説明

染色体上のlysR遺伝子が不活性化されたL−トレオニン生成微生物、これを製造する方法、及び該微生物を利用したL−トレオニンの製造方法

本発明は、L−トレオニンを生産でき、染色体上のlysR遺伝子が不活性化された微生物、これを製造する方法、及び該微生物を利用してL−トレオニンを製造する方法を提供する。本発明の微生物は、L−トレオニンを高収率で生産する方法に使われうる。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、染色体上のlysR遺伝子が不活性化された微生物、これを製造する方法、及び該微生物を利用したL−トレオニンを生産する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
L−トレオニンは、必須アミノ酸の一種であり、飼料及び食品添加剤として広く使われており、医薬用として輸液剤、医薬品の合成原料にも使われる。L−トレオニンは、発酵法で製造するが、一般的に、大腸菌、コリネ型細菌、セラチア属細菌及びプロビデンシア属菌株の野生株から誘導された人工変異株を使用している。例えば、日本特許公告第10037/81号(特許文献1)には、エシェリキア属に属し、ジアミノピメリン酸及びメチオニンを要求し、その生合成系がトレオニンのフィードバック抑制作用を阻止する微生物を利用する方法が記述されている。日本特許公開第224684/83号(特許文献2)には、ブレビバクテリウム属に属し、S−(2−アミノエチル)−L−システイン及びα−アミノ−β−ヒドロキシバレリアン酸に対する耐性を有し、L−イソロイシン及びL−リシン栄養要求性微生物を利用する方法が記述されている。大韓民国特許公開第8022/87号(特許文献3)には、エシェリキア属に属し、ジアミノピメリン酸、メチオニン要求性、α−アミノ−β−ヒドロキシバレリアン酸耐性を有し、リファンピシン、リシン、メチオニン、アスパラギン酸、及びホモセリンのうち、少なくとも1つの物質に対する耐性を有するか、または低下したL−トレオニン分解能を持つ微生物を利用した方法が記述されている。日本特許公開第219582/90号(特許文献4)には、プロビデンシア属に属し、α−アミノ−β−ヒドロキシバレリアン酸、L−エチオニン、チアイソロイシン、オキシチアミン、及びスルファグアニジン耐性を有し、L−ロイシン要求性、L−イソロイシン漏出(leaky)型要求性微生物を利用する方法が記述されている。
【0003】
しかし、前記公知の方法は、L−トレオニン生産性が高くないか、またはジアミノピメリン酸要求性またはイソロイシン要求性のような高価の物質を添加しなければならないという短所がある。すなわち、ジアミノピメリン酸要求性菌株を使用する場合、ジアミノピメリン酸を副発酵しなければならないので、コスト負担の要因が大きく、イソロイシン要求性菌株を使用する場合にも、イソロイシンを発酵培地に添加する必要があるが、この場合、イソロイシンが高価であるため、コスト上昇の要因となる。
【0004】
このような問題点を克服するために本発明者らは、イソロイシン漏出型要求性菌株を使用して、発酵培地内にイソロイシンを添加する必要がなく、リシン合成の中間媒体であるジアミノピメリン酸要求性菌株を使用せずとも、従来の菌株より発酵法によって高濃度のL−トレオニンを生成できる菌株として、L−メチオニン類似体に対する耐性を有し、メチオニン栄養要求性、L−トレオニン類似体に対する耐性、イソロイシン漏出型要求性、L−リシン類似体に対する耐性、及びα−アミノ酪酸耐性を有し、L−トレオニンを生産できるエシェリキアコリ(大腸菌)に属する微生物を開発し、この微生物及びこれを利用したL−トレオニンの製造方法を特許されている(韓国特許公告第92−8365号(特許文献5))。
【0005】
従来lysR遺伝子によってコーディングされるLysR蛋白質は、細胞内のリシン濃度が高い場合に、lysC及びlysA遺伝子の発現を抑制し、リシン濃度が低い場合に、lysC及びlysA遺伝子の発現を増加させると知られている(Beacham, I. R., D. Hass, and E. Yagil. 1977. J. Bacteriol. 129:1034−1044(非特許文献1))。lysCは、大腸菌K−12でアスパラギン酸をアスパルチルリン酸に転換するリシン−敏感性アスパルトキナーゼIII(aspartatekinase III)[EC:2.7.2.4]をコーディングすると知られている。
