説明

核酸増幅装置

【課題】測定精度を向上し得る核酸増幅装置を提案する。
【解決手段】核酸の増幅反応の場とされる複数の容器と、各容器に試料溶液を与えるための流路とが形成されるフレキシブル板と、フレキシブル板の一方の面に対向されるシート板と、シート板におけるフレキシブル板との対向面のうち、各容器に対応する位置をそれぞれ囲む位置に設けられる枠部と、待機状態にあるべき位置から、枠部の先端がフレキシブル板に所定圧で当接される位置に、フレキシブル板とシート板の一方又は双方を移動させる駆動手段とを設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は核酸増幅装置に関し、PCR(Polymerase Chain Reaction)法を用いる技術分野などにおいて好適なものである。
【背景技術】
【0002】
従来、核酸の増幅反応の場となる複数の微小容器に対する温度を個別に制御するリアルタイムPCR装置が本出願人により提案されている(例えば特許文献1)。その後、半導体素子のばらつきによって温度制御の精度が低下することを回避するようにしたリアルタイムPCR装置が本出願人により提案された(例えば特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−298068公報
【特許文献2】特願2007−171262公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところでかかるリアルタイムPCR装置は、半導体素子のばらつきによる温度制御の精度の低下が回避されても、高密度に形成される各微小容器での熱の相互作用によりばらつきが生じてしまう。
【0005】
微小容器に対して本来設定すべき温度が変化してしまうと、核酸の増幅効率が変わるため、増幅対象の核酸の定量値も変わり、この結果、測定精度が悪くなるという問題が生じた。
【0006】
本発明は以上の点を考慮してなされたもので、測定精度を向上し得る核酸増幅装置を提案しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
課題を解決するために本発明は、核酸増幅装置であって、核酸の増幅反応の場とされる複数の空間と、その複数の空間を連通する連通空間とが内部に形成されるフレキシブル板と、フレキシブル板の一方の面に対向されるシート板と、シート板においてフレキシブル板と対向する面のうち、各空間に対応する位置をそれぞれ囲む位置に設けられる枠部と、待機状態にあるべき位置から、枠部の先端がフレキシブル板に所定圧で当接される位置に、フレキシブル板とシート板の一方又は双方を移動させる駆動手段とを有する。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、フレキシブル板とシート板との空間を、枠部を介して、核酸の増幅反応の場ごとに密閉された保温空間として構築することができるため、温度変動に起因する核酸の定量変化を大幅に低減することができる。また、枠部がフレキシブル板の一面に所定圧で抑え付けられることによって、核酸の増幅反応の場に連通する流路がつぶれて遮断されるため、コンタミネーションに起因する核酸の定量変化を大幅に低減することができる。かくして測定精度を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】リアルタイムPCR装置の構成を概略的に示す図である。
【図2】反応基板の構成を概略的に示す図である。
【図3】各ウェルULに対する保温空間の構築機構の構成を概略的に示す図である。
【図4】仕切パネルの構成を概略的に示す図である。
【図5】保温空間の構築状態と、解除状態とを概略的に示す図である。
【図6】保温空間の構築制御処理手順を示すフローチャートである。
【図7】他の実施の形態による保温空間の構築状態と、解除状態(1)とを概略的に示す図である。
【図8】他の実施の形態による保温空間の構築状態と、解除状態(2)とを概略的に示す図である。
【図9】他の実施の形態による保温空間の構築状態と、解除状態(3)とを概略的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための形態について説明する。なお、説明は以下に示す順序とする。
<1.実施の形態>
[1−1.リアルタイムPCR装置の構成]
[1−2.反応基板の構成]
[1−3.各ウェルULに対する保温空間の構築機構]
