説明

有機物質とフェライト粒子とを有する複合粒子及びその製造方法

【課題】フェライト粒子に有機物質を結合させて有機物質とフェライト粒子とを有する複合粒子を製造する製造方法を提供し、またこの製造方法によって形成することができる有機物質とフェライト粒子とを有する複合粒子を提供する。
【解決手段】フェライト粒子に対し、表面の酸化還元状態を調整する処理を行って表面の酸化還元状態を調整することにより、フェライト粒子表面の有機物質とを有する結合についての活性度を制御し、このフェライト粒子を浸漬した浸漬液に有機物質を添加し、フェライト粒子に有機物質を結合させる。また、フェライト粒子にフェライトと結合する官能基を有しフェライト粒子表面を被覆した有機結合物質と、ジスルフィド結合によりメルカプト基を有する有機表面修飾物質を結合させることにより、有機物質被覆フェライト粒子を表面修飾する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フェライト粒子の表面に有機物質を結合させて形成した有機物質とフェライト粒子とを有する複合粒子およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フェライト粒子に有機物質を結合させた複合粒子には多くの用途がある。例えばフェライト粒子に有機物質を結合させ被覆した複合粒子を水や各種有機溶媒などに分散させたものは、磁性流体などとして工業的用途などに広く用いられてきた。最近では、こうした複合粒子は、生命科学および医療の分野における応用において、その重要性が高まっている。
【0003】
有機物質とフェライト粒子とを有する複合粒子の生体内での応用の具体例として、核磁気共鳴診断(MRI)用の造影剤を挙げることができる。MRI用造影剤は、磁性を有する物質を診断部位に供給することによって核磁気共鳴の緩和時間を制御し、MRIの画像のコントラストを高めるものであって、微小な鉄酸化物粒子に生分解性の有機物が結合し、よく被覆されたものが望まれている。このほか、有機物質とフェライト粒子とを有する複合粒子の生体内応用には、温熱療法、細胞標識、ドラッグデリバリーなどへの応用がある。これらの複合粒子の各用途においては、フェライト粒子に対し有機物質が安定に結合していることが求められている。
【0004】
このような複合粒子を得るために有機物質をフェライト粒子の表面に直接に結合させる方法として、本発明者らはフェライト粒子メッキの技術を応用した方法をすでに開発している(特許文献1)。これはカルボキシル基やメルカプト基などの官能基を有する有機物質の存在下にて、フェライト粒子メッキのプロセスにより有機物質の表面にフェライト粒子を生成させることにより、フェライト粒子に有機物質を直接に結合させることができるものである。
【0005】
生体内で用いるフェライト粒子の表面に結合させ表面を被覆する有機物質としては、生体に対する適合性の観点から、例えば特許文献2に記載されているようにデキストランが多く用いられている。フェライト粒子表面を有機物質で被覆する際には、例えば微粒子の帯電性を制御するなど、微粒子表面の性質をさまざまに制御することが必要である。このためには被覆に用いる有機物質の改質が必要となる。デキストランなどの多糖の場合には、分子中に官能基を導入し、改質された分子を精製によって得るのには非常に多くの労力を要する。
【特許文献1】国際公開番号WO 03/066644
【特許文献2】国際公開番号WO 95/31220
【特許文献3】特開2005−60221号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このように、さまざまな有機物質をフェライト粒子の表面に結合させることによって、各種の有用な複合粒子が得られるようにすることが望まれてきた。フェライト粒子と有機物質とは、フェライト粒子の生成時の表面が十分に活性を有しているときに有機物質と接触させることにより、良好な結合が得られることが知られている。しかしながら、生成時のフェライト粒子だけでなく、すでに製造されたフェライト粒子に対しても、有機物質の良好な結合を得ることができるようにすることが望まれる。例えば、粒径分布のよく制御された既成のフェライト粒子を利用し、この表面に有機物質を結合させ、親水性や電荷など表面の状態のよく制御された複合粒子を得ることができるようにすることが望まれる。
【0007】
特にメルカプト基を有する有機物質は、生体内におけるフェライト粒子の表面を被覆する物質として有用であり、フェライト粒子にメルカプト基を有する有機物質を結合させるためのより優れた方法が望まれてきた。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、フェライトの表面の活性を制御し、この表面によく制御された有機物質の結合層を形成する方法について鋭意研究を重ねた結果、フェライト表面を還元処理することにより、フェライト表面を活性化することができ、この活性化されたフェライト表面に有機物質をよく結合させることができることを見出し、その解決を得ることができた。
【0009】
本発明の有機物質とフェライトとの複合体の製造方法は、フェライトの表面に対し還元または酸化の表面処理を行う表面処理工程と、表面処理されたフェライト表面に有機物質を結合させる有機物質結合工程とを備えたことを特徴とする。
【0010】
また本発明の有機物質とフェライト粒子とを有する複合粒子の製造方法は、フェライト粒子を浸漬した溶媒に還元性の物質を添加し、フェライト粒子の表面を還元処理する還元処理工程と、このフェライト粒子を浸漬した溶媒に有機物質を添加し、還元処理されたこのフェライト粒子に有機物質を結合させる有機物質結合工程とを備えたことを特徴とする。
【0011】
さらに本発明の有機物質とフェライト粒子とを有する複合粒子のもう一つの製造方法は、フェライト粒子を浸漬した溶媒に酸化性の物質を添加し、フェライト粒子の表面を酸化処理する酸化処理工程と、この前記フェライト粒子を浸漬した溶媒にこの有機物質を添加し、フェライト粒子にこの有機物質を結合させる有機物質結合工程とを備えたことを特徴とする。
【0012】
これら本発明の有機物質とフェライト粒子とを有する複合粒子の製造方法は、フェライト粒子表面への有機物質の結合に関する活性が、フェライト粒子の表面を還元状態にすることによって著しく高まること、また逆にフェライト粒子の表面を酸化状態にすることによってその活性が低下するという新たに見出された性質を利用し、これによってフェライト粒子表面に対する有機物質の結合を制御するものである。
【0013】
本発明の有機物質とフェライト粒子とを有する複合粒子の製造方法において、フェライト粒子の表面の還元処理をすることにより、従来は困難とされてきた生成後のフェライト粒子表面への有機物質の安定かつ多量の結合が可能となった。
