説明

有用物質生産方法

【課題】界面活性剤を用いる有用物質の分泌生産方法において、細菌の分泌生産を持続する培養方法を提供する。
【解決手段】下記工程(a)を行い、さらに工程(b)を行う有用物質の細胞外分泌生産方法であって、培養開始時における培養液中のケルダール窒素量が培養液の体積を基準として4.5〜50g/Lである有用物質生産方法。
工程(a):有用物質を生産する細菌を培養する培養液と界面活性剤を同時に存在させて有用物質を細胞外に分泌させる工程。
工程(b):工程(a)の後、培養液から有用物質を分離する工程。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有用物質の生産方法に関する。詳しくは、界面活性剤と細菌を同時に存在させる事により有用物質を分泌生産させる有用物質の生産方法に関する。
【背景技術】
【0002】
細菌は、アミノ酸、タンパク質等の有用物質を製造するために広く利用されている。有用物質生産に用いる細菌として、大腸菌が多用されており、遺伝子工学技術の進展に伴って医薬上・産業上有用なタンパク質の遺伝子を大腸菌に導入して有用タンパク質を効率的に製造する技術が知られている。
通常、大腸菌を用いてタンパク質を発現した場合、目的タンパク質を抽出するために、超音波、高圧ホモジナイザー、フレンチプレス等の物理的破砕法が用いられている。しかし、これらの物理的破砕法はタンパク質を取り出す際、大腸菌の細胞内に存在する目的のタンパク質以外の物質も大量に混入するため、純度が低下するという問題がある。
この問題を解決する有用物質の生産方法として、有用物質を分泌生産する方法が知られている。有用物質の分泌生産は、目的の有用物質を高純度で獲得する目的でも、高い生産性を達成する目的でも有効である。
【0003】
有用物質の分泌生産において、界面活性剤を用いる方法が知られている。例えば、グルタミン酸の生産では、界面活性剤の一種であるポリオキシエチレンソルビタンモノパルミテートが用いられている(特許文献1)。また、セルラーゼ等のタンパク質の生産においても界面活性剤が用いられている(非特許文献1)。
分泌生産を行う際、高い生産性を持続でき、生産時間を長くすることが生産性の向上につながる。しかし、高い生産性を持続でき、生産時間を長くさせるために必要な因子については知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第99/07853号パンフレット
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】バイオインダストリー協会発酵と代謝研究会編集、「発酵ハンドブック」、共立出版、2001年7月、253頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、界面活性剤を用いる有用物質の分泌生産方法において、細菌の分泌生産を持続する培養方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記の目的を達成するべく検討を行った結果、本発明に到達した。
すなわち、本発明は、下記工程(a)を行い、さらに工程(b)を行う有用物質の細胞外分泌生産方法であって、培養開始時における培養液中のケルダール窒素量が培養液の体積を基準として4.5〜50g/Lである有用物質生産方法である。
工程(a):有用物質を生産する細菌を培養する培養液と界面活性剤を同時に存在させて有用物質を細胞外に分泌させる工程。
工程(b):工程(a)の後、培養液から有用物質を分離する工程。
【発明の効果】
【0008】
本発明は以下の効果を奏する。
界面活性剤を用いる有用物質の分泌生産過程で本発明の培養方法を用いることで、有用物質の収率が向上し、さらに高い生産性を持続でき、生産時間を長くすることが可能になり、結果的に有用物質の生産性を向上させることが出来る。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明における細菌として、以下に例を挙げるがこれらに限定するものではない。細菌には、真正細菌及び古細菌が含まれる。真正細菌には、グラム陰性菌及びグラム陽性菌が含まれる。グラム陰性細菌としては、エシェリチア属菌(Escherichia)、サーマス属菌(Thermus)、リゾビウム属菌(Rhizobium)、シュードモナス属菌(Pseudomonas)、シュワネラ属菌(Shewanella)、ビブリオ属菌(Vibrio)、サルモネラ属菌(Salmonella)、アセトバクター属(Acetobacter属)、シネコシスティス属(Synechocystis属)等が挙げられる。