説明

核酸分離用担体の製造方法、及び核酸分離用担体とマイクロ流路系、並びに核酸分離方法と核酸分離装置

【課題】マイクロ流路内における核酸ハイブリダイゼーションにおいて、内圧上昇を防止することにより、通液する溶液の漏れを防止して、高流量化を可能にするための技術の提供。
【解決手段】表面にカチオン交換性のイオン交換基を有する多孔質担体(マイクロビーズ)1に対し、標的核酸鎖に相補的な塩基配列を有し、正電荷を有する官能基が修飾された捕捉鎖2を、イオン交換結合により固相化する手順、を含む核酸分離用担体の製造方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、核酸分離用担体の製造方法、及び核酸分離用担体とマイクロ流路系、並びに核酸分離方法と核酸分離装置に関する。より詳しくは、カチオン交換性の多孔質担体を用いた核酸分離用担体の製造方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、遺伝子の変異解析、SNPs(一塩基多型)分析、遺伝子発現頻度解析、遺伝子ネットワーク解明等に利用され得るバイオアッセイ技術の開発が進んでいる。例えば、いわゆるDNAチップ又はDNAマイクロアレイ(以下、「DNAチップ」と総称する)と呼ばれる集積基板を用いた方法が挙げられる。
【0003】
このDNAチップやタンパク質を集積したプロテインチップなどに代表されるようなセンサーチップ技術は、標的物質と検出用物質との間の特異的な相互作用を利用して、サンプル中の標的物質を分離・検出し、その含有量を調べる方法である。
【0004】
最近では、流路やキャピラリーを利用して、標的物質と検出用物質とを相互作用させる技術が提案されている。また、物質間相互作用の応用として、核酸間のハイブリダイゼーション反応を、流路や細管内で進行させる技術も提案されている。例えば、特許文献1には、ポリヌクレオチドの増幅を行う部分と、検出用オリゴヌクレオチドが固定されている多孔質層を有するハイブリダイゼーション部分とが、流路によって連結されているポリヌクレオチドの分析用部材が開示されている。特許文献2には、毛細管状の流路の内壁にプローブ化合物を固定して、被検ポリヌクレオチドとハイブリダイゼーションを進行させるポリヌクレオチドの分析方法が開示されている。
【0005】
このように流路やキャピラリーなどの細い流路内において、物質間相互作用を進行させる場合、サンプル溶液等の送液に伴い、流路の内圧が著しく上昇してしまうことが問題となる。特に、標的物質を核酸鎖とする場合には、細い流路内で核酸鎖のハイブリット形成が進行することにより、流路の実質的体積が減少し、流路内圧が上昇することがある。また、標的核酸鎖以外の核酸鎖が流路内に非特異的に吸着すると、流路の目詰まりが生じ、流路内圧が上昇してしまう。
【0006】
流路内圧が上昇すると、配管系の継ぎ目などの圧力に弱い部分で送液する溶液の漏れを生じる。このような漏れによる溶液の損失(ロス)は、反応物質の量や濃度の低下を引き起こし、その結果、期待する物質間相互作用が行われなくなるおそれが生じる。また、サンプル溶液などに有害物質を含む場合には、溶液の漏れによって安全性が低下するという問題があった。
【0007】
そこで、本発明者らは、特許文献3において、マイクロ流路内での目詰まりを防止し、内圧上昇を防止することが可能なマイクロ流路系を提供している。このマイクロ流路系は、ビーズが充填されているハイブリット形成部と、該ハイブリット形成部の下流領域に設けられた送液の高速化に寄与する送液促進部とからなっている。
【0008】
【特許文献1】特開2005−130795号公報
【特許文献2】特開2004−121226号公報
【特許文献3】特開2007−309900号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記特許文献3に開示されるマイクロ流路系の送液促進部には、例えばパーフュージョンクロマトグラフィー粒子が充填される。パーフュージョンクロマトグラフィー粒子として、典型的なものには、貫通孔(Through pore)と称される大きなポアと拡散孔(Diffusive pore)と称される小さなポアを持つ多孔質担体がある。パーフュージョンクロマトグラフィー粒子では、サンプル溶液中の物質は拡散孔の隅々まで広がる一方、サンプル溶液そのものは貫通孔を通り貫けることができる。このため、核酸のハイブリダイゼーション反応を行うハイブリット形成部の下流領域に、このパーフュージョンクロマトグラフィー粒子を充填した送液促進部を設けた上記マイクロ流路系では、流路内の内圧上昇を防止して高流量の送液を行うことが可能とされている。
【0010】
本発明は、このようなマイクロ流路内における核酸ハイブリダイゼーションにおいて、内圧上昇を防止することにより、通液する溶液の漏れを防止して、さらなる高流量化を可能にするための技術を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題解決のため、本発明は、表面にカチオン交換性のイオン交換基を有する多孔質担体に対し、標的核酸鎖に相補的な塩基配列を有し、正電荷を有する官能基が修飾された捕捉鎖を、イオン交換結合により固相化する手順、を含む核酸分離用担体の製造方法を提供する。
