説明

曲り矯正装置

【目的】安価な構成で、線材単体はもとより、予め組み付けられた枠材の一部に生じた曲げ変形であっても、コンパクトに持ち運べて曲げ発生場所で円滑に曲げ矯正作業を行うことのできる曲り矯正装置を提供することを目的としている。
【構成】曲り部位32を挟んで線材30を各フック7に当接させた状態で曲り部位32にフック10を当接させながら、螺子部14と螺子部5の螺合を進行させて、線材30と各フック7との当接点に反力を生じさせ曲り部位32を挟んで固定保持して、フック10の上湾曲部11より螺合締結力を矯正力として曲り部位32に与えて押圧して押し下げていく。螺合締結力を曲り部位32に付与して押し下げることにより曲り部位32を真直状態32aに復帰させる曲げ矯正作用を働かせることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は管状又は棒状の線材の曲り変形を矯正する曲り矯正装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の線材として各種金属パイプ材や棒材が種々の分野で使用されている。例えば、フロアマット等のダストコントロール製品を製造する製造工場においては、図8に示すように、マット用ゴムシートロール58や布原反60などの資材を運搬するために、各種資材運搬用ワゴン台車を場内の床面63に配置して使用している。係るワゴン台車の枠材にはパイプ鋼材が使用されている。図8の(8A)は台車の側面を示し、同図(8B)は台車の上面を示す。ワゴン台車は、キャスター51の付いた底板50の四隅に平面視コ字形に立設された隅用縦パイプ52、53、両側面と正面に複数配置された柵用縦パイプ55、両側面と正面の各面の縦パイプに横断状に溶着された複数本の棒状鋼材56、最上部のコ字形に接合された水平パイプ54、57を有する。
【0003】
ゴムシートロール58や布原反60は重量物であり、また、ゴムシートロール58は硬質の芯材59に巻き付けられているため、台車への積込み時や運搬中に台車の枠材に、ゴムシートロール58又は芯材59もしくは布原反60が当たって衝撃が加わる事態が生じて、枠構成材(縦パイプ52、53、55、鋼材56、水平パイプ54、57)の一部が枠外側に曲がる曲げ変形61が発生した。また、縦横の各パイプの曲がりは、搬送用フォークリフトや他の台車との衝突により、あるいはトラック内への積み込み運搬時に荷台と台車を固定するラッシングベルトの締付によって枠内側に曲がる曲げ変形62が発生した。これらの曲げ変形を放置しておくと次第に枠組み全体が歪んで台車運搬作業に支障をきたすおそれがあるため、随時曲げ変形を修理する必要がある。
【0004】
金属パイプなどの線材の曲げ矯正は、従来より線材加工等の分野で行われている。
例えば、特許文献1や特許文献2には、鋼管をV字形サドル間に挟み、エアー又は油圧シリンダーの加圧によりクランプするローラ式矯正装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−155451号公報
【特許文献2】実公昭54−35155号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のワゴン台車用枠材の曲げ変形の発生の都度、別のワゴン台車に交換するのは余分のワゴン台車を用意しておく費用を生じ、また配車スペースも確保する無駄を生ずる。
そこで、資材搬送効率を低下させないように迅速な曲げ変形修理を行う必要がある。
しかしながら、ハンマーを用いて曲げ部位を叩いて矯正する場合には、叩きすぎや叩打ミスにより致命的な損傷を枠材に加えてしまうおそれがあった。また、係る曲げ変形修理に、特許文献1及び特許文献2のローラ式矯正装置を使用する場合、これらの矯正装置は主に長尺状線材を扱うものであるため、ワゴン台車のような溶接等により枠組みされた枠の一部に生じた曲げ変形に適用することができないという問題があった。枠組みを分解して修理するには再組立てを要して、作業時間や修理コスト面で到底採算が合わない。しかも、係る矯正装置は鋼材等の金属加工場に設置される矯正設備であるため、専用の設置場所を要し、また、仮に枠組みを分解して修理するにしても、フロアマット再生処理作業場から該設置場にワゴン台車を移送する手間を要する問題もあった。
