説明

核酸アレイの保存方法及び品質管理方法、及び核酸アレイパッケージ

【課題】バックグラウンドノイズを検知する品質管理方法の提供、及び、バックグラウンドノイズの増加を防ぎ、安定して長時間の保存が可能な核酸アレイの保存方法、及び核酸アレイパッケージの提供。
【解決手段】核酸が共有結合により固定化された核酸アレイを相対湿度が10%以下に保持された雰囲気下で保存する核酸アレイの保存方法、核酸アレイが発するバックグラウンドシグナル値を測定する工程を有する核酸アレイの品質管理方法、及び核酸アレイパッケージ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、核酸アレイの保存方法及び品質管理方法、及び核酸アレイパッケージに関する。より詳細には、核酸を共有結合させた核酸アレイをハイブリダイゼーション等に用い、その結果を蛍光等の標識量により測定する際に検出されるバックグラウンドノイズを低減することが可能な保存方法及び品質管理方法、及び核酸アレイパッケージに関する。
【背景技術】
【0002】
DNAチップ等の核酸アレイは、アレイ上に固定した核酸と検体中の核酸とを相補的に結合(ハイブリダイズ)させることで検体中の核酸の配列を検査することができる。
核酸アレイはガラス等の基板に表面処理を施し、核酸を固定化させたものである。一般的に核酸は分子間力により固定されたものであり、結合力が弱く、保存中の剥離等が生じていた。これに対し、低温、低湿、遮光環境で保管する、特定の薬品を用いるなどの試みが行われていた(例えば特許文献1)。
また、アミノ基を有するシランカップリング剤等で基板を表面処理した上でジスルホン化合物を接触させ、基板表面にビニルスルホン基を導入し、これにDNA断片を共有結合させる方法が開発された(特許文献2)。
一般に、核酸ハイブリダイゼーションにおいては、ハイブリダイズ後の検出に用いる標識や検体中の核酸が核酸アレイに非特異的に付着し、バックグラウンドノイズが生じる。そのため、ハイブリダイズ時に検体核酸と共にある種の化合物、タンパク質、或いは反復核酸配列を存在させることで、標識を持たない化合物で前記非特異的に付着する部位をブロックする手法が用いられていた(例えば特許文献3〜5)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−189307号公報
【特許文献2】特開2001−228152号公報
【特許文献3】特表平11−510681号公報
【特許文献4】特開2002−122610号公報
【特許文献5】特開2002−176977号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、核酸アレイがより広く用いられてきたことに伴い、より過酷な環境下や長い期間の保存を行う状況が生じてきた。そして更に少量の検体核酸による高感度な検出や、より多くの種類の核酸を1つのアレイ上に配することによる検査の効率化等のため、核酸アレイを更に高感度化していくと、ブロッキングでは低減しきれないバックグラウンドノイズが、保存環境に依存して生じることを見出した。本願発明者は、前記バックグラウンドノイズが、湿度により生じていることを見出した。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題は下記の手段により達成された。
1.
核酸が共有結合により固定化された核酸アレイを、相対湿度が10%以下に保持された雰囲気下で保存する、核酸アレイの保存方法。
2.
前記雰囲気が、乾燥剤を含む密閉雰囲気である上記1に記載の核酸アレイの保存方法。
3.
前記雰囲気が、真空雰囲気又は不活性ガス雰囲気である上記1又は2に記載の核酸アレイの保存方法。
4.
前記核酸アレイが、反応性基A1が固定化された基板に対し、核酸を接触させ、該核酸を該基板に固定化させたものであり、該反応性基A1が
式1:−L−SO−X
で表される基である、上記1〜3のいずれかに記載の核酸アレイの保存方法。
式中、Lは連結基を表す。
Xは、−CR=CR又は−CHR−CRYで表される基を表す。
、R及びRは、独立して、水素原子、アルキル基、及びアリール基からなる群より選ばれる原子若しくは基を表す。
Yは、ハロゲン原子、−OSO11、−OCOR12、−OSOM、及び四級ピリジニウム基からなる群より選ばれる原子若しくは基を表す。
11は、アルキル基又はアリール基を表す。
12は、アルキル基を表す。
Mは、水素原子、アルカリ金属原子及びアンモニウム基からなる群より選ばれる原子若しくは基を表す。
5.
前記反応性基A1が固定化された基板が、
表面にアミノ基を有する基板に対し、
式2:X−SO−L−SO−X
で表されるジスルホン化合物を接触させることにより、前記式1で表される基を導入したものである、上記4に記載の核酸アレイの保存方法。
式中、
Lは連結基を表す。
Xは、独立して−CR=CR又は−CHR−CRYで表される基を表す。
、R及びRは、独立して、水素原子、アルキル基、及びアリール基からなる群より選ばれる原子若しくは基を表す。
Yは、ハロゲン原子、−OSO11、−OCOR12、−OSOM、及び四級ピリジニウム基からなる群より選ばれる原子若しくは基を表す。
11は、アルキル基又はアリール基を表す。
12は、アルキル基を表す。
Mは、水素原子、アルカリ金属原子、及びアンモニウム基からなる群より選ばれる原子若しくは基を表す。
6.
核酸アレイが発するバックグラウンドシグナル値を測定する、核酸アレイの品質管理方法。
7.
前記バックグラウンドシグナル値の測定が、標識化合物を用いない測定である、上記6に記載の核酸アレイの品質管理方法。
8.
前記核酸アレイが、上記1〜7のいずれかに記載の核酸アレイの保存方法により保存された核酸アレイである、上記6又は7に記載の核酸アレイの品質管理方法。
9.
前記バックグラウンドシグナル値が、蛍光スキャナーの測定値である上記6〜8のいずれかに記載の核酸アレイの品質管理方法。
10.
前記蛍光スキャナーが、非共焦点方式のレーザーを用いた蛍光スキャナーである上記9に記載の核酸アレイの品質管理方法。
11.