【0006】
本発明者らは、前記のような従来技術に基づいて、L−トレオニンの生産能が向上した菌株を選別する研究を集中的に行っていた中、lysC遺伝子の発現が増加すれば、クエン酸回路を通じて得られたオキサロ酢酸が、アスパラギン酸を経てリシン、トレオニン、及びメチオニンなどの中間代謝産物であるβ−アスパルチルリン酸に転換される比率が高くなって、トレオニン生産収率が増加すると予測し、前記lysR遺伝子を不活性化させることにより、L−トレオニンの生合成が促進できるという事実を見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
【特許文献1】日本特許公告第10037/81号
【特許文献2】日本特許公開第224684/83号
【特許文献3】大韓民国特許公開第8022/87号
【特許文献4】日本特許公開第219582/90号
【特許文献5】韓国特許公告第92−8365号
【非特許文献1】Beacham, I. R., D. Hass, and E. Yagil. 1977. J. Bacteriol. 129:1034−1044
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、L−トレオニンの生合成能が向上した微生物菌株を提供することである。
【0009】
本発明の他の目的は、前記微生物を製造する方法を提供することである。
【0010】
本発明のさらに他の目的は、前記微生物を利用してL−トレオニンを効率的に生産できる方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、L−トレオニンを生産できる微生物として、染色体上のlysR遺伝子が不活性化された微生物を提供する。
【0012】
本発明において、前記微生物は、L−トレオニンを生産でき、染色体上のlysR遺伝子が不活性化された微生物であれば、原核微生物及び真核微生物のいずれも含まれる。例えば、エシェリキア(Escherichia)属、エルウィニア(Erwinia)属、セラチア(Serratia)属、プロビデンシア(Providencia)属、コリネバクテリウム(Corynebacterium)属、及びブレビバクテリウム(Brevibacterium)属に属する微生物菌株が含まれうる。望ましくは、腸内細菌(Enterobacteriaceae)科に属する微生物であり、さらに望ましくは、エシェリキア(Escherichia)属に属する微生物である。最も望ましくは、大腸菌(Escherichia coli)FTR4014(KCCM−10634)である。
【0013】
また、lysR遺伝子が不活性化される微生物には、天然微生物だけでなく、L−トレオニン生産用変移微生物も含みうる。このような変移微生物の例には、L−メチオニン類似体に対する耐性を有し、メチオニン栄養要求性、L−トレオニン類似体に対する耐性、イソロイシン漏出型要求性、L−リシン類似体に対する耐性、及びα−アミノ酪酸耐性を有し、L−トレオニンを生産できる大腸菌に属する微生物;内在的ホスホエノールピルビン酸カルボキシラーゼ(ppc)遺伝子とトレオニンオペロンに含まれている遺伝子の他に、追加で1コピー以上のホスホエノールピルビン酸カルボキシラーゼ(ppc)遺伝子とトレオニンオペロンに含まれている遺伝子thrA、thrB及びthrCが染色体DNA中に挿入された変異微生物が含まれる。前記L−メチオニン類似体は、例えば、D,L−エチオニン、ノルロイシン、α−メチルメチオニン、及びL−メチオニン−D,L−スルホキシミンから選択される一つ以上の化合物でありうる。また、前記L−トレオニン類似体は、例えば、α−アミノ−β−ヒドロキシバレリアン酸及びD,L−トレオニンヒドロキサメートからなる群から選択される一つ以上の化合物でありうる。また、L−リシン類似体は、S−(2−アミノエチル)−L−システイン及びδ−メチル−L−リシンからなる群から選択される一つ以上の化合物でありうる。さらに他の変移微生物の例には、L−トレオニン生合成中間体であるオキサロ酢酸(OAA)をポスホスホエノールピルビン酸(PEP)に転換するのに関与するpckA遺伝子が不活性化された微生物、またはオキサロ酢酸アスパラギン酸に転換するlysC遺伝子を抑制するtyrR遺伝子が不活性化された微生物、または ブドウ糖流入に関与するgalP遺伝子の発現を抑制するgalR遺伝子が不活性化された微生物が含まれうる。
