説明

染料受容層用エマルジョン樹脂組成物

【課題】高印画濃度を維持でき、かつ光安定性、湿熱安定性、耐ブロッキング性、および走行性に優れた被熱転写シートの染料受容層を形成できる染料受容層用エマルジョン樹脂組成物の実現。
【解決手段】被熱転写シートの染料受容層用エマルジョン樹脂組成物であって、芳香族環を有する単量体を含むコア用単量体成分(C)が重合したコア部と、芳香族環を有する単量体を含むシェル用単量体成分(S)が重合したシェル部とからなるコアシェル型樹脂を含有し、前記シェル部を構成する重合体(S)のガラス転移温度が、前記コア部を構成する重合体(C)のガラス転移温度よりも高く、かつ、前記コア部とシェル部の質量比が、コア部:シェル部=50:50〜90:10であることを特徴とする染料受容層用エマルジョン樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、染料受容層用エマルジョン樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ビデオ装置等に入力された画像情報などを印画紙等の被熱転写シート上に現像する方法としては、昇華性染料や熱溶融染料を用いる熱転写法が知られている。
熱転写法では、昇華性染料や熱溶融染料を有する染料層が形成された熱転写シート(インクリボンなど)と、染料を受容する染料受容層が形成された被熱転写シート(例えば印画紙など)とを、染料層と染料受容層とが対向するように重ね合わせ、サーマルヘッド等により画像信号に応じて点状に熱を印加することで、染料層の染料が昇華または溶融して被熱転写シートの染料受容層に移行し、該染料受容層に画像が形成される。
【0003】
被熱転写シートは、基材と、該基材上に形成された染料受容層とを備える。染料受容層は、熱転写シートから移行する染料の画像を受容し、この受容により形成された画像を維持する層である。
染料受容層は、例えば塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体樹脂や、可塑剤を添加したセルロースアセテートブチレート等の樹脂を溶剤に溶解したワニスから形成される。
しかし、これらのワニスには有機溶剤が含まれるため、環境への負荷が懸念されていた。そのため、環境への負荷を配慮した染料受容層として、水系のコーティング材より形成される染料受容層が望まれている。
【0004】
水系のコーティング材としては、例えば特許文献1には、架橋性重合体粒子を含むエマルジョンを含有する熱転写記録用樹脂組成物が開示されている。
【0005】
ところで、染料受容層を形成するコーティング材には、染料の転写感度や画像の光安定性の向上を目的として可塑剤が添加されたり、湿熱安定性の向上を目的としてポリイソシアネート等が添加されたり、熱転写シートの染料層に対する剥離性(走行性)の向上を目的としてシリコーンオイルなどを添加されたりする場合がある。なお、光安定性とは、画像が転写された被熱転写シートに、光が照射されても画像が劣化しにくく、所定の画像濃度や鮮映性等を維持できる性能のことである。一方、湿熱安定性とは、画像が転写された被熱転写シートが湿熱環境下に置かれても画像が劣化しにくく、所定の画像濃度や色合等を維持できる性能のことである。
このように、被熱転写シートは光安定性、湿熱安定性、走行性の向上が求められる場合が多い。これらに加えて、被熱転写シートには、通常、高印画濃度や耐ブロッキング性が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−338813号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載のような水系のコーティング材により形成された染料受容層を備えた被熱転写シートは、環境への負荷が小さいものの、被熱転写シートに求められる性能、すなわち高印画濃度、光安定性、湿熱安定性、耐ブロッキング性、および走行性の全てを満足することが困難であった。
【0008】
