説明

有限インパルス応答フィルタの適用結果を計算するための方法及びフィルタリング装置

【課題】FIRフィルタと呼ばれる有限インパルス応答フィルタ(フィルタリングがサンプルの有限集合に対して適用される)を実施するための方法及び装置を提供する。
【解決手段】FIRフィルタは、中心タップ周辺の奇数M=2L+1個の対称な係数で規定され、このFIRフィルタを適用することによって、インデックスLからインデックスN−L−1までの出力サンプルを計算する定常ステップを含み、専用の係数を有する可変幅L+iのフィルタを適用することによって、0〜L−1の値を取るインデックスiから過渡出力サンプルを計算する第1の過渡ステップと、専用の係数を有する可変幅L+i−N+1のフィルタを適用することによって、N−L〜N−1の値を取るインデックスiから過渡出力サンプルを計算する第2の過渡ステップとをさらに含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、包括的には、有限インパルス応答フィルタ(FIRフィルタと呼ばれる)を実施するための方法に関する。FIRフィルタでは、フィルタリングがサンプルXiの有限集合に対して適用される。本発明は、主として、OFDMのためのいくつかのチャネル推定技法で使用されるウィナーフィルタを実施するために設計される。
【背景技術】
【0002】
この明細書等では、FIRフィルタのみを検討することにする。より具体的には、中心タップ周辺の奇数M個の係数(2組のL個の対称な係数から構成される)、すなわちM=2L+1個の係数を有する線形位相FIRフィルタの場合のみを検討することにする。これらのフィルタ係数は、実数とすることもできるし、複素数とすることもできる。図1は、サンプルの集合に適用されるFIRフィルタの一例を示す。フィルタ1.2は、入力サンプルの集合1.1に適用され、出力サンプルの集合1.3が得られる。サンプルの入力集合は、インデックス付きサンプルの有限列によって構成され、サンプルの出力集合も同様に構成される。幅M=2L+1のフィルタを仮定すると、そのフィルタが中心に配置されている限り、インデックスjの出力サンプルの値を得るために、フィルタがインデックスj−L〜j+Lの入力サンプルに適用される。図1では、M=5であり、
iを、0〜N−1のiについてのサンプルからなる入力集合と呼び、
iを、0〜N−1のiについてのサンプルからなる出力集合と呼び、
iを、0〜2Lのiについてのフィルタ係数と呼ぶ。
【0003】
インデックスjの点の計算は、j>L−1で且つj<N−Lの場合には以下のように表すことができる。
【0004】
【数1】

【0005】
…(1)
又は、フィルタの対称性を考慮に入れると、以下のように表すことができる。
【0006】
【数2】

【0007】
…(2)
この式は、インデックスL〜N−L−1の計算を意味するいわゆる定常モードを表す。この式は、用いられるフィルタの全体が入力サンプルに適用される場合の出力サンプルの計算を表す。エッジサンプルの計算、すなわち0〜L−1のインデックスを有するサンプル及びN−LからN−1のインデックスを有するサンプルの計算は、過渡モード(transient mode)と呼ばれる。過渡モードを計算するには、サンプルの不完全な集合にフィルタを適用するという問題に対処する必要がある。
【0008】
この問題に対するいくつかの解決法がこれまでに提案されてきた。1つは、フィルタを変更せずに、欠落している入力サンプルに値0を適用して過渡サンプルを計算することにその本質がある。FIRフィルタに0を供給することによって得られた出力サンプルは、利用可能なものではなく、一般に、演算の残りの部分では無視される。これは、すべての用途に受け入れられるわけではない。
【0009】
別の解決法は、最初のL個のサンプルを、M個(フィルタのサイズ)のサンプルからなる同一の集合から計算するが、係数の集合を異ならせて計算することにその本質がある。次に続くサンプルは、その後、係数の集合を同一として通常通り計算される。最初のエッジの場合と同様に、最後のL個のサンプルも、M個のサンプルからなる同一の集合から計算されるが、係数の集合を異ならせて計算される。FIRフィルタの幅は、一般に、入力サンプルの影響距離を正確に反映するように選ばれるので、この技法は、必要以上に遠く離れた入力サンプルを考慮に入れる。これによって不要な過渡サンプルの計算が生じる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
