説明

木材内物質含浸法

【課題】
既存の含浸法に比べ、経済的に含浸作業が行うことができる、音響エネルギーを用いた木材内物質含浸法を提供する。
【解決手段】
音響振動エネルギーを用いて、木材に物質を含浸させる木材内物質含浸方法であって、木材半製品の表面に含浸液を、層状に塗布する工程と、前記音響振動エネルギーを発生させる音響振動発生装置の振動発生面を、含浸液の内部に位置させ、かつ、該音響振動発生装置を、木材半製品から所定の間隔を有する位置に据えることにより、所定の物質を含浸させる工程と、を含む木材内物質含浸方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、音響振動エネルギーを用いた木材内物質含浸方法に関する。より詳細には、木材の保存・装飾などの目的で用いる各種の物質(耐火性物質、木質強化用凝固液、カラー塗料など)を、超音波エネルギーを用いて含浸させる木材内物質含浸方法に関する。
【背景技術及び発明が解決しようとする課題】
【0002】
音響振動学に関する研究・開発が多角化するに伴い、物理及び化学的な過程を複合化した含浸技術にまでその技術領域が広がりつつある。そして、木材などの素材に所定の物質を含浸する場合に、音響振動学を応用する研究も、近年、行われている。
【0003】
この種の音響エネルギーを用いる技術は、含浸しようとする物質の木材内への含浸条件が比較的良好であり、木材内に特定の物質を含浸する上で好適な技術として知られている。
【0004】
このような超音波エネルギーを用いて木材内に特定の物質を含浸する技術として、ロシア特許第RU 2010701号公報(1994年登録)が開示されている。
【0005】
この先行技術は、加工すべき物質(木材など)に溶液を浸した後に直流電源を印加し、これと同時に強い超音波振動を物質に加えるものである。
【0006】
木材の重量が6〜12%に減ると、超音波発生器の周波数条件と振幅条件を変えながら浸透する溶液を木材の内部に圧着する。
【0007】
しかしながら、上記した方法は多数の段階よりなるために各種の特性を検査しながら超音波周波数と振幅を調節する必要がある。従って、結果として、その過程が極めて複雑であり、しかも含浸に長時間がかかるという不都合がある。
【0008】
一方、ロシア特許第SU 677038号公報(1991年登録)には、多気孔材料(木材)に音響振動エネルギーを用いて特定の物質を含浸する技術が開示されている。
【0009】
この方法では、まず、加工しようとする木材半製品をチャンバに入れ、前記チャンバの内部に音響振動エネルギーを生成するための装置を組み付けるとともに、この装置との対向個所に板を設ける。
【0010】
そして、木材半製品を音響振動発生装置と板との間に位置させ、チャンバの内部に含浸液を詰めた後、含浸液の全体に音響振動エネルギーを加える。
【0011】
この方法は、浸透期間中に周波数を一定に保持するために、周波数調節が正確に行えるシステムを必要とする。そして、チャンバの内部に含浸液を含浸するため、多量の含浸液が必要となるという不具合もある。
【特許文献1】ロシア特許第RU 2010701号公報(1994年登録)
【特許文献2】ロシア特許第SU 677038号公報(1991年登録)
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0012】
そこで、本発明は、木材半製品の内部に特定の物質を含浸する技術であり、かつ、上記した先行特許技術が抱いている不具合を解消することのできる新規な方法を提供する。
【0013】
特に、本発明は、既存に知られている含浸法に比べて極めて経済的に含浸作業が行うことができる、音響エネルギーを用いた木材内物質含浸方法を提供することを主な目的とする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明に係る音響エネルギーを用いた木材内への所定物質の含浸方法は、下記のような特徴を有する。
【0015】
木材内に含浸させる所定の含浸溶液に音響振動エネルギーを加えるため、音響振動発生装置を用いる。この音響振動発生装置により発生した音響振動エネルギーに係る振動発生面を、半製品の表面に塗布された含浸溶液の内部に位置させ、かつ、該音響振動発生装置を、木材半製品から所定の間隔を有する位置に据える。
【0016】
木材半製品の表面に塗布される含浸液は別途に塗布してもよい。含浸液供給装置を、音響振動発生装置の振動子の中央溝に挿通して、又は、前記振動子の周囲に据え、その含浸液供給装置により所望の個所に含浸液を随時塗布してもよい。
【0017】
音響振動エネルギーは木材のファイバ構造によって伝達効率が異なるが、木材半製品1に所定の物質を含浸する際において、含浸溶液の含浸方向が図1におけるa方向(以下、「ファイバ方向」と称する)である場合には、音響振動発生装置2を音響振動方向と木材半製品1の表面が直角をなすように設け、音響振動方向と木材半製品1のファイバ方向がなす角を0°にする。
【0018】
一方、含浸溶液の含浸方向が図2におけるb方向(以下、「ファイバ直角方向」と称する)である場合には、音響振動発生装置2を木材半製品1の直角に対するβ角の位置に設け、音響振動方向と木材半製品1の直角方向がなす角をβにする。
【0019】
ここで、βは、「数1」に表す数式によって定められる。
【数1】

