説明

有機無機複合組成物および光学素子

【課題】高屈折率かつ低アッベ数を有する有機無機複合組成物、それらからなる成形体、および光学素子を提供する。
【解決手段】下式の構造を繰返し単位として含有することを特徴とする重合体と、金属酸化物粒子の有機無機複合組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナフタレン構造を有する2価アルコールを重合して得られる重合体と金属酸化物微粒子を含有する有機無機複合組成物、さらにそれらからなる成形体、および光学素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、カメラ等のレンズ、光ディスク用レンズ、fθレンズ、画像表示媒体の光学系素子、光学膜、フィルム、各種光学フィルター、プリズム等の光学系の設計では収差を補正するため、異なる屈折率・アッベ数の材料を組み合わせることが行われている。光学設計のバリエーションを増やす観点から様々な屈折率とアッベ数を有する材料が要求されており、高屈折かつ低アッベ数を有する材料はその対象のひとつとなっている。
【0003】
特に、フルオレン構造を有する樹脂材料は比較的高い屈折率と低いアッベ数を有し、かつ複屈折が比較的小さいことが知られており、また高い耐熱性を期待できることからも種々合成が検討されている。特許文献1では、9、9´−ジフェニルフルオレン構造を有し、耐熱性と機械的強度に優れたポリカーボネート樹脂について開示されている。
【0004】
一方、ナフタレン構造は樹脂材料をフルオレン構造よりも高屈折化させることが広く知られており、ナフタレン構造を導入した樹脂材料も種々検討されている。例えば、特許文献2ではジメチルナフタレン骨格を有し、機械的強度と耐熱性に優れ、加工性がよい芳香族ポリアミド及びポリイミド樹脂原料となる新規な芳香族ジアミンについて開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許4196326号公報
【特許文献2】特開平9−316190号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載のポリカーボネート系樹脂においては、9、9´−ジフェニルフルオレン構造を有するモノマーを単独重合、もしくはそれより低屈折率性を示す単位骨格を共重合成分として有した樹脂で構成されている。そのため、更なる高屈折率化を図るにはより高屈折率性を示す成分を共重合、ないしは添加した組成物が必要不可欠である。
【0007】
また、特許文献2に記載のジメチルナフタレン骨格を有する芳香族ジアミン化合物から、光学樹脂として有用であるポリカーボネート系樹脂を実用上十分に容易に製造することは困難である。ナフタレン構造を有するポリカーボネート樹脂を製造するためには、ナフタレン構造を有する2価アルコールを共重合成分とすることが必要となる。
【0008】
本発明は上記課題を鑑み、高屈折率かつ低アッベ数を有する2価アルコールを重合して得られる重合体と金属酸化物微粒子を含有する有機無機複合組成物、さらにそれらからなる成形体、および光学素子を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記課題を達成するため、下記の一般式(1)で表される構造を繰返し単位として含有する重合体と、少なくとも1種類の金属酸化物粒子とを含む有機無機複合組成物を提供するものである。
【0010】
【化1】

(1)
【0011】
〔一般式(1)中、R1とR2は各々独立して水素原子もしくは炭素数1以上6以下のアルキル基、Qはオキシエチレン基、チオエチレン基、又は単結合を示す。〕
また本発明は、前記重合体の繰返し単位に、一般式(2)または(3)で表される繰返し単位が少なくとも1種類以上含まれる有機無機複合組成物を提供するものである。
【0012】
【化2】

(2)
【0013】
〔一般式(2)中、Tは炭素数2以上12以下のオキシアルキレン基、炭素数2以上12以下のポリ(オキシエチレン)基、又は単結合を示す。R3、R4は各々水素原子、炭素数1以上6以下のアルキル基、炭素数1以上6以下のアルコキシ基又は炭素数6以上12以下のアリール基であり、互いに同じであっても異なっていてもよい。Uは炭素数1以上13以下のアルキレン基,炭素数2以上13以下のアルキリデン基,炭素数5以上13以下のシクロアルキレン基,炭素数5以上13以下のシクロアルキリデン基,炭素数6以上13以下のアリーレン基,フルオレニデン、−O−,−S−,−SO2 −,−CO−又は単結合を示す。R3、R4、T及びUは構造単位ごとに異なっていてもよい。〕
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、加工性の高い高屈折率低アッベ材料を容易に製造することのできる有機無機複合組成物、さらにそれらからなる成形体、および光学素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】重合体1と各種金属酸化物微粒子からなる有機無機複合組成物の光学特性を表したグラフ
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、上記構成により本発明の課題を達成することができるが、具体的にはつぎのような形態によることができる。
【0017】
(2価アルコールを重合して得られる重合体)
本発明の有機無機複合組成物を構成する成分のうち、2価アルコールを重合して得られる重合体は、一般式(3)
【0018】
【化3】

(3)
【0019】
〔一般式(3)中、R1とR2は各々独立して水素原子もしくは炭素数1以上6以下のアルキル基、Qはオキシエチレン基、チオエチレン基、又は単結合を示す。〕で表される2価アルコールを重合成分とすることを特徴とする。一般式(3)において、Rの置換位置はナフタレン環の2、3、4位および6、7、8位であることが好ましいが、更に好ましくは2位および6位であることが好ましい。Rの置換位置が2位および6位である場合、以下に述べる一般式(3)で表される2価アルコールの製造において得られる構造異性体が単一となるため、異性体の分離を行わなくてすむ利点が存在する。
【0020】
まず、一般式(3)で表される2価アルコールにおいて、その前駆体となる2価ハロゲノ化合物の製造法について説明する。2価ハロゲノ化合物の合成法は特許第3294930号で既に公開されている。一般式(4)
【0021】
【化4】

(4)
【0022】
〔式中、Rは各々独立して水素原子もしくは炭素数1から6のアルキル基を示す。〕で表されるナフタレン化合物を一般式(5)
【0023】
【化5】

(5)
【0024】
〔式中、XおよびYは各々独立にフッ素、塩素、臭素またはヨウ素原子を示す。〕で表されるベンゾイルハライド化合物とルイス酸触媒存在下で反応させることで、一般式(6)
【0025】
【化6】

