説明

染色体標本の製造方法および製造装置

【目的】染色体を明瞭に識別することのできる標本を、再現性よく得る。
【構成】低張処理された細胞を、酸とアルコールとの混合溶液中に懸濁させた細胞懸濁液を、細胞拡散チャンバ111内にセットされた基板にピペット113から滴下して、基板上で細胞を拡散させたのち、細胞膜破壊チャンバ112内で、噴霧ノズル117から該基板に酸および水を噴霧して、基板上の細胞に酸および水を作用させ、細胞膜を破壊して、内部の染色体を遊離させる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、染色体検査の標本作成方法および標本作成装置に係り、特に、一つの細胞に含まれる染色体を、基板上で観察や検査に適した分布、広がりを持つように分散させることのできる染色体標本の製造方法および該方法に用いる染色体標本の製造装置に関する。
【0002】
【従来の技術】生体の組織、器官はそれぞれ特異的な機能を持つ細胞よりなり、これらの機能の発現をコントロールしているのが細胞内に存在するDNAである。従って、DNAに異常が生じると、生体は正常な働きをしなくなり、病気等となって現れることが多い。このDNAの異常には、遺伝子自身の異常(核酸配列の異常)や、遺伝子コピーの数的な異常、さらには、DNA中での遺伝子の位置異常等があると考えられている。
【0003】例えば、鎌状赤血球症は遺伝子自身の塩基配列の異常によるものであると考えられており、ダウン症は遺伝子の数的な異常によるものであと考えられている。また、遺伝子の位置異常による疾病には、染色体の転座に伴う各種の異常、たとえば慢性骨髄性白血病等が挙げられる。このように、近年、多くの疾患と、遺伝子異常との関係が明らかにされてきている。
【0004】このような遺伝子の異常の診断は、遺伝子自身の異常に対しては直接的に塩基配列を同定したり、プローブDNAとのハイブリダイゼーションの有無を検出したり、塩基配列の異常に伴うDNAフラグメントのコンフォメーションの違いを検出したりして行なわれる。
【0005】しかし、これらの方法では数的異常や位置の異常を検出するのは難しいので、これらの異常の検出についてはDNAを染色体の形にして検出している。すなわち、細胞分裂中期にある細胞の染色体をスライドガラス上に広げて固定した標本を作り、適当な染色処理等を経て観察し、検出している。これらの検出は出生前診断、癌の進行度の把握・予後の予測、放射線の染色体への影響の調査、食品の安全性試験等に用いられている。
【0006】一方最近の分子生物学の進展にはめざましいものがあるが、その研究対象が染色体に大きくかかわりあって来ているものがあり、その一つの領域として特定遺伝子がどの染色体のどの位置に存在するのを調べる遺伝子マッピングがある。ここでも細胞分裂中期にある細胞の染色体をスライドガラス上に広げて固定した標本を作り、適当な染色処理等を経て観察している。
【0007】このように検診目的にも、また、研究目的にも、染色体は用いられており、それぞれの目的に合った染色体の標本が作成されている。ここで、まず従来どのようにしてこの染色体標本が作成されて検査なり研究に供されているかを述べる。なお、以下で述べる内容は対象細胞として末梢血細胞を用いているが基本的には前記の他の細胞でも同じである。
【0008】採取した末梢血細胞のうち細胞分裂刺激剤(例えばPhytohaemagglutinin、以下、PHAと略す)により分裂が特に促進されるT−細胞を含むリンパ球を分離したり、または採取した全血をそのまま適当な緩衝液、例えばハンクス液にて洗浄した後、適当な培地に加えて培養する。培地としては、例えばRMPI 1640(商品名:RPMI MEDIUM 1640,IRVINE SCIENTIFIC社製より調製)にウシ胎児血清とPHAを添加した培地を用いることが知られている。
【0009】細胞回収の数時間前に、培地に細胞分裂阻止剤であるコルセミドを加えて培養し、適度に細胞分裂の中期細胞を含んだ培養液を得る。培養後、培養細胞を分離し、ついで細胞が適度に膨張し標本として適度に個々の染色体が広がり、かつ染色体が観察され易くなるように、0.075MのKCl溶液を用いて低張処理を行う。
【0010】つぎに、低張処理された細胞を固定液、例えばメタノールと酢酸を3:1の割合にて混合したカルノア液にて固定処理を行う。なお、本明細書では、「カルノア液」という用語を、メタノールと酢酸との3:1(体積比)混合液を意味するものとして用いる。また、特にことわらない限り、「酢酸」とは「氷酢酸」を意味する。
【0011】最後に、細胞をこのカルノア液にて数度洗浄処理をした後、適量の、例えば0.01〜0.015mlの細胞懸濁液をスライドガラス上に滴下する。滴下後スライドガラス上に適度に広がった液が蒸発していく時に、観察に適した標本、すなわち一つの細胞の個々の染色体が適度な間隔を持って分布しており、互いに重なっていない標本が得られる。
【0012】
【発明が解決しようとする課題】上記のような標本作成法は確かに場合によっては良好な標本を得ることができるが、この方法により良好な標本を得るためには、かなりの熟練を要する。また、熟練をもってしても時には良好ならざる標本となることがあり、再現性よく良好な標本を得ることは非常に困難であった。
【0013】すなわち、この従来の方法を用いた場合、一つの細胞に含まれる個々の染色体が、基板であるスライドガラス上適当にで広がらずに重なりを生じたり、逆に広がりすぎて隣どうしの細胞との間で染色体が混じり合ってもともとの所属が不明になったり、さらに標本の中央部と周辺部の染色体の状態、例えば一つの細胞からの染色体の広がり方といったものに差異を生じたりする事が多かった。従って、従来の方法を用いて標本を作成する場合、精度の高い測定が出来なかったり、測定に時間がかかるといった不具合を生じていた。
【0014】そこで、本発明は、このような不都合の無い、染色体を明瞭に識別できる標本を、再現性よく得ることを目的とする。
【0015】
【課題を解決するための手段】本発明の発明者は、この問題を検討した結果カルノア液の細胞は酸と水との混合液にさらされると細胞膜が破壊されてそれにより細胞の個々の染色体が遊離するという現象を発見し、この新たな知見に基づいて、本発明をなすに至った。
【0016】本発明では、細胞を低張処理する低張工程と、低張処理された細胞を、酸とアルコールとの混合溶液中に懸濁させ、細胞懸濁液を得る固定工程と、細胞懸濁液を基板上に滴下し、基板上で細胞を拡散させる拡散工程と、基板上の細胞懸濁液中の細胞に、水と酸とを作用させる細胞膜破壊工程とを、この順で有する染色体標本の製造方法が提供される。
【0017】ここで、細胞膜破壊工程は、拡散工程において上記基板上に滴下された細胞懸濁液が流動していない状態で行われることが望ましい。細胞懸濁液が流動していると、細胞膜を破壊したのちに、細胞の内容物が流動して過度に拡散してしまうことがあるからである。
