説明

有機基で被覆された金属酸化物ナノ粒子の製造方法

【課題】
本発明の目的は、有機基で被覆された金属酸化物ナノ粒子を高収率、かつ被覆に用いられる有機基の限定が少ない金属酸化物ナノ粒子が得られる製造方法を提供することにある。
【解決手段】
水及び塩基性化合物存在下、金属酸化物と炭素数が4〜20の有機カルボン酸とを水熱反応を行なうことを特徴とする有機基で被覆された金属酸化物ナノ粒子の製造方法により、高収率、かつ被覆に用いられる有機基の限定が少ない金属酸化物ナノ粒子が得られ、上記課題が解決される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機基で被覆された金属酸化物ナノ粒子の製造方法、該方法により得られたナノ粒子を含有する組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
金属酸化物ナノ粒子は、光学材料、電子部品材料等に様々な機能を発現できる可能性を有しており、各種機能性材料の分野で注目を集めている。しかしながら、金属酸化物単独では有機媒体に対する分散性が不十分なため凝集する場合が多く、透明性の低下や機械強度の低下といった問題を生じていた。有機媒体に対して良好な分散性を付与するため、金属酸化物に有機基を化学的に結合させる方法が提案されている。
【0003】
例えば、カルボン酸で被覆された酸化ジルコニウム粒子含有ナノ粒子の製造方法としては、有機カルボン酸と金属化合物とを特定の割合で反応させて得られた有機カルボン酸金属塩を合成する工程と該有機カルボン酸とジルコニウム化合物とを反応させてカルボン酸−ジルコニウム複合体を合成する工程と該複合体を水熱合成に供する方法が知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−096681号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
有機基にて修飾された金属酸化物は分散性に優れ、各種材料の機能付与に有益であるが、一般に高額であるため、利用用途が限られており、収率の向上には改善の余地があった。また、各種材料に応じて有機基の選択が必要であるが、目的に応じた有機基の導入方法には改善の余地があった。
【0006】
本発明の目的は、有機基で被覆された金属酸化物ナノ粒子を高収率、かつ被覆に用いられる有機基の限定が少ない金属酸化物ナノ粒子が得られる製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは有機基で被覆された金属酸化物ナノ粒子の製造方法について鋭意検討した結果、該ナノ粒子の収率を大きく向上させる製造方法を見出した。更に、従来方法ではナノ粒子として得ることが困難であった多様な有機カルボン酸を用いても、当該有機基で被覆された粒子をも得られる製造方法であることを見出した。
【0008】
すなわち本発明は、水及び塩基性化合物存在下、金属酸化物と炭素数が4〜20の有機カルボン酸とを水熱反応を行なうことを特徴とする有機基で被覆された金属酸化物ナノ粒子の製造方法である。塩基性化合物がアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩及び1級から3級のアミンから選ばれる少なくとも1種以上の塩基性化合物であることが好ましい。塩基性化合物は、当該工程で用いられる金属酸化物前駆体1モルに対して0.03モル以上1.5モル以下であることが好ましい。
【0009】
さらに前記金属酸化物ナノ粒子を形成する金属は、Ti、Al、Zr、Zn、Sn、及びCeから選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0010】
また本発明は
(i)炭素数が4〜20の有機カルボン酸と金属酸化物との塩
(ii)炭素数が4〜20の有機カルボン酸の金属塩、および
(iii)炭素数が4〜20の有機カルボン酸及び金属酸化物
から選ばれる少なくとも1種以上を含む組成物を水及び塩基性化合物存在下で水熱反応を行なうことを特徴とする有機基で被覆された金属酸化物ナノ粒子の製造方法でもあり、金属酸化物または金属塩を形成する金属は、Ti、Al、Zr、Zn、Sn、及びCeから選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0011】
