説明

有機無機複合接着剤及びその製造方法

【課題】有機無機複合接着剤において有機合成樹脂と無機酸化物とが連続的な微細構造を形成して高温における接着強度を維持するとともに、ゾルーゲル化反応におけるゲル化による粘度上昇を防止して接着剤としての作業性に優れ、厚膜での使用も可能となること。
【解決手段】低粘度のエポキシ樹脂オリゴマーにシリカゾルを分散させてゲル化させてからエポキシ樹脂と混合することによってゲル化による粘度上昇を防止した。20℃においても80℃においても引っ張りせん断強度は、シリカが分散されていない比較例に係る有機無機複合接着剤に比べて、実施例1乃至実施例4に係る有機無機複合接着剤の方が明らかに向上している。特に、高温(80℃)における引っ張りせん断強度の向上が目立っている。更に、同じシリカ分散量でも、反応触媒を添加した実施例1,実施例2の方が、反応触媒を添加していない実施例3,実施例4よりも優れた特性を示している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機合成樹脂と無機酸化物とが連続的な微細構造を形成した有機無機複合接着剤に関し、特に、ゾルーゲル法によってもゲル化による流動性の大幅な低下を防止して厚膜での使用を可能とした有機無機複合接着剤及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、接着剤の接着強度の向上、特に高温時における接着強度の向上が求められている。例えば、自動車等の車両の車体部材のうち、エンジンルームに接している部分は走行時には高温になり、また夏季には車室内も80℃近くの高温まで温度が上昇する。従って、自動車等の車両の車体部材同士を接着する接着剤としても、高温時における接着強度の低下が少ないものが要望されている。高温時における接着強度を向上させるためには、温度上昇に伴って軟化してしまう有機合成樹脂からなる接着剤基材に、無機化合物を均一に分散させることが有効である。
【0003】
そこで、特許文献1に示される特許発明においては、耐熱性に優れ、ボイド、クラック等を生じないエポキシ樹脂硬化物を得ることを目的として、特定のエポキシ樹脂と特定のアルコキシシラン部分縮合物からなるアルコキシ基含有シラン変性エポキシ樹脂、及びエポキシ樹脂用硬化剤からなる組成物によって、上記目的に合致したエポキシ樹脂―シリカハイブリッド硬化物を得ることができたとしている。
【特許文献1】特許第3458379号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1に記載された技術においては、金属酸化物として高価なシリコンアルコキシド(アルコキシシラン)を用いているため、有機無機複合組成物として高価なものとなってしまう。また、従来のゾルーゲル法においては有機合成樹脂に無機酸化物のゾルを分散させる場合に無機酸化物のゲル化によって粘度が高くなり均一に分散することが困難であるという問題があったが、上記特許文献1に記載された技術においてもゾルーゲル化反応を用いているために、接着剤として用いる場合にはゲル化によって粘度が高くなり作業性が低下してしまうという問題点があった。
【0005】
そこで、本発明は、有機合成樹脂と無機酸化物とが連続的な微細構造を形成して高温における接着強度を維持することができるとともに、ゾルーゲル化反応におけるゲル化による粘度上昇を防止することによって接着剤としての作業性に優れ、厚膜で使用した場合にも乾燥時にクラック等が発生することなく厚膜での使用も可能となる有機無機複合接着剤及びその製造方法の提供を課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1の発明にかかる有機無機複合接着剤は、接着剤基材となる有機合成樹脂成分中に無機酸化物成分を均一に分散させてなる有機無機複合接着剤であって、前記有機合成樹脂の一部またはそのオリゴマーの全部若しくは一部に前記無機酸化物のゾルを均一に混合して前記無機酸化物のゾルをゲル化させた後に、前記有機合成樹脂の残部または前記有機合成樹脂の全部若しくは前記有機合成樹脂の全部及び前記オリゴマーの残部を混合することによって得られるものである。ここで、「有機合成樹脂」としてはエポキシ樹脂、アクリル樹脂、フェノール樹脂、等を用いることができる。
