説明

杭打装置および杭打方法

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、長尺の矢板やH型鋼なる杭を打設する場合に使用するに好適なチャック装置を有する杭打装置に関する。
【0002】

【従来の技術】
フロントの高さより長尺の矢板を打ち込むことを可能とした杭打機として、実開昭59−173738号公報には、作業機に取付けられた多関節アームの先端より、鋼矢板を把持するための水平チャック装置を一体に設けた起振機をピン付けして揺動可能に垂下したものが開示されている。
【0003】

【発明が解決しようとする課題】
しかし、該公報に開示されているものは、水平チャック装置を起振機に一体に設けて揺動可能に垂下しており、該水平チャック装置は前方に突出せざるを得ない構造であるため、水平チャック装置の重みにより、起振機が傾斜し、このため、水平チャック装置は、矢板の長手方向軸線に対して直角に位置せず、斜め方向から矢板を把持することになる。そして、この状態で矢板を最後まで打ち込むため、矢板に起振機を中心とした回動力が作用し、矢板を鉛直に打ち込むことが困難であり、施工性、作業性が悪く、矢板やH型鋼を併設する狙い、すなわち、止水、土止め等の機能充分に発揮させることができない場合があるという問題点がある。また、起振機による振動力を矢板に加える上で、矢板の真上から振動力を加えるものではないために、能率が悪いという問題点がある。本発明は、このような問題点に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、長尺の杭を打つ場合に施工性、作業性および能率良く作業できる杭打装置および杭打工法を提供することにある。
【0004】
【課題を解決するための手段】この目的を達成するために、本発明の杭打装置は、走行体の上部に旋回体を有する作業車両本体と、前記旋回体に俯仰自在に設けたブームと、該ブームの先端に継ぎ足して設けられる少なくとも1つのアームと、該アームの先端に揺動自在に取付けた起振機と、該起振機の下方に設けられ下方に延在する一対のチャック用爪を有する垂直チャック装置と、該垂直チャック装置に把持される水平チャック装置を備え、該水平チャック装置は、固定フレームと、該固定フレームに回動可能に取付けた回動フレームと、前記固定フレームと回動フレームとの内側にそれぞれ取付けられ、鋼矢板またはH型鋼の横手方向の中間部を把持するチャック用爪と、前記回動フレームを前記固定フレームに固定する固定手段と、前記固定フレームの側部に設けられ、前記垂直チャック装置の一対のチャック用爪によって把持される被チャック部とを有することを特徴とする(請求項1)。また、本発明の杭打方法は、請求項1の杭打装置を用い、鋼矢板またはH型鋼からなる杭を地中に打ち込む場合、杭の横手方向の中間部に、前記杭打装置の前記水平チャック装置を取付け前記本体上の旋回体、ブーム、アームを稼動させて、前記アームの先端に設けた前記垂直チャック装置の一対のチャック用爪によって前記水平チャック装置の被チャック部を把持し、前記杭を前記起振機によって地中に打ち込み、前記杭がある程度打ち込まれた後、前記垂直チャック装置を前記水平チャック装置の被チャック部から外し、前記垂直チャック装置で前記杭の頂部を把持して前記起振機によって前記杭を打設することを特徴とする(請求項2)。
【0005】
【作用】本発明による杭打装置は、ブーム、アームでなるフロントにより規定される最高高さ以上の杭を打設する場合、横把み装置の水平チャック装置により杭を横把みし、該横把み装置の被チャック部を、アームに取付けた起振機の垂直チャック装置により挟持し、起振機を作動させて横把み装置を介して杭に振動を加え、かつフロントを操作しながら杭を地中に打設し、杭の頂部が振機の垂直チャック装置により挟持できる深さまで打込んだら、横把み装置を杭から外し、杭の頂部を起振機の垂直チャック装置により把持して打設することができる。通常の比較的短い杭の場合には、垂直チャック装置で杭の頭部を把持して鉛直に杭打を行うことができる。本発明による杭打方法においては、水平チャック装置による把持は、杭の打ち込み始めから、杭がある深さまで程度打ち込まれるまでの初期の段階だけであり、その後は起振機の振動力が杭へ真上から加えられ、能率良く杭が打ちこめる。
【0006】
【実施例】図1および図2は本発明による杭打装置の一実施例を示すものであり、図1は油圧ショベルでなるベースマシンを用いる例である。該ベースマシンの本体1は、走行体の上部に旋回体を搭載して構成される。本体1を構成する旋回体にはブーム2を油圧シリンダ7aにより俯仰自在に取付け、ブーム2の先端には1本以上のアーム3、4を油圧シリンダ7b、7cにより上下回動自在に継ぎ足して取付ける。このような多関節フロントの先端アーム4の先端に、ピン6により起振機5を垂下して揺動自在に取付ける。該起振機5の垂直チャック装置5aは下方に延在する一対のチャック用爪を有するもので、そのチャック用爪により水平チャック装置20を把持し、該水平チャック装置20により矢板12を把持して打込みを行なうものである。図2は図1と異なり、杭として矢板12ではなく、H型鋼47を把持した状態を示している。
【0007】1、図2に示すように、水平チャック装置20は、前記垂直チャック装置5aの前記チャック用により把持される被チャック部24aと、固定フレーム21と、回動フレーム25とからなり、前記被チャック部24aは、前記固定フレーム21の回動フレーム25取付け面の反対側より水平に突出させて固着したフレーム24の先端より上方に突出させて形成している。