さらに(i)記載の炭素数が4〜20の有機カルボン酸と金属酸化物との塩は、アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属により中和度が0.1〜0.8の範囲に中和された炭素数が4〜20である有機カルボン酸塩含有組成物と水溶性金属酸化物とを反応させて得られた組成物であることが好ましい。
【0012】
本発明は上記の製造方法により得られた有機基で被覆された金属酸化物ナノ粒子、および該金属酸化物ナノ粒子を含む組成物をも包含する。
【発明の効果】
【0013】
本発明の方法によれば、従来方法で得られている有機基で被覆された金属酸化物ナノ粒子は、その収率が向上する。
【0014】
更に、従来方法では得ることが困難であった有機基を用いても、有機基で被覆された金属酸化物が得られる。その結果、従来方法で得られた前記ナノ粒子を含む組成物では達成できなかった性能を有する組成物を得ることが出来、各種用途への展開が可能となった。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、水及び塩基性化合物存在下、金属酸化物と炭素数が4〜20の有機カルボン酸(以下、カルボン酸と称することがある)とを水熱反応を行なうことを特徴とする有機基で被覆された金属酸化物ナノ粒子(以下、ナノ粒子と称することがある)の製造方法である。
【0016】
金属酸化物ナノ粒子を形成する金属酸化物としては、単一金属の酸化物であっても良いし、2種以上の酸化物の固溶体であってもよいし、或いは複合酸化物であってもよい。単一金属酸化物には、例えば、酸化チタン(TiO)、酸化アルミニウム(Al)、酸化ジルコニウム(ZrO)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化インジウム(In)、酸化スズ(SnO)、酸化ランタン(La)、酸化イットリウム(Y)、酸化セリウム(CeO)、酸化マグネシウム(MgO)が含まれる。2種以上の酸化物の固溶体としては、ITO、ATOなどが挙げられる。複合酸化物は、例えばチタン酸バリウム(BaTiO)、灰チタン石(CaTiO)、スピネル(MgAl)などである。上記中、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化セリウム、及びこれらを含有する複合酸化物が好ましく、より好ましくは酸化ジルコニウムまたは酸化ジルコニウムを含有する複合酸化物である。
【0017】
前記金属酸化物前駆体は、水熱反応により金属酸化物を生成する化合物であれば特に限定されない。例えば各種金属の水酸化物、塩化物、オキシ塩化物、硫酸塩、酢酸塩、有機酸塩、アルコキシド等が挙げられる。例えばジルコニウムでの例では、水酸化ジルコニウム、塩化ジルコニウム、オキシ塩化ジルコニル、オキシ酢酸ジルコニル、オキシ硝酸ジルコニル、硫酸ジルコニウム、オクタン酸ジルコニウム、オレイン酸酸化ジルコニウム、酢酸ジルコニウム、ステアリン酸酸化ジルコニウム、ラウリン酸酸化ジルコニウム、テトラブトキシジルコニウム等のジルコニウムアルコキサイド等が挙げられる。
【0018】
金属酸化物前駆体を形成する金属は、Ti、Al、Zr、Zn、Sn、及びCeから選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましく、Zrを含むことがより好ましい。
【0019】
前記塩基性化合物は、水に溶解させた時に塩基性を示すものであれば良く、ブレンステッド塩基やルイス塩基等形態は特に問わず、無機化合物、有機化合物いずれでも良い。中でも、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩及び1級から3級のアミンから選ばれる少なくとも1種以上の塩基性化合物であることが好ましく、アルカリ金属やアルカリ土類金属の水酸化物、カルボン酸のアルカリ金属塩、有機アミン化合物がより好ましく、特にアルカリ金属の水酸化物、有機アミン化合物が好ましい。塩基性化合物が存在することによって、生成するナノ粒子の収率が向上する。さらに、広範な種類のカルボン酸を原料とすることが利用可能となり、従来方法では製造が難しかった種類の有機基で被覆された金属酸化物ナノ粒子が得られる。
【0020】
前記塩基性化合物の量は、該工程で用いられる金属酸化物前駆体1モルに対して0.03モル以上1.5モル以下であることが好ましい。前記範囲の塩基性化合物を添加することで、ナノ粒子の収率がより向上する。
【0021】