【0007】
請求項2の発明にかかる有機無機複合接着剤は、請求項1の構成において、前記有機合成樹脂の一部またはそのオリゴマーの全部若しくは一部に前記無機酸化物のゾルを均一に混合して前記無機酸化物のゾルをゲル化させる際に、微少量の前記有機合成樹脂の反応触媒を添加するものである。ここで、「有機合成樹脂の反応触媒」としては、例えばジブチル錫ラウレート(DBTL)、ジオクチル錫ラウレート(DOTL)、等を用いることができる。
【0008】
請求項3の発明にかかる有機無機複合接着剤の製造方法は、接着剤基材となる有機合成樹脂成分中に無機酸化物成分を均一に分散させてなる有機無機複合接着剤の製造方法であって、前記無機酸化物のゾルを作製する工程と、前記有機合成樹脂の一部またはそのオリゴマーの全部若しくは一部に前記無機酸化物のゾルを均一に混合して前記無機酸化物のゾルをゲル化させる工程と、前記ゲル化した混合物に前記有機合成樹脂の残部または前記有機合成樹脂の全部若しくは前記有機合成樹脂の全部及び前記オリゴマーの残部を混合する工程とを具備するものである。ここで、「有機合成樹脂」としてはエポキシ樹脂、アクリル樹脂、フェノール樹脂、等を用いることができる。
【0009】
請求項4の発明にかかる有機無機複合接着剤の製造方法は、請求項3の構成において、前記有機合成樹脂の一部またはそのオリゴマーの全部若しくは一部に前記無機酸化物のゾルを均一に混合して前記無機酸化物のゾルをゲル化させる工程において、微少量の前記有機合成樹脂の反応触媒を添加するものである。ここで、「有機合成樹脂の反応触媒」としては、例えばジブチル錫ラウレート(DBTL)、ジオクチル錫ラウレート(DOTL)、等を用いることができる。
【0010】
請求項5の発明にかかる有機無機複合接着剤または有機無機複合接着剤の製造方法は、請求項1若しくは請求項2または請求項3若しくは請求項4の構成において、前記無機酸化物のゾルはシリカゾルであるものである。
【0011】
請求項6の発明にかかる有機無機複合接着剤または有機無機複合接着剤の製造方法は、請求項5の構成において、前記シリカゾルは水ガラスをイオン交換し、または酸で中和することによって得られるものである。
【0012】
請求項7の発明にかかる有機無機複合接着剤または有機無機複合接着剤の製造方法は、請求項1乃至請求項6のいずれか1つの構成において、前記有機合成樹脂はエポキシ系樹脂であるものである。
【発明の効果】
【0013】
請求項1の発明にかかる有機無機複合接着剤は、接着剤基材となる有機合成樹脂成分中に無機酸化物成分を均一に分散させてなる有機無機複合接着剤であって、有機合成樹脂の一部またはそのオリゴマーの全部若しくは一部に無機酸化物のゾルを均一に混合して無機酸化物のゾルをゲル化させた後に、有機合成樹脂の残部または有機合成樹脂の全部若しくは有機合成樹脂の全部及びオリゴマーの残部を混合することによって得られる。ここで、「有機合成樹脂」としてはエポキシ樹脂、アクリル樹脂、フェノール樹脂、等を用いることができる。
【0014】
即ち、接着剤基材となる有機合成樹脂の一部のみを用いて無機酸化物のゾルを均一に混合して無機酸化物のゾルをゲル化させた後に有機合成樹脂の残部を混合するか、有機合成樹脂のオリゴマーの全部に無機酸化物のゾルを均一に混合して無機酸化物のゾルをゲル化させた後に有機合成樹脂を混合するか、有機合成樹脂のオリゴマーの一部のみに無機酸化物のゾルを均一に混合して無機酸化物のゾルをゲル化させた後にオリゴマーの残部及び有機合成樹脂を混合するか、いずれかの方法によって得られるものである。
【0015】
このように、従来のゾルーゲル法においては有機合成樹脂に無機酸化物のゾルを分散させる場合に無機酸化物のゲル化によって粘度が高くなり、無機酸化物が均一に分散しにくくなるとともに接着剤としての作業性が低下するという問題があったが、有機合成樹脂の一部のみ、または有機合成樹脂のオリゴマー若しくはその一部に無機酸化物のゾルを均一に混合してゲル化させることによって、有機無機複合組成物の粘度上昇を抑えることができ、無機酸化物を均一に分散させることができるとともに、接着剤としての作業性も向上する。