(6)
【0026】
〔式中、Yはフッ素、塩素または臭素原子を示す。〕で表される2価ハロゲノ化合物を製造することができる。一般式(4)のナフタレン化合物と一般式(5)のベンゾイルハライド化合物との反応は、いわゆるFriedel−Craftsアシル化反応であり、ルイス酸触媒としては塩化アルミニウムや塩化鉄(III)、フッ化ホウ素のような強いルイス酸を用いることができる。
【0027】
この場合、一般式(4)のナフタレン化合物と一般式(5)のベンゾイルハライド化合物の化学量論比は、(一般式(4)のナフタレン化合物のモル数)/(一般式(5)のベンゾイルハライド化合物のモル数)が2以上10以下であることが好ましく、更には2以上6以下であることがより好ましい。この値が2より小さいと、副生成物が生じて一般式(6)で示される2価ハロゲノ化合物の収率が低下するおそれがあり、また10よりも大きいと一般式(5)で表されるベンゾイルハライド化合物の使用量が多くなり生産にコストがかかるおそれがある。ルイス酸の使用量は特に制限はないが、一般に一般式(4)のナフタレン化合物に対して2等量以上4等量以下である。
【0028】
また、反応溶媒を用いる場合は、ニトロメタン、ニトロベンゼン、クロロベンゼン、ブロモベンゼン、ジクロロメタン(塩化メチレン)、クロロホルム、ジクロロエタン、トリクロロエタン、テトラクロロエタン、ペンタクロロエタン、クロロベンゼンのような塩素化炭化水素類等の有機溶媒を用いることができる。反応条件は特に制限されないが、一般に反応温度は10℃から50℃であり、反応には12から48時間を要する。一般式(6)で示される所望の2価ハロゲノ化合物は、再結晶法もしくはクロマトグラフィー等の方法により容易に精製可能であるが、再結晶法でより好適に精製することができる。
【0029】
次いで行われる一般式(6)で示される2価ハロゲノ化合物の、一般式(3)で示される2価アルコールへの変換は、一般式(3)中のQの構造に応じた各種試薬を反応させることで達成することができる。例えば、Qが単結合の化合物は水酸化カリウム等の塩基を作用させて直接合成できるほか、酢酸セシウム等を反応させてアセトキシ化反応を経たのちに塩基を作用させて加水分解反応を行い合成することも可能である。この場合、反応温度は150℃から200℃であることが好ましいことから、N,N−ジメチルホルムアミドやジメチルスルホキシド等の高沸点極性溶媒を用いるのが好ましい。反応時間は12時間から48時間程度を要する。
【0030】
一般式(3)中のQの構造がオキシエチレン基またはチオエチレン基である化合物については、二通りの合成法がある。ひとつは一般式(6)で示される2価ハロゲノ化合物に対して水酸化カリウムやカリウム−tert−ブトキシドなどの強塩基存在下でエチレングリコールや2−メルカプトエタノールを作用させる方法である。そしてもうひとつは、一般式(3)中のQの構造が単結合である化合物に対して炭酸セシウム等の存在下、N,N−ジメチルホルムアミドやジメチルスルホキシド等の有機溶媒中で2−クロロエタノールを作用させる方法である。
【0031】
一般式(6)で示される2価ハロゲノ化合物に対して作用させるアルコール・チオール類の化学量論比は、(作用させるアルコール・チオール類のモル数)/(一般式(6)の2価ハロゲノ化合物のモル数)が2以上100以下であることが好ましいが、強塩基存在下で求核性の高い2−メルカプトエタノールを作用させる場合においては2倍等モルであることがより好ましい。この値が2より小さいと、副生成物が生じて一般式(3)で示される2価アルコールの収率が低下するおそれがあり、また100よりも大きいとアルコール・チオール類の使用量が多くなり生産にコストがかかるおそれがある。
【0032】
一般式(3)で示される2価アルコール体に対して2−クロロエタノールを作用させる場合も、化学量論比で(作用させる2−クロロエタノールのモル数)/(一般式(3)の2価アルコール体のモル数)が2から100であることが好ましい。この値が2より小さいと、副生成物が生じて一般式(3)で示される2価アルコールの収率が低下するおそれがあり、また100よりも大きいと2−クロロエタノールの使用量が多くなり生産にコストがかかるおそれがある。
【0033】
反応させるアルコール・チオール類の種類と化学量論量に応じて反応完結に必要な温度と時間は異なってくるが、副生成物の生成を避けるため、一般的には150℃以下の温度で12時間から48時間反応させることが好ましい。得られた反応生成物は再結晶法もしくはクロマトグラフィー等の方法により容易に精製可能であるが、再結晶法でより好適に精製することができる。
【0034】
本発明の一般式(3)で表される2価アルコールは、分子中の複数の芳香環をカルボニル基で連結された構造となっている。一般に、高屈折率化された高分子材料は加工性が比較的劣る傾向があり、言い換えると、溶融成形時の加工温度が比較的高い傾向があり、成形コストの増大や、樹脂の黄変を引き起こす可能性がある。しかし、本発明の一般式(1)で表される構造を繰り返し単位に含む重合体は、その構造が重合体主鎖の屈曲性を増す効果があると考えられるため、比較的高い屈折率を有しているにもかかわらず、高い加工性を期待することができる。
【0035】
本発明の有機無機複合組成物を構成する成分のうち、2価アルコールを重合して得られる重合体は一般式(3)で表される2価アルコールを重合成分として合成されるものであり、一般式(1)
【0036】
【化7】

(1)
【0037】
〔一般式(1)中、R1とR2は各々独立して水素原子もしくは炭素数1以上6以下のアルキル基、Qはオキシエチレン基、チオエチレン基、又は単結合を示す。〕で表される繰返し単位を含むことを特徴とする。
【0038】
ここで、一般式(1)で表される繰返し単位のモル比率は10パーセント以上であることがより好ましく、25パーセント以上であることが更に好ましい。ここで、繰返し単位のモル比率とは、一般式(1)で表される繰返し単位の数を重合体中の全繰返し単位数の和で徐し、百分率で表記した値を指す。一般式(1)で表される繰返し単位のモル比率が大きいほど、一般式(3)の2価アルコール縁体の持つ高屈折率性が重合体により強く反映されることとなる。
重合体中のその他の共重合成分としては、所望の特性を満たすものであれば特に限定されるものではないが、本発明の一般式(7)
【0039】
【化8】

(7)
【0040】
〔一般式(7)中、Tは炭素数2以上12以下のオキシアルキレン基、炭素数2以上12以下のポリ(オキシエチレン)基、又は単結合を示す。R3、R4は各々水素原子、炭素数1以上6以下のアルキル基,炭素数1以上6以下のアルコキシ基又は炭素数6以上12以下のアリール基であり、互いに同じであっても異なっていてもよい。Uは炭素数1以上13以下のアルキレン基,炭素数2以上13以下のアルキリデン基,炭素数5以上13以下のシクロアルキレン基,炭素数5以上13以下のシクロアルキリデン基,炭素数6以上13以下のアリーレン基,フルオレニデン、−O−,−S−,−SO2 −,−CO−又は単結合を示す。R3、R4、T及びUは構造単位ごとに異なっていてもよい。〕に示される共重合成分をより好適に含有することができる。
【0041】
一般式(7)で表される2価アルコールを共重合成分とした場合、合成される重合体には一般式(2)
【0042】
【化9】

