説明

核酸の単離方法ならびに核酸単離用のキット及び装置

核酸を含む試料を界面活性剤及び塩を含有する緩衝液に溶解し、該溶解物を加熱し、該加熱物をゲル濾過して核酸を含む画分を取得することにより、試料から核酸を、簡便、迅速、かつ高収率で、PCR増幅処理に適するように単離する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、試料から核酸を単離する方法、ならびに核酸を単離するためのキット及び装置に関する。本発明の方法により単離した核酸は、PCR法に用いる鋳型として特に好適に用いられる。
【背景技術】
種々のタイプの試料中に存在する生物学的分析対象物を正確に検出することは、臨床的、実験的および疫学的分析などの多くの目的において有用である。すべての生物の遺伝情報は大部分がデオキシリボ核酸(DNA)、またはリボ核酸(RNA)のいずれかの核酸において伝えられることから、特定の核酸配列を検出および識別することにより、試験試料内に特定の分析対象物が存在するか否かを決定できる。
核酸またはその混合物の一つまたは複数の標的配列を増幅させることができるポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法の開発により、特定の配列の核酸を検出または識別することが容易になった(米国特許第4,965,188号)。PCR法では、増幅を行う標的核酸配列に対し、その一部と実質的に相補的であるように選択した二種のプライマーを用いる。これらのプライマーは熱安定性酵素により伸長されて、プライマー伸長生成物を生成し、これを一本鎖に分離すると、さらに標的核酸配列を増幅するための鋳型鎖を生じる。この鋳型鎖に、プライマーが結合し、熱安定性酵素による伸長により、標的核酸配列と同じ配列が合成され、さらに鋳型として働く。PCR法は、温度サイクルにより増幅処理が行われ、プライマーと鋳型のハイブリダイゼーション、合成酵素によるプライマー伸長生成物の合成が、温度の変化に応じて繰り返される。各サイクルは、指数的に標的核酸配列の合成量を増加する。
PCR増幅は、感染性疾患、病理学的染色体異常、並びに病理学的状態に結びつかないこともあるDNA多型現象の検知、又は診断を含む数多くの臨床的適用において有用である。PCR増幅は、標的核酸が試料中の他の核酸に比べて相対的に少量しか存在しない場合、核酸含有試料が少量しか得られない場合、又は迅速な検出が望ましい場合に有用である。有用な診断用途として具体的には、鎌状赤血球貧血、α−サラセミア、β−サラセミアおよび膵嚢胞性線維症などの遺伝疾患の診断が挙げられる。
このようにPCR法は有用な方法として使用されているが、PCR法を行うためには、分析対象の核酸混合物を試料から抽出し、鋳型として使用できるレベルまで精製する必要があった。核酸を試料から抽出、精製する方法としては、これまでに、試料を緩衝液に溶解し、フェノール/クロロホルムでタンパク質を除去した後、核酸をエタノール等のアルコールで沈殿させる方法(モレキュラークローニング 実験室マニュアル 第2版、1989年、第3巻、頁E3−E4)や、カオトロープ物質を含む緩衝液に試料を溶解した後に、遠心分離して得た上清をシリカゲル等に吸着させ、洗浄後、溶出させる方法(欧州特許第389,063号または特開2000−342259号公報)等が用いられていた。しかし前者の方法は、フェノール等の有機溶媒を用いなければならず取り扱いに注意が必要であり、後者の方法も洗浄操作を繰り返すため、洗浄液の混入や収率が低いという問題点があった。さらに、いずれの方法を用いても、遠心操作を繰り返すなど、操作が多く、核酸の単離に時間がかかるという問題点があった。
一方で、試料を独特の組成の緩衝液と混合し、混合液を遠心分離し、得られた上清を加熱し、加熱処理液を遠心分離して蛋白質を沈殿させ、得られた上清をイソプロパノール沈殿することにより核酸を沈殿させる方法が知られていた(特開平9−313181号公報)。しかし、この方法も、溶解後、加熱後、およびイソプロパノール添加後に、遠心操作を行う必要があるため長時間を要し、さらにイソプロパノール沈殿では不純物を除ききれず、PCR増幅用の核酸を得る方法としては必ずしも適当ではなかった。
また、ゲル濾過法を用いて核酸を精製することは従来から行われてきたが、ゲル濾過法はもっぱらPCR反応終了後のPCR増幅産物の精製に用いられており、生体試料から核酸を単離する過程で用いられることはなかった。
【発明の開示】
本発明の課題は、試料から簡便、迅速かつ高収率で、核酸を単離する方法を提供すること、ならびにかかる方法に用いることのできる核酸単離用キット及び核酸単離用装置を提供することである。