【0014】
本発明において、前記lysR遺伝子は、アスパルトキナーゼ活性をコーディングするlysCを転写レベルで調節する蛋白質をコーディングする。大腸菌において、前記lysR遺伝子は、公知されており、Blattnerら(Science 277:1453−1462(1997))によって公開された大腸菌のゲノム配列からも得られる(例、Accession no:EG10551)。前記遺伝子配列は、米国生物工学情報センター(NCBI)及び日本DNAデータバンク(DDBJ)などのデータベースから得られる。また、本発明のlysR遺伝子には、遺伝コードの縮退または機能的に中性である突然変異によって発生する対立遺伝子も含む。本発明において、“不活性化”とは、活性のあるlysR産物が発現されないようになっていることを意味する。不活性化の例としては、lysR遺伝子自体のの置換、欠失及び逆位などによる不活性化だけでなく、lsyR遺伝子の発現調節領域での突然変異によって、lysRが発現されないことも含まれる。lysRが不活性化されれば、lysC遺伝子の発現は増加する。
【0015】
本発明において、不活性化されるlysR遺伝子の例は、大腸菌K−12のlysR(accession no.Eg10551)、大腸菌W3110のlysR(accession no.10551)及び大腸菌KCCM−10541のlysR(accession no.10551)が含まれるが、これらの例に限定されるものではない。
【0016】
本発明の微生物は、L−トレオニンを生産できる微生物の染色体に存在するlysR遺伝子を不活性化させることで製造できる。このような不活性化方法には、紫外線のような光または化学物質を利用して突然変異を誘発し、得られた突然変異体からlysR遺伝子が不活性化された菌株を選別できる。また、前記不活性化方法にはD、NA再組合技術による方法が含まれる。前記DNA再組合技術は、例えば、前記lysR遺伝子と相同性のあるヌクレオチド配列を含むヌクレオチド配列またはベクターを前記微生物に注入して、相同再組合を発生させることで行われうる。また、前記注入されるヌクレオチド配列またはベクターには、優性選別マーカーを含むことができる。
【0017】
本発明はまた、不活性化されたlysR遺伝子またはそのDNA断片を製造し、L−トレオニンを生産できる微生物に導入させて、前記微生物の染色体上に存在するlysR遺伝子と再組合させ、lysR遺伝子が不活性化された微生物を選別することを特徴とするL−トレオニンの生産用微生物を製造する方法を提供する。
【0018】
本発明の方法において、前記不活性化されたlysR遺伝子またはそのDNA断片とは、宿主内のlysR遺伝子と配列相同性を有するポリヌクレオチド配列を含むが、欠失、置換、切断(truncation)及び逆位のような突然変異が導入されて、活性のがあるlysR産物を発現できないポリヌクレオチド配列を意味する。前記不活性化されたlysR遺伝子またはその断片を宿主細胞内に導入する過程は、例えば、形質転換、接合、形質導入または電気せん孔によって行われうるが、これらの例に限定されるものではない。
【0019】