前記炭素数4〜20のカルボン酸は直鎖状カルボン酸、分枝鎖状カルボン酸、環状カルボン酸、芳香族カルボン酸が挙げられるが特に限定されない。例えばヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、ドデカン酸、テトラデカン酸、ステアリン酸などの直鎖状カルボン酸;2−エチルヘキサン酸、2−メチルヘプタン酸、4−メチルオクタン酸、ネオデカン酸などの分枝鎖状カルボン酸;ナフテン酸、シクロヘキサンジカルボン酸などの環状カルボン酸などを挙げることができる。

【0022】
本発明では、有機基で被覆された金属酸化物ナノ粒子を水及び塩基性化合物存在下、水熱反応を行なうことを特徴とするが、
(i)炭素数が4〜20の有機カルボン酸と金属酸化物前駆体との塩
(ii)炭素数が4〜20の有機カルボン酸の金属塩、および
(iii)炭素数が4〜20の有機カルボン酸及び金属酸化物前駆体
から選ばれる少なくとも1種以上が存在することが好ましい。
【0023】
前記炭素数が4〜20の有機カルボン酸は、前記ナノ粒子に対する表面処理工程での取扱い易さや、該ナノ粒子を含む光学材料の基材となる樹脂等に対する分散性等の諸物性を加味して、適宜選択することが出来る。また前記金属酸化物前駆体または金属塩を形成する金属は、特に限定されないが、Ti、Al、Zr、Zn、Sn、及びCeから選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0024】
以下、前記金属酸化物前駆体として、各種金属のオキシ塩化物等の塩化物やオキシ硝酸物等の硝酸塩等の、水溶性で腐食性の高い金属酸化物前駆体を原料として用いるときに好適である前記(i)の場合について、詳述する。
【0025】
尚、塩とは、カルボン酸と金属酸化物前駆体との量論比で構成される単種類の化合物だけでなく、複合塩や、未反応のカルボン酸または金属酸化物前駆体が存在する組成物であってもよい。
【0026】
前記(i)において、炭素数が4〜20の有機カルボン酸と金属酸化物前駆体との塩とは、アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属により中和度が0.1〜0.8の範囲に中和された炭素数が4〜20である有機カルボン酸塩含有組成物と金属酸化物前駆体とを反応させて得られた、炭素数が4〜20の有機カルボン酸と金属との塩であることが好ましい。
【0027】
前記中和度が0.1〜0.8の範囲に中和された有機カルボン酸塩含有組成物とは、該有機カルボン酸を構成している全カルボキシル基1モルに対して0.1〜0.8モルのカルボキシル基がアルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属で中和されている状態の有機カルボン酸塩含有組成物を言い、有機カルボン酸に適量のアルカリ金属の水酸化物等を加えて得る以外に、未中和の有機カルボン酸と完全及び/又は部分中和された有機カルボン酸とを混合することによっても得られる。該未中和、完全中和又は部分中和の有機カルボン酸は同一であっても、お互いに異なっていてもよく、さらに異なる有機カルボン酸からなる組成物の未中和、完全中和又は部分中和物であっても良いが、該有機カルボン酸の炭素数は4〜20であることが重要である。
【0028】
前記中和度は0.1〜0.8が好ましく、0.2〜0.7がより好ましい。0.1未満では有機カルボン酸の溶解性が低いために前記塩が十分に形成できないことがあり、また0.8を超えると金属の水酸化物と推測される多量の白色沈殿が生成してナノ粒子の収率が低下する場合がある。
【0029】
前記有機カルボン酸塩含有組成物を得るために用いるアルカリ金属及びアルカリ土類金属はいずれであってもよいが、水溶性の高い有機カルボン酸塩を形成する金属が好ましく、アルカリ金属、特にナトリウム及びカリウムが好適である。
【0030】
前記有機カルボン酸塩含有組成物と前記金属酸化物前駆体との割合は、金属酸化物前駆体1モルに対してカルボキシル基が1モル〜20モルであることが好ましく、1.2〜18モルがより好ましく、1.5〜15モルがさらに好ましい。
【0031】
前記有機カルボン酸塩含有組成物と前記金属酸化物前駆体とを反応させるには、水溶液同士を混合させるのが好ましい。反応温度は水溶液を保持できる温度であれば特に問わないが、室温から100℃が好ましく、40℃〜80℃がより好ましい。
【0032】
前記有機カルボン酸塩含有組成物と前記金属酸化物前駆体とを反応させて得られた前記塩は、そのまま水熱反応に供しても良いが、不溶性の副生物を濾過等により取り除いておくのが好ましい。
