説明

梨の木の抽出液を使用した染色方法

【課題】梨の木の染料原液(抽出液)を使用して布や紙等の染色を行う染色方法に関し、梨の木が持つ素材をベースにして従前では得ることができなかった所望の色への染色方法を提供する。
【解決手段】被染色体の重量に対して100〜400%の重量の梨を破砕したチップ材を熱湯加熱し、この行程により煮出した梨染料原液を濾過したあと、梨染料原液に被染色体を一次染色し、その後、染色した布や紙等を所定量の水に布や紙等への固着を促進する媒染剤を添加して生成した染料固着液に浸漬し、これにより染色した布や紙等を乾燥する、これにより今まで他の草木をベースにした抽出液では得られなかった原色とは離れた複雑な色に染色することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は梨の木の抽出液を使用して被染色体の染色を行う染色方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から被染色体として代表的な布等の染色には種々の染料が使用されているが、その中には草木の抽出液を使用して織物に染色する所謂草木染めがある。草木の抽出液を使用する理由としては、例えばその草木が持つ本来の香りや色や風合いを引き出すことがあげられる。
【0003】
その草木染めの中で、例えば、りんごの木を用いた染色方法は、赤いりんごの木の木部、樹皮、葉および果肉を熱水抽出して得られた抽出液を用いて80度〜120度に加熱しながら天然繊維や合成繊維に染色するようにしている。
【0004】
このような染色方法は、特有のある種の赤いりんごの木部、樹皮、葉、果肉に赤い色素が多量に含まれている点に着目し、この色素をもって繊維を染色することにより堅牢な染色物が得られるとしている。(特許文献1の要約書参照)
【0005】
ところが、前述の先行技術は、堅牢な染色物を得ることを目的として赤いりんごの木を選択したものであり、りんごの木が持つ素材をベースにした色彩しか染色できないものである。すなわち、りんごを素材とした染色は限られた色彩のものしか得られない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9−59884号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、梨の染料原液を使用し梨の木の素材をベースに所望の染色を行うものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、被染色体の重量に対し100〜400%の重量の梨の木の木部や枝や葉を破砕したチップ材を熱湯加熱する第1行程と、第1行程により煮出した梨染料原液を濾過する第2行程と、第2行程により取り出した梨染料原液に被染色体を一次染色する第3行程と、第3行程により染色した被染色体を所定量の水に被染色体の固着を促進する媒染剤を添加して生成した染料固着液に浸漬する第4行程と、第4行程により染色した被染色体を乾燥する第5行程からなるものである。
【0009】
前記媒染剤は、1種又は複数種を組み合わせて所望色に染色するものである。
【0010】
前記第2行程により取り出した梨染料原液に竹炭を投入して一定時間浸漬し浄化するものである。
【0011】
前記第3行程において、あらかじめ被染色体をアルカリ溶液に浸漬したあと酢酸により中和した状態で染色するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、被染色体の重量に対し100〜400%の重量の梨の木の木部や枝や葉を破砕したチップ材を熱湯加熱する第1行程と、第1行程により煮出した梨染料原液を濾過する第2行程と、第2行程により取り出した梨染料原液に被染色体を一次染色する第3行程と、第3行程により染色した被染色体を所定量の水に被染色体の固着を促進する媒染剤を添加して生成した染料固着液に浸漬する第4行程と、第4行程により染色した被染色体を乾燥する第5行程からなるものであるから、被染色体である布地や紙に所望の色彩の染色を施すことができる。
【0013】
特に、木綿等の毛羽立った繊維には染料固着液の効果により、媒染剤の媒染剤が作用して染料が繊維に固着され所望の色彩がより忠実に得られる。
【0014】
そして、前記媒染剤は、1種又は複数種を組み合わせて所望色に染色するものであるから、あらかじめ求める染色色彩を定めた上で、その求める色を引き出す媒染剤を選択する。その求める色がより自然体に存在しないような色彩であれば、2種または3種の複数種を組み合わせて染色することで多くの色彩の中から選択することができる。
【0015】
また、前記第2行程により取り出した梨染料原液に竹炭を投入して一定時間浸漬し浄化するものであるから、梨染料原液に混合した微細な固形物や梨本来が持つ独特の臭いを除去できる。これは、染色後の被染色体に梨の臭いが付着せず、梨独自の臭いが不快なものにおいては有効である。
【0016】
前記第3行程において、あらかじめ被染色体をアルカリ溶液に浸漬したあと酢酸により中和した状態で染色するものであるから、被染色体に付着している糊抜き、精練、漂白を行った後、中和によりアルカリや酸をなくして染色の再現性、染着性不良の原因を除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、本発明の梨の木の抽出液を使用した染色方法の作業手順を表すプロセスである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の実施例を図1のプロセスに基づき説明する。基本的には、梨の木の木部や枝や葉を破砕したチップ材の梨染料原液を抽出して一次染色するまでの染料液を主体とした第1〜第3行程と、媒染剤を添加して生成した染料固着液に浸漬して所望の色彩の染色を施す第4〜第5行程と、被染色体となる繊維や紙等の生地を糊抜き、精練、漂白を行って中和する染色生地(以下、繊維で代表される生地とする)を主体とした中和行程の各プロセスから構成する。
【0019】
始めに、第1〜第3行程について説明する。
【0020】
第1行程(1)では、布の重さの100〜400%の重量の梨の木の木部や枝や葉を破砕したチップ材を2.5リットルの熱湯で30〜60分煮出して梨染料原液を作る。ここで使用するチップ材の重量と布の重さとの関係は、後述する二次染色の時に所望の色彩を得るための元となる梨の素材の素地色を得るために設定したものである。従って、ここで使用する2.5リットルの水量は、2.0リットル程度であってもよいが、この場合には水量が少ないために煮出しの時間を少し短くするなどの調整を行う。
【0021】
次に、第1行程(1)に続く第2行程(2)では、前述の第1行程によって得た梨染料原液を漉し布で濾過し、樹皮等の固形物や不純物を除去し染色に適した原液とする。
【0022】
第2行程の後では、第2行程で濾過した梨染料原液1リットルに対し、PH安定剤を5ミリリットル添加して梨染料原液のPHを調整し安定化させる(3)。
【0023】
その後、第3行程(4)では、生地をPHが安定した梨染料原液中に入れ、80度〜90度の温度にて約30分間加熱し、生地を一次染色するものである。この行程で染色された色彩は、梨の木の素材が持つ独特の色合いにより濁った茶色となり、通常の用途には向かない色となる。しかしながら、この色彩が基本となって後述する行程において、所望の色彩を引き出す重要な原液となる。
【0024】
次に、第4〜第5行程の説明を行う前に、前記第3行程(4)での一次染色時における準備を行う生地の中和行程(5)の説明を行う。中和行程は、一旦、生地をアルカリ性にしたあと酸性にして中和し、生地に付着している糊抜き、精練、漂白を行い染色の再現性を良くし、染着性不良の原因を除去することによって、より濃く梨染料原液を生地に浸透させるものである。
【0025】
その具体的な説明は以下のとおりである。先ず、80〜90度の湯1リットルに対しアルカリ剤25ミリリットルを添加してアルカリ溶液を作り(6)、(7)、生地をこのアルカリ溶液内に30〜60分間攪拌しながら浸漬した後に引き上げて湯によりすすぎを行う。その後、50度に加熱した1リットルの湯に対し、1ミリリットルの酢酸を添加して酢酸溶液を作り、その中に布を浸漬して中和させる(8)。この行程は、特に木綿の生地を染色する場合に有効であって梨染料原液のアルカリ分が布に浸透しやすくなるように処理するものである。
【0026】
この中和行程を経て得た生地を前述したように第3行程(4)において生地を一次染色するものである。
【0027】
つづいて、生地の媒染を行い所望の色彩を得る二次染色につき第4行程、第5行程について説明する。この一連の行程は、所望の色彩を得るのに必要な媒染液となる染料固着液を生成することから始まり、水1リットルに対して所望の色彩を得るために選択した媒染剤の複数種のうちの1つ或いは複数種を組み合わせて約20ミリリットルの媒染液を混合し染料固着液を生成する(10)。
【0028】
この後、この染料固着液内に前記第3行程(4)で一次染色した生地を第4行程(11)により約30分間浸漬し二次染色が完了する(12)。前記媒染剤は、図1に示すように、その種類によって、例えば、a種がアルミニウム液によるものであればA色の薄い茶色の色彩に染色され、b種が錫液によるものであればB色の白っぽい茶色の色彩に染色、c種が石灰液によるものであればC色の赤茶色の色彩に染色、d種がチタン液によるものであればD色の山吹色の色彩に染色、e種が銅液によるものであればE色の青味がかった茶色の色彩に染色、f種が鉄液によるものであればF色の灰色の色彩に染色される。
【0029】
このことは、実験的に、前記第2行程で得られた梨染料原液をベースにすることで染色することができる色であり、予め、染色したい所望の色彩を得るに必要な媒染剤を選択することにより可能となった。
【0030】
前述では、染色したい所望の色彩が一種の媒染剤の選択により得られる場合を説明したが、2種以上の複数種の媒染剤を選択し混合することによって、上記a〜f以外の自然界に存在しないような色彩に染色することができる。二次染色後は、染色された生地の水洗いを行い(13)、第5行程(14)により染色生地の乾燥を行い全ての行程を完了する。
【0031】
また、第2行程(2)後のPHを調整して安定化させた後に竹炭(15)を約50グラム投入し10分間の浸漬を行うことにより、染色後の生地に梨の臭いが付着せず、梨独自の臭いが残らないようになる。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明は、梨が持つ素材の原液をベースにして染色した後、所望の色に染色する染料固着液を抽出液として被染色体に染色するものである。
【符号の説明】
【0033】
1 第1行程
2 第2行程
4 第3行程
11 第4行程
14 第5行程