本発明は上記事情を鑑みてなされたもので、高印画濃度を維持でき、かつ光安定性、湿熱安定性、耐ブロッキング性、および走行性に優れた被熱転写シートの染料受容層を形成できる染料受容層用エマルジョン樹脂組成物の実現を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは鋭意検討した結果、染料受容層を構成する樹脂(重合体)のガラス転移温度(Tg)が低くなるほど、高印画濃度を維持でき、かつ光安定性が向上する傾向にある一方、湿熱安定性、耐ブロッキング性および走行性が低下する傾向にあり、さらにこのような傾向はTgを高くするほど、逆転することを見出した。そこで、染料受容層用エマルジョン樹脂組成物に、コア部としてTgの低い重合体と、シェル部としてTgの高い重合体とからなるコアシェル構造の樹脂を含有させることで、被熱転写シートに求められる性能、すなわち高印画濃度、光安定性、湿熱安定性、耐ブロッキング性、および走行性の全てを満足した染料受容層を形成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明の染料受容層用エマルジョン樹脂組成物は、被熱転写シートの染料受容層用エマルジョン樹脂組成物であって、芳香族環を有する単量体を含むコア用単量体成分(C)が重合したコア部と、芳香族環を有する単量体を含むシェル用単量体成分(S)が重合したシェル部とからなるコアシェル型樹脂を含有し、前記シェル部を構成する重合体(S)のガラス転移温度が、前記コア部を構成する重合体(C)のガラス転移温度よりも高く、かつ、前記コア部とシェル部の質量比が、コア部:シェル部=50:50〜90:10であることを特徴とする。
【0011】
ここで、前記コア部を構成する重合体(C)のガラス転移温度が−10〜55℃であり、前記シェル部を構成する重合体(S)のガラス転移温度が60〜90℃であることが好ましい。
また、前記コアシェル型樹脂は、コア用単量体成分(C)とシェル用単量体成分(S)の合計100質量%中、芳香族環を有する単量体を60〜85質量%用いてなることが好ましい。
さらに、前記コア用単量体成分(C)は、当該コア用単量体成分(C)100質量%中、多官能性単量体を0.01〜3.00質量%含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、高印画濃度を維持でき、かつ光安定性、湿熱安定性、耐ブロッキング性、および走行性に優れた被熱転写シートの染料受容層を形成できる染料受容層用エマルジョン樹脂組成物が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の染料受容層用エマルジョン樹脂組成物(以下、単に「樹脂組成物」という場合がある。)は、コア部と、該コア部を被覆するシェル部とからなるコアシェル型樹脂を含有する。
なお、本発明の樹脂組成物より形成される染料受容層は、インクリボンなどの熱転写シートに形成された染料層が選択的に転写され、転写された染料の画像を受容し、この受容により形成された画像を維持する層である。
【0014】
コア部は、芳香族環を有する単量体を含むコア用単量体成分(C)(以下、「(C)成分」という場合がある。)が重合した重合体(C)より構成される。
芳香族環を有する単量体としては、例えばスチレン、ベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、フェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、ビニルトルエン、p−tert−ブチルスチレン、ビニル安息香酸、α−メチルスチレン、p−クロロスチレン、ビニルナフタレンなどが挙げられる。中でも、安価であり、製造コストを軽減できる観点からスチレン、ベンジル(メタ)アクリレートが好ましい。
なお、本発明において「(メタ)アクリレート」とは、メタクリレートとアクリレートの両方を示すものとする。
【0015】
(C)成分には、多官能性単量体が含まれるのが好ましい。多官能性単量体は架橋成分として主に用いられる。多官能性単量体としては、例えば1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールピバリン酸エステルジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0016】
多官能性単量体の含有量は、(C)成分100質量%中、0.01〜3.00質量%が好ましい。多官能性単量体の含有量が上記範囲内であれば、適度に架橋したコア部が得られ、コア部とシェル部の境界がよりはっきりとした構造のコアシェル型樹脂の調製がより容易になる。
【0017】