上述の目的を達成するために本発明者らは鋭意研究を行った結果、生体試料を界面活性剤及び塩を含有する緩衝液に溶解した後、該溶解物を加熱し、該加熱物をゲル濾過することで、PCR阻害物質が除去されたDNAが迅速に、高収率で得られることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は以下のとおりである。
(1) 核酸を含む試料から核酸を単離する方法であって、該試料を界面活性剤及び塩を含有する緩衝液に溶解し、該溶解物を加熱し、該加熱物をゲル濾過して核酸を含む画分を取得することを特徴とする方法。
(2) 前記界面活性剤がトライトンX−100(登録商標)である、(1)の方法。
(3) 前記塩がNaClである、(1)または(2)の方法。
(4) 前記試料が真核細胞を含む試料である、(1)〜(3)のいずれかの方法。
(5) 前記試料が血液である、(1)〜(4)のいずれかの方法。
(6) 核酸を含む試料から核酸を単離するためのキットであって、前記キットは緩衝液およびゲル濾過カラムを含み、前記緩衝液は少なくとも一種類の界面活性剤および少なくとも一種類の塩を含むことを特徴とする、キット。
(7) 前記緩衝液がトライトンX−100(登録商標)及びNaClを含む緩衝液である、(6)のキット。
(8) 試料導入部、界面活性剤及び塩を含有する緩衝液を供給する緩衝液供給部、加熱部、ゲル濾過担体が充填された分離部を含む、核酸単離用装置。
【図面の簡単な説明】
図1は、QIAamp DNA Mini Kitを用いて単離したDNA溶液を10倍希釈系列で希釈したものを、鋳型に用いてPCRを行った結果を示す図(写真)である。(A)、(B)、(C)は、それぞれ1/10、1/100、1/1000に希釈したDNA溶液を用いてPCRを行った結果を示す。Mは分子量マーカー(100bp ladder)、各ウェルの番号は検体番号である。
図2は、QIAamp DNA Mini Kitを用いて単離したDNA溶液を反応系に半量(12.5μl)添加し、PCRを行った結果を示す図(写真)である。Mは分子量マーカー(100bp ladder)、各ウェルの番号は検体番号である。
図3は、GFX Genome Blood DNA Purification Kitを用いて単離したDNA溶液を10倍希釈系列で希釈したものを、鋳型に用いてPCRを行った結果を示す図(写真)である。Mは分子量マーカー(100bp ladder)、各ウェルの番号は検体番号である。(A)、(B)、(C)は、それぞれ1/10、1/100、1/1000に希釈したDNA溶液を用いてPCRを行った結果を示す。
図4は、GFX Genome Blood DNA Purification Kitを用いて単離したDNA溶液を反応系に半量添加し、PCRを行った結果を示す図(写真)である。Mは分子量マーカー(100bp ladder)、各ウェルの番号は検体番号である。
図5は、本発明の単離方法により単離したDNA溶液を10倍希釈系列で希釈したものを、鋳型に用いてPCRを行った結果を示す図(写真)である。Mは分子量マーカー(100bp ladder)、各ウェルの番号は検体番号である。(A)、(B)は、それぞれ1/10、1/100に希釈したDNA溶液を用いてPCRを行った結果を示す。
図6は、本発明の単離方法により単離したDNA溶液を反応系に半量添加し、PCRを行った結果を示す図(写真)である。Mは分子量マーカー(100bp ladder)、各ウェルの番号は検体番号である。
図7は、本発明の核酸単離用装置の概念図である。
【発明を実施するための最良の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。
<1>核酸の単離方法
本発明は、試料から核酸を単離する方法であって、試料を界面活性剤及び塩を含有する緩衝液に溶解し、該溶解物を加熱し、該加熱物をゲル濾過して核酸を含む画分を取得することを特徴とする方法である。ここで、試料とは核酸を含むものであれば特に制限されず、遺伝子解析(例えば、PCR解析)を行うための様々な細胞含有試料などをいうが、真核細胞を含む試料が好ましく、具体的には血液、便試料、口腔・鼻腔洗浄液、土壌、食品、培養細胞、微生物懸濁液などが挙げられる。この中でも特に、血液が好ましい。
試料を溶解するための緩衝液は、一種類以上の界面活性剤と、一種類以上の塩を含有する緩衝液である。緩衝液としては特に限定されず、例えばリン酸緩衝液やTris−EDTA緩衝液が挙げられるが、核酸の保護の観点からはTris−EDTA緩衝液が好ましい。Tris−EDTA緩衝液として具体的には、一般的に用いられる10mM Tris−1mM EDTA溶液等が挙げられるが、これらに限定されない。界面活性剤は特に限定されないが、細胞溶解の点からポリエチレングリコール−モノ−p−イソオクチルフェニルエーテルが好ましく、特にトライトンX−100(商標名)が好ましい。その濃度は0.1%〜5%が好ましく、特に0.3%〜1%が好ましい。緩衝液中に含まれる塩の種類は特に限定されないが、DNA結合蛋白質の結合を緩める点から一価の陽イオンの塩が好ましく、NaClがより好ましい。また、その濃度は0.1M〜5Mが好ましく、特に0.5M〜2Mが好ましい。
