説明

未硬化セメント組成物取扱機器の洗浄方法及び未硬化セメント組成物取扱機器の洗浄装置

【課題】環境汚染の大幅な低減、産業廃棄物の削減による環境負荷の低減、作業の安全性の向上、並びにコンクリートの品質向上と改善を図ると共に回収物の再利用、転化を推進することを可能とする、未硬化セメント組成物取扱機器の洗浄方法及び未硬化セメント組成物取扱機器の洗浄装置を提供すること。
【解決手段】界面活性物質を含有する水溶液を、噴霧器1によって平均粒子径が1μm以上50μm以下の霧状にして、ミキサ4内部に付着している未硬化セメント組成物に付与することによって、該未硬化セメント組成物を、自重によって下方へ移動させることを特徴とする未硬化セメント組成物取扱機器の洗浄方法を構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、未硬化セメント組成物取扱機器の洗浄方法及び未硬化セメント組成物取扱機器の洗浄装置に関する。
【背景技術】
【0002】
未硬化セメント組成物取扱機器、例えば、レディーミクストコンクリート(以下生コンと略記する)の混練製造に供した固定式プラントミキサ、生コンの運搬に供した移動式アジテータ車などの荷卸後のミキサ、アジテータなどの内部に付着残留した未硬化セメント組成物、例えば、生コン又はモルタルは、通常、多量の水を用いて洗い流されている。
【0003】
例えば、生コンは、生コンプラントミキサで混練後、生コン運搬車であるアジテータ車に積込まれ工事現場に運搬される。
【0004】
工事現場で生コンを卸した後は、ホッパ、ドラム内部、排出外羽根、スクープ、フローガイド及びシュートに生コンが付着残留し、現状では、例えば大型アジテータ車(10トン積み)の場合おおよそ70〜80リットル程度の生コンがドラム内壁や羽根に残留しており、乾燥硬化する前にできる限り早く車載の水を吹き付けてコンクリートを除去しなければならない。
【0005】
最近のアジテータ車には、自動洗浄装置が付いた車両も見かけられるようになったが、必ずしも洗浄が十分ではなく、また、ホッパ、スクープ、フローガイド、シュートなどは従来通り人の手で洗浄しなければならない。
【0006】
付着したコンクリートの硬化が進むと、羽根裏などの手の届かない死角部分に洗い残りが出やすくなり、そこに次々と生コンが付着堆積し、ドラム内部に固結する。固結したコンクリートは運搬中に剥離して荷卸時にコンクリートポンプ車の配管閉塞破裂などの重大な事故をひき起こすことがあり、また、運搬中の軟らかい生コンが付着固結したコンクリートに水分を取られて硬さが増大し、撹拌能力が落ちて品質特性値が低下することもある。
【0007】
そのため、年に数回程度アジテータ車のドラム内に人が入り、エアピックなどによるハツリ作業を行っているが、狭い空間内で行うこの作業は、きわめて危険なうえ、騒音や粉塵も著しく、無くしたい作業の一つである。そのため作業員は、荷卸後は環境保全に多少の問題があっても、大量の水で付着物を洗浄しがちである。

工事現場内に上記残留生コンを洗浄排出できる設備はなく、公道上にて洗浄作業を行うことも多く、その姿を第三者が見て、加水している不正行為と誤解されることもある。
【0008】
道路交通法上の問題以外にも、汚水が飛散したり、廃水が零れて路上を汚したり、シュートの先に付けた廃水受けバケツをドラム内に戻す作業や排出外羽根を洗浄する作業では、3m以上の高所作業を不安定な姿勢で行わなければならず、大変危険である。また、洗浄方法、洗浄水量、洗浄時間なども個人差が大きく、帰還時間もまちまちであり、配車の効率が非常に悪い。
【0009】
アジテータ車内部に付着残留した生コンやモルタル、残コンや戻りコンを再利用する技術の開発も強く望まれている。
【0010】
現在、付着モルタルの再利用方法として、JIS A 5308 附属書D(非特許文献2)に記載されているような安定剤を添加して使用する方法や、特開2008−188999号公報(特許文献3)に記載されている方法が知られているが、いずれの方法もドラム内の洗浄を行う場合、安定剤希釈液を50リットル(大型車の場合)用意しておく必要があり、別注の車載タンクがない場合は荷卸後直ちに洗浄することができない。
【0011】