表面に導入したカチオン交換性のイオン交換基を有する担体を用いることにより、該イオン交換基の負電荷と、核酸鎖のリン酸基の負電荷との電気的な反発に基づき、担体表面への核酸鎖の非特異的吸着を抑制することができる。
また、多孔質構造の担体を用いることで、通液される溶液を孔に通流させて、速やかに送液することができる。
そして、担体表面のカチオン交換性のイオン交換基に捕捉鎖をイオン交換結合によって固相化することで、簡単に核酸分離用担体を製造できる。
この核酸分離用担体の製造方法のイオン交換結合により固相化する手順においては、前記捕捉鎖を、前記イオン交換基とのイオン交換結合を維持可能なカチオン濃度の溶液中で、前記多孔質担体に接触させる。これにより、担体表面のカチオン交換性のイオン交換基と、捕捉鎖に修飾した官能基とをイオン交換結合させる。
さらに、イオン交換結合した前記イオン交換基と前記捕捉鎖とを共有結合させてもよい。これにより、捕捉鎖をより強固に担体表面に古層化することができる。
【0012】
本発明は、表面にカチオン交換性のイオン交換基を有する多孔質担体に対し、
標的核酸鎖に相補的な塩基配列を有し、正電荷を有する官能基が修飾された捕捉鎖を、イオン交換結合により固相化した核酸分離用担体、及び、表面にカチオン交換性のイオン交換基を有する多孔質担体に対し、標的核酸鎖に相補的な塩基配列を有し、正電荷を有する官能基が修飾された捕捉鎖を、イオン交換結合により固相化した後、イオン交換結合した前記イオン交換基と前記捕捉鎖とを共有結合させた核酸分離用担体、並びに、これらの核酸分離用担体を充填したマイクロ流路系をも提供する。
さらに、表面にカチオン交換性のイオン交換基を有する多孔質担体に対し、標的核酸鎖に相補的な塩基配列を有し、正電荷を有する官能基が修飾された捕捉鎖を、イオン交換結合により固相化する手順、を含む核酸分離方法、及び、表面にカチオン交換性のイオン交換基を有する多孔質担体に対し、標的核酸鎖に相補的な塩基配列を有し、正電荷を有する官能基が修飾された捕捉鎖を、イオン交換結合により固相化する工程、を行う核酸分離装置を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、マイクロ流路内における核酸ハイブリダイゼーションにおいて、内圧上昇を防止することにより、通液する溶液の漏れを防止して、高流量化を可能にするための技術が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための好適な形態について図面を参照しながら説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明の代表的な実施形態の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。
【0015】
図1は、本発明に係る核酸分離用担体の表面上の物質構成の一例を示す模式図である。図は、担体としてマイクロビーズを採用した場合を示している。
【0016】
マイクロビーズ1は表面にカチオン交換性のイオン交換基(以下、「カチオン交換基」という)が導入された多孔質ビーズである。カチオン交換基は、カルボキシル基やスルフォニル基、スルフォニルメチル基、スルフォエチル基、フェノール性ヒドロキシ基、硝酸基等を導入可能であり、これらは必要に応じて1種又は2種以上を導入することができる。
【0017】
カチオン交換基の導入は、マイクロビーズ1表面の官能基にカチオン交換基を直接結合させることにより導入することができる。具体的には、例えば、マイクロビーズ1表面の水酸基に対しクロロ酢酸を作用させてカルボン酸を導入する方法や、マイクロビーズ1表面の水酸基にエポキシ基やアリル基を導入後、スルホン化する方法により行う。
【0018】
マイクロビーズ1の表面には、分離対象とする標的核酸鎖をビーズ上に捕捉するための捕捉鎖2が固相化されている。本発明において、標的核酸鎖は、DNAやRNAに加えて、これらのリボース部分の構造を改変して得られる核酸類似体(例えば、LNA(Locked Nucleic Acid))等とすることができる。相補鎖2は、標的核酸鎖の種類に応じて、DNAやRNA、核酸類似体等から適宜選択して用いる。
【0019】
捕捉鎖2は、標的核酸鎖に対し相補的な塩基配列を有し、高い親和性をもってこれと相互作用し、二本鎖(ハイブリッド)を形成し得るものである。捕捉鎖2の塩基配列の長さ(塩基数)は任意であり、標的核酸鎖の塩基配列の少なくとも一部に相補的な塩基配列を有していれば塩基数は特に限定されない。通常、捕捉鎖2の長さは、数塩基〜数百塩基であり、好ましくは10塩基〜100塩基程度である。
【0020】
また、捕捉鎖2は、標的核酸鎖に対し完全に相補的な塩基配列を有している必要はなく、標的核酸鎖と二本鎖形成(ハイブリダイズ)が可能な限りにおいて、その塩基配列中に1塩基又は2塩基以上のミスマッチ(非相補塩基)を有していてもよい。
【0021】
マイクロビーズ1表面への捕捉鎖2の固相化は、捕捉鎖2をビーズ表面のカチオン交換基とイオン交換結合させることによって行うことができる。このイオン交換結合のため、捕捉鎖2には、アミノ基やイミド基、アンモニウム基等の正電荷を有する官能基が修飾されている。捕捉鎖2への官能基修飾は、例えば、塩基配列の5’末端に通常の化学修飾によってアミノ基を修飾することによって行うことができる。捕捉鎖2は、このアミノ基等の正電荷によって、ビーズ表面のカチオン交換基の負電荷とイオン交換反応し、イオン交換結合によりビーズ表面に結合する。