本発明においてはまず、試料に上記緩衝液を、試料の容量が緩衝液に対して1/3〜1/100になるような割合で添加して、試料を溶解する。効率よく溶解するために緩衝液を加えて混合することが好ましい。混合はボルテックスミキサーIMS−1000(東京理化)等を用いて行うこともできるし、手で行ってもよい。混合時間は操作迅速化のため、5秒以下が好ましく、3秒以下がより好ましいが、試料の性質によってはこれ以上の時間行ってもよい。この混合操作は、試料に含まれる細胞膜を溶解させ細胞内より核酸を抽出すると共に、核酸に結合した種々のDNA結合蛋白質の結合を緩めるものである。
次いで、得られた試料溶液を加熱する。本操作は細胞由来の蛋白質、特にDNA結合蛋白質を変性させる。加熱は公知の方法や装置、たとえば湯浴やドライブロックバス(例えば、井内盛栄堂社製)等を用いて行うことができる。加熱温度は蛋白質が十分変性しうる温度ならば特に限定はされないが、好ましくは80℃〜100℃、より好ましくは90℃〜100℃、特に好ましくは95℃〜100℃である。また、加熱時間は加熱状態において蛋白質が十分変性しうる時間ならば特に限定はされないが、好ましくは3分〜15分、より好ましくは4分〜10分、特に好ましくは5分〜10分である。
次に、加熱した試料溶液をゲル濾過することにより、核酸を含む画分を取得する。試料中あるいは細胞内に存在するPCR阻害物質は核酸と比べて低分子であると考えられ、また多くの蛋白質は加熱過程により凝集し不溶化している為、ゲル濾過により試料中からPCR阻害物質を含まない核酸を効率よく精製する事ができるのである。なお、加熱した試料溶液はそのままゲル濾過してもよいが、遠心分離した後にゲル濾過してもよい。また、加熱サンプルは室温近くまで放冷してからゲル濾過してもよいが、放冷せずにゲルろ過する方が好ましい。ゲル濾過に用いる担体は特に制限されず、ゲル濾過操作に一般的に用いられる担体を挙げることができ、例えば、Sephacryl S−400HR,Sephacryl S−500HR(いずれもアマシャムバイオサイエンス社)などの担体や、CHROMA SPIN−1000(クロンテック社)、CENTRISPIN−40(PRINCETON SEPARATIONS社)などに含まれる担体を挙げることができる。ゲル濾過操作は、例えば、ゲル濾過担体を含んだ遠心操作が可能なチューブに加熱後の試料を加え、低速(例えば500G以下)で短時間(例えば60秒以下)遠心することによって行うことができる。この遠心操作は室温で行ってもよいし、冷却条件下で行ってもよい。
本発明の方法により単離された核酸は、例えば、特異的プライマーを用いたPCR反応に用いることができ、例えばインシュリン依存性糖尿病や特定の癌などの病態と関連する遺伝子を検出することができる。また、その他感染症起炎菌、食中毒菌等の病原菌に特異的なプライマーを用いてPCRを行うことにより、それぞれの菌種、菌属に特異的な検出や同定を簡易に行うことができる。本発明の方法により得られた核酸は、また、DNAチップによるハイブリダイゼーションや、クローンライブラリー作成にも用いることができる。
<2>核酸単離用キット
本発明はまた、核酸を単離するためのキットを提供する。本発明のキットは、少なくとも一種類の界面活性剤と少なくとも一種類の塩を含有する緩衝液、およびゲル濾過カラムを含むキットである。キットに含有される緩衝液は、試料を溶解させるためのもので、具体的には上述したような界面活性剤(例えば、トライトンX−100)と塩(例えば、NaCl)を含む緩衝液をいう。キットに含まれるゲル濾過カラムとしては、例えば、上述のゲル濾過担体を充填した遠心可能なスピンカラムが挙げられる。本発明のキットは、緩衝液及びゲル濾過カラムに加えて、PCR用の試薬やプライマーを含むものであってもよい。
<3>核酸単離用装置
本発明の核酸単離用装置は、試料導入部、界面活性剤及び塩を含有する抽出緩衝溶液を供給する抽出緩衝溶液供給部、加熱部、ゲル濾過担体が充填された分離部を含む、核酸単離用装置である。試料導入部としては、例えば、試料を含むプレートやチューブをセットすることのできる部材や血液などの液体試料を注入するための部材を備えた試料導入部を例示することができる。界面活性剤及び塩を含有する抽出緩衝溶液を供給する抽出緩衝溶液供給部としては、該緩衝液を含む容器及び供給ポンプなどを含む供給部を例示することができる。加熱部としては、電熱ヒーターなどを含む加熱部を例示することができる。なお、加熱部は、必ずしも試料導入部と別途設置されている必要はなく、試料導入部において加熱を行うようなものであってもよい。ゲル濾過担体が充填された分離部としては、ゲル濾過担体が充填されたカラムなどを備えた分離部を例示することができる。