【0016】
そして、このようにゾルーゲル法によって接着剤基材となる有機合成樹脂中に無機酸化物を分散させることによって、非常に微細なレベルで双方が絡み合い連続構造を有する複合材となる。また、無機酸化物が非常に微細なレベルで分散されるため多くの表面水酸基が残存し、これらが水素結合を形成することによって被接着物への密着性及び接着剤中の無機充填剤との密着性が向上することによって、接着強度が向上する。特に、有機合成樹脂の構造・接着機構によらない水素結合によるものであるため、高温時の接着強度向上に効果が高い。
【0017】
このようにして、有機合成樹脂と無機酸化物とが連続的な微細構造を形成して高温における接着強度を維持することができるとともに、ゾルーゲル化反応におけるゲル化による粘度上昇を防止することによって接着剤としての作業性に優れ、厚膜で使用した場合にも乾燥時にクラック等が発生することなく厚膜での使用も可能となる有機無機複合接着剤となる。
【0018】
請求項2の発明にかかる有機無機複合接着剤は、有機合成樹脂の一部またはそのオリゴマーの全部若しくは一部に無機酸化物のゾルを均一に混合して無機酸化物のゾルをゲル化させる際に、微少量の有機合成樹脂の反応触媒を添加するものである。ここで、「有機合成樹脂の反応触媒」としては、例えばジブチル錫ラウレート(DBTL)、ジオクチル錫ラウレート(DOTL)、等を用いることができる。
【0019】
本発明者らは、有機合成樹脂またはそのオリゴマーと無機酸化物のゾルとの反応を促進することによって有機無機複合接着剤の強度を更に向上させるべく、有機合成樹脂の反応触媒を微少量添加してみたところ、常温における接着強度、高温における接着強度ともに更に向上することを見出し、この知見に基づいて本発明を完成させたものである。即ち、本発明者らの意図通り、反応触媒を微少量添加することによって有機合成樹脂またはそのオリゴマーと無機酸化物のゾルとの反応が促進されて、より強固な結合が形成されているものと考えられる。
【0020】
このようにして、有機合成樹脂と無機酸化物とが連続的な微細構造を形成して高温における接着強度を維持することができるとともに、ゾルーゲル化反応におけるゲル化による粘度上昇を防止することによって接着剤としての作業性に優れ、厚膜で使用した場合にも乾燥時にクラック等が発生することなく厚膜での使用も可能となる有機無機複合接着剤となる。
【0021】
請求項3の発明にかかる有機無機複合接着剤の製造方法は、接着剤基材となる有機合成樹脂成分中に無機酸化物成分を均一に分散させてなる有機無機複合接着剤の製造方法であって、無機酸化物のゾルを作製する工程と、有機合成樹脂の一部またはそのオリゴマーの全部若しくは一部に無機酸化物のゾルを均一に混合して無機酸化物のゾルをゲル化させる工程と、ゲル化した混合物に有機合成樹脂の残部または有機合成樹脂の全部若しくは有機合成樹脂の全部及びオリゴマーの残部を混合する工程とを具備する。ここで、「有機合成樹脂」としてはエポキシ樹脂、アクリル樹脂、フェノール樹脂等を用いることができる。
【0022】
本発明にかかる有機無機複合接着剤の製造方法においては、まず無機酸化物のゾルを作製する。例えば、水ガラス(ケイ酸ナトリウム等のケイ酸アルカリの濃厚水溶液)を酸で中和してTHF(テトラヒドロフラン)で抽出することによって、或いは金属アルコキシドを加水分解することによって、シリカ等の無機酸化物のゾルを作製することができる。次に、この無機酸化物のゾルを、有機合成樹脂の一部またはそのオリゴマーの全部若しくは一部に均一に混合して無機酸化物のゾルをゲル化させる。
【0023】
即ち、接着剤基材となる有機合成樹脂の一部のみを用いて無機酸化物のゾルを均一に混合して無機酸化物のゾルをゲル化させるか、有機合成樹脂のオリゴマーの全部に無機酸化物のゾルを均一に混合して無機酸化物のゾルをゲル化させるか、有機合成樹脂のオリゴマーの一部のみに無機酸化物のゾルを均一に混合して無機酸化物のゾルをゲル化させるか、の工程を実施する。このように、有機合成樹脂の一部のみ、または有機合成樹脂のオリゴマー若しくはその一部に無機酸化物のゾルを均一に混合してゲル化させることによって、有機無機複合組成物の粘度上昇を抑えることができ、無機酸化物を均一に分散させることができるとともに、接着剤としての作業性も向上する。