核酸アレイと、該核酸アレイを包む密封梱包体とを含み、該密封梱包体内が相対湿度が10%以下の雰囲気である、核酸アレイパッケージ。
【発明の効果】
【0006】
本発明により、核酸アレイが発するバックグラウンドシグナル値を検知でき、これによりハイブリダイゼーション前に核酸の品質を検知することが可能となる。また湿度によるバックグラウンドノイズの増加を防ぎ、安定して長時間の保存が可能な核酸アレイの保存方法、及び核酸アレイパッケージが提供される。バックグラウンドノイズを低減できることにより、より高感度に試料核酸を検知でき、少量の試料から高速かつ正確に検知が可能となる。また、より長期間の保存が可能なため、医療現場や検査機関などにおいて様々な核酸アレイをストックすることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】図1は本発明の保存方法におけるパッケージ内の湿度変化を示す図である。
【図2】図2は従来の保存方法(参考例)におけるパッケージ内の湿度変化を示す図である。
【図3】図3は本発明の保存方法におけるパッケージ内の湿度変化を示す図である。
【図4】図4は従来の保存方法におけるパッケージ内の湿度変化を示す図である。
【図5】図5は本発明の保存方法におけるパッケージ内の湿度変化を示す図である。
【図6】図6は従来の保存方法におけるパッケージ内の湿度変化を示す図である。
【図7】図7は本発明の品質管理方法で合格した核酸アレイを用いてハイブリダイゼーションを行った結果を示す図である。
【図8】図8は本発明の品質管理方法で不合格となった核酸アレイを用いてハイブリダイゼーションを行った結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本明細書に於ける基(原子団)の表記に於いて、置換及び無置換を記していない表記は、別記が無い限り置換基を有さないものと共に置換基を有するものをも包含するものである。例えば、「アルキル基」とは、置換基を有さないアルキル基(無置換アルキル基)のみならず、置換基を有するアルキル基(置換アルキル基)をも包含するものである。
また、本発明は特許請求の範囲に記載の構成を有するものであるが、以下、その他についても参考のため記載した。
【0009】
核酸アレイは保存環境によっては固定化した核酸が失われることがあったが、これは核酸の分解や剥離によるものと推定されるものであった。核酸が失われた部位では、目的とするハイブリダイゼーションも全く行われないため、検出結果は得られないものの、結果の誤りを誘発することは無かった。
一方、バックグラウンドノイズが多い場合は、目的とするハイブリダイゼーションは行われるため、結果の判別を誤るという深刻な問題を生じる。
本発明者は、保存環境が高湿であると、核酸アレイのバックグラウンドノイズが増加することを新たに見出した。
本発明の核酸アレイの保存方法及び核酸アレイパッケージによれば、このような保存環境によりバックグラウンドノイズが増加することを防ぐことが可能となる。また、本発明の品質管理方法によれば、このような保存環境により増加したバックグラウンドノイズを検知することができる。
【0010】
本発明の核酸アレイの保存方法は、核酸が共有結合により固定化された核酸アレイを、相対湿度が10%以下に保持された雰囲気下で保存する。
核酸アレイは、DNAチップ等の核酸マイクロアレイであることが好ましい。
【0011】
・基板
核酸アレイは一般的に核酸が固定化されている基板を有する。基板としては、核酸アレイに用いられているか、あるいは核酸アレイの製造用の各種の基板を利用することができる。
基板を構成する基板材料は、疎水性又は親水性の低い、表面が平滑なものが好ましい。また、その表面が凹凸を有する平面性の低い基板も用いることができる。基板材料としては、ガラス、シリコン、セラミックス、金属等の無機基板材料、ポリエチレンテレフタレート、酢酸セルロース、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート等の有機基板材料であってもよい。また、多孔質であってもよく、織編物、不織布、紙、短繊維成型物等であってもよい。また、これらの複数を積層した構造であってもよい。電気化学的な分析方法に用いる核酸アレイの基板として用いられる電極基板であってもよい。また、表面プラズモン共鳴(SPR)バイオセンサ用基板、電荷結合素子(CCD)などの各種の機能性基板であってもよい。
これらの基板材料のうち、表面処理の容易さや、電気化学的方法による解析の容易さから、ガラス又はシリコンが好ましく、ケイ酸ガラスがより好ましい。基板材料の厚さは、100〜2000μmの範囲にあることが好ましい。基板材料は通常板型である。
【0012】
基板は、前記基板材料をそのまま用いることもできるが、シランカップリング剤による処理やコーティング、或いはこれらの両方を施して基板とすることが好ましい。特に、ガラスなどの無機基板材料を用いる場合はシランカップリング剤で処理したものが好ましい。
【0013】
・シランカップリング剤及びコーティング剤
シランカップリング剤及びコーティング剤としては通常ガラスの表面処理に用いられるものを使用可能であるが、後述する核酸との共有結合を可能とする反応性基A1の導入の観点から、核酸又は後述する二官能性反応性化合物と反応することができる反応性基A2を導入可能なものが好ましい。該反応性基A2としては、メルカプト基、アミノ基、アルデヒド基、エポキシ基、カルボキシル基、水酸基等が挙げられ、アミノ基が好ましい。
該反応性基A2を導入するには、該反応性基A2を側鎖末端に有する樹脂による被覆、該反応性基A2を有する表面処理剤とシランカップリング剤との両方による表面処理、或いは該反応性基A2を有するシランカップリング剤による表面処理を行うことが好ましい。シランカップリング剤は基板表面に共有結合によって固定されるため、反応性基A2を基板表面に強固に固定でき、好ましい。
アミノ基を有するシランカップリング剤としては、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−β(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシランあるいはN−β(アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジメトキシシランを用いることが好ましく、γ−アミノプロピルトリエトキシシランを用いることが特に好ましい。
【0014】
通常の核酸アレイの表面には、予め核酸を固定化するための多数のスポット区画が設定されており、各スポット区画毎に、核酸又は後述する二官能性反応性化合物と反応することができる反応性基A2(上記のアミノ基等)が予め導入されている。