【0018】また、細胞膜破壊工程において細胞に酸と水とを作用させることは、基板上の細胞懸濁液に水と酸との混合液を添加することにより行われてもよく、酸と水とをそれぞれ別に添加してもよい。水と酸との混合液の添加は、該混合液、または、酸および水それぞれの噴霧、または滴下により行なうことができる。また、基板雰囲気を該混合液、または、酸および水それぞれの蒸気とすることにより該混合液を添加してもよい。
【0019】固定工程において細胞を懸濁させる酸とアルコールとの混合溶液は、アルコールを、該混合溶液全体の3/4(体積比)以上含むことが望ましく、5/6(体積比)以上含むことがさらに望ましい。また、このアルコールは、炭素数1〜3の脂肪族アルコールであることが好ましく、メタノール、エタノール、プロパノール、およびアリルアルコールの内の少なくとも一種であることがさらに好ましく、これらの内、メタノールが特に好ましい。
【0020】また、細胞懸濁液の溶媒である混合溶液中に含まれる酸、および細胞膜破壊工程において細胞に作用させる酸は、それぞれカルボン酸であることが望ましく、酢酸、ギ酸、乳酸、酪酸、およびプロピオン酸の内の少なくとも一種であることがさらに望ましく、これらのうち、酢酸が特に好ましい。
【0021】上記細胞膜破壊工程において作用させる酸と水との体積比は、酸:水=10:1〜1:10であることが望ましく、酸:水=10:1〜1:1であることがさらに望ましく、酸:水=5:1であることが特に好ましい。
【0022】また、本発明では、基板を保持するための基板保持部と、基板に、あらかじめ定められた量の細胞懸濁液を滴下する細胞懸濁液供給機構と、細胞懸濁液の滴下された基板に、酸および水を添加する細胞膜破壊液供給機構とを備える染色体標本の製造装置が提供される。
【0023】ここで、細胞膜破壊液供給機構は、液体を噴霧するための噴霧ノズル、または、液体を蒸気にするための機構を備えることが望ましい。また、細胞膜破壊液供給機構は、酸と水との混合液を保持するための細胞膜破壊液保持部を、さらに備えていてもよい。なお、噴霧ノズルとして、酸の噴霧のためのノズルと水の噴霧のためのノズルとの二つを備えていてもよい。また、基板保持部は、細胞懸濁液を供給するためのチャンバと、細胞膜破壊液を供給するためのチャンバとを備えることが望ましい。
【0024】
【作用】つぎに、本発明によれば、何故良好な染色体標本が得られるかを、実験データをもとに説明する。以下に説明する各実験は、主に、人の末梢血よりリンパ球を分離し、該細胞を培養後、低張処理、固定処理を施して細胞懸濁液を得、これを用いて基板であるスライドガラス上に分裂中期細胞の染色体が適当な広がった標本を作成する実験である。なお、本明細書では、特に記載しないかぎり、混合比は体積比である。
【0025】まず、細胞の変遷について若干説明しておく。図5(a)の写真−1は、採取されたリンパ球の写真である。採取されたリンパ球の大きさは、直径0.006〜0.008mm程度である。なお、写真中の線の間隔は0.05mmである。
【0026】この細胞を培養し、低張処理を行うと、約5分後には図5(b)の写真−2のようになる。このときの細胞の大きさは、大きいもので0.015mmを越えるようになる。さらに低張処理を続けると、処理開始より120分後には、図5(c)の写真−3のようになる。なお、写真−3中の1は分裂間期の細胞である。分裂間期の細胞は、写真−3からわかるように、細胞膜と核膜がはっきりと区別できるようになる。一方、写真−3中の2は分裂中期の細胞である。分裂中期の細胞は、写真−3からわかるように、核膜が無く、該細胞の構造物であると思われる染色体が固まった状態で見られる。
【0027】つぎに、これらをカルノア液にて固定すると、固定液中では写真−4(図5(d))および写真−5(図5(e))に示すような状態になる。写真−4および写真−5中の1は分裂間期の細胞である。この固定液中の分裂間期の細胞は、写真−3と比較してわかるように、低張液中のそれよりはるかに核膜と細胞膜の双方がはっきり区別して見られるようになる。一方、写真−4および写真−5中の2は分裂中期の細胞である。分裂中期の細胞も、固定液中では大きさが低張液中よりも大きく、0.025mm程度になり、細胞中の個々の染色体が、よりはっきりと観察できるようになる。
【0028】また固定液中には、写真−4中の3に見られるように、中期細胞が半分に割れたもの、写真−4および写真−5中の4のように、間期細胞が細胞膜を失って核膜のみになったもの、および、写真−5中の5のように、中期細胞であるが形状が球形に近いものではなくて回転楕円体のようなものも存在している。この写真−4および写真−5に見られるような状態の分裂中期細胞がスライドガラス上で染色体の標本になる。
【0029】この標本化に際して、良好な標本、すなわち、各染色体が、その起因する細胞ごとにまとまりをもちつつ、個々の染色体を観察できる程度に分散しており、さらに染色体の集合が、同一細胞に起因するものごとに適当に分散している標本を得るための適正条件の代表的なものとしては、つぎの(a)〜(c)などが知られている。
【0030】(a)よく拭いたスライドガラス上に2〜3滴(ピペットにより)滴下して自然乾燥させる(外村 晶編 染色体異常 P.331 朝倉書店)。
【0031】(b)10℃に冷却した蒸留水にスライドガラスを浸しておき、水から取り出し、濡れたままのスライドガラスの上にパスツールピペットで細胞懸濁液を1滴落とす(堀 雅明、中村 祐輔編 ラボマニュアル ヒトゲノムマッピング P.107丸善株式会社)。
【0032】(c)予め冷凍庫に保存していた清浄な、油脂成分のついていないスライドガラスを取り出し、息を吹きかけてスライド上についた霜を解かし、その上に細胞懸濁液1〜2滴をパスツールピペットにより滴下する(TECHNICAL REPORTS SERIESNO.260 "BIOLOGICAL DOSIMETRY:CHROMOSOMAL ABERRATION ANALYSIS FOR DOSEASSESSMENT " P.60 INTERNATIONAL ATOMIC ENERGY AGENCY)。
【0033】この三つの例を見ても判るように、実験者によりかなり条件が異なるのが実状であり、どの方法が一番良いかは一概には判断できない。そこで、再現性よく良好な標本を得るためには、どのようにしたらよいか、標本の状態に影響を与える各条件について、個々に検討を加えた。
【0034】A.染色体の分散(細胞膜の破壊、染色体の遊離)
染色体の観察のためには、中期細胞においては、細胞の細胞膜が破壊され、かつ、内部に包含されていた染色体が、相互に重ならない程度に分散している必要がある。上述した各例から、水が何らかの作用を持っている事を示すものであると考えられるので、まず、水のもつ作用の検討から始めた。
【0035】(1)水の影響カルノア液中の細胞を、遠心分離により単離し、得られた細胞に、種々の溶液(作用液と呼ぶ)を加えて、細胞がどのように変化するかを調べた。各条件と、結果として得られた細胞の状態を、表1に示す。なお、表1において、Aは酢酸を、Mはメタノールを、Wは水をそれぞれ表し、A/Wは酢酸と水の混合液を、W/Mは水とメタノールの混合液を、W/Mはメタノールと酢酸の混合液を、A/W/Mは酢酸、水、メタノール三つの混合液を、それぞれ表す。ただし、カルノア液以外の各混合液は、特に限定しない限り、各成分の同体積を混合したものである。