【0033】
前記塩基性化合物を添加するのは、(i)の工程後に行うことが好ましく、塩基性化合物を予め添加しても十分な効果が得られない場合がある。(i)の工程後で、次工程である水熱反応に供する前である炭素数が4〜20の有機カルボン酸と金属酸化物前駆体との塩を含む、溶液または組成物に塩基性化合物を添加することが好ましい。
【0034】
次に(ii)の場合について、詳細に説明する。
【0035】
(ii)の実施形態では、事前に調製した炭素数が4〜20の有機カルボン酸の金属塩を用いるものである。上記の様な煩雑な工程を経ることなく、水熱反応に供することが出来る利点がある。但し、容易に入手できる化合物が限られているため、目的とする有機基で被覆された金属酸化物ナノ粒子が得られないことがある。金属は特に限定されないが、Ti、Al、Zr、Zn、Sn、及びCeから選ばれる少なくとも1種を含有することが好ましい。
【0036】
(ii)の実施形態で用いることが出来る金属塩としては、オクタン酸チタン、オレイン酸酸化チタン、ステアリン酸酸化チタン、ラウリン酸酸化チタン、オクタン酸アルミニウム、オクタン酸ジルコニウム、オレイン酸酸化ジルコニウム、ステアリン酸酸化ジルコニウム、ラウリン酸酸化ジルコニウム、オクタン酸亜鉛、オクタン酸スズ、オクタン酸セリウム等を例示することが出来る。
【0037】
金属塩の純度が低い場合には、精製を施してから用いることもあるが、市販品または事前に調製した塩をそのまま水熱反応に供することが出来る。
【0038】
前記塩基性化合物を添加するのは、水熱反応の前であることが好ましい。
【0039】
次に前記(iii)の場合について、詳細に説明する。
【0040】
前記(iii)では、前記金属酸化物前駆体として、例えば各種金属の水酸化物、塩化物、オキシ塩化物、硫酸塩、酢酸塩、有機酸塩、アルコキシド等が挙げられる。例えばジルコニウムでの例では、水酸化ジルコニウム、塩化ジルコニウム、オキシ塩化ジルコニル、オキシ酢酸ジルコニル、オキシ硝酸ジルコニル、硫酸ジルコニウム、オクタン酸ジルコニウム、オレイン酸酸化ジルコニウム、酢酸ジルコニウム、ステアリン酸酸化ジルコニウム、ラウリン酸酸化ジルコニウム、テトラブトキシジルコニウム等のジルコニウムアルコキサイド等を用いる場合に好適な方法である。
【0041】
前記炭素数が4〜20の有機カルボン酸については、前記(i)と同じである。
【0042】
前記金属酸化物前駆体と前記カルボン酸とを、好ましくは水存在下で混合する。この時に、加熱や減圧下で行うことにより、アンモニアや酢酸等の前記金属酸化物前駆体に含まれる低沸点の化合物を系外へ追い出しておくと、次工程の水熱反応での圧上昇が抑えられるので、好適である。尚、後述の有機溶媒を添加した溶液中で前記反応を行ってもよい。
【0043】
以下、水熱反応以降の工程について説明する。
【0044】
前記塩基性化合物を添加した前記炭素数が4〜20の有機カルボン酸と金属酸化物前駆体とを含有する組成物を水熱反応に供することで金属酸化物ナノ粒子組成物が得られるが、該組成物だけでは、粘度が高く水熱反応が効率的に進行しない場合には、該組成物に対して良好な溶解性を示す有機溶媒を添加すると良い。
【0045】
前記有機溶媒としては、炭化水素、ケトン、エーテル、アルコール等を用いることが出来る。水熱反応時に気化する溶媒では十分に反応が進行しない恐れがあるので、常圧下での沸点が120℃以上の有機溶媒が好ましく、180℃以上がより好ましく、210℃以上が更に好ましい。具体的には、デカン、ドデカン、テトラデカン、オクタノール、デカノール、シクロヘキサノール、テルピネオール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、ヘキサンジオール、グリセリン、メタントリメチロール、トルエン、キシレン、トリメチルベンゼン、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)等が例示され、ドデカン、テトラデカンが好ましい。
【0046】
前記有機溶媒を添加したことにより2層に分離した場合には、界面活性剤等を添加して均一相状態や懸濁乳化状態にしてもよいが、通常は2層のまま水熱反応に供することが出来る。
【0047】
前記組成物は原料に由来する十分な量の水を含有している場合もあるが、原料中に含まれる水分が無い又は少ない場合には、水熱反応に供する前に水分を添加しておく必要がある。