【0022】
通常、核酸分離に用いられるビーズでは、アビジン−ビオチン結合やカップリング反応(例えば、ジアゾカップリング反応)を介して、捕捉鎖の固相化を行なっている。例えば、アビジン−ビオチン結合を利用する場合では、ビーズ表面にストレプトアビジンを固定化し、5’末端にビオチンを修飾した捕捉鎖を、アビジン−ビオチン間の結合によって固相化している。
【0023】
これに対して、マイクロビーズ1では、ビーズ表面のカチオン交換基とのイオン交換結合によって捕捉鎖2の固相化を行う。表面にカチオン交換基を導入した担体では、カチオン交換基の負電荷と、核酸鎖のリン酸基の負電荷との電気的な反発によって、担体表面への核酸鎖の非特異的吸着を抑制することができる。本発明に係る核酸分離用担体及びその製造方法においては、このような表面にカチオン交換基を導入した担体に対して、捕捉鎖に正電荷を有する官能基を修飾することによって、簡便に担体表面へ捕捉鎖を固相化することが可能である。
【0024】
さらに、マイクロビーズ表面への捕捉鎖2の固相化は、捕捉鎖2をビーズ表面のカチオン交換基とイオン交換結合させた後、共有結合させてもよい。捕捉鎖2とカチオン交換基の共有結合は、一例として、縮合反応(例えば、脱エタノール縮合)によって形成させることができる。捕捉鎖2をビーズ表面のカチオン交換基と共有結合させることにより、イオン交換結合の場合に比べて、より強固に固相化することができる。
【0025】
図2は、マイクロビーズ1の構造の一例を示す断面模式図である。
【0026】
マイクロビーズ1は、多孔質の構造を有している。このような担体として、例えば、図に示すパーフュージョンクロマトグラフィー粒子を好適に採用できる。このマイクロビーズ1は、貫通孔11(Through pore)と拡散孔12(Diffusive pore)の大小のポアを有している。この内部構造により、マイクロビーズ1では、通液される溶液そのものは貫通孔11を通り貫けて速やかに通流される(図中矢印参照)。一方、溶液中に含まれる物質は拡散孔12の隅々まで広がって通流される。
【0027】
図3は、本発明に係るマイクロ流路系の好適な実施形態の一例を示す図である。
【0028】
図中、符号3で示すマイクロ流路系は、大別して、溶液の流路となる口径
細管31と、該細管31の一端に形成された導入部32と、他端側に形成された排出部33と、から構成されている。なお、図中、矢印Fは、溶液の通液方向を示している。
【0029】
このマイクロ流路系3には、細管31内部にマイクロビーズ1が充填されている。マイクロビーズ1は、上述のように、捕捉鎖2をビーズ表面のカチオン交換基とイオン交換結合又は共有結合させることによって固相化した後、細管31内に充填することができる。
【0030】
また、以下の手順に従って、マイクロ流路系3内への充填後、表面への捕捉鎖2の固相化を行うことも可能である。すなわち、まず、表面にカチオン交換基が導入された多孔質ビーズを、細管31内に充填する。続いて、正電荷を有する官能基が修飾された捕捉鎖2の溶液を、導入部32から細管31内に通液する。捕捉鎖2溶液の通液に先立って、緩衝液を適宜通液して細管31内のビーズのコンディショニングを行ってもよい。
【0031】
細管31内に通液された捕捉鎖2溶液は、多孔質ビーズの貫通孔11を通り貫けて速やかに排出部33へ通流される。そして、溶液中に含まれる捕捉鎖2は拡散孔12の隅々まで広がって通流され、ビーズ表面に導入されたカチオン交換基とイオン交換反応し、イオン交換結合によってビーズ表面に固相化される。
【0032】
このとき、捕捉鎖2は、ビーズ表面のカチオン交換基と捕捉鎖2に修飾された正電荷を有する官能基とのイオン交換反応を阻害しないようなカチオン濃度の溶液として通液される必要がある。例えば、捕捉鎖2を高塩濃度溶液として細管31内に通液した場合には、溶液中の塩イオンによってビーズ表面のカチオン交換基と捕捉鎖2に修飾した官能基とのイオン交換反応が阻害され、捕捉鎖2を固相化できない。
【0033】
捕捉鎖2溶液のカチオン濃度は、ビーズ表面のカチオン交換基の種類、捕捉鎖2に修飾した官能基の種類及びこれらのイオン交換結合強度に応じて、結合を維持可能な濃度に適宜設定される。好適には、捕捉鎖2溶液を純水で調製することにより、ビーズ表面のカチオン交換基と捕捉鎖2に修飾した官能基を強固にイオン交換結合させることができる。
【0034】
さらに、ビーズ表面のカチオン交換基と捕捉鎖2に修飾した官能基との結合を共有結合化する場合には、このイオン交換結合が維持される条件下で縮合反応(例えば、脱エタノール縮合)等を行う。
【0035】
以上のような手順により、マイクロ流路系3内において、多孔質ビーズ表面のカチオン交換基に捕捉鎖2をイオン交換結合又は共有結合させることができる。
【0036】
次に、マイクロ流路系3を用いた核酸分離方法の好適な実施形態を、図3及び図4に基づいて説明する。図4は、核酸分離方法の各ステップにおけるマイクロビーズ1表面上の物質構成を模式的に示している。ここでは、サンドイッチ・ハイブリダイズ法によって標的核酸鎖の検出を行う場合を例に説明する。
【0037】
<ステップ1>