この明細書等で提示する本発明は、過渡モードの計算をより正確に取り扱うFIRフィルタ計算方法を提案することによってこれらの問題に対処するものである。本発明は、過渡モードの計算に使用される可変幅のフィルタに基づいている。その上、提案する解決法は、過渡モードだけでなく定常モードにもL+1個の実数乗算器又は複素数乗算器のみを使用し、実施するのが容易である。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、0〜N−1でインデックスされるN個のサンプルからなる有限集合への有限インパルス応答フィルタの適用結果を計算するための方法であって、適用されるFIRフィルタは、中心タップ周辺の奇数M=2L+1個の対称な係数で規定され、FIRフィルタを適用することによってインデックスLからインデックスN−L−1までの出力サンプルを計算する定常ステップと、専用の係数を有する可変幅L+iのフィルタを適用することによって、0〜L−1の値を取るインデックスiから過渡出力サンプルを計算する第1の過渡ステップと、専用の係数を有する可変幅L+i−N+1のフィルタを適用することによって、N−L〜N−1の値を取るインデックスiから過渡出力サンプルを計算する第2の過渡ステップとを含む、方法に関する。
【0012】
本発明は、0〜N−1でインデックスされるN個のサンプルからなる有限集合への有限インパルス応答フィルタの適用結果を計算するためのフィルタリング装置であって、適用されるFIRフィルタは、中心タップ周辺の奇数M=2L+1個の対称な係数で規定され、FIRフィルタを適用することによって、インデックスLからインデックスN−L−1までの出力サンプルを計算する定常手段と、専用の係数を有する可変幅L+iのフィルタを適用することによって、0〜L−1の値を取るインデックスiから過渡出力サンプルを計算し、専用の係数を有する可変幅L+i−N+1のフィルタを適用することによって、N−L〜N−1の値を取るインデックスiから過渡出力サンプルを計算する過渡手段とを備える、フィルタリング装置にも関する。
【0013】
特定の一実施の形態によれば、定常手段及び過渡手段は、L+1個の同一の乗算器のみを乗算器として使用して構築される。
【0014】
特定の一実施の形態によれば、フィルタリング演算は、正確にN+L個の計算ステージで行われ、計算ステージは、一連の乗算器によって規定される。
【0015】
本発明の特徴は、一例の実施形態の以下の説明を読むことによって、より明らかになる。当該説明は、添付図面に関して作成されたものである。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】FIRフィルタがサンプルの集合に適用される一例を示す。
【図2】従来技術によってFIRフィルタが過渡モード及び定常モードでサンプルの有限集合に適用される一例を示す。
【図3】従来技術によってFIRフィルタが過渡モード及び定常モードでサンプルの有限集合に適用される一例を示す。
【図4】本発明によってFIRフィルタが過渡モード及び定常モードでサンプルの有限集合に適用される一例を示す。
【図5】本発明の一例示の実施形態におけるFIRフィルタリングの実施態様を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は、情報ビットが符号化シンボルのストリームとして時間内で定期的に送信されるデジタル伝送の分野で開発されたものである(ただし、対称的な中心配置をされたFIRフィルタをサンプルの有限集合に適用しなければならないすべての領域で適用可能である)。本発明は、伝送がOFDM(直交周波数分割多重)のようなマルチキャリア技法を使用する場合によく適している。この伝送技法を使用すると、サンプルは、副搬送波の有限集合で送信される。復号は、伝送チャネルの知識を使用する等化の演算を伴う。