説明

板紙立体成形パレット

【課題】
実用上十分な荷物積載面の剛性と脚部の耐荷重強度を有する板紙立体成形パレットを提供し、かつ最終的に廃棄処分扱いとなった場合、新たな板紙立体成形パレット又はその他の剛性の必要な紙製品の原料として再生できるように設計された板紙立体成形パレットを提供する。
【解決手段】
紙製の板状の天板部材1と紙製の有底略円筒脚2とを有し、天板部材1には複数の貫通孔15が穿設されており、有底略円筒脚2は貫通孔15に有底略円筒脚2の一部が貫入された状態で天板部材1に水溶性接着剤にて接合されてなる板紙立体成形パレットであって、天板部材1及び有底略円筒脚2は吸水させた積層平板合紙を原料として所定の形状に成形するために金型内で加圧加熱脱水処理を行ったものを使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、フォークリフト等で荷物等を運搬する場合に使用される板紙立体成形パレットと、その板紙立体成形パレットの構造に関し、詳しくは、再生可能な原料によって製作され、なおかつ、優れた表面硬度と耐荷重強度を有する、丈夫な板紙立体成形パレットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、フォークリフトで荷物等を運搬する場合に使用されるパレットとして、従来は木製のものが使用されているが、近年は森林減少等が国際的社会問題となっており、従って、木材使用量の減少が望まれる。
【0003】
更に、木製のパレットは廃棄処理が困難であり、また防虫のために薫蒸処理が必要となり、その作業に手間とコストがかかる問題点がある。
【0004】
このような観点から、近年では木製パレットに代えて、全体が段ボール製のパレットも数多く使用されている。この段ボール製パレットは廃棄処理を容易にし、紙として再生可能という観点からは好ましいものであるが、荷物の荷重に対する荷物積載面の強度が弱く、従って使用できる荷重範囲に制限が有った(例えば、特開平6−171648号公報)。
【0005】
また、パレットはその用途上必ず、デッキボード裏側に脚や桁を用いてフォークリフトのツメ差し空間部を設けるが、段ボール製の脚や桁は強度が低く、荷物をトラック等で搬送中の衝撃等で脚や桁が潰れてしまいツメ差しの空間部が無くなりパレットが使用不可能になるという不都合があったため、荷物積載面の剛性の強化に意を凝らすとともに、プラスチックあるいは金属製の固定具を脚部に用いて強化していた(例えば、特開2002−370740号公報)。
【0006】
廃紙を活用して多様な屈曲面を有する紙製成形物が十分な強度を有するように成形する方法として、コロイド状態にした廃紙溶液を型内で真空脱水した廃紙積層体による脚部を成形し、その上に荷物積載面を圧着成形する、廃紙を主材とするパレットの製造方法も提案されているが、この方法による廃紙積層体で形成された脚部部材は、いわゆる卵の紙製保護ケースのごとき材質であり、十分な強度を有するとは言えず、またフォークリフトのツメによる突き刺しに耐える表面硬度も有していなかった(特開平7−285185号公報)。
【特許文献1】特開平6−171648号公報
【特許文献2】特開2002−370740号公報
【特許文献3】特開平7−285185号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のごとく、森林減少問題、パレット資材の再利用問題、害虫駆除問題などを回避するため、段ボールや廃紙を素材とする紙製パレットが注目されているが、これらは荷物積載面及び脚部の剛性と強度が弱いため、実用上は使用範囲に制限があるという問題が残っていた。
【0008】
