説明

有機複合被覆鋼板

【目的】良好な耐食性を維持しつつ、耐黒変性に優れかつ疵等が発生しにくい有機複合被覆鋼板を提供する。
【構成】有機複合被覆鋼板は、亜鉛や亜鉛系合金めっき層上にクロメート処理層を金属クロム換算で1〜200mg/m2 の付着量で設け、このクロメート処理層上に厚さ0.1〜5μmの樹脂皮膜を形成したもので、この樹脂皮膜は、エチレンとα,β−エチレン性不飽和カルボン酸の共重合体を主鎖成分とし、カルボキシル基の60〜80%を金属イオンで中和したエチレン系アイオノマー樹脂に、1〜50重量%の範囲でシリカ微粒子が含まれた複合化樹脂である。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】この発明は、亜鉛系めっきが施された鋼板の上にクロメート処理層及び樹脂皮膜を形成した有機複合皮膜鋼板に関する。このような有機複合皮膜鋼板は、主に家電製品又は建材等に用いられる。
【0002】
【従来の技術】亜鉛又は亜鉛系合金めっき鋼板(以下、亜鉛系めっき鋼板と略記する)は、耐食性に優れていることから、各種の産業分野において広く使用されている。特に、家電製品の用途においては、従来塗装して使用していた部材を無塗装のまま適用するものが増加しており、そのため無塗装での耐食性はもちろんのこと、無塗装での良好な外観が要求される。
【0003】耐食性に関しては、一次防錆としての一般のクロメート処理に代えて、塩水噴霧試験で白錆発生時間が100時間程度の耐食クロメート処理を施すことにより、ある程度要求が満たされている。しかしながら、これらクロメート処理鋼板が未塗装状態で保管される場合、特に高温・湿潤環境下に保管される場合、表面が部分的にあるいは全体に亘って経時的に黒っぽく変色する、いわゆる黒変現象が発生することがあり、外観的に商品価値を著しく損なうといった問題が生じる。
【0004】黒変は、初期の腐蝕現象と考えられており、保管中に水分や酸素がクロメート処理皮膜を通し、めっき表層において酸化物、水酸化物あるいは水和酸化物等を生成して、可視光を吸収・散乱しやすい形態になることが黒く見える原因と考えられている。この反応は、亜鉛めっき層中に微量残存する鉛、アルミニウム等が亜鉛のアノード化を促進することによって生じたり、めっき層表層に付着した異物又は不純物(例えば、SO4 2-やCl- 等のめっき浴成分、クロメート浴中の不純物イオン、あるいは油分)の不均一な付着によって一層促進される。
【0005】このような現象を考慮して、亜鉛系めっき鋼板の耐黒変性を向上させるため、めっき層中の不純物の濃度管理や、めっき後の表面の洗浄強化等を行っているが、必ずしも十分な効果が得られていない。
【0006】このような背景において、めっき又はクロメート処理の観点から黒変を防止するという要求に答えるべく、特開昭60−63385号公報、特開昭60−77988号公報、特開平2−8374号公報等のいくつかの技術が提案されている。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】これら先行技術は、めっき層を安定化させることにより、黒変反応を促進する反応型クロメート処理層の不均一形成を抑制するものや、クロメート処理又はめっき層とクロメート処理とを改良することによって黒変を抑制しようとするものであり、比較的マイルドな保管状態においては効果が認められる。しかし、高温湿潤の厳しい環境においては、黒変抑制効果は不十分であり、耐黒変性やクロム溶出に伴う耐退色性と耐食性とを同時に満足することができないものであった。さらに、これらの技術における鋼板は、スリット加工、搬送等の工程においてハンドリング疵が付きやすく、その部分での耐食性劣化を回避することができない。
【0008】一方、亜鉛系メッキ鋼板として、クロメート処理層の上に樹脂層を設けたもの例えば、特開平3−136840号公報、特開平2−48941号公報のような技術も提案されているが、耐黒変性の改善を目的とするものはなく、また実際に試験すると耐黒変性が悪いのが実情である。
