説明

有害物質除去材及びそれを用いた空気清浄化装置

【課題】細菌、黴、ウイルス、花粉、アレルゲンなどの有害物質を捕捉・不活性化させ、しかも、用いた鶏卵抗体に細菌、黴を再繁殖させない有害物質除去材及びこのような有害物質除去材からなる抗体フイルタを装着した空気清浄化装置の提供。
【解決手段】(A)鶏卵抗体と、(B)pH7、25℃における溶解度積の逆数の対数値(pKsp)が8〜14である有機化合物の銀塩と、を担体に担持させた有害物質除去材、およびそれを用いた空気清浄装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有害物質除去材に関し、より詳細には、担体に鶏卵抗体と有機化合物の銀塩とを担持させ、各種の細菌、ウイルス及びアレルゲンなどの有害物質を選択的に捕捉・不活性化させる有害物質除去材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体製造工業、医薬品製造工業、食品加工、オフィス、病院、介護老人ホームなどの各種の産業及び民生分野において、その職場及び居住環境に対して清潔・安全・衛生志向が益々強く求められているのが実状である。そのために従来にも増して、クリーンルーム用エアーフィルター、食品加工及びオフィスの空調、家庭用エアコンなどの空気浄化フィルタ部材には、抗菌や抗黴の機能を備えた各種機器、製品が、幅広く市場に利用・提供されている。
【0003】
また、特に病院、介護老人ホームなどの施設内において、特定のウイルスの感染症が流行し、それに対する早急な対処策が求められている。これらの背景から、特にこれらの特定のウイルスに対する高い除去機能と、広範囲の菌や黴に対処できる機能を併せ持った処理部材の開発が望まれている。
【0004】
例えば特許文献1には、抗体と、抗黴加工を施した担体を用いた有害物質除去剤を用いて、気相雰囲気下に浮遊する細菌、カビ、ウイルス及びアレルゲンなどの有害物質を捕捉する有害物質除去材が提案されている。
【0005】
また特許文献2には、広範囲の菌や黴に対する有害物質除去材の製造方法が記載されているが、特定のウイルスに対する対策が不十分であった。
【特許文献1】特開2004−313755号公報
【特許文献2】特開平9−328402号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
有害物質除去材に対し、より高い有害物質除去性能が求められている。上記のように、抗体と、抗黴加工を施した担体を用いた従来の技術では、その抗菌・抗黴加工材によって、抗体自体が劣化される傾向にあった。
【0007】
本発明の目的は、特定のウイルスに対してより高率で除去する能力と、広範囲の種類の細菌や黴を除去する能力を併せ持った有害物質除去剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記目的を達成すべく鋭意検討した結果、鶏卵抗体を担持させた繊維状の担体に、有機化合物の銀塩を担持させたところ、その担体に捕捉された細菌が、不活性化され、しかも、この担体上には、新たに黴も細菌も繁殖されないことを見出して、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明は下記構成よりなる。
【0009】
<1>
(A)鶏卵抗体と、
(B)pH7、25℃における溶解度積の逆数の対数値(pKsp)が8〜14である有機化合物の銀塩と、
を担体に担持させた有害物質除去材
【0010】
<2>
前記有機化合物が、含窒素複素環化合物または脂肪酸であることを特徴とする上記<1>に記載の有害物質除去材。
【0011】
<3>
前記有機化合物が、ベンゾトリアゾール化合物、トリアゾロピリミジン化合物、炭素数が14〜22の直鎖飽和脂肪酸のいずれかであることを特徴とする上記<1>または<2>に記載の有害物質除去材。
【0012】