【0014】
本発明の有機物質とフェライト粒子とを有する複合粒子は、還元または酸化の表面処理がなされた表面を有するフェライト粒子と、表面処理がなされたこのフェライト粒子の表面に結合した有機物質とを備えたことを特徴とする。
【0015】
本発明の有機物質とフェライト粒子とを有する複合粒子は、鉄原子の平均の価数が8/3未満の表面を有するフェライト粒子と、このフェライト粒子の表面に結合した有機物質とを備えたものであってもよい。
【0016】
こうした本発明の有機物質とフェライト粒子とを有する複合粒子は、フェライト粒子の表面における有機物質の結合が良好であり、その表面に有機物質を多量に結合させたものが可能である。
【0017】
本発明者らは、このようにして得た有機物質とフェライト粒子との結合を基礎として、さらにメルカプト基を有する有機物質によるフェライト粒子表面被覆へと研究を進めた。そこで有機結合物質として、メルカプト基を有することに加えて、カルボキシル基などのフェライト粒子表面に結合する基を有するものに着目し、これらの有機物質がフェライト粒子の表面に結合する挙動について詳しく調べた。その結果、先に述べたフェライト粒子表面の還元処理がこれらの有機物質のフェライト粒子表面との結合に有利に働くことが確認でき、さらにこれら有機物質のメルカプト基が対になってジスルフィド結合が形成されていることがわかった。そこでこのジスルフィド結合を利用し、有機結合物質で被覆されたフェライト粒子の表面をメルカプト基を有する有機修飾物質で修飾することを試みた。その結果、有機修飾物質がこの有機結合物質によく結合し、有機表面修飾物質を表面に持つフェライト粒子が得られることがわかった。
【0018】
本発明のジスルフィド基を有する有機物質とフェライト粒子との複合粒子は、フェライト粒子と、このフェライト粒子表面に結合したカルボキシル基、水酸基、スルホン酸基、リン酸基、アミノ基およびアルデヒド基(ホルミル基) からなる群から選ばれる少なくとも1種の官能基並びにメルカプト基を有し、このフェライト粒子表面を被覆し、このメルカプト基のジスルフィド結合を有する有機結合物質とを備えたことを特徴とする。
【0019】
このジスルフィド基を有する有機物質とフェライト粒子との複合粒子は、以下に述べるメルカプト基を有する有機物質とフェライト粒子との複合粒子を得るための中間物質として重要である。
【0020】
本発明のメルカプト基を有する有機物質とフェライト粒子との複合粒子は、フェライト粒子と、このフェライト粒子表面に結合したカルボキシル基、水酸基、スルホン酸基、リン酸基、アミノ基およびアルデヒド基(ホルミル基) からなる群から選ばれる少なくとも1種の官能基並びにメルカプト基を有し、このフェライト粒子表面を被覆し、上記メルカプト基由来のジスルフィド結合を有する有機結合物質と、メルカプト基を有し、上記ジスルフィド結合により前記有機結合物質に結合した有機表面修飾物質とを有することを特徴とする。
【0021】
これらの本発明の有機物質とフェライト粒子との複合粒子において、上記有機結合物質は、粒子表面により多くのジスルフィド結合を得る上から一分子中に複数個のメルカプト基を有することが好ましく、例えばジメルカプトコハク酸を好ましく用いることができる。
【0022】
生体内での応用の観点から、上記有機表面修飾物質はヒドロキシル基やカルボキシル基などの水和性の官能基を有することが好ましい。上記有機表面修飾物質として、例えば核酸、ペプチド、たんぱく質、単糖および多糖を用いることができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、フェライト粒子の表面を還元状態にすることにより、従来は困難とされていた生成後のフェライト粒子表面への有機物質の安定かつ多量の結合が可能となった。他方、フェライト粒子の表面を酸化状態にすることにより、この表面に結合する有機物質の量を低減させることができる。
【0024】
また、本発明において,フェライト粒子を被覆したメルカプト基を有する有機結合物質に形成されたジスルフィド結合に対し、メルカプト基を有する有機表面修飾物質を交換反応によって結合させることにより、この有機表面修飾物質によって表面修飾されたフェライト粒子を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
次に本発明の実施の形態を図面に基づいて具体的に示すことにより、本発明のさらなる詳細を述べる。
【0026】
(1)還元または酸化処理を伴った有機物質とフェライト粒子とを有する複合粒子の製造工程
図1は本発明に係る有機物質とフェライト粒子とを有する複合粒子の製造方法の一実施形態の工程の流れ図を示したものである。図1において、フェライト粒子11を工程12にて溶媒中に懸濁する。次に工程13にて、このフェライト粒子を懸濁した懸濁液中に還元剤または酸化剤を注入することによりフェライト粒子11の表面を処理する。続いて工程15にて、この浸漬液に有機物質14を添加し、表面の処理されたこのフェライト粒子11の表面にこの有機物質を結合し、フェライト粒子に有機物質14が結合した複合粒子16を得る。
【0027】
上記の工程において、表面処理の工程13および有機物質を結合する工程15は、フェライト粒子11を溶媒に懸濁した状態で行うことが好ましい。溶媒に懸濁して処理することにより、表面処理13の工程および有機物質を固着15の工程をむらなく行うことができる。
【0028】
(2)フェライト粒子の還元処理
上記表面処理13の工程にて、フェライト粒子11の表面を還元処理することにより有機物質14の結合を高めることができる。還元処理の具体的手段として、フェライト粒子11の浸漬液に水素ガスを吹き込む方法を好ましく用いることができる。
【0029】
この水素ガスを吹き込んで還元処理することにより、フェライト粒子11の表面を還元することができ、還元処理された粒子の表面に有機物質14の固定量を高めることができる。なお、還元処理に用いる還元剤には水素ガスのほか、水素化アルミニウムリチウム(リチウムアルミニウムハイドライド)、水素化ホウ素ナトリウム(ナトリウムボロンハイドライド)等の水素化物をはじめ、ヒドラジンなどの各種の還元剤を用いることができる。
【0030】
(3)フェライト粒子の酸化処理
また本発明のフェライト粒子11と有機物質13との複合粒子の製造方法における上記表面処理13の工程として、このフェライト粒子11の表面を酸化する酸化処理工程を適用することができる。酸化処理工程を用い、フェライト粒子11の表面を酸化することにより、フェライト粒子11の表面の有機物質の結合に関する活性を低めることができ、このフェライト粒子11の表面に結合する有機物質の量を減少させることができる。酸化処理の具体的手段としては、フェライト粒子11の浸漬液に過酸化水素を添加する方法を用いることができる。この過酸化水素で酸化処理することにより、フェライト粒子11の表面だけを酸化し、フェライト粒子11の粒子の表面に結合する有機物質の量を低減することができる。なお、酸化処理に用いる酸化剤には過酸化水素のほか、酸素ガス、空気など各種の酸化剤を用いることができる。