前記不活性化されたlysR遺伝子またはそのDNA断片が、形質転換によって宿主細胞内に導入される場合、不活性化の手順は、前記ポリヌクレオチド配列を菌株の培養物と混合して行われうる。この場合、菌株は、天然的にDNA流入に対して コンピテントに形質転換できるが、予め菌株を適切な方法によってDNA流入のためにコンピテントにすることが望ましい(LeBlancら, Plasmid 28, 130−145, 1992;Pozziら, J. Bacteriol. 178, 6087−6090, 1996参照)。前記不活性化されたlysR遺伝子またはそのDNA断片は、ゲノムDNAの切片内に外来DNA切片を導入し、この配列の野生型染色体コピーを不活性化状態に置換させる。一具体例において、前記不活性化ポリヌクレオチド配列は、標的部位DNAの一部分を含む“テール(tail)”を5'及び3'末端に含むことである。テールは、少なくとも50塩基対からなり、望ましくは、効率的な再組合及び/または遺伝子転換のために、200ないし500塩基対でなければならない。前記不活性化ポリヌクレオチド配列には、便宜上選別マーカー、例えば、抗生剤耐性遺伝子を含みうる。標的DNAが抗生剤耐性遺伝子によって不活性化される場合、形質転換体の選別は、適切な抗生物質が含まれている寒天平板上で実施する。形質転換によって宿主細胞に導入された前記不活性化ポリヌクレオチド配列は、ゲノムDNA中のテール配列との相同再組合によって野生型ゲノム配列を不活性化させることができる。不活性化再組合が起こったか否かは、例えばサザンブロット法によって容易に確認でき、さらに便利にはPCTによって検証できる。
【0020】
本発明の方法の一具体例において、本発明のL−トレオニンの生産用微生物を製造する方法は、次の過程を含む。まず、L−トレオニンを生産できる菌株からゲノムDNAを分離し、これを鋳型として一般的な技術を利用した重合酵素連鎖反応(PCR)によってlysR遺伝子を増幅する。次に、得られたlysR遺伝子を適したプラスミドまたはベクター内にクローニングし、形成された再組合ベクターを形質転換によって大腸菌のような宿主細胞内に導入する。形質転換体を培養して細胞を分離した後、これらからlysR遺伝子を持つ再組合ベクターを分離する。分離された再組合ベクター内のlysR遺伝子に抗生剤耐性遺伝子切片を挿入して、lysR遺伝子が不活性化された再組合ベクターを製作する。前記のように製作された再組合ベクターを再び形質転換によって宿主細胞内に導入して培養する。得た形質転換体から増殖された再組合ベクターを分離し、適切な制限酵素の処理によって不活性化されたlysR遺伝子を含む遺伝子カセットを得る。前記遺伝子カセットを、L−トレオニンを生産できる菌株に電気せん孔法などの通常の技術によって導入させた後、抗生剤耐性を持つ菌株を選別することによって、lysR遺伝子が不活性化された菌株を分離する。
【0021】
当業者ならば、本発明の不活性化ポリヌクレオチド配列を一般的なクローニング法によって製造できるということが容易に分かる。前記製造法には、例えば、lysR遺伝子を標的とするオリゴヌクレオチドプライマーを使用したPCR増幅法が含まれる。
【0022】
本発明の一具体例において、本発明者らは、再組合プラスミドpGemT/lysR及びpGem/lysR::loxpCATを製作し、これから不活性化された遺伝子カセットΔlysR::loxpCATを収得し、前記遺伝子カセットをL−メチオニン類似体に対する耐性を有し、メチオニン栄養要求性、L−トレオニン類似体に対する耐性、イソロイシン漏出型要求性、L−リシン類似体に対する耐性、pckA、galR、tyrR遺伝子が同時に不活性化された、大腸菌KCCM−10541(FTR2533)に電気せん孔法で流入させた。その結果、野生lysR遺伝子が不活性化されて、各親株に比べて高濃度のL−トレオニンを生成する新菌株1種を開発した。この新菌株は、大腸菌FTR4014と命名し、ブダペスト条約下の国際機関である韓国微生物保存センター(KCCM)に2004年11月30日に寄託した(受託番号KCCM−10634)。
【0023】
本発明の大腸菌FTR4014は、親株である大腸菌KCCM 10541から誘導されたものであり、大腸菌KCCM 10541は、大腸菌10236から誘導されたものである。また、大腸菌KCCM 10236は、大腸菌KFCC 10718(韓国特許公告第92−8365号)から誘導された。L−トレオニン生産菌株である大腸菌KFCC 10718は、メチオニン要求性、トレオニン類似体(例、α−アミノ−β−ヒドロキシバレリアン酸、AHV)に対する耐性、リシン類似体(例、S−(2−アミノエチル)−L−システイン、AEC)に対する耐性、イソロイシン類似体(例、α−アミノ酪酸)に対する耐性、メチオニンの類似体(例、エチオニン)に対する耐性などの特性を有する。