<4>
前記抗体が鳥類卵抗体であることを特徴とする、上記<1>〜<3>のいずれかに記載に有害物質除去剤。
【0013】
<5>
上記<1>〜<4>のいずれかに記載の有害物質除去材を用いた空気清浄機。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、細菌、黴、ウイルス、花粉、アレルゲンなどの有害物質を効果的に捕捉・不活性化させ、しかも、鶏卵抗体を劣化させず、抗菌効果を有する有害物質除去材を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下に、本発明における有害物質除去材及び空気清浄化装置の実施形態について、更に詳細に説明する。
【0016】
<担体>
本発明の有害物質除去材に用いられる担体としては、特に限定されないが、繊維で構成された担体が好ましく、織布、不織布などの形態で担体を構成することが出来る。繊維としては、特に限定されないが、合成繊維であるポリエステル、セルロースエステル、ポリビニルアルコール、ビニロン、アクリル系、ポリウレタン、ポリアミド、天然繊維である綿、絹、ウール、再生繊維であるレーヨンなどを挙げることが出来る。これらの繊維を組み合わせても良い。 強度や寸度安定性を向上させる目的で、担体を金属・高分子材料・セラミックス等の他の適切な構造材料により補強してもよい。これらの補強材は、有害物質除去材料を供給する側面の実質的な最表面以外の部分(例えば、該側面の反対面や芯材に用いる等)に用いることが望ましい。
【0017】
本発明において担体として用いられる繊維の作製法としては、溶融紡糸、湿式紡糸、乾式紡糸、湿乾式紡糸など一般的な製造法や、物理的処理(例えば超高圧ホモジナイザーによる強力な機械的せん断処理)によって繊維を微細化する方法などが挙げられるが、安定な品質を確保するためには、乾式紡糸もしくは湿乾式紡糸法を用いることが好ましい。平均繊維径が100nm以下で均一な繊維を作製するためには、さらに加工技術、2005年、40巻、No.2、101頁、および167頁;Polymer International誌、1995年、36巻、195〜201頁;Polymer Preprints誌、2000年、41(2)号、1193頁;Journal of Macromolecular Science : Physics誌、1997年、B36、169頁などに開示されている電界紡糸法を採用すること
が好ましい。
【0018】
紡糸に用いる溶媒としては、塩化メチレン、クロロホルム、ジクロロエタンなどの塩素系溶媒、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドンなどのアミド系溶媒、アセトン、エチルメチルケトン、メチルイソプロピルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン系溶媒、THF、ジエチルエーテルなどのエーテル系溶媒、メタノール、エタノール、イソプロパノールなどのアルコール系溶媒、水など、合成樹脂繊維に用いられる樹脂を溶解するものであれば何でも用いることができる。これらの溶媒は単独で用いてもよいし、複数種混合して用いてもよい。
【0019】
電界紡糸法を採用する場合には樹脂溶液に、さらに塩化リチウム、臭化リチウム、塩化カリウム、塩化ナトリウムなどの塩を添加してもよい。
【0020】
担体を構成する繊維同士は部分的に接着することにより三次元ネットワークを形成している構造をもつことが望ましい。かような構造をとることにより、加工ならびに実用上の機械的耐性の向上、ひいては有害物質除去材の信頼性をあげることができる。また抗体の保持特性を上げることができる。繊維同士の接着はSEM等の方法で観察することができる。繊維同士の接着点の密度は、該有害物質除去材の投影表面積に対して1mm角辺り10箇所以上存在することが好ましく、100箇所以上であることがより好ましい。