【0008】前記回動フレーム25は、前記固定フレーム21の一端側の上部および下部に補強板で補強して設けたヒンジサポート22に、軸26を中心に回動自在に取付けられている。回動フレーム25と固定フレーム21には、これらの間で図1に示すように矢板12を挟持するのみならず、図2に示すようにH型47を挟持することが可能となるように、チャック用爪27、34を、これらのフレーム25、21から突出させて設けており、これにより、これらの爪27、34を閉じた状態において、これらの爪27、34の両側に矢板12やH型鋼47の両端を収容するスペース35、36が形成されるように構成している。前記回動フレーム25に固定されるチャック用爪27は、回動フレーム25にボルト31、ナット33によって取付けられた固定板27aと、該固定板27aに中間部材27bを介して固定されて挟持板27cとを備えており、固定板27aと回動フレーム25との間には、矢板12またはH型鋼47の厚みに拘らず矢板12を確実に把持するため、複数種類の厚さのものから選択された好適な厚みのシム30を介在させる。固定フレーム21に固定された爪34は、固定フレーム21に溶接された中間部材34aと、前記挟持板27cとの間で杭を把持する挟持板34bとからなる。
【0009】28は回動フレーム25を固定フレーム21に固定する手段として設けられた締結用ボルトであり、該締結用ボルト28は、固定フレーム21に貫通し、チャック用爪27、34の間に矢板12を介在させ、回動フレーム25を開いた状態から閉じ方向に回動させ、ボルト28にナット29を螺合して締結することにより、矢板12またはH型鋼47が固定される。
【0010】このように、矢板12またはH型鋼47横手方向の中間部に水平チャック装置20を固定し、体1の旋回体、ブーム2、アーム3、4を作動させて垂直チャック装置5aの一対のチャック用爪によって前記水平チャック装置20の被チャック部24aを把持し、図1に示すように杭を直立させ、起振機5を作動させることにより、矢板12またはH型鋼47を打設する。これにより、垂直チャック装置5aの最高高さ以上の長さの矢板12またはH型鋼47の打設が可能となる。
【0011】また、矢板12またはH型鋼47の頂部が起振機5の垂直チャック装置5aにより挟持できる深さまで打込んだら、水平チャック装置20を矢板12またはH型鋼47から外し、矢板12またはH型鋼47の頂部を起振機5の垂直チャック装置5aにより把持し、振機5による振動力を矢板12またはH型鋼47の真上から垂直に作用させた状態で打ち込みが行えるので、矢板12またはH型鋼47を鉛直に打ち込むことができ、矢板12またはH型鋼47の併設による止水や土止めの機能を充分発揮させることができる。これにより、施工性、作業性および能率良く矢板12またはH型鋼47を打設することができる。また、通常の長さの矢板12またはH型鋼47を打ち込む場合は、水平チャック装置2を外し、垂直チャック装置5aで矢板12またはH型鋼47の頂部を把持して打設作業を行うことにより、能率良く矢板12またはH型鋼47の打設作業を行うことができる。
【0012】本発明を実施する場合、被チャック部24aを前記と直角をなすヒンジサポート22に設ける等、具体的構造、手順については、上記実施例以外に種々に変更、付加が可能である。
【0013】
【発明の効果】請求項1の杭打装置によれば、前記垂直チャック装置に把持される被チャック部と杭横把み用水平チャック装置とをえたので、ベースマシンの規格等によって決定される長さ以上の杭の打込みを行う場合に、水平チャック装置により杭の横手方向の中間部を把持して垂直チャック装置で杭を把持できる深さまで杭を打ち込んだ後、水平チャック装置を外し、垂直チャック装置で杭を把持し、起振機による振動力を杭の真上から垂直に作用させた状態で杭の打ち込みが行えるので、杭を鉛直に打ち込むことができ、杭の併設による止水や土止めの機能を充分発揮させることができる。また、水平チャック装置により杭の横手方向の中間部を把持するため、杭の頂部を把持する場合に比較して、水平チャック装置ははるかに小形で可搬性が良いものである。また、起振機自体の重量を増大させることなく施工でき、かつ杭に真上から振動を加えることができるので、施工性、作業性および能率が向上する。請求項2の杭打方法によれば、長い杭に固定手段により取付けた水平チャック装置と、アームの先端に取付けた垂直チャック装置との協動によって、長い杭をある程度の深さまで打ち込んだ後、水平チャック装置を垂直チャック装置から外して垂直チャック装置で杭の頂部を把持し振動を真上から加えることにより、杭を鉛直に打ち込むことができる。その結果、既に打ち込まれた長い杭に沿って、長い杭を正確かつ確実に打ち込むことができ、その施工性および作業性並びに作業能率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施例の概略側面図である。
【図2】本実施例の水平チャック装置によりH型鋼を把持している状態で示す平面図である。
【符号の説明】
:油圧ショベル本体、2:ブーム、3、4:アーム、5:起振機、5a:垂直チャック装置、6:ピン、12:矢板、20:水平チャック装置、21:固定フレーム、24a:被チャック部、25:回動フレーム、27、34:チャック用爪、28:締結用ボルト、29:ナット、47:H型鋼