グラム陽性菌としては、バチルス属(Bacillus属)、ストレプトマイセス属(Streptmyces属)、コリネバクテリウム属(Corynebacterium属)、ブレビバチルス属(Brevibacillus属)、ビフィドバクテリウム属 (Bifidobacterium属)、ラクトコッカス属 (Lactococcus属)、エンテロコッカス属 (Enterococcus属)、ペディオコッカス属(Pediococcus属)、リューコノストック属 (Leuconostoc属)、ストレプトマイセス属(Streptomyces属)等が挙げられる。 また、用いる細菌は特定の遺伝子欠損又は遺伝子の過剰発現をしていても良い。
【0010】
これらのうち、有用物質の生産性の観点から、エシェリチア属菌が好ましく、さらに好ましくは大腸菌である。
【0011】
本発明における有用物質は、特に限定されないが、組み換えタンパク質(酵素、ホルモンタンパク質、抗体及びペプチド等)、オリゴ糖及び核酸等が含まれる。
【0012】
組み換えタンパク質としては、酵素{酸化還元酵素(コレステロールオキシダーゼ、グルコースオキシダーゼ、アスコルビン酸オキシダーゼ及びペルオキシダーゼ等)、加水分解酵素(リゾチーム、プロテアーゼ、セリンプロテアーゼ、アルカリプロテアーゼ、アミラーゼ、リパーゼ、セルラーゼ及びグルコアミラーゼ等)、異性化酵素(グルコースイソメラーゼ等)、転移酵素(アシルトランスフェラーゼ及びスルホトランスフェラーゼ等)、合成酵素(脂肪酸シンターゼ、リン酸シンターゼ及びクエン酸シンターゼ等)及び脱離酵素(ペクチンリアーゼ等)等}、ホルモンタンパク質{骨形成因子(BMP)、インターフェロンα、インターフェロンβ、インターロイキン1〜12、成長ホルモン、エリスロポエチン、インスリン、顆粒状コロニー刺激因子(G−CSF)、組織プラスミノーゲン活性化因子(TPA)、ナトリウム利尿ペプチド、血液凝固第VIII因子、ソマトメジン、グルカゴン、成長ホルモン放出因子、血清アルブミン及びカルシトニン等}、抗体{1本鎖抗体、IgGラージサブユニット、IgGスモールサブユニット等}、蛍光タンパク質(GFP等)、発光タンパク質(ルシェラーゼ等)等が挙げられる。ペプチドとしては、特にアミノ酸組成を限定するものではなく、ジペプチド及びトリペプチド等が挙げられる。
【0013】
オリゴ糖としては、スクロース、ラクトース、トレハロース、マルトース、ラフィノース、パノース、シクロデキストリン、ガラクトオリゴ糖及びフラクトオリゴ糖等が挙げられる。
【0014】
核酸としては、イノシン一リン酸、アデノシン一リン酸及びグアノシン一リン酸等が挙げられる。
【0015】
これらの有用物質のうち、有用物質の生産性の観点から、ペプチド及びタンパク質が好ましく、さらに好ましくは組み換えタンパク質であり、次にさらに好ましくは酵素、一本鎖抗体及びホルモンタンパク質である。
【0016】
本発明の有用物質の生産方法において、培養液とは、細菌が増殖するための成分を含有する液体である。
【0017】
培養液中には、水、炭素源及び窒素源等が含まれる。炭素源としては、細菌がATP(アデノシン三リン酸)を合成でき、なおかつ代謝により同化できる物であり、グルコース等の糖、脂質及びタンパク質等が挙げられる。窒素源としては、細菌がタンパク質や核酸の生合成に用いることができる物であり、タンパク質、アミノ酸、アンモニア、尿素及び硫酸アンモニウム等が挙げられる。
【0018】
本発明の生産方法において、培養開始時における培養液中のケルダール窒素量は培養液の体積を基準として4.5〜50g/Lであり、生産性の観点から5〜25g/Lが好ましく、さらに好ましくは6〜20g/Lである。ケルダール窒素量が4.5g/L未満では組み換えタンパク質の生産効率が悪くなり、50g/Lより多い場合は細菌の増殖又は生存に悪影響を及ぼす。
【0019】
本発明においてケルダール窒素量はケルダール測定法により求められる窒素量である。ケルダール測定法とは、有機物等の中に含まれる3価窒素の総量を測定する方法である。この測定法により検出される窒素は、有用物質生産の増産に役立てることができ、細胞培養の栄養源の指標となる。
【0020】
ケルダール測定法は、JISで規定された測定法(JIS K0400−42−60)で触媒として用いるセレンの存在下で発生したアンモニアを定量する方法である。