そこで、この発明にあっては、パレットとして実用上十分な荷物積載面の剛性と脚部の耐荷重強度を有する板紙立体成形パレットを提供するとともに、最終的に廃棄処分扱いとなった場合でも、各部材を材質毎に分別する分別作業を必要とすることなく、新たな板紙立体成形パレット又はその他の剛性の必要な紙製品の原料として再生できるように設計された板紙立体成形パレットを提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
かかる課題を達成するため、請求項1に記載の発明は、紙製の平板状の天板部材と紙製の有底筒状の脚部部材とを有し、前記天板部材には複数の貫通孔が穿設されており、前記脚部部材は前記貫通孔に前記脚部部材の一部が貫入された状態で前記天板部材に水溶性接着剤にて接合されてなる板紙立体成形パレットであって、前記天板部材及び前記脚部部材は吸水させた積層平板合紙を原料として所定の形状に成形するために金型内で加圧加熱脱水処理を行った高密度圧縮成形品からなることを特徴としている。
【0010】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の構成に加えて、前記天板部材は、その側端部が立ち上がり側壁を形成して成形されており、かつ前記側壁の内側の平面部には強化段ボールを水溶性の接着剤にて接合していることを特徴としている。
【0011】
請求項3に記載の発明は、請求項1に記載の構成に加えて、前記天板部材には、横断面が凹凸形状を有する板状の芯材と、該芯材の表面及び/又は裏面を覆う大きさを有する板状の外郭部材とを水溶性の接着剤にて接合していることを特徴としている。
【0012】
請求項4に記載の発明は、請求項1乃至3に記載の構成に加えて、前記脚部部材は、円形の底面と該円形の底面から上方に立ち上がる横断面が円弧状である壁面と該壁面から水平に延出する外向きのフランジ部とを有した有底略円筒形状をしており、前記天板部材の上面と前記脚部部材のフランジ部を接合していることを特徴としている。
【0013】
請求項5に記載の発明は、請求項4に記載の構成に加えて、前記脚部部材は、壁面が円周方向に沿って3乃至8に分割された複数の分割壁面で構成されており、かつ隣り合う分割壁面の側端面同士は互いに接触乃至近接している脚部部材であることを特徴としている。
【0014】
請求項6に記載の発明は、請求項5に記載の構成に加えて、前記脚部部材は、前記有底略円筒状をした前記脚部部材を複数重ね合わせると共に、重ね合わされた前記脚部部材の分割壁面の側端面は円周上で互いに重なることなく組合わされていることを特徴としている。
【0015】
請求項7に記載の発明は、請求項1乃至6に記載の構成に加えて、前記天板部材の貫通孔の周囲に、前記フランジ部が埋没する前記フランジ部の厚みと同じ深さを有する凹部を設けたことを特徴としている。
【0016】
請求項8に記載の発明は、請求項1乃至7に記載の構成に加えて、前記脚部部材の底面に、すべての脚部部材を連接することのできる大きさを有する底板を水溶性接着剤で接合したことを特徴としている。
【発明の効果】
【0017】
請求項1に記載の板紙立体成形パレットによれば、パレット表面硬度が高くパレットの天板部や脚部をフォークリフトのツメで強く突いた場合でもツメがパレットに突き刺さらないので、能率的運搬作業ができる、また高密度圧縮成形品はそれ自体強度が高い上に、筒状に成形された脚部部材は天板部材を貫通して接合されているので天板部材が板紙を立体成形した筒状の脚部部材に対しタガを填める役割をして脚部部材が荷重で型崩れしまう事を防止し、荷物搬送中の衝撃等で脚部部材が潰れてフォークリフトツメ差し空間部がなくなりパレットが使用不可能となる不都合が起きにくい、フォークリフトツメの四方差し可能なパレット構造となる。そして最終的に廃棄の際は構成部材を材質毎に分別する作業を必要とせず、板紙立体成形パレットを水につけて溶かせば、新たな板紙立体成形パレット又はその他の剛性の必要な紙製品の原料として再生できる。