【0021】
接着点を形成する方法としては、乾式紡糸法で形成される癒着や溶融紡糸法で形成される融着点で形成してもよいし、紡糸後に加熱や、接着剤・可塑化溶剤等の添加による接着点形成処理を行ってもよい。製造コストの観点では適切な溶液処方により乾式紡糸法で癒着点を形成させることが好ましい。
【0022】
担体は滅菌されることが好ましい。滅菌方法は担体を劣化させない滅菌法であれば特に限定されないが、放射線による滅菌またはガスによる滅菌が好ましい。
放射線による滅菌方法としては、ガンマ線滅菌、電子線滅菌などを用いる方法をあげることができる。このうち、ガンマ線滅菌を用いる方法が好ましい。
ガスによる滅菌方法としては、エチレンオキサイドガス滅菌、二酸化塩素ガス滅菌などを用いる方法をあげることができる。このうち、エチレンオキサイドガス滅菌を用いる方法が好ましい。
【0023】
<(A)鶏卵抗体>
本発明に用いられる鶏卵抗体は、特定の有害物質(抗原)に対して特異的に反応(抗原抗体反応)するタンパク質であり、通常、分子サイズが7〜8nmであって、Y字状の分子形態を有する。抗体のY字状分子構造のうち、一対の枝部分をFab、幹部分をFcといい、これらのうち、Fabの部分で有害物質を捕捉する。
【0024】
前記抗体の種類は、捕捉しうる有害物質の種類に対応する。抗体により捕捉される有害物質としては、例えば、細菌、カビ、ウイルス、アレルゲン及びマイコプラズマを挙げることができる。具体的には、細菌としては、例えば、グラム陽性菌であるブドウ球菌属(黄色ブドウ球菌や表皮ブドウ球菌)、ミクロコッカス菌、炭疽菌、セレウス菌、枯草菌、アクネ菌などや、グラム陰性菌である緑膿菌、セラチア菌、セパシア菌、肺炎球菌、レジオネラ菌、結核菌などを挙げることができる。カビとしては、例えば、アスペルギルス、ペニシリウス、クラドスポリウムなどを挙げることができる。ウイルスとしては、インフルエンザウイルス、コロナウイルス(SARSウイルス)、アデノウイルス、ライノウイルスなどを挙げることができる。アレルゲンとしては、花粉、ダニアレルゲン、ネコアレルゲンなどを挙げることができる。
【0025】
前記抗体の製造方法としては、例えば、ヤギ、ウマ、ヒツジ、ウサギ等の動物に抗原を投与し、その血液からポリクローナル抗体を精製する方法、抗原を投与した動物の脾臓細胞と培養癌細胞とを細胞融合し、その培養液または融合細胞を植え込んだ動物の体液(腹水等)からモノクローナル抗体を精製する方法、抗体産生遺伝子を導入した遺伝子組み換え細菌、植物細胞、動物細胞の培養液から抗体を精製する方法、鳥類に抗原を投与して免疫卵を産ませ、卵黄液を殺菌及び噴霧乾燥して得た卵黄粉末から鳥類卵抗体を精製する方法を挙げることができる。これらのうちでも、鳥類卵から抗体を得る方法は、容易にかつ大量に抗体が得られ、有害物質除去材の低コスト化を図ることができる。鳥類としては、鶏、ダチョウを挙げることが出来る。
鳥類卵抗体は鳥類に抗原を投与して免疫卵を産ませ、卵黄液を殺菌及び噴霧乾燥して得た卵黄粉末から精製して得ることができる。鳥類卵から抗体を得る方法は、容易にかつ大量に抗体が得られ、有害物質除去材の低コスト化を図ることができる。
【0026】
前記担体に抗体を担持する(固定化する)方法としては、前記担体に抗体を物理的に吸着させる方法のほか、担体をγ−アミノプロピルトリエトキシシランなどを用いてシラン化した後、グルタールアルデヒドなどで担体表面にアルデヒド基を導入し、アルデヒド基と抗体とを共有結合させる方法、未処理の担体を抗体の水溶液中に浸漬してイオン結合により抗体を担体に固定化する方法、特定の官能基を有する担体にアルデヒド基を導入し、アルデヒド基と抗体とを共有結合させる方法、特定の官能基を有する担体に抗体をイオン結合させる方法、特定の官能基を有するポリマーで担体をコーティングした後にアルデヒド基を導入し、アルデヒド基と抗体とを共有結合させる方法をあげることができる。