また、この方法では、洗浄できるのはドラム内部のみで、排出外羽根などは従来通りの手洗いを行わなければならない。さらに、作業が煩雑なうえに、騒音、粉塵などの環境上の問題も生じ、また、再利用経費が大きいこともあって実行するには問題が多い。
【0012】
すなわち、上記JIS記載の方法によると、新たに希釈タンク、計量器、投入装置などの設置が必要で設備コストが増大し、また、次回積込み生コン量が3m以上(大型車の場合)などの制約があり、さらに投入した安定剤希釈液量を次回積込み生コンの各バッチから均等に差し引かなければならず、スランプの管理、配合修正など取り扱いが複雑になり、非常に難しく経済的にも技術的にも対応できる工場が少なく、JISに制定されていても、殆ど普及していないのが現実である。
【0013】
帰路途中の洗浄により生じた、ドラム内の大量なスラッジ水と洗浄カス(約100リットル)は、工場に持ち帰り、工場内の洗車廃水処理設備に全量排出し、洗浄後、次に運搬する生コンの積込み待機を行う。一般に、工場内の洗車処理能力には限りがあり、排出洗車まで時間がかかり、場内で長時間待機する場合は、固結防止のために常にエンジンをかけてドラムを回転させておかなければならず、エネルギーの無駄使い、COの撒き散らしが避けられない。
【0014】
アジテータ車などより排出された洗浄カスの中の骨材(粗骨材、細骨材)は分級装置により区分回収されるが、洗いが不十分であったり、粒度や種類が一定でなく規格外になることもあり、管理上の問題から再利用されることはまれで、産業廃棄物として処分される場合が殆どである。また、骨材を取り除いた後のスラッジ水はフィルタープレスで脱水し、上澄水は再利用し、脱水ケーキは産業廃棄物として処理しているが、最終処分場の許容量に限界があり、処理量、処理費用は年々上昇し、各事業所の負担は相当なものになっている。
【0015】
固定式ミキサにおいても連続使用中に昼休み、その他で時間が空いてしまう場合は、移動式アジテータの洗浄と同様に、生コンの付着固結を防止するために大量の水(500〜1500リットル)で洗浄を行うので、大量のスラッジ水が発生すると共に、汚水が零れて場内が汚れたり、洗浄するオペレータが昼休みを短縮して作業を行うなど、ムダな時間と経費を使っている。
【0016】
上澄水は再利用されることが多いが、天候や現場の状況に依存した出荷状況に左右され、毎日安定してこれを使用することは難しく、余剰になった上澄水は硫酸や炭酸ガスにより中和後下水に放流されるが、環境上大きな問題を抱えている。
【0017】
生コン業界としてもスラッジ水の再利用を推進しているが、購入者の理解を得られないことや、管理と設備に経費と手間が非常にかかるため普及しておらず、根本的にスラッジ水を減らす対策を講じていかなければならない状況にある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】特開平06−210621号公報
【特許文献2】特開2005−111454号公報
【特許文献3】特開2008−188999号公報
【特許文献4】特開2010−125718号公報
【非特許文献】
【0019】
【非特許文献1】「残コン・戻りコンの発生抑制と有効利用」に関するシンポジウム 論文報告集 委員会中間報告 社団法人 日本コンクリート工学協会
【非特許文献2】JIS A5308 レディーミクストコンクリート 附属書D 「トラックアジテータのドラム内に付着したモルタルの使用方法」 財団法人 日本規格協会
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
本願発明は、上記の問題に鑑みてなされたものであり、本願発明が解決しようとする課題は、従来のような大量の水による洗浄をなくして、環境汚染の大幅な低減、産業廃棄物の削減による環境負荷の低減、作業の安全性の向上、並びにコンクリートの品質向上と改善を図ると共に回収物の再利用、転化を推進することを可能とする、未硬化セメント組成物取扱機器の洗浄方法及び未硬化セメント組成物取扱機器の洗浄装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0021】
前記課題を解決するために、本発明においては、請求項1に記載のように、
