説明

有機酸含有溶液分解処理方法及び有機酸含有溶液分解処理装置並びに有機酸含有溶液分解処理用電極

【課題】経済性及び耐久性に優れ、かつ有機酸を含むような廃液(有機酸含有溶液)を安定的に分解処理することができる有機酸含有溶液分解処理方法、有機酸含有溶液分解処理装置、及び有機酸含有溶液分解処理用電極を得る。
【解決手段】有機酸を含む廃液4中に陽極1と陰極2を浸漬し、陽極1と陰極2の間に電流を流して有機酸を分解処理する有機酸含有溶液分解処理方法及び装置であって、陽極1として、炭素質物質40〜90質量%、樹脂硬化物60〜10質量%の割合で含む電極を用いることを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機酸を含有するような廃液(有機酸含有溶液)を分解処理する有機酸含有溶液分解処理方法、有機酸含有溶液分解処理装置及び有機酸含有溶液分解処理用電極に関するものである。
【背景技術】
【0002】
廃液中に含まれる酢酸や蟻酸などの有機酸を電気分解処理するための電極としては、従来より白金電極が用いられている。しかしながら、白金電極は非常に高価であるため、白金電極よりも安価な電極が求められている。
【0003】
一方、含有する炭素を電気分解によって酸化し、二酸化炭素を発生する電極として、黒鉛やグラッシーカーボンなどからなる炭素電極が知られている。このような炭素電極は、陽極として用いられ、水中で電気分解することにより、二酸化炭素を発生させるための電極として用いられている。
【0004】
また、特許文献1においては、上記のように二酸化炭素を発生するための電極として、黒鉛などの炭素質物質とフェノール樹脂などの樹脂硬化物との組成物からなる電極が提案されている。
【0005】
しかしながら、これらの電極は、水中での電気分解により二酸化炭素を発生させるための電極であり、水中での電気分解よりも、より厳しい条件となる有機酸を含む廃液(有機酸含有溶液)の処理用の電極としては検討されていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平7−34280号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、経済性及び耐久性に優れ、かつ有機酸を含むような廃液(有機酸含有溶液)を安定的に分解処理することができる有機酸含有溶液分解処理方法、及び有機酸含有溶液分解処理装置、並びに有機酸含有溶液分解処理用電極を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の有機酸含有溶液分解処理方法は、有機酸含有溶液中に陽極と陰極を浸漬し、陽極と陰極の間に電流を流して有機酸を分解処理する有機酸含有溶液分解処理方法であって、陽極として、炭素質物質40〜90質量%、樹脂硬化物60〜10質量%の割合で含む電極を用いることを特徴としている。
【0009】
炭素質物質としては、例えば黒鉛を用いることができる。また、樹脂硬化物としては、例えば、フェノール樹脂の硬化物を用いることができる。
【0010】
本発明の有機酸含有溶液分解処理装置は、有機酸含有溶液中に含まれる有機酸を分解処理するための有機酸含有溶液分解処理装置であって、有機酸含有溶液が収容される処理槽と、処理槽内の有機酸含有溶液中に浸漬される陽極及び陰極と、陽極と陰極との間に電流を流すための電源とを備え、陽極が、炭素質物質40〜90質量%、樹脂硬化物60〜10質量%の割合で含む電極であることを特徴としている。
【0011】
本発明の有機酸含有溶液分解処理用電極は、上記本発明の処理方法の陽極として用いる有機酸含有溶液分解処理用電極であって、炭素質物質40〜90質量%、樹脂硬化物60〜10質量%の割合で含んでいることを特徴としている。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、経済性及び耐久性に優れ、かつ廃液のような有機酸を含有する有機酸含油溶液中の有機酸を安定的に分解処理することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に従う一実施形態の廃液(有機酸含有溶液)分解処理装置を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1は、本発明に従う一実施形態の廃液(有機酸含有溶液)分解処理装置を示す模式図である。
【0015】
図1に示すように、陽極1及び陰極2は、処理槽5に収容された廃液(有機酸含有溶液)4中に浸漬されている。陽極1及び陰極2には、陽極1と陰極2の間に電流を流すための電源3が接続されている。
【0016】
廃液4中には、酢酸、蟻酸、シュウ酸などの有機酸が含まれている。廃液4中の有機酸の含有量は、特に限定されるものではないが、一般には、一般排水に見られる0.01M(モル/リットル)程度の低濃度のものから、高濃度ものは危険であるため、工業排水の1M程度含まれるものまでが多い。本発明において、廃液(有機酸含有溶液)4は、一般に水溶液または水懸濁液であるが、有機溶剤の溶液であってもよい。
【0017】
