説明

核燃料ペレットおよびその製造方法

【課題】粒度分布幅が狭く、かつ、流動性を有する造粒物を生成し、微細粉末発生を抑制し、かつ、造粒物歩留まりを高めた核燃料ペレット及びその製造方法を実現する。
【解決手段】ウラン酸化物粉末あるいはウラン・プルトニウム混合酸化物粉末に、有機溶剤で希釈したポリビニルブチラールまたは水を凝集助剤として添加して混練し、前記造粒は、前記混練物を押出して短い棒状物を形成する第1造粒工程と、前記棒状物を回転プレートによって小片に切断するとともに整粒する第2造粒工程とによって行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軽水炉や高速増殖炉に用いられる核燃料ペレットおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
沸騰水型原子炉(以下、BWRという。)、加圧水型原子炉(以下、PWRという。)等の軽水炉や高速増殖炉の炉心には、金属製の被覆管内に充填された核燃料ペレットとしての酸化物燃料ペレットが装荷されている。
【0003】
従来の酸化物燃料ペレットの製造は、図5に示すように、ウラン酸化物粉末(以下、UO粉末という。)またはウラン・プルトニウム混合酸化物粉末(以下、MOX粉末という。)をタブレット形態にプレス成形し、これを解砕・整粒して得られる造粒物を冷間圧縮成形してグリーンペレットを生成し、続いて、得られたグリーンペレットを焼結炉内においてN+HあるいはH等の還元性ガス雰囲気下で加熱して焼結処理することにより、核燃料ペレットである焼結ペレットを得る方法で行っている。
【0004】
しかし、この方法では、タブレット成形工程、解砕・整粒工程において多くの微細粉末が発生する。この微細粉末は、造粒物に混入して製品組成を変動させるために、核燃料ペレットとしての仕様が満足できなくなる問題がある。また、微細粉末は空間線量率を増加させることから、手作業による機器保守等において作業者の被曝線量を増大させる問題がある。
【0005】
そこで、UO粉末またはMOX粉末からタブレットを成形し、これを解砕・整粒して得られる造粒物を用いてグリーンペレットを生成する工程に替えて、UO粉末またはMOX粉末を転動造粒して得られる造粒物からグリーンペレットを生成する工程を採用することで、微細粉末発生を抑制する方法が提案されている。(特許文献1)
造粒物を冷間圧縮成形してグリーンペレットを生成する工程では、造粒物の流動性によって、必要とされる成形圧力が変動する。そこで、造粒物の流動性を一定なものとするために、造粒物を分級し、所要の粒度のもののみを使用するようにしている。
【0006】
しかし、上記した酸化物燃料ペレットの製造に用いる転動造粒方法は、造粒物の粒度が広く分布することになることから、上記した酸化物燃料ペレットの製造方法においては、所要粒度の造粒物の製造歩留まりが低下する問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平10−186075号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、粒度分布幅が狭く、かつ、流動性を有する造粒物を生成することにより、ペレット製造工程における微細粉末発生を抑制するとともに造粒物の製造歩留まりを高めることができる核燃料ペレット及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上述した問題点を解決するために、核燃料物質であるUO粉末あるいはMOX粉末を含んだ核燃料酸化物粉末(以下、酸化物粉末という。)に凝集助剤を添加して混練して押出すことにより短辺の棒状物にした後に該棒状物を小辺に切断して整粒することによって、粒度分布幅が狭く、かつ、流動性を有する造粒物を生成することにより、ペレット製造工程における微細粉末発生を抑制するとともに造粒物歩留まりを高めた核燃料ペレット及びその製造方法を実現するものである。
【0010】
具体的には、
第1の発明は、ウラン酸化物粉末あるいはウラン・プルトニウム混合酸化物粉末に凝集助剤を添加して混練し、混練物を造粒、成形ならびに焼結して製造する核燃料ペレットの製造方法において、
前記造粒は、前記混練物を押出して短い棒状物を形成する第1造粒工程と、前記棒状物を回転プレートによって小片に切断するとともに整粒する第2造粒工程とによって行われることを特徴とする。
【0011】