未硬化セメント組成物取扱機器の洗浄方法において、界面活性物質を含有する水溶液を、噴霧器によって平均粒子径が1μm以上50μm以下の霧状にして、又は、泡発生器によって泡状にして、該未硬化セメント組成物取扱機器に付着している未硬化セメント組成物に付与することによって、該未硬化セメント組成物を、自重によって下方へ移動させることを特徴とする未硬化セメント組成物取扱機器の洗浄方法を構成する。
【0022】
また、本発明においては、請求項2に記載のように、
上記未硬化セメント組成物取扱機器が、未硬化セメント組成物の混練製造に用いられる固定式プラントミキサ、又は、未硬化セメント組成物運搬車であるアジテータ車であることを特徴とする請求項1に記載の未硬化セメント組成物取扱機器の洗浄方法を構成する。
【0023】
また、本発明においては、請求項3に記載のように、
請求項1に記載の未硬化セメント組成物取扱機器の洗浄方法の遂行に用いられる、未硬化セメント組成物取扱機器の洗浄装置であって、界面活性物質を含有する水溶液を噴霧する噴霧器と、該水溶液を貯蔵する貯蔵タンクとを具備することを特徴とする未硬化セメント組成物取扱機器の洗浄装置を構成する。
【0024】
また、本発明においては、請求項4に記載のように、
未硬化セメント組成物の混練製造に用いられる固定式プラントミキサ、又は、未硬化セメント組成物運搬車であるアジテータ車に具備されていることを特徴とする請求項3に記載の未硬化セメント組成物取扱機器の洗浄装置を構成する。
【発明の効果】
【0025】
界面活性物質を含有する水溶液を、未硬化セメント組成物取扱機器に付着している未硬化セメント組成物に付与することによって、該未硬化セメント組成物を、自重によって下方へ移動させる方法及び装置の利用によって、環境汚染の大幅な低減、産業廃棄物の削減による環境負荷の低減、作業の安全性の向上、並びにコンクリートの品質向上と改善を図ると共に回収物の再利用、転化を推進することを可能とする、未硬化セメント組成物取扱機器の洗浄方法及び未硬化セメント組成物取扱機器の洗浄装置を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明に係る、固定式ミキサ(生コンプラントミキサ)各部の名称及び噴霧器の取付位置、噴霧状況を摸式的に示した図である。
【図2】本発明に係る、移動式ミキサ(アジテータ車)各部の名称及び噴霧器の取付位置、噴霧状況を摸式的に示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下に、本発明の実施形態例について説明する。
【0028】
移動式ミキサ(アジテータ車)の場合、未硬化セメント組成物(生コン又はフレッシュモルタルなど)の運搬、荷卸完了後、ホッパカバー部に設置した噴霧器よりアジテータドラム内部に向けて、界面活性物質を含有する水溶液(以下、噴霧用液体と呼ぶ)を、微小粒子として噴霧し、該微小粒子の霧を充満させ、アジテータドラム内壁や羽根の表面に付着残留している未硬化セメント組成物に浸透させて上記組成物を付着面より剥がれやすくさせると共に高流動化させて、自重で下方向に移動させて、流動化洗浄を行う。
【0029】
上記作業は、荷卸し直後より実施可能で、運転席上での簡単な操作により行うことができる。
【0030】
固定式ミキサ(生コンプラントミキサ)の場合、練り混ぜ終了後、ミキサ上部のミキサカバー部に設置した噴霧器より、混練りミキサ内に向けて、前記噴霧用液体の微小粒子の霧を噴霧し、該ミキサ内に充満させ、生コン(又は、フレッシュモルタル、セメントを含む組成物など)の残留物に浸透させて、付着面より剥がれやすくさせると共に高流動化させて流動化洗浄を行う。
【0031】
上記作業は、オペレータが操作盤上での簡単な操作で行うことができる。また、短時間で行えるので、必要時に何回でも対応することができる。
【0032】
移動式又は固定式ミキサの外部にあって、前記微小粒子の霧の噴霧充満が難しい部分、すなわちアジテータ車のスクープ、フローガイド、シュート、生コンプラントのコンクリートホッパなどに付着残留した生コンの洗浄には、前記噴霧用液体を、泡発生器によって泡状にして、付着残留生コンに付与して洗浄することも有効である。なお、上記噴霧用液体は、界面活性物質を含有しているので、容易に泡状となる。
【0033】
