説明

晶析方法および装置

【課題】晶析装置において、複雑な設備を用いることなしに、簡易な方法で、壁面への付着防止や粒径分布などを改善する方法および装置を提供する。
【解決手段】晶析装置の生成スラリー中の結晶を分離または濃縮し還流させる結晶還流装置を設置し、晶析槽から抜き出した生成スラリーの一部、又は全部を該結晶還流装置に導入し、該スラリー中の結晶または濃縮スラリーを晶析槽に還流させながら晶析する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は晶析方法および装置に関し、晶析操作における平均粒径や粒径分布の制御および、晶析槽や周辺装置への結晶付着の防止等に関するものである。
【背景技術】
【0002】
硫安、尿素等の肥料や、種々の化学製品、薬品および食品等において、結晶粒子を製造する方法として種々の晶析装置が用いられている。晶析装置には内部加熱型、外部加熱型があり、液の沸騰による自然循環型と内部に攪拌翼を設置した強制循環高型に分けることができる。
【0003】
これらの晶析装置で常に問題となるのは、結晶粒子の平均粒径とおよび粒径分布と晶析槽壁面への付着であり、粒径分布の改善と壁面への付着防止のために種々の工夫が行われている。
【0004】
このような晶析装置では晶析条件を決めると物質収支と結晶成長に必要な晶析時間(結晶滞留時間)から晶析スラリーの保持時間(晶析槽の容量)が決まる。目標となる平均粒径や粒径分布が変更された場合に、晶析槽の液面変更可能な範囲での晶析スラリー保持時間の変更か、晶析の温度、圧力条件の変更での対応となり、変更できる範囲は限られている。
これらの制約条件を避けるために、古くから晶析槽内部に複雑な構造を設ける等工夫がなされて来ている。オスロー型、ドラフトチューブ型はその代表例である。例えば、特許文献1には、ドラフトチューブの外管の下端に多数の液吹き出し口を有した環状管を設け、該環状管に外部循環装置を接続し、溶解液を環状管を介して結晶缶に周方向均一に供給する方法が記載されている。
【0005】
結晶の付着防止は、結晶の付着成長の起こる部分について、次のような局所的な対応が取られている。
1)装置接液部の表面を結晶が付着し難くする目的で、種々の研磨(バフ掛け、電解研磨等)や付着しにくい材料でのコーティング(テフロンコーティング等)を行う。
2)装置接液部の表面付近の溶液を結晶の析出しない性状にする目的で、飽和濃度以下の溶液で置換、洗浄したり、加熱や冷却を行う。
3)結晶付着はするがそれ以上成長しないように機械的除去を行う(掻き取り羽根で掻き落とす等)。
例えば、特許文献2には、粗晶析性物質を含有する過飽和溶液から、攪拌軸を有する攪拌機を用いて攪拌しながら、減圧下に溶媒を蒸発させ、晶析槽外で凝縮液化し、晶析槽気相部に噴霧し、晶析槽気相部での結晶付着防止を行う方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6−226003号公報
【特許文献2】特開平10−156103号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
以上の如く晶析装置で壁面への付着防止や粒径分布などを改善するために、種々の試みが行われているが、そのために大がかりな設備や操作を必要とし、有効な効果が得られない場合が多い。例えば特許文献2の方法では、蒸発した溶媒を結晶缶内に噴霧させなければならず、一旦濃縮した結晶缶内の溶媒中の溶質濃度を希釈し、溶質の濃縮効率を低下させてしまう。また特許文献1の方法では、複雑な吹き出し管が必要である。
本発明の目的は、晶析装置において、複雑な設備を用いることなしに、簡易な方法で、壁面への付着防止や粒径分布などを改善する方法および装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記の如き課題を有する晶析方法および装置について鋭意検討した結果、晶析槽から抜き出した生成スラリーの一部、又は全部を取り出して結晶分離器やスラリー濃縮装置に導入し、結晶や濃縮スラリーを該晶析槽に還流しながら晶析することにより、該晶析槽の結晶滞留時間を増加させたり、スラリー濃度を上げることができ、還流する結晶流量を制御することにより粒径分布が改善され任意の平均粒径の結晶が得られるようになること、晶析槽内部および周辺機器の接液面での結晶の付着が防止できること等の利点を有することを見出し、本発明に到達した。
【0009】