まず、表面にカチオン交換基が導入された多孔質ビーズを細管31内に充填し、導入部32から緩衝液を通液してビーズのコンディショニングを行う。続いて、正電荷を有する官能基が修飾された捕捉鎖2の溶液を、導入部32から細管31内に通液する。これにより、ビーズ表面のカチオン交換基と捕捉鎖2に修飾した官能基とがイオン交換反応し、捕捉鎖2がビーズ表面に固相化される。ステップ1後のマイクロビーズ1表面の物質構成を、図4(A)に示す。
【0038】
なお、このステップで、ビーズ表面のカチオン交換基と捕捉鎖2に修飾した官能基とのイオン交換結合を、縮合反応等によって共有結合化させてもよい。
【0039】
<ステップ2>
標的核酸鎖を含む試料溶液を、導入部32から細管31内に通液する。これにより、標的核酸鎖に対し相補的な塩基配列を有する捕捉鎖2と、標的核酸鎖が二本鎖を形成(ハイブリダイズ)し、標的核酸鎖がビーズ表面に捕捉される。捕捉鎖2と標的核酸鎖とのハイブリダイゼーション反応は、マイクロ流路系3の温度や試料溶液組成を調整し、適当なハイブリッド形成条件下において行われる。ステップ1後のマイクロビーズ1表面の物質構成を、図4(B)に示す。図中、符号Tは試料溶液に含まれる標的核酸鎖、符号Nは標的核酸鎖以外の核酸鎖(非標的核酸鎖)を示す。
【0040】
このハイブリダイゼーション反応において、捕捉鎖2が共有結合によってビーズ表面に固相化されている場合には、例えば、高塩濃度条件や高温度条件のハイブリッド形成条件下においても、捕捉鎖2をビーズ表面に安定に保持して、標的核酸鎖Tを確実に捕捉することができる。
【0041】
<ステップ3>
次に、捕捉鎖2と標的核酸鎖Tとのハイブリッド形成条件を維持したまま、導入部32から洗浄用の緩衝液を通液してビーズの洗浄を行う。洗浄後、ビーズ表面に捕捉された標的核酸鎖Tを検出するための検出鎖を導入部32から細管31内に通液する。
【0042】
検出鎖は、捕捉鎖2と同様に、標的核酸鎖Tに対し相補的な塩基配列を有し、高い親和性をもってこれと相互作用し、ハイブリッドを形成し得るものである。検出鎖も、標的核酸鎖Tの種類に応じて、DNAやRNA、核酸類似体等から適宜選択されて用いられ、塩基配列の長さ(塩基数)は任意に設定することができる。標的核酸鎖Tに対し完全に相補的な塩基配列を有している必要がない点も、捕捉鎖2と同様である。
【0043】
検出鎖には、蛍光物質や放射性物質などが標識(ラベル)される。これらの標識物質から発生する蛍光や放射線を検出することで、標的核酸鎖Tの検出を行うことができる。
【0044】
検出鎖溶液を導入部32から細管31内に通液すると、捕捉鎖2とハイブリッドを形成する標的核酸鎖Tに対し、さらに検出鎖がハイブリダイズする。これにより、標的核酸鎖Tは捕捉鎖2及び検出鎖とハイブリッドを形成し、サンドイッチ・ハイブリッド(ダブル・ハイブリッド)となる。標的核酸鎖Tと検出鎖のハイブリダイゼーション反応は、マイクロ流路系3の温度や試料溶液組成を調整し、適当なハイブリッド形成条件下において行われる。ステップ3後のマイクロビーズ1表面の物質構成を、図4(C)に示す。図中、符号Dは検出鎖を示す。
【0045】
この2段階目のハイブリダイゼーション反応においても、捕捉鎖2を共有結合によってビーズ表面に固相化しておくことにより、捕捉鎖2をビーズ表面に安定に保持して、標的核酸鎖Tと検出鎖Dとのダブル・ハイブリッドを確実に捕捉することができる。
【0046】
<ステップ4>
標的核酸鎖Tのダブル・ハイブリッド形成を維持したまま、導入部32から洗浄用の緩衝液を通液してビーズの洗浄を行う。洗浄後、ビーズ表面に捕捉された標的核酸鎖Tを、検出鎖Dに標識された蛍光物質や放射性物質から発生する蛍光や放射線によって検出する。
【0047】
より具体的には、例えば、捕捉鎖2をポリ(A)配列に相補的なポリ(dT)配列やポリ(dU)配列とすることにより、真核生物のメッセンジャーRNA(mRNA)を捕捉し、標的とするmRNA(標的核酸鎖T)を、これに相補的な塩基配列とした検出鎖Dによって検出する。そして、検出鎖Dの蛍光又は放射線の強度を測定し、測定強度に基づいて標的mRNAを定量的に検出する。なお、捕捉鎖2には、ポリ(A)配列に相補的であれば、RNAであるポリ(T)やポリ(U)を用いてもよい。
【0048】
以上に説明した核酸分離方法によれば、ステップ1において、マイクロ流路系3内で、多孔質ビーズ表面のカチオン交換基に捕捉鎖2をイオン交換結合によって固相化し、マイクロビーズ1及びこのマイクロビーズ1が充填されたマイクロ流路系3を簡単に準備することができる。
【0049】
そして、マイクロビーズ1の有する多孔質構造によって、ステップ1〜4における細管31内への捕捉鎖1溶液や試料溶液等の通液時に、溶液を貫通孔11に通流させて速やかに排出部33へ送液させることができる。また、溶液中に含まれる捕捉鎖1や標的核酸鎖T、検出鎖D等を拡散孔12の隅々まで通流させることがきる。従って、この核酸分離方法によれば、溶液通液時の流路内の内圧上昇を防止して高流量の送液を行うことが可能である。さらに、通液した溶液中に含まれる捕捉鎖1や標的核酸鎖T、検出鎖Dをマイクロビーズ1の拡散孔12に広く行き渡らせて、ビーズ表面への捕捉鎖1の固相化や、捕捉鎖1と標的核酸鎖T、検出鎖Dとの間のハイブリダイゼーション反応を効率よく行なうことが可能である。
