説明

木質バイオマスガスの改質システム

【課題】第1に、木質バイオマスガスの燃料化に際し、含有しているタールの化学エネルギーを、燃料ガスの化学エネルギーへと効率良く変換し、第2に、しかもこれが、コスト面や効率面に優れつつ達成される、木質バイオマスガスの改質システムを提案する。
【解決手段】この改質システムは、熱分解炉1,改質反応器2,エンジン3を有している。熱分解炉1は、エンジン3の排気ガスBを利用して、木質バイオマスAを熱分解する。改質反応器2は、上部から、熱分解炉1の熱分解で得られた炭化物粒Cが供給されると共に、下部から、熱分解炉1の熱分解で得られた生成ガスDが供給される。そして、生成ガスDの温度に、空気F導入による内燃法の部分燃焼の熱を加えた高温のもとで、生成ガスD中のタール蒸気Eが、生成ガスD中の水蒸気と反応して、水素,メタン,一酸化炭素等に改質される。エンジン3は、生成ガスDの改質ガスGを燃料として使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木質バイオマスガスの改質システムに関する。すなわち、木質バイオマスを熱分解して得られる生成ガスを改質し、燃料として利用するシステムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
《技術的背景》
近年、木質廃材その他の木質バイオマスを燃料として有効利用することへの関心が、高まっている。なかでも、本質バイオマスをガス化して得られた生成ガスを、エンジンの燃料として活用し、もって発電等に有効利用するシステムの構築が、注目を集めている。
【0003】
《従来技術》
ところで、このような木質バイオマスからの生成ガスには、ガス化炉でのガス化プロセス中に発生したタールが、含有されている。ガス化の初期反応である熱分解では、メタンや一酸化炭素などのガスと共に多量のタールが生成する。そのタールの濃度は、ガス化剤である酸素や水蒸気との反応によって低下するが、そのままエンジンの燃料にするまでには低下していない場合が多い。
すなわち、そのままエンジンの燃料として使用すると、各種トラブルが発生し、エンジンの耐久性に問題が生じてしまう。例えば、生成ガス中に含有されたタールが、エンジンの弁,その他に付着して、汚れやコーキングの原因となり、各種のエンジントラブル,作動トラブルの要因となる。
そこで、木質バイオマスを燃料化するこの種従来例では、問題のタールを低減,除去する対処策が課題となっており、タール処理設備が、必須の付帯設備として採用されていた。
すなわち、木質バイオマスをガス化炉に投入して得られた生成ガスは、例えば水スクラビング等の水処理装置付のタール処理設備や、酸素供給により部分燃焼せしめられ、もってタールを相対的に削減させる方式のタール処理設備等を経由し、もってタール分を低減,除去してから、発電用のエンジン等に供給されていた。
【0004】
《先行技術文献情報》
部分燃焼方式のタール処理設備としては、例えば、次の特許文献1の従来の技術欄に示されたものが、挙げられる。
【特許文献1】特開2004−292720号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、このような従来例については、次の問題が指摘されていた。
《第1の問題点》
第1に、タールの化学エネルギーが、効率良く燃料ガスの化学エネルギーに変換されない、という問題が指摘されていた。
すなわち、上述したこの種従来例のタール処理設備は、燃料化される生成ガスについて、エンジントラブルの原因となるタールを、低減,除去せんとするに過ぎなかった。
木質バイオマスの生成ガスの燃料化に際し、含有されたタールを単に低減,除去するに過ぎず、タールの化学エネルギーを燃料ガスの化学エネルギーへと、効率良く変換しようとする発想はなかった。
【0006】
《第2の問題点》
第2に、水スクラビング等の水処理装置付のこの種従来例のタール処理設備については、付帯設備である水処理装置設備が大型化,大規模化し、設備コスト,排水処理コスト,メンテナンスコスト等が嵩む、という問題が指摘されていた。