[1−4.保温空間の構築制御処理手順]
[1−5.効果等]
<2.他の実施の形態>
【0011】
<1.実施の形態>
[1−1.リアルタイムPCR装置の構成]
図1において、リアルタイムPCR装置1の概略的な構成を示す。このリアルタイムPCR装置1は反応室RMを有し、該反応室RMには複数の基板11〜16が所定間隔ごとに配置される。
【0012】
反応基板11は、基準となる基板であり、反応室RMに対して取り外し可能とされる。この反応基板11には、核酸の増幅反応の場とされる容器(以下、これをウェルULとも呼ぶ)ULが高密度に形成される。これらウェルULには、増幅対象の標的核酸及びその標的核酸の増幅に要する各種物質(プライマー、緩衝液、酵素、dNTP、蛍光色素等)が与えられる。
【0013】
発熱基板12は、反応基板11に対して下側に配される基板であり、該基板のうち、反応基板11と対向する面には、ウェルULごとに熱源素子HDが割り当てられ、これら熱源素子HDの周囲には複数の感温素子TDが配される。この熱源素子HDには例えばTFT(Thin Film Transistor)等が用いられ、感温素子TDには例えばピンダイオード等が用いられる。ただし、熱源素子HD又は感温素子TDには、TFTやピンダイオードに限らず、金属抵抗体、半導体又はITO(Indium Tin Oxide)やZnO(Zinc Oxide)などの透明金属酸化物が適用可能である。
【0014】
発熱基板12の熱源素子HD及び感温素子TDには温度制御部20が接続される。温度制御部20は、各熱源素子HDでの熱量を、当該熱源素子HDを囲む感温素子TDを用いて所定間隔ごとにセンシングした温度に応じて個別に制御するようになされている。
【0015】
具体的に温度制御部20は、増幅ステージ(変性ステージ、アニーリングステージ、伸長ステージ)ごとにウェルUL単位で目標温度を設定する。そして温度制御部20は、目標温度に応じた値の電流又は電圧を、対応するウェルULの熱源素子HDに与えて、各ウェルULを加熱させる。
【0016】
また温度制御部20は、感温素子TDを用いて所定間隔ごとにセンシングするたびに、該感温素子TDにおいてセンシングされる温度と、目標温度との差を求め、該差に応じて、熱源素子HDに与えるべき電流又は電圧をウェルUL単位で可変するようになされている。
【0017】
これによりこのリアルタイムPCR装置1は、増幅に要する温度条件が異なる場合であっても、高密度に配される各ウェルULの温度を、各増幅ステージ単位で高精度に調整することができる。したがってこのリアルタイムPCR装置1は、温度に起因する増幅反応結果の誤り率を低減して検出精度を向上し得るようになされている。
【0018】
発熱補助基板13は、発熱基板12に対して下側に配される基板である。この発熱補助基板13は、反応室RM全体における熱を吸収又は発散することで、該反応室RMを、規定された温度に維持する。
【0019】
したがってこのリアルタイムPCR装置1は、現ステージで設定される温度から次ステージで設定すべき温度にウェルULの温度を移行させるまでの時間(温度勾配の時間)を高速化できるようになされている。ちなみに、発熱補助基板13には例えばペルチェ素子等が用いられる。
【0020】
発光基板14は、反応基板11に対して上側に配される基板であり、該基板のうち、反応基板11と対向する面には、各ウェルULにそれぞれ対応させて、インターカレータ等の蛍光物に対する励起光を照射する光源素子LSが配される。この光源素子LSには例えばLED(Light Emitting Diode)が用いられる。
【0021】
励起光透過基板15は、反応基板11と発光基板14との中間に配される基板であり、光源素子LSから照射される励起光を透過し、該励起光以外の光を反射する。この励起光透過基板15には例えばバンドパスフィルターなどの光学フィルターが用いられる。
【0022】
この励起光透過基板15のうち発光基板14と対向する面には、該発光基板14の各光源素子LSの光軸に対応する位置を基準とする周囲に対して、当該光源素子LSから照射される励起光の散乱光を受光する受光素子LDBが配される。
【0023】
発光基板14の光源素子LS及び励起光透過基板15の受光素子LDBには光量制御部30が接続される。
【0024】
蛍光透過基板16は、発熱基板12と発熱補助基板13との中間に配される基板であり、励起光によって励起される蛍光物の蛍光を透過し、該蛍光以外の光を反射する。また発熱補助基板13と対向する面には、各ウェルULにそれぞれ対応させて、当該ウェルULで励起される蛍光を受光する受光素子LDAが配される。