【0036】
【表1】


表1に挙げられている写真−6〜9は、それぞれ、図6の(a)〜(d)であり、写真−10〜12は、それぞれ、図7の(a)〜(c)である。なお、いずれの写真中においても、1は分裂間期の細胞で細胞膜を維持しているものであり、2は分裂中期の細胞で細胞膜が破損を受けていないものであり、3は分裂間期の細胞で細胞膜を失ったものであり、4は分裂中期の細胞で割れ等の破損を生じているものである。
【0037】これらの結果から、酸(ケース番号1−1)、メタノール(ケース番号1−2)、またはその混合液(ケース番号1−6)のみを作用させても、細胞は破壊されず、細胞の破壊が起きるのは、水が作用した場合(ケース番号1−3〜5、1−7)であることがわかる。また、水のみを作用させた場合(ケース番号1−3)よりも、水と酸との混合液(ケース番号1−4)を作用させた方が、破壊率が上がることがわかる。
【0038】なお、これらの結果からわかるように、間期細胞が細胞膜を失う時には中期細胞にも割れ等の破損を生じる。また、このような細胞膜破損の現象は写真−11中の5のような変形細胞に最も生じ易いようであり、このような変形細胞が観察される時には、他の無破損細胞、例えば各写真中の1や2のような細胞の残存量が多い。
【0039】これらの結果から、この細胞膜破壊作用は、酸と水との混合液を用いた時に最も強くなると考えられる。酢酸と水の等量混合液に固定された細胞を入れると(ケース番号1−4)細胞膜がほとんど破壊されて、分裂中期細胞では染色体が遊離し、分裂の間期細胞では核膜だけが見えるようになる。
【0040】(2)酸と水との影響以上のように、水のみを作用させるより、水と酸との混合液を作用させた方が、破壊率が上がることがわかったので、つぎに、この細胞(膜)破壊現象がカルノア液より分離された細胞に特異的に起きる現象なのか、それとも他の溶液に懸濁されていた細胞でも生じるのかを調べた。
【0041】実験としては、上記の実験により細胞が壊れなかった細胞(ケース番号1−1、1−2、1−5、1−7の細胞)を、溶液中から遠心分離し、いろいろな溶液を加えてそれぞれの溶液の中での細胞および染色体の状態を観察した。実験条件および実験結果を表2に示す。
【0042】
【表2】


表2に挙げられている写真−13〜16は、それぞれ、図8の(a)〜(d)である。なお、いずれの写真中においても、1は細胞膜が維持され核膜とともに明瞭認識される間期細胞、2は細胞膜が維持され、中の染色体が識別できる中期細胞、3は細胞膜を失い核膜だけが識別される間期細胞、4は割れ等の損傷を受けた中期細胞である。
【0043】酢酸と水との混合液を加えたものは(ケース番号2−2、3、5、7)、直前に浸されていた作用液がいずれの場合にも、写真−14からわかるように細胞膜が維持された間期細胞1や細胞膜が維持された中期細胞2は見られず、写真−14中の6のように、遊離した染色体が無数に存在した。
【0044】これらの結果より、酢酸と水との混合液は、直前に細胞がどういう溶液中に懸濁されていたのかという点には関係なく、細胞を破壊する作用を有すると考えられる。
【0045】一方、酢酸のみを加えたものは(ケース番号2−6)、十分な破壊はおこらず、特にケース番号2−6では、写真−16からわかるように、細胞は殆ど変化しなかった。
【0046】しかし、ケース番号2−1では、水のみを加えたが、この場合も細胞膜の破損が見られた。ケース番号2−1は、酢酸に懸濁されていた細胞(ケース番号1−1)に、水を加えたため、細胞内では、酢酸と水との混合が生じたと考えられる。同様に、ケース番号2−4でも、酢酸のみを加えたにもかかわらず、細胞の破壊のがみられた。ケース番号2−4は、水とメタノールとの混合液に懸濁されていた細胞(ケース番号1−5)に、酢酸を加えたため、細胞内では酢酸と水との混合が生じたと考えられる。
【0047】この結果から、混合液を加えなくても、結果的に酢酸と水との混合状態になると考えられる条件(先に水に懸濁されていた細胞に酢酸を加える場合や、先に酢酸に懸濁されていた細胞に水を加える場合)では、細胞は破壊されることがわかった。
【0048】(3)カルノア液の影響上述のように、直前に浸されていた液がなんであるかに拘りなく、酸と水とを作用させれば細胞を破壊することができることが推測される。そこで、この点を確認するために、低張処理後の細胞を、カルノア液で処理することなく、直接、他の溶液にさらすとどのような事が起こるのかを調べてみた。実験結果を表3に示す。
【0049】なお、表3において、「低M」は、細胞を懸濁させた低張処理液1mlにピペットでカルノア液1〜2滴を加えたのち、液をメタノールに置換し、さらに遠心分離して得られた細胞を示す。また、「低M/W」は、細胞を懸濁させた低張処理液1mlにピペットでカルノア液を1〜2滴加えたのち、液をメタノールと水との混合液に置換し、さらに遠心分離して得られた細胞を示す。さらに、「収」は細胞の収縮を、「凝」は細胞どうしの凝集を表す。
【0050】
【表3】


表3に挙げられている写真−17〜19は、それぞれ、図9の(a)〜(c)である。上述の場合と同様に、いずれの写真中においても、1は細胞膜が維持され核膜とともに明瞭認識される間期細胞、2は細胞膜が維持され、中の染色体が識別できる中期細胞、3は細胞膜を失い核膜だけが識別される間期細胞、4は割れ等の損傷を受けた中期細胞である。
【0051】カルノア液を用いた場合も含めて、酸と水との混合がない場合(ケース番号3−1、2、4、6、8)は、細胞の凝縮や収縮は起こるが、細胞の破壊はほとんど起こらない。
【0052】これに対して、酸と水との混合液が作用すれば、水と酢酸との混合液を添加する場合(ケース番号3−3、7)、および、あらかじめ存在していた水に酢酸が添加される場合(ケース番号3−5)のいずれの場合も、細胞の破壊が見られた。特に、酢酸と水との混合液を添加した場合、細胞はほとんど破壊され、良好な結果が得られた。
【0053】以上の結果から、細胞がどのような処理液中に存在していたかに拘らず、酢酸と水との混合液には、細胞膜を破壊し、中期細胞であればその染色体を露出させ、間期細胞であれば核膜を残した形の状態にすることができるという作用があることがわかった。
【0054】(4)酸と水との混合比つぎに、酢酸と水との混合比率によりその作用力が異なるのかどうかを実験した。すなわち、カルノア液により固定したのちカルノア液中から遠心分離した細胞に、種々の混合比率の酢酸−水混合液を加え、結果を観察するという実験を行った。結果を表4に示す。なお、表4における混合比は体積比である。
【0055】
【表4】


表4に挙げられている写真−21〜26は、それぞれ、図11の(a)〜(f)である。上述の場合と同様に、いずれの写真中においても、1は細胞膜が維持され核膜とともに明瞭認識される間期細胞、2は細胞膜が維持され、中の染色体が識別できる中期細胞、3は細胞膜を失い核膜だけが識別される間期細胞、6は中期細胞より遊離した染色体である。
