説明

椅子の起倒装置

【課題】 がたつきの発生を抑制できる椅子の起倒装置を提供する。
【解決手段】 起倒装置11は、支持部13、出力シャフト15、第2大歯車23、リンク部25、第1ストッパー27、第2ストッパー29などを備える。座体を支持する支持部13は回転軸33を中心に回転可能であり、矢印A方向に回転して第1ストッパー27と当接し、矢印A方向への回転が抑制される。第2大歯車23は出力シャフト15の回転をうけて回転する。第2大歯車23の外周には直径方向に突出するように第2ストッパー29が固定されている。リンク部25は、支持部13と第2大歯車23とを連結し、第2大歯車23の回転に伴って支持部13を回転させる。第2ストッパー29は、支持部13が第1ストッパー27と当接する位置にあるときには支持部13と当接して、矢印B方向への支持部13の回転を抑制する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、椅子の起倒装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ホール、体育館などにおいては、前方へ引き出して階段状に展開できると共に、後方へ移動させながら上下に重合させて収納できる多くの段床からなる階段式移動観覧席が利用される場合がある。この階段式移動観覧席に椅子を設置する場合、段床が収納されている場合には椅子を段床上に転倒させて段床と共に収納可能とし、段床を展開したときには椅子を起立させて着席可能な状態とすることが望ましい。
【0003】
そこで従来、モーターなどの駆動源と連結し、その駆動力を利用して椅子の座体を変位させ、椅子の起立および転倒を実現するように構成された椅子の起倒装置が用いられることがある。
【0004】
例えば、特許文献1に記載の起倒装置(起立転倒装置)は、図6に示すように、出力シャフト10の駆動力を大歯車19などを介して支脚3に伝え、支脚3を転倒状態または起立状態とにする。
【0005】
支脚3と大歯車19とは「への字型」のリンク23で連結している。支脚3が起立した状態では、後端部連結ピン21の中心Pの位置が、支脚連結ピン24の中心Qから駆動シャフト14の中心Cとを通って延長した直線を時計回り方向に設定されたトグル角θだけ変位した位置となることでトグル状態を形成し、支脚3に外力が作用しても前方への転倒を阻止するように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9−96116号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献1の起倒装置において、支脚3が起立するときにはストッパー27が後方から接触することにより位置決めされる。ストッパー27は調整ボルト26により前方への突出量を調整可能であり、その調整に応じて支脚3が起立したときのトグル角θが変化する。
【0008】
ここで、支脚3の起立時には、トグル角θが非常に厳密に0度近傍の微小な範囲となるようにストッパー27の突出量を調整する必要がある。
ストッパー27の突出量が大きいほど支脚3は前方でストッパー27に接触してしまい、支脚3は最も後方に位置するトグル角θが0度の位置まで支脚3が移動できない。その場合にはトグル状態を形成できず、支脚3が外力を受けると前方に倒れてしまう。
【0009】
また、上述したようにトグル角θが0度の場合に支脚3は最も後方に位置するので、トグル角θが0度を超えると、支脚3は前方へ移動してしまう。すると、支脚3がストッパー27から離れてしまいストッパー27によって支持されなくなり、椅子の支持が十分できずがたつきが生じやすくなる。
【0010】
従って、ストッパー27の調整は非常に精密に行う必要がある。しかしながら、その突出量の調整は、リンク23や、後端部連結ピン21および支脚連結ピン24の形状および取り付けの精度にも左右されるような微妙なものであるため、起倒装置を製造する際に調整しても取り付けて使用したときにはズレてしまうことが多く、取り付け後に調整が必要となる場合があった。
【0011】
本発明は、上述した問題に鑑みてなされたものであり、その目的は、がたつきの発生を抑制できる椅子の起倒装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上述した問題を解決するためになされた請求項1に記載の発明は、回転力を伝えるシャフトと連結し、当該シャフトの回転力によって人が着座可能な座体の位置を変位させる椅子の起倒装置であって、水平方向に設けられた回転軸を中心に回転可能であって、前記回転軸から距離を有する位置にて前記座体を支持可能である支持部と、前記支持部が前記回転軸を中心として第1の方向に回転して所定の位置となったときに前記支持部と当接し、前記第1の方向への前記支持部の回転を抑制する第1ストッパーと、前記回転軸と略平行に設けられる回転軸を中心に回転可能であって、前記シャフトの回転力を受けて回転する回転体と、前記支持部と前記回転体とを連結しており、前記回転体の回転に伴って前記支持部を回転させるリンク部と、前記回転体の回転に応じて変位する第2ストッパーと、を備え、前記第2ストッパーは、前記支持部が前記第1ストッパーと当接する位置にあるときには前記支持部と当接する位置に変位して、前記第1の方向とは異なる第2の方向への前記支持部の回転を抑制することを特徴とする椅子の起倒装置である。