又、部分燃料方式のこの種従来例のタール処理設備については、タールの低減,除去が不十分である、という問題も指摘されていた。
【0007】
《本発明について》
本発明の木質バイオマスガスの改質システムは、このような実情に鑑み、上記従来例の課題を解決すべくなされたものである。
そして本発明によって、第1に、タールが燃料ガスに変換され、第2に、しかもこれが、低コスト,高効率で達成される、木質バイオマスガスの改質システムを提案することを、目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
《各請求項について》
このような課題を解決する本発明の技術的手段は、次のとおりである。まず、請求項1については次のとおり。
請求項1の木質バイオマスガスの改質システムは、熱分解炉と改質反応器とエンジンと、を有している。そして該熱分解炉は、投入された木質バイオマスを熱分解する。
該改質反応器は、上部から、該熱分解炉の熱分解で得られた炭化物粒が供給されると共に、下部から、該熱分解炉の熱分解で得られた生成ガスが供給され、もって、該生成ガス中に含有されたタール蒸気が、水素,メタン,一酸化炭素等に改質される。該エンジンは、該生成ガスの改質ガスを燃料として使用すること、を特徴とする。
【0009】
請求項2については、次のとおり。請求項2の木質バイオマスガスの改質システムでは、請求項1において、該改質反応器は、該熱分解炉から供給される該生成ガス自体の顕熱に、空気導入による部分燃焼の熱を加えることにより、700℃以上の温度域に維持されている。
そして、該生成ガス中の該タール蒸気が、該炭化物粒の吸着分解機能と触媒機能により、水蒸気と反応して改質されること、を特徴とする。
請求項3については、次のとおり。請求項3の木質バイオマスガスの改質システムでは請求項2において、該改質反応器では、該炭化物粒が、上部から下部へと移動層を形成しつつ、下部から上部へと向かう該生成ガスと接触する。
そして、このような接触に基づき、該タール蒸気を含む該生成ガスが水蒸気改質され、もって該改質ガスとなって該改質反応器の上部から排出されること、を特徴とする。
【0010】
請求項4については、次のとおり。請求項4の木質バイオマスガスの改質システムでは請求項1において、該熱分解炉は、該エンジンからの高温の排気ガスを利用して、約450℃以上〜650℃以下の温度に加熱され、木質廃材その他の該木質バイオマスを熱分解する。
もって、炭化物粒等と共に該生成ガスを生成し、該生成ガスは、水素,一酸化炭素,二酸化炭素,水蒸気,窒素等を主成分とし、該タール蒸気を含有すること、を特徴とする。
請求項5については、次のとおり。請求項5の木質バイオマスガスの改質システムでは請求項4において、該熱分解炉では、上記温度域での乾留,熱分解にて、該木質バイオマスからの該タール蒸気の発生が完了しており、該改質反応器に供給される該炭化物粒からの該タール蒸気の発生がないこと、を特徴とする。
請求項6については、次のとおり。請求項6の木質バイオマスガスの改質システムでは請求項1において、該熱分解炉は、スクリュー押し出し方式よりなる。又、該エンジンは、ロータリーエンジンであり、該改質ガスが、除塵設備を介して供給され、該改質ガス中の水素,一酸化炭素等を主な燃料として運転されること、を特徴とする。
【0011】
《作用等について》
本発明は、このような手段よりなるので、次のようになる。
(1)木質バイオマスを熱分解することにより生成したガスは、一酸化炭素や水素や炭化水素ガスを含有するが、タール蒸気も含有する。
(2)そこで生成ガスは、熱分解炉から改質反応器に供給されるが、熱分解炉においては、タール蒸気発生は完了した状態となっている。
(3)改質反応器は、熱分解炉で得られた炭化物粒が上部から供給され、下部から生成ガスが供給される。そして、生成ガスの顕熱に空気導入による部分燃焼の熱を加えることにより、700℃以上に維持される。
(4)そこで改質反応器内では、タール蒸気が、まず炭化物粒表面でコーク化された後、高温下で生成ガス中の水蒸気と反応して、水素,メタン,一酸化炭素等に、水蒸気改質される。
【0012】
(5)改質反応器では、このようにタール蒸気が水蒸気改質され、生成ガスは、カロリーアップされた改質ガスとなって、エンジンに供給できる燃料ガスとなる。