【0007】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであって、安価な構成で、線材単体はもとより、予め組み付けられた枠材の一部に生じた曲げ変形であっても、コンパクトに持ち運べて曲げ発生場所で円滑に曲げ矯正作業を行うことのできる曲り矯正装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記課題を解決するために提案されたものであって、本発明の第1の形態は、管状又は棒状の線材の曲り変形を矯正する曲り矯正装置において、前記線材の曲り部位を挟んで離間した前方部分及び後方部分に夫々当接する前方当接部と後方当接部と備えた線材支持体と、前記前方当接部と前記後方当接部の間において前記線材支持体に螺合して、前記前方当接部の前記前方部分との当接点と前記後方当接部の前記後方部分との当接点とを結ぶ当接線に直交又は略直交する方向に進退移動可能に可動端を配置した可動体とを有し、前記曲り部位を挟んで前記線材を前記前方当接部と前記後方当接部に当接させた状態で前記曲り部位に前記可動端を当接させながら、前記線材の前記前方当接部及び前記後方当接部との当接点に反力を生じさせる向きに前記螺合を進行させて前記曲り部位を直線状に矯正する曲り矯正装置である。
【0009】
本発明の第2の形態は、第1の形態において、前記可動体は、前記線材支持体に螺合する螺子部を形成した軸体と、前記螺子部の一端側に形成された螺子締め用締結具の装着部とを有し、前記螺子部の他端側に前記可動端を設けた曲り矯正装置である。
【0010】
本発明の第3の形態は、第1又は第2の形態において、前記可動端は上向きに凸形状の曲り部位を押し下げる向きに湾曲した鉤状又はフック状の形状からなる曲り矯正装置である。
【0011】
本発明の第4の形態は、第1又は第2の形態において、前記可動端は下向きに凸形状の曲り部位を引き上げる向きに湾曲した鉤状又はフック状の形状からなる曲り矯正装置である。
【0012】
本発明の第5の形態は、第1〜第4のいずれかの形態において、前記可動端は、前記曲り部位が遊挿可能な鉤状又はフック状の形状を有する曲り矯正装置である。
【0013】
本発明の第6の形態は、第1〜第5のいずれかの形態において、前記前方当接部及び前記後方当接部は夫々、前記前方部分、前記後方部分に被さる湾曲形状を有する曲り矯正装置である。
【0014】
本発明の第7の形態は、第1〜第6のいずれかの形態において、前記前方当接部及び前記後方当接部は夫々、前記曲り部位が遊挿可能な鉤状又はフック状の形状を有する曲り矯正装置である。
【0015】
本発明の第8の形態は、第1〜第7のいずれかの形態において、前記線材支持体は二又形状に分岐した剛体からなり、前記剛体の中間部に前記可動体と螺合する螺子部を設け、各分岐端に前記前方当接部と前記後方当接部を形成した曲り矯正装置である。
【0016】
本発明の第9の形態は、第8の形態において、前記螺子部から、前記前方当接部及び前記後方当接部に至る分岐部分に中空部を形成した曲り矯正装置である。
【発明の効果】
【0017】
本発明の第1の形態によれば、前記曲り部位を挟んで前記線材を前記前方当接部と前記後方当接部に当接させた状態で前記曲り部位に前記可動端を当接させながら、前記線材の前記前方当接部及び前記後方当接部との当接点に反力を生じさせる向きに前記可動体の前記線材支持体との螺合を進行させて前記曲り部位を直線状に矯正するので、前記前方当接部及び前記後方当接部の夫々を、前記曲り部位を挟んで離間した前記前方部分及び前記後方部分に当接させ、且つ前記曲り部位に前記可動端を当接させて、レンチやスパナ等の締結用工具を用いて前記可動体による螺合を進行させるだけの簡単な操作により、前記曲り部位に直線状に戻す矯正力を付与して円滑な曲げ矯正作業を行うことができる。
本形態に係る曲げ矯正装置は、前記線材支持体と前記可動体により構成することができるので、矯正設備費用を低減することができる。しかもコンパクトな構成により持ち運び可能になるので、例えば、上述のワゴン台車の曲げ事例のように曲げ変形の生じた場所で線材単体はもとより、予め組み付けられた枠材の一部に生じた曲げ変形であっても曲げ矯正作業を行うことができる。