【0048】
水熱反応の系内に存在する水分量は、系内に存在する金属酸化物前駆体のモル数に対する水のモル数(水のモル数/金属酸化物前駆体のモル数)で4/1〜100/1が好ましく、8/1〜50/1がより好ましい。4/1未満では水熱反応に長時間を要したり、得られた前記ナノ粒子の粒径が大きくなったりすることがある。一方、100/1以上では、系内に存在する金属酸化物前駆体が少ないため生産性が低下する以外は特に問題は無い。
【0049】
水熱反応は、1MPaG以下の圧力で行うのが好ましい。1MPaG以上でも反応は進行するが、反応装置が高価になるため工業的には好ましくない。一方、圧力が低すぎると反応の進行が遅くなり、また長時間の反応により前記ナノ粒子の粒径が大きくなったり、金属酸化物が複数の結晶系を持ったりすることがある為、0.1MPaG以上の圧力下で行うのが好ましく、0.2MPaG以上で行うのがより好ましい。
【0050】
反応温度は反応容器内の圧力が適正な範囲に保たれるように調整するのが好ましいが、前記組成物中に含まれる水の飽和蒸気圧を考慮すると、200℃以下で行うのが好ましく、180℃以下がより好ましい。反応温度が低いと反応に長時間を要することがあるので、100℃以上が好ましく、120℃以上がより好ましい。
【0051】
反応容器の空間部を窒素などの不活性ガスで置換すると、前記有機カルボン酸や添加した有機溶媒の酸化等による副反応が抑制されるので好ましい。尚、加熱前に加圧状態にすると、十分な反応温度に到達する前に高圧になってしまうので、加熱前に常圧以上に加圧するのは好ましくない。
【0052】
反応時間は、反応温度や圧力と収率の関係から適切値を定めればよく、通常は0.1〜50時間であり、1〜20時間がより好ましい。50時間以上加熱しても収率の向上は少なく、前記ナノ粒子の粒径が大きくなったり、含有されている金属酸化物が複数の結晶系を持つ場合がある。
【0053】
前記水熱反応により、通常、カルボン酸で被覆された金属酸化物粒子含有ナノ粒子が容器下部に沈殿生成する。該ナノ粒子は水熱反応で生成したカーボンなどの副生物や該ナノ粒子の凝集体等を除去するための精製を施すことが出来る。例えば、沈殿生成物をろ別した後、トルエン等の溶媒に溶解させて、不溶物をろ別してから減圧濃縮などによりトルエン等の溶媒を除去することで該ナノ粒子が得られる。
【0054】
前記ナノ粒子はジルコニアであることが好ましいが,ジルコニア中には原料由来のハフニウムが含まれることがあるほか、カルシウムやイットリウムを添加して所謂安定化ジルコニアを得ることも出来る。
【実施例】
【0055】
以下に実施例によりさらに詳細に本発明を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。本実施例における評価等は下記の手法により行った。
【0056】
≪粒子径の測定≫
乾燥した有機基で被覆した金属酸化物ナノ粒子をトルエンに分散した希薄溶液を透過型電子顕微鏡により観察して、画面上の粒子から任意に50個の粒子を選択して粒子径を測定し、平均値を平均の粒子径とした。
【0057】
≪結晶構造の解析≫
金属酸化物粒子の結晶構造は、全自動多目的X線回折装置(スペクトリス社製、XPert Pro)を用いて解析した。測定条件は以下の通りである。
【0058】
X線源:CuKα(0.154nm)
X線出力設定:45kV、40mA
ステップサイズ:0.017°
スキャンステップ時間:5.08秒
測定範囲:5〜90°
測定温度:25℃
≪X線回折解析による結晶子径算出≫
結晶子径は、多目的X線回折装置(スペクトリス社製、XPert Pro)を用いて解析することにより算出し、30°のピークにおける粒子径を金属酸化物ナノ粒子の結晶子径とした。
【0059】
≪質量減少率の測定≫
TG−DTA(熱重量−示唆熱分析)装置により、空気雰囲気下、室温から800℃まで10℃/分で金属酸化物ナノ粒子を昇温し、該粒子の質量減少率を測定した。
【0060】
実施例1
オクチル酸ジルコニル(第一稀元素化学製オクチル酸ジルコニール Zr含有量12%)78.37g、及び脱イオン水13.52g、水酸化ナトリウム2.04g(ジルコニア1モルに対して0.49モル)の混合液をオートクレイブに仕込み、オートクレイブ中の雰囲気を窒素ガスに置換した。その後、混合液を170℃まで加熱し、8時間保持した。室温まで冷却後、反応後の溶液を取り出し、底部に溜まった沈殿物を濾別してメタノール60gで洗浄した。洗浄物を乾燥させることで、白色粒子7.68gを得た。