【0050】
また、マイクロビーズ1では、表面に導入したカチオン交換基の負電荷と、核酸鎖のリン酸基の負電荷との電気的な反発に基づき、ビーズ表面への核酸鎖の非特異的吸着を抑制することができる。従って、捕捉鎖1等のビーズ表面への非特異的な吸着によって生じる内圧の上昇を抑制することができる。さらに、標的核酸鎖Tの検出時に、非特異的吸着に起因する蛍光や放射線(ノイズ信号)を減少させ、高い検出精度を得ることが可能である。
【0051】
本発明に係る核酸分離装置は、上記で説明したステップ1〜4の各工程を自動で実施し得る装置であり、具体的には、表面にカチオン交換基を有する多孔質担体を内部に充填した流路系と、流路に正電荷を有する官能基が修飾された捕捉鎖を通液するための送液手段を少なくとも有する。これにより、この核酸分離装置では、多孔質担体に対しイオン交換結合によって捕捉鎖を固相化する工程を自動で行う。さらに、核酸分離装置は、試料溶液や検出鎖溶液等を流路通液するための送液手段を有し、自動で上記ステップ1〜4を実施し、標的核酸の分離・検出を行う。
【0052】
ここまで、核酸分離用担体を充填したマイクロ流路系3を用いた核酸分離方法について説明したが、核酸分離用担体の多孔質担体表面への捕捉鎖の固相化は、マイクロチューブ等の試験管内で行うこともできる。そして、チューブやチップ内に得られた核酸分離用担体を堰き止めて保持するフィルターを設け、担体のベッドを形成することで、マイクロ流路系3に示したような核酸分離用カラムを得ることができる。
【0053】
核酸分離用担体の構造は、特にビーズに限定されることはなく、マイクロ・ナノ流路の壁面の微細構造体や、マイクロ・ナノ空隙を持つ構造体とすることもできる。なお、マイクロビーズとする場合には、直径1 mm以下とすると、流路への充填が容易となる。
【実施例1】
【0054】
1.核酸分離用担体を充填したマイクロ流路系の作製
本実施例では、表面にカチオン交換性を有する多孔質ビーズ(POROS 20S,Applied Biosystems)を用いて、この担体を充填したマイクロ流路系を作製した。この多孔質ビーズは、上述した貫通孔(Through pore)と拡散孔(Diffusive pore)を備えたパーフュージョンクロマトグラフィー粒子であり、表面に強いカチオン交換性を示すスルフォエチル基を有している。この多孔質ビーズは、微量成分の濃縮・分離を目的としたイオン交換クロマトグラフィーに用いられている。
【0055】
流路断面が500 μmの方形で,流路長が60 mmの流路を形成した耐熱ガラス製マイクロチップ(30 mm x 70 mm x 1.9 mm厚)を用意した。流路の両端にはチップ上面に開口する孔を設け、一方の開孔を流路の注入口、他方の開孔を流路の排出口とした。
【0056】
マイクロチップはホルダーに取り付けた。ホルダーには通液用のチューブをマイクロチップの注入口と排出口に配管するためのフェラルとナットを固定するネジが切ってあり、これによってマイクロチップの流路への通液を行えるようにした。下流側のフェラルには、孔径10 μmのフィルターを装着した。上流側より多孔質ビーズを充填し、フィルターにトラップさせてベッド(ベット長40mm)を形成した。
【実施例2】
【0057】
2.流路内圧の測定
本実施例では、実施例1で得られたマイクロ流路系において、流量を変化させ流路の内圧を測定した。
【0058】
また、比較のため、上記特許文献3に開示されるマイクロ流路系を対照マイクロ流路系として用い、同様の測定を行った。対照マイクロ流路には、ポリ(dT)配列を結合したポリスチレンビーズ(径6 μm)をベッド長2mmで充填し、その下流領域に多孔質ビーズ(POROS 20S)をベッド長40mmで充填したものとした。ポリスチレンビーズのベッドは特許文献3中「ハイブリット形成部」に相当し、多孔質ビーズのベッドは「送液促進部」に相当する。通液する液相には純水を用いた。
【0059】
流路内圧の測定結果を、図5に示す。通液の流量は、0〜2000μl/minまで変化させた。
【0060】
対照マイクロ流路系では、500μl/minの流量で内圧が3MPaを超え、1000μl/minの流量では内圧が6MPaを超えた。さらに、流量2000 μl/minでは、内圧が8 MPaを超え、注入口で漏れが生じ、内圧測定が不能であった。これに対して、実施例1で作製されたマイクロ流路系では、対照マイクロ流路系に比べて、内圧の上昇が半分以下に抑制された。
【実施例3】
【0061】
3.多孔質担体表面へのイオン交換結合による捕捉鎖の固相化
実施例2の結果から、多孔質ビーズのみでベッドを構成することにより、マイクロ流路系の高流量化が可能であることが確認された。そこで、本実施例では、従来のポリ(dT)配列を結合したポリスチレンビーズのベッドをなくし、多孔質ビーズのベッドで核酸分離を行うため、多孔質ビーズへの捕捉鎖の固相化を行った。ここでは、マイクロ流路系内に充填された状態の多孔質ビーズへ捕捉鎖を固相化した。
【0062】
<捕捉鎖の合成>
捕捉鎖として、5'末端にアミノ基を修飾し、3'末端にCy3を標識したポリ(dT)配列の一本鎖DNA(50塩基)(NH2-poly(dT)50-Cy3)を合成した。以下、この一本鎖DNAを「捕捉鎖DNA」という。捕捉鎖DNAは、0.2% SDS(ドデシル硫酸ナトリウム)含有0.3 M 塩化ナトリウム水溶液で、5 μMに調製した。