陽極1と陰極2の間に電源3からの電流を流すことにより、廃液4中に含まれる有機酸を分解処理することができる。分解処理する有機酸としては、廃液の場合にはどのようなものが含まれているかが不明なこともあるが、電気分解できるものであれば特に限定されるものではなく、特に炭素数1〜10程度の低級カルボン酸を良好に分解処理することができる。有機酸の濃度としては、5M以下であることが好ましく、高濃度のものは危険であるため、2M以下、より好ましくは1M以下に希釈して分解処理することが好ましい。
【0018】
また、有機酸以外にも、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド等のアルデヒド類も分解処理することができる。
【0019】
本発明において、陽極1は、炭素質物質40〜90質量%、樹脂硬化物60〜10質量%の割合で含んでいる。炭素質物質としては、天然黒鉛、人工黒鉛などの黒鉛、カーボンブラック、石油系もしくは石炭系コークスなどが挙げられる。樹脂硬化物としては、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル(不飽和ポリエステル)などの熱硬化性樹脂、フッ素樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ABS樹脂、塩化ビニル樹脂、メタクリル酸メチル樹脂、ナイロン、ポリカーボネート、ポリエステル樹脂などの熱可塑性樹脂などが挙げられる。
【0020】
炭素質物質の平均粒子径としては、1〜50μmの範囲が好ましく用いられる。炭素質物質を、樹脂と混練した後、樹脂を硬化させて成形することにより本発明の電極を形成することができる。熱硬化性樹脂の場合、熱硬化、エネルギー線硬化などによって硬化させることができる。熱可塑性樹脂の場合、加熱して樹脂を溶融させた後、冷却することにより硬化させることができる。
【0021】
電極における炭素質物質の含有割合は、40〜90質量%であり、樹脂硬化物の含有割合は60〜10質量%である。炭素質物質の含有割合を40質量%以上にすることにより、電極の電気伝導性を向上させることができる。炭素質物質の含有割合を90質量%以下にすることにより電極としての十分な機械強度を得ることができる。樹脂硬化物を10質量%以上にすることにより、十分な結合力が得られ、成形性を向上させることができ、電極の機械的強度等の機械的特性を向上させることができる。樹脂硬化物を60質量%以下にすることにより、熱硬化時に電極に割れ等を生じることを防止することができる。
【0022】
本発明の電極は、炭素質物質と樹脂との混合物を、例えば、熱圧成形することにより形成することができる。成形方法としては、炭素質物質と樹脂と混合したものを温度180℃前後及び圧力20MPa前後で成形すればよい。
【0023】
陰極2は、本実施形態において、ステンレス(SUS)電極を用いている。しかしながら、本発明において、陰極2の材質は特に限定されるものではない。
【0024】
処理槽5は、廃液4が一定時間滞留するバッチ式であってもよいし、連続して処理槽5に廃液4が供給されるとともに、廃液4が連続して処理槽5から排出される連続式であってもよい。
【0025】
陽極1と陰極2の間には、電源3から供給される電流が流れる。電気分解の条件としては、少なくとも有機酸を分解できればよく、例えば、電圧1.0V以上が好ましく、5.0V以上であることが好ましい。また、電流は、1.0A以上が好ましく、2.0A以上が好ましい。これら電圧、電流は、電極の破壊が起こらない限りにおいては、なるべく高いことが有機酸の分解能を高める上で好ましい。
【0026】
陽極1と陰極2の間に電流を流すことにより、廃液4中に含まれる有機酸を分解処理することができる。上述のように、本発明においては、陽極1として、炭素質物質と樹脂硬化物とが所定の割合で含む電極を用いている。このような電極を用いることにより、耐久性に優れ、かつ廃液4中の有機酸を安定的に分解処理することができる。驚くべきことに、陽極1は、水中で電気分解したときよりも、廃液中で電気分解したときのほうが重量減少が少なく、優れた耐久性を示す。
【0027】
陽極1は、炭素質物質と樹脂硬化物とを含む電極であるので、従来の白金電極に比べ安価であり、経済性にも優れている。
【実施例】
【0028】
以下、具体的な実施例により本発明を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0029】
<実験1>
(実施例1)
フェノール樹脂40質量部に対して、天然黒鉛60質量部を混合し、粉砕することにより混合物を得た。この混合物を、170〜190℃に予熱した金型に入れ、180〜190℃の熱板上で200kg/cmの圧力で30分間熱圧成形し、成形体を得た。
【0030】
この成形体を、200℃で5時間熱処理し、フェノール樹脂を硬化させた。硬化物を加工し、150mm×40mm×10mmの寸法形状の電極を得た。
【0031】
有機酸を含む廃液(有機酸含有溶液)として、酢酸及び蟻酸を含む水溶液を調製した。酢酸濃度は、1Mであり、蟻酸濃度は1Mである。