【0018】
請求項2に記載の板紙立体成形パレットによれば、請求項1に記載の効果に加えて、天板上面に強化段ボールを水溶性の接着剤にて接合してあるので、脚部のフランジが上下から天板部材と接着される構成になり、独立脚でありながら脚の強度が高く、かつ軽重多様な重さの貨物を扱う者において所定形状に裁断された一層乃至多層の強化段ボールを準備しておき必要なら貼り付けることにより、段ボールも紙であるからパレットのリサイクル性は何等損なう事なく、載せる荷物の重量に応じた荷物積載面の強度を有する板紙立体成形パレットをその場で準備する事が可能となる。また、段ボールの裁断面は表面硬度の高い天板部材が立ち上がった側壁で保護されるので、天板部側面をフォークリフトのツメで突いた場合でも、従来の段ボールパレットで発生したツメが刺さる不都合が発生せず、能率的運搬作業ができる。
【0019】
請求項3に記載の板紙立体成形パレットによれば、請求項1の効果に加えて、天板上面に紙製の高密度圧縮成形品からなる芯材と表面外郭部材とを水溶性の接着剤にて接合してあるので、脚部のフランジが上下から天板部材と接着される構成になり、独立脚で在りながら脚の強度が高く、また天板部材が構造剛性を有するので、荷物積載面の強度も向上し、リサイクル性は何等損なうこと無くより重い耐荷重用途の希望に対応することができる。
【0020】
請求項4に記載の板紙立体成形パレットによれば、請求項1〜3の効果に加えて、脚部部材が円形の底面と該円形の底面から上方に立ち上がる横断面が円弧状である壁面と該壁面から水平に延出する外向きのフランジ部とを有するフランジ付き有底略円筒形状とされているので、脚の形状剛性が最大となり、積層平板合紙を加圧加熱脱水処理した材料が有する物理的強度を最大限に利用することが可能となる。なお、円筒形状の脚とすれば良好な形状剛性が得られることは理論的には容易に想致できるが、可塑性を殆ど有さない積層平板合紙を原料として、合紙にクラックを生じさせず係る一体のフランジ付き有底略円筒形状の成形体を得るのは極めて困難な技術であり、この発明の発明者は、平板の積層合紙から立体形状を成形する方法を既に開発して特許出願し、特開2000−177033号公報にて開示されている。請求項4に係る発明は基本的にこの方法を採用しつつ、原料の積層平板合紙の厚さに応じた長さと本数の切り欠きを適宜当該原料積層平板合紙に設けることで、積層平板合紙にクラックを生ずることなく、曲面上に屈曲部を有するフランジ付き有底略円筒脚の成形を可能とし、従来の紙製成形品では到達し得ない耐荷重強度を有する紙製の脚部材を提供し、もって丈夫な総紙製の板紙立体成形パレットが提供された。
【0021】
請求項5に記載の脚部部材によれば、請求項4の効果に加えて、フランジ付き有底略円筒脚の壁面は、円周方向に沿って3乃至8に分割された複数の分割壁面であり、かつ隣り合う分割壁面の側端面同士は互いに接触乃至近接しているので、当該フランジ付き有底略円筒脚が天板部材の貫通孔に貫入して接合されると、樽にタガを嵌めたような構成となり、分割壁面が全体で一つの剛性体を形成し、強度の高い脚部部材を得ることができる。
【0022】
請求項6に記載の脚部部材によれば、請求項5の効果に加えて、脚部部材は、有底略円筒状をした脚部部材を複数重ね合わせると共に、重ね合わされた脚部部材の分割壁面の側端面は円周上で互いに重なることなく組合わされて接着されているので、互いの分割部を互いの壁面部が塞いで補強する構造となり、各々の有底略円筒脚は分割壁面構造ながら、全体では切れ目がなく強度が向上するとともに、円筒脚内部へ連通する隙間が無いので、円筒脚内へのゴミや水分の侵入を防止でき、脚の耐久性も向上する。
【0023】
