説明

有機電界発光素子

【構成】少なくとも一層が正孔輸送剤として、式(1)


(Rはアルキル基またはアラルキル基を、R、R、R、Rは水素原子、アルキル基、アルコキシ基またはハロゲン原子を示す)で表される化合物を含有する層である有機電界発光素子。
【効果】低電圧駆動、高発光強度および高耐久性など極めて良好な性能を有し、実用上の価値が極めて高い。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、電気エネルギーを光エネルギーに直接交換できる有機電界発光素子に関するものである。
【0002】
【従来の技術】電界発光素子としては従来から無機化合物薄膜を積層化した構造のものが知られており、すでに一部実用化している。それらの無機薄膜積層型電界発光素子は発光輝度が高いという利点はあるものの、駆動電圧が100Vないし200Vと高く、高電圧耐久駆動ICが必要であったり、発光が輝線であるために色相選択の自由度が低かったり、消費電力が大きいなどの欠点を有している。
【0003】一方、近年、有機薄膜積層型電界発光素子が考案され、実用化に向けて急速に展開されている。例えば、斉藤らの報告(C.Adachi, S.Tokito, Tsutsui, S.Saito, Jpn. J. Appl. Phyo.,27巻,L269ページおよびL7131ページ, 1988年)で示されている。これは、有機発光薄層を電子輸送有機薄層と正孔輸送薄層で挟持し、さらにその両側に電極を設けた構造の素子である。このような有機薄膜積層型電界発光素子は、無機薄膜積層型電界発光素子と比較して、発光材料が多種存在するために発光波長の選択が自由であり範囲も広く、駆動電圧が10V以下でも十分な輝度が得られ、かつ、大面積化も容易であることから非常に注目されている。しかし、長時間使用すると徐々に発光輝度が低下してしまうという耐久性能での問題点を有しているのが現状である。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、耐光性能が良好であり、低電圧駆動の高輝度である電界発光素子を提供することを課題とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】本発明者らは上記課題を解決するための発光層構成要素について鋭意検討を重ねた結果、正孔輸送層の種類によって耐久性能が大きく変化することを確認し、その中で、正孔輸送化合物としてフルオレン系アミン化合物が極めて有効であることを見い出し、本発明を完成するに至った。
【0006】すなわち、本発明は、二つの電極間に一層以上の多層の有機化合物から構成される有機電界発光素子において、少なくとも一層が正孔輸送剤として下記一般式(1)
【0007】
【化1】


【0008】〔式中、R1はアルキル基またはアラルキル基を示し、R2、R3、R4およびR5は水素原子、アルキル基、アルコキシ基またはハロゲン原子を示す。〕で表される化合物を含有する層であることを特徴とする有機電界発光素子である。
【0009】一般式(1)におけるR1の具体例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、n−ヘキシル基、3,5,5−トリメチルヘキシル基、n−ドデシル基、n−ヘキサデシル基、n−オクタデシル基等のアルキル基、ベンジル基、2−フェニルエチル基、4−メチルベンジル基等のアラルキル基が挙げられ、R2、R3、R4およびR5の具体例としては、水素原子、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基等のアルキル基、メトキシ基、エトキシ基、i−プロピルオキシ基等のアルコキシ基、塩素原子、フツ素原子、臭素原子等のハロゲン原子を挙げることができる。
【0010】次に、本発明の有機電界発光素子についての構成を図面を挙げて説明する。図1は本発明に係わる電界発光素子の断面図の一例である。図1において、1は基板、2は陽極、3は陰極、4は電源、5は発光層、6は正孔輸送層、および7は電子輸送層である。
【0011】基板1には一般にガラス基板が用いられるが、無アルカリ硼硅酸ガラスのフォトマスクグレード研磨したものが好ましい。
【0012】陽極2は陰極3と対になっていて、有機電界発光素子を構成する各層に電界を加えるためのものであり、ニッケル、金、白金、パラジウム酸化スズ、酸化スズインジウム(ITO)などの薄膜が好適である。その膜厚は50〜1000Åであるが不透明性の電極の場合は300Å以下にすることが必要である。一方、陰極3の材料には、銀、スズ、鉛、マグネシウム、マンガン、アルミニウムあるいはこれらの合金などを挙げることができる。
【0013】正孔輸送層6には、一般式(1)で示されるフルオニルジフェニルアミン誘導体が用いられ、1500Å以下、特に300Å〜1000Åの薄膜の厚みにするのが好ましい。 一方、電子輸送層7に用いる材料は、下記(化2)のオキサジアゾール化合物やペリノン誘導体などが用いられ、500Å〜3000Å、好ましくは700Å〜1500Åの厚みである。
【0014】
【化2】