図7に本発明の装置の概念図を示す。試料導入部にセットされた試料に、緩衝液供給部から緩衝液が供給されて、該緩衝液に試料が溶解される。溶解した試料は、加熱部にて加熱され、その後、分離部において分離される。分離部にて分離された後に得られる溶液に、単離された核酸が含まれる。
【実施例】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
1.DNAの単離
以下に示す各種の方法により、健康成人10名の血液試料(抗凝固剤(ヘパリンリチウム)を含む)からそれぞれDNAを単離し、得られたDNAを用いてPCR法を行って、DNAの存在量の確認、PCR阻害物質の除去能を比較した。
比較例1(プロテアーゼを含む緩衝液とシリカゲルカラムを用いる方法によるDNAの単離)
QIAamp DNA Mini Kit(QIAGEN社)を用いて血液試料からDNAを単離した。まず、血液試料200μlをキットに付属のQIAGEN Protease 20μlおよびBuffer AL200μlと混合し、15秒ボルテックスした後、56℃で10分間インキュベートした。次にスピンダウンしてから100%エタノール200μlを添加し、15秒間ボルテックスした後、スピンダウンした。この混合液を付属のシリカゲルスピンカラムに移し、6000gで1分遠心してDNAをカラムに吸着させた。付属のBuffer AW1を500μl添加して6000gで1分遠心して洗浄し、さらに付属のBuffer AW2を500μl添加し、20000gで3分遠心して洗浄した。続いてスピンカラムを新しいチューブに移し、付属のBuffer AEを200μl添加して室温で1分放置した後、6000gで1分遠心してDNA抽出液を溶出した。単離に要した時間は25分であった。
比較例2 (カオトロープ物質を含む緩衝液とシリカゲルカラムを用いる方法によるDNAの単離)
GFX Genome Blood DNA Purification Kit(Amersham Biosciences社)を用いて血液試料からDNAを単離した。血液試料100μlとキットに付属のextraction solution(カオトロピックイオンを含有)500μlとを混合し、ボルテックスして室温で5分間放置した。この混合液を付属のGFXカラムに移し、5000gで1分間遠心してDNAを吸着させた。さらに、付属のextraction solutionを500μl添加して5000gで1分間遠心して洗浄した。続いて、付属のwash solutionを500μl添加して20000gで1分間遠心して洗浄した。カラムを新しいチューブへ移し、予め70℃に暖めたキット付属のelution buffer100μlを添加し、室温で1分放置した後、5000gで1分遠心し、DNA抽出液を得た。単離に要した時間は20分であった。
実施例1(本発明の方法によるDNAの単離)
血液20μlに抽出緩衝溶液(10mM Tris−HCl(pH8.0),1mM EDTA,0.5%トライトンX−100,2M NaCl)180μlを加えて3秒間懸濁し、98℃で5分加熱した。加熱の間にゲル濾過スピンカラムを作製した。ゲル濾過スピンカラムはゲル濾過担体:CHROMA SPIN−1000(CLONTECH社)600μlをスピンカラム:MicroSpin Empty Column(Amersham Biosciences社)に充填し、700gで2分間遠心して内部の液を出すことにより作製した。加熱終了後、サンプルをただちにボルテックスミキサーで懸濁し、500Gで10秒間遠心した後、上清100μlを先に作製したゲル濾過スピンカラムに供した。スピンカラムを300gで1分間遠心し、DNA抽出液を溶出した。単離に要した時間は10分であった。
2.PCR反応
調製されたDNA溶液の10倍希釈系列(×10、×100、×1000)を作成し、これを鋳型に用い、プライマーにβ−globin(human)Primer Set(タカラバイオ株式会社)を用いてPCR反応を行うことにより、β−globinを増幅した。反応液の組成は、10mM Tris−HCl(pH8.3)、50mM KCl、1.5mM MgCl、200μM dNTP mixture、各0.5μMのβ−globin遺伝子(配列番号1:増幅サイズ262bp)特異的プライマー(KM29(配列番号2)及びKM38(配列番号3))、0.625U Taq DNA Polymerase(タカラバイオ株式会社)とし、鋳型DNAを1μlまたは12.5μl加えて、総容量をHOで25μlとした。PCRのプログラムは94℃で1分加熱した後、94℃で1分、55℃で2分、72℃で1分を30サイクルで行い、最後に72℃で5分間反応した。増幅産物は6μlを3%アガロースゲルで電気泳動し、エチジウムブロマイドで染色することにより解析した。