(C)成分は、上述した芳香族環を有する単量体や多官能性単量体以外の、その他の単量体や、該その他の単量体と共重合可能な単量体を含有してもよい。
その他の単量体としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリプロピレンエチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリプロピレンエチレングリコール(メタ)アクリレート、ブトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシエチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸等が挙げられる。
その他の単量体と共重合可能な単量体としては、酢酸ビニル、マレイン酸モノエステル、イタコン酸モノエステル、クロトン酸モノエステル、フマル酸モノエステル等が挙げられる。
【0018】
シェル部は、芳香族環を有する単量体を含むシェル用単量体成分(S)(以下、「(S)成分」という場合がある。)が重合した重合体(S)より構成される。
芳香族環を有する単量体としては、コア部の説明において先に例示した芳香族環を有する単量体が挙げられる。
【0019】
(S)成分は、上述した芳香族環を有する単量体以外の、その他の単量体や、該その他の単量体と共重合可能な単量体を含有してもよい。
その他の単量体や、該その他の単量体と共重合可能な単量体としては、コア部の説明において先に例示したその他の単量体や、該その他の単量体と共重合可能な単量体が挙げられる。
【0020】
また、(S)成分は、反応性シリコーンを含有してもよい。
なお、反応性シリコーンとは、「分子内に二重結合やメルカプト基を有し、ラジカル反応が可能なシリコーン」、または「水酸基、アミノ基、カルボキシル基、エポキシ基、水酸基等の官能基を有し、例えばイソシアネート基含有(メタ)アクリレート単量体、若しくは共重合体との付加反応が可能なシリコーン」のことである。
【0021】
反応性シリコーンとしては、例えばメルカプト変性ポリオルガノシロキサン、メタクリロイル変性ポリオルガノシロキサン、アミノ変性ポリオルガノシロキサン、エポキシ変性ポリオルガノシロキサン、アルコール変性ポリオルガノシロキサン、カルボキシ変性オルガノシロキサンなどが挙げられる。
また、このような反応性シリコーンとしては、市販のものを用いてもよく、例えば信越シリコーン社製の「X22−167B」、「X22−164」、「X22−162C」、「KF−868」、「KF−105」、「KF−2004」、「KF−6001」;チッソ社製の「FM0725」、「FM−0425」、「FM−7725」、「FM−3325」などが挙げられる。
【0022】
反応性シリコーンの含有量は、(S)成分100質量%中、0.1〜2.0質量%が好ましく、0.5〜1.0質量%がより好ましい。反応性シリコーンの含有量が0.1質量%以上であれば得られる染料受容層に剥離性を付与できる。従って、熱転写シートの染料層と被熱転写シートの染料受容層とが対向するように重ねて画像を転写した後、被熱転写シートが熱転写シートから円滑に剥がれるので、被熱転写シートの走行性がより向上する。一方、反応性シリコーンの含有量が2.0質量%以下であれば、はじきが抑制され、染料を転写して画像を形成した後に、画像の保護を目的として必要に応じて染料受容層上にオーバーコート層などの保護層を設ける場合、該保護層の付着性を維持できる。
【0023】
従来、染料受容層の剥離性が悪いと、熱転写シートから被熱転写シートが円滑に剥がれにくく(すなわち、走行性に劣る。)、剥がれる際に印画音と呼ばれる音がして、被熱転写シートに白抜けや熱転写シートの融着痕等の画像欠陥が生じる場合があった。なお、被熱転写シートの画像欠陥の有無は走行性の指標となる。
しかし、(S)成分に反応性シリコーンを含有させれば、剥離性が付与されるので、画像の転写の際に印画音がより聞こえにくくなり、画像欠陥が生じにくくなる。
【0024】
コアシェル型樹脂は、公知の方法にて調製できる。具体的には反応器に、(C)成分、乳化剤、重合開始剤、水等を投入し、攪拌しながら50〜100℃で1〜5時間保持して乳化重合を行い(第一の乳化重合)、コア部を形成する。続いて、重合開始剤を加え、(S)成分を0〜2時間かけて滴下し、攪拌しながら50〜100℃で1〜5時間保持して乳化重合を行い(第二の乳化重合)、コア部の表面がシェル部で被覆されたコアシェル型樹脂が、水中に分散した分散液を得る。
