説明

栗の整枝・剪定・結実・摘果方法

【課題】有機土壌に苗木を植付し、太陽光を十分に受けながら複数本の枝を成長させ、主幹を勢よく成長させながら夫々の枝の根本に陰芽(コブ)を形成してすべての枝から大果で高品質の栗を発生させる栗の整枝・剪定・結実・摘果方法を提供する。
【解決手段】苗木1を主幹2に成長させながら、2枝乃至3枝を残して他を切除し、すべての枝の基端に陰芽10を発生させ、勢のある結果母枝5や発育枝4を発生させて花芽を結実して果実(栗)を生産する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、栗の木に太陽光が十分に照射でき、樹勢旺盛で大果で高品質の栗が出来、炭疽病の発生がほとんどなく、化学薬品による消毒もなく多量の栗が安定的に出来る栗の整枝・剪定・結実・摘果方法に関する。
【背景技術】
【0002】
栗の製造方法としては従来確一的の同一の方法によって行われ、主として巨木によるものが多く、太陽光への照射度も悪く、炭疽病の発生や内部に虫の成長もしているものもあり、化学薬品による消毒も必要とされていた。従って、以下に説明する本発明の如き栗の製造方法はないが、例えば、「特許文献1」に示すものが一例として挙げられる。しかし、このものは本発明とはかなり相違するものである。
また、本願発明の出願人としては平成22年6月24日付で「側枝更新剪定を行う栗の整枝方法」と言う名称で特許出願を行って既に登録されたものを保有しているが、本願発明はこのものとは異なる方法ではあるが同一の目的を達成する栗の製造方法に関するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−183187(図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記のように、従来における栗の整枝方法としては栗樹を土壌に栽植し、変則主幹形成等の剪定を基本として栗樹の生長にまかせて自然に整枝させる方法がとられている。この従来の整枝方法では栗樹は巨木となるため栽植後数年は剪定して巨木にならないようにする剪定作業が行われている。しかしその後は巨木となっているため放置されて自然に栗を生産する方法が一般的に行われている。この従来の方法では比較的小玉の栗しか生産されず、その大きさもまちまちである。特に大きな問題としては炭疽病にかかるものが大量に発生する問題点がある。炭疽病は古い枝に寄生するものであり、雨水等により毬果内に浸入する。また、前記のように巨木になるため広い栽培面積が必要になり、生産性において劣ると共に収穫作業においても能率的でない問題点がある。また、土壌や果実に化学薬品をかける必要があり、環境保全と健康保全に逆行する問題点があった。
栗の製造方法としては、樹勢が常に旺盛に保つことが出来、発育枝の発生度合がよく、葉も大きく養分の吸収もよく、炭疽病の発生もなく、生産性の向上が図られ、化学薬品の使用もなく、太陽光の自然の恵みと土壌からの養分の吸収もよく、収穫作業も老若男女で容易に出来、土壌面積も小さくて済む方法が期待されている。
【0005】
以上のように、従来の栗の製造方法としては種々の問題点があり、この解決手段として本発明の出願人は特願2010−143532号の開発を行って登録されたものであり、この方法も優れたものであるが、更に、研究を進め、より従来の各種の問題点を解決し栗の製造方法として極めて特徴のあるものとして栗の整枝・剪定・結実・摘果方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以上の目的を達成するために、請求項1の発明は、土壌に苗木を植付ける第1ステージは太陽光と土壌水分をもらって複数本の小枝や発育枝が生じる。頂部先端は新梢枝の車枝が発生する。第2ステージは剪定時(2年目2月)主幹からの発育枝を2〜3本残し枝の先端4〜5cmで切り返す。一方、その他の発育枝は主幹基部から1〜2芽を残し切除する。主幹頂部は3本の新梢枝が車枝状に発生するので中心の1本を残し、他の2本は切除する。この作業は樹形完成まで継続する。第3ステージは剪定時(3年目2月)主幹の成長と共に、主幹基部から発育枝や新梢枝が発生する。これらの枝の取扱は第2ステージの枝の延長で枝の取扱と同じである。主幹基部の結果母枝(発育枝)の基部の陰芽から新梢枝や発育枝が発生するため新梢枝を残して更新剪定を行う、第4ステージは主幹伸長に従って、第3ステージと同じ整枝を行う。主幹肥大すると共に主幹基部に枝の切り返しに従って陰芽はコブ状にふくらみ、このコブ状の陰芽から発育枝や新梢枝が発生するため更新剪定の基礎ができる。第5ステージは樹高、側枝更新のコブが形成され樹形の完成である。