【0056】表4に示した結果では、作用液の混合比が、酢酸:水=5:1のときが最も効果的であり、細胞膜は完全に破壊された。作用液の混合比がこの比率から離れるほど、細胞膜を維持している細胞1,2が多くなり、細胞に対する破壊作用が小さくなることがわかる。また、作用液の混合比が5:1に近いほど、3,6が増え、細胞膜の破壊された細胞が多くなることがわかる。
【0057】酢酸−水混合液を用いて細胞膜を破壊する場合、その混合比は、細胞膜の破壊能の観点から、酢酸:水=10:1〜1:10であることが望ましく、酢酸:水=10:1〜1:1であることがさらに望ましく、酢酸:水=5:1であることが特に望ましい。
【0058】(5)酸の種類の影響つぎに、水と混合すると細胞膜を破壊する作用は、酢酸に特有のものであるのかどうかを調べる実験をおこなった。酸として、ギ酸、乳酸、プロピオン酸、酪酸、燐酸を用い、上述の(3)と同様な実験を行ってみたところ、酢酸と同じように水との混合液は作用力の差はあるが細胞、細胞膜を破壊する作用がある事がわかった。
【0059】例として、低張処理後の細胞を、プロピオン酸と水との混合液に加えた場合の、細胞の状態を、図1010の写真−20に示す。写真−20中には、細胞膜を失い核膜だけが識別される間期細胞、および、中期細胞より遊離した染色体のみが存在する。
【0060】さらに、酸と水との混合比について、上述の(4)と同様の実験を行ったところ、すべての酸において酢酸と同様な効果が認められた。ただし、効果の程度に関しては、ギ酸では酢酸よりも広い範囲で破壊作用があり、プロピオン酸では酢酸より水が多い方が効果があるが効果を有する混合比率の範囲は狭く、乳酸もプロピオン酸と同様の傾向にあることがわかった。なお、酸は標本から気化して失われることが望ましい。したがって、気化速度の点から、これらの酸のうち、酢酸およびギ酸が特に好ましい。また、ガラスを基板として用いる場合には、ガラスに対する濡れ性の点から、酢酸が特に好ましい。
【0061】(6)アルコールの種類および量の影響上述した(1)〜(3)の実験結果から、酢酸と水とが混在しても、それにメタノールが混じっていると細胞を割る作用が薄れることがわかった。そこで、このメタノールの酸/水による細胞膜破壊に対する抑止効果は、メタノール固有の性質なのか、それともアルコールが一般的に持つ性質なのかを調べる実験をおこなった。
【0062】まず、酢酸と水との1:1混合液を用意し、これにメタノール、エタノール、2−プロパノール、または、アリルアルコールを、それぞれ種々の体積比で加えて、19種類の作用液を調製した。カルノア液により固定したのち、カルノア液より分離した細胞に、この作用液を加えて標本を作成し、得られた標本中の細胞の状態を観察した。表5にその結果を示す。
【0063】
【表5】


表5に挙げられている写真−27〜31は、それぞれ、図12の(a)〜(e)である。上述の場合と同様に、いずれの写真中においても、1は細胞膜が維持され核膜とともに明瞭認識される間期細胞、2は細胞膜が維持され、中の染色体が識別できる中期細胞、3は細胞膜を失い核膜だけが識別される間期細胞、4は割れ等の損傷を受けた中期細胞、6は中期細胞より遊離した染色体である。なお、写真27〜31は、いずれもメタノールを用いて作成した標本の写真であるが、他のアルコールを用いた場合も、同様な標本が得られた。
【0064】表5に示した結果から、アルコールは、メタノールのみならず他のものでも酢酸と水の混合液が持つ細胞膜破壊作用を減じる効果があることがわかる。また、アルコールがある量より多いと、細胞膜は破壊されない(写真中の1や2で示される状態にある)が、アルコールが少ないと、細胞膜の破壊が起こる(写真中の3や4で示される状態)がわかる。なお、酢酸以外の酸についても同様にして実験したところ、アルコールとして、ギ酸、プロピオン酸、または乳酸を用いた場合でも、アルコールは細胞損傷抑止剤として働くことがわかった。
【0065】破壊抑止作用をもう少し細かく見てみると、ケース番号5−1(酸:アルコール=1:4)の実験では細胞は破壊されていないが、ケース番号5−2(酸:アルコール=1:3)の実験では若干の細胞が破壊された。したがって、水と酸との細胞破壊作用を抑えるためには、細胞懸濁液におけるアルコールの割合は、酸:アルコール=1:3以上であることが望ましく、さらに破壊を減らすためには1:4以上とすることが好ましい。
【0066】ここで、アルコールは、酸および水よりも一般に蒸気圧が高く、先に蒸発してしまい、その濃度は刻々と低くなることを考慮すると、確実に細胞の破壊を抑制するためには、細胞懸濁液を酸とアルコールとの混合液とし、アルコール濃度を、酸:アルコール=1:5以上にすることが望ましい。
【0067】(7)まとめ以上の実験結果より、染色体の標本として好ましいもの、少なくともその形態が好ましいもの、すなわち、破損細胞や所属の判らない染色体を含まないものを作るには、以下のAおよびBが必要である事が結論できる。
【0068】A.細胞膜を維持したままの細胞の分散好ましい標本とは、染色体が、細胞間で混ざり合わないように、その起因する細胞ごとにまとまって、適度に分散し、さらに、個々の染色体も、重なり合わないように適度に分散している標本である。
【0069】したがって、細胞膜を破壊して内部の染色体が遊離しても、他の細胞の染色体と混ざり合わない程度に、あらかじめ細胞を分散させておく必要がある。このためには、まず、細胞膜が破壊されない条件で、細胞を分散させる必要がある。これを実現するには、細胞が破損しないように、酸と水とが混合する事を避け、さらに、細胞懸濁液中にアルコールが比較的高い濃度で存在するようにすることが望ましい。アルコールの存在により、細胞懸濁液中に少量の水が存在しても、細胞の破壊が抑止されることになる。
【0070】そこで、細胞を拡散させる際の細胞懸濁液の溶媒には、アルコールを用いることが好ましいと考えられるが、アルコールのみの溶液に細胞を懸濁させると、細胞が収縮してしまい、良好な標本を得ることはできない。そこで、この細胞の収縮を避けるためには、細胞懸濁液の溶媒に酸を含ませる必要がある。
【0071】では、細胞懸濁液中にどの程度までアルコールの混合すればよいだろうか。この点に関しては、上述した(6)の実験(アルコールの破壊抑止作用の実験)が参考になる。上述のように、この実験の結果からは、細胞懸濁液におけるアルコールの割合が、酸:アルコール=1:3以上であれば、細胞の破壊が一応抑止され、1:4以上であれば、十分な抑止効果が得られることがわかる。従って、アルコールの蒸発により低濃度化を考慮しても、アルコール濃度は、酸:アルコール=1:5以上であれば、十分に良好な標本を得ることができる。
【0072】そこで、細胞を基板上に分散する際の細胞懸濁液の溶媒を、酸およびアルコールの混合液とし、その混合液中に占めるアルコールの割合を、酸:アルコール=1:3以上、好ましくは1:5以上とすれば、たとえ標本作成途中に水が混入しても、細胞膜を破壊することなく、細胞を基板上に分散できる。