第2の発明は、第1の発明における凝集助剤は、有機溶剤で希釈したポリビニルブチラールまたは水であることを特徴とする。
【0012】
第3の発明は、第1または2の発明において、前記凝集助剤が有機溶剤で希釈したポリビニルブチラールの場合は、ウラン酸化物粉末あるいはウラン・プルトニウム混合酸化物粉末1gに対して0.30cm〜0.40cmを添加することを特徴とする。
【0013】
第4の発明は、第1または2の発明において、前記凝集助剤が水の場合は、ウラン酸化物粉末あるいはウラン・プルトニウム混合酸化物粉末1gに対して0.10cm〜0.20cmを添加することを特徴とする。
【0014】
第5の発明は、第1〜4の発明の1つの核燃料ペレット製造方法によって製造されたことを特徴とする核燃料ペレットである。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る核燃料ペレット及びその製造方法は、核燃料物質を含む酸化物粉末に凝集助剤として有機溶剤で希釈したポリビニルブチラールまたは水を添加して混練し、この混練物を用いて押出、整粒することにより流動性を有する粒度分布の狭い造粒物を生成し、この造粒物を使用して成形、焼結するものであることから、造粒物の歩留まりを高くすることができる。
【0016】
さらに、核燃料ペレットの製造においては、粒度分布の狭い造粒物であることから、微細粉末の発生を抑制することができ、機器保守等における作業者の被曝線量増大の危険性を軽減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の焼結ペレット製造方法の一実施例を示すフローチャートである。
【図2】本発明による造粒物の分級結果を示す棒グラフである。
【図3】従来技術による造粒物の分級結果を示す棒グラフである。
【図4】本発明により製造した焼結ペレットの組織構造を示す図面(写真)である。
【図5】従来技術による焼結ペレット製造のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明に係る核燃料ペレットは、BWRやPWRの軽水炉の炉心または高速増殖炉の炉心に装荷される金属製被覆管内に充填して使用される。核燃料ペレットのペレット寸法(高さ対直径比)は、使用される被覆管の内径に応じて適宜設定される。核燃料ペレットの寸法は、BWRやPWRの軽水炉用には、直径8mmから12mm程度、高さ10数mm程度、高速増殖炉用には、直径5mmから10mm程度、高さ10mm程度の円柱状の酸化物粉末を焼結したものが用いられる。
【0019】
その核燃料ペレットおよびその製造方法の実施形態について、図1を参照して説明する。
【0020】
核燃料ペレットの製造は、図1に示すように、酸化物粉末に湿分を与える凝集助剤を添加して混練、押出し、整粒する造粒工程(ステップS1)と、前記造粒工程によって得た造粒物を圧縮成形しグリーンペレットとするペレット成形工程(ステップS2)と、前記ペレット成形工程によって得たグリーンペレットを焼結して焼結ペレットとする焼結工程(ステップS3)によって行われる。
【0021】
造粒工程(ステップS1)は、酸化物粉末に凝集助剤を添加して混練し、流動物とする混練工程(ステップS1−1)と、その混練物をメッシュ状の穴から押出して短辺の棒状物を生成する押出工程(ステップS1−2)と、さらに、短辺の棒状物を小片の造粒物とする整粒工程(ステップS1−3)の3つの工程で構成する。
【0022】
具体的には、混練工程(ステップS1−1)においては、ニーディングシャフトを用いて酸化物粉末を撹拌しながら凝集助剤を噴霧することにより、酸化物粉末全体に湿分を均等に含有させる。凝集助剤は、発明者らの各種実験の結果、有機溶剤で希釈したポリビニルブチラール(PVB)あるいは水で構成することが好ましいことを知見した。
【0023】
このような混練工程を実現するための混練機は、例えば、シグマ型羽根を並列に設けたニーディングシャフトおよび前記ニーディングシャフトを駆動するモータで構成するバッチ・ニーダーを使用するとよい。
【0024】
ここで、酸化物粉末に与えられる凝集助剤による湿分が過少であると、押出工程(ステップS1−2)において、酸化物粉末同士の凝集状態が維持されず、一部が粉末状態に戻るなどして、円柱形状の造粒物を生成することができなくなる。一方、酸化物粉末に与えられる湿分が過大であると、押出工程後に造粒物同士が癒着し、整粒工程において粗大な造粒物が生成され、所要の粒度の造粒物が生成されにくくなることから、核燃料ペレットの製造方法としての実用性が損なわれる。