即ち本発明は、溶液又は溶質の一部が析出したスラリーを晶析槽に送り、晶析槽において溶質を析出させ、結晶と溶媒を含むスラリーを生成させて排出する方法において、生成スラリー中の結晶を分離または濃縮し還流させる結晶還流装置を設置し、晶析槽から抜き出した生成スラリーの一部、又は全部を該結晶還流装置に導入し、生成スラリー中の結晶または濃縮スラリーを該晶析槽に還流させながら晶析することを特徴とする晶析方法および、溶液又は溶質の一部が析出したスラリーを晶析槽に送り、晶析槽で溶質を析出させ、結晶と溶媒を含むスラリーを生成させて排出する晶析装置において、生成スラリー中の結晶または濃縮スラリーを晶析槽に還流させる結晶還流装置を具備することを特徴とする晶析装置である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の方法および装置では、晶析槽と結晶還流装置を組み合わせることにより晶析槽でのスラリー濃度を高めることができ、次のような効果を有する。
(1)単位結晶あたりの析出速度を低く抑えることができ、緻密で堅く、純度等の性状が改善された結晶を得ることができる。
(2)晶析槽に供給する過飽和溶液の過飽和度を高くしても、単位結晶あたりの析出速度を低く抑えることが出来、晶析槽内の溶液の過飽和度を下げることができ、晶析槽内部などへの結晶付着を防止し、成長を抑制することができる。
(3)晶析槽内に攪拌機等を設置するなどしてスラリーを攪拌・流動させることができる場合には、晶析槽内部などの壁面に付着した結晶を擦りとることができ、晶析槽内部などのへの結晶付着を防止し、成長を抑制することができる。
【0011】
(4)晶析槽と結晶還流装置を組み合わせ、さらに結晶の還流量を制御する機能を使用することにより、晶析槽でのスラリー濃度を任意に変更でき、晶析槽における結晶の滞留時間と母液の滞留時間を独立して制御できる。この結果、結晶の粒径を自由に調整することができ、任意の粒径の結晶を得ることができる。
(5)以上のように結晶性状(緻密性、堅さ、純度等)の制御、晶析槽に供給する過飽和溶液の過飽和度の制御、晶析槽内部などへの結晶付着、成長の制御が自由に出来るようになることから、高品質の結晶が得られるようになると共に、晶析後の結晶の分離、輸送操作が容易となる。
(6)晶析槽のスラリー濃度を高めることが出来るようになるので、温度差による溶解度が小さくて、従来は晶析させた結晶粒径が小さく結晶分離が難しい場合や、晶析温度を低くしないと晶析の効果が無くなるので水による冷却が不可能であるような場合に、晶析温度を上げて冷却水等を使用できるようになる。
以上のように本発明により、晶析槽と結晶還流装置を組み合わせることによって、複雑な設備を用いることなしに簡易な方法で、壁面への付着防止や粒径分布などの改善が行われので、本発明は工業的に極めて有用な発明である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の原理を示す説明図である
【図2】高温スラリーをフラッシュさせて晶析を行う従来の装置のフロー図である。
【図3】図2に結晶還流装置を付加した本発明の晶析装置の基本フロー図である。
【図4】結晶還流装置を2段とする方式とした本発明の晶析装置のフロー図である。
【図5】晶析槽からの抜き出しスラリーの一部を結晶還流装置に供給せずに抜き出す方式とした本発明の晶析装置のフロー図である。
【符号の説明】
【0013】
V:晶析槽
R、R1、R2:結晶還流装置
PP:ポンプ
A:攪拌機
C1、C2:流量制御器(調節弁等)
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明において用いられる晶析槽の形式には特に制限はないが連続式のものが好ましい。通常は晶析槽からの生成スラリーは抜き出しポンプから結晶還流装置に全量導入されるが、晶析槽からの生成スラリーの一部を結晶還流装置に通過させずに取り出すことができる。
結晶還流装置は抜き出された生成スラリーから結晶を分離する結晶分離装置や抜き出された生成スラリーの結晶を濃縮するスラリー濃縮装置と、分離された結晶や濃縮されたスラリーを該晶析槽に還流するための移送装置から構成される。結晶分離装置やスラリー濃縮装置は結晶分離やスラリー濃縮が可能であればどのような装置でも利用可能であり、例えばスラリー濃縮器として液体サイクロンや、重力沈降器、遠心沈降器のように汎用で安価なものを用いることが出来る。
【0015】