【0009】本発明者らは、亜鉛系めっき鋼板における上記課題を解決すべく、鋭意研究を重ねた結果、亜鉛系めっき鋼板のめっき層上に、クロメート処理層を形成し、その上に樹脂皮膜層を形成する際に、樹脂皮膜層として特定範囲の厚さを有するエチレンとα,β−エチレン性不飽和カルボン酸とを主鎖成分とし、カルボキシル基の60〜80%を金属イオンで中和したエチレン系アイオノマー樹脂にシリカ微粒子が含まれた複合化樹脂を主体としたものとすることにより、80℃レベルの低い皮膜乾燥温度でも良好な耐食性を維持しつつ、その分子構造に起因したバリヤ効果によって耐黒変性が向上し、かつ耐疵性等も向上することを見出した。
【0010】この発明は、上記知見に基づいてなされたものであって、良好な耐食性を維持しつつ、耐黒変性に優れかつ疵等が発生しにくい有機複合被覆鋼板を提供することを目的とする。
【0011】
【課題を解決するための手段】この発明の有機複合被覆鋼板は、鋼板と、鋼板上に施された亜鉛又は亜鉛系合金めっき層と、このめっき層上に形成され、金属クロム換算で1〜200mg/m2 の付着量を有するクロメート処理層と、このクロメート処理層上に形成された厚さ0.1乃至5μmの樹脂皮膜とを具備し、この樹脂皮膜が、エチレンとα,β−エチレン性不飽和カルボン酸の共重合体を主鎖成分とし、かつカルボキシル基の60〜80%を金属イオンで中和したエチレン系アイオノマー樹脂に、シリカ微粒子を含み、シリカ微粒子の含有割合が樹脂とシリカ微粒子との合計に対して1〜50重量%の範囲である。すなわち、本発明においては、亜鉛系めっき鋼板の表面にクロメート処理層が形成され、その上に複合化樹脂を主成分とする皮膜が形成されている。
【0012】
【作用】上記亜鉛系めっき鋼板としては、黒変発生が特に懸念される電気純亜鉛めっき鋼板、及び電気めっき法又は溶融めっき法によってめっき層が形成された他の亜鉛又は亜鉛系合金めっき鋼板が挙げられる。
【0013】上記クロメート処理層を形成するクロメート処理としては、反応型、塗布型、電解型等公知のクロメート処理によればよいが、クロム付着量が金属クロム換算で鋼板片面当たり1〜200mg/m2 、好ましくは10〜100mg/m2 のクロメート層を形成する必要がある。付着量が1mg/m2 未満では耐食性が不十分であり、また200mg/m2 を超えると、その量に見合った耐食性向上効果を得ることができないのみならず、鋼板の変形を伴う曲げ加工などが施された場合に、クロメート処理層の凝集破壊が発生しやすくなる。
【0014】クロメート処理液の具体例を挙げると、反応型クロメート処理液の組成としては、金属クロム換算で1〜100g/lの水溶性クロム化合物と、0.2〜20g/lの硫酸とを主成分とするものが挙げられ、かつ全クロム中の3価クロムの含有量が50重量%以下、好ましくは20〜35重量%以下であって、必要に応じてこれらに適量の金属イオン、例えばZn2+、Co2+、Fe3+等と他の鉱酸例えばリン酸、フッ酸等を加えたものであってもよい。
【0015】塗布型クロメート処理液の具体例としては、上記反応型クロメート処理液と同様の組成の液中に、粒径数nmから数十nmのシリカゾル、ヒュームドシリカ、又は/及び分子中に多量のカルボキシル基を含有する水溶性でかつ上記反応型クロメート処理液と同様の組成の液と相溶性のある有機高分子樹脂を添加し、pHを2.0〜3.5に調整したものが挙げられる。この有機高分子樹脂としては、平均分子量1000〜500000であることが好ましい。その添加量は一般に樹脂分に換算して0.02〜30g/lの範囲である。
【0016】いずれにしても、第1層としてのクロメート層の付着量は、上述したように、金属クロム換算で1〜200mg/m2 の範囲であればよい。本発明において、上層として形成される樹脂皮膜の主成分は、エチレンとα,β−エチレン性不飽和カルボン酸、及び必要に応じて、他の共重合が可能な成分との共重合体を主鎖の基本構造とし、カルボキシル基の60〜80%を金属イオンで中和したエチレン系アイオノマー樹脂である。前記エチレン系アイオノマー樹脂は、α,β−エチレン性不飽和カルボン酸の含有量が好ましくは3〜40モル%のエチレンと、α,β−エチレン性不飽和カルボン酸及び必要に応じて使用されるその他の共重合体成分との共重合体のカルボキシル基を特定のイオンやイオン化合物で中和した高分子である。