【0031】
このようにして、本発明によれば、フェライト粒子11の表面を還元し、あるいは酸化することにより、フェライト粒子11に結合する有機物質14の量を調整することができる。
【0032】
(4)フェライト粒子
上記フェライト粒子11としては、マグネタイト、マグへマイト、あるいはLi、Mg、Fe、Mn、Co、Ni、CuおよびZnからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を含有した複合フェライト粒子を用いることができる。
【0033】
フェライト粒子11は磁性を有し化学的に安定なフェライトであって、後に示すようにスピネル構造を保ったたまま、表面を還元処理あるいは酸化処理することができる。このため、これらの表面処理によってフェライト粒子に対する有機物質の固定量が調整された有機物質とフェライト粒子結合の複合粒子を得ることができる。
【0034】
フェライト粒子11は、粒子径を小さくすることにより比表面積を大きくでき、有機物質14の結合量を高めることができる。フェライト粒子11の大きさについては、用途に応じ、さまざまな大きさを選択することが可能である。一例として、フェライト粒子11をMRIの造影剤として用いる場合について述べると、この場合のフェライト粒子の平均粒径は、目的とする部位に配置し造影効果を得る上から、2〜100nmの範囲であることが好ましい。
【0035】
(5)還元または酸化処理したフェライト粒子と複合させる有機物質
上記のフェライト粒子11と有機物質14との複合粒子の製造方法において、フェライト粒子の表面に有機物質をよく結合させるためには、有機物質14がアニオン(陰イオン)性の官能基を有していることが好ましく、そのようなアニオン性の官能基として、カルボキシル基、リン酸基、スルフィニル基、スルホン酸基、硫酸基、メルカプト基などがあり、カルボキシル基、メルカプト基、リン酸基およびスルホン酸基などが特に好ましい。またフェライト粒子の表面に結合させる有機物質は、アニオン性の官能基を有するほかに、水酸基やアミノ基などの非共有電子対を有する官能基を有することがさらに好ましい。
【0036】
特に有機物質がカルボキシル基またはメルカプト基を有していることが好ましく、さらに有機物質がメルカプト基を有している場合には、メルカプト基のほかに、カルボキシル基、水酸基、アミノ基、リン酸基、スルホン酸基、および硫酸基殻なる群から選ばれる少なくともいずれかの基を有することが好ましい。このようにカルボキシル基有機物質として、例えばクエン酸やコハク酸などを挙げることができる。またメルカプト基とカルボキシル基とを有する有機物質として、メルカプトコハク酸やジメルカプトコハク酸などを挙げることができる。さらにメルカプト基と水酸基とを有する有機物質として、例えばジメルカプトエタノールを挙げることができる。
【0037】
この有機物質14は、フェライト粒子11の表面に結合するアニオン性の官能基のほかに、有機物質14がさらに他の有機物質を結合するための官能基を有していることが望ましい。このような官能基を有することにより、このフェライト粒子11に結合した有機物質14を介し、さまざまな機能を有する有機物質をフェライト粒子11に結合することができる。
【0038】
このような有機物質14として、例えばウンデセン酸のようにビニル基を有する脂肪酸を挙げることができる。このような脂肪酸は、カルボキシル基によりフェライト粒子11の表面に結合する一方で、ビニル基を通じてさまざまな有機物質を結合することができる。またオレイン酸のような脂肪酸を用いることもできる。
【0039】
また、このような有機物質14として、アスパラギン酸、グルタミン酸あるいはシステインなどのアミノ酸を挙げることができる。アスパラギン酸の場合は、カルボキシル基を有しており、このカルボキシル基によりフェライト粒子11の表面に結合する一方で、残りのアミノ基により、さまざまな有機物質を結合することができる。
【0040】
このほかに例えばNH−(CH−COOHのようなカルボキシル基とアミノ基を有する表面改質物質を用いることができる。この物質は、カルボキシル基によりフェライト粒子に良好に結合する一方で、アミノ基により他の有機物質と結合することができる。また有機物質14には、アミノ酸よりも大きな分子であるたんぱく質、核酸、糖および脂質などの生体由来の有機物質を用いることができる。これらの生体由来の有機物質は、メルカプト基を有していることが好ましい。
【0041】
(6)フェライト粒子を被覆した有機結合物質に対するメルカプト基を有する有機表面修飾物質の結合
図2は、フェライト粒子の表面に結合して粒子を被覆しジスルフィド結合を形成した有機結合物質に有機表面修飾物質が結合した本発明の有機物質とフェライト粒子との複合粒子について、その一製造形態を工程の流れ図によって示したものである。この図2において、フェライト粒子21は、水に懸濁22の工程にて水中に懸濁される。次にフェライト粒子21を懸濁した懸濁液中に、メルカプト基を有する有機結合物質23を、フェライトに有機物質を固着させジスルフィド基を形成24の工程にて加えることにより、ジスルフィド結合を形成しフェライト粒子に結合した有機結合物質で被覆されたフェライト粒子を得る。続いてこれにメルカプト基を有する有機表面修飾物質25を、有機物質を固着26の工程にて結合させ、フェライト粒子21がメルカプト基を有する有機表面修飾物質25を結合した複合粒子27が得られる。
【0042】
また上記有機表面修飾物質25には、メルカプト基を有し、有機物質で被覆されたフェライト粒子の表面を修飾する各種物質を用いる。例えばヒドロキシル基やカルボキシル基などの水和性の官能基を有し、粒子の表面を水和性にする有機物質が生体内で用いる粒子の有機表面修飾物質として好ましい。有機表面修飾物質として、核酸、ペプチド、抗体をはじめとする各種たんぱく質、単糖および多糖を用いることにより、本発明の複合粒子はさまざまな用途への応用が可能となる。
【0043】
(7)有機物質とフェライト粒子とを有する複合粒子の応用
こうして得られる有機物質とフェライト粒子とを有する複合粒子は、さまざまな分野に応用が可能であり、特に生命科学および医療の分野での応用に適したものを得ることができる。ここで生命科学および医療の分野での応用は、生体内での応用と生体外での応用とに分けることができる。
【0044】