請求項7に記載の板紙立体成形パレットによれば、請求項1〜6の効果に加えて、天板部材の貫通孔の周囲に、脚部材のフランジ部が埋没する該フランジ部の厚みと同じ深さを有する凹部を設けたので、脚部材を貫通孔に貫入して天板部材と接合すると、天板部材上面と該フランジ部上面は面一を構成する。この構成で請求項2乃至3に記載する強化段ボール又は芯材を水溶性の接着剤で接合すると、接着面積が広くなり天板部材の剛性が上がるのみならず、脚部材フランジ部も複層の天板部材内部で上下から隙間なく接着されるため、天板部材の強化と合わせてフランジ付き有底略円筒脚の取り付け部も一層強化され、独立した脚が更に安定する。
【0024】
請求項8に記載の板紙立体成形パレットによれば、請求項1乃至7の効果に加えて、有底筒状の脚部部材の底面に、すべての脚部部材を連接することのできる大きさを有する底板を水溶性の接着剤で接合したので、パレット全体がより立体的になり構造剛性が向上し、荷物積載面の強度がより一層向上する。さらに、荷物の多段積みをした場合でも下段の荷物に脚の荷重痕が付く不都合が解消される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、この発明に係る板紙立体成形パレットの実施の形態について図1乃至図7によって説明する。
[発明の実施の形態1]
【0026】
図1は、この発明に係る板紙立体成形パレットの実施の形態1の外観を示した斜視図である。
【0027】
実施の形態1は、平板状の天板部材1と、この天板部材1を貫通して有底略円筒脚2の縁に設けたフランジ部で天板部材1に接合された、9個の有底略円筒脚2とから構成されている。
【0028】
図2は、この発明に係る実施の形態1の要部横断面図である。
【0029】
天板部材1には、有底略円筒脚2を貫入させるための貫通孔15が穿設されており、孔の径は有底略円筒脚2のフランジ付け根部の外径とぴったり接合するようになっている。ここで、孔の周囲には有底略円筒脚2のフランジが埋没する、フランジ部の厚みと同じ深さの凹み16を設けておき、天板部材1と有底略円筒脚2が接合されたときに、天板部材1の上面と有底略円筒脚2のフランジ部の上面は面一を構成することが望ましい。
【0030】
天板部材1の上面と有底略円筒脚2のフランジ部上面が面一を構成することで、図3又は図4に示すように天板部材1の上面に強化段ボール5や波板状芯材4を水溶性接着剤で接合した場合、接着面がフラットになるので天板部材1と強化段ボール5や波板状芯材4との接着面積が増大するとともに、有底略円筒脚2のフランジも強化天板部材内部で上下から隙間なく接着されるので、天板部材の強化と合わせて有底略円筒脚2の取り付け部も強化され、独立した脚が更に安定する。
【0031】
天板部材1,有底略円筒脚2の圧縮成形方法は、この発明の発明者らが既に発明し提案した、特開2000−177033号公報に記載された合紙を原料とする精密三次元立体薄硬紙プレス形成法、又はこれに準じた成形方法を採用すればよい。
【0032】
なお、一般に積層平板合紙は製造時に繊維が特定の方向に配列する性質があるため、完成した積層平板合紙には方向性がありその方向如何によって曲げ強度が大きく異なる性質がある。そのため、天板部材1の縦横どちらの方向に対してもほぼ同じ曲げ強度を持たせようとするには、成形する際に原料となる積層平板合紙を1層毎にその繊維の方向を変えるべく所定角度づつずらしながら複数枚重ね(例えば、90度ずつ4方向で4枚重ね)た積層平板合紙を成形材料として使用することが望ましい。これにより、従来の平板合紙成形体特有の反りや縮みといった変形が均一化され、結果として、全面に亘って均一な曲げ強度と剛性を有する、反り変形なども起こりにくい板紙立体成形パレット製品が得られる。複数枚重ねる場合、積層平板合紙に吸水させた後、重ね面に接着剤を塗布して、高密度圧縮成形する。