【0018】
本形態においては、前記可動体の螺合による締結力を反力として与える、前記前方部分の当接点及び前記後方部分の当接点を支点にし、前記可動端の前記曲り部位との当接点を作用点にして前記締結力を矯正力として加えるので、前記線材支持体は少なくとも2点支持構造を有する形体を具備すればよく、無論2点支持構造に限らず3点以上の支持構造を備えた前記線材支持体を使用することができる。なお、本形態における螺合操作は上記の締結用工具による場合に限らず、作用点から離れた前記可動体の一部に、レバーやハンドル等の回動操作用取っ手を取着しておいて、該取っ手の回動操作により螺合を進行させるようにしてもよい。螺合機構は螺子式の他に、前記可動体に形成したラックとピニオンギアとの係合によるラックピニオン機構を使用することができる。
本発明に係る前記線材支持体は、矯正力付加時の耐久性強度を具備した材料、例えば、鋳鉄又は合金の鋳物、アルミニウムダイキャスト合金、あるいは強化プラスチックス等により形成することができる。
なお、本発明は管状又は棒状の線材の曲り変形の矯正に適用することができ、特には丸材やパイプに限らず角材や矩形中空線材にも適用することができる。
【0019】
本発明の第2の形態によれば、前記可動体は、前記線材支持体に螺合する螺子部を形成した軸体と、前記螺子部の一端側に形成された螺子締め用締結具の装着部とを有し、前記螺子部の他端側に前記可動端を設けたので、例えば、螺子締め用締結具の一例としてレンチを使用する場合には、前記装着部としてレンチ凸部と嵌合する嵌合凹部を形成して、前記レンチ凸部を前記嵌合凹部に嵌合させて前記レンチの回転操作により前記可動体の螺合を進行させて円滑な曲げ矯正作業を行うことができる。
【0020】
本発明の第3の形態によれば、前記可動端は上向きに凸形状の曲り部位を押し下げる向きに湾曲した鉤状又はフック状の形状からなるので、前記可動体の螺合を進行させるときに前記曲り部位を覆うように当接し、滑ったり逃げたりせずに前記曲り部位の移動を規制して矯正力を確実に付与することができ、円滑な曲げ矯正を行うことができる。
【0021】
本発明の第4の形態によれば、前記可動端は下向きに凸形状の曲り部位を引き上げる向きに湾曲した鉤状又はフック状の形状からなるので、第3の形態と同様に、前記可動体の螺合を進行させるときに前記曲り部位を覆うように当接し、滑ったり逃げたりせずに前記曲り部位の移動を規制して矯正力を確実に付与することができ、円滑な曲げ矯正を行うことができる。
【0022】
本発明の第5の形態によれば、前記可動端は、前記曲り部位が遊挿可能な鉤状又はフック状の形状を有するので、前記鉤状又はフック状の形状の開放部分から前記曲り部位の挿脱が自在となり、例えば、組立て枠の枠材の一部に前記開放部分から前記曲り部位を挿入して前記可動端に当接させることができ、枠組みを分解せずに曲げ矯正作業を簡易に行え、極めて利便性に富んだコンパクト構成の曲り矯正装置を実現することができる。
【0023】
本発明の第6の形態によれば、前記前方当接部及び前記後方当接部は夫々、前記前方部分、前記後方部分に被さる湾曲形状を有するので、前記可動体の螺合による締結力を前記曲り部位に加える際に、前記線材がずれたり逃げたりすることなく、前記前方当接部及び前記後方当接部の各湾曲面で前記線材を強固にクランプして矯正力を確実に付与することができ、円滑な曲げ矯正を行うことができる。
【0024】
本発明の第7の形態によれば、前記前方当接部及び前記後方当接部は夫々、前記曲り部位が遊挿可能な鉤状又はフック状の形状を有するので、前記鉤状又はフック状の形状の開放部分から前記線材の挿脱が自在となり、例えば、組立て枠の枠材の一部に前記開放部分から前記線材の前記前方部分及び前記後方部分を挿入して支持することができ、枠組みを分解せずに曲げ矯正作業を簡易に行え、極めて利便性に富んだコンパクト構成の曲り矯正装置を実現することができる。
【0025】