用いる基板の各領域の表面のそれぞれには、上記のアミノ基、メルカプト基、あるいはヒドロキシル基などの反応性基A2が備えられているが、そのような反応性基を持たない基板材料には、前述のように、シランカップリング剤による表面処理、あるいはアミノ基などの反応性基A2を側鎖に有するポリマーなどを基板の表面に塗布被覆する方法を利用して、反応性基A2の導入が行なわれる。
上記のような表面処理が予め施された基板としては、PLL(シグマ社、ポリ−L−リジンコート)、CMT−GAPS(コーニング社、アミノシランコート)、MAS(松浪ガラス株式会社、アミノシランコート)、シラネイト(グライナー社、ポリシランコート)、シラネイト(テレケム、ポリシランコート)、DNA−Ready Type 1又は2スライド(クローンテック社、アミノシランコート)、シリレイト(グライナー社、シランアルデヒドコート)、シリレイト(テレケム社、シランアルデヒドコート)、3D−Link(サーモテックス社、活性化カルボン酸処理)等の市販品を用いることもできる。
【0015】
・核酸と共有結合可能な反応性基A1
本発明の核酸アレイは、基板に固定化されている、核酸と共有結合可能な反応性基A1に、核酸を接触させることで、前記基板に核酸が共有結合を介して固定したものであることが好ましい。
反応性基A1は好ましくは、
式1:−L−SO−X
で表される基である。
式中、
Lは連結基を表す。
Xは、−CR=CR又は−CHR−CRYで表される基を表す。
、R及びRは、独立して、水素原子、アルキル基、及びアリール基からなる群より選ばれる原子若しくは基を表す。
Yは、ハロゲン原子、−OSO11、−OCOR12、−OSOM、及び四級ピリジニウム基からなる群より選ばれる原子若しくは基を表す。
11は、アルキル基又はアリール基を表す。
12は、アルキル基を表す。
Mは、水素原子、アルカリ金属原子、及びアンモニウム基からなる群より選ばれる原子若しくは基を表す。
【0016】
アルキル基としては、置換基を有していてもよく、炭素数1〜6のものが好ましく、直鎖型でも分岐型でもよく、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、及びn−ヘキシル基を挙げることができ、メチル基であることが特に好ましい。
アリール基としては、置換基を有していてもよく、フェニル基及びナフチル基を挙げることができる。
これらの基が更に有していてもよい置換基としては、例えばハロゲン原子、水酸基、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、1〜6のアルコキシ基、アルケニル基、2〜7のカルバモイル基、スルファモイル基(若しくはそのNa塩、K塩等)、スルホ基(若しくはそのNa塩、K塩等)、カルボン酸基(若しくはそのNa塩、K塩等)、スルホニル基、及びこれらの組み合わせ等が挙げられ、これら更なる置換基を有する基としては、炭素原子数が1〜6のハロゲン化アルキル基、炭素原子数が1〜6のアルキル鎖を有する合計炭素原子数が7〜26のアラルキル基等が挙げられる。
、R及びRは共に水素原子であることが好ましい。
【0017】
Lは、基板若しくは基板に結合している反応性基A2と、上記−SO−X基とを連結している二価若しくはそれ以上の連結基を表わす。ただし、Lは単結合であってもよい。二価の連結基としては、炭素原子数が1〜6のアルキレン基、炭素原子数が3〜16の脂肪族環基、炭素原子数が6〜20のアリーレン基、N、S及びPからなる群より選ばれるヘテロ原子を1〜3個含む炭素原子数が2〜20の複素環基、−O−、−S−、−SO−、−SO−、−SO−、−NR11−、−CO−及びこれらの組み合わせから群より選ばれる基を一つあるいは複数個組み合わせてなる基であることが好ましい。
11は、水素原子、炭素原子数が1〜15のアルキル基、炭素原子数が6〜20のアリール基、あるいは炭素原子数が1〜6のアルキル基を有する炭素原子数が7〜21のアラルキル基であることが好ましく、水素原子若しくは炭素原子数が1〜6のアルキル基であることが更に好ましく、水素原子、メチル基若しくはエチル基であることが特に好ましい。Lが−NR11−、−SONR11−、−CONR11−、−NR11COO−、及び−NR11CONR11−からなる群より選ばれる基を二個以上組み合わせてなる基である場合には、それらのR11同士が結合して環を形成していてもよい。
Lとしては、炭素数3〜15の有機基であることがより好ましく、−CONR11−で表される基を有することが好ましい。
【0018】
式1で表される基を有する基板は、例えば、上記のアミノ基等の反応性基A2を導入した基板を用意し、この基板と、この担体表面に備えられた反応性基A2と反応して共有結合を形成する反応性基A3を一方の端部若しくは端部附近に有し、かつ他方の端部若しくは端部附近に式1で表される反応性基A1又はその前駆体を有する化合物とを接触させることにより製造することができる。ここで、反応性基A3は反応性基A2の種類によって適宜選択されるが、反応性基A1と同様な基が好ましい。
【0019】
上記「−X」基の好ましい具体例を以下に示す。また、「−L−SO−X」として使用できる基の例についても、その後に示す。具体例中、Rは前記R11と同義である。X’はハロゲン原子を表す。
【0020】
【化1】

【0021】
【化2】

【0022】
「−X」は、上記具体例中、(X1)、(X2)、(X3)、(X4)、(X7)、(X8)、(X13)あるいは(X14)であることが好ましく、(X1)あるいは(X2)であることが更に好ましい。特に好ましいのは、(X1)で表わされるビニル基である。
【0023】
Lの好ましい具体例を以下に示す。但し、aは、1〜6の整数であり、1若しくは2であることが好ましく、1であることが特に好ましい。bは、0〜6の整数であり、2若しくは3であることが好ましい。R11は前記と同義である。
【0024】
【化3】

【0025】
Lとしては、上記記載の二価の連結基の他に、上記式のアルキレン基の水素原子が−SOCH=CH基によって置換されてなる基も好ましい。
反応性基A1と核酸とを共有結合させる固定化反応は通常の方法で行えるが、水性雰囲気で行うことが好ましい。
【0026】
前記式1で表される反応性基A1を基板に固定化する際は、表面にアミノ基を有する基板に対し、
式2:X−SO−L−SO−X
で表されるジスルホン化合物を接触させることが好ましい。
X、Lは各々前記式1と同義である。2つのXは互いに同じでも異なっていてもよい。
【0027】
本発明で好ましく用いるジスルホン化合物の代表例を下記に示す。なお、ジスルホン化合物は、二種類以上を混合して用いてもよい。