【0033】
接着剤は、水溶性である酢酸ビニル系接着剤を使用する。具体的には、ペガール210PR、ペガール100HHR、ペガール1540,ペガール517R(高圧ガス工業株式会社製)が推奨できる。これらは食品衛生法・食品、添加物等の規格基準(昭和34年厚生省告示第370号)に適合することが確認されており、作業者や環境に対する負荷が小さい。また、塗布し易くするため、接着剤に対し水を体積比で10%乃至100%添加して、薄めて使用してもよい。
【0034】
水溶性の酢酸ビニル系接着剤を使用することで、板紙立体成形パレット全体を水に浸すことで天板部材1、有底略円筒脚2、接着剤の全ての構成部材を水に溶かすことができるので、新たな積層平板合紙の原料として容易に再利用ができることとなる。
【0035】
図5は、この発明に係る板紙立体成形体パレットの実施の形態1で使用した有底略円筒脚2の斜視図である。
【0036】
図6は、有底略円筒脚2を高密度圧縮成形するために、積層平板合紙から切り出した原料型紙の一形態である。破線19に沿って谷折りして側壁を立ち上げ、一点鎖線20を山折りしてフランジ部を外に開くように高密度圧縮成形して、有底略円筒脚2を形成する。
【0037】
屈曲部位にクラックを発生させずに圧縮成形するため、成形前に原料型紙6を40〜90%の吸水率になるよう吸水させ、この吸水した原料型紙6を、角部が所定の大きさのR状をしたフランジ付き有底略円筒断面を有する上型と下型とからなる金型にセットし、この金型により原料合紙6に約1ton/cmの圧力を加え、100〜250℃の温度に加熱し、2〜3%の吸水率になるまで加圧加熱脱水処理を行うことのできる圧縮成形機を使用して成形加工をした。
【0038】
ここで、圧縮成形による圧縮率は、吸水前の積層平板合紙の板厚を100%として、板厚が1mm〜3mm以下の場合には70〜80%、板厚が3mmを超え30mm以下の場合、又は3mm以下の板厚のものを複数枚重ねて3mm以上にした場合には50〜70%とすると、圧縮成形品の機械的性質が高い値を示すことを確認している。なお、複数枚重ねる場合、重ね面には接着剤を塗布するが、水を30%以上加えた接着剤を用いると、成形品の強度が1割弱低下する場合があることに留意する。成形品の機械的強度を重視する場合は原液接着剤を使用し、作業性を重視する場合は適宜薄めた接着剤を使用する。
【0039】
有底略円筒脚2の原料型紙6に設ける、壁面形成のための切欠き18の開き角は、壁面の枚数と、壁面の立ち上がり角度、及び原料型紙6の板厚に応じて、成形後に隣り合う壁面同士の間になるべく隙間が生じないよう(出来れば樽のように、締め上げたとき壁面の側端面同士がぴったり接触するよう)に角度を調節する。例えば、5枚の壁面からなり、壁面の立ち上がり角度83度を有する有底略円筒脚2を板厚4mmで成形する場合、原料型紙6の切欠き18の開き角は65度とすることで、隣り合う各壁面の側端面同士が互いに接触乃至近接している有底略円筒脚2が得られた。有底略円筒脚2は、成形後は壁面同士に多少の隙間が在っても、天板部材の貫通孔に貫入接合されることにより、互いの壁面同士がぴったり接触すれば良い。
【0040】
壁面の分割数は、有底略円筒脚2の耐荷重強度を高くするためには少ない程よい、しかし吸水させた場合でも、積層平板合紙は可塑性や伸延性は殆ど有さないので、無理な成形は成形品にクラックを生じる。成形に使用する原料型紙6の板厚により、肉厚1mm前後では3分割でも成形可能、又肉厚10mmを超える場合は8分割が必要となるが、本願発明の有底略円筒脚2は、板厚6mmの成形品において530kg以上の最大圧縮荷重強度を有することが確認されており、通常パレットで必要とされる脚の耐荷重強度を得るには、板厚4mm乃至6mmの積層平板合紙を用いるか、板厚2mmの積層平板合紙を2枚乃至3枚重ねて用いれば十分であり、その場合、壁面の分割枚数は5分割乃至6分割とするのが好ましい。