本発明の第8の形態によれば、前記線材支持体は二又形状に分岐した剛体からなり、前記剛体の中間部に前記可動体と螺合する螺子部を設け、各分岐端に前記前方当接部と前記後方当接部を形成したので、各分岐端を、前記可動体の螺合による締結力を反力として与える支点にし、前記可動端の前記曲り部位との当接点を作用点にして前記締結力を矯正力として加える2点支持構造を構成でき、レンチやスパナ等の締結用工具による簡単な螺合操作により前記曲り部位に直線状に戻す矯正力を付与して円滑な曲げ矯正作業を行うことができる。なお、第8の形態の応用として、三又あるいは四又状に分岐した剛体を使用することにより3点支持構造ないし4点支持構造の曲げ矯正装置を実現することができる。
【0026】
本発明の第9の形態によれば、前記螺子部から、前記前方当接部及び前記後方当接部に至る分岐部分に中空部を形成したので、装置重量を軽減化してコンパクト且つ持ち運び自在なハンディタイプの曲げ矯正装置を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の実施形態である曲り矯正装置1の外観斜視図である。
【図2】曲り矯正装置1の正面図である。
【図3】曲り矯正装置1の側面図及び軸体6aの側面図である。
【図4】曲り矯正装置1の曲げ矯正作用を説明するための正面図である。
【図5】本発明の別の実施形態である曲り矯正装置の正面図及び側面図である。
【図6】本発明の更に別の実施形態である曲り矯正装置の正面図である。
【図7】図6の曲り矯正装置の上面図である。
【図8】ワゴン台車の側面及び上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明に係る曲り矯正装置1の実施形態を図面を参照して詳細に説明する。
図1は曲り矯正装置1の外観斜視図である。図2は曲り矯正装置1の正面図である。
【0029】
曲り矯正装置1は例えば、図8に示したワゴン台車の枠材(金属管部材)30の一部に曲げ変形を生じたときに、台車の分解を行わずに作業員の手作業で曲り変形を矯正する矯正作業を行えるハンディ型線材曲げ矯正具である。図1において、鋼パイプからなる枠材30の真直部位31間に曲げ部位32が発生した状態を示す。
【0030】
曲り矯正装置1は、一組の水平部材3と、各水平部材3と直交した向きに屈曲形成された鉛直部材4からなり、全体として略コ字形の二又状形状の線材支持体2と、水平部材3間の中央に設けた螺子部5に螺合する可動体6とからなる。線材支持体2は一組の水平部材3及び鉛直部材4と螺子部5とを一体成型した鋳鉄(剛体)により形成されている。螺子部5には可動体6の螺子部14と螺合させるための螺子穴16が鉛直方向に形設されている。水平部材3は鉛直部材4より肉厚に形成して曲げ矯正時にかかる負荷に対する強度を高めている。各水平部材3には貫通穴18が穿設され、各鉛直部材4には貫通穴19、20が穿設されている。貫通穴18、19、20の中空部形成により構成鋳鉄分を削減して装置重量の軽量化が図られている。
【0031】
各鉛直部材4の下端には断面略C字形のフック7が一体形成されている。各鉛直部材4のフック7は、曲げ部位32を挟んで離間した前後の真直部位31に夫々当接させる当接部である。一組のフック7は本発明における一対の前方当接部及び後方当接部を構成している。フック7はフック中間部の上方に位置する上側湾曲面を備えた上湾曲部8と、フック中間部の下方に位置する下側湾曲面を備えた下湾曲部9を有する。上湾曲部8と下湾曲部9の間には、図3に示すように管材25を略2本収容可能なフック空間が設けられ、上湾曲部8と下湾曲部9の開放端により形成された正面側開口部7aより枠材30(線材)をフック空間に対し挿脱自在にすることができる。ワゴン台車の枠間幅に適用可能にすべく、フック7の外端どうしの距離を40cmにしている。
【0032】
図3は曲り矯正装置1の側面(3A)と軸体6aの側面(3B)を示す。
可動体6は螺子部14を形成した軸体6aと、軸体6aの下部23がビス止めにより連結されるフック部とからなる。軸体6aの上端部15には、ラチェットレンチ(螺子締め用締結具)のレンチ凸部と嵌合する角型嵌合凹部22が凹設されている。嵌合凹部22の形成は軸体6aの上部を刻設して形成するか、あるいは別部材のラチェットボックス材を上部に熔着して形成することができる。下部23にはビス挿入穴24が軸方向と直交する方向に穿設されている。可動体6のフック部はフック10と、フック10の上部に設けた連結部13とからなる。フック10と連結部13は鋳鉄により一体成型されている。