(2)
【0043】
〔一般式(2)中、Tは炭素数2以上12以下のオキシアルキレン基、炭素数2以上12以下のポリ(オキシエチレン)基、又は単結合を示す。R3、R4は各々水素原子、炭素数1以上6以下のアルキル基,炭素数1以上6以下のアルコキシ基又は炭素数6以上12以下のアリール基であり、互いに同じであっても異なっていてもよい。Uは炭素数1以上13以下のアルキレン基,炭素数2以上13以下のアルキリデン基,炭素数5以上13以下のシクロアルキレン基,炭素数5以上13以下のシクロアルキリデン基,炭素数6以上13以下のアリーレン基,フルオレニデン、−O−,−S−,−SO2 −,−CO−又は単結合を示す。R3、R4、T及びUは構造単位ごとに異なっていてもよい。〕で表される繰返し単位が含まれる。この場合、共重合比率に応じて一般式(7)の2価アルコール縁体の持つ熱的安定性・光学特性が重合体に反映される。
【0044】
また、一般式(7)で表される2価アルコールの多量体を共重合成分として用いてもよく、例えば、複数の分子の一般式(7)内のTで表されるオキシアルキレン基ないしはポリ(オキシエチレン)基同士が−O−,−S−,−SO2 −,−CO−又は単結合で連結された構造でもよい。 また、これらの共重合成分は、単独で用いても、もしくは複数種類用いてもよい。
【0045】
本発明の有機無機複合組成物を構成する成分のうち、2価アルコールを重合して得られる重合体に一般式(1)および(2)以外の任意の繰返し単位が含まれる場合は、一般式(1)および(2)以外の繰返し単位のモル比率が10パーセント以下であることが好ましい。ここで繰返し単位のモル比率とは、一般式(1)および(2)以外の繰返し単位の総数を重合体中の全繰返し単位数の和で徐し、百分率で表記したものを指す。この一般式(1)および(2)以外の繰返し単位のモル比率が10パーセントを超えると、耐熱安定性や高屈折率性、低複屈折性など所望の物性が得られないおそれがある。
【0046】
本発明の有機無機複合組成物を構成する成分のうち、2価アルコールを重合して得られる重合体は様々な方法によって製造することができるが、以下に示す三つの方法を独立に行うか、またはそれらを組み合わせて段階的に重合することで製造することができる。
【0047】
まず、第一の方法は、有機溶媒と塩基性水溶液の混合溶液中において、一般式(3)および(7)で示される2価アルコールとホスゲン又はホスゲン誘導体を反応させて界面縮重合させる方法である。
【0048】
この反応では、まずアルカリ金属化合物等を溶解した塩基性水溶液と、一般式(3)および(7)に示される2価アルコール及び不活性有機溶剤との混合液に、ホスゲン又はホスゲン誘導体を導入して反応させることで、所望のポリカーボネートが得られる。ここで不活性有機溶剤としてはジクロロメタン(塩化メチレン)、ジクロロエタン、トリクロロエタン、テトラクロロエタン、クロロベンゼンのような塩素化炭化水素類や、アセトフェノンなどが挙げられる。反応条件は特に限定されないが、通常反応初期は0℃から常温の範囲内で冷却し、その後0℃から70℃の温度の範囲内で30分から6時間反応させるのが一般的である。
【0049】
また、一般式(3)および(7)で示される2価アルコールに作用させるホスゲン又はホスゲン誘導体の量は、(作用させるホスゲン又はホスゲン誘導体のモル数)/(一般式(3)および(7)で示される2価アルコールの総モル数)が0.3以上1.5以下となることが好ましい。この値が0.3よりも小さいと未反応の2価アルコールが残って収率が低下するおそれがあり、またこの値が1.5よりも大きいと使用するホスゲン又はホスゲン誘導体の量が多くなるため反応後の分離精製が困難となるおそれがある。
【0050】
反応促進を目的として、有機溶媒に相間移動触媒を添加して用いてもよい。ここで相関移動触媒としては、トリエチルアミンやテトラメチルエチレンジアミン、ピリジンのような有機塩基類が挙げられる。
【0051】
また、重合度の調整等を目的とし、反応溶液に末端停止剤を添加しておいてもよい。末端停止剤としては通常ポリカーボネートの重合に用いられるものでよく、各種のものを用いることができる。具体的には、フェノールやp−クレゾール、p−tert−ブチルフェノール、p−tert−オクチルフェノール、ブロモフェノール、トリブロモフェノール等の一価フェノールが挙げられる。また、ホスゲン誘導体としては、炭酸ビス(トリクロロメチル)、ブロモホスゲン、ビス(2,4,6−トリクロロフェニル)カーボネート、ビス(2,4−ジクロロフェニル)カーボネート、ビス(シアノフェニル)カーボネート、クロロぎ酸トリクロロメチル等が挙げられる。
【0052】
次に、本発明の有機無機複合組成物を構成する成分のうち2価アルコールを重合して得られる重合体を合成する第二の方法は、一般式(3)および(7)で示される2価アルコールと炭酸ジエステルをエステル交換反応させる方法である。この方法で用いられる炭酸ジエステルとしては各種のものがあり、ジフェニルカーボネート、ジトリルカーボネート、ビス(クロロフェニル)カーボネート、ビス(ニトロフェニル)カーボネート、ジナフチルカーボネート、ビスフェノールAビスフェニルカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジブチルカーボネート、ジシクロヘキシルカーボネート、エチルフェニルカーボネート、ブチルフェニルカーボネート、シクロヘキシルフェニルカーボネート、ビスフェノールAメチルフェニルカーボネートなどが好適に用いられる。また、このエステル交換反応では、一般式(3)および(7)で示される2価アルコールは、いずれも炭酸ジエステルの誘導体として用いることもできる。
【0053】
使用される炭酸ジエステルの量は全2価アルコールに対し、モル比で1.0以上2.5以下の範囲にあることが好ましい。この値が1.0よりも小さいと未反応の2価アルコールが残って収率が低下するおそれがあり、またこの値が2.5よりも大きいと使用する炭酸ジエステルの量が多くなるため反応後の分離精製が困難となるおそれがある。また、このエステル交換反応においても、必要に応じて、第一の方法で挙げた末端停止剤を添加しておいてもよい。
【0054】
このエステル交換法では、反応温度は通常350℃以下の条件であることが好ましく、さらに好ましくは300℃以下の条件で反応の進行に合わせて次第に温度を上げていくのが望ましい。該エステル交換反応は、350℃を超えると重合体の熱分解が起こり好ましくない。また、反応圧力は、使用するモノマーの蒸気圧や反応により生じる生成物の沸点に応じて、反応が効率よく行われるように適宜調整することができる。エステル交換反応の結果、用いたエステル化合物から生じる重合体以外の副生成物が減圧により除去できる場合は、反応速度と収率を向上させるために反応が進行するにつれて減圧条件で行い、概副生成物を除去しながら反応を行うことが好ましい。反応時間は目標の分子量となるまで行えばよく、通常、10分〜12時間程度である。
【0055】
このエステル交換反応は、バッチ式もしくは連続的に行うことができ、用いられる反応器は、その材質およびその構造は特に制限されず、通常の加熱機能と攪拌機能を有していればよい。さらに、反応器の形状は槽型のみならず、押出機型のリアクターでもよい。
【0056】
そして、上記のエステル交換反応は通常無溶媒条件下で行われるが、用いる2価アルコールの融点が高く反応が進行しにくい場合などには、得られる重合体に対して1〜200重量パーセントの不活性有機溶剤の存在下で行ってもよい。ここで不活性有機溶剤としては、ジフェニルエーテル、ハロゲン化ジフェニルエーテル、ベンゾフェノン、ジフェニルスルホン、ポリフェニルエーテル、ジクロロベンゼン、メチルナフタレン等の芳香族化合物、トリシクロ(5.2.10)デカン、シクロオクタン、シクロデカンなどのシクロアルカン、ジクロロメタン(塩化メチレン)、クロロホルム、ジクロロエタン、トリクロロエタン、テトラクロロエタン、ペンタクロロエタン、クロロベンゼンのような塩素化炭化水素類が挙げられる。また、必要に応じて不活性ガス雰囲気下で行ってもよい。ここで、不活性ガスとしては、例えばヘリウム、アルゴン、二酸化炭素、窒素などが挙げられる。
【0057】
また、必要に応じて、エステル交換反応において通常使用される触媒を用いることができる。ここで、用いることのできるエステル交換触媒としては、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物、アミン類・四級アンモニウム塩類等の含窒素塩基性化合物あるいはホウ素化合物などが挙げられる。この中でも含窒素塩基性化合物は、触媒活性能の高さと反応系中からの除去のしやすさという点において好ましく、トリヘキシルアミン、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド、ジメチルアミノピリジン等が好適に用いられる。