第一の乳化重合においては、(C)成分、乳化剤、重合開始剤の一部を反応器に投入して50〜100℃に保持して乳化重合を開始させ、乳化重合の開始直後に残りの(C)成分、乳化剤、重合開始剤を0.5〜2時間かけて滴下し、さらに50〜100℃で1〜5時間保持して乳化重合を行ってコア部を形成してもよい。
【0025】
乳化剤としては、アニオン界面活性剤が好ましく、例えば脂肪酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、アルキルナフタレンスルホン酸塩、ジアルキルスルホコハク酸エステル塩、アルキルリン酸エステル塩、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩などが挙げられる。また、市販のものを用いてもよく、例えば日本乳化剤社製の「ニューコール291−M」、「ニューコール2320−SN」、「ニューコール714−SN」等が挙げられる。
重合開始剤としては、例えば過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過酸化水素、4,4’−アゾビス(4−シアノ吉草酸)などが挙げられる。
【0026】
このようにして得られるコアシェル型樹脂は、シェル部を構成する重合体(S)のガラス転移温度(Tg)が、コア部を構成する重合体(C)のTgよりも高い。
重合体(C)は、Tgが−10〜55℃であることが好ましく、より好ましくは20〜55℃である。重合体(C)のTgが−10℃以上であれば、湿熱安定性、耐ブロッキング性、走行性を維持できる。一方、重合体(C)のTgが50℃以下であれば、高印画濃度および光安定性を向上できる。
【0027】
一方、重合体(S)は、Tgが60〜90℃であることが好ましく、より好ましくは60〜80℃である。重合体(S)のTgが60℃以上であれば、染料受容層の表面に転写される染料が染料受容層の内部にまで拡散し、その拡散された染料が熱的環境で染料受容層の表面へ再拡散して画像がにじむのを抑制できるので、湿熱安定性に優れるようになる。また、耐ブロッキング性、走行性を向上させることもできる。一方、重合体(S)のTgが90℃以下であれば、高印画濃度および光安定性を維持できると共に、造膜性に優れるようになるので、受容により染料受容層上に形成された画像の質を良好に維持できる。
【0028】
重合体(C)および重合体(S)のTgは、JIS K7121に準拠して測定される値である。具体的には、まず測定する試料を、示差走査熱量計(島津製作所社製、「DSC−60A」)を用い、予測される試料のTg(予測温度)より約50℃高い温度で10分加熱した後、予測温度より50℃低い温度まで冷却して前処理する。その後、窒素雰囲気下において、昇温速度10℃/分にて昇温して吸熱開始温度を測定し、これをTgとする。
なお、本発明において、重合体(C)および重合体(S)のTgは、(C)成分および(S)成分を用いて個々に重合して得た重合体を、上述した方法によりそれぞれ単独で測定した値であるが、コアシェル型樹脂としたときのコア部およびシェル部のTgと、単独で測定した重合体(C)および重合体(S)のTgとは概ね一致する。
【0029】
本発明者らは、染料受容層を構成する樹脂(重合体)のTgが低くなると、高印画濃度を維持でき、かつ光安定性が向上する傾向にあることを見出した。これは、Tgが低くなると、重合体の運動性が高まり、染料の拡散が容易となるので印画濃度が高くなるものと考えられる。
ところで、染料受容層は、構成する重合体のTgが低くなると、高印画濃度を維持でき、かつ光安定性を向上できるが、その一方で湿熱安定性、耐ブロッキング性、走行性が低下する傾向にある。これはTgが低くなると、耐湿熱性が低下し、熱転写シートとの熱融着が起こりやすくなることによるものと考えられる。このような傾向は重合体のTgが高くなると逆転する。
【0030】
本発明の樹脂組成物は、Tgの低い重合体(C)で構成されるコア部と、該コア部よりもTgの高い重合体(S)で構成されるシェル部とからなるコアシェル型樹脂を含有する。コア部は高印画濃度を維持し、光安定性を向上させる効果を発現でき、一方、シェル部は湿熱安定性、耐ブロッキング性、および走行性を向上させる効果を発現できる。