【0033】
連結部13の上部には軸体6aの下部23を収納する凹部21と、凹部21側面を横断する貫通穴とが穿設されている。下部23を凹部21に挿入し、ビス挿入穴24及び該貫通穴にビス17を挿通して締結し、軸体6aを連結部13にビス止め固定している。
【0034】
フック10は曲げ部位32に当接させる可動端であり、フック7と同様の形状を有する。即ち、フック10は連結部13と一体化され、上側湾曲面を備えた上湾曲部11と、フック中間部の下方に位置する下側湾曲面を備えた下湾曲部12を有する。上湾曲部11と下湾曲部12の間には、図3に示すように、外径25.4mmの管材25(枠材30)を略2本収容可能なフック空間が設けられ、上湾曲部11と下湾曲部12の開放端により形成された正面側開口部10aより枠材30(線材)をフック空間に対し挿脱自在にすることができる。フック7、10の横幅は35mmであり、上下端間の長さは60mmである。
【0035】
可動体6は螺子部14を螺子部5に螺合させて軸体6aの軸芯が鉛直下方に向きに線材支持体2に連結されている。一対のフック7は、水平部材3の長さを隔てて軸体6aの軸芯を中心に線対称状に並設されている。図1に示すように、各上湾曲部8の内頂部の稜線は下側水平線L1に一致しており、また、各下湾曲部9の内底部の稜線は上側水平線L2に一致している。各上湾曲部8の内頂部の稜線及び各下湾曲部9の内底部の稜線は、線材の真直部位が線状又は面状に当接する当接点を含む。各当接点を結ぶ当接線は水平線L1又はL2に対応する。可動体6は、螺子部14と螺子部5との螺合を進行させることにより、水平線L1、L2に直交する鉛直方向Sに沿って上下方向に進退移動可能になっている。
【0036】
上記構成の曲り矯正装置1による曲げ矯正作用を図4により説明する。
図4の(4A)は曲り矯正装置1により、上向きに凸状に曲げられた曲げ部位を矯正する矯正例を示す。
【0037】
まず、可動体6の軸体6aを一点鎖線で示す回転方向と逆向きに回転させて、フック7、10の内部夫々に真直部位31及び曲げ部位32が挿入可能位置にフック10を引き上げておく。ついで枠材30の真直部位31を一対のフック7の各下湾曲部9に内接させ、且つ、真直部位31より上向きに凸状に膨らんだ曲げ部位32の上側中間部を上湾曲部11の内頂部に当接するように位置合わせセッティング作業が行われる。
【0038】
ラチェットレンチ34の端部35に設けたレンチ凸部36を軸体6aの嵌合凹部22に嵌合しておく。各フックから線材30が脱離しないように、片手で水平部材3を握持し、他方の手でラチェットレンチ34の取っ手37を一点鎖線で示す回転方向に回していく。ラチェットレンチ34の回動により、螺子部14と螺子部5の螺合が進行するにつれて可動体6は鉛直下方に移動する。上記の螺合進行によって、曲り部位32を挟んで線材30を各フック7に当接させた状態で曲り部位32にフック10を当接させながら、線材30と各フック7との当接点に反力を生じさせて線材30を曲り部位32を挟んで固定保持して、フック10の上湾曲部11より螺合締結力を矯正力として曲り部位32に与えて押圧して押し下げていくことができる。上湾曲部11の押圧力Fに対して、各フック7の当接点には分力F/2の反力が生じている。上記の螺合進行による螺合締結力を曲り部位32に付与して押し下げることにより曲り部位32を2点鎖線で示す真直状態32aに復帰させる曲げ矯正作用が働く。
【0039】
図4の(4B)は曲り矯正装置1により、下向きに凸状に曲げられた曲げ部位を矯正する矯正例を示す。
【0040】
まず、可動体6の軸体6aを一点鎖線で示す回転方向と逆向きに回転させてフック10を降下しておく。ついで枠材30の真直部位31を一対のフック7の各下湾曲部8に当接させ、且つ、真直部位31より下向きに凸状に膨らんだ曲げ部位32の下側中間部を下湾曲部12の内頂部に当接するように位置合わせセッティング作業が行われる。
【0041】