【0028】
【化4】

【0029】
ジスルホン化合物の代表的な例としては、1,2−ビス(ビニルスルホニルアセトアミド)エタン[上記のS1に相当する]を挙げることができる。
本発明で用いるジスルホン化合物の合成法については、たとえば、特公昭47−2429号、同50−35807号、特開昭49−24435号、同53−41551号、同59−18944号等の各種公報に詳細が記載されている。
【0030】
・核酸
上記のようにして得られた核酸アレイに核酸等を固定するためには、上記の核酸アレイを、その担体表面上のビニルスルホニル基若しくはその反応性前駆体基と反応して共有結合を形成する、アミノ基などの反応性基A4を備えたヌクレオチド誘導体若しくはその類縁体(プローブ分子)と接触させる方法が利用される。
【0031】
上記固相基板表面に共有結合を介して結合されたビニルスルホニル基若しくはその反応性前駆体基は、加水分解に対して高い抵抗性を有しているため、容易に安定に保存することができ、また、アミノ基を予め備えているか、あるいはアミノ基などの反応性基A4が導入されているかヌクレオチド誘導体若しくはその類縁体の反応性基A4と迅速に反応して、安定な共有結合を形成することができる。
【0032】
プローブ分子として用いるヌクレオチド誘導体若しくはその類縁体の代表例としては、オリゴヌクレオチド、ポリヌクレオチド、そしてペプチド核酸を挙げることができる。これらのヌクレオチド誘導体若しくはその類縁体としては、天然起源のもの(DNA、DNA断片、RNA、あるいはRNA断片など)であってもよく、あるいは合成化合物であってもよい。また、ヌクレオチド誘導体若しくはその類縁体としては、その糖単位部分に架橋基を有するLNAと呼ばれる化合物(J. Am. Chem. Soc. 1998, 120, 13252−13253に記載)などの各種の類縁化合物が含まれる。
【0033】
プローブ分子としてDNA断片を用いる場合は、目的によって二通りに分けることができる。遺伝子の発現を調べるためには、cDNA、cDNAの一部、EST等のポリヌクレオチドを使用することが好ましい。DNA断片は、2〜50量体であることが好ましく、10〜25量体であることが特に好ましい。
【0034】
オリゴヌクレオチドやDNA断片などのヌクレオチド誘導体若しくはその類縁体の一方の末端には、前記のビニルスルホニル基若しくはその反応性前駆体基と反応して共有結合を形成する反応性基A4を導入することが好ましい。このような反応性基A4は、アミノ基、イミノ基、ヒドラジノ基、カルバモイル基、ヒドラジノカルボニル基、若しくはカルボキシイミド基であることが好ましく、アミノ基であることが特に好ましい。オリゴヌクレオチドやDNA断片には、通常、クロスリンカーを介してこれらの反応性基A4が結合される。クロスリンカーとしては、たとえば、アルキレン基あるいはN−アルキルアミノ−アルキレン基が利用されるが、ヘキシレン基あるいはN−メチルアミノ−ヘキシレン基であることが好ましく、ヘキシレン基であることが特に好ましい。なお、ペプチド核酸(PNA)はアミノ基を有しているため、通常は、改めて別に反応性基A4を導入する必要はない。
【0035】
反応性基A4を備えたヌクレオチド誘導体若しくはその類縁体と核酸アレイとの接触は、通常、該ヌクレオチド誘導体若しくはその類縁体の水溶液を核酸アレイの表面に点着することにより実施される。この際、後述する親水性ポリマー等で粘度を増加させて点着することもできる。
【0036】
点着後のヌクレオチド誘導体若しくはその類縁体の乾燥を防ぐために、ヌクレオチド誘導体若しくはその類縁体が溶解あるいは分散してなる水性液中に、高沸点の物質を添加してもよい。高沸点の物質としては、、グリセリン、エチレングリコール、ジメチルスルホキシド及び低分子の親水性ポリマーを挙げることができる。親水性ポリマーとしては、ポリアクリルアミド、ポリエチレングリコール、そしてポリアクリル酸ナトリウム等を挙げることができ、分子量10〜10のものが好ましい。高沸点の物質としては、グリセリンあるいはエチレングリコールを用いることが更に好ましく、グリセリンを用いることが特に好ましい。高沸点の物質の濃度は、ヌクレオチド誘導体若しくはその類縁体の水性液中、0.1〜2容量%の範囲にあることが好ましく、0.5〜1容量%の範囲にあることが特に好ましい。
【0037】
また、同じ目的のために、ヌクレオチド誘導体若しくはその類縁体を点着した後の基板を、90%以上の湿度及び25〜50℃の温度範囲の環境に置くことも好ましい。
【0038】
反応性基A4を有するヌクレオチド誘導体若しくはその類縁体を点着後、紫外線、水素化ホウ素ナトリウムあるいはシッフ試薬による後処理を施してもよい。又、デキストラン硫酸等で基板表面のアミノ基等の反応性基A2をブロッキングすることも好ましい。これらの後処理は、複数の種類を組み合わせて行ってもよく、特に加熱処理と紫外線処理を組み合わせて行うことが好ましい。これらの後処理は、ポリ陽イオン化合物のみによって基板表面を処理した場合には特に有効である。点着後は、インキュベーションを行うことも好ましい。インキュベート後は、未反応のヌクレオチド誘導体若しくはその類縁体を洗浄して除去することが好ましい。
【0039】
ヌクレオチド誘導体若しくはその類縁体の固定量(数)は、基板表面に対して、10〜10種類/cmの範囲にあることが好ましい。ヌクレオチド誘導体若しくはその類縁体の量は、1〜10−15モルの範囲にあり、重量としては数ng以下であることが好ましい。点着によって、ヌクレオチド誘導体若しくはその類縁体の水性液は、基板表面にドットの形状で固定される。ドットの形状は、ほとんど円形である。形状に変動がないことは、遺伝子発現の定量的解析や一塩基変異を解析するために重要である。それぞれのドット間の距離は、0〜1.5mmの範囲にあることが好ましく、100〜300μmの範囲にあることが特に好ましい。1つのドットの大きさは、直径が50〜300μmの範囲にあることが好ましい。基板表面に点着するヌクレオチド誘導体若しくはその類縁体の量は、100pL〜1μLの範囲にあることが好ましく、1〜100nLの範囲にあることが特に好ましい。
【0040】
上記核酸と共有結合可能な反応性基A1が固定化された、又は、核酸が共有結合により固定化された核酸アレイは、例えば特開2001−228152号公報、特開2002−122610号公報、特開2002−176977号公報当に記載の方法で得ることができる。
【0041】
・保存及び核酸アレイパッケージ
本発明の核酸アレイの保存方法は、相対湿度が10%以下に保持された雰囲気下で保存する。