【0061】
また、得られた白色粒子を、赤外吸収スペクトルによって分析したところ、C−H由来の吸収と、COOH由来の吸収が確認できた。当該吸収は、ナノ粒子と結合しているオクチル酸のカルボキシレート基に由来するものと考えられる。
【0062】
得られた白色粒子についてTG−DTA(熱重量−示唆熱分析)装置により、空気雰囲気下、室温から800℃まで10℃/分で昇温し、該粒子の質量減少率を測定したところ、その質量減少率は、18質量%だった。従って、該白色粒子中に含有されるオクチル酸のカルボキシレート基は、該白色粒子の18質量%であることが分かった。残留物がZrO2と仮定して算出した収率は、49モル%であった。
【0063】
透過型電子顕微鏡により測定した平均の粒子径は15nmであり、X線回折により結晶系を解析した結果、正方晶系の回折角と一致しており、単斜晶系に相当する回折角はほとんど観察されなかった。また、回折線の強度から算出したその粒子径(結晶子径)は7nmであった。
【0064】
実施例2
実施例1において水酸化ナトリウム2.04gを水酸化カリウム2.85gに変えた以外は同様の方法で反応及び反応後の処理を行い、白色粒子7.44gを得た。得られた沈殿物の一部を採取して熱分析(TG−DTA)して熱的な減少量を測定したところ、減少量は17%であった。残留物がZrO2と仮定して算出した収率は、48モル%であった。
【0065】
透過型電子顕微鏡により測定した平均の粒子径は14nmであり、X線回折により結晶系を解析した結果、正方晶系の回折角と一致しており、単斜晶系に相当する回折角はほとんど観察されなかった。また、回折線の強度から算出したその粒子径(結晶子径)は7nmであった。
【0066】
実施例3
オクチル酸ジルコニル(第一稀元素化学製オクチル酸ジルコニール Zr含有量12%)120.08g、及び脱イオン水20.63g、水酸化ナトリウム0.84g(ジルコニア1モルに対して0.13モル)の混合液をオートクレイブに仕込み、オートクレイブ中の雰囲気を窒素ガスに置換した。その後、混合液を180℃まで加熱し、16時間保持した。室温まで冷却後、反応後の溶液を取り出し、底部に溜まった沈殿物を濾別してメタノール92gで洗浄した。洗浄物を乾燥させることで、白色粒子18.44gを得た。
【0067】
得られた沈殿物の一部を採取して熱分析(TG−DTA)して熱的な減少量を測定したところ、減少量は14%であった。残留物がZrO2と仮定して算出した収率は、82モル%であった。
【0068】
透過型電子顕微鏡により測定した平均の粒子径は14nmであり、X線回折により結晶系を解析した結果、正方晶系の回折角と一致しており、単斜晶系に相当する回折角はほとんど観察されなかった。また、回折線の強度から算出したその粒子径(結晶子径)は6nmであった。
【0069】
実施例4
実施例3において、水酸化ナトリウム0.84gを水酸化カリウム1.18gにした以外は同様の方法で反応及び反応後の処理を行い、白色粒子18.4gを得た。得られた沈殿物の一部を採取して熱分析(TG−DTA)して熱的な減少量を測定したところ、減少量は、14%であった。残留物がZrO2と仮定して算出した収率は、82モル%であった。
【0070】
透過型電子顕微鏡により測定した平均の粒子径は13nmであり、X線回折により結晶系を解析した結果、正方晶系の回折角と一致しており、単斜晶系に相当する回折角はほとんど観察されなかった。また、回折線の強度から算出したその粒子径(結晶子径)は7nmであった。
【0071】
実施例5
実施例1において水酸化ナトリウム2.04gをヘキシルアミン5.22gに変えた以外は同様の方法で反応及び反応後の処理を行い、白色粒子4.69gを得た。得られた沈殿物の一部を採取して熱分析(TG−DTA)して熱的な減少量を測定したところ、減少量は21%であった。残留物がZrO2と仮定して算出した収率は、29モル%であった。
【0072】
透過型電子顕微鏡により測定した平均の粒子径は15nmであり、X線回折により結晶系を解析した結果、正方晶系の回折角と一致しており、単斜晶系に相当する回折角はほとんど観察されなかった。また、回折線の強度から算出したその粒子径(結晶子径)は7nmであった。
【0073】
実施例6