この伝送チャネルは、既知の基準パイロット信号の送信からの推定である。FFTの後、基準シンボルの寄与は、基本分割(basic division)等の適切な手段によって除去され、チャネル係数の推定が最終的に得られる。他のシンボルと同様に、基準パイロットもノイズの影響を受ける。OFDMは、チャネル推定値の誤差の影響を非常に受けやすいことが知られているので、ノイズの影響を低減することが望ましい。基本的な解決法は、(例えばチャネル係数に対するIFFTの後に)時間領域におけるチャネル応答の矩形フィルタによる乗算によってガードインターバルに入らないノイズを取り除くことにその本質がある。しかし、チャネル推定及びチャネル等化は、周波数領域で行われる。FFTを追加して計算することを回避するために、ノイズ寄与の低減も、周波数領域における畳み込みによって、すなわちデジタルフィルタリングを通じて、達成することができる。デジタルフィルタは、それらの構造に応じて、有限インパルス応答(FIR)及び無限インパルス応答(IIR)の双方を実施することができる。それらの伝達関数における極によって、IIRフィルタは、少数の係数で非常に選択的な周波数を達成することができる。しかし、これらの極は、IIRフィルタを不安定にする可能性もある一方、FIRフィルタは、本質的にBIBO(有界入力有界出力)安定である。実際の実施になると、IIRフィルタは、量子化誤差の影響も受けやすいように見える。チャネル推定を取り扱うとき、副搬送波によって搬送される情報を変更しないことが重要である。すなわち、フィルタは、理想的には、通過帯域にわたって位相が平坦且つ線形でなければならない。選択性に関する制約条件は厳密ではないので、FIRフィルタを使用することが一般的である。1つの手法は、通常は最小平均二乗誤差(MMSE)である性能判定基準に従ってFIRフィルタを計算する(結果的にはいわゆるウィナーフィルタにつながるものである)ことにその本質がある。最適なウィナーの計算には、チャネル応答の知識が必要とされる。受信機を簡単にするために、通常はガードインターバル継続時間にわたって1に等しい固定チャネルを前提とすることが一般的である。この手法を用いて得られる性能は、最適なフィルタと比較してもかなり受け入れやすいものである。また、ウィナーフィルタ係数を実数にするために、OFDM多重をガードインターバル継続時間の半分だけシフトする(したがって全体的な複雑度が低減される)ことも非常に一般的である。この解決法の利点は、対称フィルタが得られることにもある。
【0018】
ランクjのサンプルに対して、それよりも低いランクを有するすべてのサンプルは、そのサンプルの過去(左側サンプル)に属するものとして記述される。または、それよりも高いランクを有するすべてのサンプルは、そのサンプルの未来(右側サンプル)に属するものとして記述される。ここで検討されるFIRフィルタは、本質的に非因果性であり、理論的応答に対するシフト及びトランケートによって因果性にされる。これは、ランクjから下方にランクj−M+1までの入力サンプルのフィルタリングが、ランクj−Lを有する入力サンプルに対する出力サンプルを提供することを意味する。
【0019】
図2は、対称的な中心配置をされたFIRフィルタのサンプルの有限集合への適用を示す。サンプルの入力有限集合は2.1で参照される。この入力有限集合は、0〜N−1でインデックスされるN個の入力サンプルを含む。サンプルのこの入力集合は、この図ではM=5の幅を有するフィルタによってフィルタリングされ、同じ個数のサンプルを有するフィルタリング済みサンプルの出力集合2.2が生成される。フィルタ2.3は実際には使用されず、その結果は出力集合の範囲から外れる。最初の出力サンプルは、最初の3つの入力サンプルにフィルタ2.4を適用することによって得られる。通常、このフィルタを計算するのに使用される最初の2つの値は0に設定される。2番目の出力サンプルは、最初の4つの入力サンプルにフィルタ2.5を適用することによって得られる。通常、このフィルタを計算するのに使用される最初の値は0に設定される。この状態は、フィルタ2.7及び2.8を使用する最後の2つのサンプルに対して対称である。最初の2つのサンプル及び最後の2つのサンプルの計算は、計算に使用されるフィルタが実際の入力サンプルに完全には適合していない過渡モードを表す。インデックス2〜N−3の他のすべての出力サンプルの計算は、フィルタが実際の入力サンプルに完全に適合している参照番号2.6の定常モードを表す。