【0063】
<イオン交換結合による捕捉鎖の固相化1>
マイクロ流路系内でベッドを構成する多孔質ビーズを、0.2% SDS含有0.3 M 塩化ナトリウム水溶液を通液することによりコンディショニングした。その後、捕捉鎖DNA溶液を250 μl通液し、2 mlの0.2% SDS含有0.3 M 塩化ナトリウム水溶液で洗浄した。
【0064】
コンディショニング後と洗浄後に、Cy3の蛍光ピークである570 nmでベッドの蛍光強度の測定を行ったところ、蛍光強度の変化は見られなかった。このことから、捕捉鎖DNAの5'末端アミノ基とビーズ表面のスルフォエチル基とのイオン交換結合が生じず、ビーズ表面に捕捉鎖DNAが固相化されていないことが分かった。これは、捕捉鎖DNA溶液の調製に用いた0.2% SDS含有0.3 M 塩化ナトリウム水溶液の塩濃度が高過ぎたため、ビーズ表面のスルフォエチル基と捕捉鎖DNAの5'末端アミノ基とのイオン交換反応が阻害されたためと推察できた。
【0065】
<イオン交換結合による捕捉鎖の固相化2>
そこで、次に、捕捉鎖DNAを純水にて調製し、ビーズ表面のスルフォエチル基と捕捉鎖DNAの5'末端アミノ基とのイオン交換反応を純水中で行った。
【0066】
マイクロ流路系内でベッドを構成する多孔質ビーズを、純水でコンディショニングした後、純水で5 μMに調製した捕捉鎖DNA溶液を250 μl通液した。その後、2 mlの純水を2回通液し、洗浄を行った。さらに、2 mlの0.2% SDS含有0.3 M 塩化ナトリウム水溶液を3回通液し、液相の置換と洗浄を行った。
【0067】
各洗浄後のベッドの蛍光強度を測定した結果を、図6に示す。蛍光強度の測定は、Cy3の蛍光ピークである570 nmで行った。
【0068】
捕捉鎖DNA溶液を通流後、純水で2回の洗浄した後のベッドでは、Cy3の蛍光が測定された(図中「純水1」及び「純水2」参照)。このことは、捕捉鎖DNAがビーズ表面に結合し、その結合が充分に維持されていることを示している。
【0069】
また、純水での洗浄後、液相を0.2% SDS含有0.3 M 塩化ナトリウム水溶液に置換すると、ベッドの蛍光強度が顕著に低下した(図中「塩溶液1」〜「塩溶液3」参照)。これは、0.2% SDS含有0.3 M 塩化ナトリウム水溶液の高塩濃度のために、ビーズ表面のスルフォエチル基と捕捉鎖DNAの5'末端アミノ基とのイオン交換結合が解離したためと考えられる。
【0070】
以上の結果から、ビーズ表面のスルフォエチル基と捕捉鎖DNAの5'末端アミノ基とのイオン交換反応を、これらのイオン交換結合を維持可能な塩濃度の溶液(ここでは、純水)中で行うことにより、ビーズ表面に捕捉鎖を固相化できることが確認された。
【0071】
<捕捉鎖の非特異的吸着量の評価>
次に、比較のため、表面にカチオン交換性を有しない多孔質ビーズ(POROS BA,Applied Biosystems)を用いて、多孔質担体表面への捕捉鎖DNAの非特異的吸着について検討を行った。非カチオン交換性の多孔質ビーズでは、捕捉鎖DNAの5'末端アミノ基とのイオン交換反応が生じず、捕捉鎖DNAは非特異的な吸着のみによって担体表面に付着し得る。
【0072】
実施例1で説明した方法に従い、表面にカチオン交換性を有しない多孔質ビーズを充填した対照マイクロ流路系を作製した。捕捉鎖DNAは、0.2% SDS含有0.3 M 塩化ナトリウム水溶液で5 μMに調製した。
【0073】
対照マイクロ流路系を50℃に保ち、0.2% SDS含有0.3 M 塩化ナトリウム水溶液でコンディショニングを行った後、捕捉鎖DNA溶液を250 μl通液し、2 mlの0.2% SDS含有0.3 M 塩化ナトリウム水溶液で洗浄した。コンディショニング後と洗浄後におけるベッドの蛍光強度の変化を求めた。
【0074】
得られた蛍光強度変化を、図7に示す。蛍光強度の測定は、Cy3用の蛍光フィルターセットを用いて行った。蛍光フィルターセットの蛍光測定用フィルターのバンドパス特性により,567 nmと625 nmの間の蛍光が測定されている。
【0075】
図に示すように、570 nmのCy3蛍光ピークが顕著に観察された。このことは、捕捉鎖DNAが多孔質ビーズ表面に非特異的に吸着したことを示している。
【0076】
この対照マイクロ流路系では、0.2% SDS含有0.3 M 塩化ナトリウム水溶液での洗浄後も、捕捉鎖DNAの非特異的な吸着が生じている。これに対して、カチオン交換性の多孔質ビーズでは、0.2% SDS含有0.3 M 塩化ナトリウム水溶液への液相置換により、ビーズ表面への捕捉鎖DNAの結合が解除された(図6中「塩溶液1」〜「塩溶液3」参照)。このことは、カチオン交換性の多孔質ビーズ表面への捕捉鎖DNAの結合が、非特異的な吸着によってではなく、ビーズ表面のスルフォエチル基と捕捉鎖DNAの5'末端アミノ基とのイオン交換結合によるものであることを支持している。
【実施例4】
【0077】
4.イオン交換結合により捕捉鎖を固相化した多孔質担体を用いた標的核酸鎖の検出