本発明の樹脂組成物より形成される染料受容層は、コア部によりシェル部の短所(すなわち、印画濃度や光安定性の低下)を補い、かつシェル部によりコア部の短所(すなわち、湿熱安定性、耐ブロッキング性、走行性の低下)を補いつつ、上述したそれぞれの効果を発現できる。従って、本発明であれば染料受容層に求められる高印画濃度、光安定性、湿熱安定性、耐ブロッキング性、走行性の全てを十分に満足できる。
【0031】
コアシェル型樹脂は、コア部とシェル部の質量比がコア部:シェル部=50:50〜90:10である。コア部とシェル部の質量比が上記範囲内であれば、高印画濃度の維持および光安定性の向上(すなわち、コア部の効果)と、湿熱安定性、耐ブロッキング性、走行性の向上(すなわち、シェル部の効果)を両立できる。また、コア部の質量比が50質量部以上であれば、十分な印画濃度が得られ、かつ光安定性が向上する。一方、コア部の質量比が90質量部以下であれば、湿熱安定性、耐ブロッキング性、走行性が向上する。
【0032】
コアシェル型樹脂は、(C)成分と(S)成分の合計100質量%中、芳香族環を有する単量体を60〜85質量%用いて調製されることが好ましく、より好ましくは60〜80質量%である。芳香族環を有する単量体の含有量が60質量%以上であれば、十分な印画濃度が得られる。ただし、含有量が必要以上に多くなると、光安定性を維持しにくくなる。従って、含有量の上限は85質量%以下が好ましい。
【0033】
また、コアシェル型樹脂は、コア部とシェル部の架橋度が異なることが好ましい。具体的には、コア部の架橋度がシェル部の架橋度よりも高いことが好ましく、(C)成分に上述した多官能性単量体を含有させることで容易に達成できる。(C)成分中の含有量が上記範囲内となるように多官能性単量体を含有させることで、コア部が適度に架橋する。コア部が適度に架橋することで、その表面にシェル部を形成する際に、(S)成分がコア部の内部に浸透しにくくなるので、コア部とシェル部の境界がよりはっきりとしたコアシェル構造のコアシェル型樹脂が得られる。
【0034】
さらに、コアシェル型樹脂は、コア部とシェル部の極性が異なることが好ましい。コア部とシェル部の極性としては、両者の極性が異なれば特に限定されず、例えばコア部が親油性でシェル部が親水性、コア部が親水性でシェル部が親油性などの組み合わせが挙げられる。
コア部またはシェル部を親油性にするためには、例えば(C)成分または(S)成分に2−エチルヘキシル(メタ)アクリレートやラウリル(メタ)アクリレートを配合すればよい。
一方、コア部またはシェル部を親水性にするためには、例えば(C)成分または(S)成分に(メタ)アクリル酸や2−ヒドロキシ(メタ)アクリレートを配合すればよい。
【0035】
本発明の樹脂組成物は上述したコアシェル型樹脂を含有するが、コアシェル型樹脂が水中に分散した分散液をそのまま樹脂組成物として用いることができる。その際、分散液に水を加えて固形分濃度を調整してもよい。樹脂組成物中のコアシェル型樹脂の含有量(分散液をそのまま樹脂組成物として用いる場合は、分散液の固形分)は、20〜60質量%が好ましく、30〜50質量%がより好ましい。
【0036】
<染料受容層>
本発明の樹脂組成物を用いて染料受容層を形成する際には、乾燥後の膜厚が1〜20μmになるように樹脂組成物を塗工するのが好ましく、より好ましくは2〜10μmである。
また、必要に応じて樹脂組成物にシリコーン化合物を加えたものを染料受容層塗工液とし、該染料受容層塗工液を用いて染料受容層を形成してもよい。なお、シリコーン化合物を添加する場合、(S)成分には反応性シリコーンが含有されていてもよいし、含有されていなくてもよい。
【0037】
シリコーン化合物は、反応性シリコーンと、非反応性シリコーンに大別できる。
反応性シリコーンとしては、(S)成分の説明において先に例示した反応性シリコーンが挙げられる。
非反応性シリコーンとしては、例えばジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイル、ポリエーテル変性シリコーンオイル、アルキル変性シリコーンオイル、フッ素変性シリコーンオイルなどが挙げられる。
また、このような非反応性シリコーンとしては、市販のものを用いてもよく、例えば信越シリコーン社製の「KM−768」、「KM−3951」、「X−52−170」などが挙げられる。