【0017】ここで、エチレン中のα,β−エチレン性不飽和カルボン酸の量が40モル%を超えると、親水性が高くなり、皮膜としての耐黒変性及び耐食性が低下しやすいため好ましくない。また、その量が3モル%未満になると、下地である鋼板側との付着力が低下し、望ましい皮膜が得られにくい。
【0018】本発明におけるエチレン系アイオノマー樹脂中のα,β−エチレン性不飽和カルボン酸には、アクリル酸、メタクリル酸、フマール酸、イタコン酸、マレイン酸等があるが、特に厳しい環境における耐黒変性、耐食性等の品質に着目すると、メタクリル酸が特に優れている。
【0019】共重合体の分子量としては、通常、重量平均分子量1万〜20万のものが好ましく、5万〜15万のものが特に好ましい。また、カルボン酸の中和に用いられるイオンとしては、リチウム、ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属、及びマグネシウム、カルシウムなどのアルカリ土類金属の金属イオン、遷移金属の水酸化物等の金属化合物イオンの他に、有機アミンと遷移金属との錯イオンが挙げられるが、耐黒変性、耐食性あるいは薬液安定性の点からナトリウムイオンが特に好ましい。
【0020】中和度としては、低い皮膜乾燥温度例えばめっき製造ラインでのインライン処理を想定すると80℃レベルの低い温度においても良好な耐黒変性、耐食性を得る観点から、60〜80%の範囲とする。60%未満では耐黒変性が不十分であり、80%を超えると粘度が高くなって薬液安定性が低下し、さらに吸湿性が高くなるため耐黒変性、耐食性が低下する。
【0021】本発明においては、樹脂層を構成する樹脂がイオン架橋構造を有しているため、皮膜特性の劣化の原因になり得る乳化剤を用いることなく水分散型の塗液にすることが可能であり、容易に鋼板表面へ薄膜コーティングすることができる。乾燥された皮膜は、下地と強く密着し、かつ化学的に安定であるため、このような皮膜が形成された鋼板は優れた耐黒変性及び耐食性を示す。また、この鋼板は強固に樹脂皮膜が形成されていることから、疵が発生しにくい。
【0022】上記複合化樹脂は、シリカ微粒子あるいはシラン化合物とシリカ微粒子を複合化することにより耐食性を飛躍的に向上させることができる。本発明で用いるシリカ微粒子としては、一次粒子径が50nm以下、二次粒子径が500nm以下の超微細な無定形のシリカ粒子を用いるのが好適である。一次粒子径が50nmを越えると乾燥後皮膜にクラックが入ってしまうため、緻密な皮膜が形成しがたく、耐食性が劣化しやすい。シリカ微粒子は、粒子表面にシラノール基を有しており、市場への供給形態によって例えば以下の3種類に分類され、いずれも本発明に適用することができる。
【0023】(1)シリカ微粉末一般に乾式シリカと称され、一次粒子径が50nm以下のものであり、四塩化ケイ素の燃焼によって製造される。このシリカ微粉末は水分散液又は有機溶剤分散液のいずれかの形態で使用される。
【0024】(2)有機溶剤分散性シリカいわゆるオルガノシリカゾルであって、例えば米国特許第2,285,449号に記載されている製造方法によって有機溶剤に分散されたものが挙げられる。すなわち、コロイダルシリカ水分散液における水を有機溶剤で置換したシリカゾルであって、メタノール、イソプロパノール、ブチルセロソルブなどのアルコール類を分散媒体にしたものが特に有用である。
【0025】(3)水分散性シリカいわゆるコロイダルシリカであって、水ガラスの脱ナトリウム(イオン交換法、酸分解法、解膠法などによる)によって製造され、一次粒子径が50nm以下である。この水分散性シリカは通常水性分散液として供給される。
【0026】本発明におけるシリカ微粒子とエチレン系アイオノマー樹脂との配合割合は、耐食性及び皮膜の可撓性の点から、シリカ微粒子が樹脂とシリカ微粒子との合計に対して1〜50重量%の範囲で含まれるようにする。1重量%未満の場合は耐食性が低下する。50重量%を超えると耐食性向上効果は認められず、また、樹脂液が増粘しすぎてしまい、コーティングしにくくなってしまうため、皮膜形成が不完全となってしまい、耐食性、耐黒変性が低下する。