【0024】
そして、ゲル化した混合物に有機合成樹脂の残部または有機合成樹脂の全部若しくは有機合成樹脂の全部及びオリゴマーの残部を混合することによって、有機合成樹脂に微細な無機酸化物のゲルが均一に分散した有機無機複合接着剤が得られる。このようにゾルーゲル法によって接着剤基材となる有機合成樹脂中に無機酸化物を分散させることによって、非常に微細なレベルで双方が絡み合い連続構造を有する複合材となる。
【0025】
また、無機酸化物が非常に微細なレベルで分散されるため多くの表面水酸基が残存し、これらが水素結合を形成することによって被接着物への密着性及び接着剤中の無機充填剤との密着性が向上することによって、接着強度が向上する。特に、有機合成樹脂の構造・接着機構によらない水素結合によるものであるため、高温時の接着強度の向上に効果が高い。
【0026】
このようにして、有機合成樹脂と無機酸化物とが連続的な微細構造を形成して高温における接着強度を維持することができるとともに、ゾルーゲル化反応におけるゲル化による粘度上昇を防止することによって接着剤としての作業性に優れ、厚膜で使用した場合にも乾燥時にクラック等が発生することなく厚膜での使用も可能となる有機無機複合接着剤の製造方法となる。
【0027】
請求項4の発明にかかる有機無機複合接着剤の製造方法においては、有機合成樹脂の一部またはそのオリゴマーの全部若しくは一部に無機酸化物のゾルを均一に混合して無機酸化物のゾルをゲル化させる工程において、微少量の有機合成樹脂の反応触媒を添加する。ここで、「有機合成樹脂の反応触媒」としては、例えばジブチル錫ラウレート(DBTL)、ジオクチル錫ラウレート(DOTL)、等を用いることができる。
【0028】
本発明者らは、有機合成樹脂またはそのオリゴマーと無機酸化物のゾルとの反応を促進することによって有機無機複合接着剤の強度を更に向上させるべく、有機合成樹脂の反応触媒を微少量添加してみたところ、常温における接着強度、高温における接着強度ともに更に向上することを見出し、この知見に基づいて本発明を完成させたものである。即ち、本発明者らの意図通り、反応触媒を微少量添加することによって有機合成樹脂またはそのオリゴマーと無機酸化物のゾルとの反応が促進されて、より強固な結合が形成されているものと考えられる。
【0029】
このようにして、有機合成樹脂と無機酸化物とが連続的な微細構造を形成して高温における接着強度を維持することができるとともに、ゾルーゲル化反応におけるゲル化による粘度上昇を防止することによって接着剤としての作業性に優れ、厚膜で使用した場合にも乾燥時にクラック等が発生することなく厚膜での使用も可能となる有機無機複合接着剤の製造方法となる。
【0030】
請求項5の発明にかかる有機無機複合接着剤または有機無機複合接着剤の製造方法においては、無機化合物のゾルがシリカゾルである。シリカゾルは入手も合成も容易であり、シリカ微粒子が有機合成樹脂中に微視的に均一に分散した有機無機複合接着剤は、強度・硬度・耐熱性等において優れた特性を有し、種々の用途に応用することができる。
【0031】
このようにして、有機合成樹脂と無機酸化物とが連続的な微細構造を形成して高温における接着強度を維持することができるとともに、ゾルーゲル化反応におけるゲル化による粘度上昇を防止することによって接着剤としての作業性に優れ、厚膜で使用した場合にも乾燥時にクラック等が発生することなく厚膜での使用も可能となる有機無機複合接着剤またはその製造方法となる。
【0032】
請求項6の発明にかかる有機無機複合接着剤または有機無機複合接着剤の製造方法においては、シリカゾルが水ガラスをイオン交換し、または酸で中和することによって得られる。
【0033】
シリカゾルを得る方法としては、一般に金属(シリコン)アルコキシドの加水分解による方法が知られているが、金属アルコキシドは高価であるため、原料コストが高くなってしまう。そこで、金属アルコキシドに比較して遥かに安価な水ガラス(ケイ酸ナトリウム等のケイ酸アルカリの濃厚水溶液)をシリカゾルの原料として用いることによって、原料コストを低く抑えることができる。