前記韓国特許の全体内容は、援用によって本明細書に含まれる。L−トレオニンを生産するに当たって、ホスホエノールピルビン酸(PEP)は、トレオニンの代謝経路の中間体であるオキサロ酢酸の前駆体である。KCCM 10236菌株は、L−トレオニンの生産菌株である前記大腸菌KFCC 10718の染色体から重合酵素連鎖反応を通じて得た、ホスホエノールピルビン酸カルボキシラーゼ遺伝子(ppc遺伝子)とトレオニンオペロン(thr operon、thrABC)をさらに親株である大腸菌KFCC 10718の染色体に挿入させることによって、大腸菌KFCC 10718の染色体DNA中にppc遺伝子とトレオニンオペロンの数を2個に増加させた。したがって、KCCM 10236菌株は、PEPからトレオニン生合成の中間体であるオキサロ酢酸に転換させる酵素であるppc遺伝子の発現量と、アスパラギン酸からトレオニンを合成する経路関連遺伝子(thrA:aspartokinase I−homoserine dehydrogenase、thrB:homoserine kinase、thrC:threonine synthase)の発現量とを増加させた。本発明の大腸菌FTR4014は、親株KCCM−10541から誘導されたものであって、KCCM−10541菌株は、KCCM−10236菌株の染色体内部に存在するpckA、galR遺伝子を特異的に不活性化させることによって、細胞内のオキサロ酢酸の濃度を上げ、ブドウ糖流入速度を増加させて、L−トレオニンの生産量を向上させ、高速発酵が可能であることを特徴とする。また、染色体内部に存在するtyrR遺伝子を特異的に不活性化させることによって、tyrB遺伝子の発現を増加させて、L−トレオニンの生産量を向上させることを特徴とする。
【0024】
本発明はまた、本発明のL−トレオニンを生産でき、染色体上のlysR遺伝子が不活性化された微生物を培養し、その培養物からL−トレオニンを分離する段階を含むL−トレオニンを生産する方法を提供する。
【0025】
本発明のL−トレオニンを生産する方法において、前記微生物の培養過程は、当業界に周知の適した培地及び培養条件によって行われうる。このような培養過程は、当業者ならば、選択される菌株によって容易に調整して使用できる。前記培養方法の例としては、回分式、連続式、及び流加式培養が含まれるが、これに限定されるものではない。
【0026】
また、培養物からのL−トレオニンの分離は、当業界に知られた一般的な方法によって分離できる。このような分離方法には、遠心分離、ろ過、イオン交換クロマトグラフィー及び結晶化などの方法が利用できる。例えば、培養物を低速遠心分離してバイオマスを除去して得られた上澄液を、イオン交換クロマトグラフィーを通じて分離できるが、これらの例に限定されるものではない。
【発明の効果】
【0027】
本発明のlysR遺伝子が不活性化された微生物は、L−トレオニンを微生物発酵によって生産する方法に利用されて、L−トレオニンを高収率で生産できる。
【0028】
本発明のL−トレオニン生産方法によれば、L−トレオニンを高収率で生産できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、本発明を実施例を通じてさらに詳細に説明する。しかし、これらの実施例は、本発明を例示的に説明するためのものであって、本発明の範囲がこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0030】
実施例1:再組合プラスミド製作とこれを利用したlysR遺伝子の不活性化(knock−out)
本実施例では、大腸菌染色体内のlysR遺伝子を相同再組合によって不活性化した。このために、前記lysR遺伝子の一部分を含むベクターを製造し、これを大腸菌宿主細胞に形質転換した後、lysR遺伝子が不活性化された菌株を選別した。
【0031】