【0027】本発明で、樹脂中に配合し、前記エチレン系アイオノマー樹脂と反応せしめられる分子中に1個の珪素原子と2〜4個のシリルエーテル結合を有するシラン化合物は、分子中のケイ素原子1個に対して2個乃至4個のアルコキシ基、アリルオキシ基、又はアリールオキシ基が結合した化合物である。これらの化合物の縮合物も前記アイオノマー樹脂との反応に使用することができ、上記シラン化合物及びこれらの化合物の縮合物(以下、反応性シランと略称する。)としては、具体的には以下の(1)及び(2)の一般式で示される構造を有するものが挙げられる。
(1)一般式
【0028】
【化1】


(R1 はアルコキシ基を含有してもよい炭素数1〜8のアルキル基、アリル基、又はアリール基、mは0〜11の整数を表す)により示されるテトラアルキル(又はテトラアリール、若しくはテトラアリル)オルトシリケート又はこれらのオルトシリケート類の縮合物であるポリシリケート類である。具体的には例えばメチルオルトシリケート、エチルオルトシリケート、n−プロピルオルトシリケート、n−ブチルオルトシリケート、n−オクチルオルトシリケート、フェニルオルトシリケート、ベンジルオルトシリケート、フェネチルオルトシリケート、アリルオルトシリケート、メタアリルオルトシリケートなどがあり、さらにこれらのオルトシリケート類の脱水縮合によって生成されるポリシリケート類も用いられる。
【0029】(2)一般式(R23-n −Si−(OR1n+1(R1 は上記した化1のR1 と同様に定義され、R2 は炭素数1〜8の置換されていてもよいアルキル基、アリル基、アリール基、ビニル基を表し、nは1又は2を表す。)で表されるシラン化合物である。
【0030】上記R2 であるアルキル基としては、メチル基、エチル基、γ−クロロプロピル基、γ−アミノプロピル基、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピル基、γ−グリシドキシプロピル基、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチル基、γ−メタクリロイルオキシプロピル基等が挙げられる。
【0031】具体的には、例えば、ジビニルエトキシシラン、ジビニル−β−メトキシエトキシシラン、ジ(γ−グリシドキシプロピル)ジメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス−β−メトキシエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシランなどを挙げることができる。要は、反応性シラン中のアルコキシ基など珪素原子にエーテル結合された加水分解性基が特定条件下で加水分解反応によってシラノール基とアルコールとが生成するものであれば、本発明の反応性シランとして使用することができる。
【0032】また、反応性シランの使用割合は、シリカとエチレン系アイオノマー樹脂との両成分の固形分合計100重量部に対して好ましくは0.5〜15重量部、特に好ましくは1〜10重量部であることが反応促進効果の点及び系の安定性の点からよく、前記好適な範囲から外れると耐食性が劣ってくる。
【0033】本発明における複合化樹脂の合成方法は特に限定されるものではないが、通常、以下の方法が採用される。先ず、エチレン系アイオノマー樹脂をアルコール系溶媒などの親水性溶剤又は水を主体とした溶媒に溶解又は分散させて固形分40重量%以下とし、これを撹拌しながらシリカ粒子及び反応性シランを添加する。次いで、必要に応じて塩基性加水分解触媒(金属水酸化物、アンモニア、アミン類)や水を添加して反応を生じさせる。