【0021】
培養開始時における培養液中のケルダール窒素量は、培養液に窒素原子を含む物質を加え、その量を調整することで容易に調製できる。
培養液に加える窒素原子を含む物質としては、タンパク質及びタンパク質の分解物、アミノ酸、尿素、アンモニア並びに硫酸アンモニウム等のアンモニウム塩等が挙げられる。
培養液に加える窒素原子を含む物質としては、有用物質の生産性向上の観点からタンパク質及びタンパク質の分解物、アミノ酸及び尿素が好ましい。
【0022】
本発明において、培養開始時とは培養液中に細菌を植菌する時点を指している。
【0023】
本発明において界面活性剤(B)は、両性界面活性剤(B1)、アニオン性界面活性剤(B2)ノニオン性界面活性剤(B3)及びカチオン性活性剤(B4)が含まれる。
【0024】
両性界面活性剤(B1)としては、カルボン酸塩型両性界面活性剤(B1−1)、硫酸エステル塩型両性界面活性剤(B1−2)、スルホン酸塩型両性界面活性剤(B1−3)及びリン酸エステル塩型両性界面活性剤(B1−4)が含まれる。
【0025】
カルボン酸塩型両性界面活性剤(B1−1)は、アミノ酸型両性界面活性剤(B1−1−1)、ベタイン型両性界面活性剤(B1−1−2)及びイミダゾリン型両性界面活性剤(B1−1−3)等が挙げられる。
アミノ酸型両性界面活性剤(B1−1−1)は、分子内にアミノ基とカルボキシル基を有する両性界面活性剤であり、下記一般式(1)で示される化合物等が挙げられる。
[R−NH−(CH2n−COO]mM (1)
一般式(1)中、Rは炭素数1〜20の1価の炭化水素基である。nは1又は2の整数である。mは1又は2の整数である。Mは水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウム(アミン及びアルカノールアミン等由来のカチオンを含む)及び第4級アンモニウム等の1価又は2価のカチオンである。
また、(B1−1−1)は、アルキルアミノプロピオン酸型両性界面活性剤(コカミノプロピオン酸ナトリウム、ステアリルアミノプロピオン酸ナトリウム及びラウリルアミノプロピオン酸ナトリウム等);アルキルアミノ酢酸型両性界面活性剤(ラウリルアミノ酢酸ナトリウム等)及びN−ラウロイル−N’−カルボキシメチル−N’−ヒドロキシエチルエチレンジアミンナトリウム等が挙げられる。
【0026】
ベタイン型両性界面活性剤(B1−1−2)は、分子内に第4級アンモニウム塩型のカチオン部分とカルボン酸型のアニオン部分を持っている両性界面活性剤であり、下記一般式(2)で示されるもの等のアルキルジメチルベタイン(ステアリルジメチルアミノ酢酸ベタイン及びラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン等)、アミドベタイン(ヤシ油脂肪酸アミドプロピルベタイン及びラウリン酸アミドプロピルベタイン等)及びアルキルジヒドロキシアルキルベタイン(ラウリルジヒドロキシエチルベタイン等)等が挙げられる。
R−N+(CH32−CH2COO- (2)
一般式(2)中、Rは炭素数1〜20の1価の炭化水素基である。
【0027】
イミダゾリン型両性界面活性剤(B1−1−3)としては、2−アルキル−N−カルボキシメチル−N−ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン等が挙げられる。
【0028】
その他の両性界面活性剤としては、ナトリウムラウロイルグリシン、ナトリウムラウリルジアミノエチルグリシン、ラウリルジアミノエチルグリシン塩酸塩及びジオクチルジアミノエチルグリシン塩酸塩等のグリシン型両性界面活性剤;ペンタデシルスルホタウリン等のスルホベタイン型両性界面活性剤;コールアミドプロピルジメチルアンモニオプロパンスルホン酸(CHAPS)、コールアミドプロピルジメチルアンモニオ2−ヒドロキシプロパンスルホン酸(CHAPSO);ラウリルジメチルアミンオキサイド等のアルキルアミンオキサイド型両性界面活性剤等が含まれる。
【0029】
アニオン性界面活性剤(B2)としては、エーテルカルボン酸(B2−1)及びその塩、硫酸エステル(B2−2)又はその塩、エーテル硫酸エステル(B2−3)及びその塩、スルホン酸塩(B2−4)、スルホコハク酸塩(B2−5)、リン酸エステル(B2−6)及びその塩、エーテルリン酸エステル(B2−7)及びその塩、脂肪酸塩(B2−8)、アシル化アミノ酸塩並びに天然由来のカルボン酸及びその塩(ケノデオキシコール酸、コール酸及びデオキシコール酸等)等が挙げられる。