【0034】
このようにして、有機合成樹脂と無機酸化物とが連続的な微細構造を形成して高温における接着強度を維持することができるとともに、ゾルーゲル化反応におけるゲル化による粘度上昇を防止することによって接着剤としての作業性に優れ、厚膜で使用した場合にも乾燥時にクラック等が発生することなく厚膜での使用も可能となり、更に原料コストを低く抑えることができる有機無機複合接着剤またはその製造方法となる。
【0035】
請求項7の発明にかかる有機無機複合接着剤または有機無機複合接着剤の製造方法においては、有機合成樹脂がエポキシ系樹脂である。エポキシ系樹脂は硬化剤を添加することによって及び/または加熱することによって、三次元架橋して硬化するため、接着強度が必要な有機無機複合接着剤を得るためには、最適な有機合成樹脂である。
【0036】
このようにして、有機合成樹脂と無機酸化物とが連続的な微細構造を形成して高温における接着強度を維持することができるとともに、ゾルーゲル化反応におけるゲル化による粘度上昇を防止することによって接着剤としての作業性に優れ、厚膜で使用した場合にも乾燥時にクラック等が発生することなく厚膜での使用も可能となる有機無機複合接着剤またはその製造方法となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
以下、本発明の実施の形態にかかる有機無機複合接着剤及びその製造方法について、図1乃至図4を参照しつつ説明する。図1は本発明の実施の形態にかかる有機無機複合接着剤の室温(20℃)及び80℃における引っ張りせん断強度を測定した結果を比較例と比較して示す棒グラフである。図2は本発明の実施の形態にかかる有機無機複合接着剤の80℃における強度保持率を比較例と比較して示すグラフである。図3は本発明の実施の形態にかかる有機無機複合接着剤の室温(20℃)及び80℃における伸び量を比較例と比較して示すグラフである。図4は本発明の実施の形態にかかる有機無機複合接着剤の室温(20℃)及び80℃における弾性率を比較例と比較して示すグラフである。
【0038】
最初に、本実施の形態の実施例1乃至実施例4にかかる有機無機複合接着剤の製造方法について、説明する。まず、水ガラス(ケイ酸ナトリウムの濃厚水溶液)を酸で中和して、これをTHF(テトラヒドロフラン)で抽出した。この抽出液(シラノール抽出液)に低粘度エポキシ樹脂(エポキシ樹脂オリゴマー)として、大日本インキ(株)製のEPICLON726を添加して、攪拌した。このときの各成分の配合量(重量部)を表1に示す。
【0039】
【表1】

【0040】
ここで、表1に示されるように、実施例1及び実施例2においては、反応触媒としてジブチル錫ラウレート(DBTL)をEPICLON726に対して100ppm添加している。また、シラノール抽出液の量は、実施例1及び実施例3がEPICLON726に対してシラノール固形分で10%、実施例2及び実施例4がその半分の5%となっている。
【0041】
この混合溶液を室温で保持してゲル化させた後にTHFを減圧除去し、得られた混合物をエポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン(株)製828)に加え、更に硬化剤としてジャパンエポキシレジン(株)製のDICY−7を、硬化触媒としてDCMU−99を、無機充填剤として重質炭酸カルシウム(竹原化学(株)製SL−100)を加えて、混練・分散した。更に顔料としてカーボン(cabot製バルカンXC72)を加えてディスパーで攪拌した後、脱泡して有機無機複合接着剤を得た。
【0042】
同様にして、シラノールの代わりにアエロジルR972を加えた比較例としての有機無機複合接着剤をも作製した。実施例1乃至実施例4及び比較例に係る有機無機複合接着剤の最終的な組成を表2に示す。
【0043】
【表2】

【0044】