本発明の有機物質とフェライト粒子とを有する複合粒子の生体内での応用は、MRI用造影剤としての応用のほか、温熱療法(ハイパーサーミア)担体、ドラッグデリバリーなどに用いる粒子としての応用などを挙げることができる。ここでは生体内での応用の代表例として、MRI用造影剤への応用を具体的に述べる。フェライト粒子をMRI用造影剤として診断部位に供給することにより、核磁気共鳴緩和が制御され、画像のコントラストを高めることができる。このフェライト粒子の表面には生体適合性を有する有機物質を結合させ、この有機物質で被覆し、分散性を有する状態で使用する。
【0045】
MRI用造影剤に用いるフェライト粒子には、上記したマグネタイトやマグへマイトなどの粒子を用い、これらのフェライト粒子は表面を還元処理しこれに有機物質を結合させこの有機物質で被覆したものを用いる。また必要に応じ酸化処理を行って有機物質の結合量を調整したものを用いる。この際のフェライト粒子の平均粒子径としては、すでに述べた通り2〜100nmの範囲のものが好ましく用いられ、この平均粒子径は、MRI診断を行なう部位に応じて適宜選択することができる。2nm未満では磁気特性が低下し、また100nmを超えると、網内系で認識されやすくなるという問題や、毛細血管でつまるといった問題を生じるようになる。
【0046】
またMRI用造影剤に用いるフェライト粒子に結合しフェライト粒子を被覆する有機物質には、生体に対して親和性があり、生体中での分解性を有するものを用いる。例えば、クエン酸、デキストラン、リン脂質、ヒトアルブミンなどを用い、クエン酸のようにフェライト粒子に結合する官能基としてカルボキシル基を有するものはそのまま用い、フェライト粒子に結合するための官能基が不十分な場合には、官能基を付与して用いる。本発明に基づき、フェライト粒子の表面を還元して有機物質を結合させることにより、良好な結合が得られ、その結合量を高めることができる。また、この表面の還元状態を調整することにより、有機物質の結合量が制御でき、これによって有機物質の結合したフェライト粒子の分散性を制御することができる。さらにフェライト粒子の表面処理の範囲を表面酸化にまで広げることにより、有機物質の結合量を減少させることができ、有機物質の結合したフェライト粒子の分散性の制御範囲をさらに広げることができる。本発明によれば、MRI診断を行なう部位に応じ、有機物質の結合したフェライト粒子の分散性の程度をこのようにして適宜調整したものを用いることができる。
【0047】
また、フェライト粒子に結合する官能基によってフェライト粒子の表面に結合しフェライト粒子表面を被覆した有機結合物質に対し、メルカプト基によって有機表面修飾物質を結合させた上記の有機物質とフェライト粒子との複合粒子では、フェライト粒子表面の被覆層の厚さを十分に薄くすることもできる。このため、生体内のMRIの造影剤として用いる場合に、共鳴緩和する原子核を保有する物質である水分子とフェライト粒子との間の距離を小さくでき、これらの間の相互作用によるMRIの造影剤としての効果を十分に高めることができる。
【0048】
本発明の上記有機物質とフェライト粒子とを有する複合粒子を液体中に懸濁させることによって、磁性流体を形成することができる。本発明によれば、フェライト粒子に有機物質を多量かつ安定に結合させることができるので、安定性の優れた磁性流体を得ることができる。こうして得られる磁性流体は、生命科学および医療の分野において有用であるほか、幅広い分野で用いることができる。また、フェライト粒子表面の還元処理の状態または酸化処理の状態を調整することによって、このフェライト粒子表面に結合される有機物質の量を幅広く変えることができる。
【0049】
また、表面にメルカプト基またはジスルフィド基を有する有機物質で被覆されたフェライト粒子は、これらの基と金微粒子とが結合できるので、この金微粒子にDNAを結合させたものは、磁気分離を用い迅速なDNA診断の可能なDNA診断薬として用いることができる。このように、表面にメルカプト基またはジスルフィド基を有する有機物質で被覆されたフェライト粒子は、これらの基と金微粒子、その他の金属微粒子や半導体微粒子とが結合できるので、これらの微粒子にDNAを結合させたものは、局在表面プラズモン共鳴を利用した高感度なDNA診断薬やバイオセンサとして用いることができる一方で、磁気分離を用い迅速な分離操作が可能である。
【0050】
フェライト粒子表面の還元と酸化によって有機物の結合量を制御する本発明の方法は、有機物を含む水の処理に応用することができる。すなわち、本発明により、有機物を含有する水を活性汚泥処理して前記有機物を汚泥化し、この活性汚泥処理された水に表面を還元処理したフェライト粒子を添加し、前記汚泥化有機物に前記フェライト粒子を結合させることによって、このフェライト粒子を結合した汚泥化有機物質を含有する水に磁界勾配を作用させ、前記フェライト粒子を結合した汚泥化有機物質を磁気分離することができるので、水処理における汚泥処理の迅速化が可能である。また、この磁気分離後のフェライト粒子を結合した汚泥化有機物質を酸化処理することにより、この汚泥化有機物質と結合したフェライト粒子の結合を解除し、フェライト粒子を回収することができる。こうすることにより、沈殿の代わりに磁気分離が使用できるので処理が迅速であり、しかも磁性粒子は回収して再利用できるので省資源の面からも有利な水処理が可能である。
【0051】
(実施例1)フェライト粒子の合成および合成したフェライト粒子の表面をH流で還元し、アスパラギン酸を添加
まず共沈法により、フェライト粒子を作製した。0.1Mの塩化第1鉄8.3mLと0.1Mの塩化第2鉄の水溶液16.6mLとの混合溶液系25mLをNaOHの水溶液に滴下して共沈を行なうことにより、平均粒径8nmのフェライト粒子(マグネタイト)粒子を得た。
【0052】
このフェライト粒子を洗浄してアルカリを除去し、100mLの水中に50mMのTris−HCl緩衝剤を溶解したpH7.0の緩衝溶液にフェライト粒子0.15gを懸濁し分散させた分散液とし、これを図2に示した有機物質結合装置20のフラスコ21に収容し密閉した。
【0053】
図3の有機物質結合装置20において、フラスコ21には、緩衝溶液にフェライト粒子を分散させた分散液22が収容され、これに水素ガスなどの気体を注入する気体注入管23および気体を排気する排気管24、フェライト粒子の酸化還元状態を計測するフェライト粒子電極25および参照電極26、分散液22に有機物質溶液などを添加する添加ユニット27および有機物質溶液などの添加された分散液22をサンプリングするサンプリングユニット28が装備されている。またフェライト電極25および参照電極26間の電位差は電位差計29によって計測される。
【0054】