【0041】
有底略円筒脚2の壁面の立ち上げ角度は、垂直荷重強度のみ考えると90度とするのが良いが、パレット脚部はトラック輸送等の横揺れ荷重を受けるので、上が太くなるコップ状の略円筒形として、垂直加重強度を損なうこと無く、耐横揺れ加重強度を強化する。そのための有底略円筒脚2の壁面の立ち上げ角度は70度乃至89度が良い、70度以下だと耐垂直加重強度が低下する、逆に90度とするとフランジ取り付け部に横揺れ加重の応力が集中することになり、脚の根本部が屈折する場合がある。好ましくは78度乃至86度が採用される。
【0042】
なお、有底略円筒脚2の壁面の立ち上げ角度を90度とし、壁面が直立する完全な円筒脚とした場合であっても、円筒脚の外径と同じ内径を有する紙管を円筒脚に嵌合外装すれば十分な強度を得ることができる。部品点数の増加やコストが問題とならない場合はこの様な構成とすることも可能である。
【0043】
有底略円筒脚2の外向きフランジ折り曲げの切欠き17の深さは、使用する原料型紙6の厚みの応じて、厚い程切り込みを深くしないと壁面にクラックを生じる。しかし深すぎると壁面の強度が低下するため、クラックの生じない範囲で調整する。実験上、フランジ張出寸法の1.5倍乃至2倍の深さの切欠きが好ましく採用される。また切欠き本数は、5分割の壁面を有するフランジ付き有底略円筒脚2を成形する場合、1枚の壁面あたり、原料合紙の厚みが5mm以下の場合は1本、厚みが5mmを超える場合は2本切欠くのがよい。切欠きの深さが深い場合や切欠きの本数が多い場合、成形は容易になるが、成形後の強度が劣る。
【0044】
以上のようにして圧縮成形した有底略円筒脚2を、天板部材1に穿設した貫通孔に貫入させて、フランジの部分を天板部材1に水溶性の接着剤で接着して板紙立体成形パレットの実施の形態1とする。
【実施例1】
【0045】
有底略円筒脚2の耐荷重強度を確認するため、厚さ6mmの原料型紙6から、5分割された側壁を有する、底面の外径100mm、フランジ根本部外径120mm、高さ100mmの有底略円筒脚2を成形し、実施の形態1に対応する形態で、1個の脚部部材について、最大圧縮荷重試験を行った。また実施例1と同じ原料型紙6から、5角形の底面と平板の側壁を有する、5角筒の筒脚を同様に成形して比較例1とした。
【0046】
【表1】

【0047】
表1からわかるように、厚み6mmの原料型紙6から成形したは有底略円筒脚2は、1個で544kgの最大圧縮荷重強度を示した。一方、同一の原料型紙6から成形した、平板の側壁を有する5角筒の脚部材は、364kgの最大圧縮荷重強度しか示さなかった。
【実施例2】
【0048】
有底略円筒脚2を重ねた場合の耐荷重強度を確認するため、厚さ2mmの原料型紙6を2枚を重ね張り合わせて成形した有底略円筒脚2であって、実施例2では分割壁面の合わせ目は互いに重なることなく組合わされおり、比較例2では分割壁面の合わせ目が互いに重なるよう組合わされている、5分割された側壁を有する、底面の外径100mm、フランジ根本部外径120mm、高さ100mmの有底略円筒脚2を成形し、1個の脚部部材について、最大圧縮荷重試験を行った。
【0049】
【表2】

【0050】
表2からわかるように、原料型紙6の分割壁面の切れ目が重ならないよう組合わせて成形した実施例2では、1個で402kgの最大圧縮加重強度を示した。一方、分割壁面の切れ目が重なるよう成形した比較例2では、1個で358kgの最大圧縮荷重強度しか示さなかった。なお、2枚の吸水させた原料型紙6の張り合わせ面には体積比20%の水を加えた接着剤を塗布した、原液接着剤を塗布すれば機械強度は更に向上する。
[実施の形態2]
【0051】
図3は、この発明に係る実施の形態2の要部横断面図である。