【0020】
前式において、Cは含浸液への超音波の伝達速度(縦波)であり、Cは木材への超音波の伝達速度(表面波)である。
【0021】
音響振動発生装置の振動周波数の範囲、及び、振動発生面の振幅の範囲は、含浸に用いられた含浸液の音響共振に基づいて設定する。
【0022】
本発明では、音響振動エネルギーを用いて木材半製品に含浸液を含浸する際、音響振動エネルギーを木材半製品1の上に塗布し、含浸液層3を形成する。
【0023】
含浸液層3の最大の厚さは、5mmを超えない範囲内で含浸液の凝集力と粘度によって定められる。結局、本発明に係る含浸方法において、比較的に薄い層に対して、音響振動エネルギーを加える。
【0024】
音響振動を固体と液体の境界領域の近傍に加える場合、含浸液の薄い層の容積の低い部分に音響振動を加えるので、音響振動を集中させることができ、少量のエネルギーで行うことができる。従って、比較的小さな音響振動発生装置でも実現可能になるので経済的である。
【0025】
加えて、少量の含浸液を用いても良いので、必要となる含浸液を最少化できる。
【0026】
さらに、音響振動が、薄い液体層を通って木材半製品の内部に伝わるので、木材半製品内の深くまで含浸液を含浸できる。
【0027】
音響振動発生装置を、木材半製品から所定の間隔を有する位置に据える理由は、音響振動発生面が木材半製品に、直接、接触することにより木材半製品の表面に傷などが付くことを防ぐためである。
【0028】
本発明者による実験により、木材半製品の加工面がファイバ方向の横断断片となる条件で音響振動の方向がファイバ方向と同じであれば、含浸液が木材半製品の内部に一番効率よく浸透可能であることが分かった。これは、音響振動発生装置によって発生した振動速度のベクトルが、前記木材半製品の表面の垂直線に対して、0°の時である。
【0029】
また、木材半製品の含浸面が木材ファイバに沿って(ファイバ方向と直角に)形成されている場合、木材半製品の面に沿って水平及び垂直の音波が発生するときに木材半製品の内部に含浸液が効率よく浸透するということが確認できた。
これは、音響振動発生装置によって発生した振動速度のベクトルと、前記木材半製品の垂直線と、がなすβ角が、上述の「数1」に表す数式によって定められる条件を満たすときに可能である。
【0030】
さらに、含浸中に含浸液が音響共振する条件下では、木材半製品の内部への浸透が一層効率よくなされるということが確認できた。これは、共振現象により木材半製品の表面近くで含浸液が小さな粒子に分離しながら木材半製品の加工面に衝突し、木材加工面に浸透することにより、含浸が拡がるからである。すなわち、共振現象により小さな粒子が衝突することになり、含浸作業が物理化学的に一層強くなされるのである。
【0031】
本発明において、木材半製品内に所定の物質を含浸する作業は、下記のような手順にて行われる。
【0032】
1.まず、木材半製品を置く。
2.木材半製品の表面に含浸液を層状に塗布する(木材半製品に含浸液を浸すか、若しくは、液体の移送に気孔性の音響振動発生装置を用いる)。
3.音響振動発生装置を据える。木材半製品への含浸方向に合わせ、ファイバ方向のβが0、ファイバ直角方向のβが上述の「数1」に表す式を満たすように、据える。(ここで、含浸液の種類と木材の種類による超音波の伝達速度を分かるためには、データシートを参照するか、それとも、試験を行う。)
3−1.音響振動発生装置を音響振動発生面が含浸液中に位置させる。
3−2.木材半製品と音響振動発生面との間の間隔を調節する。
4.音響振動発生装置を動作させる。
5.木材半製品の加工面の全体に、音響振動を均一に加える。
6.所望の深さまで浸透させるため、上記2〜5を数回繰り返し行う。含浸液供給装置を別設して用いる場合、含浸液を所望の深さまで浸透させるために、含浸液の供給量を、適宜、調節する。
【実施例1】
【0033】
密度0.46g/cm、湿度8%、寸法150×45×7mmのシラカバ見本に耐火性物質を含浸する試験を行った。
【0034】
ファイバ直角方向を有する150×45mmの見本の木材面に含浸を行った。半製品の表面上に1mmの厚さの層状にアンチピリン(耐火性物質)を塗布した。
【0035】
含浸作業を行うために、音響振動発生装置として、1cmの発生面を有する標準電気音響トランスデューサ(transducer、商品名「PMC−15A−18」)を用いた。
【0036】
音響振動発生装置に係る振動発生面は、アンチピリン層内に位置するようにし、木材半製品面との間隔は、0.5mmにした。
【0037】
そして、音響振動発生装置を、振動発生面から発せられる振動速度のベクトルと木材半製品面の垂直線とがβ角をなすようにして斜めに設けた。前記β角は、予め公式により計算しておいた。
【0038】
С及びСの値は、試験により計算しておいた。上記の木材半製品とアンチピリンとの関係から、С及びСの値としては、それぞれ1500及び5000m/sが適正値であった。公式により計算されたβ角は16°であった。
【0039】
音響振動発生装置を用い、含浸しようとする含浸液内に超音波振動を引き起こした。音響振動周波数は18kHzであり、振動発生面の振幅は1mmにした。
【0040】
音響装置を動かし、木材半製品の前面に含浸作業を5分間行った。
【0041】
次に、木材半製品をひっくり返し、前記前面に対する方法と同様にして裏面にも含浸作業を行った。裏面の含浸作業時間も前面と同様に5分とした。