気体注入管23から水素を100mL/分の流速で注入し、フェライト粒子を分散させた分散液22を還元し、この還元によって生じた酸化還元電位差を電位差計29によって計測し、その時間経過を計測した結果、図4に示した結果を得た。 酸化還元電位差は水素供給開始時の−560mVから40分後には−600mVと大きく低下し、還元の進行に相当する電位差のマイナス方向への増加がみられた。
【0055】
水素供給開始後40分の時点で、アスパラギン酸1mMを添加し、さらに酸化還元電位差の変化を追うとともに、分散液をサンプリングし、フェライト粒子に対するアスパラギン酸の固定化量を測定した。その結果、フェライト粒子に対するアスパラギン酸の固定化量は、フェライト粒子1mgあたり46nmol〜50nmolと高い固定化量を示し、また還元の進行とともに増加する傾向がみられた。なお、作製したままのフェライト粒子の場合のアスパラギン酸の固定化量は後述の図7の左端に測定点が示されている通り、フェライト粒子1mgあたり約22nmolである。
【0056】
(実施例2)合成したフェライト粒子の表面を過酸化水素で酸化し、アスパラギン酸を添加
実施例1と同じ条件のフェライト粒子を懸濁し分散させた分散液を、図3に示した有機物質結合装置20のフラスコ21に収容し密閉し、これに気体注入管から過酸化水素を注入して12時間保持して酸化した。その後、未反応の過酸化水素を磁気分離を施すことにより除去した。次に空気を注入して酸化状態を保ちながら、酸化還元電位差が‐320mVとなった状態にて、アスパラギン酸1mMを添加し、さらに酸化還元電位差の変化を追うとともに、分散液をサンプリングし、フェライト粒子に対するアスパラギン酸の固定化量を測定した。この結果を図5に示した。フェライト粒子に対するアスパラギン酸の固定化量は、フェライト粒子1mgあたり8.5nmolから4.5nmolと低い固定化量を示し、また酸化還元電位差にはあまり時間変化がみられないが、フェライト粒子に対するアスパラギン酸の固定化量が時間とともに減少してゆく傾向がみられた。
【0057】
さらに150分後に、空気の注入を水素の注入に切り換えて還元を行なったところ、酸化還元電位は−600mVに向って増加し、フェライト粒子に対するアスパラギン酸の固定化量には増加の兆候がみられた。
【0058】
(実施例3)合成したフェライト粒子の表面をH流で還元し、次に空気流にて酸化しアスパラギン酸を添加
実施例1と同じ条件のフェライト粒子を懸濁し分散させた分散液を、図3に示した有機物質結合装置20のフラスコ21に収容し密閉し、アスパラギン酸1mMを添加し、これに気体注入管から水素を70分間注入して還元を行ない、次に空気を注入して酸化を行ない、酸化還元電位の変化とフェライト粒子に対するアスパラギン酸の固定化量の変化を調べた。
【0059】
図6にこれらの結果を示した。フェライト粒子に対するアスパラギン酸の固定化量は、還元処理後の酸化処理によってもフェライト粒子1mgあたり20nmolから4.5nmolと低い固定化量を示すことがわかった。
【0060】
(実施例4)合成したフェライト粒子にアスパラギン酸を添加し、その表面をH流で還元し、次に空気流にて酸化し、再びH流で還元
実施例1と同じ条件のフェライト粒子を懸濁し分散させた分散液を、図3に示した有機物質結合装置20のフラスコ21に収容し密閉し、アスパラギン酸1mMを添加し、これに気体注入管から水素を100分間注入して還元処理を行ない、次に空気を50分間注入して酸化処理を行ない、さらに水素を注入して再び還元処理を行なった。この場合の酸化還元電位の変化とフェライト粒子に対するアスパラギン酸の固定化量の変化を調べた。
【0061】
図7にこれらの結果を示した。フェライト粒子に対するアスパラギン酸の固定化量は、還元処理後の酸化によって低下し、さらに還元処理することによって再び増加を示すことがわかった。
【0062】
(実施例5)合成したフェライト粒子にシステインを添加し、その表面をH流で還元し、次に空気流にて酸化し、再びH流で還元
実施例1と同じ条件のフェライト粒子を懸濁し分散させた分散液を、図3に示した有機物質結合装置20のフラスコ21に収容し密閉し、これにシステイン1mMを添加し、これに気体注入管から水素を100分間注入して還元を行ない、次に空気を50分間注入して酸化を行ない、さらに水素を注入して還元を行なった。この場合の酸化還元電位の変化とフェライト粒子に対するシステインの固定化量の変化を調べた。
【0063】
図8にこれらの結果を示した。フェライト粒子に対するシステインの固定化量は、還元によってフェライト粒子1mgに対し120nmolに達し、酸化によって減少することが見出された。
【0064】
(実施例6)アスパラギン酸、システインおよびグリシンのフェライト粒子の表面への固定化量変化の比較
実施例1と同じ条件で作製したフェライト粒子を懸濁し分散させた分散液を、図3に示した有機物質結合装置20のフラスコ21に収容し密閉し、これに気体注入管から水素を100分間注入して粒子表面の還元を行なった。次にこの分散液にアスパラギン酸1mMを添加し、フェライト粒子に対するアスパラギン酸の固定化量を測定した。
【0065】
続いて同じ条件で作製したフェライト粒子を懸濁し分散させた分散液に、図3に示した有機物質結合装置20のフラスコ21に収容し密閉し、これに過酸化水素水を注入し粒子表面の酸化を行なった。次にこの分散液にアスパラギン酸1mMを添加し、フェライト粒子に対するアスパラギン酸の固定化量を測定した。
【0066】
次に 上記におけるアスパラギン酸をシステインに代えた以外は同じ条件にて、フェライト粒子表面を還元した場合と酸化した場合について、フェライト粒子に対するシステインの固定化量を測定した。
【0067】
さらに上記におけるアスパラギン酸またはシステインをグリシンに代えた以外は同じ条件にて、フェライト粒子表面を還元した場合と酸化した場合について、フェライト粒子に対するグリシンの固定化量を測定した。
【0068】
これらの結果を表1にまとめて示した。
【表1】

【0069】
表1において、アスパラギン酸の場合は、表面が還元された状態で固定化量が51.3nmol/フェライト粒子1mgと多く、この表面が酸化された状態では固定化量が6.3nmol/フェライト粒子1mgへと減少する。システインの場合についても、表面が還元された状態で固定化量が141.0nmol/フェライト粒子1mgであり、この表面が酸化された状態では固定化量は87.2nmol/フェライト粒子1mgへと減少する。またグリシンについても、固定化量の絶対値は小さいものの、固定化が認められており、表面が還元された状態では固定化量が多く、表面が酸化された状態では固定化量が少ないという結果が得られている。
【0070】
(実施例7)表面を処理したフェライト粒子のX線回折