【0015】発光層5に用いられる材料としては固体状態において強い蛍光性を示す色素で、種々の構造の化合物が挙げられるが、代表例を次に示す。
【0016】
【化3】


【0017】発光体の薄膜の厚みは500Å〜4000Å、好ましくは1000Å〜2000Åである。
【0018】正孔輸送層および電子輸送層は電極より注入された正孔および電子を発光層に輸送するためのもので、発光層にて注入された正孔と電子が再結合し、発生したエネルギーが蛍光分子の励起一重項状態の生成に使われ、この励起一重項状態から蛍光を発する。なお、発光層5の材料として電子の注入されやすい材料を選んだ場合は電子輸送層7を省くことも可能である。
【0019】本発明における有機電界発光素子は基板1の表面に以上述べてきた各層を薄膜状態で積層することによって作製できる。成膜は真空蒸着法、キャスティング法、ラングミュア・ブロゼット法などにより行う。
【0020】
【発明の効果】本発明の有機電界発光素子は有機薄膜層の少なくとも一層が前記一般式(1)で表される化合物を正孔輸送剤として含有するものであり、低電圧駆動、高発光強度および高耐久性など極めて良好な性能を有し、実用上極めて価値の高いものである。
【0021】
【実施例】以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。
実施例1厚み1.2mmで10cm×4cmの無アルカリ硼硅酸ガラス基板を硝酸洗浄後蒸留水で洗浄し、乾燥し、このガラス基板上に電子ビーム蒸着により厚み500ÅのITO薄膜から陰極を設けた。
【0022】次に、この陽極上に下記化合物(2)を真空蒸着し、厚み900Åの正孔輸送層を形成した。
【0023】
【化4】


【0024】次に、この正孔輸送層上に下記で示される化合物(3)を厚み1000Åに蒸着し発光層を形成し、
【0025】
【化5】


【0026】更に、この発光層上に下記オキサジアゾール化合物(4)を厚み1000Åに蒸着し、電子輸送層を設けた。
【0027】
【化6】


【0028】最後に、発光層上にマグネシウムを約1000Åの厚みに蒸着し、陰極を形成して図に示すような構造の電界発光素子を作製した。ついで陽極を陰極よりリード線を引き出し直流電源に接続して、4.5V以上の電圧を印加すると明るい青色色発光が観測された。なお、その時の駆動電流は0.2〜12mA/cm2であった。
【0029】また、発光強度が初期値の80%になるまでの連続運転時間は2500時間と耐久性が良好な素子であることが判明した。
【0030】実施例2〜15実施例1における正孔輸送化合物(2)および発光性化合物(3)に代えて表1に示される化合物を用いた以外は、実施例1と全く同様にして実施例2〜15の電界発光素子を得た。
【0031】これらの電界発光素子の特性も表1に合わせて示す。なお、表1において5〜21の数字は以下の化合物を示す。
【0032】
【化7】


【0033】
【化8】


【0034】
【化9】


【0035】
【表1】


【0036】比較例1実施例1における正孔輸送剤(2)の代わりに化合物(22)を用いた以外は、実施例1と全く同様にして素子を作製したところ、発光強度などの特性は実施例1とほぼ一致していたが、耐久性が450時間と短く不良であった。
【0037】
【化10】


【0038】比較例2実施例1における正孔輸送剤(2)の代わりに化合物(23)を用いた以外は、実施例1と全く同様にして素子を作製したところ、発光強度などの特性は実施例1とほぼ一致していたが、耐久性が400時間と短く不良であった。
【0039】
【化11】


【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係わる代表的な電界発光素子の断面図の模式である。
【符号の説明】
1 基板
2 陽極
3 陰極
4 電源
5 発光層
6 正孔輸送層
7 電子輸送層

【特許請求の範囲】
【請求項1】 二つの電極間に一層以上の多層の有機化合物から構成される有機電界発光素子において、少なくとも一層が正孔輸送剤として、下記一般式(1)


〔式中、R1はアルキル基またはアラルキル基を示し、R2、R3、R4およびR5は水素原子、アルキル基、アルコキシ基またはハロゲン原子を示す。〕で表される化合物を含有する層であることを特徴とする有機電界発光素子。

【図1】
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