(3A)の場合と同様に、ラチェットレンチ34の端部35に設けたレンチ凸部36を軸体6aの嵌合凹部22に嵌合しておく。各フックから線材30が脱離しないように、片手で水平部材3を握持し、他方の手でラチェットレンチ34の取っ手37を一点鎖線で示す回転方向((4A)の逆方向)に回していく。ラチェットレンチ34の回動により、螺子部14と螺子部5の螺合が進行するにつれて可動体6は鉛直上方に移動する。上記の螺合進行によって、曲り部位32を挟んで線材30を各フック7に当接させた状態で曲り部位32にフック10を当接させながら、線材30と各フック7との当接点に反力を生じさせて線材30を曲り部位32を挟んで固定保持して、フック10の下湾曲部12より螺合締結力を矯正力として曲り部位32に与えて押圧して押し上げていくことができる。下湾曲部12の押圧力Fに対して、各フック7の当接点には分力F/2の反力が生じている。上記の螺合進行による螺合締結力を曲り部位32に付与して押し上げることにより曲り部位32を2点鎖線で示す真直状態32aに復帰させる曲げ矯正作用が働く。
【0042】
本実施形態によれば、一対のフック7の夫々を、曲り部位32を挟んで離間した真直部位31に当接させ、且つ曲り部位32に屈曲向きに応じてフック10の上湾曲部11又は下湾曲部12を当接させて、ラチェットレンチ34を用いて螺子部14と螺子部5の螺合を進行させるだけの簡単な操作により、曲り部位32に直線状に戻す矯正力を付与して円滑な曲げ矯正作業を行うことができる。
【0043】
曲げ矯正装置1は、線材支持体2と可動体6によるコンパクト構成からなるので、矯正設備費用を低減することができ、しかもコンパクトな構成により持ち運び可能になるので、ワゴン台車に曲げ変形の生じた作業場で、台車から枠材を分解することなく、曲げ変形のある枠材に直接あてがって曲げ変形修理作業を随時、簡易に行うことができる。
【0044】
曲げ矯正装置1は、コ字状の線材支持体2により、可動体6の螺合による締結力を反力として与えて、フック7と真直部位31との当接点を支点にし、フック10の曲り部位32との当接点を作用点にして螺合締結力を矯正力として加えることが可能な2点支持構造を具備している。本発明は2点支持構造に限らず3点以上の支持構造を備えた線材支持体を使用することができる。線材支持体2は水平部材3と鉛直部材4がL字形状に連結されたコ字状形体を有するが、本発明における線材支持体としては、矯正力付加時の耐久性強度を備えた剛性形体であればよく、コ字状形体に限らず、螺子部5の両側部から各フック7に至る湾曲部材からなる略C字状形体などを使用することができる。可動体6を線材支持体2の中心に配置してフック7をその中心に対して対称状に配置しているが、可動体6の位置を該中心より変位させてフック7を該中心に対して非対称状に配置してもよい。フック7及びフック10は断面略C字形状を有するが、線材の当接を保持する形状であればよく、例えば、断面略V字形状のフックを使用することができる。更に、フック形体に断面略コ字形のブロック体を用い、ブロック体の上下内面に断面半月形状又は断面V字形の溝を刻設して、該溝により線材の当接を保持するようにしてもよい。可動体6の螺合操作は上端部15自体を角型に形成してスパナ等の工具により締結操作可能にしてもよい。更に、締結用工具による場合に限らず、上端部15に、レバーやハンドル等の回動操作用取っ手を取着しておいて、該取っ手の回動により螺合操作するようにしてもよい。本実施形態における螺合機構には、螺子部14を形成した軸体6aを使用しているが、係る螺子式機構に限らずラックピニオン機構等を使用することができる。例えば、軸体6aにラックを形成し、螺子部5に代えてピニオンギアの装着部と、ピニオンギアの回動軸を回動操作する操作部とを設け、該操作部により手動でピニオンギアを回動操作して可動体6を鉛直方向に進退自在にすることができる。
【0045】
本実施形態では、断面略C字形のフック7、10を用いて、図4の(4A)及び(4B)に示したように、曲げ変形が上下又は左右何れの方向に膨らんで変形しても修理可能にしている。無論、一方の向きに曲げ変形が生じた線材に適用する形態にも本発明を適用することができる。
【0046】