【0025】
好ましい湿分量は、酸化物粉末の塑性限界点(粉体がペースト或いは泥状化して固体状態を維持できなくなる湿分量)に影響されることを考慮すると、水を凝集助剤として用いる場合には、酸化物粉末1gに対して0.10cm〜0.20cm、望ましくは、0.15〜0.19cmであり、PVBを凝集助剤とする場合には、有機溶剤としてアセトン67.5wt%およびエタノール22.5wt%で希釈する場合においては、酸化物粉末1gに対して0.30cm〜0.40cm、望ましくは0.35cm〜0.38cmである。
【0026】
押出工程(ステップS1−2)では、湿分を含有した混練物をストレートスクリュー方式の押出装置を用いて、所要の孔径の小孔を多数有するスクリーン面に押し付けて小孔から吐出させることにより、細い棒状(円柱形状)の造粒物を得る。一例として、1mmの孔径の小孔を有するスクリーンを用いると、直径1mm、長さ5mm程度の円柱形状造粒物が得られる。
【0027】
このような押出工程を実現するための押出機は、例えば、押出羽根を装着したストレートスクリューと、前記ストレートスクリューを駆動するモータおよび開孔部を設けた半球形のドームダイで構成するマルチグランを使用するとよい。
【0028】
整粒工程(ステップS1−3)では、押出工程により生成した円柱形状造粒物を、凹凸が刻まれた回転プレートを用いて小片に切断、整粒する。一例として、直径1mm、長さ5mm程度の押出造粒物は、直径1mm程度の略球形状に整粒することができる。
【0029】
このような整粒工程を実現するための整粒機は、例えば、凹凸を設けた回転プレートであるマルメプレートと、前記マルメプレートを回転駆動させるためのモータおよび前記マルメプレートを底部に装着する固定円筒容器で構成するマルメライザーを使用するとよい。
【0030】
整粒工程(ステップS1−3)において、回転プレートの回転数が過大であると、切断された小片同士が接触することにより微細粉末が生じてしまう。微細粉末の発生は、核燃料ペレットの製造方法としての実用性を損なう。また、整粒時間が過大である場合には、小片が含有する湿分を凝集助剤として小片同士が凝集反応を起こして粗大粒が生成される。粗大粒生成は、押出造粒物の歩留まりを悪化させることから、核燃料ペレットの製造においては不都合である。微細粉末の発生および整粒工程における凝集反応は、回転プレートの回転数と整粒時間を乗じて得られる積算回転数に影響されることから、酸化物粉末500g〜1000gの装荷量に対して、積算回転数は300回転以下、望ましくは150回転以下とすればよいことを知見した。
【0031】
略球形状の球形造粒物の粒度分布の詳細については、実施例にて説明するが、0.6〜1.0mmサイズの造粒物が全体の88%を占め、非常にばらつきの少ない粒子を得ることができることが実証された。
【実施例1】
【0032】
本発明に係る核燃料ペレットの製造方法の実施例について説明する。
【0033】
原料粉末として、0.010mmを超えない粒度のUO粉末を800g準備し、このUO粉末を混練機に装荷し、凝集助剤として水を140cm(UO粉末1gあたり0.175cm)添加しながら、ニーディングシャフトを80rpmで回転させて30分間混練を行うことにより混練物を生成した(ステップS1−1)。
【0034】
続いて、混練物を孔径0.8mmの孔を多数設けたドーム型スクリーンを装着した湿式押出装置に装荷し、ストレートスクリューを50rpmで回転させて押出造粒を行なって円柱形状造粒物を生成した(ステップS1−2)。
【0035】
続いて、円柱形状造粒物を整粒機に装荷し、300rpmの回転数で20秒間整粒して球形造粒物に整粒した(ステップS1−3)。
【0036】
以上の方法により製作したUOの球状造粒物は、図2に示すように、全量の約88%が0.6〜1.0mmの粒度域に分布しており、この方法で得られる球状造粒物が極めて狭い粒度分布であることがわかる。
【0037】
また、造粒物流動性の指標である以下の(数1)式で得られる圧縮度は5.5%と極めて高い流動性を有している。
【0038】
圧縮度 = (タップ密度−かさ密度)/タップ密度 ……(数1)
【0039】
また、標準篩いを用いた篩分における最小粒度(0.038mm)以下の微細造粒粉は、全体の0.01%であり、微細粉末の発生が抑制されていることがわかる。
【0040】