【0073】B.細胞膜の破壊良好な標本を得るためにつぎに必要になるのは、所定のばらつきで分散した細胞の細胞膜を破壊し、内部の染色体を遊離させることである。このためには、基板上に拡散した細胞懸濁液から、アルコールを除去し、残った細胞に酸および水を作用させればよい。なお、蒸気圧の高いアルコールを用いれば、特に除去のための工程を経なくても、すみやかに気化して時間経過とともに標本から除去される。
【0074】そこで、基板上に滴下された細胞懸濁液(溶媒は酸およびアルコール)に水を添加すれば、細胞膜の破壊を抑止するアルコールはやがて蒸発して無くなっしまうため、細胞が分散した状態で細胞膜を破壊することができる。なお、水の添加は、細胞懸濁液の流動が停止し、細胞がそれ以上移動しなくなった時点で行うことが望ましい。これは、細胞がまだ移動している間に細胞膜を破壊すると、その内容物が液の流動に従って移動し、細胞感で混じり合ったり、広く分散してしまったりするためである。
【0075】では、水はどのようにして添加するのが望ましいであろうか。例えば、基板としてガラス板を用いる場合には、ガラス表面に水を吸着させておく方法が考えられる。しかし、吸着水は、滴下された細胞懸濁液が広がる時にはじかれる傾向にあり、従ってどうしてもその量のコントロールは不安定になる。また、細胞懸濁液の広がった基板全体を水蒸気中に保持することも考えられるが、このようにした場合、細胞懸濁液中に取り込まれる水の量は、ほとんどコントロールできない。
【0076】そこで、水の量の正確なコントロールのために、細胞懸濁液の流動が停止した標本に、酸と水との混合液を噴霧、または滴下するか、あるいは、酸と水との混合蒸気中に標本をさらすことが好ましい。あるいは、細胞懸濁液の流動が停止した標本に、酸および水を同時に噴霧、または滴下してもよい。
【0077】なお、酸と水の混合液による細胞破壊作用は細胞の分裂期によっても異なるようである。酸と水との混合液を用いて細胞膜を破壊する場合、染色体が観察し易い状態の中期細胞の細胞膜が壊れやすい傾向にあり、染色体が完全に凝縮してしまった細胞や、逆に、染色体がほとんど凝縮していない細胞(染色体が細長い形状に見える細胞)は比較的壊れにくい傾向を示す。
【0078】従って、本発明によれば、標本の作成条件によっては、染色体が観察しやすい状態の中期細胞の細胞膜を選択的に破壊し、その内容物である染色体を観察可能な状態に分散することができ、かつ、染色体が観察しにくい状態の細胞については細胞膜を破壊せず、その内容物の流出を防止することができる。ゆえに、本発明によれば、細胞期の選択的な標本を得ることもできる。
【0079】従来より、染色体が基板(ガラス基板など)上で細胞より流れ出て標本となる過程における水の作用、は、例えば水の存在により個々の染色体が流れ易くなって広がりが良くなるというような物理的な作用であると考えられてきた。しかし、以上の実験結果の考察により、本発明者は、染色体の遊離に対する水の作用が、そのような物理的なものではなく、詳細は不明であるが、酸と水との混合状態が持つ化学的な作用が大きいと考えるに至った。そして、分裂中期の細胞が染色体の標本となる過程を、つぎのように考えた。
【0080】従来のように、低張処理を施した細胞をカルノア液により固定し、この液を基板上に滴下すると、細胞懸濁液は基板との塗れ性により表面上に広がっていく。この時の液の広がりは、基板と液の塗れ性および基板の水平面との傾きにより定まる。細胞懸濁液の溶媒は、広がると同時に蒸発を開始する。この溶媒の蒸発は成分により速度が異なるが、通常のカルノア液ではメタノールが先に蒸発する事になる。したがって、標本中の酢酸の割合は、次第に高まることになる。この時に系内に存在する水の量と、細胞懸濁液の持つ表面張力の大きさとが、細胞の割れ方、および、染色体の広がり方を決定すると考えられる。
【0081】上述の(b)の予め基板を水に浸しておく処理や、水蒸気中での処理が好ましいといわれているのは、上述のような物理的作用ではなく、実際には、酢酸と水の混合液を一時的に作り出して、細胞膜を破壊することができるために有効であったものと考えられる。
【0082】ただし、従来の技術では、本発明のように、細胞の分散が終了してから水を加えるのではなく、細胞懸濁液を基板上へ滴下する当初から水が存在していることになり、移動途中に細胞膜が破壊され、内容物が広範囲に流出する細胞がでてきてしまう。また、上述の実験(4)からわかるように、細胞膜を確実に破壊するためには、酸と水との混合比を一定の範囲内にコントロールする必要があるが、従来の方法では、水の量をコントロールすることは事実上できない。
【0083】しかし、本発明によれば、あらかじめ酸とアルコールとの混合液中に細胞を懸濁させ、この細胞懸濁液を基板上に滴下して懸濁液ごと細胞を拡散させ、その核酸が停止した後に、系内に水を加えて中期細胞の細胞膜を破壊し、染色体を遊離させるため、確実に、再現性よく良好な標本を得ることができる。
【0084】なお、本発明は、末梢血細胞、骨髄細胞、羊水細胞、胎盤絨毛細胞、固形癌細胞等、種々の細胞の染色体標本の調製に適用することができる。また、これらの細胞は、培養せずに直接低張処理したものであっても、培養後に低張処理したものであってもよい。
【0085】
【実施例】以下、本発明の実施例を図面を用いて説明する。なお、以下の実施例は、ヒトのリンパ球を試料として染色体の標本を作る実施例であるので、まず、細胞懸濁液の調製について説明する。
【0086】(1)細胞培養から低張処理ヒトの末梢血を10ml採取し、これをリンパ球分離用チューブ(商品名:LeucoPREP Becton Dickinson社製)に入れて遠心分離しリンパ球を含む液を得た。これをハンクス液(商品名:HANK'S BALANCE SALT SOLUTION, BioWHITTAKER社製)に入れてリンパ球を洗浄してから培養液にいれた。なお、培養液はRMPI 1640(商品名:RPMI MEDIUM 1640,IRVINE SCIENTIFIC社製より調製)8mlに子牛の胎児血清2ml、さらに細胞分裂刺激剤PHA-P(DIFCO LABORATORIES製)0.02mlを加えて作成した。この細胞を含む培養液を、炭酸ガスインキュベータにて69時間培養した後、細胞分裂阻止剤であるコルセミド(デメコルシン溶液、和光純薬)を0.1ml加えてさらに3時間培養した。培養後、遠心分離により細胞を回収し、0.075MのKCl溶液10mlにいれて、37℃にて10分間放置して低張処理を行った。
【0087】(2)固定処理低張処理を終えた低張液に、カルノア液(メタノールと酢酸の混合液でその混合比率が3:1になっている)を0.02ml滴下して撹拌した。この液を二つの遠心用のチューブに取り分け、遠心分離して、それぞれ細胞を分離した。
【0088】一方のチューブの細胞は、カルノア液にて固定し、さらにもう一度同液にて置換処理して細胞懸濁液(以下、細胞液Aと呼ぶ)を得た。
【0089】他方のチューブの細胞は、メタノールのみで固定し、続いて、メタノールをメタノールと酸の混合比率が10:1(体積比)である液に置換して、細胞懸濁液(以下、細胞液Bと呼ぶ)を得た。なお、ここでメタノールのみではなく、酸を加えているのは、メタノール処理だけでは細胞が収縮してしまうためである。