図9は上記のフェライト粒子の表面処理によるX線回折パターンの変化を示した図であって、図の横軸は回折角2θ、縦軸は回折強度である。図9において、もとのフェライト粒子とあるのは処理前のフェライト粒子(マグネタイトとして製作)粒子のX線回折パターンであり、H還元したフェライト粒子とあるのはねこのフェライト粒子を水素で還元処理した後のX線回折パターンであり、またH酸化したフェライト粒子とあるのは、このフェライト粒子を過酸化水素で酸化処理した後のX線回折パターンである。
【0071】
図9の結果から、フェライト粒子を還元処理しても、スピネル構造が保たれていることがわかった。またフェライト粒子を酸化処理した場合にも同様にスピネル構造が保たれていることがわかった。
【0072】
このX線回折の結果から、フェライト粒子を構成するスピネルの格子定数の変化を求めた結果を図10に示した。図の横軸は各状態のフェライト粒子、縦軸は格子定数である。図10には、JCPDSカードに記載されたFeの格子定数値およびγ−Feの格子定数値(図のメモリ範囲外)を併せて示した。図10から、これらのスピネル構造を持つ結晶の格子定数は、2価鉄イオンの比率が多いものほど大きいという傾向がみられる。もとのフェライト粒子と記したフェライト粒子、即ちこの実施例における処理前フェライト粒子の格子定数をJCPDSカードに記載されたFeの格子定数値と比較すると、処理前のフェライト粒子(マグネタイトとして製作した)の格子定数は、JCPDSカードに記載されたFeの格子定数の値よりも少し小さく、従って2価鉄イオンの比率が少し小(3価鉄イオンの比率が少し大)であるものと推定される。
【0073】
図10から、フェライト粒子の格子定数は還元によって増加し、また酸化によって減少することがわかった。この結果は、還元によって2価鉄イオンの比率が増し、また酸化によって2価鉄イオンの比率が減っていることを示唆している。なお、図9に示された還元処理後および酸化処理後のフェライト粒子からの回折線は、もとのフェライト粒子からの回折線に比べて幅が少し広くなっている。このことから、粒子表面の還元処理によって粒子表面のみ2価鉄イオンの比率が増し、粒子の表面の格子定数だけが増加し、また粒子表面の酸化処理によって粒子表面のみ2価鉄イオンの比率が減り、粒子の表面の格子定数だけが減少し、粒子の内部には変化がなく、その結果としてそれぞれ回折線の幅を少し広げていることが推測される。
【0074】
(実施例8)ジメルカプトコハク酸で被覆されたフェライト粒子に3メルカプトプロピオン酸を結合
実施例1と同様に、0.1Mの塩化第1鉄8.3mLと0.1Mの塩化第2鉄の水溶液16.6mLとの混合溶液計25mLをNaOHの水溶液に滴下し、共沈を行なうことにより、平均粒径8nmのフェライト粒子(マグネタイト粒子)を得た。このフェライト粒子を洗浄してアルカリを除去し、100mLの水中に50mMのTris−HCl緩衝剤を溶解したpH7.0の緩衝溶液にフェライト粒子0.15gを懸濁し分散させた分散液とし、これを実施例1と同様に図4に示した有機物質結合装置20のフラスコ21に収容し密閉した。
【0075】
気体注入管23から水素を100mL/分の流速で注入し、フェライト粒子を分散させた分散液22を40分間還元した。この時点で、ジメルカプトコハク酸1mMを添加し、フェライト粒子にジメルカプトコハク酸を被覆した。
【0076】
このジメルカプトコハク酸で被覆する前と被覆した後のフェライト粒子のζ電位を測定し、その変化を調べた。その結果、被覆前のフェライト粒子のζ電位が約+211mVであったのに対し、被覆後のζ電位は約−32mVと大きく変化し、被覆によってその符号が逆転することがわかった。
【0077】
次にこのジメルカプトコハク酸で被覆されたフェライト粒子の分散液に3メルカプトプロピオン酸を添加し、このジメルカプトコハク酸被覆を介してフェライト粒子の表面に3メルカプトプロピオン酸を結合させる処理を試みた。処理後のフェライト粒子についてζ電位測定を行なった結果、約−30.5mVが得られた。
【0078】
(実施例9)ジメルカプトコハク酸で被覆されたフェライト粒子に2メルカプトエタノールを結合
実施例8と同じ条件で、ジメルカプトコハク酸を被覆したフェライト粒子の分散液に、2メルカプトエタノールを添加し作用させた。こうして処理されたフェライト粒子についてζ電位測定を行なった結果、約−30mVが得られた。
【0079】
(実施例10)ジメルカプトコハク酸で被覆されたフェライト粒子に2アミノエタンチオールを結合
実施例8と同じ条件で、ジメルカプトコハク酸を被覆したフェライト粒子の分散液に、2アミノエタンチオールを添加して作用させ、ジメルカプトコハク酸被覆に結合させた。こうして処理されたフェライト粒子のζ電位の測定を行なった結果、約+1mVが得られた。この結果は、2アミノエタンチオールのメルカプト基がフェライト粒子を被覆しているジメルカプトコハク酸によって形成されているジスルフィド結合と反応することにより、2アミノエタンチオールが粒子表面に結合し、粒子の表面に2アミノエタンチオールのアミノ基が配置されたことを示唆するものであった。
【0080】
上記実施例8〜10の要点を図11に図示した。また実施例8〜10のζ電位の測定結果を図12にまとめて示した。
【0081】
これらの結果から、フェライト粒子に結合した有機物質に形成されたジスルフィド結合にメルカプト基を有し各種の官能基を有する有機物質を結合することにより、これら各種官能基によるフェライト粒子表面の改質をすることができることがわかった。
【0082】
(比較例)フェライト粒子の分散液に、メルカプト基を有する有機物質を直接添加
フェライト粒子の分散液に、メルカプトエタノール、アミノエタンチオールおよびメルカプトプロピオン酸の各メルカプト基を有する有機物質を直接添加し、水洗浄した後のフェライト粒子のζ電位を測定した。その結果を図13に示す。この結果から、フェライト粒子の分散液にメルカプト基を有する有機物質を直接添加しただけでは、実施例8〜10にみられるようなフェライト粒子のζ電位の顕著な変化が得られないことがわかった。実施例8〜10とこの比較例との対比から、フェライト粒子に結合したメルカプト基を有する有機物質(そしてこの有機物質に形成されたジスルフィド結合)が、メルカプト基を有し各種の官能基を有する有機物質を用いたフェライト粒子の表面改質に重要な役割を果していることがわかった。
【0083】
(実施例11)システインを結合したフェライト粒子表面におけるジスルフィト結合の存在の確認
上述のシステインを結合したフェライト粒子表面において、システインのメルカプト基がジスルフィト結合を形成していることを確認するために、X線吸収端付近のスペクトル構造を分光するXANES(X-ray absorption near edge structure)分析を行った。
【0084】