【0007】
また、請求項2の発明は、前記土壌が有機堆肥を用いた有機土壌であることを特徴とする。
【0008】
また、請求項3の発明は、成長した最終形態において、最下部の陰芽と土壌との間には40cm乃至50cmの間隔が形成され、各陰芽間は少なくとも15cmの間隔が形成されることを特徴とする。
【0009】
また、請求項4の発明は、成長した最終形態において、主幹の高さは170cm以下に保持されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の請求項1の栗の整枝・剪定・結実・摘果方法によれば、第1ステージから第5ステージにかけて栗の整枝や剪定、結実や摘果が順次整然と行われ、主幹は太陽光の直接照射と土壌からの養分の吸収が十分に出来、炭疽病等の発生の可能性もなく、陰芽(コブ)の形成により新梢の形成が確実に安定的に出来、多量の栗生産ができ、栗の摘果も容易に出来る効果を上げることが出来る。
【0011】
また、本発明の請求項2の栗の整枝・剪定・結実・摘果方法によれば、土壌として有機堆肥を用いた有機土壌が採用され、主幹の効率的成長が出来、かつ化学肥料や薬品を使用する必要がなく安全性の向上と環境保全が出来る。
【0012】
また、本発明の請求項3の栗の整枝・剪定・結実・摘果方法によれば、枝の間隔を表示のように保持することにより、車枝の発生や上方側の枝の成長の阻害もなく、土壌からの悪影響のない効果を上げることが出来る。
【0013】
また、本発明の請求項4の栗の整枝・剪定・結実・摘果方法によれば、主幹の高さが1.7mであり、栗の摘果が誰でもが容易に出来る効果を上げることができ、老若男女でも摘果が容易に出来る効果を上げることが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明における第1ステージを説明するための模式図(a),(b),(c)。
【図2】本発明における第2ステージを説明するための模式図(a),(b),(c)。
【図3】本発明における第3ステージを説明するための模式図(a),(b),(c),(d)。
【図4】本発明における陰芽の詳細構造を示す部分断面図。
【図5】本発明における第4ステージを説明するための模式図(a),(b)。
【図6】本発明における第5ステージを説明するための模式図。
【図7】本発明の方法を説明するためのフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の栗の整枝・剪定・結実・摘果方法の実施の形態を図面を参照して詳述する。なお、この方法は第1ステージから第5ステージにより行われる。
【実施例】
【0016】
第1ステージを図1(a),(b),(c)により説明する。
a)図1(a)に示すように、複数の小枝1aを有する1本の細長(約80cm乃至100cm)の栗の苗木1を土壌11に植付する。この植付けは秋が望ましい。また、苗木1については色々なものがあるがノウハウ的のものであり、ここでの説明は省略する。
また、土壌11は特に限定するものではないが、有機堆肥を使用した有機土壌であることが望ましい。この内容は各種のものがあり、生産地域によって夫々その地域に適したものが使用されるが、ノウハウ的のものであり、ここではその内容の説明は省略する。
b)図1(a)に示した苗木1はその年に生育し、まず、図1(b)に示す形態となる。即ち、夫々の小枝1aより枝が成長し新梢枝6が形成される。また、苗木1はやや太くなり主幹2となる。なお、小枝1aから新梢枝6は成長するが主幹2の頂部には上方に向かって成長する約3本の新梢枝6が形成される。この上方の新梢枝6は土壌11からの養分を主幹2に引き上げる機能を果すものである。
