説明

木工鋸用刃板

【課題】切削深さを規制するために設置される治具を傷つけることなく、所定の深さまで確実に切削できる木工鋸用刃板を提供する。
【解決手段】刃板の片側に設けられる切削刃、或いは刃板の両側に設けられる切削刃の少なくとも片方の元側及び先側に、切削に寄与しない直線部分を有しているものであり、該先側直線部分12と該元側直線部分13とは同一直線上にあり、またこれらの間に存在する刃部分11の先端は、該直線部分の高さよりも僅かな距離だけ低く形成された木工鋸用刃板。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、切削深さを規制するために設置される治具を傷つけることなく、所定の深さまで簡単確実に切削できるように構成された木工鋸用刃板の構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
木材の罫書きに従って鋸を使用するという作業は、初心者にとって相当困難なものである。またこの罫書きの形態も種々あり、木材を切り落としてしまうような場合であればまだしも、ホゾ穴を形成する時のように予め定められた深さで切削を一旦終了しなければならないような場合には、切削深さに過不足が生じがちであり、多少熟達した者にとっても存外に気を使う面倒な作業となっている。
【0003】
また鋸作業自体は、作業台を使用しここに被切削木材をバイス等で固定することで作業の簡便化が図られることが多い。そこで上述した予め切削深さが決まっているという場合には、例えば図6の如き工夫が凝らされることがある。即ち、被加工木材Wをバイス6で固定するについて、切削時の鋸刃の往復動が水平方向となるよう該被加工木材Wを垂直にして固定するという方法である。これは、鋸は水平方向に往復動させた方が楽であるという点以外に、垂直方向に往復動させた場合どうしても切削深さが浅くなりがちであり設計通りの切削がしにくいこと、背面側の切削状況の目視が容易であること、おがくずが溜まって罫書き線を隠すという事態が起こりにくいこと、等々の副次的な効果もあって好適な方法である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところがこの場合も問題がある。水平方向に鋸挽きをするとは言え、現実には刃板先端は上下動を伴うので、多くは刃板の先側端、時には元側端が、作業台に接触してしまう恐れがある。通常作業台は木製であるので刃が接触するとこれを傷つけてしまう。当然作業者はそうした事態を回避しようとし、鋸Sを挽く位置を図の破線の如く作業台から遠ざけ高い位置にすることになる。これにより、却って作業性が損なわれることともなる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
そこで本発明者はこの点に鑑み、通常の操作では作業台を傷つける心配がなく、更に、被加工木材を作業台へ適切に設置しさえすれば予め設定された切削深さまでの切削が簡単確実にできる鋸刃板を得ようと鋭意研究の結果遂に本発明を成したものであり、その特徴とするところは、刃板の片側に設けられる切削刃、或いは刃板の両側に設けられる切削刃の少なくとも片方の元側及び先側に、切削に寄与しない直線部分を有しているものであって、該先側直線部分と該元側直線部分とは同一直線上にあり、またこれらの間に存在する刃部分の先端は、該直線部分の高さよりも僅かな距離だけ低く形成されているものである点にある。
【0006】
即ち本発明は、平坦面に刃板を押し当てた時に、切削機能部である刃部分が当該平坦面に至ることがないように、刃部を設けない直線部分を両端に配し、且つ中央部に設けた刃部の先端高さをこの直線部分の高さより僅かに低くしたものである。
【0007】
ここで「刃板」は鋸の構成要素であり、鋸は概ね「柄」と「刃板」とから成立していると言える。刃板は、片刃のものと両刃のものがあるが本発明においてはどちらにも採用可能である。また、替え刃式のものとそうでない固設式のものとがあるが、それについても限定はしない。
【0008】
本発明の刃板の元側及び先側には、切削に寄与しない直線部分を有している。また、該先側直線部分と該元側直線部分とは同一直線上にある。これらの直線部分の長さについて本発明では何ら限定しない。但し、鋸は切削が本来の目的であって刃部分はできるだけ多くとるのが好ましいが、直線部分が余りに少ないのも好ましくない。本発明者が実験した範囲では、刃板の刃渡り全長のおおよそ10%程度以上30%程度以下が好ましいものであった。しかしこの割合に関しては特に限定するものではない。
【0009】
刃部分の先端、即ち刃先は、その前後に配置される直線部分の高さよりも僅かな距離だけ低く形成されている。この「僅かな距離」がどの程度であるのかについては本発明において限定するものではないが、1mm前後が適当であって、これよりも小さいと刃が作業台等に接触しやすくなるし、余り大きいと被加工木材の固定が面倒となるし、通常鋸として使用する際に直線部分が邪魔になりやすく作業能率が悪くなり易い。
【0010】