図5は本発明の別の実施形態である曲り矯正装置の正面(5A)及び側面(5B)を示す。図5において、前記実施形態と同様の部材には同じ符号を付している。
この実施形態では断面略C字形のフックに替えて、鉛直部材4の下端に断面略「し」字形のフック39を設け、且つ可動体6bの下端に断面略U字形のフック38を設けている。図4の(4A)の場合と同様に、枠材30の真直部位31を一対のフック39の各湾曲部に内接させ、且つ、真直部位31より上向きに凸状に膨らんだ曲げ部位32の上側中間部をフック38の内頂部に当接するようにセットして、螺子部14の螺合を進行させて可動体6bを鉛直下方に移動させる。上記の螺合進行によって、曲り部位32を挟んで線材30を各フック38、39に当接させた状態で曲り部位32にフック38を当接させながら、線材30と各フック39との当接点に反力を生じさせて線材30を曲り部位32を挟んで固定保持して、フック38により螺合締結力を矯正力として曲り部位32に与えて押圧して押し下げていくことができる。フック38の押圧力Fに対して、両側の各フック39の当接点には分力F/2の反力が生じている。上記の螺合進行による螺合締結力を曲り部位32に付与して押し下げることにより曲り部位32を2点鎖線で示す真直状態32aに復帰させる曲げ矯正作用が働く。なお、鉛直部材4の下端にフック38と同様の断面略U字形の支点フックを設け、且つ可動体6bの下端にフック39と同様の断面略「し」字形の作用フックを設ければ、図4の(4B)のように、下向きに凸状に膨らんだ曲げ部位32に押圧力を付与して曲げ矯正を行うことができる。
【0047】
図6は本発明の更に別の実施形態である曲り矯正装置40の正面を示す。図7は曲り矯正装置40の上面図である。図6及び図7において、前記実施形態と同様の部材には同じ符号を付している。
【0048】
曲り矯正装置40において曲げ変形の拡がり程度に応じて支点間隔を水平方向に可変にした支点移動機能を具備する。可動体6の螺子部5には水平状に延された一対の翼部43が対称状に一体形成されている。翼部43は扁平角型中空部45を有し、水平方向に沿って5個の貫通穴44が等間隔に穿設されている。下端にフック7を設けた鉛直部材41には可動水平部材42がL字状に一体形成されている。可動水平部材42は、翼部43の中空部45内に摺動自在に挿入され、貫通穴44と同間隔で5個の貫通穴47が穿設されている。
【0049】
可動水平部材42の貫通穴47と、翼部43の貫通穴44とを位置決めして、少なくとも2組の貫通穴にビス46を挿入して締結することにより、可動水平部材42の水平方向の摺動位置を固定することができる。一組の可動水平部材42及び翼部43は各フックの支点間隔を調整自在にする支点間隔調整機構を構成する。図7の(7A)は最も短い長さに可動水平部材42を翼部43に収設して固定した状態を示す。(7A)の固定状態は図1の場合と同様の2点支持構造を形成している。曲げ変形の範囲が線材長さ方向に広がって真直部位間の距離が大きく、(7A)の固定状態では真直部位との当接が困難になる場合には、(7B)に示すように、可動水平部材42を外向きに摺動させて拡幅した位置で貫通穴47と貫通穴44とを位置決めして、少なくとも2組の貫通穴にビス46を挿入して締結することにより、可動水平部材42の水平方向の摺動位置を代えて、より広い支点間隔で固定することができる。(7B)の場合には(7A)より両側で夫々幅Lだけ拡幅された固定状態になっている。図6及び図7の曲げ矯正装置によれば、支点間隔を可変設定することができるので、大小の曲げ変形に対応して曲げ矯正作業を円滑に行うことができる。なお、鉛直部材41にも同様の摺動構造により鉛直方向に各フックの支点位置を調整自在にする支点位置調整機構を設け、ビス止め位置を適宜替えて鉛直方向の長さを可変にし、鉛直方向における支点位置の変更設定を可能にして、例えば、曲げ変形の膨らみ具合が線材半径方向に広がって可動体6のフック10の当接が困難になっても可動体6の鉛直移動可能距離を拡大して、曲げ部位に確実に当接させて曲げ矯正作業を円滑に行うことができる。また、鉛直部材41と直角をなす可動水平部材42及び水平型翼部43に代え、鉛直部材41と鈍角をなして斜め摺動可能な可動横部材及び傾斜型翼部を使用することにより、支点位置を水平方向及び鉛直方向に同時にシフト自在にすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0050】