ここで、相対湿度が10%以下に保持された雰囲気下での保持は、保存中の大部分の時間を相対湿度が10%以下とすることを指し、具体的には密封1日後から開封時までを指す。本発明は、この密封1日後から開封時までの90%以上の時間、好ましくは密封1日後から開封時迄の間の湿度が10%RH以下である。
【0042】
保存は、上記湿度を保てれば特に制限されないが、通常、湿度を透過しにくい梱包材で包装する。
本発明の核酸アレイパッケージは、核酸アレイと、該核酸アレイを包む密封梱包体とを含み、該密封梱包体内が相対湿度が10%以下の雰囲気である。
密封梱包体は、例えば水蒸気透過度が1g/m・24時間以下のものが好ましく、水蒸気バリア性フィルム等が好適に使用できる。また、核酸アレイを物理的に保護するため、更にスライドケース等の硬質な容器で梱包することが好ましい。密閉性を確保するために、軟質又は薄い湿度を透過しにくい密封梱包体と、物理的強度を確保するために硬質な容器の両方を用いることがより好ましい。両方を用いる場合、硬質な容器に核酸アレイを梱包した上で、全体を密封梱包体で包装していることが好ましい。
保存は、核酸アレイを乾燥した空気と共に密封してもよいが、乾燥剤を含む密閉雰囲気又は真空雰囲気で行われることが好ましい。また不活性ガス雰囲気とすることも好ましい。
乾燥剤は、市販の各種乾燥剤を使用することができ、塩化カルシウム、五酸化二リン、硫酸ナトリウム無水塩、過塩素酸マグネシウム等の化学乾燥剤、シリカゲル、ゼオライト等の多孔質乾燥剤を用いたものが使用できる。
真空雰囲気としては、200Pa以下、より好ましくは10Pa以下の真空とすることが好ましい。
不活性ガスは、例えば、窒素、或いはヘリウム、アルゴンガス等の希ガス類を上げることができる。
【0043】
また、保存は、30℃以下で行われることが好ましく、より好ましくは20℃以下、更に好ましくは8℃以下で行われる。
【0044】
・使用方法(ハイブリダイゼーション)
拡散アレイは、遺伝子発現のモニタリング、塩基配列の決定、変異解析、多型解析等に利用される。検出原理は、標識した試料核酸断片とのハイブリダイゼーションである。
【0045】
標識方法としては、RI法と非RI法(蛍光法、ビオチン法、化学発光法等)とが知られているが、本発明では蛍光法を用いることが好ましい。蛍光標識に利用される蛍光物質としては、核酸の塩基部分と結合できるものであれば何れも用いることができるが、シアニン色素(例えば、市販のCy DyeTMシリーズのCy3、Cy5等)、ローダミン6G試薬、N−アセトキシ−N−アセチルアミノフルオレン(AAF)あるいはAAIF(AAFのヨウ素誘導体)を使用することができる。
【0046】
試料核酸断片としては、通常、その配列や機能が未知であるDNA断片試料あるいはRNA断片試料などの核酸断片試料が用いられる。
核酸断片試料は、遺伝子発現を調べる目的では、真核生物の細胞や組織サンプルから単離することが好ましい。試料がゲノムならば、赤血球を除く任意の組織サンプルから単離することが好ましい。赤血球を除く任意の組織は、抹消血液リンパ球、皮膚、毛髪、精液等であることが好ましい。試料がmRNAならば、mRNAが発現される組織サンプルから抽出することが好ましい。mRNAは、逆転写反応により標識dNTP(「dNTP」は、塩基がアデニン(A)、シトシン(C)、グアニン(G)若しくはチミン(T)であるデオキシリボヌクレオチドを意味する。)を取り込ませて標識cDNAとすることが好ましい。dNTPとしては、化学的な安定性のため、dCTPを用いることが好ましい。一回のハイブリダイゼーションに必要なmRNA量は、点着する液量や標識方法によって異なるが、数μg以下である。なお、ヌクレオチド誘導体若しくはその類縁体固定固相担体上のDNA断片がオリゴDNAである場合には、核酸断片試料は低分子化しておくことが望ましい。原核生物の細胞では、mRNAの選択的な抽出が困難なため、全RNAを標識することが好ましい。
核酸断片試料は、遺伝子の変異や多型を調べる目的では、標識プライマー若しくは標識dNTPを含む反応系において標的領域のPCRを行なって得ることが好ましい。
【0047】
ハイブリダイゼーションは、分注しておいた標識した核酸断片試料が溶解あるいは分散してなる水性液を、本発明のヌクレオチド誘導体若しくはその類縁体を固定した固相担体上に点着することによって実施することが好ましい。点着の量は、1〜100μLの範囲にあることが好ましい。ハイブリダイゼーションは、室温〜70℃の温度範囲で、そして6〜70時間の範囲で実施することが好ましい。ハイブリダイゼーションの終了後、界面活性剤と緩衝液との混合溶液を用いて洗浄を行い、未反応の核酸断片試料を除去することが好ましい。界面活性剤としては、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)を用いることが好ましい。緩衝液としては、クエン酸緩衝液、リン酸緩衝液、ホウ酸緩衝液、トリス緩衝液、グッド緩衝液等を用いることができるが、クエン酸緩衝液を用いることが特に好ましい。
【0048】
核酸アレイを用いたハイブリダイゼーションにより、標識した核酸断片試料の使用量を非常に少なくできることである。遺伝子発現の解析には、低発現の遺伝子も十分に検出できるように、長時間のハイブリダイゼーションを行うことが好ましい。一塩基変異の検出には、短時間のハイブリダイゼーションを行うことが好ましい。また、互いに異なる蛍光物質によって標識した核酸断片試料を二種類用意し、これらを同時にハイブリダイゼーションに用いることにより、同一のDNA断片固定固相担体上で発現量の比較や定量ができる特徴もある。
なお、特開2010−004873に記載のハイブリダイゼーションを行うことも好ましい。
【0049】
・品質管理方法
本発明の品質管理方法は、核酸アレイが発するバックグラウンドシグナル値を測定する。前記バックグラウンドシグナル値の測定が、標識化合物を用いない測定であることが好ましい。本発明の品質管理方法は、前記した保存方法で保存された核酸アレイに対して行うことも好ましい。
前述した保存中の湿度により増加するバックグラウンドノイズは標識にも依存せず、ハイブリダイゼーション前、更には標識された試料を添付する前の核酸アレイを蛍光スキャナー等で測定することで検出可能である。更に、この湿気によるバックグラウンドノイズは、生体物質である核酸の変質によるものではなく、核酸を固定化する前の核酸アレイでも検出可能である。
バックグラウンドノイズを検出することにより、ある閾値(規格値)を設定しておいて、良品・不良品の判別を行うことも可能であり、またバックグラウンドノイズの測定値を用いて実際の測定値を補正することも可能である。