【0052】
実施の形態2は、実施の形態1の天板部材1の側端部分が所定の長さだけ立ち上がり、側端部立ち上がり8を形成して成形されている。側端部立ち上がり8の内側に市販の強化段ボール5を、水溶性の接着剤で接合して使用する。
【0053】
この発明に係る実施の形態2では、市販の強化段ボール5を接着することで天板を強化天板とするが、接着する多層強化段ボール5は1層乃至多層の任意の強化段ボールを選ぶことで、運搬する荷物の重量に応じた強度を天板部材に持たせる工夫をしている。
【0054】
側端部立ち上がり8の高さは、接着する強化段ボール5の厚みより高くすることが望ましい、荷物の落下防止壁となり、また段ボール裁断面へのフォークリフトのツメの突き刺し防止壁となる。
【0055】
なお、天板部材1の荷物積載面の面積が小さくならないよう、側端部立ち上がり8の高さに応じて、天板部材1に使用する原料積層平板合紙の大きさを調整する。
[実施の形態3]
【0056】
図4は、この発明に係る実施の形態3の要部横断面図である。
【0057】
実施の形態1は、パレットとして最小限度の機能を有するものである、重量物の運搬に用いない場合、パレットそれ自体も軽量でハンドリングし易い事が求められる。しかし、木製のパレットが主に使用されている重量物の運搬に際しては、実施の形態3に示す荷物積載面の強度及び剛性の高いパレットが必要となる。
【0058】
そこで、この発明に係る実施の形態3では、天板部材1の上に波板状芯材4を接着し、さらに表面外郭部材3を波板状芯材4に接着することで、天板部材1を複層の強化天板部材として、重量物運搬においても実用上問題の無い強度を持たせる工夫をしている。
【0059】
芯材は天板部材1と表面外郭部材3の間隔を一定に規定できる、一定の高さを有する紙製のものであれば使用できる。
【0060】
図4では、高密度圧縮成形品からなる横断面が一方向に連続する同一の高さの波形からなる波板状芯材4を、向きを90度ずらして2枚接着している。波形状は接着面積を広くとるため、頂部が平らな角波形状がよい。また波板状芯材4を3枚以上を接着してもよい。
【0061】
2枚の波板状芯材4をずらす向きは90度に限らない、1度から90度の間で任意の角度にできる。本発明で用いる高密度圧縮成形法によれば、原料となる積層平板合紙を金型内に置く向きを調整することで、端材を出すことなく任意の向きに波を圧縮成形することができる。
【0062】
接着剤は少なくとも、天板部材1と波板状芯材4の波の頂部が接触する部分、波板状芯材4同士の波の頂部が接触する部分、そして波板状芯材4の波の頂部と表面外郭部材3が接触する部分に塗布する。接着剤の使用量より、接着剤を部分的に塗布する手間を省くことを重視する場合には、天板部材1の上面、波板状芯材4の両面及び表面外郭部材3の裏面、それぞれの全面に接着剤を塗布してもよい。
【0063】
表面外郭部材3の表面には、運搬する荷物の形状に合わせた凹凸や立体形状を、圧縮成形時に同時に形成することが可能である。運搬する荷物が球形や円筒形で転がり易い、又は荷物底面に凹凸が在り安定して置けないような場合、予めその形状に合わせた凹凸を表面外郭部材3の表面に成形して、転がりやガタつきの発生しない専用パレットの作成が可能である。
[実施の形態4]
【0064】
図7は、この発明に係る実施の形態4の斜視図である。
【0065】
実施の形態4は、高密度圧縮成形品からなる脚部強化板7を、すべての脚部部材の底面に水溶性の接着剤で接着して、脚部を強化安定するとともに、パレット全体に構造剛性を持たせている。
【0066】
さらに、パレット底面が平らになるので、パレットを多段積みした場合に、下になった荷物の表面に、有底略円筒脚2の跡が丸くついてしまうのを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】この発明に係る板紙立体成形パレットの実施の形態1の外観を示す斜視図である。