この発明によれば、ワゴン台車の枠材に限らず、足場組立用軸材等種々の線材の曲げ修理を簡易に行うことができるコンパクト構成の曲げ矯正装置を提供することができる。
【符号の説明】
【0051】
1 曲り矯正装置
2 線材支持体
3 水平部材
4 鉛直部材
5 螺子部
6 可動体
6a 軸体
7 フック
7a 開口部
8 上湾曲部
9 下湾曲部
10 フック
10a 開口部
11 上湾曲部
12 下湾曲部
13 連結部
14 螺子部
15 上端部
16 螺子穴
17 ビス
18 貫通穴
19 貫通穴
20 貫通穴
21 凹部
22 嵌合凹部
23 下部
24 ビス挿入穴
25 管材
31 真直部位
32 曲げ部位
34 ラチェットレンチ
35 端部
36 レンチ凸部
37 取っ手
38 フック
39 フック
40 曲り矯正装置
41 鉛直部材
42 可動水平部材
43 翼部
44 貫通穴
45 中空部
46 ビス
47 貫通穴
50 底板
51 キャスター
52 縦パイプ
53 縦パイプ
54 水平パイプ
55 縦パイプ
56 鋼材
57 水平パイプ
58 ゴムシートロール
59 芯材
60 布原反
61 曲げ変形
62 曲げ変形
63 床面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
管状又は棒状の線材の曲り変形を矯正する曲り矯正装置において、前記線材の曲り部位を挟んで離間した前方部分及び後方部分に夫々当接する前方当接部と後方当接部と備えた線材支持体と、前記前方当接部と前記後方当接部の間において前記線材支持体に螺合して、前記前方当接部の前記前方部分との当接点と前記後方当接部の前記後方部分との当接点とを結ぶ当接線に直交又は略直交する方向に進退移動可能に可動端を配置した可動体とを有し、前記曲り部位を挟んで前記線材を前記前方当接部と前記後方当接部に当接させた状態で前記曲り部位に前記可動端を当接させながら、前記線材の前記前方当接部及び前記後方当接部との当接点に反力を生じさせる向きに前記螺合を進行させて前記曲り部位を直線状に矯正することを特徴とする曲り矯正装置。
【請求項2】
前記可動体は、前記線材支持体に螺合する螺子部を形成した軸体と、前記螺子部の一端側に形成された螺子締め用締結具の装着部とを有し、前記螺子部の他端側に前記可動端を設けた請求項1に記載の曲り矯正装置。
【請求項3】
前記可動端は上向きに凸形状の曲り部位を押し下げる向きに湾曲した鉤状又はフック状の形状からなる請求項1又は2に記載の曲り矯正装置。
【請求項4】
前記可動端は下向きに凸形状の曲り部位を引き上げる向きに湾曲した鉤状又はフック状の形状からなる請求項1又は2に記載の曲り矯正装置。
【請求項5】
前記可動端は、前記曲り部位が遊挿可能な鉤状又はフック状の形状を有する請求項1〜4のいずれかに記載の曲り矯正装置。
【請求項6】
前記前方当接部及び前記後方当接部は夫々、前記前方部分、前記後方部分に被さる湾曲形状を有する請求項1〜5のいずれかに記載の曲り矯正装置。
【請求項7】
前記前方当接部及び前記後方当接部は夫々、前記曲り部位が遊挿可能な鉤状又はフック状の形状を有する請求項1〜6のいずれかに記載の曲り矯正装置。
【請求項8】
前記線材支持体は二又形状に分岐した剛体からなり、前記剛体の中間部に前記可動体と螺合する螺子部を設け、各分岐端に前記前方当接部と前記後方当接部を形成した請求項1〜7のいずれかに記載の曲り矯正装置。
【請求項9】
前記螺子部から、前記前方当接部及び前記後方当接部に至る分岐部分に中空部を形成した請求項8に記載の曲り矯正装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−192447(P2012−192447A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−60378(P2011−60378)
【出願日】平成23年3月18日(2011.3.18)
【出願人】(000133445)株式会社ダスキン (119)