説明

棺のヒンジ構造

【課題】燃え残りが発生することなく、見栄えが良好で、十分な耐久性を確保することが可能な棺のヒンジ構造を提供する。
【解決手段】本発明の棺は、下箱や窓枠などのベース部13Bと、このベース部13Bに隣接して設けられる蓋や窓扉などの可動部13AとがヒンジHにより開閉可能に連結される。ベース部13Bおよび可動部13Aを含む棺の下地には布地が貼り付けられる。ヒンジHは、布地T,Tを2枚に重ねてそのヒンジ軸に相当する長さ分だけ直線上に縫い合わせ、この縫い合わせ部分から分岐する4枚の布片Ta,Ta,Tb,Tbのうち、隣り合う2枚の布片をベース部の表面に貼り付け、残りの2枚の布片を可動部の表面に貼り付けてなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、棺のヒンジ構造に関するもので、詳しくは、布貼り棺に適した棺のヒンジ構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、棺には蓋や窓扉がヒンジにより開閉するものがある。通常、棺のヒンジには、金属蝶番が採用され、その一対の取付片が棺のベース部(下箱や窓枠)と可動部(蓋や窓扉)とにそれぞれ釘やネジ等で固定される。各取付片が回動軸で連結されることで、可動部がベース部に対して開閉することになる。
【0003】
一方、棺にはその表面に布地を貼り付けて化粧を施すことがある。布貼り棺は、合板等の下地が布地で隠れるため、棺の外観が高級感のある仕上がりになる。
このような布貼り棺に蓋や窓扉のヒンジを設ける場合、通常、これの下地に布地を貼り付けてから、ベース部(下箱や窓枠)と可動部(蓋や窓扉)の表面に金属蝶番を固定している。
【0004】
なお、棺のヒンジ構造に関する先行技術としては、特許文献1および特許文献2が開示されている。
【特許文献1】特開平6−48649号公報
【特許文献2】実用新案登録第3079393号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、このような従来の棺のヒンジ構造では、次のような問題がある。
(1)棺の焼却時に金属蝶番の燃え残りが生じるため、その分別作業に手間がかかる。最近では、環境保護の要請から段ボール材を用いた棺が注目されており、このような燃え残りを極力少なくすることが望ましい。
(2)布地の上から蝶番を固定するため、布地の表面の一部が蝶番で隠れてしまう。蝶番の位置や色によっては、化粧仕上げを施した棺の見栄えが悪くなることがある。
【0006】
上記(1)および(2)の対策として、金属蝶番に代えて紙製ヒンジを採用することも考えられるが(特許文献1参照)、このような紙製ヒンジは破れやすく、耐久性が不十分になりやすい。
【0007】
本発明はこのような現状に鑑みなされたもので、燃え残りが発生することなく、見栄えが良好で、しかも、十分な耐久性を確保することが可能な棺のヒンジ構造を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
[第1発明]
前記課題を解決するための第1発明の棺のヒンジ構造は、
棺の下箱や窓枠などのベース部と、
このベース部に隣接して設けられる蓋や窓扉などの可動部と、
前記ベース部に対して前記可動部を開閉可能に連結するヒンジと、
前記ベース部および前記可動部を含む前記棺の下地に貼り付けられる布地とを備え、
前記ヒンジは、前記布地を2枚に重ねてそのヒンジ軸に相当する長さ分だけ直線上に縫い合わせ、次いで、この縫い合わせ部分から分岐する4枚の布片のうち、隣り合う2枚の布片を前記ベース部の表面に貼り付け、残りの2枚の布片を前記可動部の表面に貼り付けてなる構成とした。
【0009】
このような構成によれば、棺のベース部と可動部とが布地の直線上の縫い合わせ部分で折れ曲がる。つまりこの縫い合わせ部分がベース部と可動部を開閉するヒンジとなる。これにより、金属蝶番を採用しなくとも蓋や扉を開閉させることができ、ヒンジの燃え残りの問題を解消することができる。