【0027】
ここで、前記の特定の官能基としては、NHR基(RはH以外のメチル、エチル、プロピル、ブチルのうちいずれかのアルキル基)、NH2基、C65NH2基、CHO基、COOH基、OH基を挙げることができる。
【0028】
また、前記担体表面の官能基を、BMPA(N-β-Maleimidopropionic acid)などを用いて他の官能基に変換した後、その官能基と抗体とを共有結合させる方法もある(BMPAではSH基がCOOH基に変換される)。
【0029】
更に、前記抗体のFcの部分に選択的に結合する分子(Fcレセプター、プロテインA/Gなど)を担体表面に導入し、それに抗体のFcを結合させる方法もある。この場合、有害物質を捕捉するFabが担体に対して外向きになり、Fabへの有害物質の接触確率が高くなるので、効率よく有害物質を捕捉することができる。
【0030】
前記抗体は、リンカーを介して担体に担持されていてもよい。この場合、担体上での抗体の自由度が高くなり、有害物質への接近が容易となるので、高い除去性能を得ることができる。リンカーとしては、二価以上のクロスリンク試薬を挙げることができ、具体的にはマレイミド、NHS(N-Hydroxysuccinimidyl)エステル、イミドエステル、EDC(1-Ethyl-3-[3-dimethylaminopropyl]carbodiimido)、PMPI(N-[p-Maleimidophenyl]isocyanate)があり、標的官能基(SH基、NH2基、COOH基、OH基)に選択的なものと非選択的なものとがある。また、クロスリンク間の距離(スペースアーム)もクロスリンク試薬ごとに異なっており、目的の抗体に応じて0.1nm〜3.5nm程度の範囲で選択することができる。有害物質を効率的に捕捉するという観点からは、リンカーとして抗体のFcに結合するものが好ましい。
【0031】
リンカーを導入する方法としては、抗体にリンカーを結合させておき、それを更に抗体に結合する方法、担体にリンカーを結合させておき、担体上のリンカーに抗体を結合させる方法のいずれも可能である。
【0032】
鶏卵抗体を含む溶液を担体に付着させることにより、抗体を担体に担持させる。鶏卵抗体液を担体に付着させる方法は、特に限定されないが、担体を鶏卵抗体液に浸漬させる方法、スプレー塗布、インクジェット塗布、カーテン塗布が挙げられる。
鶏卵抗体を含む溶液は、上記のように得られる鶏卵抗体を生理食塩水、またはリン酸緩衝生理食塩水などに溶解して作製すればよい。該溶液において鶏卵抗体の濃度は、0.001質量%〜10質量%であればよく、0.005質量%〜5質量%が好ましく、0.01質量%〜1質量%がより好ましい。該溶液は、安定化剤や、抗菌剤、抗カビ剤などの添加剤を含んでいてもよい。
【0033】
本発明においては、鶏卵抗体を含む溶液を、孔径0.5μm以下のフィルターで濾過して用いることが好ましい。孔径0.5μm以下のフィルターで濾過することにより、製造される有害物質除去材における雑菌やカビの増殖を抑えることができる。
【0034】
<(B)有機化合物の銀塩>
本発明の有害物質除去材は、pH7、25℃における溶解度積の逆数の対数値(pKsp)が8〜14である有機化合物の銀塩(B)を含む。
有機化合物の銀塩(B)は、好ましくは難溶塩であって、そのpH7の飽和溶液系における電離・銀イオン濃度が、その溶解度積(25℃)の逆数の対数値(pKsp)で表して、pKsp=8〜14の範囲にあることを特徴とする特定有機化合物の銀塩である。
【0035】
このpKsp値が8より小さいと、銀イオン濃度が高くなり、抗体を攻撃する銀イオンが増加し、抗体の破壊が発生する。一方、このpKsp値が14より大きいと銀イオン濃度が低くなりすぎ、目的の抗菌効果が得られない。
【0036】