このようにして、上記噴霧用液体の微小粒子を生コン(又は、フレッシュモルタル、セメントを含む組成物など)が付着残留しているミキサなどの内部に噴霧し、その霧を充満させて付着残留物を高流動化させることにより、大量の水を使用することなく容易に上記付着物を除去することができる。
【0034】
移動式ミキサ(アジテータ車)の場合、生コン(又は、フレッシュモルタル、セメントを含む組成物など)の積込み、運搬、荷卸後に、付着防止のために行っている大量の水洗浄作業が必要なくなり、洗浄作業に伴うスラッジ水の発生と残留カスの廃棄をほぼ皆無にすることができる。
【0035】
荷卸し直後に運転席上で簡単な操作により短時間で高流動化洗浄を行うことができるため、従来問題になっていた交通障害を引き起こすことがない。また、路上洗車中の騒音、排ガスやムダな燃料使用費を低減することができる。さらに、現場からの帰還時間が大幅に短縮され、効率の良い配車が可能になり、輸送コスト削減ができる。
【0036】
さらに、公道上での危険な高所作業がなくなると共に洗浄廃水が飛散したり、零れて路上を汚したり、強アルカリ廃水が下水などに流れる事故も無くすことができる。アジテータドラム内にはスラッジ水が発生しないため、帰還後の残水排出、洗車作業がなくなり大幅な作業時間の短縮ができる。
【0037】
固定式ミキサ(生コンプラントミキサ)の場合、練混ぜ後の空き時間が長いとミキサ内部が乾き、付着生コン(又は、フレッシュモルタル、セメントを含む組成物など)の固結が生じるが、本発明の実施により、これを阻止できると共に洗浄廃水を大幅に減らすことができ、作業効率を劇的に改善できる。
【0038】
出荷終了後の最終的な洗浄も少量の水で済み、発生スラッジ水の大幅低減や、脱水ケーキの削減が可能になり、余剰上澄水の工場外への排出や産業廃棄物の発生を抑制することができる。
【0039】
高流動化された付着生コン(又は、フレッシュモルタル、セメントを含む組成物など)は、ミキサ内壁及び羽根から流れ落ち、簡単に無くなるため、ミキサ内部での付着固結物のハツリ作業などの危険な重労働から解放される。
【0040】
高流動化された付着生コン(又は、フレッシュモルタル、セメントを含む組成物など)は、粘性のある液状となってミキサ底部に集まる。本発明を適用して生じたこの液状組成物の量は、ミキサ混練り容量及びアジテータ車の積載容積に対して、通常、2%以下であり、新たに積込まれる生コンに対して、この組成物がワーカビリティーの悪化(例えば凝結異常)、得られた製品の圧縮強度などの品質特性値の低下などの悪影響を与えることがないため、再利用が可能であり、産業廃棄物の量を大幅に削減することができる。この際、この液状組成物の量に応じて、新たに積込まれる生コンの組成を調整する必要は全く無い。
【0041】
高流動化された付着生コン(又は、フレッシュモルタル、セメントを含む組成物など)は、所定の期間、前記性状と品質を保持しているため、流動効果による完全回収が可能になり、回収物を原材料として転用、再生し、二次製品化することで産業廃棄物をほぼゼロにすることができる。
【0042】
本発明で使用する噴霧用液体は、未硬化セメント組成物に対して硬化遅延効果及び流動性増大効果を有する界面活性物質を含有する水溶液である。
【0043】
該界面活性物質としては、コンクリート用化学混和剤(例えば、樹脂酸塩系化合物、アルキルベンゼンスルホン酸塩系化合物、高級アルコールエステル系化合物、ポリオール複合体、リグニンスルホン酸塩並びにその誘導体、オキシカルボン酸塩系化合物、アルキルアリルスルホン酸塩系化合物、メラミンスルホン酸塩系化合物、ポリカルボン酸塩系化合物を主成分とした界面活性剤)、付着モルタル安定剤(例えば、オキシカルボン酸塩とアルキルアミノリン酸複合体)、生コン回収改質剤(リカバー):(例えば、オキシカルボン酸塩系化合物、アミノスルホン酸塩系化合物)などが挙げられる。
【0044】
これらの界面活性物質は、いずれも、未硬化セメント組成物に対して流動性増大効果と硬化遅延効果との両方を有しているが、コンクリート用化学混和剤は流動性増大効果に優れ、その他の界面活性物質は硬化遅延効果に優れているので、実用に際しては、下記実施例のように、コンクリート用化学混和剤と、その他の界面活性物質とを混合して用いるとよい。