本発明においては、前記標識が蛍光によるものであり、蛍光スキャナーを用いてハイブリダイゼーション結果を測定することが好ましい。また蛍光スキャナーが非共焦点方式のレーザーであることがより好ましい。非共焦点方式のレーザーによる蛍光スキャナーは、高速で安全である。しかし、本発明者は、上記の核酸が共有結合を介して固定化された核酸アレイを使い、かつ、蛍光スキャナー、特に非共焦点方式を用いた場合に上記の湿度によるバックグラウンドノイズによる誤差が生じやすい傾向があることを発見した。
この原因は不明であるが、湿度により核酸アレイに何らかの状態変化が生じ、これが光の散乱等を引き起こしている可能性がある。本発明の核酸アレイの保存方法及び品質管理方法、及び核酸アレイパッケージにより、このような未知であった問題が解決された。
【実施例】
【0050】
以下に実施例を挙げて、なお、本発明をより詳細に説明する。本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0051】
核酸アレイの長期保存によるバックグラウンドシグナル上昇の評価は、高温環境下に一定期間、その対象物を置き、その経時的バックグラウンドシグナル上昇を調べることにより実施した。
【0052】
1.核酸マイクロアレイの製造
核酸マイクロアレイは、BACクローン(RPCI,RP11 BACライブラリ)から調製したプローブDNA712種をそれぞれ3つずつガラス基板上にスポットした、合計2136個のスポットを有しているものを用いた。
まず、BACクローンを大量培養後、イオン交換カラム(QIAGEN社、Plasmid Midi Kit 100 Cat.No.12145)を用いて抽出・精製しBAC DNAを得た。その後、BAC DNAを4塩基認識酵素、RsaI、DpnI、HaeIIIで消化した後、アダプターを加えてライゲーションをおこなう。次に、アダプターの一方のオリゴヌクレオチドと同一配列を有するプライマーを用いて、PCR法により増幅することによりプローブDNAが得られる。プローブDNAの長さは1000〜3000bp程度である。プローブDNAの基板へのスポットはGENESHOT(日本ガイシ株式会社、名古屋)を使用した。基板はガラス基板(松浪ガラス製社、VSCコートガラス)を使用した。VSCコートガラスは、ガラス表面に対してシランカップリング剤を用いてアミノ基を導入し、そのアミノ基に対してジスルホン化合物(CH=CH−SO−L−SO−CH=CHで表される化合物;Lは炭素数10以下の有機基)を接触させて作成したガラス基板である。
【0053】
2.低湿度保存工程
得られた核酸マイクロアレイを、スライドケースに入れ、更に乾燥剤を入れた状態のスライドケースを水分の透過を抑えた包装袋に開口部より挿入した。そして開口部を熱圧着により接着して包装袋を密閉した。
スライドケースはポリプロピレン製のケース(サーモフィッシャーサイエンティフィック社、プラスチックスライドメイラー)を使用した。
包装袋は水蒸気透過度がほぼ0g/m・24時間である水蒸気バリア性フィルムを用いて袋状に形成した。水蒸気バリア性フィルムとしては、包装袋として形成されたときに最も内側に位置する第1層が低密度ポリエチレン、第2層がポリエチレン、第3層がアルミニウム箔、第4層がポリエチレン、第5層がポリエチレンテレフタレートからなる複合フィルムを使用した。
乾燥剤はパルプシートに塩化カルシウムを染み込ませた板状の乾燥剤(アイディ社、アイディシート)を使用した。乾燥剤は、包装袋内容積から計算した必要量より過剰量を包装袋内に封入した。
【0054】
[試験例1]バックグラウンドノイズの測定試験
(1)核酸マイクロアレイの熱安定性の評価
実施例1の方法で乾燥剤アイディシートを封入して保存した核酸マイクロアレイ、及び、乾燥剤アイディシートを封入せずに実施例1と同様の包装袋及びスライドケースを利用して保存した核酸マイクロアレイの熱安定性の評価を行った。下表に示した各温度条件(A〜C)で6日間、核酸マイクロアレイを保存した。
【0055】
【表1】

【0056】
保存条件A〜Cそれぞれにおいて乾燥剤を封入した場合及び乾燥剤を封入しなかった場合の包装袋内の湿度の測定値を図1〜図6に示す。図より乾燥剤を封入した場合の包装袋内の湿度は6日間の間10%以下に保持されていることが分かる。
【0057】
(2)核酸マイクロアレイのバックグラウンドシグナルの測定
次に(1)で保存した各核酸マイクロアレイバックグラウンドシグナルを、非共焦点方式のGenePix (R) 4000B(Axon Instruments)を用いて測定した。測定はPMTGainを最大に設定して実施した。測定はスポット径の3倍の範囲について実施した。各スポットについて測定を実施し、その平均値を測定値とした。
各核酸マイクロアレイの保存前の測定値に対する上昇率を下表に記載した。乾燥剤を封入して保存した核酸マイクロアレイでは、乾燥剤を封入しなかった場合と比べてバックグラウンドシグナルの上昇率は著しく低下した。
【0058】
【表2】

【0059】
以上の結果は、本実施例の保存方法によれば低温に保持しなくてもバックグラウンドシグナルの上昇率を著しく低下させることが可能であることを示している。
【0060】
[試験例2]核酸マイクロアレイの保存試験
(3)バックグラウンドシグナルが規格値をはずれた核酸マイクロアレイ及びバックグラウンドシグナルが規格値内の核酸マイクロアレイのハイブリダイゼーション
【0061】
<未精製標識試料核酸の調製>
1.7mLマイクロチューブ(プラチナチューブ、ビーエム機器株式会社)に、Human Genomic DNA Female (Promega社, カタログ番号G152)を3μL(0.75μg)、水(Distilled Water DNAse, RNase Free, GIBCO)を8μL、アレイCGH用のラベリングシステム(BioPrime (R) Array CGH Genomic Labeling System(invitrogen))の2.5xRandom Primers Solution (invitrogen)を20μL入れ、ブロックインキュベータ(BI−535A、株式会社アステック)内にて、95℃で5分間熱処理を行った。5分後、マイクロチューブをブロックインキュベータから取り出し、37℃に設定したブロックインキュベータの中へ入れ、15分間静置した。
BioPrime(R) Array CGH Genomic Labeling Systemの10xdCTP Nucleotide Mix (invitrogen)を5μL、Cy3−dCTP Bulk Pack 250nmol(GEヘルスケアバイオサイエンス株式会社)を3μL、BioPrime (R) Array CGH Genomic Labeling SystemのExo−Klenow Fragment (invitrogen)を1μL添加し、37℃で2時間BLOCK INCUBATOR BI−535A上にて、標識化反応と同時に増幅反応を行った。2時間後、マイクロチューブをインキュベータから取り出し、65℃に設定したBLOCK INCUBATOR BI−535Aにて、加熱処理を行い、反応溶液中に含まれているExo−Klenow Fragmentを失活させた。