【0042】
木材半製品の単位含浸面に対する重量増加分に基づき、含浸結果を評価した。重量の増加分は4.0×10−2g/cmであった。
【0043】
本発明の実施例1による含浸結果を既存の方法と比較するために、実施例1と同じ条件を有する木材半製品を含浸液に40分間含浸させた。含浸後の木材半製品の単位含浸面に対する重量増加分は2.8×10−2g/cmであった。これは、本発明の実施例1と比較するとき、含浸の度合いが30%ほど低い値である。
【実施例2】
【0044】
実施例1における木材見本と同じ木材見本を用い、実施例1の方法と同様にして含浸作業を行った。
【0045】
音響振動発生装置の振動周波数も実施例1と同様にして含浸作業を行ったが、振動発生面の振幅は3mmにした。
【0046】
音響振動発生装置に係る振動発生面に含浸される含浸液が目視で確認でき、音響が観測される共振現象が発生した。
【0047】
木材半製品の前裏面に対する含浸作業にそれぞれ1分がかかった。含浸作業後、木材半製品の単位含浸面に対する重量増加分が4.6×10−2g/cmであった。これは、前記実施例1よりも短い時間内に重量が15%以上増加していることを示す。
【0048】
本発明の実施例2による含浸結果を、既存の方法と比較するために、実施例2におけるものと同じ木材半製品を、実施例2におけるものと同じ含浸液が入れられている含浸液タンクに入れて超音波振動を加えた。
【0049】
音響振動発生装置の振動周波数と振動発生面の振幅は、実施例2の振動周波数と発生面の振幅と同様にした。前記振動条件下で含浸される含浸液から確かに共振現象が観察された。
【0050】
含浸時間は5分であり、含浸後の木材半製品の単位含浸面に対する重量増加分は3.7×10−2g/cmであった。これは、実施例2に比べて20%ほど減った値である。
【実施例3】
【0051】
半径85mm、密度0.46g/cm、湿度8%のシラカバ製木材半製品を、厚さが20mmになるようにファイバ方向に切断し、それを見本にし、含浸作業を行った。
【0052】
木材半製品の横断断片に実施例1と同じ種類のアンチピリンを塗布することにより、2mmの厚さを有する含浸液層を形成した。含浸作業には、実施例1と同じ音響振動発生装置が用いられた。
【0053】
振動発生面と木材半製品の表面との間隔を0.5mmにし、かつ、振動発生面から発せられる振動速度のベクトルと半製品面の垂直線との角度が0°になるように、音響振動発生装置を設置した。
【0054】
音響振動発生装置の振動周波数と振動発生面の振幅は、実施例2における振動周波数と振動発生面の振幅と同様にした。音響振動発生装置を動作させたところ、含浸液に共振が起こることが確認できた。
【0055】
音響振動発生装置を木材半製品の前面に動かしながら5分間含浸作業を行った。
【0056】
含浸結果を木材半製品の単位含浸面に対する重量増加分に基づいて評価した。重量の増加分は、12.0×10−2g/cmであった。
【0057】
本発明の実施例3による含浸結果を、既存の方法と比較するために、実施例3におけるものと同じ木材半製品を、顕微鏡の含浸液タンクに入れて超音波振動を加えた。音響振動発生装置の振動周波数と発生面の振幅は、実施例2における振動周波数と振動発生面の振幅と同様にした。
【0058】
前記振動条件下で含浸される含浸液に共振が起こった。
【0059】
含浸時間は5分であり、含浸後、木材半製品の単位含浸面に対する重量増加分は8.0×10−2g/cmであった。これは、実施例3に比べて33%ほど低い値である。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明に係る音響振動エネルギーを用いた木材内物質含浸法は、ファイバ方向またはファイバ直角方向に加工された木材半製品に特定の機能性物質(耐火性物質、木質強化用凝固液など)、カラー塗料などを含浸する際において、木材半製品の表面に含浸液を、層状に塗布する工程と、音響振動エネルギーを発生させる音響振動発生装置の振動発生面を、含浸液の内部に位置させ、かつ、該音響振動発生装置を、木材半製品から所定の間隔を有する位置に据えることにより、所定の物質を含浸させる工程と、により、含浸液を木材半製品内に含浸させることができる。
【0061】
本発明により、固体と液体の境界領域の近くで含浸液を調製し、音響振動エネルギーを加えるので、音響振動発生装置が少量のエネルギーをもっても音響振動を集中させることができる。これにより、低容量の音響振動発生装置が実現できることから、経済性に富む。また、少量の含浸液を用いることから、含浸作業に求められる含浸液を最少化できるほか、音響振動エネルギーが薄い含浸液層を通って木材半製品の内部に伝わることから、木材半製品の深くまで含浸作業が行える。
【0062】
加えて、本発明は、木材半製品の表面がファイバ方向またはファイバ直角方向である場合、これに合わせて音響振動エネルギーを最適な角度にて加えることにより、含浸作業の効率性が極大化できるなど、その期待効果が大きなものである。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明の一実施例を説明するための参考斜視図である。
【図2】本発明の他の実施例を説明するための参考斜視図である。
【符号の説明】
【0064】
1 木材半製品
2 音響振動発生装置
3 含浸液層