まず、ゲノミック−チップシステム(Genomic−tip system)(キアゲン社製)を利用して、野生型大腸菌W3110菌株からゲノムDNAを分離した。このゲノムDNAを鋳型とした重合酵素連鎖反応(PCR)を行って、lysR及びlysA遺伝子のコーディング配列を含むDNA切片、約4kbを得た。lysA遺伝子のコーディング配列の一部をPCRによって増幅させることによって、以後の再組合過程で再組合確率を高めるようにした。使われたプライマーとして配列番号1と配列番号2のオールオリゴヌクレオチドを使用し、変性段階は94℃で30秒、アニーリング段階は60℃で30秒、延長段階は72℃で4分間実施し、これを30回繰り返した。
【0032】
その結果得られたPCR産物を0.8%のアガロースゲルで電気泳動した後、4078bpサイズのバンドからDNAを精製した。精製されたDNAをpGemTクローニングベクター(プロメガ社製)のTA部位に16℃で一晩連結させた(図1)。その結果得られた再組合プラスミドpGemT/lysRを大腸菌DH5αに形質転換させ、カルベニシリン(50mg/L)が含む固体培地に塗抹して37℃で一晩培養した。
【0033】
コロニーを白金耳にて取り、カルベニシリンを含む液体LB培地3mLに接種して一晩培養した後、ミニプレップキット(QIAGEN mini prep kit)(キアゲン社製)を利用して、プラスミドDNAを分離した。プラスミドDNAを制限酵素Hpa Iで処理した後、lysR遺伝子のクローニングされたか否かを確認した。確認されたプラスミドpGemT/lysRを制限酵素Hpa Iで処理した後、0.8%のアガロースゲルで約7.0KbサイズのバンドからDNAを精製した。また、プラスミドpLoxCAT2(Palmeros,B.et al、Gene 247(1−2),255−264,2000)を制限酵素Hinc IIで処理して得た、loxp部分を含むクロラムフェニコール耐性遺伝子切片(約1.5kb)を作った。次に、得られたプラスミドpGemT/lysRのHpa I切片とpLoxCAT2のHinc II切片とを連結させて、再組合プラスミドpGemTΔlysR::loxpCAT(約5.5kb)を得た(図2)。
【0034】
このプラスミドDNAを鋳型として使用して、重合酵素連鎖反応(PCR)を行ってlysR遺伝子のORF(Open Reading Frame)とloxpCAT部位とを含むDNA切片、約4.6kb(ΔlysR::loxpCAT)を増幅した。使われたプライマーは、配列番号3と配列番号4のオリゴヌクレオチドであり、変性段階は94℃で30秒、アニーリング段階は60℃で30秒、延長段階は72℃で4分間実施し、30回繰り返した。
【0035】
実施例2:大腸菌KCCM10451のlysR遺伝子の不活性化及びPCRを利用したlysR遺伝子の不活性化の確認
実施例1で製造されたDNA切片ΔlysR::loxpCATを、トレオニン生産菌株KCCM−10541(FTR2533)に電気せん孔法で流入して、クロラムフェニコールが含まれた固体培地に塗抹して成長したコロニーを得ており、該当候補菌株のlysR遺伝子が特異的に再組合されたか否かを確認するために、重合酵素連鎖反応(PCR)を行った。親株であるKCCM−10541菌株と上で得られた候補菌株を3mlの液体培地で一晩培養した後、ゲノムキット(QIAGEN genomic kit 20)を利用してゲノムDNAを分離した。
【0036】
該ゲノムDNAを鋳型として使用して、重合酵素連鎖反応(PCR)を通じてlysR遺伝子のORFまたはlysR遺伝子のORFとloxpCAT部位とを含む、DNA切片、約4kbまたは5.5kbを増幅した。使われたプライマーは、配列番号1及び配列番号2のオールオリゴヌクレオチドである。PCRは、変性段階は94℃で30秒、アニーリング段階は60℃で30秒、延長段階は72℃で4分間実施し、30回繰り返した。親株(KCCM−10541)のゲノムDNAを鋳型として使用して重合酵素連鎖反応(PCR)を行った場合、4kbのDNA切片が合成され、候補菌株のゲノムDNAを鋳型として使用して重合酵素連鎖反応(PCR)を行った場合、loxpCAT部位を含むDNA切片、5.5kbが得られた。
【0037】
このような過程を通じて、候補菌株のlysR遺伝子がloxpCAT遺伝子により不活性化されたことを確認し、大腸菌FTR4014と命名した。
【0038】