上記操作をHuman Genomic DNA Male (Promega社, カタログ番号G147)に対しても行い、以上の操作にて、二種の未精製標識試料核酸を得た。なお、Male DNAに対しても、標識化合物として、Cy3−dCTP(GEヘルスケアバイオサイエンス株式会社)を用いた。
【0062】
<未精製標識異常検出核酸の調製>
1.7mLマイクロチューブ(プラチナチューブ、ビーエム機器株式会社)にCot−1 DNA (インビトロジェン社、カタログ番号15279−011)を6μg(6μL)、水を5μL、2.5xRandom Primers Solutionを20μL入れ、BLOCK INCUBATOR BI−535A上にて、95℃で5分間熱処理を行った。5分後、マイクロチューブを取り出し、37℃に設定したBLOCK INCUBATOR BI−535Aの中に入れ、15分間静置した。10xdCTP Nucleotide Mixを5μL、Cy5−dCTP Bulk Pack 250nmol(GEヘルスケアバイオサイエンス株式会社)を3μL、Exo−Klenow Fragmentを1μL添加し、37℃で2時間BLOCK INCUBATOR BI−535Aにて、標識化反応と共に増幅反応を行った。2時間後、マイクロチューブをインキュベータから取り出し、65℃に設定したBLOCK INCUBATOR BI−535A上にて、15分間加熱処理を行い、反応溶液中に含まれているExo−Klenow Fragmentを失活させた。
【0063】
<標識異常検出核酸Cot−1 DNAを含むハイブリダイゼーション用溶液の調製>
未精製標識異常検出(補正)核酸Cy5−Cot−1 DNAを20μL、未標識核酸Cot−1 DNA 62μL(62μg、invitrogen)を1.7mLマイクロチューブに入れ、3M酢酸ナトリウム(pH5.2)を8μL、−20℃のエタノールを360μL添加し、混合後、10分間−80℃で放置した。その後、TOMY製遠心機MX−300を用いて、15000rpmで30分間、4℃で遠心を行った。遠心後、沈殿物が遠心チューブの底にたまるので、その沈殿物を吸い込まないように注意しながら、上清を除去した。次に、遠心チューブのフタを開けたまま10分間放置し、残存するエタノールを除去した。10分後、ホルムアミドを40%、SSC、デキストラン硫酸を0.075mg/μLに調製したハイブリダイゼーション調製溶液を52μL、10%SDSを8μL添加し、30分間静置した。30分後、攪拌することで沈殿物を溶解し、その後、十分に攪拌した。
【0064】
<標識試料核酸、標識異常検出核酸を含むハイブリダイゼーション用溶液の調製>
<未精製標識試料核酸の調製>で調製したFemale DNAの未精製標識試料核酸を20μL、<標識異常検出(補正)核酸Cot−1 DNAを含むハイブリダイゼーション用溶液の調製>で調製した溶液を60μL、1.7mLマイクロチューブの中に入れ、十分にVortex処理を行うことで、攪拌を行った。また同様に、<未精製標識試料核酸の調製>で調製したMale DNAの未精製標識試料核酸を20μL、<標識異常検出核酸Cot−1 DNAを含むハイブリダイゼーション調製溶液の調製>で調製した溶液を60μL、1.7mLマイクロチューブの中に入れ、十分にVortex処理を行うことで、攪拌を行った。
【0065】
<核酸マイクロアレイのバックグラウンドシグナルの測定及び規格値との比較>
試験例1(2)と同様の方法で核酸マイクロアレイのバックグラウンドシグナルを測定し、規格値を外れた核酸マイクロアレイと規格値内の核酸マイクロアレイを用意した。下表3に用意した核酸マイクロアレイのバックグラウンドシグナル値と規格値を示した。
なお、核酸マクロアレイAは条件Aで乾燥剤なしで6日間保存したもの、核酸マクロアレイBは条件Cで乾燥剤なしで6日間保存したものである。
【0066】
【表3】

【0067】
表3より、核酸マイクロアレイAは規格値内、核酸マイクロアレイBは規格値を外れていることが分かる。
【0068】
<核酸マイクロアレイの前処理>
ブロッキング溶液(松浪硝子工業株式会社)を約200mL、ガラス容器に入れ、そこへ核酸マイクロアレイを入れ、20分間SLIDE WASHER, SW−4(十慈フィールド株式会社)を用いて、スライドガラスを上下に移動させながら、ブロッキング反応を行った。20分後、核酸マイクロアレイをブロッキング溶液から取り出し、水200mLを入れた容器の中に入れた。3分間、SLIDE WASHERを用いて洗浄し、3分後、再び新しい水を200mL入れた容器の中に入れ、SLIDE WASHERを用いて洗浄した。3分後、エタノールを200mL入れた容器の中に移し、再びSLIDE WASHERを用いて洗浄した。3分後、核酸マイクロアレイを取り出し、卓上遠心機スピンドライヤーmini2350(トミー工業株式会社)を用いて遠心を行い、核酸マイクロアレイを乾燥させた。
ブロッキング後、沸騰水に核酸マイクロアレイを2分間浸し、ついで、−20℃の70%エタノールに2分間、−20℃の100%エタノールに2分間浸し、その後、スピンドライヤーで1分間の遠心を行うことで核酸マイクロアレイを乾燥させた。なお、上記の操作は、核酸マイクロアレイA及びBを同時に処理することで行った。
【0069】
<ハイブリダイゼーション>
<標識試料核酸、標識異常検出核酸を含むハイブリダイゼーション用溶液の調製>で調製した二種の試料溶液を、BLOCK INCUBATOR BI−535A上にて、それぞれ75℃で16分間熱処理を行った。その後、42℃で30分以上熱処理を行った。それぞれの溶液を、ハイブリダイザーを用いてハイブリダイゼーションを行った。
ハイブリダイザーは、HYBRIMASTER HS−300(アロカ株式会社)を用いた。ハイブリダイゼーション温度は、37℃、ハイブリダイゼーション時間は、16時間行った。ハイブリダイゼーションの間、ローラーで攪拌するように設定した。Cy3−Female DNAとCy5−Cot−1 DNAを含むハイブリダイゼーション用溶液を、それぞれのCGHアレイ上に滴下し、ハイブリダイザーのスタートボタンを押した。洗浄条件は、(1)2×SSCの溶液を5mL、室温、30秒間、(2)50%ホルムアミド/2×SSC(pH7.0)溶液を5mL、50℃、15分間、(3)2×SSC/0.1%SDS(pH7.0)溶液を5mL、50℃、30分間、(4)2×SSCの溶液を5mL、室温、5分間に設定し、洗浄中は、ローラーを用いて攪拌するように設定した。ハイブリダイザーによるハイブリダイゼーションを行った後、核酸マイクロアレイをハイブリダイザーから取り出し、2×SSCを入れた50mLのスミロンチューブの中に核酸マイクロアレイを入れ、数分後、マイクロアレイを取り出して、スピンドライヤー−Mini Model2350で1分間の遠心を行うことでCGHアレイを乾燥させた。