【0090】以上により得られた細胞懸濁溶液を用い、以下の条件で染色体いの標本を得た。
【0091】[実施例1]
A.標本作成用装置まず、本実施例1で用いた標本作成用装置について説明しておく。本実施例1で用いた標本作成用装置は、図1に示すように、筐体210と、細胞懸濁液供給部113と、細胞膜破壊液供給部114と、基板支持部211(図2に図示)とを備える。なお、図1では、基板支持部211の図示は省略した。
【0092】筐体210は、内部の隔壁116により2つのチャンバ111,112に仕切られている。チャンバ111は細胞を基板上で拡散させるための領域であり、チャンバ112は細胞膜を破壊するための領域である。隔壁116は、中央部分に、標本を作成する基板を、チャンバ111からチャンバ112に移動させるため窓部214を備える。なお、筐体210の前面は、標本基板の出し入れが容易なように、開閉可能になっている。
【0093】細胞懸濁液供給部113は、ピペッタを備る。ピペッタはマイクロピペットであり、その内部に保持された細胞懸濁液を、その先端から一定量ずつ排出するようになっている。ピペッタは、その先端が、細胞拡散用チャンバ111内に位置するように筐体210に取付けられている。
【0094】細胞膜破壊液供給部114は、噴霧ノズル117と、酸(本実施例では酢酸)と水との混合液(細胞膜破壊液)119を保持するための細胞膜破壊液保持部115と、圧縮空気を発生するエアコンプレッサ118および電源120とを備え、これらはこの順でパイプにより連通可能に接続されている。細胞膜破壊液供給部114は、起動されると、エアコンプレッサ118が駆動され、圧縮空気により、細胞膜破壊液保持部115内に保持された細胞膜破壊液119が一定量だけノズル117に送られ、一定量の霧化された細胞膜破壊液119がノズル117の先端からチャンバ112内に噴霧されるようになっている。
【0095】基板支持部211は、図2に示すように、円柱形の軸であり、長軸方向に移動可能、および円周方向に回動可能な状態で、筐体210の2つのチャンバ111,112を貫通している。なお、図2は、基板支持部211および筐体210の斜視図であるが、基板支持部211の構成が確認しやすいように、筐体210の前面と上面の図示を省略した。また、図2では、細胞懸濁液供給部113および細胞膜破壊液供給部114の図示は省略した。
【0096】基板支持部211は、スライドガラスを保持するための基板取付部212と、仕切補助板213とを備えている。基板取付部212は、隔壁116の窓部214を通過できる大きさであるが、仕切補助板213は、窓部214を完全に覆うことのできる大きさになっている。基板取付部212は、基板取付面215の四隅に基板挾持部216を備え、この基板挾持部216によって基板を挾持することにより、基板を基板取付面215に固定することができる。
【0097】この標本作成用装置を使用する際には、まず、基板支持部211の軸を操作して、基板取付部212が細胞拡散用チャンバ111の中央部分に位置し、かつ基板取付面215が水平方向に対して45度程度傾いているようにする。このときの基板取付部212および仕切補助板213の位置は、図2に実線で示した位置になり、基板取付部212の基板取付面215中央が、細胞懸濁液供給機構113のピペッタ先端の真下に位置することになる。
【0098】ここで、基板取付部212の基板取付面215にスライドガラスをセットし、細胞懸濁液供給機構113を操作て、あらかじめ定められた量の細胞懸濁液をスライドガラス上に滴下する。
【0099】つぎに、スライドガラス上の液の拡散が停止するのを待ったのち、基板支持部211の軸を45度回転させて基板取付面215を水平にして、隔壁116の窓部214を通して、細胞膜破壊用チャンバ112に移動させ、基板取付面215中央が、細胞膜破壊液供給部114のノズル先端117の真下に位置するようにする。このとき、基板取付部212および仕切補助板213は、図2に点線で示す場所212aおよび213aに位置することになる。なお、このとき、仕切補助板213は、図2の213aの位置にあり、隔壁116の窓部214を完全に覆っている。
【0100】最後に、細胞膜破壊液供給部114を起動して、一定量の細胞膜破壊液119をチャンバ112中のスライドガラスに噴霧したのち、自然乾燥すれば、染色体の標本が得られる。なお、本標本作成用装置では、チャンバ112内に細胞膜破壊液119を噴霧する際には、隔壁116の窓部214は仕切補助板213により覆われているので、細胞膜破壊液119が細胞拡散用チャンバ111内に混入することはない。
【0101】B.標本の作成まず、細胞懸濁液供給機構113のマイクロピペットを用いて、0.01mlの細胞液Bをスライドガラス(チャンバ111内の基板取付部215に固定されている)上に滴下し、自然に液が広がりきるまで待つ。
【0102】つぎに、基板保持部211の軸を回動してスライドガラスを水平にし、基板取付部215ごとスライドガラスをチャンバ111に移動させ、細胞膜破壊液供給機構114を起動して、噴霧ノズルから細胞膜破壊液119(本実施例では、酢酸と水との等量混合液)をスライドガラス上の懸濁液の表面に均一に噴霧し、自然乾燥した。得られた標本の写真(写真−34)を、図13R>3(c)に示す。なお、噴霧する混合液の量は、乾いたスライドガラス上に均一に噴霧したとき、ガラス表面が薄く曇状になる程度の量である。
【0103】本実施例1により調製された標本では、染色体が個々に識別可能な程度に広がり、かつ、染色体がその起因する細胞ごとにまとまっていて、他の細胞に起因するものとの混同を生じることなく、さらに、標本中心部と周辺部とを比較しても大きな差はなかった。また、本実施例1では、このような良好な標本を再現性よく調製することができた。
【0104】なお、本実施例1では、細胞膜破壊液をノズル117から直接スライドガラス上に噴霧したが、あらかじめノズル117から細胞膜破壊液をチャンバ112内に噴霧しておき、このチャンバ112内にスライドガラスを入れ、一定時間保持することにより、細胞懸濁液に細胞膜破壊液を加えるようにしてもよい。なお、このようにする場合には、チャンバ112内に細胞膜破壊液を噴霧する際には、隔壁116の窓部214を閉じる機構を設ける必要がある。
【0105】また、本実施例1のように、細胞膜破壊液をノズル117から噴霧するのではなく、超音波蒸気発生器などによって細胞膜破壊液の蒸気を発生させ、この蒸気で満たしたチャンバ内に、細胞懸濁液を広げたスライドガラスを入れ、一定時間保持することにより、細胞懸濁液に細胞膜破壊液を加えるようにしてもよい。
【0106】[実施例2]
A.標本作成用装置まず、本実施例2に用いた標本作成用装置を説明する。本実施例2で用いた標本作成用装置は、図3に示すように、上面および全面の囲まれていない筐体310と、該筐体310の上面に、長軸方向に移動可能なように取付けられたピペットホルダ313と、先端が下向きになるように該ピペットホルダ313に取付けられた2本のピペット311、312とを備える。ピペット311は細胞懸濁液滴下用のピペットであり、ピペット312は細胞膜破壊液(酸/水の混合液)滴下用のピペットである。