有機化合物の銀塩(有機銀塩)のpKspは、例えば、T.H.JamesによるThe Theory of the Photographic Process, MacmillanPublishing Co.Inc., New York(fourth edition,1977)の第1章、第7〜10項において開示されている。これを参照して適宜選択し、本発明の有機化合物の銀塩(B)とすることができる。
【0037】
有機銀塩については、リサーチ・ディスクロージャー誌17029号、29963号に記載がある。製造方法については、たとえば、特開2000−187298(富士フイルム)などに記載がある。有機化合物は、含窒素複素環化合物または脂肪酸であることが好ましく、ベンゾトリアゾール化合物、トリアゾロピリミジン化合物、炭素数が14〜22の直鎖飽和脂肪酸のいずれかであることがさらに好ましい。これらの具体例としては、例えば、ベンゾトリアゾール銀、5-メチル-1,3,4-トリアザインドリジン-7-オール銀、ベヘン酸銀などが挙げられる。
【0038】
本発明の製造方法において、有機化合物の銀塩の分散液を担体に付着させることにより、担体に担持させる。付着させる方法としては、特に限定されないが、担体を有機化合物の銀塩分散液に浸漬させる方法、スプレー塗布、インクジェット塗布、カーテン塗布があげられる。有機化合物の銀塩分散液には、バインダーを用いることが好ましい。バインダーは水溶性バインダーであることが好ましく、例えばポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ゼラチン、カルボキシルメチルセルロースなどを挙げることができる。また、前記の抗体溶液と有機金属の銀塩の分散液を混合した後に担体に担持させれば、製造工程が簡略化できるため、より好ましい。
【0039】
<使用方法>
本発明の製造方法により得られる有害物質除去材によって、気相中又は液相中の有害物質の除去が可能である。この有害物質除去材は抗体が気相に面しているドライな環境においても使用可能であり、空気清浄機用フィルター、マスク、拭き取りシートなどに用いることができる。本発明の製造方法により得られる有害物質除去材は長期間安定保存が可能である。
本発明の製造方法により得られる有害物質除去材は、紫外線を透過しない包装体を用いて包装されることが好ましい。このような包装体を用いることによって、紫外線による抗体の劣化が防止でき、さらに長期間の安定保存が可能である。包装体としては、アルミニウム箔フィルム、アルミニウム蒸着フィルムが好ましく、また、これらを含む多層フィルムも好ましく用いられる。
【0040】
<有害物質除去材の製造>
抗体と有機銀塩の塗布は、抗体溶液と有機銀液を別々に塗布してもよく、抗体−有機銀混合溶液として塗布しても良い。工程の簡略化の観点からは後者が好ましい。抗体、有機銀塩の塗布量は、使用目的にもよるが、使用期間の有害物質を除去するのに十分な量が塗布されていることが好ましい。
【実施例】
【0041】
以下に、本発明を実施例によって更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例にいささかも限定されるものではない。
【0042】
本発明において、調製した不織布の担体N−1を用いて、抗体単独及び抗体に各種の有機銀液を含有する塗布液−1〜塗布液−5を調製し、抗体と有機銀塩とを担持させて本発明による有害物質除去材を含め、フィルタF−1〜フィルF−8[実施例:F−2,F−3,F−4,F−6、比較例:F−1,F−5,F−7,F−8]を調製した。次いで、これらの抗体フィルタに対して、ウイルスの不活性化、抗菌力を評価して、その結果を表1に示した。
【0043】
<有害物質除去フィルタ作製>
<担体不織布の調製(担体N−1)>
セルロースアセテート(アルドリッチ製、全置換度2.4、数平均分子量3万)のアセトン:水(97:3)溶液(25質量%)を60℃に加温し、直径0.1mmのノズルから、紡速500m/mの速度で空気とともに噴出させ不織布を形成し膜厚85μmの不織布担体N−1を得た。紡糸筒はヒーターで100℃に加温した。SEMで平均繊維径を測定したところ、8μmであった。