【0070】
<データ取り込み>
洗浄した二枚の核酸マイクロアレイは、非共焦点方式のGenePix (R) 4000B(Axon Instruments)を用いて、スキャニングを行った。
【0071】
<データ処理>
下記の式を用いて、データ処理を行った。
未精製標識試料核酸Cy3−Female由来の蛍光値をFF、未精製標識試料核酸Cy3−Male由来の蛍光値をFM、Female側の標識異常検出(補正)核酸の蛍光値をFc1、Male側の標識異常検出(補正)核酸の蛍光値をFc2とすると、補正後のCy3−Male DNAの標識量値FM’を以下の式により計算した。
FM’=FM×Fc1÷Fc2
更に以下の式により、Log Ratio(Female/Male)を計算した。
Log Ratio(Female/Male)=Log(FF÷FM’)
なお、アレイ間で比較するスポット対は、同一のBlock Number、同一のColumn Number、同一のRow Numberを用い、核酸マイクロアレイ上に配置されているすべてのスポットについてLog Ratio(Female/Male)を計算した。
また、Ratio(Female/Male)の値{Ratio(Female/Male)は、Female側のスポットの蛍光値とMale側のスポットの蛍光値の比}も下記の式を用いて同様に計算した。
Ratio(Female/Male)=FF÷FM’
次に同種のプローブ核酸をスポットした2つのスポットのLog Ratio又はRatio(Female/Male)の平均値を計算した。
なお、ノーマライゼーション法として、グローバルノーマライゼーションを行った。
【0072】
<結果>
図7及び8に核酸マイクロアレイA及びBのLog Ratio値を、染色体番号順にプロットした図を示す。なお、図7及び8におけるプロットは、同種のプローブをスポットした3つのスポットの平均値である。■が常染色体に相当する部分(□は閾値外)を、◆がX染色体に相当する部分(◇は閾値外)を、▲がY染色体に相当する部分(△は閾値外)を示している。核酸マイクロアレイA及びBを比較すると、規格値を外れた核酸マイクロアレイBの結果では、規格値内の核酸マイクロアレイAの結果と比べて大きくばらついていることが分かる。
【0073】
更に表4に全スポットの蛍光シグナルのS/N比の値を示した。規格値を外れた核酸マイクロアレイBの結果では、規格値内の核酸マイクロアレイAの結果と比べてS/N比が低下していることが分かる。
【0074】
【表4】

【0075】
以上の結果は本実施例の規格値と比較することによって、正常に使用可能な核酸マイクロアレイの選別が可能であることを示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
核酸が共有結合により固定化された核酸アレイを、相対湿度が10%以下に保持された雰囲気下で保存する、核酸アレイの保存方法。
【請求項2】
前記雰囲気が、乾燥剤を含む密閉雰囲気である請求項1に記載の核酸アレイの保存方法。
【請求項3】
前記雰囲気が、真空雰囲気又は不活性ガス雰囲気である請求項1又は2に記載の核酸アレイの保存方法。
【請求項4】
前記核酸アレイが、反応性基A1が固定化された基板に対し、核酸を接触させ、該核酸を該基板に固定化させたものであり、該反応性基A1が
式1:−L−SO−X
で表される基である、請求項1〜3のいずれかに記載の核酸アレイの保存方法。
式中、
Lは連結基を表す。
Xは、−CR=CR又は−CHR−CRYで表される基を表す。
、R及びRは、独立して、水素原子、アルキル基、及びアリール基からなる群より選ばれる原子若しくは基を表す。
Yは、ハロゲン原子、−OSO11、−OCOR12、−OSOM、及び四級ピリジニウム基からなる群より選ばれる原子若しくは基を表す。
11は、アルキル基又はアリール基を表す。
12は、アルキル基を表す。
Mは、水素原子、アルカリ金属原子及びアンモニウム基からなる群より選ばれる原子若しくは基を表す。
【請求項5】
前記反応性基A1が固定化された基板が、
表面にアミノ基を有する基板に対し、
式2:X−SO−L−SO−X
で表されるジスルホン化合物を接触させることにより、前記式1で表される基を導入したものである、請求項4に記載の核酸アレイの保存方法。
式中、
Lは連結基を表す。
Xは、独立して−CR=CR又は−CHR−CRYで表される基を表す。
、R及びRは、独立して、水素原子、アルキル基、及びアリール基からなる群より選ばれる原子若しくは基を表す。
Yは、ハロゲン原子、−OSO11、−OCOR12、−OSOM、及び四級ピリジニウム基からなる群より選ばれる原子若しくは基を表す。
11は、アルキル基又はアリール基を表す。
12は、アルキル基を表す。
Mは、水素原子、アルカリ金属原子、及びアンモニウム基からなる群より選ばれる原子若しくは基を表す。
【請求項6】
核酸アレイが発するバックグラウンドシグナル値を測定する、核酸アレイの品質管理方法。
【請求項7】
前記バックグラウンドシグナル値の測定が、標識化合物を用いない測定である、請求項6に記載の核酸アレイの品質管理方法。
【請求項8】
前記核酸アレイが、請求項1〜7のいずれかに記載の核酸アレイの保存方法により保存された核酸アレイである、請求項6又は7に記載の核酸アレイの品質管理方法。
【請求項9】
前記バックグラウンドシグナル値が、蛍光スキャナーの測定値である請求項6〜8のいずれかに記載の核酸アレイの品質管理方法。
【請求項10】
前記蛍光スキャナーが、非共焦点方式のレーザーを用いた蛍光スキャナーである請求項9に記載の核酸アレイの品質管理方法。
【請求項11】
核酸アレイと、該核酸アレイを包む密封梱包体とを含み、該密封梱包体内が相対湿度が10%以下の雰囲気である、核酸アレイパッケージ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−177093(P2011−177093A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−43565(P2010−43565)
【出願日】平成22年2月26日(2010.2.26)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】