【0020】
値0を有する仮想サンプルを挿入することによって過渡モードで得られた結果は質が悪いことから、過渡結果は、従来技術では、演算の残りの部分で廃棄されることが多い。これは、すべての副搬送波が情報の搬送に等しく寄与する本ケースでは明らかに可能ではない。
【0021】
別の既知の解決法は、最初のL個のサンプルを、M個のサンプルからなる同一の集合から計算するが、係数の集合を異ならせることにその本質がある。次に続くサンプルは、その後、係数の集合を同一として通常通り計算される。最初のエッジと同様に、最後のL個のサンプルも、M個のサンプルからなる同一の集合から計算されるが、係数の集合を異ならせる。MMSE判定基準の1つの利点は、帯域エッジ係数(band edges coefficient)の計算を単純にすることである。この解決法を図3に示す。図3では、最初のM個の入力サンプルに対して適用される幅Mのフィルタ3.4が、最初の出力サンプルを計算するのに使用される。最初のM個の入力サンプルに対して適用される同じく幅Mのフィルタ3.5は、2番目の出力サンプルを計算するのに使用される。定常モード3.6は、対称的な中心配置をされたFIRフィルタを使用して通常通り計算される。フィルタ3.7及び3.8は、L個の最後のサンプルを計算するのに使用される。明らかに、過渡フィルタは、対称的でもなければ、中心配置をされているわけでもなく、それらのフィルタの係数は、定常モードに使用される通常のフィルタの係数とは異なっていなければならない。
【0022】
この解決法の欠点は二様にとることができる。一方では、過渡フィルタが、計算される出力値からの距離がLよりも大きな入力サンプルを考慮に入れており、これは、フィルタの幅が2L+1となるように選ばれる用途では意味をなさない。もう一方では、式2から推測できるように、L+1個の乗算器を使用して定常モードの計算を達成することができる。過渡フィルタが対称的ではないため、過渡サンプルの計算は、L+1個の乗算器を使用して達成することができず、これによって、計算を実施するのに、ハードウェア、特に乗算器が余分に必要となる。
【0023】
提案する解決法は、可変長を有する過渡フィルタに基づいている。1つの前提は、出力からL−1よりも大きな距離の入力サンプルが、結果を計算するための情報をほとんどもたらさないということである。これにより、対称的な応答を活用したL+1回の乗算という低減された複雑度と、2L+1個の係数の全長フィルタで得られる性能に近い性能とで過渡期間のフィルタリングを実行することが可能になる。したがって、インデックス0の最初の出力サンプルは、最初のL+1個の入力サンプルをカバーするサイズL+1のフィルタを使用して計算される。j<Lのインデックスjの過渡サンプルは、最初のj+L+1個の入力サンプルに適用される幅j+L+1のフィルタで計算される。このように、過渡モードの新しい各サンプルについて、フィルタのサイズは、L+1から最後の過渡サンプルの2Lまでインクリメントされる。その後、サイズ2L+1のフィルタによる定常モードに入る。同じことは、他方のエッジにも対称的に当てはまる。図4はこれを示す。サイズ3の第1の過渡フィルタ4.4が他方のエッジの対称フィルタ4.8に対応し、サイズ4の第2のフィルタ4.5が他方のエッジの対称フィルタ4.7に対応している。
【0024】
この明細書等では、既知の解決法に従って計算されることが想定される、フィルタの係数の計算には注目しない。例えば、この例示の実施形態では、これらのフィルタの係数は、ウィナー法(the Wiener method)を使用して推定することができる。
【0025】
