説明

有機無機複合体

【課題】異種の有機物を互いに緩衝することなく保持させ層状ケイ酸塩と有機物とからなる有機無機複合体を提供する。
【解決手段】有機無機複合体は、層状無機物に有機物を共有結合又は配位結合した結合複合体の層間に第二の有機物を挿入し、共有結合又は配位結合する有機物を所定波長で発光を生じる色素とし、その第二の有機物を発光波長域内に吸収域を有する色素とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、層状ケイ酸塩と有機物とからなる有機無機複合体に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明の有機無機複合体は、異なる有機分子をナノ空間に共存させる手段として従前より行われた構造を有するものである。
このような構造を用いずに、複数の有機物(色素等)を層間に挿入しようとするとき、先ず1つ目の有機物を層間に挿入し、得られた複合体をホスト複合体とし2つ目の色素を層間に挿入しようとすると、多くの場合、以下の3つのいずれかの結果に至り、異種有機物(色素等)の共存は難しい。
・1つ目の色素が2つ目の色素と交換して系外に放出されるデインターカレーションが起こる。
・1つ目の色素の再配列が起こり、各々の色素が別の層に取り込まれた層別と呼ばれる状態になる。
・2つ目の色素が取り込まれない。
【0003】
【特許文献1】特開2007−223827(特願2006−044575)
【特許文献2】特開2002−275385
【非特許文献1】J. Phys. Chem. 88, 5519 (1984) Gosh, P. and Bard, A. J.
【非特許文献2】Chem. Mater. in press Fujii, K. Et al.
【非特許文献3】Chem. Mater. 17, 2997 (2005) Kakegawa, N. and Yamagishi, A.
【非特許文献4】Langmuir 20, 4715 (2004) Sasai R. et al 等
【非特許文献5】Appl. Phys. Letters 33(9),819 (1978)
【非特許文献6】Syntheses of phyllosilicate/coumarin composites, K. Fujii, S. Hayashi, Proceedings for the 12th International Clay Conference., pp.443−450(2003)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明はこのような実情に鑑み、異種の有機物を互いに緩衝することなく保持させた有機無機複合体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
発明1の有機無機複合体は、層状無機物に有機物を共有結合又は配位結合した結合複合体の層間に第二の有機物を挿入したことを特徴とする。
【0006】
発明2は、発明1の有機無機複合体において、前記共有結合又は配位結合する有機物を所定波長での発光を生じる色素とし、前記第二の有機物を、前記発光波長域内に吸収域を有する色素であることを特徴とする。
【0007】
発明3は、発明2の有機無機複合体において、前記層状ケイ酸塩に共有結合している有機物がクマリンであることを特徴とする。
【0008】
発明4は、発明1から3のいずれかの無機有機複合体において、前記層状無機物が層状ケイ酸塩であることを特徴とする。
【0009】
発明5は、発明4の無機有機複合体において、前記層状ケイ酸塩は、式1に示される化学組成を有することを特徴とする。
(式1)
(C1414NOLi(Mg3−mLi)Si10(OH)……(1)
(0.001<k<0.01,0.2<m<0.3)
【発明の効果】
【0010】
二種の有機物は、一方が層状無機物に共有結合又は配位結合にて強固に保持され、他方が層間にインターカレントされて保持され、それぞれが別々の保持構造で保持されているので、両者が緩衝することなく安定して保持することができるようになった。
また、層状ケイ酸塩を用いることで、粉体、成形体、膜等にする事ができ、実用上の諸要求に対応した形状としても上記のような効果を発揮させることができ、大変便利である。
また、蛍光発色団であるクマリン等の色素を有機物とし、その発光波長の域内に吸収波長を有する色素を第二の有機物とした場合に、有機物間のエネルギー移動が起こるので、エネルギー変換素子等への応用も期待できる。
特にクマリンは、その発光波長が350−600nmと広い波長範囲に及ぶので、クマリンと第二の有機物であるDOCの間の異種色素間距離を制御する事も可能であり、またエネルギー移動効率は異種色素間距離に依存するため、エネルギー移動効率の制御も可能である。
当該共存系の構築は、クマリンと無機材料が共有結合又は配位結合したホスト複合体へゲスト色素を挿入するだけという、発明者独自の発案により非常に容易に達成でき、広く応用できると思われる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の有機無機複合体は、層状無機物に有機物を共有結合又は配位結合した結合複合体の層間に第二の有機物を挿入したことを特徴とするものである。
前記層状無機物としては、以下の実施例に示す下記式(1)に示す層状ケイ酸塩が有利なものであるが、本発明はこれに限らず、次のような層状無機物が使用可能である。
(式1)
(C1414NOLi(Mg3−mLi)Si10(OH)……(1)
(0.001<k<0.01,0.2<m<0.3)
【0012】
また、結合複合体を構成するために前記層状無機物に共有結合される有機物としては、その機能からクマリンが有用であるが、これに限らず、以下の表1に示すような有機物が使用可能である。
【表1】