また、縫い合わせ部分に布地の表面がそのまま表れるため、布地の色や柄をヒンジの外観として見せることができる。この結果、デザイン性に優れた見栄えのよい棺を実現することが可能になる。
さらに、布地の縫い合わせ部分は、紙製ヒンジに比較して丈夫で耐久性に優れるため、繰り返し折り曲げても破断する心配がない。
【0010】
このように本発明は、従来の布貼り棺の布地をヒンジの構成材として利用することで、前述の問題点を解消するものである。釘やネジなどの留め具も不要になり、製造コストの削減にも役立つ。
【0011】
第1発明のヒンジ構造は、布貼り棺の蓋や窓扉などに適用することができるが、特に、下箱の上に前蓋と後蓋とを並べる縦開きタイプの棺に適用すると効果的である。縦開きタイプの棺は、両者の間のヒンジにより前蓋(可動部)が後蓋(ベース部)に対して上方前向きに開放するもので、片手でも簡単に前蓋を開閉することができる。
【0012】
[第2発明]
すなわち、本発明の棺のヒンジ構造は、
下箱と、
この下箱の上に前後に並んで載置される前蓋および後蓋と、
前記前蓋および前記後蓋の天板同士の隣接部に設けられ、前記後蓋に対して前記前蓋を開閉可能に連結するヒンジと、
前記前蓋および前記後蓋を含む棺の下地に貼り付けられる布地とを備え、
前記ヒンジは、前記布地を2枚に重ねてヒンジ軸に相当する長さ分だけ直線上に縫い合わせ、次いで、この縫い合わせ部分から分岐する4枚の布片のうち、隣り合う2枚の布片を前記後蓋の表面に貼り付け、残りの2枚の布片を前記前蓋の表面に貼り付けてなる構成とした。
【0013】
このような構成では、前蓋および後蓋に貼り付けられる布地の縫い合わせ部分がヒンジとなる。これにより、第1発明と同様に、金属蝶番が不要となり、燃え残りの問題を解消することができる。
また、従来の縦開きタイプの棺では、前蓋および後蓋の天板隣接部に金属蝶番の外観が目立って邪魔になることがあったが、第2発明の構成では、布地がヒンジの外観となるため、ヒンジの存在が目立たず、布地の色や柄を天板全体に活かすことができる。
【0014】
また、第2発明によれば、布地の縫い合わせ部分が紙製ヒンジに比較して丈夫で耐久性に優れるため、前蓋を繰り返し開閉しても、ヒンジが壊れる心配もない。
さらには、前蓋および後蓋の天板隣接部にヒンジによる凹凸が生じないため、保管や運搬の際に棺を積み上げてスペースを有効に利用するといったことも可能になる。
【0015】
第2発明の構成において、前蓋と後蓋のヒンジを2枚の布地で形成する方法としては、両者の間に前後方向に布地を重ねて下地に貼り付ける方法(図6参照)と、両者の間に上下方向に布地を重ねて下地に貼り付ける方法(図9参照)とが考えられる。
前者の場合、前蓋および後蓋のヒンジ以外の隣接部を前後の布地で切れ目なく覆い隠せる利点がある。後者の場合、単一の布地が蓋の外側または内側に表れるため、前蓋と後蓋との境界で布地の模様や柄の連続性を損なわないという利点がある。必要に応じていずれの方法を採用しても構わない。
【0016】
[第3発明]
第3発明の棺のヒンジ構造は、第2発明の構成を有するものであって、
前記前蓋と前記後蓋の隣接部のうち前記ヒンジを除く部位に、前記前蓋が閉鎖状態にあるときは前記前蓋と前記後蓋との間に折り畳まれ、かつ、前記前蓋が開放状態にあるときは前記前蓋と前記後蓋との間に繋がって展開する架橋布を設ける構成とした。
【0017】
一般に、前述の縦開きタイプの棺は、前蓋と後蓋の天板同士の隣接部が直線上に連なる。このため、この直線長さの範囲で2枚の布地を縫い合わせれば、十分なヒンジ長さを確保することができる。
しかしながら、このような隣接部の直線長さが短い棺では、布地の縫い合わせによるヒンジ長さが短くなるため、ヒンジの連結が外れて前蓋が後蓋から分離するおそれがある。特に、前蓋と後蓋の天板の形状が蒲鉾形になっている棺ではこのような問題が顕著になる。