【0025】
この受光素子LDAには核酸量演算部40が接続される。核酸量演算部40は、各受光素子LDAで受光される蛍光量に応じた標的核酸の核酸量を、ステージ単位で算出するようになされている。
【0026】
[1−2.反応基板の構成]
次に、反応基板11について説明する。図2において、この実施の形態における反応基板11の概略的な構成を示す。この反応基板11は、シート状のフィルム11A及び11Bを、熱若しくは超音波又は接着剤等を用いて貼り合わされた構成とされる。このフィルム11A及び11Bの材料にはPET(ポリエチレンテレフタレート)が採用され、該フィルム11A及び11Bの厚さは例えば20μmとされる。
【0027】
励起光透過基板15(図1)に対向される側のフィルム11Aには、複数のウェルULが格子状に配列する状態で成形されるとともに、当該ウェルULに連通する流路50が成形される。この流路50の一部はフィルム11Aの表面に開口され、該開口から、標的核酸を含む溶液(以下、これを試料溶液とも呼ぶ)が流入される。
【0028】
ウェルULの形状は半球状とされ、開口径は例えば500μmとされ、深さは例えば100μmとされる。行方向又は列方向に隣接するウェルULの間隔は、ウェルULの開口径に比例し、例えば1000μmとされる。またウェルULの開口と対向する湾曲部分は平坦に形成され、その部分には、増幅対象の標的核酸に対応するプライマーが固定される。
【0029】
例えば6[cm]四方の反応基板11を用いた場合、1[μL]以下の容量でなる1600個程度のウェルULを形成することが可能である。したがってこの反応基板11では、反応室RMが小型化された場合であっても、同種又は異種でなる多くの標的核酸を増幅させることが可能である。
【0030】
[1−3.各ウェルULに対する保温空間の構築機構]
ところで、このリアルタイムPCR装置1では、反応基板11と励起光透過基板15との空間を、各ウェルULに対する保温空間として構築する構築機構が搭載されている。この構築機構は、この実施の形態では図1との対応部分に同一符号を付した図3に示すように、仕切パネル60と、基板駆動部70とによって構成される。
【0031】
図4において仕切パネル60の概略的な構成を示す。仕切パネル60は、励起光透過基板15のうち反応基板11と対向する面に設けられ、各ウェルULの開口に対応する位置(図4では破線で示す)をそれぞれ囲う位置において直立される枠部を連結して構成される。
【0032】
この仕切パネル60の先端(開放端)は、流路50の流方向に対して流路幅側に直交する方向と平行に湾曲するよう形成され、該湾曲部分の断面形状は、流方向に対して流路厚側に直交する方向での流路50の断面と同形状とされる。湾曲部分の断面の半径は、支流路50Bの流路断面の半径よりも大きくされ、好ましくは、支流路50Bの流路断面の半径から反応基板11の厚みを引いた値以下であるとよい。また仕切パネル60の材料には、光源素子LSから照射される励起光を遮光するものが選定される。
【0033】
各ウェルULの開口に対応する位置をそれぞれ囲う枠部(仕切パネル60)と、励起光透過基板15の面とによって形成される領域は、当該ウェルULを覆うべき領域とされる。
【0034】
基板駆動部70は、発熱基板12及び励起光透過基板15を反応基板11に近づく方向又は遠ざかる方向に移動させることで、各ウェルULに対する保温空間を構築又は解除するようになされている。
【0035】
具体的には、増幅反応を開始すべき命令を受けてから終了するまでの期間(以下、これを増幅期間とも呼ぶ)と、該増幅期間以外の期間とに応じた位置に移動させる。
【0036】
すなわち基板駆動部70は、増幅期間以外の期間では、図5(A)に示すように、待機状態にあるべき位置(以下、これをとも待機位置呼ぶ)に、発熱基板12及び励起光透過基板15を退避させる。
【0037】
一方、基板駆動部70は、増幅期間では、図5(B)に示すように、発熱基板12の熱源素子HDが反応基板11に所定圧で当接される位置(以下、これを発熱実行位置とも呼ぶ)に、該発熱基板12を移動させる。
【0038】
この状態では、各ウェルULが空気層を介することなく対応する熱源素子HDと接するため、該熱源素子HDで発する熱が効率よくウェルULに伝達される。したがって、このリアルタイムPCR装置1では、各ウェルそれぞれに対する温度を高速に高めることが可能となり、また空気層を介すことがない分だけ高精度に温度を調整できる。