c)新梢枝6は結果母枝にならない弱い枝で主として葉のみを養生するものであるが、この中で勢のある新梢枝6は発育枝4となり、例えば、図1(c)にその状態が示されている。図示では説明の都合上すべての新梢枝6を発育枝4としているが、これに限定するものではない。この発育枝4は結果母枝となる枝であり、勢のある枝である。
【0017】
次に、図2(a),(b),(c)により、第2ステージを説明する。第2ステージは第1ステージ1の次の年(2年目)であり、剪定と生育との2通りのものからなり、以下に図2(a)により剪定を図2(b),(c)により生育を説明する。なお、剪定は2年目の冬期に行われる。
a)図2(a)に示すように、複数の発育枝4の内、2本乃至3本の枝のみを残し(図示は3枝)、他の発育枝4はその基部(主幹2側)の1芽乃至2芽を残して切除7を行う。図示では前記のように3本の発育枝4を残しているが勿論これに限定するものではない。また、図示のように頂部の新梢枝6は3本のものを1本としている。これは3本のまま残しておくと夫々から芽が成長し、樹形が乱れると共に1本のみで十分に土壌11の成分を主幹2に吸引できる能力を有するからである。以後の工程でも頂部の新梢枝6は約3本成長するが1本にする剪定を行う。
b)図2(b)に示すように、残された3本の発育枝4はその先端を5cm乃至6cm切り返し8を行う。発育枝4を切り返ししないでそのままにしておくとその先端に花芽が生じ主幹2等の発育の障害となるためであり、この点が本発明の1つの特徴である。
c)図2(c)は図2(a),(b)を行った後の生育状態を示したものであり、夫々の切除7の部位から発育枝4(正確には新梢枝6から発育したもの)が形成される。ここで、主幹2は高さ120cm程度まで成長し、その太さも太くなる。
【0018】
図3(a),(b),(c),(d)は第3ステージを示すものであり、第3ステージは樹形の形成期に当る。
a)図3(a)に示すように、3本残った発育枝4は毬果をつける結果母枝5に成長すると共にその基部側から新しい発育枝4が発生する。
b)次に、図3(b)に示すように、3本の結果母枝5は基部側から切除され(7)他の発育枝4はその先端側を切り返し(8)を行う。
c)図3(c)に示すように、結果母枝5の切除7を行うことによってこの基部が肥大化し、陰芽10(コブとも言う)が形成される。
d)同様のことが他の発育枝4にも順次行われ、第3ステージとしては図3(d)に示す状態となり、すべての枝の基部には陰芽10ができ、ここから結果母枝5と発育枝4が成長した状態となり、主幹2も150cm位まで成長する。
【0019】
図4は陰芽10の詳細構造を示すものである。この陰芽10は主幹2に基端側を一体的に固着したものからなり、この陰芽10からは結果母枝5と発育枝4が数本発生するが、樹形維持のための障害にならない程度の間引きが必要であり、発育枝は1本に整理することが望ましい。
【0020】
図5(a),(b)は第4ステージを示すものである。
a)図3(d)に示した状態にある各枝の内、当初の3本の結果母枝5には毬果13が生じ毬果結果母枝12となる。
b)次に、図5(a)における毬果結果母枝12を基部側から切除する。その他の結果母枝5には毬果13が生ずる。また、3本の毬果結果母枝12の部位の発育枝4は結果母枝5に成長する。また、3本の枝の他の枝の結果母枝5は毬果結果母枝12となり毬果13が生ずる。ここで、主幹2も160cm位まで成長する。
【0021】
図6は第5ステージで最終的の形状を示すものであり、陰芽10から順次結果母枝5及び発育枝4が成長し、各結果母枝5には毬果(果実)13が結果した状態が示されている。この毬果は1個のみとする。主幹2は170cm位に成長し、果実13が夫々の枝から摘果される。ここで、全体の形状としては最下部の枝と土壌11の間には40cm乃至50cmの間隔を形成し、各枝間には少なくとも15cm間隔をとるように全体形状を整えることが必要となる。これは車枝を下げるためと樹形維持のために必要である。これ等の間隔の形成は前記の夫々の成長過程において不要の枝の切除を考慮すべきものであり、その時期や内容については限定するものではないが、用済みの下部枝から順次上部に移って行うことが1つの手段として採用される。但し、ここでの詳細な説明は省略する。