このUO球状造粒物を4ton/cmの圧力で冷間圧縮成形してグリーンペレットを生成し(ステップS2)、加湿水素を用いた還元性ガス雰囲気の加熱炉内で2時間、1700℃の温度で焼結処理して焼結ペレットを製作した(ステップS3)。この焼結ペレットの理論密度比は97.8%であり、核燃料ペレットとして望ましい密度を有していることがわかった。
【0041】
ここで、焼結温度および焼結時間は、1000℃以上、かつ、1〜10時間の間で調整することにより所望の密度の焼結ペレットを得ることができる。
【比較例】
【0042】
比較例として、従来技術により、原料粉末である0.010mmを超えない粒度のUO粉末を800g準備し、このUO粉末に、凝集助剤として水を165cm添加しながら、転動造粒機によって攪拌速度300rpmで17分間造粒を行ない、さらに、前記実施例の冷間圧縮成形、焼結処理と同様な処理を行ない、焼結ペレットを製作した。
【0043】
この従来技術による方法での粒子分布は、図3に示すように、焼結ペレットとして必要な0.6〜1.0mmの粒度域が、全量の約28%程度であり、粒度が広域に分布していることがわかる。
【0044】
つぎに、実施例と比較例について、焼結ペレットとしたときの組織構造状態の比較を行った結果を図4に示す。従来技術としてタブレットの解砕・整粒によるものを示すが、この図から、実施例(図4(a))と比較例(図4(b))についての組織構造には、ほとんど差がなく、本発明により製作された焼結ペレットは、従来技術と同等の組織構造を維持していることがわかる。
【実施例2】
【0045】
なお、前述した実施例1は、酸化物燃料ペレットとしてUO燃料ペレットの製造であるが、ウラン・プルトニウム混合酸化物(MOX)燃料ペレットの製造についても同様に適用することができる。
【符号の説明】
【0046】
S1…造粒工程、S1−1…混練工程、S1−2…押出工程、S1−3…整粒工程、S2…ペレット成形工程、S3…焼結工程。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウラン酸化物粉末あるいはウラン・プルトニウム混合酸化物粉末に凝集助剤を添加して混練し、混練物を造粒、成形ならびに焼結して製造する核燃料ペレットの製造方法において、
前記造粒は、前記混練物を押出して短い棒状物を形成する第1造粒工程と、前記棒状物を回転プレートによって小片に切断するとともに整粒する第2造粒工程とによって行われることを特徴とする核燃料ペレットの製造方法。
【請求項2】
請求項1において、前記凝集助剤は、有機溶剤で希釈したポリビニルブチラールまたは水であることを特徴とする核燃料ペレットの製造方法。
【請求項3】
請求項1または2において、前記凝集助剤が有機溶剤で希釈したポリビニルブチラールの場合は、ウラン酸化物粉末あるいはウラン・プルトニウム混合酸化物粉末1gに対して0.30cm〜0.40cmを添加することを特徴とする核燃料ペレットの製造方法。
【請求項4】
請求項1または2において、前記凝集助剤が水の場合は、ウラン酸化物粉末あるいはウラン・プルトニウム混合酸化物粉末1gに対して0.10cm〜0.20cmを添加することを特徴とする核燃料ペレットの製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4の1項の核燃料ペレット製造方法によって製造されたことを特徴とする核燃料ペレット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−27680(P2011−27680A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−176332(P2009−176332)
【出願日】平成21年7月29日(2009.7.29)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度、文部科学省、エネルギー対策特別会計委託事業「効果的環境負荷低減策創出の為の高性能Am含有酸化物燃料の研究」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(505374783)独立行政法人 日本原子力研究開発機構 (727)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【出願人】(390031152)ニユークリア・デベロップメント株式会社 (1)