(6)又このシステムは、熱分解炉,改質反応器,エンジンから構成されており、構造が簡単で、小型化し易く、運転やメンテナンスも容易である。
(7)さてそこで、本発明の改質システムは、次の効果を発揮する。
【発明の効果】
【0013】
このようなタールの燃料ガスへの変換は、コスト面や効率面に優れつつ達成される。すなわち、本発明の木質バイオマスガスの改質システムでは、まず、改質反応器の上部から炭化物粒が、下部から生成ガスが供給され、両者が十分に接触する。もって、生成ガス中のタールは、確実,迅速,効率的に水素,メタン,一酸化炭素等に改質され、前述したこの種の従来例に比べ、タールの低減,除去性能に優れている。
【0014】
又、本発明のシステムで得られた改質ガスは、エンジンの燃料として使用しても、タール付着,汚れ,コーキングに起因したエンジントラブルが発生せず、エンジン耐久性が向上する。
又、タールを改質するので、前述したこの種の従来例のように、大型で大規模な水処理装置は付帯設備として使用されず、設備コスト,排水処理コスト,メンテナンスコスト等にも優れている。
このように、この種の従来例の課題がすべて解決される等、本発明の発揮する効果は、顕著にして大なるものがある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
《図面について》
以下、本発明の木質バイオマスガスの改質システムを、図面に示した発明を実施するための最良の形態に基づいて、詳細に説明する。
図1,図2は、本発明を実施するための最良の形態の説明に供し、構成フロー図であり、図1はその1例を、図2は他の例を示す。
【0016】
《熱分解炉1について》
本発明の木質バイオマスAのガスの改質システムは、熱分解炉1と改質反応器2とエンジン3と、を有している。まず熱分解炉1について、説明する。
熱分解炉1は、投入された木質バイオマスAを熱分解する。すなわち、熱分解炉1は、エンジン3からの高温の排気ガスBを利用して、約450℃以上〜650℃以下程度の温度域で、木質廃材その他の木質バイオマスAを熱分解する。
そして、この熱分解により、炭化物粒Cと共に生成ガスDが生成、生成ガスDは、水素,メタン,一酸化炭素,二酸化炭素,水蒸気等に加えて、タール蒸気Eを含有している。
そして熱分解炉1では、上記温度域での熱分解にて、タール蒸気Eの発生が完了しており、改質反応器2に供給される炭化物粒Cについても、タール蒸気Eの発生は起こらない。
【0017】
このような熱分解炉1について、更に詳述する。まず熱分解炉1は、ロータリーエンジンを用いたエンジン3からの高温の排気ガスBを利用して、約450℃以上〜650℃以下程度の温度域、特に約500℃以上〜600℃以下程度の温度域に保持されている。
排気ガスBは、750℃〜900℃程度の高温でエンジン3から排出された後、管路4を経由して熱分解炉1へと導かれる。熱分解炉1は、このような排気ガスBの熱量,顕熱を利用し、外熱法(間接加熱方式)にて上記温度域に保持される。なお、この温度域は、排気ガスBにて無理なく保持可能である。
そして、この温度域は、低温乾留,熱分解される木質バイオマスAからのタール蒸気Eの発生が、完了してしまう温度域、つまりタール蒸気Eが出尽くしてしまう温度域である。なお、この温度域を下廻ると、タール蒸気E発生が未完了状態となり、逆に、この温度域を上廻ると、炭化物粒(木炭粒であるチャー)の生成が困難化する。
【0018】
そして、このような熱分解炉1に、原料ホッパー5から、乾燥処理された木質廃材,木屑チップ等の木質バイオマスAが、定量フィーダー6を介して、25℃程度の常温で投入される。本質バイオマスAとしては、このような木質系バイオマス資源が代表的であるが、その他の植物系,廃棄物系バイオマス資源も、使用可能である。
熱分解炉1に投入された木質バイオマス1は、前記温度域の低温乾留にて熱分解され、もって、カーボン,灰分,炭化物粒C等の固形分と共に、生成ガスDが熱分解ガスとして生成される。