実施例3において、液相を0.2% SDS含有0.3 M 塩化ナトリウム水溶液に置換すると、ビーズ表面のスルフォエチル基と捕捉鎖DNAの5'末端アミノ基とのイオン交換結合が解離してしまうことが明らかとなった(図X中「塩溶液1」〜「塩溶液3」参照)。このため、定法に従い、捕捉鎖と標的核酸鎖とのハイブリダイゼーション反応を、0.2% SDS含有0.3 M 塩化ナトリウム水溶液等の塩溶液で行った場合には、多孔質担体表面から捕捉鎖が解離して、標的核酸鎖の分離を行えない可能性がある。そこで、本実施例では、純水中で捕捉鎖を固定化し、捕捉鎖と標的核酸鎖のハイブリダイゼーション反応は0.2%SDS含有0.3M 塩化ナトリウム水溶液中で素早く行い、捕捉鎖が担体表面から解離する前に、捕捉鎖と標的核酸鎖をハイブリダイズさせ、標的核酸鎖を分離することを試みた。
【0078】
<核酸分離用担体及びマイクロ流路系の作製>
マイクロ流路系内でベッドを構成する多孔質ビーズを、純水でコンディショニングした。純水で5 μMに調製した捕捉鎖DNAを250 μl通液し、2 mlの純水で洗浄した。コンディショニング後と洗浄後の蛍光強度を測定し、蛍光強度の増加により捕捉鎖DNAが多孔質ビーズ表面に固相化されたことを確認した。
【0079】
<標的核酸鎖の合成>
次に、Cy3標識したポリ(dA)配列のssDNA(21塩基)(Cy3-poly(dA)21)と、Cy3標識したポリ(dT)配列のssDNA(21塩基)(Cy3-poly(dT)21)を合成した。Cy3-poly(dA)21は、捕捉鎖DNA(NH2-poly(dT)50-Cy3)と互いに相補的な塩基配列を有している。以下、Cy3-poly(dA)21を標的DNA、Cy3-poly(dT)21を非標的DNAというものとする。標的DNA及び非標的DNAは、それぞれ0.2% SDS含有0.3 M 塩化ナトリウム水溶液で5 μMに調製した。
【0080】
<標的核酸鎖の分離>
まず、非標的DNA溶液を250 μl通液し、2 mlの0.2% SDS含有0.3 M 塩化ナトリウム水溶液で1回目の洗浄を行った。コンディショニング後と洗浄後におけるベッドの蛍光強度の変化を求めた。
【0081】
続いて、標的DNA溶液を250 μl通液し、2 mlの0.2% SDS含有0.3 M 塩化ナトリウム水溶液で2回目の洗浄し、1回目の洗浄後と2回目の洗浄後におけるベッドの蛍光強度の変化を求めた。
【0082】
得られた蛍光強度の変化を、図8に示す。蛍光強度の測定は、Cy3の蛍光ピークである570 nmで行った。
【0083】
捕捉鎖DNAに相補的でない非標的DNA(Cy3-poly(dT)21)溶液を通液した場合、コンディショニング後と1回目の洗浄後で蛍光強度の変化は見られなかった。このことは、捕捉鎖DNAと非標的DNAとのハイブリッド形成が生じておらず、非標的DNAのビーズ表面への非特異的吸着も生じていないことを示している。
【0084】
一方、捕捉鎖DNAに相補的な標的DNA(Cy3-poly(dA)21)では、顕著な蛍光強度の増加が見られ、捕捉鎖DNAと標的DNAとのハイブリッド形成が生じていることが確認された。
【実施例5】
【0085】
5.共有結合により捕捉鎖を固相化した多孔質担体を用いた標的核酸鎖の検出
実施例4の結果から、捕捉鎖の担体表面への結合が維持されていれば、捕捉鎖と標的核酸鎖とのハイブリダイゼーション反応により、標的核酸鎖を捕捉鎖にハイブリダイズさせ、分離できることが示された。本実施例では、イオン交換結合によって担体表面へ結合した捕捉鎖を、さらに共有結合させることによって、より安定した標的核酸鎖の分離を試みた。
【0086】
<核酸分離用担体及びマイクロ流路系の作製>
実施例4と同様にして、ビーズ表面に捕捉鎖DNAをイオン交換結合させた後、さらに脱エタノール縮合によって捕捉鎖DNAを共有結合させた。ただし、ここでは、捕捉鎖DNAとして、Cy3標識をしていないポリ(T)配列の一本鎖DNA(50塩基)(NH2-poly(dT)50)を用いた。
【0087】
<標的核酸鎖の分離>
マイクロ流路系内でベッドを構成する核酸分離用多孔質ビーズを、0.2% SDS含有0.3 M 塩化ナトリウム水溶液でコンディショニングした。コンディショニング後、標的DNA(Cy3-poly(dA)21)溶液を250 μl通液し、2 mlの0.2% SDS含有0.3 M 塩化ナトリウム水溶液で洗浄した。コンディショニング後と洗浄後におけるベッドの蛍光強度の変化を求めた。
【0088】
得られた蛍光強度の変化を、図9中「Cy3-poly(dA)21」に示す。蛍光強度の測定は、Cy3の蛍光ピークである570 nmで行った。なお、図中、「ACTB」及び「GAPD」については後述する。
【0089】
図に示すように、コンディショニング後と洗浄後とで、顕著な蛍光強度の増加がみられ、捕捉鎖DNAと標的DNAとのハイブリッド形成が生じていることが確認された。
【実施例6】
【0090】
6.mRNAの検出
本実施例では、実施例5で作製した核酸分離用担体及びマイクロ流路系を用い、標的核酸鎖として、培養細胞から抽出したトータルRNA中の特定のmRNAを分離し、サンドイッチ・ハイブリッド形成法により検出した。
【0091】
<トータルRNAの調製>
培養したHeLa細胞から全RNA抽出キット(RNeasy protect mini kit, Qiagen)を用いて抽出したトータルRNAの5 μgを350 μlの0.2% SDS含有0.3 M 塩化ナトリウム水溶液に溶解し、試料溶液を調製した。
【0092】