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被染色体の重量に対し100〜400%の重量の梨の木の木部や枝や葉を破砕したチップ材を熱湯加熱する第1行程と、第1行程により煮出した梨染料原液を濾過する第2行程と、第2行程により取り出した梨染料原液に被染色体を一次染色する第3行程と、第3行程により染色した被染色体を所定量の水に被染色体の固着を促進する媒染剤を添加して生成した染料固着液に浸漬する第4行程と、第4行程により染色した被染色体を乾燥する第5行程からなることを特徴とする梨の木の抽出液を使用した染色方法。
【請求項2】
前記媒染剤は、1種又は複数種を組み合わせて所望色に染色することを特徴とする請求項1に記載の梨の木の抽出液を使用した染色方法。
【請求項3】
前記第2行程により取り出した梨染料原液に竹炭を投入して一定時間浸漬し浄化することを特徴とする請求項1に記載の梨の木の抽出液を使用した染色方法。
【請求項4】
前記第3行程において、あらかじめ被染色体をアルカリ溶液に浸漬したあと酢酸により中和した状態で染色することを特徴とする請求項1に記載の梨の木の抽出液を使用した染色方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−184810(P2011−184810A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−48521(P2010−48521)
【出願日】平成22年3月5日(2010.3.5)
【出願人】(310003739)特定非営利活動法人 くらしのお手伝い よねさと (1)
【Fターム(参考)】