【0045】
また、噴霧用液体に、収縮低減剤(ポリプロピレングリコール、エチレンオキシドメタノールなど)を混合して用いてもよい。
【0046】
さらに詳しくは、上記界面活性物質であるポリカルボン酸塩組成物としては、(メタ)アクリル酸系共重合体、マレイン酸系共重合体などが挙げられるが、具体例としては、メタクリル酸−メトキシポリエチレングリコールメタクリレート共重合体、メタクリル酸−メトキシポリエチレングリコールメタクリレート−メタリルスルホン酸ナトリウム共重合体、メタクリル酸−メトキシポリエチレングリコールメタクリレート−メタリルスルホン酸ナトリウム−アクリル酸エステル共重合体、マレイン酸−メトキシポリエチレングリコールアリルエーテル共重合体、マレイン酸メトキシポリエチレングリコール−スチレン共重合体、メタクリル酸−メタクリル酸ヒドロキシプロピル共重合体、アクリル酸−アクリル酸ヒドロキシエチル共重合体が挙げられる。
【0047】
また、オキシカルボン酸系組成物としては、クエン酸、グルコン酸、酒石酸、フマル酸、イタコン酸、マロン酸及びグルコヘプタン酸を含むヒドロキシカルボン酸及びその塩;ポリカルボン酸及びその塩例えば好ましくは低分子量のポリマレイン酸、ポリフマル酸、ポリアクリル酸及びポリメタクリル酸;抗酸化剤例えばアスコルビン酸、イソアスコルビン酸;重合体例えば好ましくは低分子量のスルホン酸−アクリル酸共重合体、ポリヒドロキシシラン及びポリアクリルアミド;炭水化物例えばスクロース及びコーンシロップ;及びリグノスルホン酸塩例えばリグノスルホン酸カルシウムを含む。これらのうち、ヒドロキシカルボン酸、ポリカルボン酸、アスコルビン酸、イソアスコルビン酸、炭水化物及びポリヒドロキシシランは好適である。好適なヒドロキシカルボン酸はグルコン酸及びグルコヘプタン酸である。さらに好適なものとして、少なくとも1つのホスホン酸型の遅延剤と少なくとも1つの異なった種類の混合物がある。
【0048】
さらに、上記噴霧用液体は、コンクリート用化学混和剤、付着モルタル安定剤、コンクリート及び鋼材に有害な影響を及ぼさない空気連行剤、消泡剤、養生剤、保護剤、剥離剤、改質剤、流動化剤、色剤、香剤、光剤、その他の界面活性物質、微生物質などを含み、その付与によって、セメントを含む組成物の品質保持、改善を行ってもよい。
【0049】
上記噴霧用液体の微小粒子は、上記液体を、高圧縮空気を用いて、微細孔より噴き出して作るが、得られた微小粒子がミキサなどの内部で安定して浮遊し、且つその壁面などに付着残留している生コンの内部に容易に浸透することが望ましいことから、下記実施例1の表1に示すように、平均粒子径が50μm以下、好ましくは10μm以下の微小粒子とするとよい。
【0050】
図1に示したように、固定式ミキサ(生コンプラントミキサ)の場合、ミキサ4上部のミキサカバー5に、上記噴霧用液体をミキサ内部方向に噴霧するように噴霧器1を設置する。噴霧器1に近接して置いた貯蔵タンク2に噴霧用液体を満たしておく。集塵機の停止を確認し、点検窓などの開閉部を閉め、ミキサカバー5を含めたミキサ内部を密閉状態にする。ミキサ4を起動、混練り用の羽根7を回転させ、噴霧スイッチを入れる。コンプレッサ3からの圧縮空気により、貯蔵タンク2内の噴霧用液体が、噴霧器1から、霧状となって噴霧され、5分ほどでミキサ所定量の霧が充満する。噴霧終了後、羽根7の回転を停止し、次の練混ぜ開始時まで放置し
ておく。ミキサ内部に付着していた生コン又はフレッシュモルタルは、高流動化され、自重で下方向に移動し、それぞれミキサ4の最底部に集まり、流動性を保持したまま次回の混練り生コン又はフレッシュモルタルと一体となり、再利用される。この際、噴霧に使用した液体の量は、新たに作られる生コン又はフレッシュモルタルの量に比べて微量であるので、新たに作られる生コン又はフレッシュモルタルの組成を、再利用される生コン又はフレッシュモルタルの量に応じて変更する必要は無い。
【0051】