性能に関する利得は、明らかに、フィルタの長さが、フィルタリングされ出力されるサンプルのランクと共に増加することに起因する。このフィルタは、常に、L個の未来のサンプル及びすべての利用可能な過去のサンプルを使用する。フィルタのパラメータLは、一般に、過去のサンプル及び未来のサンプルから利用可能な情報のほとんどから利益を得るように選択される。したがって、フィルタ出力に対するこれらのサンプルの寄与を無視することは有害ではない。フィルタ長を拡大することによって、不完全性(例えば位相の非線形性に起因するもの)の影響を低減することも可能になる。これによって、全長Mのシナリオと比較して、過渡サンプルの計算に必要な演算数が全体的に削減される。この手法の第2の、そして主要な利点は、過渡サンプルの計算に必要な追加の乗算を、最初のL個の不要な過渡サンプルの計算にわたって拡散できることである。すなわち、あたかも、サンプルのブロックが、M個の係数の因果性フィルタで完全にフィルタリングされるようになることである。最初のL個のサンプルは、情報を搬送するものではないので出力から単に廃棄されるだけであるが、2L+1個の係数よりも多くの係数を有する有用な過渡サンプルの計算に寄与する。そうすることで、L+1個の乗算器しか必要とされない。
【0026】
実施に対処する際、面積及び電力消費の双方を節約するためにハードウェア資源を節約することが重要である。ここでは、チャネル推定のためのFIRフィルタの実施に焦点を当てることにする。定常モードでは、奇数M=2L+1個の係数で対称となるようにフィルタを選択することができる。したがって、フィルタリングは、L+1個の乗算器のみを使用して達成することができる。同じフィルタ係数によって加重される入力サンプル対の出力への寄与は、同一の乗算器を用いて達成することができ、この乗算器では2つの入力サンプルの合計に乗算が適用される。あいにく、過渡期間において適用されるフィルタは対称的ではない。したがって、フィルタの実施には、帯域エッジをハンドリングするためのみの2L+1個の係数が必要とされる。
【0027】
ウィナーフィルタは、チャネル相関の知識を使用してノイズ寄与を低減する。各サンプルは、そのサンプルの両サイドに隣接したサンプルと相関される。フィルタのサイズは、一般に、利用可能な情報のほとんどから利益を得るように選ばれる。サンプルのブロックでは、最初のサンプルは、右側のサンプルによってもたらされた情報からしか利益を得ることができない。したがって、ノイズ低減の質は、定常モードのサンプルの場合ほど良好なものにならない可能性がある。2番目のサンプルは、過去の1つのサンプルの寄与から利益を得て、わずかにより多くのノイズを取り除くことができる。
【0028】
FIRフィルタを計算するこの方法は、過渡モード及び定常モードの双方についてL+1個の乗算器のみを使用して実施することができる。これによって、電力及び表面積の双方を節約するハードウェアがもたらされる。ここで、このようなハードウェアの一例を図5に関連して説明することにする。このハードウェアは、幅M=7(L=3)のFIRフィルタの計算に専用化されている。この図において、Z-1のマークのある正方形は自身の入力を1サイクル遅延させるバッファであり、プラス符号でマーキングされた長方形は加算器であり、乗算符号「*」を有する円は乗算器であると同時に、S符号でマーキングされた台形はセレクタである。バッファ5.1〜5.6の第1ランクによって、入力サンプルは、サイクルごとに前進することが可能になる。3つの加算器5.7〜5.9は、定常モードの期間中において同じ係数を乗算しなければならない対称な入力を加算することに専用化されている。セレクタ5.10〜5.12は、後に解説するように、次に続く乗算器の特定のために入力を選択して、過渡モードに対処するのに使用される。次に、L+1個の乗算器、ここではL=3であるので4つの乗算器5.13〜5.16は、乗算に専用化されている。定常モードでは、最初の3つ5.13〜5.15は、入力の合計を対応する係数で乗算する一方、最後の1つ5.16は、中央サンプルの乗算に専用化されている。図が無用に複雑になることを回避するために、これらの乗算器への正しい係数の供給は表されていない。次に、加算器がバッファと連結されることによって構成される一連の累算器5.17及び5.20、5.18及び5.23、5.19及び5.25が来る。この累算器列の目的は、過渡フィルタの結果を累算することである。最終加算器5.28は、主に定常モードの期間中、フィルタの結果を計算するためにそこに存在する。最終セレクタは、定常モード又は過渡モードという計算のステージに応じて、最終加算器からの出力及び累算器からの出力の中から1つを選択するのに使用される。