【0013】
さらに、前記結合複合体の層間に挿入される第二の有機物としては、以下のようなものが有効である
クマリンを共有結合している場合は、波長350−450nmに吸収域を有する以下のような色素。3,3’−ジエチルオキシカルボシアニン(DOC)等の本技術に使える化合物の例を以下に述べます。
・シアニン色素のうち、350−450nmに吸収が有るもの(3,3’−ジエチルオキシカルボシアニン、ジメチル−エチルシアカルボシアニン等)
・クマリン誘導体のうち、350−450nmに吸収が有るもの(ベンゾチアゾイル−7−ジエチルアミノクマリン、メチル−トリフルオロメチルピペリジノ−クマリン、テトラハイドロ−8−トリフルオロメチルキノリジノ−[9,9a,1−gh]クマリン等)
・その他の色素で、350−450nmに吸収が有るもの(フルオレセイン、ジメチルアミノスチリル−ベンゾチアゾリルエチル、ジメチルアミノスチリル−ピリジルメチル)
・その他の化合物で、350−450nmに吸収が有るもの(ルテニウムビピリン錯体等)
層状ケイ酸塩の層間に構築されたクマリン/シアニン共存系。クマリンは層状ケイ酸塩に共有結合しており、組成式は次の式2で与えられる。
(式2)
(C2121(C1414NOLi(Mg3−mLi)Si10(OH)…(2)
(0.01 < j < 10, 0.001<k<0.01,0.2<m<0.3)
形状は、粉体、バルク、膜状等目的に応じて、成形される。この飽和吸収剤は、およそ300−500nmで発される蛍光等の光を吸収する。
特許文献1に示す飽和吸収剤と同様の効果が文献より広い波長域(300−500nm)で発揮できると期待できる。
【0014】
その他の有機物を共有結合している場合は、下表2のような有機物を層間に挿入するのが望ましい。
【表2】

