説明

木質ファイバーの表皮一体成形方法

【目的】表皮に対する外部加熱の悪影響を排除して、表皮と木質ファイバーとを一体成形する。
【構成】水を含んだ混合物Mの表層に表皮3を配設し、加圧下においてこの混合物Mにマイクロ波を照射することにより、前記混合物Mに含まれる水を加熱して熱硬化性樹脂5を反応硬化させ、前記混合物Mを成形体となすとともに、前記表皮3をこの成形体に一体化する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】この発明は、表皮の同時貼りが可能な木質ファイバーの成形方法に関する。
【0002】
【従来の技術】従来、木質ファイバーから、例えばドアトリムを製造するには、図4に示す工程により成形されていた。
(1)針葉樹などの木材チップTを解繊機でファイバーFとし、この木質ファイバーFにフェノール樹脂等の熱硬化性樹脂を混合し乾燥する(図4工程(1)〜(3)参照)。
(2)この混合物Pを吸引しつつ積層ケースの底部に積層してマット状体Mとし、このマット状体Mを成形型30に吸引搬送する(同工程(4)〜(5)参照)。
(3)成形型30を約200℃に加熱し、マット状体M内のフェノール樹脂を熱硬化させることにより、マット状体Mを硬化成形し芯材32となし、その後表皮34を張ってドアトリムとなす(同工程(6)〜(7)参照)。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、この方法にあっては、成形型30を加熱して成形空間内のマット状体Mを加熱するもの、すなわち、外部加熱を利用するものである。また、工程時間を短縮するべく熱硬化性樹脂を短時間で硬化させる必要がある。したがって、熱硬化性樹脂の硬化温度よりも高温に成形型30を加熱している。
【0004】このように成形型30を高温に加熱するために、成形凹部に表皮34を配設してマット状体Mの成形と同時に一体化しようとすると、熱軟化点の低い合成樹脂、例えば塩化ビニル(溶融温度;160℃)の表皮34では、熱変性してしまったり、ファブリックの表皮34でも高温により表面が白化したりして、同時貼りは不可能であった。
【0005】そこで、本発明は、上記従来の不都合を排除して、表皮に対する外部加熱の悪影響を排除して、表皮と木質ファイバーとを一体成形することができる木質ファイバーの表皮一体成形方法を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】上記した課題を解決するための手段として本発明者は、木質ファイバーを内部から加熱することにより、木質ファイバーの外表面の熱を低減して表皮の一体成形を可能とすることを見い出し、以下の発明を完成した。すなわち、請求項1の発明は、木質ファイバーと熱硬化性樹脂との混合物を加熱成形して一定形状に成形する方法において、この混合物にマイクロ波を照射することにより、前記混合物に含まれる水を加熱して熱硬化性樹脂を反応させる工程と、前記工程において熱硬化性樹脂が反応しつつある状態の混合物の表層に表皮を配設して加圧成形して成形体となす工程とを備えることを特徴とする木質ファイバーの表皮一体成形方法である。また、請求項2の発明は、請求項1において、前記混合物の表層に表皮を配設した状態でマイクロ波を照射することを特徴とする木質ファイバーの表皮一体成形方法である。また、請求項3の発明は、木質ファイバーと熱硬化性樹脂との混合物を加熱成形して一定形状に成形する方法において、水を含んだ混合物の表層に表皮を配設し、加圧下においてこの混合物にマイクロ波を照射することにより、前記混合物に含まれる水を加熱して熱硬化性樹脂を反応硬化させ、前記混合物を成形体となすとともに、前記表皮をこの成形体に一体化することを特徴とする木質ファイバーの表皮一体成形方法である。
【0007】以下、本発明を詳細に説明する。前記木質ファイバーとは、主として木材を繊維化してなるものであり、木質チップ等を解繊してファイバー状にした木質ファイバー、綿や麻等の植物のファイバーや、これらの混合物をいう。前記熱硬化性樹脂とは、加熱等により反応して硬化する樹脂であり、木質ファイバーの成形にあって結合剤の作用をなすものである。例えば、ポリウレタン樹脂、フェノール樹脂、ユリア樹脂等を用いることができる。前記混合物としては、前記木質ファイバーや熱硬化性樹脂の他、接着性を有する合成樹脂や天然高分子、強化剤等の添加剤を含めることができる。
【0008】前記混合物に含まれる水は、混合物を構成する材料に含まれる水、混合物に添加することにより含まれる水の双方を含むものとする。前記マイクロ波の周波数は、成形の条件、成形材料等によって適宜選択される。前記混合物にマイクロ波を照射するには、混合物単体の状態でマイクロ波を照射する場合、混合物の表層に表皮を当接させた状態で照射する場合、マイクロ波が通過する成形型内において、加圧と同時に照射する場合がある。混合物を加圧した状態でマイクロ波を照射するには、マイクロ波が透過可能な成形型を用いる。かかる成形型とは、成形型の外部から照射されたマイクロ波が透過可能な素材で形成された成形型をいう。かかる素材としては、金属以外の物質を用いることができ、例えば、プラスチック、ガラス、セラミックス、木材等が挙げられる。前記加熱とは、マイクロ波のエネルギーで物質を加熱することをいう。