こうした構造の刃板を有する鋸の使用方法に関しても本発明は限定しないが、使用して好適な作業台環境というものはある。即ち、作業台上面から被加工木材の切削部分だけが突出するようにして該木材を固定するという方法である。作業台によって切削が制限されるので切削し過ぎる心配がなく、よってこれを危惧するが故の切り残しもなくなる。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る木工鋸用刃板を具備する鋸は、以下述べる如き効果を有する。
(1) 作業台に被加工木材を固定し鋸作業を行うという場合に、この作業台を刃で傷つける心配がない。
(2) 切削深さが予め決まっている場合、作業台に被加工木材を固定する時にその高さ調整を適切にすれば、設定通りの位置までの切削が確実にできる。
(3) 使用に当たって、特別な技能を必要としない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下本発明をより詳細に説明する。
【実施例1】
【0013】
図1は、本発明に係る木工鋸用刃板1(以下「本発明刃板1」という)の一例を示すものである。本例の本発明刃板1は、別体の鋸柄(ここでは図示していない)に容易に着脱できるように構成された、いわゆる替え刃タイプの刃板であって、その刃部分11の前後に直線部分(先側直線部分12と元側直線部分13)を有しており、先側直線部分12と元側直線部分13とは同一直線上にあり、刃部分11はこの高さよりも僅かな距離dだけ低く形成されている。なお、安全と作業性を更に良くするために、本例では直線部分の自由端側部に面取り14・14加工が施されているが、本発明に不可欠の構造ではなく又直線に代えて丸み(フィレット)を付けるようにしても良い。
【0014】
図2は、本発明刃板1を具備する鋸の一例を示すものであり、本発明刃板1は鋸柄2にボルト31、32によって固定されている。なおこのボルトの存在は、本発明に不可欠のものではない。従って、他の部材に置き換えても良いし、替え刃タイプではなく固着してしまったものであっても良いものとする。
【0015】
図3は、切削対象となる被加工木材Wの一例を、作業台4に固定した状態を示すものである。図示した状態では切削作業は開始されていない。被加工木材Wには、ホゾ穴を形成すべく予め罫書き線51、52が描かれており、このうち線51部分の切削について本発明刃板1を使用した鋸が適用される。線52部分に関しては、別途の手段(ノミ、その他の器具)によって切削されることとなる。被加工木材Wの固定高さは、作業台4の面よりも線52の方が僅か、即ち距離d分だけ高くなっている。なお本例において図示したホゾ穴のための罫書き線51、52は、奥側が広がった逆台形状であるが、矩形状のホゾ穴であっても良いし、ホゾ穴形成以外を目的とする切削の場合であっても勿論良い。
【0016】
次に図4は、本発明刃板1の使用状態の一例を示すものである。切削作業の最終段階直前には、本発明刃板1の先側直線部分12或いは元側直線部分13が作業台4の上面に接触することとなるが、刃部分11はどの段階であっても作業台4に接触しない。従って作業者は、切削の際に手に掛かる抵抗がなくなるまで鋸を往復させていれば自動的に切削終端位置までの切削作業がかなうこととなる。その後、罫書き線52部分の切除を、ノミその他を用いて行い作業(例えばホゾ穴の形成)が完了する。
【0017】
なお本発明刃板1は、ここまで説明してきた片刃のものに限らず、図5(a)(b)に示す如き両刃のものであっても良い。この場合、直線部分(先側直線部分12と元側直線部分13)を有するのは、両方[同図(a)]でも、片方[同図(b)]でも良い。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明に係る木工鋸用刃板の一例を示す側面図である。
【図2】本発明に係る木工鋸用刃板を取り付けた鋸の一例を示す側面図である。
【図3】被加工木材を作業台に固定した状態の一例を示す斜視図である。
【図4】(a)は本発明に係る木工用鋸のネジ付近の構造の一例を明らかにするための、部分概略底面図、(b)は刃板の可動域について説明するための概略平面図である。
【図5】本発明に係る木工用鋸の使用状態の一例を示す概略側面図である。
【図6】作業台を使用して行う鋸作業の従来例の一つを示す概略斜視図である。
【符号の説明】
【0019】
1 本発明に係る木工鋸用刃板
11 刃部分
12 先側直線部分
13 元側直線部分
14 面取り
2 鋸柄
31 ボルト
32 ボルト
4 作業台
51 罫書き線
52 罫書き線
6 バイス
W 被加工木材
S 鋸(従来品)
d 僅かな距離

【特許請求の範囲】
【請求項1】
刃板の片側に設けられる切削刃、或いは刃板の両側に設けられる切削刃の少なくとも片方の元側及び先側に、切削に寄与しない直線部分を有しているものであって、該先側直線部分と該元側直線部分とは同一直線上にあり、またこれらの間に存在する刃部分の先端は、該直線部分の高さよりも僅かな距離だけ低く形成されているものであることを特徴とする木工鋸用刃板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−105203(P2008−105203A)
【公開日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−288233(P2006−288233)
【出願日】平成18年10月24日(2006.10.24)
【出願人】(591043673)株式会社岡田金属工業所 (13)