【0038】
染料受容層塗工液中のシリコーン化合物の含有量は、コアシェル型樹脂100質量部に対して0.1〜2.0質量部が好ましく、0.5〜1.0質量部がより好ましい。シリコーン化合物の含有量が0.1質量部以上であれば得られる染料受容層に剥離性を付与できる。従って、熱転写シートの染料層と被熱転写シートの染料受容層とが対向するように重ねて画像を転写した後、被熱転写シートが熱転写シートから円滑に剥がれるので、被熱転写シートの走行性がより向上する。一方、シリコーン化合物の含有量が2.0質量部以下であれば、はじきが抑制され、染料を転写して画像を形成した後に、画像の保護を目的として必要に応じて染料受容層上にオーバーコート層などの保護層を設ける場合、該保護層の付着性を維持できる。
【0039】
また、本発明の効果を損なわない範囲内で、必要に応じて樹脂組成物に添加剤を加えたものを染料受容層塗工液として用いてもよい。
添加剤としては、例えばレベリング剤、消泡剤、可塑剤などが挙げられる。
【0040】
以上説明した本発明の樹脂組成物は、Tgの低い重合体(C)で構成されるコア部と、該コア部よりもTgの高い重合体(S)で構成されるシェル部とからなるコアシェル型樹脂を含有する。染料受容層を構成する重合体のTgが低くなるほど、高印画濃度を維持でき、かつ光安定性が向上する傾向にある一方、湿熱安定性、耐ブロッキング性および走行性が低下する傾向にあり、さらにこのような傾向はTgを高くするほど逆転する。
【0041】
本発明の樹脂組成物より得られる染料受容層は、Tgの低いコア部とTgの高いシェル部とからなるコアシェル型樹脂を主成分として形成される。従って、染料受容層は、コア部によりシェル部の短所(すなわち、印画濃度や光安定性の低下)を補い、かつシェル部によりコア部の短所(すなわち、湿熱安定性、耐ブロッキング性、走行性の低下)を補いつつ、上述したそれぞれの効果を発現できる。
従って、本発明によれば、被熱転写シートに求められる性能、すなわち高印画濃度の維持、並びに光安定性、湿熱安定性、耐ブロッキング性および走行性の向上を満足できる染料受容層を形成できる。
【0042】
また、本発明の樹脂組成物は有機溶剤を使用する必要がないので、環境への負荷が小さい。
さらに、反応性シリコーンを(S)成分に含有させてシェル部を形成したり、樹脂組成物にシリコーン化合物を添加したりすれば、染料受容層に剥離性を付与できるので、走行性がより向上する。
【実施例】
【0043】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
なお、実施例および比較例中の「部」は質量部を示す。
【0044】
[実施例1]
<染料受容層用エマルジョン樹脂組成物の調製>
フラスコに、予めスチレン11.6部、ベンジルアクリレート2.0部、ブチルアクリレート6.4部、1,6−ヘキサンジオールジメタクリレート0.02部、純水94.4部、過硫酸カリウム0.1部、アニオン界面活性剤(日本乳化剤社製、「ニューコール714−SN」)1.0部を仕込み、さらに窒素を10分間供給してバブリングを行い、反応系内を脱気した。
別途、スチレン46.4部、ベンジルアクリレート8.0部、ブチルアクリレート25.6部、1,6−ヘキサンジオールジメタクリレート0.08部、純水120.0部、過硫酸カリウム0.2部、アニオン界面活性剤(日本乳化剤社製、「ニューコール714−SN」)2.0部を混合し、撹拌機によりプレエマルジョン化させて、滴下用プレエマルジョンを調製した。
また、スチレン25.7部、ベンジルアクリレート16.3部、2−ヒドロキシエチルメタクリレート0.9部を混合し、(S)成分を調製した。
【0045】
フラスコ内の温度が80℃になるまで加温し、80℃に到達した時点でその温度を10分間維持しながら、先に調製した滴下用プレエマルジョンを2時間かけてフラスコ内に滴下した。その後、フラスコ内の温度を80℃に維持しながら2時間攪拌して乳化重合を行い、コア部を形成した。
ついで、フラスコ内に過硫酸カリウム0.1部を添加し、さらにフラスコ内の温度を80℃に維持しながら、先に調製した(S)成分を1時間かけてフラスコ内に滴下した。その後、フラスコ内の温度を80℃に維持しながら2時間攪拌して乳化重合を行い、コア部の表面がシェル部で被覆されたコアシェル型樹脂が水中に分散した分散液(固形分40質量%)を得た。得られた分散液を染料受容層用エマルジョン樹脂組成物として用いた。