【0044】
<抗体塗布液の調製(塗布液−1〜塗布液−8)>
塗布液−1:抗原を投与したニワトリが産んだ免疫卵の卵黄液を、噴霧乾燥して乾燥卵黄粉末を得た。次いで、この乾燥卵黄粉末をエタノールで脱脂して脱脂成分を除去した後、減圧下で乾燥し、抗体物質としての脱脂卵黄粉末を得た。この脱脂卵黄粉末を精製してインフルエンザウイルス抗体(IgY抗体)の純度を測定したところ、3質量%であった。次いで、脱脂卵黄粉末を精製水に懸濁させ、抗体濃度100ppmになるように調製した塗布液−とした。
【0045】
塗布液−2:塗布液−1に、ベンゾトリアゾール銀分散液を混合し、ベンゾトリアゾール銀濃度100ppmになるように調整した液を塗布液−2とした。
塗布液−3:塗布液−1に、5-メチル-1,3,4-トリアザインドリジン-7-オール銀分散液を混合し、5-メチル-1,3,4-トリアザインドリジン-7-オール銀濃度115ppm(ベンゾトリアゾール銀にモル数あわせ)になるように調整した液を塗布液−3とした。
塗布液−4:塗布液−1にベヘン酸(炭素数:22)銀分散液を混合し、ベヘン酸銀濃度200ppm(ベンゾトリアゾール銀にモル数あわせ)になるように調整した液を塗布液−4とした。
【0046】
塗布液−5:塗布液−1にラウリン酸(炭素数:12)銀分散液を混合し、ラウリン酸銀濃度137ppm(ベンゾトリアゾール銀にモル数あわせ)になるように調整した液を塗布液−5とした。
塗布液−6:塗布液−1にミリスチン酸(炭素数:14)銀分散液を混合し、ベヘン酸銀濃度149ppm(ベンゾトリアゾール銀にモル数あわせ)になるように調整した液を塗布液−6とした。
塗布液−7:塗布液−1にセロチン酸(炭素数:26)銀分散液を混合し、ベヘン酸銀濃度225ppm(ベンゾトリアゾール銀にモル数あわせ)になるように調整した液を塗布液−7とした。
塗布液−8:塗布液−1にゼオライト銀分散液を混合し、ベヘン酸銀濃度8000ppm(ベンゾトリアゾール銀に銀モル数あわせ)になるように調整した液を塗布液−7とした。
【0047】
<抗体フィルタの調製(フィルタF−1〜フィルF−8)>
(フィルタ F−1)
塗布液−1に担体N−1を室温で5分間浸漬させ、繊維担体表面に抗体を付与した。得られた試料を面圧10MPaのローラーで圧縮し、含水率を測定したところ、500%であった。さらに50℃30%RHの雰囲気下において含水率1%以下になるまで乾燥させたところ、1時間後に含水率1%に到達した。
(フィルタ F−2〜F−8)
抗体塗布液−1を塗布液−2〜塗布液−7に変更する以外は、フィルタF−1と同様の方法で、繊維担体表面に抗体および有機銀塩を付与させたフィルタF−2〜F−7を作製した。
【0048】
<ウイルス不活性化効率評価>
フィルタ F−1〜F−8について、サンプル作製直後に、ウイルス不活性化効率評価を行った。
供試ウイルス液は精製インフルエンザウイルスをPBSで10倍希釈したもの(ウイルス濃度20万プラーク/mL)を使用した。前記各サンプルを5cm角に切り、ウイルス噴霧試験装置の中央に取り付け固定した。上流側に設置したネブライザーに供試ウイルス液を入れ、下流側にウイルス回収用装置を取り付けた。エアーコンプレッサーから圧縮空気を送り、ネブライザーの噴霧口から供試ウイルスを噴霧した。マスク下流側には、ゼラチンフィルターを設置し、10L/分の吸引流量で5分間試験装置内空気を吸引し、通過ウイルスミストを捕集した。
試験後、ウイルスを捕集したゼラチンフィルターを回収し、MDCK細胞を用いたTCID50法(50%細胞感染量測定法)により、サンプル通過後のウイルス感染価を求めた。サンプル有り無しでのゼラチンフィルターのウイルス感染価の比較から、各サンプルのウイルスの一過性除去率を算出した。その結果を表1に示す。