結晶還流装置に導入する原料スラリーの流量は溶質の溶解度等の物性、スラリーの物性により適宜決定される。本発明により結晶還流装置を設置して還流することにより、結晶還流装置を設置しない場合に比べて晶析槽内のを増加させることができる。このスラリー濃度は数〜10数%、場合によっては数10%以上が可能である。
このように晶析槽内のを任意の濃度に高めることができる結果、例えば晶析槽内の壁面への付着が防止され、温度差による溶解度差が小さくて従来は晶析による分離が困難であったものが分離可能となる場合や、従来は冷却水による冷却が困難であった晶析が冷却水を使用することができるようになる場合などがある。
【0016】
本発明では、結晶還流装置からの濃縮スラリーや結晶を晶析槽に戻すに際して、通常、調節弁や回転数制御ができるスクリューコンベア等を設置し、該調節弁やスクリューコンベアの回転数を操作することにより粒径分布を変化させることができ、任意の平均粒径の結晶を得ることができる。これにより高品質の結晶を得られると共に、次の工程の結晶分離や輸送操作が容易となり、作業効率を上げることができる。
なお、本発明における壁面などへの付着防止の効果や粒径分布の改善効果を得るためには晶析槽内においてスラリーが流動して良く混合していることが重要であり、内部に攪拌機を有する晶析槽が一般に用いられるが、結晶還流装置からの濃縮スラリーを晶析槽に旋回流で供給したり、高温の原料溶液を晶析槽内にフラッシュさせること等により該晶析槽内を流動、攪拌させ、混合することでの代替もできる。
【0017】
図面を用い本発明を説明する。図1は本発明の原理を示す説明図である。図1において、原料は流路T1より晶析槽Vに導入される。晶析槽V内で結晶が生成する。晶析槽内の結晶はスラリーとして流路T2で結晶還流装置Rに送られる。結晶還流装置Rで分離された結晶または濃縮スラリーは流路T4で晶析槽Vに還流される。原料として流入した結晶と晶析槽内で生成した結晶が流路T3からバランス量が流出する。還流された結晶により晶析槽V内部のスラリー濃度は増加することになる。
結晶のバランスは、流路T1よりの原料中の結晶流量S1と晶析槽V内での生成、生長結晶流量Pの和が、流路T3から出て行く結晶流量S3と等しくなる。結晶還流装置Rから晶析槽Vへ還流される結晶流量をS4とすると流路T2(晶析槽Vから結晶還流装置Rへ流れる流路)での結晶流量S2は(S3+S4)に等しくなる。
流路T4での結晶流量が無い場合の晶析槽内Vの結晶ホールド量をH0とすると、流路T4での結晶流量がS4の場合の晶析槽V内のスラリーホールド量H1はH0*(S4+S3)/S3=H0*(S4+P+S1)/(P+S1)となる。晶析槽V内の結晶滞留時間はS4が無い場合の結晶滞留時間に比べて(H1/H0)倍長くすることができ、結晶が成長し、平均粒径を大きくできる。
【0018】
図2に通常よく見られる高温スラリーをフラッシュさせて晶析を行う装置のフロー図を示す。また図3は、図2のフローに結晶還流装置を付加し本発明の晶析装置としたフロー図を示す。
図3において、高温の原料スラリーは流路T1より晶析槽Vに導入される。晶析槽Vには攪拌機Aが設置されている。晶析槽Vからのスラリーは流路T2からポンプPPへと抜き出される。そのスラリー全量を流路T2より結晶還流装置R(液体サイクロン等)に導入し、流路T3の希薄スラリーと流路T4の濃縮スラリーに分離する。流路T3より生成結晶をスラリーとして抜き出す。流路T4は途中にある流量制御用の弁で晶析槽へ還流する結晶流量を制御する。
なお、本発明において濃縮度を高め、粒径分布を改善するために、図4に示すように結晶還流装置を2段とする方式や、図5に示すように抜き出しスラリーの一部を結晶還流装置に供給せず抜き出す方式とすることもできる。
【0019】
従来の晶析装置では、晶析槽に過飽和溶液が供給され、冷却・攪拌により結晶が析出したスラリーを得られるが、本発明の方法では晶析槽と結晶還流装置を組み合わせることにより晶析槽でのスラリー濃度を高めることができる。この結果、単位結晶あたりの析出速度を低く抑えることができ、緻密で堅く純度のよい結晶を得ることができる。
【0020】
また本発明では、晶析槽でのスラリー濃度を高めることができる結果、晶析槽に供給する過飽和溶液の過飽和度を高くしても、単位結晶あたりの析出速度を低く抑えることが出来、晶析槽内の溶液の過飽和度を下げることができる。従って晶析槽内部などへの結晶付着を抑制、防止することができる。
【0021】