<検出鎖の合成>
標的核酸鎖は、mRNAはβ−アクチン(ACTB)mRNAとグリセロアルデヒド-3-リン酸脱水素酵素(GAPD)mRNAとした。各mRNAのポリ(A)テールの近傍の配列から21塩基の長さの塩基配列を選択し、この配列に相補的な塩基配列を有する検出鎖(21塩基)を合成し、5'末端にCy3を標識した。ACTB mRNA及びGAPD mRNAに対する検出鎖の塩基配列を、「表1」に示す。各検出鎖は、0.2% SDS含有0.3 M 塩化ナトリウム水溶液に5 μMの濃度で溶解した。
【0093】
【表1】

【0094】
<サンドイッチ・ハイブリッド法による標的核酸鎖の検出>
マイクロ流路系内でベッドを構成する核酸分離用多孔質ビーズを、0.2% SDS含有0.3 M 塩化ナトリウム水溶液でコンディショニングした。試料溶液を通液し、700 μlの0.2% SDS含有0.3 M 塩化ナトリウム水溶液で洗浄した。次に、検出鎖溶液を流路に通液し、2 mlの0.2% SDS含有0.3 M 塩化ナトリウム水溶液で洗浄した。試料溶液の通液後洗浄したベッドの蛍光強度と、検出鎖溶液の通液後洗浄後したベッドの蛍光強度の変化を求めた。
【0095】
得られた蛍光強度の変化を、図9中「ACTB」及び「GAPD」に示す。蛍光強度の測定は、Cy3の蛍光ピークである570 nmで行った。
【0096】
ACTB及びGAPDのそれぞれについて、蛍光強度の増加が確認された。このことは、ビーズ表面に固相化されたポリ(dT)配列を有する捕捉鎖DNAとトータルRNA中のmRNAのポリ(A)テールがハイブリッドを形成することによりmRNAがビーズ上に捕捉され、さらに捕捉されたmRNA中のACTB mRNA又はGAPD mRNAと検出鎖が2段目のハイブリッドを形成したことを示している。
【産業上の利用可能性】
【0097】
本発明により提供される核酸分離用担体等によれば、流路内圧の上昇を防止して、高流量での核酸ハイブリダイゼーションを行うことができる。従って、本発明は、核酸の分離操作時間を短縮して、核酸分析の効率化やハイスループット化に寄与し得る。
【図面の簡単な説明】
【0098】
【図1】本発明に係る核酸分離用担体の表面上の物質構成の一例を示す模式図である。
【図2】マイクロビーズ1の構造の一例を示す断面模式図である。
【図3】本発明に係るマイクロ流路系の好適な実施形態の一例を示す図である。
【図4】マイクロ流路系3を用いた核酸分離方法の各ステップにおけるマイクロビーズ1表面上の物質構成を示す模式図である。
【図5】流路内圧の測定結果(実施例2)を示す図である。
【図6】イオン交換結合による捕捉鎖DNAの固相化操作におけるベッドの蛍光強度を測定した結果(実施例3)を示す図である。
【図7】捕捉鎖の非特異的吸着によるベッドの蛍光強度変化(実施例3)を示す図である。
【図8】核酸鎖の分離操作におけるベッドの蛍光強度変化(実施例4)を示す図である。
【図9】核酸鎖の分離操作におけるベッドの蛍光強度変化(実施例5, 6)を示す図である。
【符号の説明】
【0099】
1 マイクロビーズ
11 貫通孔
12 拡散孔
2 捕捉鎖
3 マイクロ流路系
31 細管
32 導入部
33 排出部
D 検出鎖
N 非標的核酸鎖
T 標的核酸鎖


【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面にカチオン交換性のイオン交換基を有する多孔質担体に対し、標的核酸鎖に相補的な塩基配列を有し、正電荷を有する官能基が修飾された捕捉鎖を、イオン交換結合により固相化する手順、を含む核酸分離用担体の製造方法。
【請求項2】
前記手順において、前記捕捉鎖を、前記イオン交換基とのイオン交換結合を維持可能なカチオン濃度の溶液中で、前記多孔質担体に接触させる請求項1記載の核酸分離用担体の製造方法。
【請求項3】
さらに、イオン交換結合した前記イオン交換基と前記捕捉鎖とを共有結合させる手順、を含む請求項2記載の核酸分離用担体の製造方法。
【請求項4】
表面にカチオン交換性のイオン交換基を有する多孔質担体に対し、標的核酸鎖に相補的な塩基配列を有し、正電荷を有する官能基が修飾された捕捉鎖を、
イオン交換結合により固相化した核酸分離用担体。
【請求項5】
表面にカチオン交換性のイオン交換基を有する多孔質担体に対し、標的核酸鎖に相補的な塩基配列を有し、正電荷を有する官能基が修飾された捕捉鎖を、イオン交換結合により固相化した後、
イオン交換結合した前記イオン交換基と前記捕捉鎖とを共有結合させた核酸分離用担体。
【請求項6】
請求項4又は5記載の核酸分離用担体を充填したマイクロ流路系。
【請求項7】
表面にカチオン交換性のイオン交換基を有する多孔質担体に対し、標的核酸鎖に相補的な塩基配列を有し、正電荷を有する官能基が修飾された捕捉鎖を、イオン交換結合により固相化する手順、を含む核酸分離方法。
【請求項8】
表面にカチオン交換性のイオン交換基を有する多孔質担体に対し、標的核酸鎖に相補的な塩基配列を有し、正電荷を有する官能基が修飾された捕捉鎖を、イオン交換結合により固相化する工程、を行う核酸分離装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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