3.結果
3−1.QIAamp DNA Mini Kit(比較例1)により単離したDNAを用いたPCR
10試料からそれぞれQIAamp DNA Mini Kitを用いて上記比較例1のようにDNAを抽出し、PCR反応を行ってDNAの有無を調べたところ、9試料については100分の1希釈のサンプルまで増幅産物が得られたが検体番号1からは増幅産物が得られなかった(図1)。また、抽出試料を反応系に12.5μl添加しPCR増幅を試みたところ、検体番号5からは増幅産物が得られず、残りの9試料については増幅産物が得られたものの、全体的に増幅産物量が少なかった(図2)。このことから阻害物質が混入している事が示唆された。
3−2.GFX Genome Blood DNA Purification Kit(比較例2)により単離したDNAを用いたPCR
10試料からそれぞれGFX Genome Blood DNA Purification Kitを用いて上記比較例2のようにDNAを抽出し、PCR法によりDNAの有無を調べたところ、6試料については100分の1希釈のサンプルまで増幅産物が得られたが検体番号5、6、8,9からは増幅産物が得られなかった(図3)。一方、抽出試料を反応系に12.5μl添加しPCR増幅を試みたところ、全ての試料で増幅産物が得られ、阻害物質が除去されていることがわかった(図4)。
3−3.本発明の方法(実施例1)により単離したDNAを用いたPCR
10試料からそれぞれ本発明の単離法によりDNAを抽出し、PCR法によりDNAの有無を調べたところ、全ての試料で100分の1希釈のサンプルまで増幅産物が得られた(図5)。また、抽出試料を反応系に12.5μl添加しPCR増幅を試みたところ、全ての試料で増幅産物が得られ、阻害物質が効率よく除去されていることがわかった(図6)。
以上のように、本発明の単離法を用いた場合(血液20μlを用いた)は、出発試料が他の2法(比較例1:200μl、比較例2:100μl)に比べ少ないにもかかわらず、PCRにおいて同等以上の増幅DNA量が得られたことから、迅速に高収率でDNAを抽出できることがわかり、かつPCR阻害物質も効率よく除去できたと考えられた。
【産業上の利用の可能性】
本発明の方法により、PCR阻害物質など多くの夾雑物を含む試料から従来法と同程度、またはそれ以上の回収率で、より迅速、簡便にPCR反応に適した核酸を単離することができる。本発明の方法により単離された核酸を用いると、従来よりも迅速にPCR法等を用いた遺伝子解析をすることが可能である。
【配列表】


【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
核酸を含む試料から核酸を単離する方法であって、該試料を界面活性剤及び塩を含有する緩衝液に溶解し、該溶解物を加熱し、該加熱物をゲル濾過して核酸を含む画分を取得することを特徴とする方法。
【請求項2】
前記界面活性剤がトライトンX−100(登録商標)である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記塩がNaClである、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記試料が真核細胞を含む試料である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記試料が血液である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
核酸を含む試料から核酸を単離するためのキットであって、前記キットは緩衝液およびゲル濾過カラムを含み、前記緩衝液は少なくとも一種類の界面活性剤および少なくとも一種類の塩を含むことを特徴とする、キット。
【請求項7】
前記緩衝液がトライトンX−100(登録商標)及びNaClを含む緩衝液である、請求項6に記載のキット。
【請求項8】
試料導入部、界面活性剤及び塩を含有する緩衝液を供給する緩衝液供給部、加熱部、ゲル濾過担体が充填された分離部を含む、核酸単離用装置。

【国際公開番号】WO2004/094634
【国際公開日】平成16年11月4日(2004.11.4)
【発行日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−505789(P2005−505789)
【国際出願番号】PCT/JP2004/005811
【国際出願日】平成16年4月22日(2004.4.22)
【出願人】(000141897)アークレイ株式会社 (288)
【Fターム(参考)】