【0030】
エーテルカルボン酸(B2−1)又はその塩としては炭素数8〜24の炭化水素基を有するエーテルカルボン酸及びその塩が含まれ、ポリオキシエチレンラウリルエーテル酢酸、ポリオキシエチレンラウリルエーテル酢酸ナトリウム塩、ポリオキシエチレントリデシルエーテル酢酸ナトリウム塩、ポリオキシエチレンオクチルエーテル酢酸ナトリウム塩及びラウリルグリコール酢酸ナトリウム塩等が挙げられる。
【0031】
硫酸エステル(B2−2)及びその塩としては、炭素数8〜24の炭化水素基を有する硫酸エステル及びその塩が含まれ、ラウリル硫酸ナトリウム塩及びラウリル硫酸トリエタノールアミン塩等が挙げられる。
【0032】
エーテル硫酸エステル(B2−3)及びその塩としては、炭素数8〜24の炭化水素基を有するエーテル硫酸エステル及びその塩が含まれ、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム塩及びポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸トリエタノールアミン塩等が挙げられる。
【0033】
スルホン酸塩(B2−4)としては、ドデシルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム塩及びナフタレンスルホン酸ナトリウム塩等が挙げられる。
【0034】
スルホコハク酸塩(B2−5)としては、ポリオキシエチレンラウリルスルホコハク酸二ナトリウム塩、スルホコハク酸ラウリル二ナトリウム塩及びスルホコハク酸ポリオキシエチレンラウロイルエタノールアミド二ナトリウム塩等が挙げられる。
【0035】
リン酸エステル(B2−6)としては、オクチルリン酸二ナトリウム塩及びラウリルリン酸二ナトリウム塩等が挙げられる。
【0036】
エーテルリン酸エステル(B2−7)としては、ポリオキシエチレンオクチルエーテルリン酸二ナトリウム塩及びポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸二ナトリウム塩等が挙げられる。
【0037】
脂肪酸塩(B2−8)としては、オクチル酸ナトリウム塩、ラウリル酸ナトリウム塩及びステアリン酸ナトリウム塩等が挙げられる。
【0038】
ノニオン性界面活性剤(B3)としては、高級アルコールアルキレンオキサイド(以下、AOと略記)付加物(B3−1)、アルキルフェノールAO付加物(B3−2)、脂肪酸AO付加物(B3−3)及び多価アルコール型ノニオン性界面活性剤(B3−4)等が含まれる。
【0039】
高級アルコールAO付加物(B3−1)としては、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルが含まれ、アルキルエーテル炭素数8〜24の高級アルコール(デシルアルコール、ドデシルアルコール、ヤシ油アルキルアルコール、オクタデシルアルコール及びオレイルアルコール等)のエチレンオキサイド(以下、EOと略記)1〜20モル及び/又はプロピレンオキサイド(以下、POと略記)1〜20モル付加物(ブロック付加物及び/又はランダム付加物を含む。以下同様)等が挙げられる。
【0040】
アルキルフェノールAO付加物(B3−2)としては、炭素数6〜24のアルキル基を有するアルキルフェノールのAO付加物が含まれ、オクチルフェノールのEO1〜20モル及び/又はPO1〜20モル付加物並びにノニルフェノールのEO1〜20モル及び/又はPO1〜20モル付加物等が挙げられる。また、TRITON(登録商標)X−114、igepal(登録商標)CA−520及びigepal(登録商標)CA−630等が市場から容易に入手できる。
【0041】
脂肪酸AO付加物(B3−3)としては、炭素数8〜24の脂肪酸(デカン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸及びヤシ油脂肪酸等)のEO1〜20モル及び/又はPO1〜20モル付加物が含まれ、オレイン酸EO9モル付加物、ジオレイン酸EO12モル付加物、ジオレイン酸EO20モル付加物及びステアリン酸EO9モル付加物等が挙げられる。
【0042】