【0029】
ここで、10個のサンプルの入力列に対する実行の一例を説明することにする。入力値をXiと呼ぶことにする。第1の過渡フィルタは、D0〜D2と呼ばれる係数を有する。第2の過渡フィルタは、E0〜E3と呼ばれる係数を有する。第3の過渡フィルタは、F0〜F4と呼ばれる係数を有する。対称的に、最後の過渡フィルタは、係数G0〜G4,H0〜H3、及びI0〜I2を有する。定常フィルタは、C0〜C3と呼ばれる係数を配置C0、C1、C2、C3、C2、C1、C0で有する。
【0030】
ステージ1では、X0が、第1のバッファ5.1の入力として提供される。また、X0は、3つの乗算器5.13〜5.15の入力としても選択される。そして、第1の乗算器5.13の出力はD00である。そして、第2の乗算器5.14の出力はE00である。そして、第3の乗算器5.15の出力はF00である。
【0031】
ステージ2では、X0が、第2のバッファ5.2の入力として提供される。X1が、第1のバッファ5.1の入力として提供される。また、X1は、3つの乗算器5.13〜5.15の入力としても選択される。そして、第1の乗算器5.13の出力はD11である。そして、第2の乗算器5.14の出力はE11である。そして、第3の乗算器5.15の出力はF11である。第1の累算器の加算器5.17の出力は、D00+D11である。第2の累算器の加算器5.18の出力は、E00+E11である。第3の累算器の加算器5.19の出力は、F00+F11である。
【0032】
ステージ3では、X0が、第3のバッファ5.3の入力として提供される。X1が、第2のバッファ5.2の入力として提供される。X2が、第1のバッファ5.1の入力として提供される。また、X2は、3つの乗算器5.13〜5.15の入力としても選択される。そして、第1の乗算器5.13の出力はD22である。そして、第2の乗算器5.14の出力はE22である。そして、第3の乗算器5.15の出力はF22である。第1の累算器の加算器5.17の出力は、D00+D11+D22である。第2の累算器の加算器5.18の出力は、E00+E11+E22である。第3の累算器の加算器5.19の出力は、F00+F11+F22である。
【0033】
ステージ4では、X3が、第1のバッファ5.1の入力として提供される。また、X3は、3つの乗算器5.13〜5.15の入力としても選択される。そして、第1の乗算器5.13の出力はD33である。そして、第2の乗算器5.14の出力はE33である。そして、第3の乗算器5.15の出力はF33である。第1の累算器の加算器5.17の出力は、D00+D11+D22+D33であり、5.29において第1の出力サンプルとして選択される。第2の累算器の加算器5.18の出力は、E00+E11+E22+E33である。第3の累算器の加算器5.19の出力は、F00+F11+F22+F33である。
【0034】
ステージ5では、X4が、第1のバッファ5.1の入力として提供される。また、X4は、2つの乗算器5.14及び5.15の入力としても選択される。そして、第1の乗算器5.13の出力はC2(X4+X2)である。そして、第2の乗算器5.14の出力はE44である。そして、第3の乗算器5.15の出力はF44である。第2の累算器の加算器5.18の出力は、E00+E11+E22+E33+E44であり、第2の出力サンプルとして選択される。第3の累算器の加算器5.19の出力は、F00+F11+F22+F33+F44である。
【0035】
ステージ6では、X5が、第1のバッファ5.1の入力として提供される。また、X5は、第3の乗算器5.15の入力としても選択される。そして、第1の乗算器5.13の出力はC2(X5+X3)である。そして、第2の乗算器5.14の出力はC1(X5+X1)である。そして、第3の乗算器5.15の出力はF55である。第3の累算器の加算器5.19の出力は、F00+F11+F22+F33+F44+F55であり、第3の出力サンプルとして選択される。バッファ5.21の出力は、C2(X4+X2)である。