また、各サンプルに担持された有機銀塩のpH7、25℃における溶解度積の逆数の対数値=pKspを表1に示した。
【0049】
<抗菌力評価>
フィルタ F−1〜F−8について、サンプル作製直後に、抗菌力試験を行った。試験方法は、JIZ2801:2000に準じた。
【0050】
(黄色ぶどう球菌)
試験菌は、標準寒天培地で前培養したStaphylococcus aureus subsp. aureus NBRC 12732(黄色ぶどう球菌)を使用した。かかる培養菌を1/500ニュートリエントブロスにて分散希釈し、試験菌液を調整した。この試験菌液0.4mLを滅菌シャーレに入れた各フィルタに接種して、35℃で24時間培養した。培養後、各試験布から菌をレシチン・ポリソルベート80含有ソイビーン・カゼイン・ダイジェスト・ブロス10mLで洗い流し、各試験布中の菌数を寒天平板培養法により測定した。また、接種直後の菌数も測定したところ、1.8×105個であった。
【0051】
(黒こうじカビ)
試験菌は、ポテトデキストロース寒天培地で前培養したAspergillus niger NBRC 6341(黒コウジカビ)を使用した。かかる培養菌を0.005%スルホこはく酸ジオクチルナトリウム溶液で希釈し、試験菌液を調整した。この試験菌液0.4mLを滅菌シャーレに入れた各フィルタに接種して、25℃で24時間培養した。培養後、各試験布から菌をレシチン・ポリソルベート80含有ソイビーン・カゼイン・ダイジェスト・ブロス10mLで洗い流し、各試験布中の菌数を寒天平板培養法により測定した。また、接種直後の菌数も測定したところ、3.0×105個であった。
【0052】
【表1】

【0053】
表1から明らかなように、本発明の製造方法により得られた抗体フィルタは、サンプル作製直後のウイルス除去率が高い。また、有機銀化合物により、抗菌効果および抗黴効果が付与された。炭素数12では、pKspが低く、電離・銀イオンによる抗体の破壊が発生し抗体による不活化効率がさがっていると考えた。炭素数26では、pKspが高く、抗菌効果が失われた。溶解度積の上昇にともない電離・銀イオンの徐放が抑制されていると考えた。また、有機銀ではないゼオライト銀では抗黴効果が劣り、有機物により抗黴効果が得られることが示唆された。
【0054】
<使用例>
表1に記載のフィルタF−2〜F−5をダイキン社製空気清浄機MC809−Wに取り付けた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)鶏卵抗体と、
(B)pH7、25℃における溶解度積の逆数の対数値(pKsp)が8〜14である有機化合物の銀塩と、
を担体に担持させた有害物質除去材
【請求項2】
前記有機化合物が、含窒素複素環化合物または脂肪酸であることを特徴とする請求項1に記載の有害物質除去材。
【請求項3】
前記有機化合物が、ベンゾトリアゾール化合物、トリアゾロピリミジン化合物、炭素数が14〜22の直鎖飽和脂肪酸のいずれかであることを特徴とする請求項1または2に記載の有害物質除去材。
【請求項4】
前記抗体が鳥類卵抗体であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載に有害物質除去剤。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれかに記載の有害物質除去材を用いた空気清浄機。

【公開番号】特開2009−233557(P2009−233557A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−82217(P2008−82217)
【出願日】平成20年3月26日(2008.3.26)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】