更に本発明において攪拌機等を設置し晶析槽内のスラリーを攪拌・流動させることができる場合には、高スラリー濃度で槽内を流動させることで、晶析槽内部などの壁面などに付着した結晶を擦りとることができ、晶析槽内部などのへの結晶付着を防止し、成長を抑制することができる。
【0022】
本発明では、晶析槽と結晶還流装置を組み合わせることにより、晶析槽における結晶の滞留時間と母液の滞留時間を独立して制御できる。このためスラリーの粒径を自由に調整することができ、任意の粒径の結晶を得ることができる。この粒径等の調整には結晶還流装置にスラリー濃縮器を使用した場合は濃縮スラリーの還流量を調整する調節弁等が用いられ、結晶分離器を使用した場合は結晶の還流量を調整するスクリューコンベア等が用いられる。
なお、本発明の方法および装置は、晶析可能な系であれば物質を問わず適用できる原理であり工業的に幅広く適用できる。
【実施例】
【0023】
次に実施例により本発明を更に具体的に説明する。但し、本発明は以下の実施例により制限されるものではない。
【0024】
実施例1
図3に示す晶析装置を用いて粗ピロメリット酸溶液からピロメリット酸の晶析を行った。結晶還流装置には液体サイクロンを用い、濃縮スラリーの還流量調整には調節弁を用いた。結晶成分(ピロメリット酸)が溶解した高温の原料溶液(粗ピロメリット酸溶液)を図3の装置でフラッシュ蒸発させ、抜き出しスラリー流量の0.3倍量の濃縮スラリーを還流装置から晶析槽に還流させた。この結果、結晶の平均粒径が80μmとなり、結晶分離機の能力向上となった。
【0025】
比較例1
実施例1において用いた結晶還流装置(液体サイクロン)への晶析槽抜き出しスラリーを供給せずそのまま抜きだし、晶析槽には濃縮スラリーを還流しなかった。その結果、結晶の平均粒径は50μm程度であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶液又は溶質の一部が析出したスラリーを晶析槽に送り、晶析槽において溶質を析出させ、結晶と溶媒を含むスラリーを生成させて排出する方法において、生成スラリー中の結晶を分離または濃縮し還流させる結晶還流装置を設置し、晶析槽から抜き出した生成スラリーの一部、又は全部を該結晶還流装置に導入し、生成スラリー中の結晶または濃縮スラリーを晶析槽に還流させながら、晶析することを特徴とする晶析方法。
【請求項2】
溶液又は溶質の一部が析出したスラリーを晶析槽に送り、晶析槽においてフラッシュさせて溶質を析出させる請求項1に記載の晶析方法。
【請求項3】
晶析槽への結晶または濃縮スラリーの還流量を制御することにより、該晶析槽における結晶滞留時間およびスラリー濃度を制御しながら晶析する請求項1又は2に記載の晶析方法。
【請求項4】
溶液又は溶質の一部が析出したスラリーを晶析槽に送り、晶析槽において溶質を析出させ、結晶と溶媒を含むスラリーを生成させて排出する晶析装置において、生成スラリー中の結晶または濃縮スラリーを晶析槽に還流させる結晶還流装置を具備することを特徴とする晶析装置。
【請求項5】
溶液又は溶質の一部が析出したスラリーを晶析槽においてフラッシュさせて溶質を析出させる請求項4に記載の晶析装置。
【請求項6】
結晶還流装置に還流させる結晶または濃縮スラリー流量を制御する機能を具備した請求項4又は5に記載の晶析装置。
【請求項7】
結晶還流装置が結晶分離装置である請求項4〜6のいずれかに記載の晶析装置。
【請求項8】
結晶還流装置がスラリー濃縮装置である請求項4〜6のいずれかに記載の晶析装置。
【請求項9】
スラリー濃縮装置が液体サイクロンである請求項8に記載の晶析装置。
【請求項10】
結晶還流装置を直列に2基以上設置し、各々結晶還流装置から分離された結晶または濃縮スラリーを晶析槽に還流させる機能を具備した請求項4〜9のいずれかに記載の晶析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−72998(P2011−72998A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−261809(P2010−261809)
【出願日】平成22年11月24日(2010.11.24)
【分割の表示】特願2000−299873(P2000−299873)の分割
【原出願日】平成12年9月29日(2000.9.29)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(000004466)三菱瓦斯化学株式会社 (1,281)