この生成ガスDは、一酸化炭素(CO),二酸化炭素(CO),水素(H),水分(HO),メタン(CH)等を主成分とする。例えば、乾燥木質チップを熱分解した場合、生成ガスDの組成は体積比で、一酸化炭素が29.6%、二酸化炭素が16.7%、炭化水素が5.3%、水素が2.4%、水分が46.0%となっている。因にその熱量は、LHVで例えば、4,467〜5,078kJ/Nm(1,067〜1,213kcal/Nm)程度となっている。
そして、このような生成ガスDに対し、更に、例えば700g/Nmにおよぶタール蒸気Eが混入している。タール蒸気Eを含有した生成ガスDは、熱分解炉1から排出され、温度低下によるタール蒸気Eの液化,固化,付着,コーキング等を回避すべく、管路7において断熱材で保温され、除塵機を経由して、改質反応器2に供給される。
なお、この熱分解炉1は、例えばスクリュー押し出し方式よりなるが、勿論その他各種方式のものが採用可能であり、例えば、ロータリーキルン,スクリューキルン,ベルトコンベア方式のもの等、が採用される。
熱分解炉1は、このようになっている。
【0019】
《改質反応器2について》
次に、改質反応器2について、説明する。改質反応器2は、熱分解炉1から供給される生成ガスD自体の温度に、空気F導入による部分燃焼の熱を加えることにより、例えば約700℃以上の温度域に、維持されている。
そして図1の例では、上部から、熱分解炉1の熱分解で得られた炭化物粒Cが供給されると共に、下部から、熱分解炉1の熱分解で得られた生成ガスDが供給され、もって、生成ガスD中に含有されたタール蒸気Eが、水素,メタン,一酸化炭素等に改質される。
すなわち、改質反応器2では、炭化物粒Cが、上部から下部へと移動層を形成しつつ、下部から上部へと向かう生成ガスDと接触する。そして、このような接触に基づき、生成ガスD中のタール蒸気Eが、炭化物粒Cの吸着分解機能と触媒機能により、生成ガスD中の水蒸気と反応して水蒸気改質され、もって、改質ガスGが上部から排出される。
【0020】
このような改質反応器2について、更に詳述する。まず改質反応器2は、代表的には700℃以上の温度域、特に700℃以上〜900℃以下の温度域、少なくとも600℃以上〜900℃以下の温度域に維持されている。
すなわち、熱分解炉1から供給される生成ガスDの顕熱に部分燃焼の反応熱を、加えることにより、上記温度域に維持されている。つまり、反応対象である生成ガスD自体の熱量に、直接加熱方式による熱量を、加える方式が採用されている。
又、水蒸気改質は、生成ガスD中に含有された水蒸気を利用して実施されるが、付設されたスチーム供給手段からも、水蒸気を供給可能となっている。すなわち、フィードされた生成ガスD中には水蒸気が含有されており、これにて水蒸気改質が進行するが、生成ガスD中の水蒸気が少ない場合は、不足分の水蒸気を供給可能となっている。
【0021】
そして改質反応器2には、炭化物粒Cが上部から供給される。木質バイオマスAを乾留により熱分解して得られた炭化物粒C、つまり熱分解炉1で焦げた未燃焼分として得られた木炭粒が、図1の例では上部から供給される。そして炭化物粒Cは、タール蒸気Eの水蒸気改質用の担持機能と触媒機能とを発揮すると共に、みずからも水素や一酸化炭素等に水蒸気改質される。
すなわち炭化物粒Cは、炭素を主成分とし、炭素質物質の乾留に際し多孔質残留物として生成される。そして、タール蒸気Eの捕捉,吸着,担持,一体化層として機能すると共に、タール蒸気Eのコーク化,水蒸気改質反応促進用の触媒層として機能する。又、炭化物粒Cは、自身も水蒸気改質されて、水素や一酸化炭素等にガス化される。
【0022】
さて、図1の例の改質反応器2内では、下部から供給されて上部に向かう改質対象である生成ガスD中のタール蒸気Eが、この上部から供給されて下部に向かう炭化物粒Cにて、吸着,担持されてコーク化される。そして、このコークが、熱の作用と触媒の作用とに基づき、水蒸気をガス化剤として反応して、水素,一酸化炭素,二酸化炭素,メタン等に変換され、水蒸気改質される。いわゆる水性ガス化反応が進行する。
改質反応器2では、このようにして、木質バイオマスAの生成ガスD中のタール蒸気Eが、水蒸気改質されると共に、更に内部充填された炭化物粒Cも水蒸気改質され、もって改質ガスGが生成される。