【0018】
第3発明の構成によれば、布地の縫い合わせによるヒンジに加えて架橋布で前蓋と後蓋とを連結するため、仮にヒンジの連結が外れても、架橋布が前蓋と後蓋を繋ぎ、両者が分離することはない。これにより、ヒンジの開閉を安心して行うことが可能になる。
また、第3発明の構成では、前蓋と後蓋の隣接部のうちヒンジを除く部位を架橋布で覆い隠すことができるため、このような部位の布貼りを省略でき、布端の始末を容易にすることができるという効果も得られる。
【0019】
[第4発明]
第1〜3発明のヒンジ構造において、2枚の布地の固定手段としては、縫製による他、接着剤を使用してもよい。
すなわち、第4発明の棺のヒンジ構造は、第1〜3発明のいずれかの構成を有するものであって、2枚の布地の固定手段として、前記縫製糸に代えて、接着剤を用いる構成とした。
【0020】
このような構成によれば、2枚の布地の接着部分がヒンジの役目を果たすため、第1〜3発明と同様に金属蝶番を使用しなくとも、蓋や窓の開閉が可能になる。
また、布地の表面にヒンジが目立つことがなく、棺の見栄えを良好にすることができる。 さらに、布地同士を接着剤で強力に貼り合わせることができるため、ヒンジの耐久性も十分に確保することができる。
なお、前記接着剤は、樹脂材料などの可燃性のものであればよく、粘液状タイプの他、熱溶着テープ等であってもよい。
【0021】
[第1〜4発明]
第1〜4発明の棺のヒンジ構造は、布貼りを施す棺であれば適用することができ、その形状は問わない。例えば、平面四角形タイプの棺の他、平面八角形タイプの棺にも適用することができる。また、棺の材料には、環境配慮の面から段ボール材を採用することが望ましいが、もちろん木材であっても構わない。棺の用途(人用、ペット用等)や種類(寝棺、座棺等)についても特に限定されることはない。
第1〜4発明は、必要に応じて単独で適用してもよいし、これらの発明を組み合わせて適用してもよい。また、本明細書に記載される他の発明を組み合わせてもよい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、実施形態の説明上、前後方向は棺の長手方向を意味し、左右方向は棺の短手方向を意味する。
【0023】
[第1実施形態]
第1実施形態の棺を図1〜図9に示した。第1実施形態は、一般的な台形蓋を有する縦開きタイプの棺に本発明を適用したものである。
【0024】
図1および図2に示すように、棺10は、下箱12と蓋13が組み合わされてなる。下箱12の上方に蓋13が載置されている。蓋13の矩形の天板には棺側面に向けて下方に傾斜する面取り板が連なる。棺10に納棺を行う際には、棺10の前後で蓋13の端を持って移動させることで下箱12が全面開放する。
棺10の寸法は、例えば長さが170〜200cm程度、幅が50〜70cm程度、下箱12と蓋13を含めた高さが40〜50cm程度である。
【0025】
蓋13は、前蓋13Aと後蓋13Bとに分割されている。これらの天板同士の隣接部にヒンジHが設けられている。前蓋13Aのみを持ち上げると、前蓋13AがヒンジHによって後蓋13B側に跳ね上がるように回動する。そして、図2および図3に示すように、下箱12の前側部分のみが半開放する。
【0026】
棺10の下地については合板や段ボール材が用いられる。特に、下箱12および蓋13の両方、またはいずれか一方に三層強化段ボール(トライウォール社製)を使用することが望ましい。この種の段ボール材は、2枚の厚板(ライナー)の間に、3層の波板が仕切り板を介して積層されてなるもので、優れた耐圧性・耐水性をもつ。このような強化段ボール材を用いることで、ヒンジHを含む棺全体の燃焼時間が短縮され、CO2排出量を低減させたエコロジカルな棺となる。
【0027】
下箱12と蓋13(前蓋13Aおよび後蓋13B)を含む棺10の下地には化粧用の布地が貼り付けられる。布地の表面には模様や柄が付され、下箱12と蓋13とが一体感のある外観に仕上げられている。