【実施例1】
【0015】
・合成;図1及び表3参照。
共有結合型の層状ケイ酸塩/クマリン複合体(ホスト複合体)は、7−(3−トリエトキシシリルプロピル)−O−(4−メチルクマリン)ウレタン、シリカゾル、Mg(OH)及びLiFを、以下の反応条件で、反応させて合成した。
その反応方法は、特許文献2又は非特許文献6に記載の方法により行った。
反応条件1;150℃以下の温度で1〜3日間保持
反応条件2;1〜5日間還流
層状ケイ酸塩/クマリン複合体(以下、ホスト複合体)4gを200mlのHOに分散。
別に用意したDOCの2uM水溶液200mlを上記ホスト複合体の分散液に加えた後、1週間撹拌し、DOCをホスト複合体の層間へ挿入し、図2に示す試料No.1のクマリン/DOC共存系を創製した。
・構造の確認;吸収スペクトル、X線回折等。
・蛍光発光波長域;図3の様に、共存系は広い波長域で発光を示す。
【実施例2】
【0016】
・合成;実施例1と同様に、ホスト複合体4gを200mlのHOに分散。別に用意したDOCの20uM水溶液200mlをホスト複合体の分散液に加えた後、1週間撹拌し、DOCをホスト複合体の層間へ挿入し、試料No.2のクマリン/DOC共存系を創製した。
比較試料;ホスト複合体の代わりに、合成スメクタイトSWN(コープケミカル(株)製)を用いて、DOCのみが二次元場に固定された系を準備。
・蛍光発光波長域;試料No.1と同様、広い波長域で発光を示す。
・エネルギー移動;320nmで励起しても、520nm付近に発光(図4)。
比較試料;320nmで励起すると図4の点線の様に発光はみられない。
DOCは520nmで発光するが、320nmの光は吸収しないため、320nmで励起しても通常発光しない。320nmの光は先ずクマリンに吸収され、その後、励起されたクマリンからDOCへのエネルギー移動反応が起こるため、クマリン/DOC共存系では320nmで励起してもDOCの発光が起こると考えられる。
【実施例3】
【0017】
・合成;実施例1と同様に、ホスト複合体4gを200mlのHOに分散。別に用意したDOCの200uM水溶液200mlをホスト複合体の分散液に加えた後、1週間撹拌し、DOCをホスト複合体の層間へ挿入し、試料No.3のクマリン/DOC共存系を創製した。
・蛍光発光波長域;クマリン/DOC共存系−1と同様、広い波長域で発光を示す。
・エネルギー移動;クマリン/DOC共存系−2と同様、320nmで励起しても、520nm付近に発光がみられる。
・エネルギー移動効率;図5に試料No.1〜3を320nmで励起した時の蛍光発光スペクトルを示す。試料No.1から3へDOC量が増大する程エネルギー移動効率が高くなる。同じ順で、クマリンとDOCの異種色素間距離が短くなっている。この範囲(2〜100nm)では異種色素間距離は、DOC量(1g当り1e−5〜1e−1mmol)に良く依存し、さらに、異種色素間距離とエネルギー移動効率の関係は理論式にのっているため、DOC量を調節するだけでエネルギー移動効率を制御できる。
【実施例4】
【0018】
・合成;実施例1と同様に、ホスト複合体0.4gを20mlのHOに分散。別に用意したDOCの200uM水溶液200mlをホスト複合体の分散液に加えた後、1週間撹拌し、DOCをホスト複合体の層間へ挿入し、試料No.4を、同様にDOC200uM水溶液2000mlを用いて試料No.5を、それぞれ創製した。DOCの比率を上げる事により、異種色素間距離が非常に短い(0.5〜3nm)系を得た。
消光;色素間距離が非常に短い場合は、励起された色素のエネルギーは濃度消光等により失われ、図6に示す様に蛍光は発されない。
光学系に必要な蛍光吸収剤等に用いる事ができると考えられる。
【表3】

【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】クマリン/DOC共存系の製造手順を示すフフロー。
【図2】層状ケイ酸塩の層間に構築されたクマリン/DOC共存系の模式図。
【図3】試料No.1のクマリン/DOC共存系の蛍光スペクトルを示すグラフ。(a)励起波長320nm、(b)488nm
【図4】試料No.2のクマリン/DOC共存系のクマリン→DOCエネルギー移動を示すグラフ。 実線:クマリン/DOC共存系の蛍光スペクトル(励起波長320nm) 点線:DOCの蛍光スペクトル(励起波長320nm)
【図5】クマリン/DOC共存系のエネルギー移動効率の変化を示すグラフ。
【図6】試料No.4、6のクマリン/DOC共存系の蛍光スペクトルを示すグラフ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
層状無機物に有機物を共有結合又は配位結合した結合複合体の層間に第二の有機物を挿入したことを特徴とする有機無機複合体
【請求項2】
請求項1に記載の有機無機複合体において、前記層状無機物に結合する有機物を所定波長での発光を生じる色素とし、前記第二の有機物を、前記発光波長域内に吸収域を有する色素であることを特徴とする。
【請求項3】
請求項2に記載の有機無機複合体において、前記層状ケイ酸塩に共有結合している有機物がクマリンであることを特徴とする。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載の無機有機複合体において、前記層状無機物が層状ケイ酸塩であることを特徴とする。
【請求項5】
請求項4に記載の無機有機複合体において、前記層状ケイ酸塩は、式1に示される化学組成を有することを特徴とする。
(式1)
(C1414NOLi(Mg3−mLi)Si10(OH)……(1)
(0.001<k<0.01,0.2<m<0.3)

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−215106(P2009−215106A)
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−60381(P2008−60381)
【出願日】平成20年3月11日(2008.3.11)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成19年9月12日 第51回粘土科学討論会実行委員会発行の「第51回粘土科学討論会講演要旨集」に発表
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【Fターム(参考)】