【0058】
上記触媒の使用量は、全2価アルコール1モルに対して1×10−2〜1×10−8モル、好ましくは1×10−3〜1×10−7モルである。この触媒の添加量が1×10−8モル未満では十分な触媒効果が得られないおそれがあり、また1×10−2モルを超えると、得られる重合体の物性、特に耐熱性、耐加水分解性の低下を招くおそれがある。
【0059】
更に、本発明の有機無機複合組成物を構成する成分のうち2価アルコールを重合して得られる重合体を合成する第三の方法は、一般式(3)および(7)で示される2価アルコールとジカルボン酸誘導体を反応させ、エステル重合を行う方法である。この方法で用いられるジカルボン酸誘導体には特に制限はなく、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、シクロヘキサンジカルボン酸などの脂肪族カルボン酸類、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸等の芳香族カルボン酸類、およびそれらジカルボン酸の酸塩化物、それらジカルボン酸のメチルエステル、それらジカルボン酸のエチルエステル、そしてフタル酸無水物、ナフタレンジカルボン酸等のジカルボン酸無水物等が用いられる。
【0060】
使用されるジカルボン酸誘導体の量は全2価アルコールに対し、モル比で0.7以上1.5以下の範囲にあることが好ましい。この値が0.7よりも小さいと未反応の2価アルコールが多く残って収率が低下するおそれがあり、またこの値が1.5よりも大きいと未反応のジカルボン酸誘導体が多く残って収率が低下するおそれがある。
【0061】
このエステル重合では、反応温度は通常350℃以下の条件であることが好ましく、さらに好ましくは300℃以下の条件で反応の進行に合わせて次第に温度を上げていくのが望ましい。エステル重合の結果、用いたジカルボン酸誘導体から生じる重合体以外の副生成物が減圧により除去できる場合は、反応速度と収率を向上させるために反応が進行するにつれて減圧条件で行い、概副生成物を除去しながら反応を行うことが好ましい。反応時間は目標の分子量となるまで行えばよく、通常、10分〜12時間程度である。
【0062】
このエステル重合反応は、バッチ式もしくは連続的に行うことができ、用いられる反応器は、その材質およびその構造は特に制限されず、通常の加熱機能と攪拌機能を有していればよい。さらに、反応器の形状は槽型のみならず、押出機型のリアクターでもよい。
【0063】
そして、上記のエステル重合反応は、得られる重合体に対して1〜200重量パーセントの不活性有機溶剤の存在下で行ってもよい。ここで不活性有機溶剤としては、ジフェニルエーテル、ハロゲン化ジフェニルエーテル、ベンゾフェノン、ジフェニルスルホン、ポリフェニルエーテル、ジクロロベンゼン、メチルナフタレン等の芳香族化合物、トリシクロ(5.2.10)デカン、シクロオクタン、シクロデカンなどのシクロアルカン、ジクロロメタン(塩化メチレン)、クロロホルム、ジクロロエタン、トリクロロエタン、テトラクロロエタン、ペンタクロロエタン、クロロベンゼンのような塩素化炭化水素類が挙げられる。また、必要に応じて不活性ガス雰囲気下で行ってもよい。ここで、不活性ガスとしては、例えばヘリウム、アルゴン、二酸化炭素、窒素などが挙げられる。
【0064】
上記三つの方法により得られた重合体は、公知の方法で精製可能であり、例えばメタノール、水等の貧溶媒で再沈殿法により精製することができる。再沈殿により得られた重合物を、減圧条件下加熱乾燥を行って残留溶媒を除去することで、本発明の有機無機複合組成物を構成する成分のうち、2価アルコールを重合して得られる重合体を製造することができる。乾燥温度は通常100℃から350℃の範囲であることが好ましい。100℃未満では残存溶媒が十分除去できず、350℃を超えると重合体の熱分解が起こり所望の物性が得られないおそれがある。
【0065】
(金属酸化物粒子)
次に、有機無機複合組成物を構成する成分のうち、金属酸化物微粒子について説明する。本発明で用いる金属酸化物微粒子としては、例えば、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化ハフニウム、酸化イットリウム、酸化インジウム、酸化ニオブ、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化セリウム、酸化タンタル、およびこれら酸化物の組み合わせにより構成されるケイ酸ジルコニウム等の複合酸化物、リン酸ジルコニウム等のリン酸塩、チタン酸バリウム等のチタン酸塩等を挙げることができる。このうち、高屈折率を有する微粒子として、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化ハフニウム、酸化イットリウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化タンタル、およびこれらの酸化物を含む複合酸化物、チタン酸バリウム等のチタン酸塩が特に好ましい。また、複数種の金属酸化物を混合して用いることもできる。
【0066】
本発明で用いる金属酸化物微粒子は、有機溶媒に添加して混合したとき、有機溶媒に対して1重量パーセント以上の濃度で分散して沈殿現象を示さない微粒子であることが好ましい。ここで有機溶媒とは、エタノールやイソプロピルエーテル等のアルコール類、アセトンやメチルイソブチルケトン等のケトン類、ジエチルエーテルやテトラヒドロフラン等のエーテル類、酢酸エチル等のエステル類、クロロホルム等の含ハロゲン炭化水素類、ノルマルヘキサン等の脂肪族炭化水素類、トルエンやキシレン、テトラリン等の芳香族炭化水素類のいずれか、又はこれらのうちの複数種を混合したものを指す。
【0067】
本発明で用いる金属酸化物微粒子は、その金属微粒子表面と有機基が共有結合あるいは静電的相互作用等により結びつけられた状態へと化学処理されたものであってもよいし、未処理の金属酸化物粒子単体であってもよい。ここで化学処理とは、金属酸化物微粒子をアルキルシラザンやアルコキシシラン類等のシランカップリング剤、チタンやジルコニウム等の有機金属化合物カップリング剤、変性シリコーン等のシロキサン化合物、脂肪酸塩類やリン酸エステル類等の界面活性剤等の表面処理剤と反応させることを指す。
【0068】
表面処理に用いる表面処理剤の構造に特に制限はなく、本発明の有機無機複合組成物を構成する成分のうち2価アルコールを重合して得られる重合体および有機溶媒混合した際の分散性に応じて任意の構造とすることができる。また、これら表面処理剤の複数種を組み合わせて用いてもよい。
【0069】
シランカップリング剤としては、例えば、ヘキサメチルジシラザンやヘキサデシルシラザン、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、トリメチルメトキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、オクチルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、スチリルトリメトキシシラン、アミノプロピルトリメトキシシラン、アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、メルカプトプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。
【0070】
チタンやジルコニウム等の有機金属カップリング剤としては、例えば、イソプロピルトリイソステアロイルチタネート、イソプロピルジメタクリルイソステアロイルチタネート、イソプロピルトリドデシルベンゼンスルホニルチタネート、ジルコニウムトリブトキシ
モノアセチルアセトネート、ジルコニウムジブトキシビス(エチルアセトアセテート)等が挙げられる。
【0071】
変性シリコーンとしては、例えば、メトキシ変性シリコーン、カルボキシ変性シリコーン、カルボキシ変性シリコーン、ポリエーテル変性シリコーン、エポキシ変性シリコーン、メルカプト変性シリコーン、アミノ変性シリコーン、メタクリレート変性シリコーン等が挙げられる。
【0072】
界面活性剤としては、陰イオン系界面活性剤、陽イオン系界面活性剤、両性イオン系界面活性剤、あるいは非イオン系界面活性剤が好適に用いられる。陽イオン界面活性剤としては、例えば、オレイン酸ナトリウム等の脂肪酸ナトリウム、脂肪酸カリウム、アルキルリン酸エステルナトリウム、アルキル硫酸ナトリウム、アルキルベンゼン等が挙げられる。陰イオン界面活性剤としては、例えば、塩化アルキルメチルアンモニウム、塩化アルキルジメチルアンモニウム、塩化アルキルトリメチルアンモニウム、塩化アルキルジメチルベンジルアンモニウム等が挙げられる。両性イオン界面活性剤としては、例えば、アルキルアミノカルボン酸塩、リン酸エステル等が挙げられる。非イオン系界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンラノリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、脂肪酸アルカノールアミド等が挙げられる。