実施例1において水酸化ナトリウム2.04gをアニリン4.79gに変えた以外は同様の方法で反応及び反応後の処理を行い、白色粒子3.5gを得た。得られた沈殿物の一部を採取して熱分析(TG−DTA)して熱的な減少量を測定したところ、減少量は、21%であった。残留物がZrO2と仮定して算出した収率は、22モル%であった。
【0074】
透過型電子顕微鏡により測定した平均の粒子径は16nmであり、X線回折により結晶系を解析した結果、正方晶系の回折角と一致しており、単斜晶系に相当する回折角はほとんど観察されなかった。また、回折線の強度から算出したその粒子径(結晶子径)は6nmであった。
【0075】
比較例1
実施例1において、水酸化ナトリウムを添加しないで反応した以外は同様の方法で反応及び反応後の処理を行い、白色粒子1.65gを得た。得られた沈殿物の一部を採取して熱分析(TG−DTA)して熱的な減少量を測定したところ、減少量は19%であった。残留物がZrO2と仮定して算出した収率は、11モル%であった。
【0076】
透過型電子顕微鏡により測定した平均の粒子径は17nmであり、X線回折により結晶系を解析した結果、正方晶系の回折角と一致しており、単斜晶系に相当する回折角はほとんど観察されなかった。また、回折線の強度から算出したその粒子径(結晶子径)は7nmであった。
【0077】
比較例2
実施例3において、水酸化ナトリウムを添加しないで反応した以外は同様の方法で反応及び反応後の処理を行い、白色粒子15.72gを得た。得られた沈殿物の一部を採取して熱分析(TG−DTA)して熱的な減少量を測定したところ、減少量は14%であった。残留物がZrO2と仮定して算出した収率は、70モル%であった。
【0078】
透過型電子顕微鏡により測定した平均の粒子径は17nmであり、X線回折により結晶系を解析した結果、正方晶系の回折角と一致しており、単斜晶系に相当する回折角はほとんど観察されなかった。また、回折線の強度から算出したその粒子径(結晶子径)は6nmであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水及び塩基性化合物存在下、金属酸化物と炭素数が4〜20の有機カルボン酸とを水熱反応を行なうことを特徴とする有機基で被覆された金属酸化物ナノ粒子の製造方法。
【請求項2】
前記塩基性化合物がアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩及び1級から3級のアミンから選ばれる少なくとも1種以上の塩基性化合物であることを特徴とする請求項1記載の有機基で被覆された金属酸化物ナノ粒子の製造方法。
【請求項3】
前記塩基性化合物の量が、該工程で使用される金属酸化物1モルに対して0.03モル以上1.5モル以下であることを特徴とする請求項1又は2記載の有機基で被覆された金属酸化物ナノ粒子の製造方法。
【請求項4】
前記金属酸化物ナノ粒子を形成する金属は、Ti、Al、Zr、Zn、Sn、及びCeから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1〜3いずれかに記載の有機基で被覆された金属酸化物ナノ粒子の製造方法。
【請求項5】
(i)炭素数が4〜20の有機カルボン酸と金属酸化物との塩
(ii)炭素数が4〜20の有機カルボン酸の金属塩、および
(iii)炭素数が4〜20の有機カルボン酸及び金属酸化物
から選ばれる少なくとも1種以上を含む組成物を水及び塩基性化合物存在下で水熱反応を行なうことを特徴とする有機基で被覆された金属酸化物ナノ粒子の製造方法。
【請求項6】
前記金属酸化物または金属塩を形成する金属は、Ti、Al、Zr、Zn、Sn、及びCeから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項5記載の有機基で被覆された金属酸化物ナノ粒子の製造方法。
【請求項7】
前記(i)記載の炭素数が4〜20の有機カルボン酸と金属酸化物との塩が、アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属により中和度が0.1〜0.8の範囲に中和された炭素数が4〜20である有機カルボン酸塩含有組成物と水溶性金属酸化物前駆体とを反応させて得られた組成物であることを特徴とする請求項5又は6記載の有機基で被覆された金属酸化物ナノ粒子の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかの製造方法により得られた有機基で被覆された金属酸化物ナノ粒子。
【請求項9】
請求項8記載の金属酸化物ナノ粒子を含む組成物。