【0032】
この廃液中に、上記電極を陽極とし、SUS電極を陰極として、廃液(有機酸含有溶液)の分解処理を行った。分解処理の条件は、電圧5.0V、電流2.0Aとした。
【0033】
14日間分解処理を持続しても、上記陽極に、外観上の変化は認められなかった。
【0034】
(比較例1)
黒鉛材(東洋炭素社製、商品名「IG−11」)を電極として用い、上記実施例1と同様の条件で廃液の分解処理を行った。その結果、1日目で液が黒濁し、電極表面から粒子が離脱した。2日目で、電極が折損した。
【0035】
(比較例2)
炭素材(東洋炭素社製、商品名「KC−36」)を電極として用い、実施例1と同じ条件で廃液の分解処理を行った。1日目で液が黒濁し、電極表面から粒子が離脱した。3日目で、電極が折損した。
【0036】
(比較例3)
グラッシーカーボンを電極として用い、実施例1と同じ条件で廃液を分解処理した。3日目で液が褐色になった。7日目で電極表面が剥離し、エッジ部分が欠けた。
【0037】
(比較例4)
C/C材(カーボン・カーボンコンポジット)を電極として用い、実施例1と同じ条件で廃液を分解処理した。2日目で液が褐色になった。3日目で、C/C材の積層間が剥離し、電極形状を保てなくなった。
【0038】
<実験2>
(実施例2)
実施例1で作製した電極を陽極(マスキングして反応面積5×10mmとした)として用い、陰極として、実施例1で用いたSUS電極を用い、1モル%の酢酸水溶液中で、分解処理を100時間行った。分解条件は、電圧5.0Vの定電位で行った。
【0039】
その結果、分解処理100時間後において、陽極の質量の減少量は、0.7mgであり、割合では0.019質量%減少した。
【0040】
比較として、1モル%の酢酸水溶液に代えて、水道水を用い、上記と同様にして分解処理を行った。この結果、陽極の質量の減少量は、1.1mgであり、割合では0.028質量%減少した。
【0041】
以上の結果から明らかなように、本発明に従い、上記電極を廃液(有機酸含有溶液)の分解処理に用いた場合、水を電気分解する場合よりも良好な耐久性が得られることがわかる。電気分解では電極の面積に処理量が依存することから、大面積にした場合には、この減少量の差は非常に大きいものになる。減少量が大きい場合には、電極からの炭素粒子の脱落につながり寿命に直結する。
【0042】
また、酢酸水溶液での処理後と、水道水の処理後とにおける、電極に対する接触角(水とCH)を測定し、トータルの表面エネルギーを算出した。その結果、各処理前が27mJ/mに対して、酢酸水溶液処理後は48mJ/m、水道水の処理後は45mJ/mであり、酢酸水溶液処理後のほうがトータルの表面エネルギーが高かった。つまり、酢酸水溶液に対して物質(被分解物である酢酸等)が近づきやすくなるという性質があり、より効率よく分解が可能であることが推測される。
【0043】
以上のように、本発明によれば、経済性及び耐久性に優れ、かつ廃液中の有機酸を安定的に分解処理することができる。
【符号の説明】
【0044】
1…陽極
2…陰極
3…電源
4…廃液(有機酸含有溶液)
5…処理槽

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機酸含有溶液中に陽極と陰極を浸漬し、陽極と陰極の間に電流を流して有機酸を分解処理する有機酸含有溶液分解処理方法であって、
前記陽極として、炭素質物質40〜90質量%、樹脂硬化物60〜10質量%の割合で含む電極を用いることを特徴とする有機酸含有溶液分解処理方法。
【請求項2】
前記炭素質物質が黒鉛であることを特徴とする請求項1に記載の有機酸含有溶液分解処理方法。
【請求項3】
前記樹脂硬化物がフェノール樹脂の硬化物であることを特徴とする請求項1または2に記載の有機酸含有溶液分解処理方法。
【請求項4】
有機酸含有溶液中に含まれる有機酸を分解処理するための有機酸含有溶液分解処理装置であって、
有機酸含有溶液が収容される処理槽と、
前記処理槽内の有機酸含有溶液中に浸漬される陽極及び陰極と、
前記陽極と前記陰極との間に電流を流すための電源とを備え、
前記陽極が、炭素質物質40〜90質量%、樹脂硬化物60〜10質量%の割合で含む電極であることを特徴とする有機酸含有溶液分解処理装置。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法に陽極として用いる有機酸含有溶液分解処理用電極であって、炭素質物質40〜90質量%、樹脂硬化物60〜10質量%の割合で含んでいることを特徴とする有機酸含有溶液分解処理用電極。

【図1】
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【公開番号】特開2012−170884(P2012−170884A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−35236(P2011−35236)
【出願日】平成23年2月21日(2011.2.21)
【出願人】(000222842)東洋炭素株式会社 (198)
【Fターム(参考)】