図14はその結果を比較のための試料データとともに示したものである。図14において、141は還元したフェライト粒子にシステインを結合したもののXANESスペクトルであり、また142は酸化したフェライト粒子にシステインを結合したもののXANESスペクトルである。また143はシスチンのXANESスペクトルであって、ジスルフィド結合に特徴的な2本のスペクトル線を有している。これに対し、144のシステイン、145のシステインスルフィン酸、および146のシステイン酸は、ジスルフィド結合を有していないので、それらXANESスペクトルは何れもジスルフィド結合に特徴的な2本のスペクトル線を有してない。
【0085】
これらに141および142のスペクトルをこの143のスペクトルと対比し、141および142が共に143のシスチンのXANESスペクトルと同様、ジスルフィド結合に特徴的な2本のスペクトル線を有していることが明らかになった。これによってシステインを結合したフェライト粒子は表面にジスルフィド結合を有していることが明らかになった。
【0086】
またシステインを結合し還元したフェライト粒子のスペクトル141の方が、システインを結合し酸化したフェライト粒子のスペクトル142よりもジスルフィド結合に特徴的な2本のスペクトル線が強く、より多くのジスルフィド結合を有していることもわかった。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明によれば、フェライト粒子の表面の酸化還元状態を制御することにより、この表面と結合する有機物質の量を制御することができ、また、表面を還元状態にすることにより、フェライト粒子の表面に結合する有機物質の量を高めることができる。さらにフェライト粒子を被覆したメルカプト基を有する有機結合物質に形成されたジスルフィド結合に対し、メルカプト基を有する有機表面修飾物質を交換結合によって結合させることにより、この有機表面修飾物質で表面修飾されたフェライト粒子を得ることができ、使用目的に合ったさまざまな表面の性質を有する粒子を用いることが可能となった。これらの方法を用いることにより、MRI用造影剤として高い造影能を得ることができるほか、温熱療法(ハイパーサーミア)担体、ドラッグデリバリーなどの用途に優れた性質を示す粒子を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】本発明の有機物質がフェライト粒子に結合した複合粒子の製造方法の一実施形態を流れ図によって示した図である。
【図2】本発明のメルカプト基を有する有機物質がフェライト粒子に結合した複合粒子を製造する方法の一形態を流れ図によって示した図である。
【図3】本発明の有機物質がフェライト粒子に結合した複合粒子の製造方法の一実施例に用いた有機物質結合装置を示した図である。
【図4】実施例1における還元によって生じた酸化還元電位差およびアスパラギン酸の固定化量の時間変化を示した図である。
【図5】実施例2における酸化によって生じた酸化還元電位差およびアスパラギン酸の固定化量の時間変化を示した図である。
【図6】実施例3における還元および酸化によって生じた酸化還元電位差およびアスパラギン酸の固定化量の時間変化を示した図である。
【図7】実施例4における還元および酸化によって生じた酸化還元電位差およびアスパラギン酸の固定化量の時間変化を示した図である。
【図8】実施例5における還元および酸化によって生じた酸化還元電位差およびシステインの固定化量の時間変化を示した図である。
【図9】フェライト粒子の表面処理によるX線回折パターンの変化を示した図である。
【図10】フェライト粒子を構成するスピネルの格子定数の変化を示した図である。
【図11】実施例8〜10のプロセスの要点を示した図である。
【図12】実施例8〜10におけるζ電位の測定結果を示した図である。
【図13】比較例におけるζ電位の測定結果を示した図である。
【図14】システインを結合したフェライト粒子のXANES(分析結果)を示した図である。
【符号の説明】
【0089】
11…フェライト粒子、12…水中に懸濁する工程、13…表面処理工程、14…有機物質、15…有機物質を結合する工程、16…有機物質とフェライト粒子とが結合した複合粒子、21…フェライト粒子、22…水中に懸濁する工程、23…フェライトに結合しジスルフィド結合を形成する有機物質、24…フェライトに結合しジスルフィド結合を形成する有機物質を結合する工程、25…メルカプト基を有する有機物質、26…メルカプト基を有する有機物質を結合する工程、27…フェライト粒子とメルカプト基を有する有機物質とが結合した複合粒子、30…有機物質結合装置、31…フラスコ、32…分散液、33…気体注入管、34…排気管、35…フェライト粒子電極、36…参照電極、37…注入ユニット、38…サンプリングユニット、39…電位差計、111…フェライト粒子、141…システインを結合し還元したフェライト粒子のXANESスペクトル、142…システインを結合し酸化したフェライト粒子のXANESスペクトル、143…シスチンのXANESスペクトル、144…システインのXANESスペクトル、145…システインスルフィン酸のXANESスペクトル、146…システイン酸のXANESスペクトル。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フェライトの表面に対し還元または酸化の表面処理を行う表面処理工程と、
前記表面処理されたフェライトの表面に有機物質を結合させる有機物質結合工程と
を備えたことを特徴とする有機物質とフェライトとの複合体の製造方法。
【請求項2】
フェライト粒子を浸漬した溶媒に還元性の物質を添加し、前記フェライト粒子の表面を還元処理する還元処理工程と、
前記フェライト粒子を浸漬した溶媒に有機物質を添加し、還元処理された前記フェライト粒子に前記有機物質を結合させる有機物質結合工程と
を備えたことを特徴とする有機物質とフェライト粒子との複合粒子の製造方法。
【請求項3】
前記還元性の物質が水素ガスであることを特徴とする請求項2記載の有機物質とフェライト粒子との複合粒子の製造方法。
【請求項4】
フェライト粒子を浸漬した溶媒に酸化性の物質を添加し、前記フェライト粒子の表面を酸化処理する酸化処理工程と、
前記フェライト粒子を浸漬した溶媒に有機物質を添加し、前記フェライト粒子に前記有機物質を結合させる有機物質結合工程と
を備えたことを特徴とする有機物質とフェライト粒子との複合粒子の製造方法。
【請求項5】
前記有機物質が、アニオン性を示す官能基を有する有機物質であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項記載の有機物質とフェライト粒子との複合粒子の製造方法。
【請求項6】
前記アニオン性を示す官能基が、カルボキシル基、メルカプト基、リン酸基およびスルホン酸基からなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項5記載の有機物質とフェライト粒子との複合粒子の製造方法。