【0028】
ヒンジHは、前蓋13Aと後蓋13Bの表面の布地を縫い合わせることで形成される。すなわち、2枚の布地を重ねてヒンジ軸に相当する天板左右幅の長さだけ直線上に縫い合わせ、この縫い合わせ部分を天板同士の隣接部に来るように設けている。
なお、布地の縫い合わせは既存のミシン等で行われる。縫い合わせ部分に複数の直線上の縫い目を重ねて形成してヒンジ強度を高めるようにしてもよい。
【0029】
前蓋13Aと後蓋13BにヒンジHを形成する方法としては、棺10の前後方向に布地を重ねる方法と、棺10の上下方向に布地を重ねる方法とがある。隣接部の仕上げ方や布地の色柄等を考慮して好ましい方を選択する。具体的には下記に示すようにヒンジHを形成することができる。
【0030】
[布地を前後方向に重ねる製法:図4〜図6参照]
2枚の布地を前後に重ねる製法では、図4に示すように、2枚の布地T,Tが前蓋13Aと後蓋13Bの隣接部をそれぞれ独立に包み込むような格好になる。各蓋の天板同士の隣接部に各布地の縫い合わせ部分(ヒンジH)が配置され、この部分から分岐する4枚の布片Ta,Ta,Tb,Tbのうち、2枚の布片Ta,Taが前蓋13Aの表裏面に貼り付けられ、2枚の布片Tb,Tbが後蓋13Bの表裏面に貼り付けられる。
【0031】
布地T,Tとしては、前蓋13Aと後蓋13Bの下地を覆い隠すのに十分なサイズのものを2枚準備する。これらの布地の表面同士を前後に重ね合わせ、その中央付近でヒンジHの長さ分ミシン等で直線上に縫い合わせる(図5および図6参照)。この縫い合わせ部分を前蓋13Aと後蓋13Bの天板同士の隣接部に一致させ、各布地の裏面を前蓋13Aと後蓋13Bの下地に貼り付ける。前蓋13Aと後蓋13Bの下端は、布端を重ねるなどして下地が見えないように仕上げる。
【0032】
上記第1の製法では、前蓋13Aおよび後蓋13Bの隣接部に布地T,Tをそれぞれ折り返して貼り付けることができる。このため、ヒンジHの左右に連なる天板以外の隣接端(面取り板および側板の端面)において布地の端切れが発生せず、布貼りの仕上がりが良好になる。特に、前蓋13Aを開放したときに開口端面の見栄えのよい棺となる(図3参照)。
【0033】
[布地を上下方向に重ねる製法:図7〜図9参照]
2枚の布地を上下に重ねる製法では、図7に示すように、布地T,Tが前蓋13Aと後蓋13Bの隣接部をそれぞれ内側と外側から被覆する格好になる。各蓋の天板同士の隣接部に各布地の縫い合わせ部分(ヒンジH)が配置され、この部分から分岐する4枚の布片Ta,Ta,Tb,Tbのうち、外側の2枚の布片Ta,Taが前蓋13Aと後蓋13Bの表面に貼り付けられ、内側の2枚の布片Tb,Tbが前蓋13Aと後蓋13Bの裏面に貼り付けられる。
【0034】
布地としては、蓋13の下地を覆い隠すのに十分なサイズの布地を2枚準備する。これらの布地の裏面同士を上下に重ね合わせ、その中央付近でヒンジHの長さ分ミシン等で直線上に縫い合わせる(図8および図9参照)。この縫い合わせ部分を前蓋13Aと後蓋13Bの天板同士の隣接部に一致させ、各布地の裏面を前蓋13Aと後蓋13Bの下地に貼り付ける。
布地T,Tのヒンジ両側部分については、縫い目の延長線上に切れ目を入れ(図8および図9参照)、ヒンジHを除く隣接部の端面(面取り板および側板の端面)に布端を重ねて貼り付ける。また、前蓋13Aと後蓋13Bの下端についても、布端を重ねるなどして下地が見えないように仕上げる。
【0035】
上記第2の製法では、前蓋13Aと後蓋13Bとの隣接部を跨いで布地T,Tを各蓋の下地に貼り付けることができるため、各蓋の隣接部で布地の模様や絵柄の連続性を保つことができる。このため、外観上の一体性に優れた棺となる。
【0036】
このように第1実施形態の棺10によれば、前蓋13Aと後蓋13BのヒンジHが各蓋の布地を貼い合わせることで形成されるため、金属蝶番が不要になり、ヒンジHの燃え残りの問題を解消することができる。