多価アルコール型ノニオン性界面活性剤(B3−4)としては、炭素数3〜36の2〜8価の多価アルコール(グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ソルビット及びソルビタン等)のEO及び/又はPO付加物;前記多価アルコールの脂肪酸エステル及びそのEO付加物、並びに、砂糖の脂肪酸エステル、脂肪酸アルカノールアミド(ヤシ油脂肪酸ジエタノールアミド等)及びこれらのAO付加物が含まれ、ソルビタンテトラオレイン酸エステルEO付加物及びソルビタンヘキサオレイン酸エステルEO付加物等が挙げられる。
【0043】
カチオン性界面活性剤(B4)としては、アミン塩型カチオン性界面活性剤(B4−1)及び第4級アンモニウム塩型カチオン性界面活性剤(B4−2)等が挙げられる。
【0044】
アミン塩型カチオン性界面活性剤(B4−1)としては、ラウリルアミン、ステアリルアミン、トリエタノールアミンモノステアリン酸エステル、ステアラミドエチルジエチルアミン、ステアリン酸とアミノエチルエタノールアミンの縮合物にさらに尿素を縮合させたもの、硬化牛脂アミン及びロジンアミン等のギ酸、酢酸及び塩酸等の酸中和物が挙げられる。
【0045】
第4級アンモニウム塩型カチオン性界面活性剤(B4−2)としては、ステアラミドメチルピリジニウムクロライド、ラウリルトリメチルアンモニウムクロライド、ベンジルラウリルジメチルアンモニウムクロライド及びセチルピリジニウムブロマイド等があげられる。
【0046】
界面活性剤(B)としては、分泌効率の観点から、カルボン酸塩型両性界面活性剤(B1−1)、エーテルカルボン酸(B2−1)、スルホン酸塩(B2−4)、高級アルコールAO付加物(B3−1)及び多価アルコール型ノニオン性界面活性剤(B3−4)が好ましく、さらに好ましくはラウリン酸アミドプロピルベタイン、ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン、N−ラウロイル−N’−カルボキシメチル−N’−ヒドロキシエチルエチレンジアミンナトリウム、ヤシ油脂肪酸アミドプロピルベタイン、ラウリン酸アミドプロピルベタイン、ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン、コカミノプロピオン酸ナトリウム、ポリオキシエチレンラウリルエーテル酢酸ナトリウム、ポリオキシエチレントリデシルエーテル酢酸ナトリウム塩、ドデシルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル及びヤシ油脂肪酸ジエタノールアミドである。
【0047】
本発明において界面活性剤(B)は、使用に当たっては、界面活性剤(B)をそのまま使用してもよいし、必要により水と混合して、水性希釈液(水溶液状又は水分散液状)として用いることができる。
水性希釈液における、界面活性剤(B)の合計濃度は、対象となる細菌、生理活性物質の種類及び分泌方法の種類によって適宜選択されるが、有用物質の分泌性及びハンドリング性の観点から、水性希釈液の重量を基準として、0.1〜99重量%が好ましく、好ましくは1〜50重量%である。
【0048】
後述する工程(a)における培養液に含まれる界面活性剤(B)の使用量(重量%)は、対象となる細菌、生産される有用物質の種類及び分泌方法の種類によって適宜選択されるが、培養液の重量を基準として、分泌効率及び生産される有用物質の変性のさせにくさの観点から、0.0001〜10が好ましく、さらに好ましくは0.005〜10、次にさらに好ましくは0.01〜5である。
【0049】
界面活性剤(B)はあらかじめ培養液と混合して使用する以外に、細菌を植菌して懸濁させた培養液に後から添加しても良い。培養液との混合は、4℃〜99℃で培養液に界面活性剤(B)を添加し、撹拌羽根又はスターラー等で撹拌することで行うことができる。後から混合する際は、撹拌羽根等で撹拌しながら添加することで行うことができる。
【0050】
界面活性剤(B)の使用にあたっては、上記界面活性剤を単独で用いる以外に、数種類を混合して用いても良い。
【0051】
本発明において、有用物質を生産する細菌と界面活性剤とを同時に存在させて有用物質を細胞外に分泌させる工程は、下記における有用物質の細胞外分泌生産方法において工程(a)である。
有用物質の細胞外分泌生産方法
工程(a):有用物質を生産する細菌を培養する培養液と界面活性剤を同時に存在させて有用物質を細胞外(培養液中)に分泌させる工程。
工程(b):工程(a)の後、培養液から有用物質を分離する工程。
【0052】
以下に細菌を使用する有用物質の生産方法の一例を示す。
(i)遺伝子組み換え