【図2】同実施の形態1の脚部部材と天板部材との接合状態を示す要部横断面図である。
【図3】同実施の形態2の要部横断面図である。
【図4】同実施の形態3の要部横断面図である。
【図5】同実施の形態1の有底略円筒脚の斜視図である。
【図6】同実施の形態1の有底略円筒脚原料型紙の一形態である。
【図7】同実施の形態4の外観を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0068】
1 天板部材
2 有底略円筒脚
3 表面外郭部材
4 波板状芯材
5 強化段ボール
6 原料型紙
7 脚部強化板
8 側端部立ち上がり
15 貫入孔
16 凹み
17 切欠き(小)
18 切欠き(大)
19 壁面谷折り位置(破線)
20 フランジ山折り位置(一点鎖線)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
紙製の平板状の天板部材と紙製の有底筒状の脚部部材とを有し、前記天板部材には複数の貫通孔が穿設されており、前記脚部部材は前記貫通孔に前記脚部部材の一部が貫入された状態で前記天板部材に水溶性接着剤にて接合されてなる板紙立体成形パレットであって、前記天板部材及び前記脚部部材は吸水させた積層平板合紙を原料として所定の形状に成形するために金型内で加圧加熱脱水処理を行った高密度圧縮成形品からなることを特徴とする板紙立体成形パレット。
【請求項2】
前記天板部材は、その側端部が立ち上がり側壁を形成して成形されており、かつ前記側壁の内側の平面部には強化段ボールを水溶性の接着剤にて接合していることを特徴とする請求項1に記載の板紙立体成形パレット。
【請求項3】
前記天板部材には、横断面が凹凸形状を有する板状の芯材と、該芯材の表面及び/又は裏面を覆う大きさを有する板状の外郭部材とを水溶性の接着剤にて接合していることを特徴とする請求項1に記載の板紙立体成形パレット。
【請求項4】
前記脚部部材は、円形の底面と該円形の底面から上方に立ち上がる横断面が円弧状である壁面と該壁面から水平に延出する外向きのフランジ部とを有した有底略円筒形状をしており、前記天板部材の上面と前記脚部部材のフランジ部を接合していることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一つに記載の板紙立体成形パレット。
【請求項5】
前記脚部部材は、壁面が円周方向に沿って3乃至8に分割された複数の分割壁面で構成されており、かつ隣り合う分割壁面の側端面同士は互いに接触乃至近接している脚部部材であることを特徴とする請求項4に記載の板紙立体成形パレット。
【請求項6】
前記脚部部材は、前記有底略円筒状をした前記脚部部材を複数重ね合わせると共に、重ね合わされた前記脚部部材の分割壁面の側端面は円周上で互いに重なることなく組合わされていることを特徴とする請求項5に記載の板紙立体成形パレット。
【請求項7】
前記天板部材の貫通孔の周囲に、前記フランジ部が埋没する前記フランジ部の厚みと同じ深さを有する凹部を設けたことを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一つに記載の板紙立体成形パレット。
【請求項8】
前記脚部部材の底面に、すべての脚部部材を連接することのできる大きさを有する底板を水溶性接着剤で接合したことを特徴とする請求項1乃至7のいずれか一つに記載の板紙立体成形パレット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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