説明

有機被覆の除去のための組成物及び方法

本発明は、有機被覆を基板から除去するための組成物であって、該組成物の全質量に対して、約5質量%〜約90質量%の極性溶剤、約0.01質量%〜約50質量%のアルカリ性化合物、及び約100ppm〜約15質量%の金属腐食防止剤を含む組成物に関する。本発明の組成物は、有機被覆を効率的に除去するが、金属基板の表面を損傷しない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機被覆の除去のための組成物、特に液晶ディスプレイ及び半導体デバイスの保護被膜もしくは絶縁被膜として使用される有機被覆の除去のための組成物並びに前記組成物を用いる除去方法に関する。
【0002】
発明の背景
エッチング工程は、液晶ディスプレイ及び半導体産業におけるリソグラフィー法の最も重要な工程の1つであると見なすことができる。一般に、ホトレジストマスク上のエレメントパターンは、リソグラフィー法によりホトレジスト上に転写される。次いで、薄膜上に全パターンを転写するための最終的な目標は、エッチング法によって達成される。このリソグラフィーとエッチングがなされる被膜は、後に液晶ディスプレイもしくは半導体エレメントの一部となる。
【0003】
例えば、液晶ディスプレイの通常の製造方法において、ポリイミド(PI)前駆物質の有機被覆は、一般に金属電極を有するガラス基板上に形成され、引き続き該有機被覆上にパターン形成されたホトレジストが形成される。次いで、暴露された有機被覆をエッチングし、そしてホトレジスト除去液をガラス基板上で利用して、ホトレジストマスクを除去し、こうしてエッチングされたポリイミド前駆物質が形成される。次いで、該ポリイミド前駆物質を加熱することで、ポリイミド被覆が形成される。ポリイミドは、広く用いられる耐熱性プラスチックであり、それは絶縁被覆として使用でき、かつ基板上の金属層の酸化を防ぐことができる。
【0004】
リソグラフィー法により製造されたエレメント中に欠陥がある場合に、例えば半導体パッケージング工程でアルミニウムワイヤ上の保護被膜が薄すぎるか厚すぎる場合に、又は導電性ワイヤの幅が狭すぎるか広すぎる場合に、その保護被膜が除去されることがあるので、新たな保護被膜を形成させることがある。こうして、金属電極を有するガラス基板は、リサイクルして再利用することができる。
【0005】
エッチングされた有機被覆をガラス基板から除去するための慣用の方法は、危険なアルカリ性の液体、例えば加熱された水酸化ナトリウム水溶液又はヒドラジン水溶液を使用する。アルカリ性の液体の使用は完全に有機被覆を除去できるものの、処理時間をよく制御する必要がある。加えて、幾つかのガラス基板は、該アルカリ性の液体によって溶解され、金属層の腐食が引き起こされる。
【0006】
発明の要約
上述の欠点を排除するために、本発明は、有機被覆を除去するための組成物であって、安全かつ効率的に該有機被覆をガラス基板から金属基板の表面を損傷することなく除去できる組成物を提供する。
【0007】
更に、本発明は、有機被覆の除去のための方法において、有機被覆を含む金属基板と、有機被覆を除去するための組成物とを接触させて、該有機被覆を基板から、該金属基板の表面を損傷することなく除去することを含む方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】図1は、基板上のエッチングされたポリイミドを示している。
【図2】図2は、慣用の組成物によって清浄化された図1におけるポリイミドを示している。
【図3】図3は、本発明の実施態様1の組成物によって清浄化された図1におけるポリイミドを示している。
【0009】
発明の詳細な説明
本発明の有機被覆を除去するための組成物は、該組成物の全質量に対して、約5質量%〜約90質量%の極性溶剤、約0.01質量%〜約50質量%のアルカリ性化合物、及び約100ppm〜約15質量%の金属腐食防止剤を含む。
【0010】
本発明の有機被覆を除去するための組成物によって効率的に除去することができる有機被覆には、それらに制限されないが、ポリイミド被覆及びアクリル樹脂、ノボラック樹脂、エポキシ樹脂もしくはポリビニルアルコール樹脂によって形成される被覆、有利にはポリイミド被覆が含まれる。
【0011】