図2に示したように、移動式ミキサ(アジテータ車8)の場合、開閉式ホッパカバー6に、ドラム内部に向けて、噴霧用液体の霧を噴霧できるように噴霧器1を設置する。まず、生コン積込み前に所定量の噴霧用液体を貯蔵タンク2に満たす。荷卸終了後5分以内に、ホッパカバー6が閉まっていることを確認し、噴霧器1よりドラム内部に向け霧を噴霧する。アジテータ車8は、運搬時と同様に低速の正回転(混練方向)状態とする。5分程度で所定量の霧がドラム内部に充満し付着していた生コン、フレッシュモルタルが高流動化され、ドラム内前底部に集まる。ドラム内前底部に溜まった付着生コン、フレッシュモルタルは流動性を保持し、次回積込み生コンと一体となり再利用される。この場合にも、次回積み込まれる生コンの組成を、再利用される生コンの量に応じて変更する必要は無い。
【0052】
上記噴霧用液体の微小粒子化、噴霧には0.25〜0.4MPa程度に圧縮された空気を使用し、噴霧能力は、噴霧器1個あたり0.01〜0.1リットル/分程度とする。また、移動式ミキサ(アジテータ車8)の場合、10〜30リットル程度の小さなエアタンク9を用いると便利である。
【0053】
噴霧する上記噴霧用液体の各貯蔵タンク容積は、固定式ミキサの場合には2〜20リットル程度とし、移動式ミキサの場合には0.5〜2リットルとするとよい。
【0054】
ミキサ内に充満させる微小粒子の霧の量は、噴霧用液体換算で、0.1〜0.2リットル/mとする。
【0055】
噴霧時期は、固定式ミキサの場合、練混ぜ排出積込み終了後15分以内、移動式ミキサの場合、荷卸し終了後5分以内が望ましい。
【0056】
回収した高流動化生コンクリート及びフレッシュモルタルを再利用することを考慮すれば、上記霧の噴霧後90分以内に次回生コンクリートの製造、積込みを行うことが望ましい。
【0057】
以下、本発明の実施により効果が確認された事項を、比較例を含めて、実施例として示す。
【実施例1】
【0058】
最適粒子径の確認を行うために、8トン積み中型アジテータ車(ドラム容積5m)の開閉式ホッパ部に噴霧器1個を設置し、混合空気量の調整とサイフォンチューブの長さを調整して平均微小粒子径を10〜50μmに変化させて、噴霧用液体0.5リットルをドラム内部に5分間噴霧した。噴霧用液体は、下記実施例2におけるものと同じである。
【0059】
平均微小粒子径が10〜50μmの霧は、噴霧器として、スプレーイングシステムジャパン株式会社製クイックフォッガーを用いて発生させた。
【0060】
なお、比較例として示した、平均粒子径300μm以上の霧は、パナソニック(株)製電動噴霧器:BH−594Pを用いて発生させた。
【0061】
得られた結果を表1に示す。
【0062】
【表1】

表中、「浮遊程度」と「充満程度」とは、それぞれ、ドラム空間内における微小粒子の浮遊程度と充満程度とを示し、「有効性」は、付着セメント組成物を流動化し、下方向に移動させる能力の大きさを表している。
【0063】
表1から判ることは、平均粒子径が50μmであれば、本発明の効果が現れ、平均粒子径が50μmよりも小となると、微小粒子がドラム空間内に、より長く、より広く滞留し、最終的に、付着セメント組成物に吸収される量が増え、本発明の効果が著しくなることである。
【0064】
なお、小さな微小粒子径としては、1μmが確認されている。従って、平均粒子径が1μm以上50μm以下であれば、本発明の効果が現れる。
【0065】
このように、請求項1に記載の未硬化セメント組成物取扱機器の洗浄方法であって、未硬化セメント組成物が付着している該未硬化セメント組成物取扱機器の内部に、界面活性物質を含有する水溶液を霧状にして充満させる工程を含むことを特徴とする未硬化セメント組成物取扱機器の洗浄方法も、本発明に係る未硬化セメント組成物取扱機器の洗浄方法である。
【0066】
噴霧器BH−594Pを用いて、比較例として示した、平均粒子径300μm以上の霧を噴霧した場合は、大部分の液滴が、セメント組成物に触れずに、空間内を落下してしまい、付着セメント組成物を流動化しないので、有効性(本発明の効果)が認められなかった。
【実施例2】
【0067】
噴霧用液体添加量の違いによる洗浄効果を確認するため流動化洗浄後の付着生コン回収量とその性状の確認を行った。その際の諸条件は下記の通りである。
(1)使用車両:中型アジテータ車(ドラム容積6.3m)、平均積載量:3.5m
(2)噴霧時期:生コン荷卸後、5分以内に噴霧を実施した。
(3)粒子径:平均粒子径15μm以下の微小粒子とした。
(4)噴霧装置:
(i)噴霧器:実施例1で使用したスプレーイングシステムジャパン株式会社製クイックフォッガー。