【0022】
以上により、第1ステージから第5ステージの詳細な説明をしたが、図7に第1ステージから第5ステージまでの内容を簡便に説明したフローチャートを示す。
【0023】
以上のように、本発明の栗の整枝・剪定・結実・摘果方法によれば、主幹2は太陽光を受け勢よく成長し、すべての枝には陰芽10が出来、結果母枝や発育枝がすべて発生し、成長して栗を摘果することが出来る。
また、主幹2の高さは最高で1.7mであり、誰でもが容易に摘果出来る。また、従来のような巨木に成長することがなく、炭疽病の発生もなく、太陽光を十分に受けながら成長するため消毒用薬品も不要である。また、植付面積も小さくて済む。
以上のことから、この本発明の栗の整枝・剪定・結実・摘果方法によればすべての栗生産の場所に適用されることができ、高品質で大果で無害な栗を多数個製造することができ、栗の用途の一層の開発が可能となる。
【0024】
本発明は、以上の説明の内容からなるが、本発明は以上の内容に限定されるものではない。同一技術的範疇のものが適用されることは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明は、すべての栗の生産に適用されるものであり、日本国内に限らず外国にでも適用され、その利用範囲は極めて広い。
【符号の説明】
【0026】
1 苗木
1a 小枝
2 主幹
4 発育枝
5 結果母枝
6 新梢枝
7 切除
8 切り返し
10 陰芽(コブ)
11 土壌
12 毬果結果枝
13 毬果

【特許請求の範囲】
【請求項1】
土壌に細長の苗木を植付け太陽光と土壌の養分をもらってその複数の小枝及び頂部から新梢枝を成長させてこれを発育枝とする1年目の第1ステージと、2年目の冬に複数本の前記発育枝の内の2本乃至3本を残して他の前記発育枝を主幹側の基部で1芽乃至2芽残して切除を行うと共に残された前記発育枝の先端を4cm乃至5cm切り返す剪定を行い、切除された部位から新しい発育枝を成長させる生育を行う第2ステージと、切り返しを行った発育枝を結果母枝とし、その基端側から発育枝を成長させると共に前記結果母枝を基端側から切除し他の発育枝の先端に切り返しを行う剪定を行い、結果母枝を切除した枝の基部に陰芽を形成し、更に全体を成長させてすべての枝の基部に陰芽を形成し、この陰芽から結果母枝と発育枝を成長させる3年目の第3ステージと、当初の2本乃至3本の枝の結果母枝を毬果を先端に形成する毬果結果母枝として毬果をもぎとり、更に残りの全体の枝を毬果結果母枝とする4年目の第4ステージと、全体の形態として主幹に固定されて形成されるすべての陰芽から結果母枝と発育枝とを成長させて毬果を形成させる5年目の第5ステージとを順次実施することを特徴とする栗の整枝・剪定・結実・摘果方法。
【請求項2】
前記土壌が有機堆肥を用いた有機土壌であることを特徴とする請求項1に記載の栗の整枝・剪定・結実・摘果方法。
【請求項3】
成長した最終形態において、最下部の陰芽と土壌との間には40cm乃至50cmの間隔が形成され、各陰芽間は少なくとも15cmの間隔が形成されることを特徴とする請求項1に記載の栗の整枝・剪定・結実・摘果方法。
【請求項4】
成長した最終形態において、主幹の高さは170cm以下に保持されることを特徴とする請求項1又は3に記載の栗の整枝・剪定・結実・摘果方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−217405(P2012−217405A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−87834(P2011−87834)
【出願日】平成23年4月12日(2011.4.12)
【特許番号】特許第4873392号(P4873392)
【特許公報発行日】平成24年2月8日(2012.2.8)
【出願人】(592078081)稲本マシンツール工業株式会社 (3)