(i−1)目的タンパク質を発現している細胞からメッセンジャーRNA(mRNA)を分離し、該mRNAから単鎖のcDNAを、次に二重鎖DNAを合成し、該相補DNAをファージ又はプラスミドに組み込む。
(i−2)得られた組み換えファージ又はプラスミドで宿主を形質転換し、培養後、目的タンパク質遺伝子の一部をコードするDNAプローブとのハイブリダイゼーション、あるいは抗体を用いたイムノアッセイ法により目的とするDNAを含有するファージあるいはプラスミドを単離する。
(i−3)その組み換えファージDNA又はプラスミドから目的とするクローン化DNAを切りだし、該クローン化DNA又はその一部を発現ベクター中のプロモーターの下流に連結することによって製造することができる。内膜を移行させるシグナル配列(ペリプラズム間隙に目的物質を発現させるシグナル配列)をコードするDNAを同時に連結することもできる。
【0053】
上記のプラスミドの例としては、pUC19などのpUCシリーズ、pET−22bなどのpETシリーズ、pBADシリーズ、pBR322などが挙げられる。
【0054】
(ii)培養
(ii−1)有用物質生産用細菌を発現ベクターで形質転換し培養する。培養は寒天培地上で通常15〜43℃で3〜72時間行う。
(ii−2)培養に用いる培養液を121℃、20分間オートクレーブ滅菌を行い、ここに寒天培地で培養した組み換え細菌を本培養する。ケルダール窒素は本培養に用いる培養液中に含まれる。本培養に用いる培養液に含まれるケルダール窒素量は、上述のとおりである。通常15〜43℃で12〜72時間行う。本工程で界面活性剤(B)を添加する。培養の始めから界面活性剤(B)を使用する場合は、(B)と培養液を混合し均一化したものを、培養液として用いる。培養を開始した後(B)を使用する場合は、培養開始直後から培養開始後72時間後に界面活性剤(B)を加えて培養を継続する。(ii−2)において、細菌の濃度は1〜1013細胞/mlが好ましく、さらに好ましくは102〜1011細胞/mlである。
(ii−2)において、界面活性剤(B)の使用量(重量%)は、対象となる細菌及び生産される有用物質の種類の種類等によって適宜選択されるが、培養液の重量を基準として、分泌効率及び生産される有用物質の変性のさせにくさの観点から、0.0001〜10が好ましく、さらに好ましくは0.005〜10、次にさらに好ましくは0.01〜5である。
【0055】
(iii)精製
(iii−1)培養液中に分泌されたタンパク質は、遠心分離、中空糸分離、ろ過等で細菌及び細菌残さと分離される。
(iii−2)タンパク質を含む培養液は、イオン交換カラム、ゲルろ過カラム、疎水カラム、アフィニティカラム及び限外カラム等のカラム処理を繰り返し、エタノール沈殿、硫酸アンモニウム沈殿及びポリエチレングリコール沈殿等の沈殿処理を必要に応じ適宜おこなうにことよって分離精製される。
【0056】
(iii−1)で分離された細菌は、その後、培養釜に戻し、新たに培養液を供給することにより、さらに培養することができる。その培養液等をさらに(iii)の工程に供し精製、培養を繰り返すことにより、有用物質の連続生産を行うことができる。
本願発明の細菌は、界面活性剤(B)による細菌の死滅又は生育阻害が抑制されるので、この様な連続生産における細菌の生存率が高まる。したがって、有用物質を連続的に生産することができ、生産量を飛躍的に向上することができる。
【0057】
上記の(iii)のタンパク質の分離・取り出し工程におけるカラムクロマトグラフィーに使用される充填剤としては、シリカ、デキストラン、アガロース、セルロース、アクリルアミド及びビニルポリマー等が挙げられ、市販品ではSephadexシリーズ、Sephacrylシリーズ、Sepharoseシリーズ(以上、Pharmacia社)、Bio−Gelシリーズ(Bio−Rad社)等があり入手可能である。
【0058】
上記の(iii)の菌体やタンパク質の分離・取り出し工程における膜としては、中空糸型の分離装置、平膜型の膜分離装置などが挙げられる。市販品としては、CFP−2−E−55などCFPシリーズ(GE社)、UFP−10−E−65などUFPシリーズ(GE社)、MFシリーズ(Millipore社)、UFシリーズ(Millipore社)等が入手可能である。
【0059】
本発明の生産方法で得られる有用物質は、細菌を破壊せずに細胞外へ分泌生産されるため、従来よりも純度が高い。また本発明の生産方法は、有用物質の生産性に優れているので高い収量を得ることができる。