このように生成ガスDが改質された改質ガスGは、タール濃度が0.1g/Nm未満となっており、その熱量は、LHVで例えば、6,700kJ/Nm(1,600kcal/Nm)以上となっている。
なお、図中Hは灰分であり、炭化物粒C等の残渣として改質反応器2下部から排出される。又、図1の例では、熱分解炉1から改質反応器2に供給される炭化物粒Cに、生成ガスD(タール蒸気E)が、同伴してしまう虞がある。その対策としては、熱分解炉1と改質反応器2間の管路に、例えば図示のようにダブルのスライドゲート弁や、チャーの中間ホッパーを設けておくとよい。
改質反応器2は、このようになっている。
【0023】
《反応式等について》
次に、反応式等について説明する。
改質反応器2内では、(1)炭化物粒C表面でのタールのコーキング反応、(2)コーク及び炭化物粒Cの水蒸気改質反応、及び(3)コーク及び炭化物粒Cの部分燃焼反応が起り、これらの反応を組み合わせることによって、タールを燃料ガス(図1の改質ガスG)に変換している。
まず、炭化物粒C表面でのタールのコーキング反応は、下記の化1のように、タール蒸気Eが炭化物粒Cの表面に吸着し、コーク(C)と水素に分解する。この際、コーク(C)は炭化物粒Cの一部となる。
次に、コーク及び炭化物粒Cの水蒸気改質反応は、下記の化2のように、炭化物粒Cが水蒸気と反応し、水素と一酸化炭素を生成する。
次に、コーク及び炭化物粒Cの部分燃焼反応は、下記の化3のように、炭化物粒Cが酸素と反応し、一酸化炭素を生成する。
以上のように、この改質反応器2では、タールを燃料ガスに効率良く変換することができるため、改質反応器2から得られる燃料ガスは(改質ガスG)は、タールによるトラブルを引き起こすことなく、直接、エンジン3の燃料として利用できる。
【0024】
【化1】

【化2】

【化3】

【化4】

【0025】
又、化2の反応式において、炭素と水蒸気の系は、高温付与により系のエンタルピーが上がり、吸熱反応により一酸化炭素と水素の混合気体にガス化されるが、生成水素量は最小である。
これに対し上記の化4の反応式では、炭素は水蒸気と反応して、二酸化炭素と水素に水蒸気改質される。これは、化2の反応式より多量の水蒸気が作用すると共に、化2の反応式の一酸化炭素も完全に改質された場合であり、吸熱反応により二酸化炭素と水素とにガス化され、生成水素量は最大となる。
化4の反応式では、化2の反応式で生成された一酸化炭素が、発熱反応である次の化5のシフト反応により水蒸気と反応して、二酸化炭素と水素に改質,変換される。化2の反応式に次の式5の反応式を加えると、化4の反応式となる。
【0026】
【化5】

【0027】
改質反応器2内では、化5のシフト反応が起こらない場合は化2の反応式により、又、化5のシフト反応が起こる場合は化4の反応式により、水蒸気改質が進行する。しかし実際は、一酸化炭素濃度を低減する化5のシフト反応の発生程度に従い、化2と化4の中間の反応式により水蒸気改質が進行する可能性が高く、この場合は、一酸化炭素と二酸化炭素と水素との混合気体が、改質ガスGとして生成される。
勿論、これらの反応の温度依存性に鑑み、化4の反応式より化2の反応式の方が吸熱程度が高いので、例えば850℃程度と温度が高い程、化4の反応式より化2の反応式が起こりやすく、化5のシフト反応が抑えられる。これに対し、例えば800℃程度の場合には、化5のシフト反応が起こりやすく、化4の反応が起こりやすい。
反応式等については、以上のとおり。
【0028】
≪エンジン3について≫
次に、エンジン3について説明する。エンジン3は、生成ガスDの改質ガスGを燃料として使用する。
すなわち、このエンジン3はロータリーエンジンよりなり、改質ガスGが、除塵設備を介して供給され、改質ガスG中の水素,一酸化炭素,メタン等を主な燃料として運転される。
図示例の改質ガスGは、管路8にて、冷却部や圧送用兼流量調整用のポンプ等を経由して(図示せず)、エンジン3に供給される。そしてエンジン3は、その主軸が、隣接設置された発電機9に連結されており、その駆動が発電に利用されている。
エンジン3は、このようになっている。
【0029】
《作用等》