【0046】
コア部の形成に用いた単量体の種類とその配合量を(C)成分として表1に示す。また、(S)成分中の単量体の種類とその配合量、コア部を構成する重合体(C)とシェル部を構成する重合体(S)のTg、(C)成分と(S)成分の合計100質量%中の芳香族環を有する単量体の量(質量%)、およびコア部とシェル部の質量比を表1に示す。なお、重合体(C)と重合体(S)のTgは、以下のようにして測定した。
(C)成分を重合して得た重合体をJIS K7121に準拠し、示差走査熱量計(島津製作所社製、「DSC−60A」)を用い、予測される試料のTg(予測温度)より約50℃高い温度で10分加熱した後、予測温度より50℃低い温度まで冷却して前処理した。その後、窒素雰囲気下において、昇温速度10℃/分にて昇温して吸熱開始温度を測定し、その測定値を重合体(C)のTgとした。重合体(C)のTgは、コア部のTgに相当する。
(S)成分を重合して得た重合体についても、同様にして測定し、その測定値を重合体(S)のTgとした。
なお、重合体(C)のTgは、コア部のTgに相当し、重合体(S)のTgは、シェル部のTgに相当する。
【0047】
<被熱転写シートの作製>
得られた染料受容層用エマルジョン樹脂組成物の固形分(すなわち、コアシェル型樹脂の質量)100部に対し、非反応性シリコーン(信越シリコーン社製、「KM−768」)1部を添加して染料受容層塗工液を作成した。
厚さ100μmの発泡PETフィルムに、乾燥膜厚が5〜10μmとなるようにワイヤーバーで染料受容層塗工液を塗工し、100℃で3分間乾燥させ、被熱転写シートを作製した。
【0048】
<評価>
(印画濃度の測定)
得られた被熱転写シートに対し、熱転写プリンタ(ソニー社製、「デジタルフォトプリンター DPP−EP30」)を使用し、付属のインキリボンを用いて16階調のグレースケールを印刷し、最高濃度をマクベス濃度計(GretagMacbeth社製、「SpectroEye UV」)にて測定し、以下の評価基準にて評価した。結果を表1に示す。
○:最高濃度が1.60以上。
△:最高濃度が1.40以上、1.60未満。
×:最高濃度が1.00以上、1.40未満。
××:最高濃度が1.00未満。
【0049】
(光安定性の評価)
16階調のグレースケールを印刷し、キセノンランプ(スガ試験機社製、「テーブルサン XT750L」)を用いて、照度20000lx、照射時間72時間の条件で耐候試験を行った。照射前後の色差をマクベス濃度計(GretagMacbeth社製、「SpectroEye UV」)にて測定し、以下の評価基準にて評価した。結果を表1に示す。
○:ΔE≦1.00。
△:1.00<ΔE≦2.00。
×:2.00<ΔE。
【0050】
(湿熱安定性の評価)
得られた被熱転写シートに対し、熱転写プリンタ(ソニー社製、「デジタルフォトプリンター DPP−EP30」)を使用し、付属のインキリボンを用いて、長さ10mm、幅0.15mm、間隔0.5mmの10本の細線パターンを印刷し、湿度80%RH、温度60℃の暗室に48時間静置した。静置後の細線パターンを目視および顕微鏡(倍率50倍)にて観察し、以下の評価基準にて評価した。結果を表1に示す。
○:顕微鏡で観察しても細線パターンに滲みがなく、輪郭がシャープである。
△:目視観察では異常はないが、顕微鏡で観察すると細線パターンの輪郭がシャープではない。
×:目視観察でも、細線パターンの輪郭がシャープではない。
××:目視観察でも、細線パターン全体が滲み、ぼけている。
【0051】
(耐ブロッキング性の評価)
被熱転写シートを2枚重ね合わせ、荷重0.75kg/cmを印加した状態で、湿度50%RH、温度60℃の雰囲気中に24時間放置した。放置後、被熱転写シート同士を剥離したときの耐ブロッキング性を以下の評価基準にて評価した。結果を表1に示す。
○:ブロッキングすることなく容易に剥離でき、かつ剥離痕がない。
△:軽い力で剥離でき、かつ剥離痕がない。
×:剥離できるが、剥離痕がある。
××:剥離できない。
【0052】
(走行性の評価)
得られた被熱転写シートに対し、熱転写プリンタ(ソニー社製、「デジタルフォトプリンター DPP−EP30」)を使用し、付属のインキリボンを用いて、はがきサイズの黒ベタ(画像)を印刷し、下記の評価基準にて評価した。結果を表1に示す。
○:画像に全く欠陥がない。