【0036】
ステージ7では、X6が、第1のバッファ5.1の入力として提供される。そして、第1の乗算器5.13の出力はC2(X6+X4)である。そして、第2の乗算器5.14の出力はC1(X6+X2)である。そして、第3の乗算器5.15の出力はC0(X6+X0)である。そして、第4の乗算器5.16の出力はC33である。バッファ5.21の出力は、C2(X5+X3)である。バッファ5.22の出力は、C2(X4+X2)である。バッファ5.23の出力は、C1(X5+X1)である。回路の出力は、加算器5.28の出力から選択され、そして、加算器5.28の出力は、最初の定常出力サンプルに対応するC0(X6+X0)+C1(X5+X1)+C2(X4+X2)+C33である。
【0037】
ステージ8では、X7が、第1のバッファ5.1の入力として提供される。そして、第1の乗算器5.13の出力はC2(X7+X5)である。そして、第2の乗算器5.14の出力はC1(X7+X3)である。そして、第3の乗算器5.15の出力はC0(X7+X1)である。そして、第4の乗算器5.16の出力はC34である。バッファ5.21の出力は、C2(X6+X4)である。バッファ5.22の出力は、C2(X5+X3)である。バッファ5.23の出力は、C1(X6+X2)である。回路の出力は、加算器5.28の出力から選択され、そして、加算器5.28の出力は、第2の定常出力サンプルに対応するC0(X7+X1)+C1(X6+X2)+C2(X5+X3)+C34である。
【0038】
ステージ9では、X8が、第1のバッファ5.1の入力として提供される。いま、第1の乗算器5.13の出力は、セレクタ5.10における変化に起因してG04である。そして、第2の乗算器5.14の出力はC1(X8+X4)である。そして、第3の乗算器5.15の出力はC0(X8+X2)である。そして、第4の乗算器5.16の出力はC35である。バッファ5.21の出力は、C2(X7+X5)である。バッファ5.22の出力は、C2(X6+X4)である。バッファ5.23の出力は、C1(X7+X3)である。回路の出力は、加算器5.28の出力から選択され、そして、加算器5.28の出力は、第3の定常出力サンプルに対応するC0(X8+X2)+C1(X7+X3)+C2(X6+X4)+C35である。
【0039】
ステージ10では、X9が、第1のバッファ5.1の入力として提供される。いま、第1の乗算器5.13の出力はG15である。そして、第2の乗算器5.14の出力は、セレクタ5.11における変化に起因してH05である。そして、第3の乗算器5.15の出力はC0(X9+X3)である。そして、第4の乗算器5.16の出力はC36である。バッファ5.21の出力は、G04である。バッファ5.22の出力は、C2(X7+X5)である。バッファ5.23の出力は、C1(X8+X4)である。回路の出力は、加算器5.28の出力から選択され、そして、加算器5.28の出力は、第4の定常出力サンプルに対応するC0(X9+X3)+C1(X8+X4)+C2(X7+X5)+C36である。
【0040】
ステージ11では、X9が、再び第1のバッファ5.1の入力として提供される。X8が、第3のバッファ5.3の入力として提供され、X7が、バッファ5.4の入力として提供され、X6が、バッファ5.5の入力として提供され、X5が、バッファ5.6の入力として提供され、X4が、バッファ5.6の出力として提供される。そして、この入力パスは、終了過渡サンプルの最後のステージいくつかの入力となるこの状態で凍結される。
【0041】
いま、第1の乗算器5.13の出力はG26である。そして、第2の乗算器5.14の出力はG59である。そして、第3の乗算器5.15の出力はG48である。そして、第4の乗算器5.16の出力はG37である。回路の出力は、加算器5.28の出力から選択され、そして、加算器5.28の出力は、第1の終了過渡出力サンプルに対応するG04+G15+G26+G37+G48+G59である。
【0042】