(ii)取付位置:開閉式ホッパカバーの内面側中心部分より、鉛直方向にステーを取り付け、その下端に、ドラム内部方向に向けて霧が発生するように、噴霧器を固定した。
(iii)貯蔵タンク:0.5リットルサイクルボトル、ステップ手摺にボトルホルダーで固定。
(iv)コンプレッサ:IS−925HT 220W、 アネスト岩田製 100V、 DC24V−AC100Vインバーターで直流を交流に変換して使用した。
(5)噴霧用液体:0.5リットルの混合液であり、下記の高性能AE減水剤と回収水改質剤を4対1で混合して作られたものである。
(i)コンクリート用化学混和剤の1つである高性能AE減水剤(ポリカルボン酸系): グレースケミカルズ(株)製ダーレックススーパー100PHX。
(ii)生コン回収改質剤(オキシカルボン酸系):グレースケミカルズ(株)製リカバー。
【0068】
得られた結果を表2に示す。
【0069】
【表2】

表中、「有効性」は表1の有効性と同じである。
【0070】
表2から、噴霧量(ドラム単位容積当たりの噴霧液量)が、下限20以上、好ましくは60〜150ml/m(ミリリットル/立方メートル)のときに、良好な流動化と高い回収率が得られることが判る。なお、噴霧量が500ml/mを超えると、新たに搭載される生コンの組成を変更する必要が生じるので、噴霧量は500ml/m以下とすることが望ましい。
【0071】
噴霧量0の場合は比較例に相当する。
【0072】
なお、ここで用いた噴霧器であるスプレーイングシステムジャパン株式会社製クイックフォッガーを用いて、界面活性物質を含有する水溶液をドラム内に噴霧し、該ドラム内に搭載されている未硬化セメント組成物に付与して、該未硬化セメント組成物の諸品質特性(例えば、スランプ、空気量、強度、粘性、凝固特性)を変更することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0073】
現在行っている移動式ミキサ(アジテータ車)及び固定式ミキサ(生コンプラントミキサ)の荷卸後などの大量の水による洗浄を完全になくす、安全で低経費、無公害の洗浄方法として広く利用される可能性がある。
【0074】
またミキサ内壁などに付着残留した生コンやフレッシュモルタルを廃棄せずに再利用することができるため、資源の有効利用法として採用される可能性も高い。
【符号の説明】
【0075】
1:噴霧器、2:貯蔵タンク、3:コンプレッサ、4:ミキサ、5:ミキサカバー、6:開閉式ホッパカバー、7:羽根、8:アジテータ車、9:エアタンク。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
未硬化セメント組成物取扱機器の洗浄方法において、
界面活性物質を含有する水溶液を、噴霧器によって平均粒子径が1μm以上50μm以下の霧状にして、又は、泡発生器によって泡状にして、該未硬化セメント組成物取扱機器に付着している未硬化セメント組成物に付与することによって、該未硬化セメント組成物を、自重によって下方へ移動させることを特徴とする未硬化セメント組成物取扱機器の洗浄方法。
【請求項2】
上記未硬化セメント組成物取扱機器が、未硬化セメント組成物の混練製造に用いられる固定式プラントミキサ、又は、未硬化セメント組成物運搬車であるアジテータ車であることを特徴とする請求項1に記載の未硬化セメント組成物取扱機器の洗浄方法。
【請求項3】
請求項1に記載の未硬化セメント組成物取扱機器の洗浄方法の遂行に用いられる、未硬化セメント組成物取扱機器の洗浄装置であって、界面活性物質を含有する水溶液を噴霧する噴霧器と、該水溶液を貯蔵する貯蔵タンクとを具備することを特徴とする未硬化セメント組成物取扱機器の洗浄装置。
【請求項4】
未硬化セメント組成物の混練製造に用いられる固定式プラントミキサ、又は、未硬化セメント組成物運搬車であるアジテータ車に具備されていることを特徴とする請求項3に記載の未硬化セメント組成物取扱機器の洗浄装置。

【図1】
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【図2】
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