【0073】
本発明で用いる金属酸化物微粒子の平均1次粒径は、1nm以上で50nm以下であることが好ましい。ここでいう平均1次粒子径は粒子と同体積の球に換算した時の直径を指す。1次粒子径が1nm未満だと粒子の凝集が発生しやすく経時変化で安定した性能が得られないおそれがあり、また1次粒子径が50nmを超えると混合物中での分散自体が困難となり、沈降現象が起きるおそれがある。
【0074】
(有機無機複合組成物)
次いで、本発明における有機無機複合組成物の製造方法について説明する。本発明の有機無機複合組成物は、前述した2価アルコールを重合して得られる重合体に対し、金属酸化物微粒子を添加して均一化することによって製造できる。この場合、均一化を容易にするため、有機溶媒中にて重合体(もしくはその溶液)と、金属酸化物微粒子(もしくはその分散液)を混合し、その後に混合物中に含まれる溶媒成分を除去する方法も有効である。更に、重合体を有機溶媒に溶解したのち、金属酸化物微粒子ではなく金属酸化物微粒子の前駆体となる無機化合物を添加して、概溶媒系内で微粒子を化学合成(in−situ合成)し、その後に該混合物を混合物中に含まれる揮発成分を除去してもよい。
【0075】
ここで、有機溶媒は前記熱可塑性樹脂を溶解するものであれば特に限定されない。例えば、エタノールやイソプロピルエーテル等のアルコール類、アセトンやメチルイソブチルケトン等のケトン類、ジエチルエーテルやテトラヒドロフラン等のエーテル類、酢酸エチル等のエステル類、クロロホルム等の含ハロゲン炭化水素類、ノルマルヘキサン等の脂肪族炭化水素類、トルエンやキシレン、テトラリン等の芳香族炭化水素類等の有機溶媒を用いることができ、またこれらのうちの複数種を混合したものを用いてもよい。
【0076】
有機溶媒を用いずに前述した2価アルコールを重合して得られる重合体に対して金属酸化物微粒子を添加する場合、重合体のガラス転移点以上まで加熱を行い溶融状態にして混合を行うことにより均一化を図る。このような混合方法としては、ローラータイプミル、ニーダーミル、ミキサー、単軸押出し機ないしは2軸以上の多軸押出し機を用いる方法がある。
【0077】
有機溶媒中で混合を行う場合、重合体を有機溶媒に溶解させる方法は特に限定されないが、一般的には攪拌装置(マグネチックスターラー等の攪拌機付き容器ないしは攪拌翼付き攪拌槽)に有機溶媒と熱可塑性樹脂を投入し、攪拌を行うことによって実施される。熱可塑性樹脂の速やかな溶解を促進することを目的として、有機溶媒の沸点以下の加熱条件下で溶解を行うこともできる。また、攪拌装置に投入する熱可塑性樹脂の粒径を100μmより小さくすることで、熱可塑性樹脂と溶媒との接触面積を増やし速やかな溶解を促進することができる。ここでいう粒径とは、粒子と同体積の球に換算した時の直径を指す。
【0078】
有機溶媒中で混合を行う場合、金属酸化物微粒子の凝集を解き材料の均一化をより達成することを目的として、添加前の金属酸化物分散液ないしは重合体と金属酸化物微粒子を含む溶液に分散処理を施してもよい。このような無機酸化物微粒子の分散方法は特に限定されないが、ミキサー、高圧ホモジナイザー、湿式メディア粉砕機(ビーズミル、ボールミル、ディスクミル)、超音波分散機等を用いる方法がある。
【0079】
有機溶媒中で混合を行う場合、混合後に混合物中に含まれる溶媒成分を除去する工程が必要になる。用いる有機溶媒の沸点が低い場合は加熱により除去することができるが、有機無機複合組成物の物性を損ねない程度まで十分に溶媒成分を除去するためには、大気圧下では150℃以上の高温が必要となる。減圧下で加熱を行うことにより溶媒除去に必要な温度は低減することができ、また減圧下での加熱とすることで大気中の酸素との接触による酸化劣化を抑制することも可能である。
【0080】
重合体の溶液に対し、金属酸化物微粒子ではなく金属酸化物微粒子の前駆体となる無機化合物を添加して、概溶媒系内で微粒子を化学合成(in−situ合成)する場合、金属酸化物微粒子の前駆体としては、チタンテトライソプロポキシドやチタンテトラブトキシド、ジルコニウムテトライソプロポキシドやジルコニウムテトラブトキシド等の金属アルコキシド類や金属水酸化物、あるいは酸塩化ジルコニウムのような酸塩化物が挙げられる。
【0081】
金属アルコキシド類を前駆体として用いる場合は、溶媒に含まれる水分による加水分解反応により金属酸化物微粒子を合成できる。この加水分解反応は塩酸や酢酸等の酸やアンモニアやアミン等の塩基を触媒として促進されるため、触媒の添加量で金属酸化物微粒子の濃度や粒径をコントロールすることもできる。一方、金属水酸化物・酸塩化物を前駆体として用いる場合は、加熱やpH制御により脱水反応・脱塩酸反応を進行させ、金属酸化物微粒子を合成できる。
【0082】
有機無機複合組成物を構成する成分のうち2価アルコールを重合して得られる重合体に対する無機酸化物微粒子の割合が多ければ多いほど、本発明の有機無機複合組成物の光学特性は重合体単体のそれから変化する。特に酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化ハフニウム、酸化イットリウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化タンタル、およびこれらの酸化物を含む複合酸化物を微粒子として用いた場合、酸化物微粒子を加えるほど高い屈折率を有するようになるため、微粒子添加量が少ないと光学特性改質の効果が低い。その一方で、微粒子の体積分率が高すぎると溶融時の流動性が低下し、成形性が悪化する。このため、高い屈折率と成形安定性を両立する上では、有機無機複合組成物中に、金属酸化物微粒子の濃度が1体積パーセント以上15体積パーセント以下の範囲であることが好ましい。
【0083】
(加工)
本発明の有機無機複合組成物においては、本来の目的が損なわれない範囲内で、添加剤が含まれていてもよい。添加剤としては、リン系加工熱安定剤、ヒドロキシルアミン類の加工熱安定剤、ヒンダートフェノール類等の酸化防止剤、ヒンダートアミン類等の光安定剤、ベンゾトリアゾール類やトリアジン類・ベンゾフェノン類・ベンゾエート類等の紫外線吸収剤、リン酸エステル類やフタル酸エステル類・クエン酸エステル類・ポリエステル類等の可塑剤、シリコーン類等の離型剤、リン酸エステル類やメラミン類等の難燃剤、脂肪酸エステル系界面活性剤類の帯電防止剤、有機色素着色剤、耐衝撃性改良剤等の物質が挙げられる。添加剤は、これらの添加剤を単独で用いてもよいし、組み合わせて使用してもよい。
【0084】
本発明の有機無機複合組成物は、公知の方法で上記添加剤を混合することができる。例えば、スクリュー押し出し機、ローラータイプミル、ニーダーミル、ミキサー、高圧ホモジナイザー、湿式メディア粉砕機(ビーズミル、ボールミル、ディスクミル)、超音波分散機等を用いる方法が挙げられる。こうして得られた有機無機複合組成物は、既知の成形方法、例えば、射出成形、中空成形、押出成形、プレス成形、カレンダー成形等により、各種成形体および光学素子を製造するのに供することができる。
【0085】
射出成形により本発明の有機無機複合組成物を成形し、光学素子を作成する際には、あらかじめ本発明の有機無機複合組成物をペレタイザーによってペレット化しておくのが好ましい。このペレットを溶融シリンダーおよびスクリューからなる混練部を備えた射出成形装置に投入し、この混練部での加熱溶融混練を経て、任意の形状の成形用金型に射出できる。型面が鏡面処理を施された任意の形状の平面、凹または凸型面である成形用金型を用いることで、任意の形状の光学素子を製造することができる。
【0086】
プレス成形により本発明の有機無機複合組成物を成形し、光学素子を作成する際には、あらかじめ本発明の有機無機複合組成物を乳鉢、スタンプミル、ボールミルなどの粉砕機によって粉末化しておくのが好ましい。この粉末を、型面が鏡面処理を施された任意の形状の平面、凹または凸型面である成形用金型に封じ、樹脂のガラス転移点以上の温度に金型を加熱して溶融を行ったのちにプレス圧を付加することで、任意の形状の光学素子を製造することができる。
【実施例】
【0087】
以下に、本発明の実施例について説明するが、本発明はこれらの例によって何ら限定されるものではない。
まず、本発明で使用する2価アルコールおよび重合体の合成例について説明する。
(2価アルコール(4a)の合成)
【0088】
【化10】