【0034】本発明における複合化樹脂を製造するに際しては、先ず、反応性シランを加水分解してシラノール基を生成することが必須条件であり、上記混合液を10℃以上沸点以下の温度で反応させることによって加水分解、縮合反応により複合化樹脂とすることができる。強靭な皮膜を得る観点からは、混合液の温度を50℃以上、及び溶媒又は水の沸点以下にして連続的に加熱することが望ましく、具体的には50〜90℃で加熱することによって両成分を充分に結合させることができる。
【0035】本発明においては、上記シリカの代わりに、無水クロム酸(CrO3 )、クロム酸ストロンチウム(SrCrO4 )、クロム酸バリウム(BaCrO4 )、クロム酸鉛(PbCrO4 )、塩基性クロム酸亜鉛(ZnCrO4 ・4Zn(OH)2 )等の6価クロム化合物あるいはクロム酸クロム化合物を皮膜中に50重量%以下の範囲で添加してもよい。また、シリカとクロム化合物とを合計で50重量%以下の範囲で添加することもできる。
【0036】さらに、上記複合化樹脂には、ワックスなどの潤滑性物質を混合して、潤滑性を付与することができる。また、上記複合化樹脂に導電性物質を混合して導電性を付与することもでき、それによって電気溶接性、電気泳動塗装性、さらには皮膜のアース性等を改善することができる。このような導電性物質としては、例えば、亜鉛、アルミニウム、鉄、コバルト、ニッケル、マンガン、クロム、モリブデン、タングステン、銅、鉛、錫などの金属粉末及びそれらの合金粉末、アルミニウムドープ酸化亜鉛粉末、酸化錫−酸化チタン、酸化錫−硫酸バリウム、酸化ニッケル−アルミナなどの半導体酸化物などが挙げられる。
【0037】また、上記複合化樹脂に対し、特公昭55−41711号公報に記載されたようなチタン、ジルコニウム、アルミニウムなどのキレート化合物を、又は特公昭57−30867号公報及び特公昭55−62971号公報に記載のような酸素酸塩類、金属塩類等を併用することによって、硬化性を向上させることができる。
【0038】さらに、通常塗料分野で用いられる顔料あるいは染料などを分散させて、着色皮膜を形成する組成物とすることもできる。本発明における複合化樹脂皮膜の厚さは、0.1μm〜5μmの範囲、好ましくは0.3μm〜3μmの範囲である。0.1μm未満では耐食性および耐黒変性に対するバリヤー効果を期待できないばかりか、ハンドリング等による擦傷の発生を防止することができない。また、5μmを超えると厳しい加工を受けた際に皮膜剥離を招き易くなる。
【0039】複合化樹脂皮膜の形成は、例えば以下の方法によって行うことができる。すなわち、先ず、上記複合樹脂を主成分とする組成物の塗液を、ロールコーター、カーテンフローコーター、又はスプレーなどの公知の塗装方法によって塗布し、又はこれらの塗液中に亜鉛めっき鋼板を浸漬して、ロールや空気吹付けによって付着量をコントロールし、次いでこれを乾燥させるといった方法である。乾燥は常温でも構わないが、通常、熱風炉や誘導加熱装置などにより鋼板の温度が60〜250℃、好ましくは80℃〜200℃になるように加熱することによってなされる。乾燥温度が60℃より低いと皮膜の乾燥が不十分となり、十分な耐食性、耐黒変性が得られにくい。また、250℃を超えると樹脂皮膜の熱劣化やボイド発生等を招き、好ましくない。
【0040】
【実施例】以下、この発明の実施例について比較例を対比しつつ説明する。なお、以下の説明中「部」及び「%」は特に明記してある場合(モル%、中和度)を除き、いずれも重量基準による。
(複合化樹脂の合成例)まず、ベース樹脂の合成法から述べる。メタクリル酸含有量が20モル%のエチレン−メタクリル酸共重合体を水酸化ナトリウムで中和度70%に中和した樹脂を、170℃に維持された実効容積18リットルのホモミキサーに、上記樹脂の溶解物を4kg/hrの流量で、また水を18リットル/hrの流量でそれぞれ供給し、強力攪拌して水分散型樹脂液を製造する一方、液面を一定に保つようにこの水分散型樹脂液を連続的に抜出した。その結果、乳化剤を含まない固形分20.4%の水分散型樹脂液Aを得た。また、共重合体の種類、中和金属イオン、中和度の異なる樹脂液についても基本的に同様な条件で合成した。なお、比較例に使用する樹脂として乳化剤を含む他の樹脂も合成した。なお、樹脂については、後述する表1,2に明示した。