【実施例】
【0060】
以下の実施例、比較例により本発明をさらに説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。なお、特記しない限り、部は重量部を意味する。
【0061】
<製造例1>
C末端にHisタグを有するMalEを発現するpUC19プラスミドで形質転換した大腸菌(α)を常法により作製した。
次に、大腸菌(α)をLB培養液(バクトトリプトン10g/L、イーストエキストラクト5g/L、NaCl10g/L、アンピシリン100mg/L)1mlに白金耳で植菌して37℃で一夜振とう培養を行った後、遠心機を用いて集菌し、集菌体の大腸菌(α)を得た。
【0062】
<比較例1>
製造例1で得た集菌体の大腸菌(α)を、100mg/L アンピシリン、0.1mM IPTG及びプロテアーゼ阻害剤ミックス(和光純薬(株)製)0.1mlを含有するTB培養液(Difco社)1mlに植菌し、培養を開始した。37℃2時間振とう培養を行った後、界面活性剤としてヤシ油脂肪酸アミドプロピルジメチルアミノ酢酸ベタイン(三洋化成工業(株)製、商品名「レボン2000」)を0.3重量%になるように加え、37℃で16時間振とう培養を続けた。その後、培養液の遠心分離(5,000G、10分)を行い、上清をSDS−PAGEにより解析して、大腸菌の細胞外に分泌されたMalEタンパク質のバンドを定量した。定量した結果は、比較例1の定量値を1.00とし、実施例1−1〜1−5、2及び3の結果は、比較例1の定量値を基準とする相対値で示した。培養開始時に培養液中に含まれるケダール窒素量は前述の方法により定量を行った。結果を表1にまとめた。
【0063】
<実施例1−1〜1−5>
比較例1において、集菌体の大腸菌(α)を再懸濁する前のTB培養液にラクトアルブミンを加えて、培養開始時に培養液中に含まれるケダール窒素量を表1に記載の量にすること以外は比較例1と同様にして培養し、比較例1と同様の方法を用いて評価をおこなった。ケダール窒素量及びMalEタンパク質の比較例1の定量値を基準とする相対値の結果を表1にまとめた。
【0064】
<実施例2>
比較例1において、集菌体の大腸菌(α)を再懸濁する前のTB培養液にポリペプトンを加えて、培養開始時に培養液中に含まれるケダール窒素量を表1に記載の量にする以外は比較例1と同様にして培養し、比較例1と同様の方法を用いて評価をおこなった。ケダール窒素量及びMalEタンパク質の比較例1の定量値を基準とする相対値の結果を表1にまとめた。
【0065】
<実施例3>
比較例1において、集菌体の大腸菌(α)を再懸濁する前のTB培養液に尿素を加えて、培養開始時に培養液中に含まれるケダール窒素量を表1に記載の量にする以外は比較例1と同様にして培養し、比較例1と同様の方法を用いて評価をおこなった。ケダール窒素量及びMalEタンパク質の比較例1の定量値を基準とする相対値の結果を表1にまとめた。
【0066】
【表1】

【0067】
<比較例2>
比較例1において、界面活性剤としてヤシ油脂肪酸アミドプロピルジメチルアミノ酢酸ベタインを添加後、経時的に0.1mlずつSDS−PAGE用のサンプリングを行い、大腸菌の細胞外に分泌されたMalEタンパク質を定量する以外は比較例1と同様に実施した。ヤシ油脂肪酸アミドプロピルジメチルアミノ酢酸ベタインを加える前に大腸菌内部に発現していたMalEタンパク質の定量は、培養液を遠心分離(5,000G、10分)して上清を除去後沈殿した菌体をTris−HCl緩衝液に再懸濁して、超音波破砕(200W、10分)を行いSDS−PAGEにより解析しすることにより行った。MalEタンパク質を定量した結果は、ヤシ油脂肪酸アミドプロピルジメチルアミノ酢酸ベタインを加える前に大腸菌内部に発現していたMalEタンパク質の定量値を基準とする相対値で示した。結果を表2にまとめた。
【0068】
<実施例4>
実施例1−2において、界面活性剤としてヤシ油脂肪酸アミドプロピルジメチルアミノ酢酸ベタイン添加後、経時的に0.1mlづつSDS−PAGE用のサンプリングを行い、大腸菌の細胞外に分泌されたMalEタンパク質を定量する以外は実施例1−2と同様に実施した。MalEタンパク質を定量した結果は、ヤシ油脂肪酸アミドプロピルジメチルアミノ酢酸ベタインを加える前に大腸菌内部に発現していたMalEタンパク質の定量値を基準とする相対値で示した。また、MalEタンパク質の発現量の経時的な発現増加が、単に大腸菌の増殖によるのではない事は、菌液の濁度を分光光度計で測定することにより確認した。結果を表2にまとめた。