(4a)
【0089】
まず特許第3294930号に記載の手法に基づき、2価ハロゲノ化合物6a
【0090】
【化11】

(6a)
【0091】
を合成した。
1Lナスフラスコに2,6−ジメチルナフタレン(30.0g,192mmol)、ニトロメタン(600mL)及び4−フルオロ安息香酸クロリド(76.0g,481mmol)を入れ、0℃に冷却した。攪拌しながら、砕いた無水塩化アルミニウム(63.9g,481mmol)を徐々に添加した。室温で1時間攪拌後、反応液を80℃に加熱して3時間反応させた。室温まで冷却し、反応混合物を冷却した濃度1.5Mの塩酸水溶液中に注ぐことにより反応をとめ、油層を抽出して無水硫酸マグネシウムで乾燥させたのち、エバポレーターで溶媒を留去した。得られた固体をメタノールとアセトンの混合溶媒を用いて再結晶し、2価ハロゲノ化合物6a(48.4g,収率63%)を得た。
【0092】
続いて、1Lナスフラスコに2価ハロゲノ化合6a(18.0g,45.0mmol)、ジメチルスルホキシド(100mL)、水酸化カリウム(15.1g,270mmol)を入れ、180℃で20.5時間反応させた。反応混合物を冷却した濃度3Mの塩酸水溶液(400mL)中に注ぎ、生成物を沈殿させた。得られた沈殿物を水およびクロロホルムで洗浄した後、さらに空気を2時間噴射して悪臭を除き、減圧乾燥を行うことによって2価アルコール4b
【0093】
【化12】

(4b)
【0094】
(17.8g,定量的収率(100%))を得た。
500mLナスフラスコに、この2価アルコール4b(17.6g,44.4mmol)、N,N−ジメチルホルムアミド(100mL)、2−クロロエタノール(6.26mL,93.3mmol)及び炭酸セシウム(43.4g,133mmol)を入れ、100℃で14.5時間反応させた。酢酸エチルを加え油層を抽出し無水硫酸マグネシウムで乾燥させた後、溶媒を減圧除去した。クロロホルムと酢酸エチルを混合した(混合比で、クロロホルム:酢酸エチル=1.5:2〜0:1)溶媒を展開溶媒としたシリカゲルカラムクロマトグラフィーによる分離精製を行った。減圧乾燥により溶媒を除去し、2価アルコール4a(6.59g,収率30%)を得た。
【0095】
(4aのポリカーボネート(重合体1)の合成)
100mLシュレンク型反応管にアルゴン雰囲気下、2価アルコール4a(3.56g,7.32mmol)、炭酸ジフェニル(1.57g,7.32mmol)および4−ジメチルアミノピリジン(0.87mg,7.6μmol)、ジラウリン酸ジ−tert−ブチルスズ(0.086mL,0.15mmol)及び酸化防止剤として亜リン酸トリフェニル(0.077mL,0.29mmol)を入れ、180℃で30分間加熱攪拌した。さらに、段階的に反応容器内を減圧にするにつれて逐次反応温度を昇温していった(400hPa,200℃で20分間加熱攪拌の後、160hPa,220℃で20分間、40hPa,230℃で20分間、1hPa,250℃で30分間攪拌)。
【0096】
その後室温に冷却し、得られた固形物をN,N−ジメチルホルムアミド(10mL)に溶解させ、この溶液をメタノール(60mL)に攪拌しながら加えて再沈殿させた。得られた沈殿を減圧下で乾燥し、重合体1(2.93g,収率78%)を得た。
(4a:7a=25:75の共重合比率をもつポリカーボネート(重合体2)の合成)
【0097】
【化13】


(7a)
【0098】
100mLシュレンク型反応管にアルゴン雰囲気下、2価アルコール4a(7.3g,15.0mmol)、2価アルコール7a(19.7g,45.0mmol)、炭酸ジフェニル(12.8g,60.0mmol)、ジラウリン酸ジ−tert−ブチルスズ(0.709mL,1.20mmol)及び酸化防止剤として亜リン酸トリフェニル(0.631mL,2.40mmol)を入れ、180℃で1.5時間加熱攪拌した。さらに、段階的に反応容器内を減圧にするにつれて逐次反応温度を昇温していった(400hPa,200℃で20分間加熱攪拌の後、160hPa,220℃で20分間、40hPa,230℃で20分間、1hPa,250℃で1時間加熱攪拌)。
【0099】
その後室温に冷却し、得られた固形物をN,N−ジメチルホルムアミド(70mL)に溶解させ、この溶液をメタノール(450mL)に攪拌しながら加えて再沈殿させた。得られた沈殿を減圧下で乾燥し、重合体2を得た。
【0100】
(4a:7a=10:90の共重合比率をもつポリカーボネート(重合体3)の合成)
100mLシュレンク型反応管にアルゴン雰囲気下、2価アルコール4a(2.9g,6.0mmol)、2価アルコール7a(23.7g,54.0mmol)、炭酸ジフェニル(12.8g,60.0mmol)、ジラウリン酸ジ−tert−ブチルスズ(0.709mL,1.20mmol)及び酸化防止剤として亜リン酸トリフェニル(0.631mL,2.40mmol)を入れ、180℃で1.5時間加熱攪拌した。さらに、段階的に反応容器内を減圧にするにつれて逐次反応温度を昇温していった(400hPa,200℃で20分間加熱攪拌の後、160hPa,220℃で20分間、40hPa,230℃で20分間、1hPa,250℃で1時間加熱攪拌)。
【0101】
その後室温に冷却し、得られた固形物をN,N−ジメチルホルムアミド(70mL)に溶解させ、この溶液をメタノール(450mL)に攪拌しながら加えて再沈殿させた。得られた沈殿を減圧下で乾燥し、重合体3を得た。
【0102】
(7aのポリカーボネート(重合体4)の合成)
20mLシュレンク型反応管にアルゴン雰囲気下、2価アルコール7a(1.00g,2.28mmol)、炭酸ジフェニル(489mg,2.28mmol)、4−ジメチルアミノピリジン(2.8mg,22.8μmol)および酸化防止剤として亜リン酸トリフェニル(2.28μL,8.7μmol)を入れた。続いて重合体1の合成と同等の条件で重合反応と後処理を行い、重合体4(932mg,収率88%)を得た。
【0103】
(各重合体の分析・評価)
作成した重合体の分析・評価方法について説明する。分析・評価項目として、分子量分布測定、ガラス転移点があり、以下、各項目の測定方法の詳細について説明する。
【0104】
重合体1〜4それぞれについて、クロロホルムを送液(0.085mL/分)としたゲルパーミッションクロマトグラフ(GPC:Gel Permission Chromatograph)測定を行った。分析装置は二種のポリスチレンゲルカラム(東ソー株式会社製、TSKgel G5000HXL[製品名],G4000HXL[製品名])を装填した高速液体クロマトグラフ装置(日本分光社製:Gulliver[製品名])を用いた。重合体の装置流路内の保持時間を分子量既知の標準ポリスチレンの保持時間と対比して、近似的に数平均分子量(Mn)・重量平均分子量(Mw)を算出した。
【0105】
また、重合体1〜4について示差走査熱量測定装置(DSC:Differential Scanning Calorimetry、島津製作所社製:DSC−60[製品名])を用いて、常温から300℃の範囲で測定を行い、ガラス転移点(Tg)を求めた。
それぞれについて得られた結果を下記表1に示す。
【0106】
【表1】