また、ヒンジHの外観には布地の表面がそのまま表れるため、布地の色や柄を活かして棺10の見栄えを向上させることができる。
また、棺10では、布地の縫い合わせ部分が開閉を繰り返しても紙製ヒンジのように破れることがなく、ヒンジHの耐久性も十分に確保することができる。
さらには、棺10の天板にヒンジHの凹凸がほとんど生じないため、運搬や保管時に棺10を積み上げてスペースの有効利用を図ることも可能になる。
【0037】
[第2実施形態]
次に、本発明の第2実施形態を図10および図11に示した。第2実施形態は、蒲鉾形の蓋をもつ縦開き棺に本発明を適用したものである。
図10に示すように、棺20は、下箱22の上に蒲鉾形の天板をもつ蓋23が載置される。下箱22と蓋23の下地には布地による化粧仕上げが施されている。
【0038】
蓋23は、前蓋23Aと後蓋23Bに分割され、これらの天板の頂上隣接部にヒンジHが設けられている。ヒンジHは、第1実施形態と同様に、前蓋23Aと後蓋23Bに貼られた布地を縫い合わせることで形成される。すなわち、2枚の布地を重ねてヒンジ軸に相当する長さ分だけ直線上に縫い合わせ、この縫い合わせ部分を天板の隣接部に来るように設けている。
【0039】
ここで、第2実施形態では、蓋形状が蒲鉾形になっているため、ヒンジHが前蓋23Aと後蓋23Bの頂上部分に限られる。このため、ヒンジHに過度の力が加わると、縫い糸が解れて前蓋23Aとが後蓋23Bとが分離するおそれがある。そこで、前蓋23Aと後蓋23BのヒンジHを除く左右の隣接部を架橋布Rで連結してある。
【0040】
架橋布Rは、前蓋23Aと後蓋23Bとの間で扇形に形成される(図11参照)。前蓋23Aを閉じているときは架橋布Rが前蓋23Aと後蓋23Bとの間に折り畳まれて隠れる。前蓋23Aを開放すると、架橋布RがヒンジHの両側で“水かき”のように拡がって前蓋23Aと後蓋23Bとの間に連なる。
【0041】
架橋布Rの製法としては、前蓋23Aと後蓋23Bの下地に貼り付ける2枚の布地を上下方向に重ねて縫い合わせるとよい。具体的には、図12に示すように、蓋23の下地を覆い隠すのに十分なサイズの2枚の布地T,Tを準備し、上下方向に重ねる。これらの布地を図12破線に示すように、前後対称に円弧状に縫い合わせ、その中央縫い目の重なる部分をヒンジHとする。
【0042】
上記のように布地T,Tを縫い合わせた後、図12破線に示す縫い目を矢印方向に引っ張り、境界線Lの位置にもって来る。こうすることで、引っ張られて弛んだ布地が架橋布Rとなる。
このような製法では、架橋布Rとして専用の布地を別個に準備する必要がなく、棺20の製造工程が簡略化される。また、前蓋23Aと後蓋23Bの隣接部を架橋布Rで覆うため、ヒンジHの左右で布地に切れ目を入れる手間が省ける。さらには隣接部に布地の切れ端が見える心配もない。
【0043】
第2実施形態の棺20によれば、前蓋23Aと後蓋23BのヒンジHが布地の縫い合わせにより形成されるため、金属蝶番が不要で燃え残りが生じない。
また、ヒンジHの外観には布地の表面がそのまま表れるため、ヒンジHの目立たない見栄えの良い棺に仕上げることができる。
【0044】
また、前蓋13Aと後蓋13Bとが架橋布Rで繋がっているため、仮にヒンジHで縫い糸が解れることがあっても、両者が分離して脱落するようなことが回避される。これにより、安心して前蓋13Aをの開閉を繰り返すことができる。
【0045】
[第3実施形態]
第3実施形態を図13に示した。第3実施形態の棺は、蓋が横方向に開閉する棺に本発明を適用したものである。一般に、横開きタイプの棺は、洋棺に多く採用される。
【0046】
図13に示すように、棺30は、下箱32の上方に前蓋33Aと後蓋33Bが前後に並んで取り付けられる。これらの蓋33A,33Bと下箱32との隣接部にヒンジHa,Hbが設けられている。下箱32に対し前蓋33AがヒンジHaで開閉し、後蓋33BがヒンジHbで開閉する。蓋33A,33Bの形状は、第1実施形態と同様に、面取り板を有する台形蓋である。