【0009】
【作用】請求項1の構成によれば、マイクロ波は混合物中の誘電損失の大きい水を加熱するため、混合物自体が内部から効率よく加熱され、熱硬化性樹脂が効果的に反応・硬化される。したがって、熱硬化性樹脂が反応した状態で表皮と一体成形することにより、成形時にあっては、外部加熱なく、加圧のみで成形することが可能となる。請求項2の構成によれば、表皮を混合物の表層に配設してマイクロ波を混合物に照射するため、表皮と混合物が仮接着状態となり、かかる混合物の取扱いが容易となるとともに、加圧成形時に表皮をセットする手間が省かれる。請求項3の構成によれば、マイクロ波照射と同時に加圧成形されるため、マイクロ波照射とともに表皮が一体化される。
【0010】
【発明の効果】請求項1の発明によれば、マイクロ波加熱により混合物中の水が加熱され、これにより熱硬化性樹脂が効果的に加熱されることにより、混合物自体を成形可能な状態とすることができる。したがって、混合物の表層に配設された表皮への悪影響、特に表皮の外表面への悪影響が低減され、良好な表皮の状態を確保して表皮の一体成形が可能となる。また、成形型において、加熱が不要となるため、工程時間が短縮される。請求項2の発明によれば、表皮を配設した状態で混合物にマイクロ波が照射されるため、加圧成形時の表皮セットが不要となり、また混合物の取扱いが容易となるため、工程を効率化することができる。請求項3の発明によれば、マイクロ波の照射による加熱と加圧成形が同時に行われ、加圧成形、表皮の一体化とを合わせて一工程で行うことができ、表皮貼り工程を省略することができ、工程を効率化することができる。
【0011】
【実施例】以下、本発明を具現化した一実施例について図1ないし図2に基づいて説明する。本実施例は、木質ファイバーから表皮一体型の車両のドアトリムDを成形する場合である。図1には、本実施例における工程図が模式的に示されている。
【0012】本実施例においては、従来と同様、木質チップTを解繊して得た木質ファイバー2を原料とし、表皮3として塩化ビニル樹脂製シートを用い、熱硬化性樹脂5としてフェノール樹脂を用いる。解繊装置6は従来と同様に、蒸煮しつつ解繊する装置を用いる。積層装置8は、従来と同様に、上方から落下させて混合物Pを揺動する撹拌羽根10により分散させて下方の積層ケース12に順次積層するものである。なお、この積層ケース12の底部には吸引孔12aが貫設されており、吸引孔12aから積層ケース12を吸引することにより、混合物Pをマット状体Mにすることができるようになっている。マット状体Mを搬送する吸引搬送装置14も従来と同様である。
【0013】本実施例において使用する成形型は、図2に示すように、マイクロ波加熱用の成形型20である。この成形型20は、いずれもプラスチックからなる上下に対向状の上型22と下型24とから形成されており、組み合わされて所定の成形空間を形成するようになっている。この下型24の上面側は、ドアトリムDの内装面側を成形する凹状の成形凹部24aが形成されており、上型22の下面側には、ドアトリムDの車両外側を成形する押圧部22aが形成されている。
【0014】この成形型20にマイクロ波を照射するマイクロ波加熱装置26は、マイクロ波を反射する金属製で開閉部を有する容器28とマイクロ波の発生源であるマグネトロン29とから形成されている。容器28は、本実施例では、網状体から構成され、マグネトロン29は、10MHzのマイクロ波を発生するようになっており、マイクロ波を放射するアンテナ29aは容器28内に突出され、成形型20を通過して成形空間内にマイクロ波を放射できるように形成されている。
【0015】次に、木質ファイバー2と熱硬化性樹脂5とからドアトリムを成形する工程について説明する。まず、解繊装置6により木質チップTを170℃、7気圧下で蒸煮・解繊し木質ファイバー2とする(図1工程(1)及び(2)参照)。
【0016】解繊して得た木質ファイバー2には、熱硬化性樹脂がスプレー噴霧され、その他の添加剤を均一に混合する(同工程(2)参照)。なお、熱硬化性樹脂5の混合比率は、木質ファイバー2の乾燥重量に対して5〜20重量%が望ましい。こうして得た混合物Pは、本実施例においては、マット状体Mとして吸引搬送装置14により成形型20に搬送するため、搬送可能な水分量にまで乾燥しておく必要がある。具体的には、混合物Pにおける含水量が5重量%以上20重量%以下の範囲で乾燥される(同工程(3)参照)。上述のように、木質ファイバー2は解繊時の蒸し操作により高い水分を含んだ状態であるため、マイクロ波加熱には適した状態である。しかし、吸引搬送装置14の搬送能力を考慮すべく、本実施例では上記範囲に乾燥することとしている。なお、吸引搬送をしない場合には、さらに高含水量の混合物Pであってもよく、この場合には、木質ファイバー2の乾燥工程を簡略化することができ、工程時間の短縮が可能となる。
【0017】こうして所定の含水量の混合物Pが得られる(同工程(4)参照)。乾燥後の混合物Pは、積層装置8の積層ケース12内に積層してマット状体Mとし、吸引搬送装置14により成形型20まで搬送する(同工程(5)参照)。