このようにして得られた本実施の形態の実施例1乃至実施例4に係る有機無機複合接着剤及び比較例に係る有機無機複合接着剤について、引っ張りせん断試験によってその接着強度特性を測定した。試験方法としては、それぞれの有機無機複合接着剤を厚さ0.14mmになるようにED鋼板に塗布して、もう一枚のED鋼板と接着させて(接着面積25mm×10mm)、180℃×30分加熱して硬化させた試験片の引っ張りせん断強度を、室温(20℃)及び80℃において測定した。測定結果を、図1に示す。
【0045】
図1に示されるように、20℃における引っ張りせん断強度も、80℃における引っ張りせん断強度も、シリカが分散されていない比較例に係る有機無機複合接着剤に比べて、実施例1乃至実施例4に係る有機無機複合接着剤の方が明らかに向上している。特に、高温(80℃)における引っ張りせん断強度の向上が目立っている。更に、同じシリカ分散量でも、反応触媒(DBTL)を添加した実施例1,実施例2の方が、反応触媒を添加していない実施例3,実施例4よりも優れた特性を示していることが分かる。
【0046】
更に、この図1に示される測定結果から算出された80℃での強度保持率を示す図2を参照して分かるように、実施例1乃至実施例4に係る有機無機複合接着剤は、室温における接着強度が比較例に係る有機無機複合接着剤に比べて優れているだけでなく、高温時の接着強度低下率もずっと小さくなっている。ここでも、反応触媒(DBTL)を添加した実施例1,実施例2の方が、反応触媒を添加していない実施例3,実施例4よりも優れた特性を示している。
【0047】
また、図3に示されるように、伸び量においても、室温(20℃)及び80℃ともに、シリカが分散されていない比較例に係る有機無機複合接着剤に比べて、実施例1乃至実施例4に係る有機無機複合接着剤の方が大きくなっている。即ち、本実施の形態の実施例1乃至実施例4に係る有機無機複合接着剤は、高い接着強度を有しながら柔軟性をも兼ね備えており、接着剤として理想的な特性を有していると言える。なお、図4に示されるように、弾性率に関しては、比較例と実施例1乃至実施例4との間に特に差は見られなかった。
【0048】
このように、本実施の形態の実施例1乃至実施例4に係る有機無機複合接着剤が、接着強度及び高温における接着強度保持率に優れているのは、有機合成樹脂としてのエポキシ樹脂のオリゴマーに無機酸化物としてのシリカのゾルを均一に混合してゲル化させることによって、有機無機複合組成物の粘度上昇を抑えることができ、有機合成樹脂中にシリカを均一に分散させることができるため、非常に微細なレベルで双方が絡み合い連続構造を有する複合材となり、またシリカ微粒子に多くの表面水酸基が残存し、これらが水素結合を形成することによって被接着物への密着性及び接着剤中の無機充填剤との密着性が向上して、接着強度が向上することによるものである。特に、有機合成樹脂の構造・接着機構によらない水素結合によるものであるため、高温時の接着強度向上に効果が高い。
【0049】
また、同じシリカ分散量でも、反応触媒(DBTL)を添加した実施例1,実施例2に係る有機無機複合接着剤の方が、反応触媒を添加していない実施例3,実施例4に係る有機無機複合接着剤よりも優れた接着強度及び高温における接着強度保持率を示すのは、反応触媒を微少量添加することによって有機合成樹脂としてのエポキシ樹脂のオリゴマーと無機酸化物としてのシリカゾルとの反応が促進されて、より強固な結合が形成されていることによるものと考えられる。
【0050】
このようにして、本実施の形態に係る有機無機複合接着剤においては、有機合成樹脂と無機酸化物とが連続的な微細構造を形成して高温における接着強度を維持することができるとともに、ゾルーゲル化反応におけるゲル化による粘度上昇を防止することによって接着剤としての作業性に優れ、また柔軟性をも兼ね備えているため厚膜で使用した場合にも乾燥時にクラック等が発生することなく、厚膜での使用も可能となるという作用効果が得られる。
【0051】
本実施の形態においては、有機合成樹脂としてエポキシ樹脂を用いた場合について説明したが、これに限られるものではなく、アクリル樹脂、フェノール樹脂を始めとする他の熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂を始めとして、種々の有機合成樹脂を用いることができる。