【特許請求の範囲】
【請求項1】
音響振動エネルギーを用いて、木材に物質を含浸させる木材内物質含浸方法であって、
木材半製品の表面に含浸液を、層状に塗布する工程と、
前記音響振動エネルギーを発生させる音響振動発生装置に係る振動発生面を、含浸液の内部に位置させ、かつ、該音響振動発生装置を、木材半製品から所定の間隔を有する位置に据えることにより、所定の物質を含浸させる工程と、
を含む木材内物質含浸方法。
【請求項2】
前記木材半製品の含浸面が横断断片(ファイバ方向)である場合、
前記音響振動発生装置によって発生した振動速度のベクトルが、前記木材半製品の表面の垂直線に対して、0°であることを特徴とする請求項1記載の木材内物質含浸方法。
【請求項3】
前記木材半製品の含浸面が木材ファイバに沿って(ファイバ方向と直角に)形成されている場合、
前記音響振動発生装置によって発生した振動速度のベクトルと、前記木材半製品の垂直線と、がなすβ角が、「数1」に表す数式によって定められることを特徴とする請求項1記載の音響振動エネルギーを用いた木材内物質含浸法。
[数式中、Cは含浸液への超音波の伝達速度(縦波)、Cは木材への超音波の伝達速度(表面波)、を表す。]

【数1】

【請求項4】
前記音響振動発生装置の振動周波数の範囲、及び、振動発生面の振幅の範囲が、含浸に用いられた含浸液の音響共振に基づいて設定されることを特徴とする請求項1記載の木材内物質含浸方法。
【請求項5】
前記含浸液は、含浸液供給装置により、随時、木材半製品の表面の所望の箇所に塗布され、
前記含浸液供給装置は、音響振動発生装置の振動子の中央溝に挿通して、又は、前記振動子の周囲に、据えられていることを特徴とする請求項1記載の木材内物質含浸方法。


【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2006−515240(P2006−515240A)
【公表日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−500621(P2006−500621)
【出願日】平成16年1月8日(2004.1.8)
【国際出願番号】PCT/KR2004/000019
【国際公開番号】WO2004/062865
【国際公開日】平成16年7月29日(2004.7.29)
【出願人】(505266802)ネクセン・カンパニー・リミテッド (1)
【氏名又は名称原語表記】NEXEN CO.,LTD.
【Fターム(参考)】