【0107】本実施例2の標本作成装置は、つぎのようにして使用される。まず、標本の基板(本実施例ではスライドガラス)314を筐体310の内部の、スライドガラス314中央が細胞懸濁液滴下用ピペット311の先端の真下になる位置に立てかけ、ピペット311より細胞懸濁液をスライドガラス314上に滴下する。つぎに、ピペットホルダ313を少し移動させて、細胞膜破壊液滴下用ピペット312の先端がスライドガラス314中央の真上に位置するようにし、スライドガラス314上の細胞懸濁液の移動が停止したら、ピペット312より細胞膜破壊液(酸/水の混合液)をスライドガラス上に滴下する。最後に、スライドガラス314を自然乾燥すれば、染色体の標本が得られる。
【0108】B.標本の作成まず、ピペット311を用いて、0.01mlの細胞液Bをスライドガラス314(チャンバ310内の所定の位置に立てかけられている)上に滴下し、自然に液が広がりきるまで待つ。
【0109】スライドガラス314上の細胞懸濁液の移動が停止したら、該細胞懸濁液中のアルコールが蒸発している間に、該細胞懸濁液表面に、ピペット312を用いて細胞膜破壊液(酢酸と水との等量混合液)を0.005ml滴下し、その後自然乾燥して染色体標本を得た。
【0110】本実施例3により調製された標本では、細胞懸濁液中に含まれる酢酸の量が少ないにも拘らず、染色体は良好に拡散しており、かつ周辺部と中央部との差も少なかった。なお、本実施例3により調製された標本では、周辺領域では染色体がやや過度に広がる傾向が見られたが、特に標本の観察上問題になるほどではなかった。
【0111】[実施例3]
A.標本作成用装置本実施例で用いた標本作成用装置は、図4に示すように、細胞膜破壊液供給部114の構成を除けば、実施例1で用いた標本作成用装置と同様である。ただし、実施例1の装置では、あらかじめ酸と水との混合液を用意し、この混合液を細胞膜破壊液保持部115に保持して、これを噴霧するのに対して、本実施例の装置では、酸と水とをあらかじめ混合しておかずに、酸と水とを別々に噴霧する。なお、図4では、基板支持部211の図示は省略した。
【0112】すなわち、本実施例3の細胞膜破壊液供給部114は、2系統の液体噴霧機構を備える。第1の液体噴霧機構は、この順で連通可能にパイプにより接続された、酸の噴霧のための噴霧ノズル117aと、酸119aを保持するための酸保持部115aと、圧縮空気を発生するエアコンプレッサ118および電源120(図4R>4では図示を省略した)とを備える。また、第2の液体噴霧機構は、この順で連通可能にパイプにより接続された、水119bを噴霧するための噴霧ノズル117bと、水を保持するための水保持部115bと、圧縮空気を発生するエアコンプレッサ118および電源120(図4では図示を省略した)とを備える。
【0113】細胞膜破壊液供給部114は、起動されると、2つのエアコンプレッサ118から供給される圧縮空気により、第1の液体噴霧機構からは酸が、第2の液体噴霧機構からは水が、それぞれチャンバチャンバ112内に噴霧されるようになっている。従って、本実施例3の標本作成用装置の細胞膜破壊液供給部114は、直接細胞膜破壊液を供給するのではなく、第1の系統からは酸が、第2の系統からは水が、それぞれ別々に噴霧され、噴霧後にこれらが混合することにより、結果として細胞膜破壊液が供給することになる。
【0114】B.標本の作成まず、細胞懸濁液供給機構113のマイクロピペットを用いて、0.01mlの細胞液Bをスライドガラス(チャンバ111内の基板取付部215に固定されている)上に滴下し、自然に液が広がりきるまで待つ。
【0115】つぎに、基板保持部211の軸を回動してスライドガラスを水平にし、基板取付部215ごとスライドガラスをチャンバ111に移動させ、細胞膜破壊液供給機構114を起動して、酸用噴霧ノズル117aからは酸119a(本実施例では酢酸)を、水用噴霧ノズル117bからは水119bを、それぞれ噴霧時間の制御により等量ずつ、スライドガラス上の懸濁液の表面に均一に噴霧し、自然乾燥した。なお、噴霧する各液の量は、それぞれ、乾いたスライドガラス上に均一に噴霧したとき、ガラス表面が薄く曇状になる程度の量である。
【0116】本実施例3では、実施例1と同様に、染色体が個々に識別可能な程度に広がり、かつ、染色体がその起因する細胞ごとにまとまっていて、他の細胞に起因するものとの混同を生じることなく、さらに、標本中心部と周辺部とを比較しても大きな差のない標本を、再現性よく得ることができた。
【0117】なお、ここでは、等量比の酢酸と水の混合液を基板上で作るために、噴霧ノズル117aおよび117bとして、単位時間当たりの噴霧量の等しいノズルを用い、さらに噴霧時間も一致させたが、酸と水との混合比は、ノズルの噴霧能および/または噴霧時間を変えることにより、任意の比率に調製することができる。
【0118】[比較例1]マイクロピペットを用いて、0.01mlの細胞液Aをスライドガラス上に滴下し、自然に液が広がりきるまで待った後、自然乾燥した。得られた標本の写真(写真−32)を、図13(a)に示す。
【0119】本比較例1により調製された標本では、細胞の広がり具合に標本ごとのばらつきがあり、さらに標本の中心部と周辺部では細胞の状態が違っている。すなわち、周辺部では、破損細胞や起因する細胞のはっきりしない細胞内容物が多く観察された。これは、細胞懸濁液がガラス表面に広がる際、割れてしまう細胞があり、この破壊された細胞の内容物の一部はバラバラになって周辺部まで運ばれるためであると考えられる。
【0120】[比較例2]マイクロピペットを用いて、0.01mlの細胞液Bをスライドガラス上に滴下し、自然に液が広がりきるまで待った後、自然乾燥した。得られた標本の写真(写真−33)を、図13(b)に示す。
【0121】本比較例2により調製された標本では、染色体がまだ細胞の形の中に残っているように見える。細胞外に広がった染色体はほとんどなく、また細胞によっては細胞膜が残ったままになっているものも見られる。従って、本比較例2により調製された標本では、個々の染色体の観察が困難であり、染色体の標本として望ましいものではない。
【0122】[比較例3]まず、スライドガラスを10分間水に浸して表面に水を吸着させた。つぎに、マイクロピペットを用いて、0.01mlの細胞液Bを、水の付着したままの、水を吸着させたスライドガラス上に滴下し、自然に液が広がりきるまで待った後、自然乾燥し、染色体の標本を得た。得られた標本では、細胞膜の破壊が十分ではなかった。これは、本比較例3では、滴下された細胞懸濁液は、スライドガラス表面に付着した水を押し広げるようにしてガラス表面に広がるため、十分な水の効果が得られないためであると考えられる。
【0123】