【0052】
また、本実施の形態においては、無機酸化物のゾルとしてシリカゾルを用いた例について説明したが、これ以外にもチタンアルコキシドを加水分解して得られるチタニアゾルを始めとして、種々の無機酸化物のゾルを用いることができる。
【0053】
有機無機複合接着剤のその他の構成、配合、成分、材料、形状、大きさ、製造条件等についても、また有機無機複合接着剤の製造方法のその他の工程についても、本実施の形態に限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】図1は本発明の実施の形態にかかる有機無機複合接着剤の室温(20℃)及び80℃における引っ張りせん断強度を測定した結果を比較例と比較して示す棒グラフである。
【図2】図2は本発明の実施の形態にかかる有機無機複合接着剤の80℃における強度保持率を比較例と比較して示すグラフである。
【図3】図3は本発明の実施の形態にかかる有機無機複合接着剤の室温(20℃)及び80℃における伸び量を比較例と比較して示すグラフである。
【図4】図4は本発明の実施の形態にかかる有機無機複合接着剤の室温(20℃)及び80℃における弾性率を比較例と比較して示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
接着剤基材となる有機合成樹脂成分中に無機酸化物成分を均一に分散させてなる有機無機複合接着剤であって、
前記有機合成樹脂の一部またはそのオリゴマーの全部若しくは一部に前記無機酸化物のゾルを均一に混合して前記無機酸化物のゾルをゲル化させた後に、前記有機合成樹脂の残部または前記有機合成樹脂の全部若しくは前記有機合成樹脂の全部及び前記オリゴマーの残部を混合することによって得られることを特徴とする有機無機複合接着剤。
【請求項2】
前記有機合成樹脂の一部またはそのオリゴマーの全部若しくは一部に前記無機酸化物のゾルを均一に混合して前記無機酸化物のゾルをゲル化させる際に、微少量の前記有機合成樹脂の反応触媒を添加することを特徴とする請求項1に記載の有機無機複合接着剤。
【請求項3】
接着剤基材となる有機合成樹脂成分中に無機酸化物成分を均一に分散させてなる有機無機複合接着剤の製造方法であって、
前記無機酸化物のゾルを作製する工程と、
前記有機合成樹脂の一部またはそのオリゴマーの全部若しくは一部に前記無機酸化物のゾルを均一に混合して前記無機酸化物のゾルをゲル化させる工程と、
前記ゲル化した混合物に前記有機合成樹脂の残部または前記有機合成樹脂の全部若しくは前記有機合成樹脂の全部及び前記オリゴマーの残部を混合する工程と
を具備することを特徴とする有機無機複合接着剤の製造方法。
【請求項4】
前記有機合成樹脂の一部またはそのオリゴマーの全部若しくは一部に前記無機酸化物のゾルを均一に混合して前記無機酸化物のゾルをゲル化させる工程において、微少量の前記有機合成樹脂の反応触媒を添加することを特徴とする請求項3に記載の有機無機複合接着剤の製造方法。
【請求項5】
前記無機酸化物のゾルはシリカゾルであることを特徴とする請求項1若しくは請求項2に記載の有機無機複合接着剤または請求項3若しくは請求項4に記載の有機無機複合接着剤の製造方法。
【請求項6】
前記シリカゾルは水ガラスをイオン交換し、または酸で中和することによって得られることを特徴とする請求項5に記載の有機無機複合接着剤または有機無機複合接着剤の製造方法。
【請求項7】
前記有機合成樹脂はエポキシ系樹脂であることを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれか1つに記載の有機無機複合接着剤または有機無機複合接着剤の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−19373(P2008−19373A)
【公開日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−193851(P2006−193851)
【出願日】平成18年7月14日(2006.7.14)
【出願人】(000100780)アイシン化工株式会社 (171)
【Fターム(参考)】