【0047】
下箱32と蓋33A,33Bを含む棺30の下地には化粧用の布地が貼り付けられる。布地の表面には模様や絵柄が付され、棺30の外観が一体感のあるものに仕上げられている。
【0048】
ヒンジHa,Hbは、下箱32と蓋33A,33Bとの隣接部の布地を縫い合わせることで形成される。すなわち、2枚の布地を重ねてヒンジ軸に相当する長さ分だけ直線上に縫い合わせ、この縫い合わせ部分を下箱32と蓋33A,33Bとの隣接部に来るように設けている。縫い合わせ部分から分岐する4枚の布片のうち隣り合う2枚が下箱32の下地に貼り付けられ、残りの2枚が蓋33A,33Bの下地に接着剤等で貼り付けられる。
【0049】
第3実施形態の棺30では、蓋33A,33BのヒンジHa,Hbが布地であるからヒンジHの燃え残りが発生しない。
また、ヒンジHの外観には布地の表面がそのまま表れるため、ヒンジHa,Hbの目立たない見栄えの良好な棺に仕上げることができる。
また、布地の縫い合わせ部分が紙製ヒンジのように破れることがなく、ヒンジHa,Hbの耐久性を十分に確保することができる。
【0050】
[第4実施形態]
第4実施形態を図14に示した。第4実施形態は、窓扉付き棺に本発明を適用したものである。一般に、棺の窓扉付き棺は、和棺に多く採用される。
【0051】
図14に示すように、棺40は、下箱42の上方に蓋43が載置される。蓋43の天板に窓枠44が設けられ、この窓枠44の左右に窓扉45,45がヒンジH,Hにより連結されている。窓扉45,45を左右に開けると、棺40の内部を覗けるようになっている。
【0052】
窓枠44と窓扉45,45を含む棺40の下地には化粧用の布地が貼り付けられる。布地の表面には模様や絵柄が付され、棺40の外観が一体感のあるものに仕上げられている。
【0053】
ヒンジH,Hは、窓枠44と窓扉45,45との隣接部の布地を縫い合わせることで形成される。すなわち、化粧用の2枚の布地を重ねてヒンジ軸に相当する長さ分だけ直線上に縫い合わせ、この縫い合わせ部分を窓枠44と窓扉45,45との隣接部に来るように設けている。縫い合わせ部分から分岐する4つの布片のうち、隣り合う2枚の布片が窓枠44の下地に、残りの2枚の布片が窓扉45の下地に接着剤等で貼り付けられる。
【0054】
第4実施形態の棺40では、窓枠44と窓扉45,45を連結するヒンジHが布地であるからヒンジHの燃え残りが発生しない。
また、棺40の外観が、窓枠44にヒンジHの目立たないシンプルなものになる。
さらに、布地の縫い合わせ部分が紙製ヒンジのように破れることがなく、ヒンジH,Hの耐久性を十分に確保することができる。
【0055】
[変形例]
第1〜4実施形態を説明したが、本発明の実施形態はこれらに限定されることなく、種々の変形・変更を伴ってもよい。
例えば第1〜4実施形態では、2枚の布地を縫い合わせてヒンジとしているが、これらの布地を接着剤で貼り合わせてヒンジとすることもできる。
また、第1〜4実施形態では、平面四角形の棺形状としているが、下箱と蓋のコーナ部分に面取りを設けて平面八角形の棺としてもよい。また、蓋の形状を、平面的な平板状にしてもよい。
蓋および窓扉のヒンジの位置は、前記実施形態に限定されず、他の位置に設けてもよいことはもちろんである。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明の第1実施形態の棺を示すもので、蓋が閉じた状態を示す斜視図である。
【図2】同棺を示すもので、蓋が開いた状態を示す斜視図である。
【図3】図2に示す棺をヒンジを正面から観た拡大図である。
【図4】同棺のヒンジ構造を示すもので、布地を前後方向に重ねる製法を説明するための側面模式図である。