【0069】
【表2】

【0070】
<製造例2>
pET−26bベクターを含有した大腸菌BL21(DE3)(Novagen社)(β)を常法により作成した。
次に、大腸菌(β)をLB培養液(バクトトリプトン10g/L、イーストエキストラクト5g/L、NaCl10g/L、アンピシリン100mg/L)1mlに白金耳で植菌して37℃で一夜振とう培養を行った後、遠心機を用いて集菌し、集菌体の大腸菌(β)を得た。
【0071】
<比較例3>
製造例2で得た集菌体の大腸菌(β)を、100mg/L アンピシリン、0.1mM IPTG及びプロテアーゼ阻害剤ミックス(和光純薬(株)製))0.1mlを含有するTB培養液(Difco社)1mlに再懸濁し、37℃2時間振とう培養を行った後、界面活性剤としてヤシ油脂肪酸アミドプロピルジメチルアミノ酢酸ベタイン(三洋化成工業(株)製、商品名「レボン2000」)を0.3重量%になるように加え、37℃で16時間振とう培養を続けた。その後、培養液の遠心分離(5,000G、10分)を行い、上清を抗His−tag抗体により解析して、大腸菌の細胞外に分泌されたペプチド量を定量した。定量した結果は、比較例3の定量値を1.00とし、実施例5の結果は、比較例3の定量値を基準とする相対値で示した。培養開始時に培養液中に含まれるケダール窒素量は前述の方法により定量を行った。結果を表3にまとめた。
【0072】
<実施例5>
比較例3において、集菌体の大腸菌(β)を再懸濁する前のTB培養液にポリペプトンを加えて、培養開始時に培養液中に含まれる合計ケダール窒素量を表3に記載の量にする以外は比較例3と同様にして培養し、比較例3と同様の方法を用いて評価をおこなった。ケダール窒素量及びペプチド量の比較例3の定量値を基準とする相対値の結果を表3にまとめた。
【0073】
【表3】

【0074】
表1及び3の結果から、培養開始時に培養液中に含まれるケダール窒素量が4.5〜50g/Lである実施例1−1〜1−5、2、3及び5は比較例1及び3よりも有用物質であるMalEタンパク質の収率が向上していることがわかる。
また、表2の結果から、比較例2では界面活性剤を添加してから4時間経過後以降は分泌された有用物質の量がほとんど変化していないことがわかる。一方、実施例4では4時間経過後以降も分泌された有用物質が増加し続けていることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明の有用物質の生産方法は、タンパク質などの有用物質を生産する際に使用できる。タンパク質としては酵素、機能性タンパク質、ホルモンタンパク質、抗体、ワクチンタンパク質及びペプチド等が挙げられる。製造されるタンパク質が、酵素(プロテアーゼ、セルラーゼ、リパーゼ及びアミラーゼ等)の場合には、洗浄剤や食品等の品質改良用として好適に使用できる。製造されるタンパク質が、酵素(アスパラギナーゼ、スーパーオキシドジスムターゼ、プロテアーゼ等)、ホルモンタンパク質(成長ホルモン、インターフェロンα等)、抗体(1本鎖抗体等)、ワクチンタンパク質等の場合には医薬品として好適に使用できる。
また、本発明の界面活性剤は、細菌のペリプラズム画分の抽出試薬としても使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記工程(a)を行い、さらに工程(b)を行う有用物質の細胞外分泌生産方法であって、培養開始時における培養液中のケルダール窒素量が培養液の体積を基準として4.5〜50g/Lである有用物質生産方法。
工程(a):有用物質を生産する細菌を培養する培養液と界面活性剤(B)を同時に存在させて有用物質を細胞外に分泌させる工程。
工程(b):工程(a)の後、培養液から有用物質を分離する工程。
【請求項2】
有用物質が、ペプチド又はタンパク質である請求項1に記載の有用物質生産方法。
【請求項3】
細菌が、大腸菌である請求項1又は2に記載の有用物質生産方法。

【公開番号】特開2012−5456(P2012−5456A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−146495(P2010−146495)
【出願日】平成22年6月28日(2010.6.28)
【出願人】(000002288)三洋化成工業株式会社 (1,719)
【Fターム(参考)】