【0039】
また基板駆動部70は、励起光透過基板15に設けられる仕切パネル60の先端が反応基板11に所定圧で当接される位置(以下、これを空間構築位置とも呼ぶ)に、該励起光透過基板15を移動させる。
【0040】
この状態では、各ウェルULの開口に対応する位置をそれぞれ囲う枠部(仕切パネル60)が、反応基板11の一面に所定圧で抑え付けられているため、該枠部(仕切パネル60)と励起光透過基板15の面とによって形成される領域は密閉される。密閉空間に存在する空気は断熱効果(熱伝導率は0.0256W/m・K)を有していることもあり、該密閉空間は保温空間KWRとして構築されることとなる。したがって、このリアルタイムPCR装置1では、各ウェルそれぞれに対する温度をより一段と高速に高めることができ、また熱源素子HDでの消費量を抑えつつも温度を一定に維持することができる。
【0041】
これに加えて、各ウェルULの開口に対応する位置をそれぞれ囲う枠部(仕切パネル60)が反応基板11の一面に抑え付けられることで、各ウェルULに連結される支流路60Bがつぶれて遮断される。したがって、このリアルタイムPCR装置1では、各ウェルULに存在する試料溶液が増幅過程において他のウェルULに混入することを防止できる。
【0042】
なお、図4を用いて上述したように、仕切パネル60の先端は、流方向に対して流路幅側に直交する方向と平行に湾曲するよう形成され、該湾曲部分は、流方向に対して流路厚側に直交する方向での流路50の断面よりも大きくされる。したがって、仕切パネル60が支流路60Bに隙間を与えることなく完全に遮断させることができる。
【0043】
また図4を用いて上述したように、仕切パネル60は、光源素子LSから照射される励起光を遮光する材料によって形成される。したがって、このリアルタイムPCR装置1では、励起光透過基板15を透過して対応するウェルULに向かう励起光が他のウェルULに混入することを低減できる。
【0044】
[1−4.保温空間の構築制御処理手順]
次に、基板駆動部70における保温空間の構築制御処理の手順について、図6に示すフローチャートを用いて説明する。
【0045】
すなわち基板駆動部70は、増幅反応を開始すべき命令を受けた場合、この構築制御処理手順を開始して第1ステップSP1に移行する。基板駆動部70は、この第1ステップSP1では、反応室RMから与えられる信号から、該反応室RMに対して反応基板11がセットされているか否かを検出する。
【0046】
ここで、基板駆動部70は、反応基板11がセットされていないことを検出した場合には第2ステップSP2に移行する。基板駆動部70は、この第2ステップSP2では、反応室RMの所定位置に反応基板11をセットすべきことを、表示部に表示して又は音声により通知し、第1ステップSP1に戻る。
【0047】
一方、基板駆動部70は、反応基板11がセットされていることを検出した場合には第3ステップSP3に移行する。基板駆動部70は、この第3ステップSP3では、発熱基板12を待機位置から発熱実行位置に移動させるとともに、励起光透過基板15を待機位置から空間構築位置に移動させて、反応基板11を発熱基板12及び励起光透過基板15で挟む込み、第4ステップSP4に移行する。
【0048】
基板駆動部70は、この第4ステップSP4では、増幅反応を開始すべきことを、温度制御部20及び光量制御部30(図3)に通知し、第5ステップSP5に移行する。基板駆動部70は、この第5ステップSP5では、温度制御部20及び光量制御部30から与えられる増幅反応の終了通知を待ち受け、該終了通知を受けた場合には第6ステップSP6に移行する。
【0049】
基板駆動部70は、この第6ステップSP6では、発熱基板12を発熱実行位置から待機位置に移動させるとともに、励起光透過基板15を空間構築位置から待機位置に移動させた後、この構築制御処理手順を終了するようになされている。
【0050】
[1−5.効果等]
以上の構成において、このリアルタイムPCR装置1では、反応基板11に対向される励起光透過基板15の対向面のうち、該反応基板11に形成される各ウェルULに対応する位置をそれぞれ囲う位置に枠部が、連結された状態の仕切パネル60として設けられる(図4参照)。
【0051】
そして基板駆動部70が、待機位置から、この仕切パネル60が設けられた励起光透過基板15を、該仕切パネル60の先端が反応基板11に所定圧で当接される位置(空間構築位置)に移動させる(図5参照)。