【特許請求の範囲】
【請求項1】走行体の上部に旋回体を有する作業車両本と、前記旋回体に俯仰自在に設けたブームと、該ブームの先端に継ぎ足して設けられる少なくとも1つのアームと、該アームの先端に揺動自在に取付けた起振機と、該起振機の下方に設けられ下方に延在する一対のチャック用爪を有する垂直チャック装置と、該垂直チャック装置に把持される水平チャック装置を備え、該水平チャック装置は、固定フレームと、該固定フレームに回動可能に取付けた回動フレームと、前記固定フレームと回動フレームとの内側にそれぞれ取付けられ、鋼矢板またはH型鋼の横手方向の中間部を把持するチャック用爪と、前記回動フレームを前記固定フレームに固定する固定手段と、前記固定フレームの側部に設けられ、前記垂直チャック装置の一対のチャック用爪によって把持される被チャック部とを有することを特徴とする杭打装置。
【請求項2】請求項1の杭打装置を用い、鋼矢板またはH型鋼からなる杭を地中に打ち込む場合、杭の横手方向の中間部に、前記杭打装置の前記水平チャック装置を取付け前記本体上の旋回体、ブーム、アームを稼動させて、前記アームの先端に設けた前記垂直チャック装置の一対のチャック用爪によって前記水平チャック装置の被チャック部を把持し、前記杭を前記起振機によって地中に打ち込み、前記杭がある程度打ち込まれた後、前記垂直チャック装置を前記水平チャック装置の被チャック部から外し、前記垂直チャック装置で前記杭の頂部を把持して前記起振機によって前記杭を打設することを特徴とする杭打方法。

【図1】
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【図2】
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【特許番号】第2628616号
【登録日】平成9年(1997)4月18日
【発行日】平成9年(1997)7月9日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平5−47359
【出願変更の表示】実願平1−100439の変更
【出願日】平成1年(1989)8月30日
【公開番号】特開平6−10349
【公開日】平成6年(1994)1月18日
【審判番号】平7−3301
【出願人】(000005522)日立建機株式会社 (2,611)
【出願人】(999999999)調和工業 株式会社
【合議体】
【参考文献】
【文献】実開 昭58−38845(JP,U)
【文献】実開 昭59−173738(JP,U)
【文献】実開 昭61−60668(JP,U)
【文献】実開 昭51−38306(JP,U)