【0041】そして、この樹脂にシラン化合物、シリカ等の各種添加剤を加えて、複合化樹脂組成物を得た。以下、一例を示すと、樹脂A100部をフラスコ中に装入し、常温で十分に攪拌しながら、ヒュームドシリカ(日本アエロジル株式会社製、商品名アエロジル300、一次粒径7nm)4.1部を約10分の間に徐々に加えた。添加後、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業株式会社製、商品名KBM503)1.0部を攪拌下で滴下混合し、次いで85℃に加熱してその温度で2時間保持して反応させ、複合化樹脂組成物を得た。
【0042】(実施例1〜23)板厚0.8mm、めっき量20g/m2 の電気亜鉛めっき鋼板のめっき層上に、反応クロメート処理又は塗布型クロメート処理を施した後乾燥して、付着量10〜200mg/m2 のクロメート処理層を形成した。次いで、クロメート処理層上に、前記合成例で合成した複合化樹脂組成物、又はこの複合化樹脂組成物にシラン化合物及びシリカを添加した水分散液をロールコータによって塗布した。その後熱風乾燥炉によって鋼板の温度が80℃に到達するまで加熱して塗液を乾燥させ、樹脂皮膜層を形成した。各実施例における条件を表1に示す。
【0043】(比較例1〜13)実施例と同一条件の電気亜鉛めっき鋼板を用い、めっき層上に反応クロメート処理により、付着量40mg/m2 のクロメート処理層を形成した。クロメート処理層上に、各種樹脂皮膜層を表2に示す条件で被覆形成した。
【0044】なお、表1,2中のクロメート付着量は、金属クロム換算量を表示し、また、樹脂皮膜層中のシリカ含有量は、樹脂とシリカの合計を100重量%とした場合の重量%で、またシラン化合物の含有量は樹脂とシリカの合計を100重量部とした場合の重量部で表示した。また、樹脂の種類の欄の記号は、A:合成例の樹脂AB:エチレン−アクリル酸共重合体、Na中和アイオノマーC:エチレン−アクリル酸共重合体、Zn中和アイオノマーD:エチレン−フマル酸共重合体、Na中和アイオノマーE:エチレン−マレイン酸共重合体、Na中和アイオノマーF:エチレン−イタコン酸共重合体、Na中和アイオノマーG:エチレン−アクリル酸共重合体(乳化剤あり)
H:アクリル樹脂エマルジョン(乳化剤あり)
I:エポキシ樹脂エマルジョン(乳化剤あり)
J:水溶性ウレタン樹脂(乳化剤あり)
K:酢酸ビニル−アクリル酸共重合体(乳化剤あり)
L:エチレン−酢酸ビニル共重合体(乳化剤あり)
なお、G〜Lは、いずれも乳化剤を用いて水性塗布液としたものである。
【0045】このようにして得られた実施例及び比較例の有機複合亜鉛系めっき鋼板に就いて、耐黒変性及び耐食性を以下に示す試験方法によって評価した。その結果を表1,2に示す。
【0046】(1) 耐黒変性50℃、95%RHの高温湿潤環境に60日間放置し、試験前後の鋼板のL値(JIS Z8730 6.3.2(1980) 、ハンターの色差式における明度指数)の差から耐黒変性を評価した。
【0047】(2) 耐食性JIS Z2371 に基づく塩水噴霧試験を実施し、240時間後の白錆発生面積率を測定し、耐食性を評価した。
【0048】表1から明らかなように、実施例1〜23では、いずれも良好な耐黒変性及び耐食性を示した。特に、エチレン系アイオノマー樹脂としてエチレン−メタクリル酸共重合体を用いた実施例1〜13が特に良好な耐黒変性を示し、さらにシリカまたはシラン化合物を含有した実施例の中で1〜6,8,9,12〜18が特に良好な耐食性を示すことが確認された。
【0049】これに対し、表2から明らかなように、比較例1〜13では耐黒変性及び耐食性の両方を満足することはなかった。すなわち、比較例1,2は中和度が、比較例3は樹脂皮膜の膜厚が、比較例4,12はシリカ含有量が、比較例5〜11は樹脂皮膜の樹脂の種類が、比較例13は樹脂皮膜の膜厚が本発明から外れるものである。比較例1,6,13は耐食性が良好でも耐黒変性が悪く、比較例4は耐黒変性が良好でも耐食性が悪く、他の比較例は耐食性、耐黒変性とも満足できるものではなかった。