本発明の木質バイオマスAガスの改質システムは、以上説明したように構成されている。そこで、以下のようになる。
【0030】
(1)木質バイオマスAを熱分解して得られた生成ガスDは、一酸化炭素や水素を含有するが、タール蒸気Eも含有している。
【0031】
(2)そこで生成ガスDは、熱分解炉1から改質反応器2に供給される。なお熱分解炉1では、その約450℃〜650℃程度の温度域に基づき、木質バイオマスAからのタール蒸気Eの発生が、完了した状態となっている。
【0032】
(3)そして、図1の例の改質反応器2では、熱分解炉1で得られた炭化物粒Cが上部から供給され、下部から生成ガスDが供給される。
そして改質反応器2内は、このように供給される生成ガスDの濃度に、空気F導入による内燃法の部分燃焼の熱が加わることにより、700℃以上、好ましくは700℃〜900℃とされる。
【0033】
(4)そこで改質反応器内2では、生成ガスDに含有されたタール蒸気Eが、まず炭化物粒C外表面に吸着されて、コーク化された後、炭化物粒Cとコークが、高温加熱下で生成ガスD中の水蒸気と反応し、もって水素,一酸化炭素,メタン等に水蒸気改質される。
なお水蒸気改質には、生成ガスD中の水蒸気が利用されるが、足りない場合は水蒸気を別途供給しても良い。
【0034】
(5)又、改質反応器2では、炭化物粒Cとコークが、部分燃焼により水素と一酸化炭素に変換され、生成ガスDは、燃料成分が増加しカロリーアップされた改質ガスGとなって、エンジン3に向け燃料として供給される。
【0035】
(6)さて、本発明の改質システムでは、このようにタール蒸気Eや炭化物粒Cから、水素や一酸化炭素が改質,生成される。木質バイオマスA生成ガスDの燃料化に際し、タール蒸気Eや炭化物粒Cの熱エネルギーも、燃料として有効活用される。
【0036】
(7)そして、この改質システムにおいて、タール蒸気Eのこのような熱化学再生は、反応に必要な熱量が下げられ、低い温度で実現されると共に、合理的なエンタルピー授受システムにより、実現される。
すなわち、まず熱分解炉1では、エンジン3の高温の排気ガスBの熱量をそのまま利用した外熱法(間接加熱方式),低温乾留により、熱的に無理なく余裕をもって、熱分解が実施される。又、改質反応器2では、熱分解炉1から供給される生成ガスDの熱量に、足りない分だけ空気F(酸素)導入,部分燃焼の熱量を加える内燃法(直接加熱方式)により、必要なエンタルピーを得て無理なく改質が実施される。
【0037】
(8)更に、この改質システムの改質反応器2では、上部から炭化物粒Cが供給されると共に、下部から生成ガスDが供給され、もって、上部から下部へと向かう炭化物粒Cと、下部から上部へと向かう生成ガスDとが、必要時間をかけて十分に接触可能となる。
そこで生成ガスDは、含有されたタール蒸気Eが、炭化物粒Cの吸着分解機能と触媒機能により、確実,迅速,かつ効率的に水蒸気改質される。タール蒸気Eは、水素,一酸化炭素,メタン等に水蒸気改質されると共に、確実に低減,除去される。
【0038】
(9)しかも、この改質システムは、熱分解炉1と改質反応器2とエンジン3とを、相互に関連づけたシステム配置となっており、全体的に構成が簡単であり小型化されると共に、処理操作やメンテナンスも簡単容易である。
本発明の作用等は、このようになっている。
【0039】
《図2の例について》
以上、本発明の改質システムについて、主に図1に示した例を参照して説明したが、本発明は勿論、この図1の例に限定されるものではない。例えぱ、図2に示した例も可能である。
すなわち図1の例では、改質反応器2について、その上部から、炭化物粒Cが供給されると共に、下部から、生成ガスD(タール蒸気E)が供給され、部分燃焼用の空気Fも導入され、もって、改質ガスGが上部から排出されていた。
これに対し図2の例では、改質反応器2について、その上部から、炭化物粒Cと生成ガスD(タール蒸気E)とが供給されると共に、上部下付近から、部分燃焼用の空気Fが導入され、もって、改質ガスGから下部から排出されるようになっている。なお、この図2の例において、その他の構成,機能,作用等は、図1の例について前述した所に準じるので、同符号を付しその説明は省略する。