【0052】
したがってこのリアルタイムPCR装置1は、反応基板11と励起光透過基板15との空間を、仕切パネル60を介して、ウェルULごとに密閉された保温空間KWRとして構築することができる(図5参照)。このためリアルタイムPCR装置1は、温度変動に起因する核酸の定量変化を大幅に低減することができ、この結果、測定精度を向上することができる。
【0053】
従来、柔軟性をもたないガラス等の基板の表面に対してウェルが形成される。一部では基板の表面に対してウェルとそのウェルに対する流路が形成され、該表面をフィルムで覆うといったものもある。しかしながら、このような基板では、仕切パネル60の先端が所定圧で当接された場合、破損の恐れがある。仮に、仕切パネル60をゴム等のような材質に代替した場合であっても流路は閉塞することができず、各ウェルに存在する試料溶液が増幅過程において他のウェルに混入することを回避することができない。
【0054】
これに対しこの実施の形態における反応基板11は、核酸の増幅反応の場とされる容器が複数形成される層(フィルム11A)と、各ウェルULに試料溶液を与えるための流路が形成される層(フィルム11B)とをPETで形成している(図2参照)。
【0055】
したがってこのリアルタイムPCR装置1は、ウェルULごとに密閉された保温空間KWRを構築すると同時に、各ウェルULに存在する試料溶液が増幅過程において他のウェルULに混入することを防止できる(図5参照)。いいかえると、各ウェルULを空気層で断絶してウェル間における熱のクロストークを抑制するとともに、該ウェルULに連通される流路50Bを遮断してウェル間における試料のクロストークを抑制することができる。このためリアルタイムPCR装置1は、コンタミネーションに起因する核酸の定量変化を大幅に低減することができ、この結果、測定精度を向上することができる。
【0056】
かかる構成に加えて、このリアルタイムPCR装置1では、各ウェルULに対応する位置に熱源素子HDが設けられる発熱素子12が、励起光透過基板15とは逆側において反応基板11と対向される(図3,図5参照)。
【0057】
そして基板駆動部70が、待機位置から、発熱基板12の熱源素子HDが反応基板11に所定圧で当接される位置(発熱実行位置)に移動させる(図5参照)。
【0058】
したがってこのリアルタイムPCR装置1は、各ウェルULに対して、空気層を介することなく熱を伝達することができるため、該空気層に起因する温度調整の誤差を未然に防ぐことができ、この結果、測定精度を向上することができる。また、空気層を介することなく熱を伝達するので、伝導効率を向上させることができ、この結果、各ウェルそれぞれを目標温度にまで高速に到達させることができる。
【0059】
かかる構成に加えて、励起光透過基板15は、反応基板11と対向する面とは逆側の面から照射される励起光の波長帯を透過する光学フィルターであり、枠部60は、該励起光を遮光する材質でなる。
【0060】
したがってこのリアルタイムPCR装置1は、励起光透過基板15を透過して対応するウェルULに向かう励起光を、他のウェルULに混入することを防止できる。いいかえると、ウェルULまでの光路を区切ってウェル間における励起光のクロストークを抑制することができる。このためリアルタイムPCR装置1は、各ウェルULに対する到達光量の差に起因する核酸の定量変化を大幅に低減することができ、この結果、測定精度を向上することができる。
【0061】
以上の構成によれば、ウェルUL間における熱のクロストーク、試料のクロストーク及び励起光のクロストークを抑制するようにしたことにより、測定精度を向上し得るリアルタイムPCR装置1が実現できる。
【0062】
<2.他の実施の形態>
上述の実施の形態では、各ウェルULに対する保温空間の構築機構として図5等に示すものが採用された。しかしながら構築機構はこの実施の形態に限定されるものではない。例えば、図5との対応部分に同一符号を付した図7に示す構築機構が適用可能である。
【0063】
この図7に示す構築機構では、発熱基板12に対して仕切パネル80が設けられる。発熱基板12は、上述の実施の形態における第3ステップSP3(図5)では熱源素子HDが反応基板11に所定圧で当接される位置(発熱実行位置とも呼ぶ)に移動された。この図7に示す構築機構の場合、基板駆動部70は、この発熱基板12を、励起光透過基板15と同様に仕切パネル80の先端が反応基板11に所定圧で当接される位置(空間構築位置)に移動させる。