本発明で使用される極性溶剤は、前記有機被覆に優れた親和性を有する溶剤、有利には非プロトン性の水性有機溶剤、例えばそれらに制限されないが、グリコール化合物、N−メチルピロリドン(NMP)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAC)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)及びそれらの混合物である。
【0012】
本発明において極性溶剤として使用するのに適したグリコール化合物は、有利にはカルビトール及びその誘導体、例えばそれらに制限されないが、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(BDG)、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールアセテートモノブチルエーテル及びそれらの混合物である。
【0013】
本発明で使用される極性溶剤の含有率は、前記組成物の全質量に対して、約5質量%〜約90質量%、有利には約20質量%〜約85質量%である。
【0014】
本発明で使用されるアルカリ性化合物は、有利には、アミノアルコール化合物、第四級アミン化合物及びそれらの混合物からなる群から選択される。
【0015】
本発明においてアルカリ性化合物として使用するのに適したアミノアルコール化合物は、有利にはモノエタノールアミン(MEA)、N−メチルエタノールアミン、N,N−ジメチルエタノールアミン、N−エチルエタノールアミン、N−メチル−N−エチルエタノールアミン、N,N−ジエチルエタノールアミン及びそれらの混合物からなる群から選択される。
【0016】
本発明でアルカリ性化合物として使用するのに適した第四級アミン化合物は、有利には水酸化トリメチルアニリニウム、水酸化ベンジルトリメチルアンモニウム、水酸化コリン、水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)、水酸化テトラプロピルアンモニウム及びそれらの混合物からなる群から選択される。
【0017】
本発明で使用されるアルカリ性化合物の含有率は、前記組成物の全質量に対して、約0.01質量%〜約50質量%、有利には約0.1質量%〜約50質量%である。
【0018】
本発明で使用される金属腐食防止剤は、有利にはベンゾトリアゾール誘導体、糖アルコール誘導体及び有機フェノール化合物並びにそれらの混合物からなる群から選択される。
【0019】
本発明で金属腐食防止剤として使用するのに適した糖アルコール誘導体は、有利にはマルチトール、ポリデキストロース、キシリトール、ラクチトール、マンニトール、マルチトールシロップ、イソマルチトール、ソルビトール及びそれらの混合物からなる群から選択される。
【0020】
本発明で金属腐食防止剤として使用するのに適した有機フェノール化合物は、有利にはカテコールである。
【0021】
本発明で使用される金属腐食防止剤の含有率は、前記組成物の全質量に対して、約100ppm〜約15質量%、有利には約500ppm〜約12質量%である。
【0022】
本発明の有機被覆を除去するための組成物は、場合により、当業者によく知られた追加成分、例えば表面張力を下げるための又は有機被覆の基板への付着を防ぐための界面活性剤を含む。
【0023】
極性溶剤及びアルカリ性化合物は有機被覆に対して優れた親和性を有するので、本発明の組成物は、有機被覆をガラス基板から効率的に除去することができる。加えて、ガラス基板上の金属層がエッチングされることを防ぐために、本発明の組成物は、金属基板の表面の損傷を防ぐことができる金属腐食防止剤を含み、こうして有機被覆が除去される金属基板をリサイクルして再利用することができる。
【0024】
更に、本発明は、有機被覆の除去のための方法において、有機被覆を含む金属基板と、有機被覆を除去するための組成物とを接触させて、該有機被覆を基板から、金属基板の表面を損傷することなく除去することを含む方法を提供する。
【0025】
該方法において、好ましい除去温度の範囲は、約40℃〜約90℃であり、かつ好ましい除去時間の範囲は、約5分〜約30分である。
【0026】
本発明を、以下の実施例を参考にして詳細に説明するが、それに制限されるものではない。当業者によって容易に達成できる如何なる変更及び改変も本願明細書及び特許請求の範囲の開示範囲に含まれる。
【0027】
実施態様
(1)有機被覆の除去作用の試験:
A. 以下の第1表中の有機被覆を除去するための組成物を調製した。
【0028】
第1表
【表1】