図2の例は、このようになっている
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明に係る木質バイオマスガスの改質システムについて、発明を実施するための最良の形態の説明に供し、その1例の構成フロー図である。
【図2】同発明を実施するための最良の形態の説明に供し、他の例の構成フロー図である。
【符号の説明】
【0041】
1 熱分解炉
2 改質反応器
3 エンジン
4 管路
5 原料ホッパー
6 定量フィーダー
7 管路
8 管路
9 発電機
A 木質バイオマス
B 排気ガス
C 炭化物粒
D 生成ガス
E タール蒸気
F 空気
G 改質ガス
H 灰分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
木質バイオマスガスの改質システムであって、熱分解炉と改質反応器とエンジンと、を有しており、該熱分解炉は、投入された木質バイオマスを熱分解し、
該改質反応器は、上部から、該熱分解炉の熱分解で得られた炭化物粒が供給されると共に、下部から、該熱分解炉の熱分解で得られた生成ガスが供給され、もって、該生成ガス中に含有されたタール蒸気が、水素,メタン,一酸化炭素等に改質され、
該エンジンは、該生成ガスの改質ガスを燃料として使用すること、を特徴とする、木質バイオマスガスの改質システム。
【請求項2】
請求項1に記載した木質バイオマスガスの改質システムにおいて、該改質反応器は、該熱分解炉から供給される該生成ガス自体の顕熱に、空気導入による部分燃焼の熱を加えることにより、700℃以上の温度域に維持されており、
該生成ガス中の該タール蒸気が、該炭化物粒の吸着分解機能と触媒機能により、水蒸気と反応して改質されること、を特徴とする、木質バイオマスガスの改質システム。
【請求項3】
請求項2に記載した木質バイオマスガスの改質システムにおいて、該改質反応器では、該炭化物粒が、上部から下部へと移動層を形成しつつ、下部から上部へと向かう該生成ガスと接触し、
このような接触に基づき、該タール蒸気を含む該生成ガスが水蒸気改質され、もって該改質ガスとなって該改質反応器の上部から排出されること、を特徴とする、木質バイオマスガスの改質システム。
【請求項4】
請求項1に記載した木質バイオマスガスの改質システムにおいて、該熱分解炉は、該エンジンからの高温の排気ガスを利用して、約450℃以上〜650℃以下の温度に加熱され、木質廃材その他の該木質バイオマスを熱分解し、
もって、炭化物粒等と共に該生成ガスを生成し、該生成ガスは、水素,一酸化炭素,二酸化炭素,水蒸気,窒素等を主成分とし、該タール蒸気を含有すること、を特徴とする、木質バイオマスガスの改質システム。
【請求項5】
請求項4に記載した木質バイオマスガスの改質システムにおいて、該熱分解炉では、上記温度域での乾留,熱分解にて、該木質バイオマスからの該タール蒸気の発生が完了しており、該改質反応器に供給される該炭化物粒からの該タール蒸気の発生がないこと、特徴とする、木質バイオマスガスの改質システム。
【請求項6】
請求項1に記載した木質バイオマスガスの改質システムにおいて、該熱分解炉は、スクリュー押し出し方式よりなり、
該エンジンは、ロータリーエンジンであり、該改質ガスが、除塵設備を介して供給され、該改質ガス中の水素,一酸化炭素等を主な燃料として運転されること、を特徴とする、木質バイオマスガスの改質システム。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−126595(P2010−126595A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−301318(P2008−301318)
【出願日】平成20年11月26日(2008.11.26)
【出願人】(000005902)三井造船株式会社 (1,723)
【出願人】(500561931)三井造船プラントエンジニアリング株式会社 (41)
【出願人】(504173471)国立大学法人北海道大学 (971)
【出願人】(505252698)株式会社アイエムイー総合研究所 (14)