【0018】成形型20の下型24の成形凹部24aの底部には、予め所定の表皮3がその外表面を下側にして配設されている(同工程(6)参照)。この表皮3の内裏面側にはホットメルト接着剤が塗布されており、この接着剤の上にマット状体Mを配置セットし、上型22を下動して所定圧でマット状体Mを押圧状態とする(同工程(7)参照)。この状態の成形型20をマイクロ波加熱装置26内に導入し、成形型20にマイクロ波を照射する(同工程(8)参照)。
【0019】成形型20内のマット状体中の水は、マイクロ波のエネルギーにより加熱され、この熱により熱硬化性樹脂の反応を促進し、反応硬化させることにより、木質ファイバー2を接着、成形する。また、木質ファイバー2と表皮3の間のホットメルト接着剤も水の加熱により溶融され、マット状体Mの表層に表皮3が接着される。
【0020】この際、マイクロ波は、型20や表皮3には水が含まれないため直接これらは加熱されない。また、マット状体M中の水を主として加熱し、マット状体Mはその内部から加熱されることになり、効率的に成形される。すなわち、従来のようにマット状体Mの表面は高温にならず、また、短時間で成形されるため、塩化ビニル製の表皮3に悪影響がおよばないのである。特に、表皮3の外表面にあっては、わずかに加熱されるのみである。
【0021】所定時間マイクロ波を照射後、マイクロ波加熱装置26から成形型20を取り出し、脱型して表皮3が貼着され同時に成形されたドアトリムDを取り出す。このようにして形成されたドアトリムDは、従来と同様に成形された木質層の表層に表皮3が良好な状態で一体化されている。すなわち、加熱による変色、変質等なく、また、表皮3の全面が均一に接着された状態となっている。
【0022】また、本実施例においては、加熱を要せず、しかもプラスチック製の成形型20を用いるため、型製作費を低減でき、型の変更にも容易に対応可能である。なお、成形型20には、他の素材を使用することもでき、型の素材の多様性を確保できるため、成形形状等に応じて型素材を選択することもできる。また、型自体の加熱を要しないため、予熱時間を確保する必要がなく、また、型周囲の熱気による作業環境の悪化を防止することもできる。さらに、内部温度上昇を早めるために必要以上に高温に成形型20を加熱するための余分なエネルギーを必要としない。
【0023】なお、本発明は図3に示す実施例において実施することもできる。これらの実施例は、マット状体Mを成形型20にセットする工程(図1工程(5)までは先の実施例と同様の工程に従うものである。図3(a)に示す実施例は、この後、マット状体Mのみの状態でマイクロ波を照射して、熱硬化性樹脂5を反応硬化しつつある状態とし、この反応状態を維持したマット状体Mを表皮3を配設した下型24に配置セットして、上型22により加圧成形するものである。この実施例によれば、成形型20は従来の成形型をそのまま用いることができて、初期コストが低減できるとともに、加圧のみにより成形でき加熱が不要になるため、連続的な成形が可能となる。
【0024】また、図3(b)に示す実施例は、マット状体Mの表層に表皮3を配設した状態でマイクロ波を照射して、熱硬化性樹脂5の反応により、表皮3とマット状体Mとを仮接着状態としておき、この状態のまま、下型24に配置セットし、上型22を下動して加圧成形するものである。この実施例によれば、図3(a)に示す実施例と同様に、従来の成形型をそのまま用いることができ、さらに、マット状体Mが表皮3と仮一体化されてその取扱いが容易になる点において、作業工程の能率が向上される。
【図面の簡単な説明】
【図1】本実施例における工程図を模式的に表した図である。
【図2】本実施例で使用するマイクロ波加熱装置及び成形型の図である。
【図3】他の実施例を示した図である。
【図4】従来の工程図を模式的に表した図である。
【符号の説明】
2 木質ファイバー
3 表皮
5 熱硬化性樹脂
M 混合物(マット状体)

【特許請求の範囲】
【請求項1】木質ファイバーと熱硬化性樹脂との混合物を加熱成形して一定形状に成形する方法において、この混合物にマイクロ波を照射することにより、前記混合物に含まれる水を加熱して熱硬化性樹脂を反応させる工程と、前記工程において熱硬化性樹脂が反応しつつある状態の混合物の表層に表皮を配設して加圧成形して成形体となす工程、とを備えることを特徴とする木質ファイバーの表皮一体成形方法。
【請求項2】請求項1において、前記混合物の表層に表皮を配設した状態でマイクロ波を照射することを特徴とする木質ファイバーの表皮一体成形方法。
【請求項3】木質ファイバーと熱硬化性樹脂との混合物を加熱成形して一定形状に成形する方法において、水を含んだ混合物の表層に表皮を配設し、加圧下においてこの混合物にマイクロ波を照射することにより、前記混合物に含まれる水を加熱して熱硬化性樹脂を反応硬化させ、前記混合物を成形体となすとともに、前記表皮をこの成形体に一体化することを特徴とする木質ファイバーの表皮一体成形方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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