ステージ12では、第1の乗算器5.13の出力は、いま、H16である。そして、第2の乗算器5.14の出力はH49である。そして、第3の乗算器5.15の出力はH38である。そして、第4の乗算器5.16の出力はH27である。回路の出力は、加算器5.28の出力から選択され、そして、加算器5.28の出力は、第2の終了過渡出力サンプルに対応するH05+H16+H27+H38+H49である。
【0043】
ステージ13では、いま、第1の乗算器5.13の出力はI06である。そして、第2の乗算器5.14の出力はI39である。そして、第3の乗算器5.15の出力は、I28である。そして、第4の乗算器5.16の出力はI17である。回路の出力は、加算器5.28の出力から選択され、そして、加算器5.28の出力は、最後の終了過渡出力サンプルに対応するI06+I17+I28+I39である。
【0044】
M=7のフィルタ幅について説明したが、上記設計は、M=3からの任意の奇数サイズのフィルタに拡張することができる。したがって、L+1個の同一の乗算器のみを乗算器として使用して過渡計算及び定常計算を行うことで、任意の所与のサイズM=2L+1のFIR中心配置対称フィルタをN個のサンプルの有限集合に適用した結果を計算することが可能である。この計算は、N+L個の計算ステージで行われる。この計算ステージは、一連の乗算器によって規定される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
0〜N−1でインデックスされるN個のサンプルからなる有限集合への有限インパルス応答フィルタの適用結果を計算するための方法であって、
適用される前記FIRフィルタは、中心タップ周辺の奇数M=2L+1個の対称な係数で規定され、前記FIRフィルタを適用することによって、インデックスLからインデックスN−L−1までの出力サンプルを計算する定常ステップ
を含む方法において、
専用の係数を有する可変幅L+iのフィルタを適用することによって、0〜L−1の値を取るインデックスiから過渡出力サンプルを計算する第1の過渡ステップと、
専用の係数を有する可変幅L+i−N+1のフィルタを適用することによって、N−L〜N−1の値を取るインデックスiから過渡出力サンプルを計算する第2の過渡ステップと、
をさらに含むことを特徴とする、方法。
【請求項2】
0〜N−1でインデックスされるN個のサンプルからなる有限集合への有限インパルス応答フィルタの適用結果を計算するためのフィルタリング装置であって、
適用される前記FIRフィルタは、中心タップ周辺の奇数M=2L+1個の対称な係数で規定され、前記FIRフィルタを適用することによって、インデックスLからインデックスN−L−1までの出力サンプルを計算する定常手段と、
専用の係数を有する可変幅L+iのフィルタを適用することによって、0〜L−1の値を取るインデックスiから過渡出力サンプルを計算し、専用の係数を有する可変幅L+i−N+1のフィルタを適用することによって、N−L〜N−1の値を取るインデックスiから過渡出力サンプルを計算する、過渡手段と、
を備える、フィルタリング装置。
【請求項3】
前記定常手段及び前記過渡手段は、L+1個の同一の乗算器のみを乗算器として使用して構築されることを特徴とする、請求項2に記載のフィルタリング装置。
【請求項4】
前記フィルタリング演算は、正確にN+L個の計算ステージで行われ、前記計算ステージは、一連の前記乗算器によって規定されることを特徴とする、請求項3に記載のフィルタリング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−226714(P2010−226714A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2010−59562(P2010−59562)
【出願日】平成22年3月16日(2010.3.16)
【出願人】(503163527)ミツビシ・エレクトリック・アールアンドディー・センター・ヨーロッパ・ビーヴィ (175)
【氏名又は名称原語表記】MITSUBISHI ELECTRIC R&D CENTRE EUROPE B.V.
【住所又は居所原語表記】Capronilaan 46, 1119 NS Schiphol Rijk, The Netherlands