実施例3:lysR遺伝子不活性化菌株のトレオニン生産性確認
実施例2で得られた菌株FTR4014を、表1に示すトレオニン力価培地を含有する三角フラスコで下記方法のように培養して、トレオニン生産性を比較した。
【0039】
(表1)トレオニン力価培地

【0040】
32℃の培養器でLB固体培地中に一晩培養したFTR4014を25mlの力価培地に1白金耳ずつ接種して、32℃で250rpmで48時間培養し、その分析結果を下記表2に示す。表2に示すように、L−トレオニン生産量は、親株であるKCCM−10541菌株は23g/Lである一方、lysR遺伝子が破壊された再組合菌株FTR4014は25g/Lに向上した結果を示す。この結果に基づいて、濃度が親株対比8.6%程度向上したことを観察した。
【0041】
(表2)再組合菌株のフラスコ力価試験結果

【0042】
本実施例の大腸菌FTR4014菌株をブダペスト条約下の国際機関である韓国微生物保存センター(KCCM)に2004年11月30日に寄託した(受託番号KCCM−10634)。
【0043】
以上、本発明についてその望ましい実施形態を参照して説明したが、当業者は、本発明がその技術的思想や必須特徴を変更せず、他の具体的な形態で実施できるということを理解できるであろう。なお、以上で記述した実施例は、例示的なものであり、限定的なものではないと考慮しなければならない。したがって、本発明の範囲は、前記詳細な説明よりは特許請求の範囲の意味及び範囲、そしてその等価概念から導き出される全ての変更または変形された形態が、本発明の範囲に含まれると解釈されなければならない。
【0044】

【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】lysR遺伝子を含む再組合プラスミドpGemT/lysRの作製図である。
【図2】再組合プラスミドpGemT:lysR::loxpCATからDNA切片ΔlysR::loxpCATを得る作製図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
lysR遺伝子が不活性化された染色体を有し、L−トレオニンを生産する特性を有する大腸菌菌株。
【請求項2】
メチオニン要求性、トレオニン類似体に対する耐性、リシン類似体に対する耐性、イソロイシン類似体に対する耐性、及びメチオニン類似体に対する耐性特性を有する請求項1に記載の大腸菌菌株。
【請求項3】
大腸菌FTR4014(受託番号KCCM−10634)であることを特徴とする請求項1に記載の菌株。
【請求項4】
不活性化されたlysR遺伝子またはそのDNA断片を製造し、L−トレオニンを生産できる微生物に導入させて、前記微生物の染色体上に存在するlysR遺伝子と再組合させ、lysR遺伝子が不活性化された微生物を選別することを特徴とするL−トレオニンの生産用微生物を製造する方法。
【請求項5】
前記不活性化されたlysR遺伝子またはそのDNA切片が、抗生剤マーカー(loxpCAT)を含むカセットをlysR遺伝子内部に挿入して製造されたものであることを特徴とする請求項4に記載の方法。
【請求項6】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の微生物を培養し、その培養物からL−トレオニンを分離することを特徴とするL−トレオニンを生産する方法。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2008−522611(P2008−522611A)
【公表日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−545367(P2007−545367)
【出願日】平成17年12月6日(2005.12.6)
【国際出願番号】PCT/KR2005/004142
【国際公開番号】WO2006/062327
【国際公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【出願人】(500437371)シージェイ コーポレーション (2)
【氏名又は名称原語表記】CJ Corporation
【Fターム(参考)】