【0050】図1は、実施例1〜3及び比較例1,2について横軸に中和度をとり、縦軸に耐黒変性の程度をとって、ベース樹脂の中和度と耐黒変性との関係を示す。この図から、中和度60〜80%において特に優れた耐黒変性を示すことが確認された。
【0051】また、樹脂皮膜の膜厚が耐黒変性に及ぼす影響については、実施例1,7,8と比較例3,13とから、膜厚が0.3μm〜3.0μmで特に優れた耐黒変性を示すが、膜厚が0.05μmと本発明の範囲から外れると耐食性及び耐黒変性が、7.0μmと本発明の範囲から外れると耐黒変性が劣ることが確認された。
【0052】さらに、ベース樹脂については、上述したようにエチレン系アイオノマー樹脂以外のベース樹脂を使用した場合には比較例5〜11のように耐黒変性が劣るが、エチレン系アイオノマー樹脂をベース樹脂にすることにより、実施例1〜23のように良好な耐黒変性が得られる。しかも、同じエチレン系アイオノマー樹脂であっても、メタクリル酸以外のα,β−エチレン性不飽和カルボン酸を共重合体成分とした実施例14〜18に比較して、メタクリル酸を用いた実施例2が特に優れた耐黒変性を示すことが分かる。
【0053】
【発明の効果】以上詳細に説明したように、この発明の有機複合被服鋼板によれば、特定の樹脂皮膜を用いることにより、良好な耐食性を維持しつつ、耐黒変性に優れている。
【0054】
【表1】


【0055】
【表2】


【0056】
【表3】


【0057】
【表4】


【図面の簡単な説明】
【図1】耐黒変性に及ぼす中和度の影響を示す図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 鋼板と、鋼板上に施された亜鉛又は亜鉛系合金めっき層と、このめっき層上に形成され、金属クロム換算で1〜200mg/m2 の付着量を有するクロメート処理層と、このクロメート処理層上に形成された厚さ0.1乃至5μmの樹脂皮膜とを具備し、この樹脂皮膜が、エチレンとα,β−エチレン性不飽和カルボン酸の共重合体を主鎖成分とし、かつカルボキシル基の60〜80%を金属イオンで中和したエチレン系アイオノマー樹脂に、シリカ微粒子を含み、シリカ微粒子の含有割合が樹脂とシリカ微粒子との合計に対して1〜50重量%の範囲であることを特徴とする有機複合被覆鋼板。
【請求項2】 前記樹脂皮膜におけるエチレン系アイオノマー樹脂中のα,β−エチレン性不飽和カルボン酸の含有量が3〜40モル%であることを特徴とする請求項1に記載の有機複合被覆鋼板。
【請求項3】 前記樹脂皮膜におけるエチレン系アイオノマー樹脂中のα,β−エチレン性不飽和カルボン酸が、メタクリル酸であることを特徴とする請求項1又は2に記載の有機複合被覆鋼板。
【請求項4】 前記樹脂皮膜におけるエチレン系アイオノマー樹脂中の金属イオンが、ナトリウムイオンであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1に記載の有機複合被覆鋼板。
【請求項5】 前記樹脂皮膜におけるエチレン系アイオノマー樹脂が、分子中に1個の硅素原子と2〜4個のシリルエーテル結合を有するシラン化合物及び/又はその縮合物を、シリカと樹脂との両成分の固形分合計100重量部に対して0.5〜15重量部の範囲で含むものよりなる組成物であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1に記載の有機複合被覆鋼板。
【請求項6】 前記樹脂皮膜におけるシリカ微粒子が、一次粒径50nm以下のヒュームドシリカ又はコロイダルシリカであることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1に記載の有機複合被覆鋼板。
【請求項7】 前記樹脂皮膜が、前記複合化樹脂を主成分とする、乳化剤を含まない水分散型樹脂を塗布し、板温60〜250℃で乾燥したものであることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1に記載の有機複合被覆鋼板。

【図1】
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