△:画像に僅かに点状の白抜けがある。
×:画像に白抜け、またはインキリボンとの融着痕がある。
××:インキリボンが融着し、印刷できない。
【0053】
[実施例2〜7、比較例1〜5]
(C)成分中の単量体の種類とその配合量、(S)成分中の単量体の種類とその配合量、およびコア部とシェル部を形成する際に用いた重合開始剤、乳化剤等の添加量を表1、2に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして染料受容層用エマルジョン樹脂組成物を調製し、被熱転写シートを作製して各評価を行った。結果を表1、2に示す。
なお、各実施例および比較例においては、フラスコ内に予め仕込む各単量体と、滴下用プレエマルジョンの調製に用いる各単量体の質量比が1:4になるように、(C)成分中の単量体を配分してコア部を形成した。
【0054】
【表1】

【0055】
【表2】

【0056】
表1、2中の略号は、下記化合物を示す。
「St」:スチレン、
「BzA」:ベンジルアクリレート、
「1,6−HDM」:1,6−ヘキサンジオールメタクリレート、
「BA」:n−ブチルアクリレート、
「MMA」:メチルメタクリレート、
「HEMA」:2−ヒドロキシエチルメタクリレート。
【0057】
表1から明らかなように、各実施例で得られた被熱転写シートは、高印画濃度を維持でき、かつ光安定性、湿熱安定性、耐ブロッキング性および走行性に優れていた。
中でも、重合体(C)のTgが19℃、重合体(S)のTgが62℃であり、かつ(C)成分と(S)成分の合計100質量%中の芳香族環を有する単量体の量が78質量%であるコアシェル型樹脂を用いた実施例1の被熱転写シートは、他の実施例に比べて全ての評価が特に良好であった。
【0058】
一方、表2から明らかなように、比較例1で得られた被熱転写シートは、コア部のみの樹脂を用いて作製したので、シェル部の効果が得られず、湿熱安定性、耐ブロッキング性、走行性が低下した。
比較例2で得られた被熱転写シートは、シェル部の割合が多いコアシェル型樹脂を用いて作製したので、コア部の効果が十分に得られず、印画濃度および光安定性が低下した。
比較例3で得られた被熱転写シートは、コア部の割合が多いコアシェル型樹脂を用いて作製したので、シェル部の効果が十分に得られず、湿熱安定性、耐ブロッキング性、走行性が低下した。
比較例4で得られた被熱転写シートは、芳香族環を有する単量体を使用せずに形成したコア部とシェル部からなるコアシェル型樹脂を用いて作製したので、印画濃度が著しく低下した。
比較例5で得られた被熱転写シートは、重合体(S)のTgが重合体(C)のTgよりも低い、コア部とシェル部からなるコアシェル型樹脂を用いて作製したので、コア部とシェル部の効果が十分に得られず、光安定性、湿熱安定性、耐ブロッキング性、走行性の全てが低下した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被熱転写シートの染料受容層用エマルジョン樹脂組成物であって、
芳香族環を有する単量体を含むコア用単量体成分(C)が重合したコア部と、芳香族環を有する単量体を含むシェル用単量体成分(S)が重合したシェル部とからなるコアシェル型樹脂を含有し、
前記シェル部を構成する重合体(S)のガラス転移温度が、前記コア部を構成する重合体(C)のガラス転移温度よりも高く、
かつ、前記コア部とシェル部の質量比が、コア部:シェル部=50:50〜90:10であることを特徴とする染料受容層用エマルジョン樹脂組成物。
【請求項2】
前記コア部を構成する重合体(C)のガラス転移温度が−10〜55℃であり、前記シェル部を構成する重合体(S)のガラス転移温度が60〜90℃であることを特徴とする請求項1に記載の染料受容層用エマルジョン樹脂組成物。
【請求項3】
前記コアシェル型樹脂は、コア用単量体成分(C)とシェル用単量体成分(S)の合計100質量%中、芳香族環を有する単量体を60〜85質量%用いてなることを特徴とする請求項1または2に記載の染料受容層用エマルジョン樹脂組成物。
【請求項4】
前記コア用単量体成分(C)は、当該コア用単量体成分(C)100質量%中、多官能性単量体を0.01〜3.00質量%含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の染料受容層用エマルジョン樹脂組成物。