【0107】
次に、本発明の有機無機複合組成物の合成例について説明する。
[実施例1−1]1体積%の酸化ジルコニウムと重合体1から成る複合組成物1
重合体1(0.500g)をクロロホルム(4.50g)に溶解し、この溶液に酸化ジルコニウム/トルエン分散液(住友大阪セメント社製;酸化ジルコニウム濃度10重量%)0.234gを攪拌しながら添加して混合溶液を得た。この混合溶液を1000倍に希釈し粒子径測定装置(Zetasizer Nano−ZS[製品名]、Malvern社製)で測定したところ、酸化ジルコニウムが3〜40nmの粒径分布で分散している状態が確認された。
【0108】
この混合溶液を130℃に加熱して溶媒を除去したのち、5hPa以下の減圧条件下で150℃1時間乾燥処理を行い、1体積%の酸化ジルコニウムを含む有機無機複合組成物1を得た。なお、酸化ジルコニウムの濃度において重量%から体積%を換算するさいには、重合体の比重を1.20、酸化ジルコニウムの比重を5.56として算出した。
【0109】
[実施例1−2]5体積%の酸化ジルコニウムと重合体1から成る複合組成物2
実施例1−1の酸化ジルコニウム/トルエン分散液の添加量を1.22gに変え、それ以外の条件は実施例1−1と同様にして、5体積%の酸化ジルコニウムを含む有機無機複合組成物2を得た。
【0110】
[実施例1−3]10体積%の酸化ジルコニウムと重合体1から成る複合組成物3
実施例1−1の酸化ジルコニウム/トルエン分散液の添加量を2.57gに変え、それ以外の条件は実施例1−1と同様にして、10体積%の酸化ジルコニウムを含む有機無機複合組成物3を得た。
【0111】
[実施例1−4]15体積%の酸化ジルコニウムと重合体1から成る複合組成物4
実施例1−1の酸化ジルコニウム/トルエン分散液の添加量を4.09gに変え、それ以外の条件は実施例1−1と同様にして、15体積%の酸化ジルコニウムを含む有機無機複合組成物4を得た。
【0112】
[実施例2−1]5体積%の酸化チタンと重合体1から成る複合組成物5
重合体1(0.800g)をクロロホルム(4.00g)に溶解し、この溶液に微粒子前駆体としてチタンテトラブトキシド0.607gを攪拌しながら添加して混合溶液を得た。この溶液を常温で攪拌し、系中に溶存する水分と塩酸を利用した加水分解反応によって、酸化チタン微粒子のin−situ合成を行った。反応は12時間で完結し、この混合溶液を1000倍に希釈し粒子径測定装置(Zetasizer Nano−ZS[製品名]、Malvern社製)で測定したところ、酸化チタンが2〜20nmの粒径分布で分散している状態が確認された。
【0113】
この混合溶液を130℃に加熱して溶媒を除去したのち、5hPa以下の減圧条件下で150℃1時間乾燥処理を行い、5体積%の酸化チタンを含む有機無機複合組成物5を得た。なお、酸化チタンの濃度において重量%から体積%を換算するさいには、重合体の比重を1.20、酸化チタンの比重を4.00として算出した。
【0114】
[実施例2−2]5体積%の酸化チタンと重合体2から成る複合組成物6
実施例2−1で使用する重合体を重合体2に変え、それ以外の条件は実施例2−1と同様にして、5体積%の酸化チタンを含む有機無機複合組成物6を得た。
【0115】
[実施例2−3]5体積%の酸化チタンと重合体3から成る複合組成物7
実施例2−1で使用する重合体を重合体3に変え、それ以外の条件は実施例2−1と同様にして、5体積%の酸化チタンを含む有機無機複合組成物7を得た。
【0116】
[実施例3]5体積%の酸化ジルコニウム、5体積%の酸化チタン、および重合体1から成る複合組成物8
重合体1(0.800g)をクロロホルム(4.00g)に溶解し、この溶液に微粒子前駆体としてチタンテトラブトキシド0.607gを攪拌しながら添加して混合溶液を得た。この溶液を常温で攪拌し、系中に溶存する水分と塩酸を利用した加水分解反応によって、酸化チタン微粒子のin−situ合成を行った。反応は12時間で完結し、この混合溶液を1000倍に希釈し粒子径測定装置(Zetasizer Nano−ZS[製品名]、Malvern社製)で測定したところ、酸化チタンが2〜20nmの粒径分布で分散している状態が確認された。
【0117】
希釈前の溶液に酸化ジルコニウム/トルエン分散液(住友大阪セメント社製;酸化ジルコニウム濃度10重量%)1.95gを攪拌しながら添加して混合溶液を得た。
【0118】
この混合溶液を130℃に加熱して溶媒を除去したのち、5hPa以下の減圧条件下で150℃1時間乾燥処理を行い、5体積%の酸化ジルコニウム、5体積%の酸化チタンを含む有機無機複合組成物8を得た。なお、酸化チタンの濃度において重量%から体積%を換算するさいには、重合体の比重を1.20、酸化ジルコニウムの比重を5.56、酸化チタンの比重を4.00として算出した。
【0119】
[比較例1]重合体1のみから成る組成物9
重合体1をそのまま加工せず、組成物9とした。
【0120】
[比較例2]重合体2のみから成る組成物10
重合体2をそのまま加工せず、組成物10とした。
【0121】
[比較例3]重合体3のみから成る組成物11
重合体3をそのまま加工せず、組成物11とした。
【0122】
[比較例4]重合体4のみから成る組成物12
重合体4をそのまま加工せず、組成物12とした。
【0123】
[比較例5]1体積%の酸化ジルコニウムと重合体4から成る複合組成物13
実施例1−1で使用する重合体を重合体4に変え、それ以外の条件は実施例1−1と同様にして、1体積%の酸化ジルコニウムを含む有機無機複合組成物13を得た。
【0124】
[実施例4]光学素子用円板成型体の作成例
組成物1〜13(0.300g)をメノウ乳鉢で粉砕処理後、内径15mmの円筒状形状を有する金型にそれぞれ入れた。この金型の開放部の両面を、鏡面処理された平面を有する直径15mmの円柱状金型で封じた。180℃で10分加熱して、封じた樹脂を溶融させたのちに、金型の両面から10MPaの圧力を加えた。100℃まで冷却したのちに圧力を開放し、円板状の透明成型体を得た。
【0125】
[比較例6]20体積%の酸化ジルコニウムと重合体1から成る複合組成物14
実施例1−1の酸化ジルコニウム/トルエン分散液の添加量を5.79gに変え、それ以外の条件は実施例1−1と同様にして、20体積%の酸化ジルコニウムを含む有機無機複合組成物14を得た。しかしながら、この組成物14は加熱時の溶融流動性が低く、実施例4と同様の方法で成形体を得ることができなかった。
【0126】
[各有機無機複合組成物の分析・評価]
作成した有機無機複合組成物の分析・評価方法について説明する。分析・評価項目として屈折率測定が挙げられ、以下、その測定方法の詳細について説明する。
【0127】
組成物1〜13それぞれをクロロホルムに溶解し、溶液をガラス基板上に滴下した後、ガラス基板を150℃に昇温して30分保持し、溶媒を留去して厚さ平均0.7mmの膜を成膜した。27℃において、dスペクトル線(波長587.6nm)に対する屈折率(nd)をカルニュー屈折計(島津デバイス製造社製:KPR−30[製品名])を用いて測定し、このndとFスペクトル線(波長486.1波長587.6nm)とCスペクトル線(656.3nm)に対する屈折率差の値から該重合体のアッペ数(νd)を算出した。
それぞれについて得られた結果を下記表2に示す。
【0128】
【表2】