【0029】
B. エッチングされたポリイミドを有する金属基板を、ポリイミドの除去のための組成物中で約5分〜約30分にわたり約40℃〜約90℃の範囲の温度で浸漬させた。結果を、第2表に示した。
【0030】
【表2】

【0031】
C. 該金属基板を脱イオン水で洗浄した。
【0032】
D. 該金属基板を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察して、該金属基板上に如何なる残分のポリイミドがあるかどうかを確認した。
【0033】
図1〜3は、走査型電子顕微鏡写真である。図1は、基板上のエッチングされたポリイミドを示している。図2は、慣用の組成物により清浄化されたポリイミドを示しており、そこではエッチングされたポリイミドは完全に除去されなかった。図3は、本発明の実施態様1の組成物によって清浄化されたポリイミドを示しており、そこでは好ましいポリイミド除去作用が明らかに示されている。
【0034】
(2)金属腐食試験:
A. ポリイミドを除去するための組成物であって、金属腐食防止剤(例えば糖アルコール誘導体もしくは有機フェノール化合物)を含むものと金属腐食防止剤を含まないものを調製した。
【0035】
B. エッチングされたポリイミドを有する金属基板を、ポリイミドの除去のための組成物中で約5分〜約30分にわたり約4℃〜約90℃の範囲の温度で浸漬させた。
【0036】
C. 該金属基板を脱イオン水で洗浄した。
【0037】
D. 基板上の金属導電体のエッチング速度を、四点プローブ法によって測定した。
【0038】
実験結果を、第3表に示した。金属腐食防止剤を含まない組成物と比較して、有機被覆を除去するための本発明の金属腐食防止剤を含む組成物は、金属基板のエッチング速度を効果的に低下することができ、かつ該金属基板の表面への損傷を防ぐことができる。
【0039】
第3表
【表3】

【0040】
本発明は前記のように好ましい実施態様とともに開示されるが、それらの実施態様は本発明を制限することを目的とするものではない。如何なる当業者も本発明の主旨の範囲から逸脱することなく幾らかの改変及び変更を行うことができることは明白である。前記のことを考慮して、本発明によって保護される権利範囲は、特許請求の範囲によって定義されるべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機被覆を除去するための組成物であって、該組成物の全質量に対して、約5質量%〜約90質量%の極性溶剤、約0.01質量%〜約50質量%のアルカリ性化合物、及び約100ppm〜約15質量%の金属腐食防止剤を含む、有機被覆を除去するための組成物。
【請求項2】
有機被覆がポリイミド被覆である、請求項1に記載の有機被覆を除去するための組成物。
【請求項3】
極性溶剤が、グリコール化合物、N−メチルピロリドン(NMP)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAC)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)及びそれらの混合物からなる群から選択される、請求項1に記載の有機被覆を除去するための組成物。
【請求項4】
グリコール化合物が、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(BDG)、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールアセテートモノブチルエーテル及びそれらの混合物からなる群から選択される、請求項3に記載の有機被覆を除去するための組成物。
【請求項5】
アルカリ性化合物が、アミノアルコール化合物、第四級アミン化合物及びそれらの混合物からなる群から選択される、請求項1に記載の有機被覆を除去するための組成物。
【請求項6】
アミノアルコール化合物が、モノエタノールアミン(MEA)、N−メチルエタノールアミン、N,N−ジメチルエタノールアミン、N−エチルエタノールアミン、N−メチル−N−エチルエタノールアミン、N,N−ジエチルエタノールアミン及びそれらの混合物からなる群から選択される、請求項5に記載の有機被覆を除去するための組成物。
【請求項7】
第四級アミン化合物が、水酸化トリメチルアニリニウム、水酸化ベンジルトリメチルアンモニウム、水酸化コリン、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラプロピルアンモニウム及びそれらの混合物からなる群から選択される、請求項5に記載の有機被覆を除去するための組成物。
【請求項8】
金属腐食防止剤が、ベンゾトリアゾール誘導体、糖アルコール誘導体及び有機フェノール化合物並びにそれらの混合物からなる群から選択される、請求項1に記載の有機被覆を除去するための組成物。
【請求項9】
糖アルコール誘導体が、マルチトール、ポリデキストロース、キシリトール、ラクチトール、マンニトール、マルチトールシロップ、イソマルチトール、ソルビトール及びそれらの混合物からなる群から選択される、請求項8に記載の有機被覆を除去するための組成物。
【請求項10】
有機フェノール化合物がカテコールである、請求項8に記載の有機被覆を除去するための組成物。
【請求項11】
有機被覆を除去するための方法において、有機被覆を含む金属基板と、請求項1から10までのいずれか1項に記載の有機被覆を除去するための組成物とを接触させて、有機被覆を前記基板から除去することを含む方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2010−514875(P2010−514875A)
【公表日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−543488(P2009−543488)
【出願日】平成20年1月7日(2008.1.7)
【国際出願番号】PCT/EP2008/050080
【国際公開番号】WO2008/081045
【国際公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【出願人】(508020155)ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア (2,842)
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】D−67056 Ludwigshafen, Germany
【Fターム(参考)】