する結果となる(図10)。
【0091】
図10は、FBRMの粒子数測定値から重量に変換した結果を示すグラフである。
実施例では、粒径368.5μmにピーク値(極大値)を有し、そのときのFBRMの粒子数測定値からの重量変換値は18.5[%]であった。
一方、比較例では、単に硫酸カリウムを線形冷却温度プロファイルに従って冷却したので、粒径307.2μmにピーク値(極大値)を有し、そのときのFBRMの粒子数測定値からの重量変換値は14.2[%]であった。
実施例と比較例を比較すると、本発明による効果として、二次核化が抑制されて、単分散粒子が得られ、粒径分布のピーク値が増大し、それによって平均プロダクト粒径が増加し、粒径分布幅が狭くなることが確認された。
以上の結果から明らかなように、冷却晶析開始時に飽和溶液を急冷することにより、二次核発生が抑制されて、単分散粒子が得られ、平均プロダクト粒径も増大することが確認された。
【符号の説明】
【0092】
10・・・晶析装置、11・・・晶析槽、12・・・温度制御装置、13・・・反応容器、14・・・ジャケット、15・・・攪拌器、16・・・冷却加熱装置、17・・・冷却水供給源、18・・・水蒸気供給源、19・・・バルブ、20・・・冷却水供給管、21・・・バルブ、22・・・水蒸気供給管、23・・・供給管、24・・・温度測定部、31・・・温度調節器、32・・・冷却温度プロファイル設定器、33・・・表示/操作器、34・・・晶析設定演算器、35・・・主調節器、36・・・従調節器、37・・・温度測定部(測温抵抗体)、38・・・変換器、39・・・変換器。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
種晶なしの冷却晶析において、化合物を溶解した飽和溶液を冷却して、前記飽和溶液から前記化合物の結晶を析出させる晶析方法であって、
予め求められた前記飽和溶液の急冷前後の温度差ΔTと、前記飽和溶液の急冷によって生じる種晶の粒子数および平均粒径との関係に基づいて、前記飽和溶液を急冷し、前記温度差ΔTに応じた粒子数および平均粒径の種晶を生成し、前記飽和溶液の温度を急冷後の温度に過飽和度消費時間維持して、過飽和度が消費された後に、前記飽和溶液を、任意の冷却温度プロファイルに従って冷却することを特徴とする晶析方法。
【請求項2】
前記種晶の粒子数および平均粒径と、前記結晶の所望とするプロダクト粒径の目標値とから算出され、結晶の成長開始温度から成長終了温度の温度差ΔTによって前記飽和溶液から析出する結晶の理論晶析量が全て前記種晶の成長となるように、前記飽和溶液を冷却することを特徴とする請求項1に記載の晶析方法。
【請求項3】
種晶なしの冷却晶析に用いられ、化合物を溶解した飽和溶液を冷却して、前記飽和溶液から前記化合物の結晶を析出させる晶析を行う晶析装置であって、
前記飽和溶液を収容する容器、および、前記飽和溶液を冷却および/または加熱する手段を有する晶析槽と、
予め求められた前記飽和溶液の急冷前後の温度差ΔTと、前記飽和溶液の急冷によって生じる種晶の粒子数および平均粒径との関係に基づいて、前記飽和溶液を急冷し、前記温度差ΔTに応じた粒子数および平均粒径の種晶を生成し、前記飽和溶液の温度を急冷後の温度に過飽和度消費時間維持して、過飽和度が消費された後に、前記飽和溶液を、任意の冷却温度プロファイルに従って冷却するという温度制御を行う温度制御装置と、を備えたことを特徴とする晶析装置。
【請求項4】
前記温度制御装置は、前記種晶の粒子数および平均粒径と、前記結晶の所望とするプロダクト粒径の目標値とから算出され、晶析開始温度から晶析終了温度の温度差ΔTによって前記飽和溶液から析出する結晶の理論晶析量が全て前記種晶の成長となるように、前記飽和溶液を冷却するという温度制御を行うことを特徴とする請求項3に記載の晶析装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−125703(P2012−125703A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−279654(P2010−279654)
【出願日】平成22年12月15日(2010.12.15)
【出願人】(000004411)日揮株式会社 (94)