【図5】同棺のヒンジ構造を示すもので、布地を前後方向に重ねる製法を説明するための平面模式図である。
【図6】同棺の全体構成を示すもので、布地を前後方向に重ねる製法を説明するための斜視図である。
【図7】同棺のヒンジ構造を示すもので、布地を上下方向に重ねる製法を説明するための側面模式図である。
【図8】同棺のヒンジ構造を示すもので、布地を上下方向に重ねる製法を説明するための平面模式図である。
【図9】同棺の全体構成を示すもので、布地を上下方向に重ねる製法を説明するための斜視図である。
【図10】本発明の第2実施形態の棺を示すもので、蓋が閉じた状態を示す斜視図である。
【図11】同棺を示すもので、蓋が開いた状態を示す斜視図である。
【図12】同棺のヒンジ構造を示すもので、(A)は前蓋と後蓋とを繋ぐ架橋布の製法を説明するための平面模式図、(B)は同側面模式図である。
【図13】本発明の第3実施形態の棺を示すもので、蓋が開いた状態を示す斜視図である。
【図14】本発明の第4実施形態の棺を示すもので、(A)は窓扉が閉じた状態を示す断面図、(B)は窓扉が開いた状態を示す断面図である。
【符号の説明】
【0057】
10 棺
12 下箱
13 蓋
13A 前蓋
13B 後蓋
20 棺
22 下箱
23 蓋
23A 前蓋
23B 後蓋
30 棺
32 下箱
33A 前蓋
33B 後蓋
40 棺
42 下箱
43 蓋
44 窓枠
45 窓扉
H ヒンジ
Ha,Hb ヒンジ
T 布地
Ta,Ta 布片
Tb,Tb 布片
R 架橋布

【特許請求の範囲】
【請求項1】
棺の下箱や窓枠などのベース部と、
このベース部に隣接して設けられる蓋や窓扉などの可動部と、
前記ベース部に対して前記可動部を開閉可能に連結するヒンジと、
前記ベース部および前記可動部を含む前記棺の下地に貼り付けられる布地とを備え、
前記ヒンジは、前記布地を2枚に重ねてそのヒンジ軸に相当する長さ分だけ直線上に縫い合わせ、次いで、この縫い合わせ部分から分岐する4枚の布片のうち、隣り合う2枚の布片を前記ベース部の表面に貼り付け、残りの2枚の布片を前記可動部の表面に貼り付けてなることを特徴とする棺のヒンジ構造。
【請求項2】
下箱と、
この下箱の上に前後に並んで載置される前蓋および後蓋と、
前記前蓋および前記後蓋の天板同士の隣接部に設けられ、前記後蓋に対して前記前蓋を開閉可能に連結するヒンジと、
前記前蓋および前記後蓋を含む棺の下地に貼り付けられる布地とを備え、
前記ヒンジは、前記布地を2枚に重ねてヒンジ軸に相当する長さ分だけ直線上に縫い合わせ、次いで、この縫い合わせ部分から分岐する4枚の布片のうち、隣り合う2枚の布片を前記後蓋の表面に貼り付け、残りの2枚の布片を前記前蓋の表面に貼り付けてなることを特徴とする棺のヒンジ構造。
【請求項3】
請求項2記載の棺のヒンジ構造であって、
前記前蓋と前記後蓋の隣接部のうち前記ヒンジを除く部位に、前記前蓋が閉鎖状態にあるときは前記前蓋と前記後蓋との間に折り畳まれ、かつ、前記前蓋が開放状態にあるときは前記前蓋と前記後蓋との間に繋がって展開する架橋布を設ける、棺のヒンジ構造。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項記載の棺のヒンジ構造であって、前記2枚の布地の固定手段として、縫製糸に代えて接着剤を用いる、棺のヒンジ構造。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項記載のヒンジ構造を有する棺。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2009−189474(P2009−189474A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−31681(P2008−31681)
【出願日】平成20年2月13日(2008.2.13)
【出願人】(594101994)有限会社平和カスケット (12)