【0064】
仕切パネル80の高さはウェルULの深さと同程度とされ、仕切パネル80の厚みが仕切パネル60のよりも大きくされる。また、反応基板11は、ウェルULが形成される層(フィルム11A)側の面が発熱基板12に対向され、流路50が形成される層(フィルム11B)側の面が励起光透過基板15に対向される。つまり、図5に示す反応基板11とは、配置態様が上下反転した状態とされる。
【0065】
このため、基板駆動部70が励起光透過基板15及び発熱基板12を空間構築位置に移動させた場合、仕切パネル80が土台となって、ウェルULが潰されることなくその形状が保持された状態で、上述の実施の形態と同様の作用効果を奏することとなる。またこの図7に示す構築機構では、ウェルULの底部に対して熱源素子HDが空気層を介することなく直に当接されるため、上述の実施の形態の場合に比して、より一段と伝導効率を向上させることができる。なお、上述の実施の形態において、図7に示す反応基板11の配置態様をとるようにしてもよい。
【0066】
また別例として、図5との対応部分に同一符号を付した図8に示す構築機構が適用可能である。この図8に示す構築機構では、励起光透過基板15における反応基板11と対向する面に、各ウェルULに対応する位置に熱源素子HDが設けられる。
【0067】
このためこの図8に示す構築機構では、基板駆動部70が、第3ステップSP3(図6)において発熱基板12及び励起光透過基板15を移動させた場合、各ウェルULに対して熱源素子HDが空気層を介することなく直に挟み込む。したがって、上述の実施の形態の場合に比して、より一段と伝導効率を向上させることができる。
【0068】
また別例として、図8との対応部分に同一符号を付した図9に示す構築機構が適用可能である。この図9に示す構築機構では、図7の場合と同様に、反応基板11の配置態様が上下反転した状態とされる。また励起光透過基板15に代えて、発熱基板12に仕切パネル60が設けられる。この図9に示す構築機構も、上述の実施の形態と同様の作用効果を奏する。
【0069】
これら以外にも本発明の趣旨を逸脱しない程度においてさまざまな構築機構が適用可能である。
【0070】
また上述の実施の形態では、反応基板11を基準として(固定として)、発熱基板12及び励起光透過基板15が移動された。しかしながら移動態様はこの実施の形態に限定されるものではない。例えば、発熱基板12を基準として(固定として)、反応基板11及び励起光透過基板15が移動されてもよく、あるいは、反応基板11、発熱基板12及び励起光透過基板15それぞれが移動されてもよい。また、反応基板11に対して発熱基板12を移動させる移動態様は必ずしも要しない。要は、保温空間KWRを構築し得る移動態様であればよい。
【0071】
また上述の実施の形態では、反応基板11は、ウェルUL及び流路50が形成されたPETのフィルム11Aと、PETのフィルム11Bとを貼り合わされたが、ウェルULが形成されたPETのフィルムと、流路50が形成されたPETのフィルムとを貼り合わしてもよい。要するに反応基板は、柔軟性を有し、核酸の増幅反応の場とされる複数の空間と、当該複数の空間を連通する連通空間とが内部に形成されたものであればよい。
【0072】
また上述の実施の形態では、反応基板11の材料としてPET(ポリエチレンテレフタレート)が適用された。しかしながらフィルムの材料はこの実施の形態に限定されるものではない。例えば、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリオレフィン、アクリル樹脂又はシリコン樹脂等がある。要は、柔軟性を有する材質であればよい。
【0073】
また上述の実施の形態では、ウェルULの形状は半球とされた。しかしながらウェルULの形状はこの実施の形態に限定されるものではない。例えば、断面が楕円状、矩形状又は台形状等のように、種々の形状が適用可能である。ただし、効率よく試料液を流す観点では湾曲状を呈する(角がない)ウェルULが好ましい。
【0074】
また上述の実施の形態では、複数のウェルULが格子状に形成された。しかしながら各ウェルULの配置態様はこの実施の形態に限定されずるものではなく、いかなる態様であってもよい。
【0075】