【請求項7】
前記有機物質が、前記アニオン性を示す官能基に加えて、他の有機物質と結合する機能を持つ官能基を有することを特徴とする請求項5記載の有機物質とフェライト粒子との複合粒子の製造方法。
【請求項8】
前記有機物質が、
アミノ酸、ペプチド、たんぱく質、核酸、糖および脂質からなる群より選ばれる生体由来の有機物質であることを特徴とする請求項5記載の有機物質とフェライト粒子との複合粒子の製造方法。
【請求項9】
前記生体由来の有機物質が、メルカプト基を有することを特徴とする請求項8記載の有機物質とフェライト粒子との複合粒子の製造方法。
【請求項10】
還元または酸化の表面処理がなされた表面を有するフェライト粒子と、
前記フェライト粒子の表面に結合した有機物質と
を備えたことを特徴とする有機物質とフェライト粒子との複合粒子。
【請求項11】
表面における鉄原子の平均の価数が8/3未満であるフェライト粒子と、
前記フェライト粒子の表面に結合した有機物質と
を備えたことを特徴とする有機物質とフェライト粒子との複合粒子。
【請求項12】
前記フェライト粒子の平均粒径が2nm以上100nm以下であることを特徴とする請求項10または11記載の有機物質とフェライト粒子との複合粒子。
【請求項13】
前記有機物質が、アニオン性を示す官能基を有することを特徴とする請求項10〜12のいずれか1項記載の有機物質とフェライト粒子との複合粒子。
【請求項14】
前記アニオン性を示す官能基が、カルボキシル基、メルカプト基、リン酸基およびスルホン酸基からなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項13記載の有機物質とフェライト粒子との複合粒子。
【請求項15】
前記有機物質が、前記アニオン性を示す官能基に加えて、他の有機物質と結合する機能を持つ官能基を有することを特徴とする請求項13または14記載の有機物質とフェライト粒子との複合粒子。
【請求項16】
前記有機物質が、アミノ酸、ペプチド、たんぱく質、核酸、糖および脂質からなる群より選ばれる生体由来の有機物質であるであることを特徴とする請求項10または11記載の有機物質とフェライト粒子との複合粒子。
【請求項17】
前記生体由来の有機物質が、メルカプト基を有することを特徴とする請求項15記載の有機物質とフェライト粒子との複合粒子。
【請求項18】
還元処理された表面を有するフェライト粒子と、前記フェライト粒子表面に結合された生体親和性の有機物質とを備えたことを特徴とするMRI造影剤。
【請求項19】
還元処理された表面を有するフェライト粒子と、前記フェライト粒子表面を被覆する有機物質と、前記有機物質に結合したアフィニティリガンドとを備えたことを特徴とするアフィニティビース。
【請求項20】
還元処理された表面を有するフェライト粒子と、前記フェライト粒子表面に結合した有機物質とを備えた有機物質とフェライト粒子との複合粒子を液体中に懸濁させたことを特徴とする磁性流体。
【請求項21】
フェライト粒子と、
前記フェライト粒子表面に結合したカルボキシル基、水酸基、スルホン酸基、リン酸基、アミノ基およびアルデヒド基(ホルミル基) からなる群から選ばれる少なくとも1種の官能基、並びにメルカプト基を有し、前記フェライト粒子表面を被覆し、前記メルカプト基由来のジスルフィド結合を形成している有機結合物質と
を備えたことを特徴とする有機物質とフェライト粒子との複合粒子。
【請求項22】
フェライト粒子と、
前記フェライト粒子表面に結合したカルボキシル基、水酸基、スルホン酸基、リン酸基、アミノ基およびアルデヒド基(ホルミル基) からなる群から選ばれる少なくとも1種の官能基、並びにメルカプト基を有し、前記フェライト粒子表面を被覆し、前記メルカプト基由来のジスルフィド結合を形成している有機結合物質と、
メルカプト基を有し、前記ジスルフィド結合とジスルフィド交換反応により前記有機結合物質に結合した有機表面修飾物質と
を有することを特徴とする有機物質とフェライト粒子との複合粒子。
【請求項23】
前記有機結合物質が、1分子中に複数個のメルカプト基を有することを特徴とする請求項21または22記載の有機物質とフェライト粒子との複合粒子。
【請求項24】
前記有機結合物質がジメルカプトコハク酸であることを特徴とする請求項21〜23のいずれか1項記載の有機物質とフェライト粒子との複合粒子。
【請求項25】
前記有機表面修飾物質が水和性の官能基を有することを特徴とする請求項21〜24のいずれか1項記載の有機物質とフェライト粒子との複合粒子。
【請求項26】
前記有機表面修飾物質が核酸、ペプチド、たんぱく質、単糖、多糖、ポリエチレングリコールおよびこれらの誘導体からなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項21〜25のいずれか1項記載の有機物質とフェライト粒子との複合粒子。
【請求項27】
フェライト粒子と、前記フェライト粒子表面に結合したカルボキシル基、水酸基、スルホン酸基、リン酸基、アミノ基およびアルデヒド基(ホルミル基) からなる群から選ばれる少なくとも1種の官能基並びにメルカプト基を有し、前記フェライト粒子表面を被覆し、前記メルカプト基由来のジスルフィド結合を有する有機結合物質と、メルカプト基を有し、前記ジスルフィド結合により前記有機結合物質に結合した有機表面修飾物質とを有することを特徴とする生体内利用の複合フェライト粒子。
【請求項28】
有機物を含有する水を活性汚泥処理して前記有機物を汚泥化する活性汚泥処理工程と、
前記活性汚泥処理された水に表面を還元処理したフェライト粒子を添加し、前記汚泥化有機物に前記フェライト粒子を結合させるフェライト結合工程と、
前記フェライト粒子を結合した汚泥化有機物質を含有する水に磁界勾配を作用させ、前記フェライト粒子を結合した汚泥化有機物質を磁気分離する磁気分離工程と
を備えたことを特徴とする水処理方法。
【請求項29】
前記磁気分離後のフェライト粒子を結合した汚泥化有機物質を酸化処理し、前記汚泥化有機物質と結合した前記フェライト粒子の結合を解除し、前記フェライト粒子を回収する工程を備えたことを特徴とする請求項28記載の水処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2007−70195(P2007−70195A)
【公開日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−261823(P2005−261823)
【出願日】平成17年9月9日(2005.9.9)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【Fターム(参考)】