【0129】
[有機無機複合組成物の光学特性シミュレーション]
微粒子内部の分極特性はバルク的な特性を示す。しかし、大きさ1〜50nmの微粒子を仮定すると、波長400〜700nmの可視波長域の光への分極特性は微粒子が均一に分散された理想複合組成物中ではその不均一性を無視できるレベルの大きさである。その複合組成物の屈折率nはDrude理論に基づき式(1)のように表される。
【0130】
=1+T(χ)+(1−T)(χ
=1+T(n−1)+(1−T)(n−1)・・・式(1)
χ:金属酸化物微粒子の分極
χ:母材(本発明では重合体)の分極
T:微粒子の体積分率(0≦T≦1.0)
:金属酸化物の屈折率
:母材(本発明では重合体)の屈折率
dスペクトル線(波長587.6nm)、Fスペクトル線(波長486.1nm)、Cスペクトル線(波長656.3nm)の各輝線に対する、金属酸化物(Handbook of Optics, Vol.2, 2nd edition, MoGraw−Hill,1994より、結晶の値を利用)の屈折率と重合体1の屈折率を式(1)に代入し、種々の金属酸化物微粒子を含む有機無機複合組成物の屈折率とアッベ数を計算した。シミュレーション計算により予測される光学特性を表したグラフを図1に示す。図中、各金属酸化物を含まない重合体単体の原点(nd=1.661,νd=18.52)から座標が離れるにつれて、各金属酸化物微粒子を5体積%、10体積%、15体積%含む点を印にて示している。
【0131】
図1に示すように、金属酸化物を含まない重合体単体の原点(nd=1.633,νd=18.95)から5体積%、10体積%、15体積%と微粒子含有量が増えるにつれて、微粒子の種類に応じて放射状に光学特性が変化する様子が確認できる。また、このシミュレーション結果は、実施例1−1〜1−4、実施例2−1の結果によく一致しており、実在の系を再現していることも確認できる。
【0132】
図1より、本発明で用いている重合体が高屈折率かつ低アッベ数であるため、酸化ジルコニウムまたは酸化チタン以外の金属酸化物微粒子を添加した場合でも、屈折率1.60以上の高屈折率かつアッベ数24以下の低アッベ数の組成物が得られることが分かる。このため、本発明の金属酸化物微粒子としては、酸化ジルコニウムと酸化チタンに限定されるものではない。
【0133】
表2に記載の結果より明らかな様に、酸化ジルコニウムを添加した本発明の複合組成物(実施例1−1〜1−4、実施例3)は低いアッベ数でありながら、それぞれに対応する重合体単体の組成物(比較例1)と比較して高い屈折率を示す。また、酸化チタンを添加した本発明の複合組成物(実施例2−1〜2−3、実施例3)は、それぞれに対応する重合体単体の組成物(比較例1〜3)と比較して高い屈折率、低いアッベ数を示す。以上の結果から、無機酸化物微粒子が添加されることにより、無機酸化物微粒子の添加可能な濃度範囲内において組成物の光学特性を任意に改質できることが分かる。
【0134】
更に、同一濃度の微粒子を添加した場合、公知2価アルコールの重合体4を成分として用いた場合(比較例5)に比べ、本発明の新規2価アルコールの重合体1を成分として用いた場合(実施例1−1)よりも高い屈折率、低いアッベ数を示し、重合体成分の光学特性が組成物に強く反映されていることが確認できる。
【0135】
本発明の複合組成物(実施例1−1〜1−4、実施例2−1〜2−3、実施例3)は公知2価アルコールの重合体による組成物12(比較例4)と比べて高い屈折率とアッベ数を有している。微粒子添加量が少ないため実施例4に示した通り溶融加工成形が容易に可能であり、更には微粒子添加量を1以上15以下の体積%範囲で変動させることで組成物の光学特性のチューニングも可能である。このことから、本発明の有機無機複合組成物は、光学素子の原材料として有用であることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)で表される構造を繰返し単位として含有する重合体と、少なくとも1種類の金属酸化物粒子とを含むことを特徴とする有機無機複合組成物。
【化1】

(1)
〔一般式(1)中、R1とR2は各々独立して水素原子もしくは炭素数1以上6以下のアルキル基、Qはオキシエチレン基、チオエチレン基、又は単結合を示す。〕
【請求項2】
前記金属酸化物粒子の濃度が組成物全体のうち、1体積パーセント以上15体積パーセント以下であることを特徴とする請求項1に記載の有機無機複合組成物。
【請求項3】
前記金属酸化物粒子の平均1次粒子径が1nm以上50nm以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の有機無機複合組成物。
【請求項4】
前記金属酸化物粒子が酸化チタンまたは酸化ジルコニウムであることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の有機無機複合組成物。
【請求項5】
前記重合体の繰返し単位に、一般式(2)で表される繰返し単位が少なくとも1種類以上含まれることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の有機無機複合組成物。
【化2】

(2)
〔一般式(2)中、Tは炭素数2以上12以下のオキシアルキレン基、炭素数2以上12以下のポリ(オキシエチレン)基、又は単結合を示す。R3、R4は各々水素原子、炭素数1以上6以下のアルキル基、炭素数1以上6以下のアルコキシ基又は炭素数6以上12以下のアリール基であり、互いに同じであっても異なっていてもよい。Uは炭素数1以上13以下のアルキレン基,炭素数2以上13以下のアルキリデン基,炭素数5以上13以下のシクロアルキレン基,炭素数5以上13以下のシクロアルキリデン基,炭素数6以上13以下のアリーレン基,フルオレニデン、−O−,−S−,−SO2 −,−CO−又は単結合を示す。R3、R4、T及びUは構造単位ごとに異なっていてもよい。〕
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれかに記載の有機無機複合組成物の、屈折率(nd)が1.643以上1.720以下であり、アッべ数(νd)が15.98以上22.73以下であることを特徴とする有機無機複合組成物。
【請求項7】
請求項1から6に記載の有機無機複合組成物を成形することにより得られることを特徴とする成形体。
【請求項8】
請求項1から6に記載の有機無機複合組成物を成形することにより得られることを特徴とする光学素子。

【図1】
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【公開番号】特開2012−57128(P2012−57128A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−204366(P2010−204366)
【出願日】平成22年9月13日(2010.9.13)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】