また上述の実施の形態の流路50は、例えば、流入口から個別に各ウェルに連絡される流路構造とすることができる。また別例として、行方向に隣接するウェル間を連絡する流路と、行方向に隣接する一部又は全部のウェル間を連絡する流路とでなる流路構造とすることもできる。要は、流路幅、配置パターン及び断面形状等の流路50の構成要素はいかなる態様であってもよい。
【0076】
また上述の実施の形態では、仕切パネル60における枠部の開口形状は矩形とされた。しかしながら枠部の開口形状はこの実施の形態に限定されるものではない。例えば、楕円状、円状状又は台形状等のように、種々の形状が適用可能である。ただし、仕切パネル60によって仕切られる空間の保温作用の観点では、各ウェルULの開口縁に対応する位置から周囲に等しく隔てた位置において、該面に対して垂直方向に延びる枠部が好ましい。
【0077】
また上述の実施の形態では、核酸増幅装置として、いわゆる透過型のリアルタイムPCR装置1が適用されたが、いわゆる反射型のリアルタイムPCR装置が適用されてもよく、また、増幅量を定量せずに増幅反応を行うPCR装置が適用されてもよい。また、例えばLAMP(Loop-Mediated Isothermal Amplification)法、SMAP(Smart Amplification Process)法又はICAN法(Isothermal and Chimeric primer-initiated Amplification of Nucleic acids)などように等温で核酸増幅する方法を適用し、リアルタイム増幅量を検出するようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明は、遺伝子実験、医薬の創製又は患者の経過観察などのバイオ産業上において利用することができる。
【符号の説明】
【0079】
1……リアルタイムPCR装置、11……反応基板、11A,11B……フィルム、12……発熱基板、13……発熱補助基板、14……発光基板、15……励起光透過基板、16……蛍光透過基板、20……温度制御部、30……光量制御部、40……核酸量演算部、50……流路、60,80……仕切パネル、70……基板駆動部、KWR……保温空間。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
核酸の増幅反応の場とされる複数の空間と、上記複数の空間を連通する連通空間とが内部に形成されるフレキシブル板と、
上記フレキシブル板の一方の面に対向されるシート板と、
上記シート板において上記フレキシブル板と対向する面のうち、各上記空間に対応する位置をそれぞれ囲む位置に設けられる枠部と、
待機状態にあるべき位置から、上記枠部の先端が上記フレキシブル板に所定圧で当接される位置に、上記フレキシブル板と上記シート板の一方又は双方を移動させる駆動手段と
を有する核酸増幅装置。
【請求項2】
上記フレキシブル板の他方の面に対向され、該他方の面との対向面のうち各上記空間に対応する位置に熱源素子が設けられた基板
をさらに有し、
上記駆動手段は、
待機状態にあるべき位置から、上記枠部の先端が上記フレキシブル板に所定圧で当接され、かつ、上記熱源素子が上記フレキシブル板に所定圧で当接される位置に、上記フレキシブル板、上記シート板及び上記基板のいずれか2つ又はすべてを移動させる
請求項1に記載の核酸増幅装置。
【請求項3】
上記シート板は、
上記フレキシブル板の一方の面と対向する面とは逆側の面から照射される励起光を透過しそれ以外の光を反射するシート状の光学ミラーであり、
上記枠部は、
上記励起光を遮光する材質でなる
請求項2に記載の核酸増幅装置。
【請求項4】
上記シート状の光学ミラーは、
上記フレキシブル板の一方の面と対向する面のうち各上記空間に対応する位置に熱源素子が設けられる
請求項3に記載の酸増幅装置。
【請求項5】
上記枠部の先端は、
流方向に対して流路幅側に直交する方向と平行に湾曲するよう形成され、該湾曲部分は、流方向に対して流路厚側に直交する方向での上記流路の断面よりも大きくされる
請求項2、請求項3又は請求項4に記載の核酸増幅装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−246503(P2010−246503A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−102098(P2009−102098)
【出願日】平成21年4月20日(2009.4.20)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】