【発明の効果】本発明によれば、標本作成者の熟練度にかかわりなく、染色体を明瞭に識別することのできる標本を、再現性よく得ることができる。従って、本発明により作成された標本を用いれば、染色体の検査における所要時間の短縮や、精度の向上などの効果がある。さらに、本発明によれば、細胞分裂の分裂期に応じた選択的標本の調製がある程度可能になる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 実施例1の標本作成用装置の斜視図である。
【図2】 実施例1の標本作成用装置の部分斜視図である。
【図3】 実施例2の標本作成用装置の斜視図である。
【図4】 実施例3の標本作成用装置の斜視図である。
【図5】 細胞の変遷について説明するための、細胞の形態を示す写真である。
【図6】 水の影響を示すための、細胞の形態を示す写真である。
【図7】 水の影響を示すための、細胞の形態を示す写真である。
【図8】 酸および水の影響を示すための、細胞の形態を示す写真である。
【図9】 カルノア液の影響を示すための、細胞の形態を示す写真である。
【図10】 酸の種類および量の影響を示すための、細胞の形態を示す写真である。
【図11】 酸と水との混合比の影響を示すための、細胞の形態を示す写真である。
【図12】 アルコールの種類および量の影響を示すための、細胞の形態を示す写真である。
【図13】 実施例1、比較例1、および比較例2により得られた標本における、細胞の形態を示す写真である。
【符号の説明】
111…細胞拡散用チャンバ、112…細胞膜破壊用チャンバ、113…細胞懸濁液供給部、114…細胞膜破壊液供給部114、115…細胞膜破壊液保持部、116…隔壁、117…噴霧ノズル、117a…酸用噴霧ノズル、117b…水用噴霧ノズル、118…エアコンプレッサ、119…細胞膜破壊液、119a…酸、119b…水、120…電源、210…筐体、211…基板支持部、212…基板取付部、213…仕切補助板、214…隔壁の窓部、215…基板取付面、216…基板挾持部、310…筐体、311…細胞懸濁液滴下用ピペット、312…細胞膜破壊液滴下用ピペット、313…ピペットホルダ、314…標本基板。

【特許請求の範囲】
【請求項1】細胞を低張処理する低張工程と、上記低張処理された細胞を、酸とアルコールとの混合溶液中に懸濁させ、細胞懸濁液を得る固定工程と、上記細胞懸濁液を基板上に滴下し、基板上で細胞を拡散させる拡散工程と、上記基板上の細胞懸濁液中の細胞に、水と酸とを作用させる細胞膜破壊工程とを、この順で有することを特徴とする染色体標本の製造方法。
【請求項2】請求項1において、上記細胞膜破壊工程は、上記拡散工程において上記基板上に滴下された細胞懸濁液が流動していない状態で行われることを特徴とする染色体標本の製造方法。
【請求項3】請求項1において、上記細胞膜破壊工程は、上記基板上の細胞懸濁液に、水と酸との混合液を添加することにより、上記細胞に水と酸とを作用させることを特徴とする染色体標本の製造方法。
【請求項4】請求項3において、上記水と酸との混合液の添加は、該混合液の噴霧、または滴下により行われることを特徴とする染色体標本の製造方法。
【請求項5】請求項3において、上記水と酸との混合液の添加は、上記細胞懸濁液を滴下した基板の雰囲気を、該混合液の蒸気とすることにより行われることを特徴とする染色体標本の製造方法。
【請求項6】請求項1において、上記細胞膜破壊工程は、上記基板上の細胞懸濁液に、水と酸とをそれぞれ添加することにより、上記細胞に水と酸とを作用させることを特徴とする染色体標本の製造方法。
【請求項7】請求項6において、上記酸と水との添加は、酸および水を、それぞれ、噴霧または滴下することにより行われることを特徴とする染色体標本の製造方法。
【請求項8】請求項1において、上記酸とアルコールとの混合溶液中のアルコールの体積は、混合溶液全体の3/4以上であることを特徴とする染色体標本の製造方法。
【請求項9】請求項8において、上記酸とアルコールとの混合液中のアルコールの体積は、混合溶液全体の5/6以上であることを特徴とする染色体標本の製造方法。
【請求項10】請求項1において、上記酸とアルコールとの混合溶液中の酸は、カルボン酸であることを特徴とする染色体標本の製造方法。
【請求項11】請求項1において、上記細胞膜破壊工程において、細胞に作用させる酸は、カルボン酸であることを特徴とする染色体標本の製造方法。
【請求項12】請求項10または11において、上記カルボン酸は、酢酸、ギ酸、乳酸、酪酸、およびプロピオン酸の内の少なくとも一種であることを特徴とする染色体標本の製造方法。
【請求項13】請求項12において、上記カルボン酸は、酢酸であることを特徴とする染色体標本の製造方法。
【請求項14】請求項1において、上記アルコールは、炭素数1〜3の脂肪族アルコールであることを特徴とする染色体標本の製造方法。
【請求項15】請求項14において、上記アルコールは、メタノール、エタノール、プロパノール、およびアリルアルコールの内の少なくとも一種であることを特徴とする染色体標本の製造方法。
【請求項16】請求項1において、上記細胞膜破壊工程において作用させる酸と水との体積比は、酸:水=10:1〜1:10であることを特徴とする染色体標本の製造方法。
【請求項17】請求項16において、上記細胞膜破壊工程において作用させる酸と水との体積比は、酸:水=10:1〜1:1であることを特徴とする染色体標本の製造方法。
【請求項18】請求項17において、上記細胞膜破壊工程において作用させる酸と水との体積比は、酸:水=5:1であることを特徴とする染色体標本の製造方法。
【請求項19】基板を保持するための基板保持部と、上記基板に、あらかじめ定められた量の細胞懸濁液を滴下する細胞懸濁液供給機構と、上記細胞懸濁液の滴下された基板に、酸および水を添加する細胞膜破壊液供給機構とを備えることを特徴とする染色体標本の製造装置。
【請求項20】請求項19において、上記細胞膜破壊液供給機構は、液体を噴霧するための噴霧ノズルを備えることを特徴とする染色体標本の製造装置。
【請求項21】請求項20において、上記細胞膜破壊液供給機構は、酸と水との混合液を保持するための細胞膜破壊液保持部を、さらに備えることを特徴とする染色体標本の製造装置。
【請求項22】請求項20において、上記噴霧ノズルは、少なくとも二つ備えられ、一方は酸の噴霧のためのノズルであり、他方は水の噴霧のためのノズルであることを特徴とする染色体標本の製造装置。
【請求項23】請求項19において、上記細胞膜破壊液供給機構は、液体を蒸気にするための機構を備えることを特徴とする染色体標本の製造装置。
【請求項24】請求項19において、基板保持部は、細胞懸濁液を供給するためのチャンバと、細胞膜破壊液を供給するためのチャンバとを備えることを特徴とする染色体標本の製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図10】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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