【0013】
このように構成された椅子の起倒装置は、支持部が第1の方向に回転して所定の位置となったときに、第1ストッパーと第2ストッパーとによって支持部の回転が抑制され、座体に人が着席するなどして荷重が加えられても座体が変位しなくなる。以下の説明において、この支持部の位置を単に停止位置ともいう。
【0014】
本発明の起倒装置において、支持部は、支持部が第1ストッパーにより第1の方向への回転が抑制された状態で、第2ストッパーにより第2の方向への回転が抑制されることで変位が抑制される。
【0015】
このような構成であれば、停止位置において支持部のがたつきを低減するためには、第1ストッパーおよび第2ストッパーの少なくとも一方の位置を調整して、停止位置となったときに、支持部と、第1ストッパーおよび第2ストッパーと、の隙間が小さくなるようにすればよい。
【0016】
従って、本発明の起倒装置は、2つのストッパーの少なくとも一方の位置を調整するだけで、支持部が停止位置にあるときのがたつきを抑制できる。
一方、従来のようなトグル機構を用いる構成のように、第2の方向への回転を抑制するための構造にリンク機構を用いると、がたつきを低減するためには製造時の加工精度を高めたり、ストッパーの位置調整を厳密に行う必要があるためがたつきの低減が非常に困難である。
【0017】
なお、本発明の椅子の起倒装置において、座体の移動可能な範囲については特に限定されない。例えば、支持部の回転に伴って座体が床面に沿った位置から上方に移動し、上方の所定の位置を停止位置とする椅子に適用することができる。
【0018】
第2ストッパーは、回転体の回転に応じて変位して支持体の回転を抑制できるものであれば、その具体的な構成や形状は特に限定されない。例えば、第2ストッパーが回転体とリンク部品を介して連結しており、それにより回転体の回転に応じて変位する構成としてもよいし、回転体が回転するときに回転体の一部に押されて変位するように構成されていてもよい。
【0019】
また、例えば請求項2に記載のように、第2ストッパーは、回転体に固定されていてもよい。このように構成することで、第2ストッパーの構造を単純にすることができ、ガタツキが発生しにくくなる。また、部品点数を下げて製造コストを低減することもできる。
【0020】
請求項3に記載の発明は、請求項1または請求項2に記載の椅子の起倒装置において、前記支持部が前記第1ストッパーと当接する位置にあるときには、前記回転体が、前記第2ストッパーに前記支持部から加えられる荷重を受けるように構成されており、前記回転体において受ける前記荷重の方向は、前記回転体において前記荷重を受ける位置と、当該回転体の回転軸と、を結ぶ直線の方向と同一であることを特徴とする。
【0021】
このように構成された椅子の起倒装置では、支持部が第2の方向に回転するように支持部や座体に対して荷重が加わったときに、回転体はその荷重を、回転軸を中心に受けることとなる。仮に、回転軸から逸れた位置に荷重が加わると、回転体がその荷重によって回転し、第2ストッパーおよび支持部の位置が変位してしまう虞があるため、その回転を抑制するための何らかの機構を設けたり、出力シャフトに回転力を与えるなどして回転体の回転を抑制する必要がある。本発明では回転軸の中心に荷重が加わるため、その荷重が回転体の回転力とならず、回転を抑制するための構成が必須ではなくなる。
【0022】
請求項4に記載の発明は、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の椅子の起倒装置において、前記リンク部と前記回転体とを連結する第1の連結部と、前記リンク部と前記支持部とを連結する第2の連結部と、のうちの少なくともいずれか1つは、前記リンク部およびその連結相手側のいずれか一方に設けられる棒状の突起部が、他方に設けられて少なくとも一部が前記突起部よりも大きい径を有する穴に挿入されることによって連結していることを特徴とする。
【0023】
このように構成された椅子の起倒装置では、回転体と支持部との間の連結部分に、突起部と穴の大きさの違いによる遊びが設けられる。この遊びにより、支持部は回転体の回転に伴わずに少しの範囲で回転可能となる。従って、支持部が停止位置となる前に第2ストッパーが支持部と当接してしまっても、支持部を押しのけて変位することができる。よって、第2ストッパーと支持部とが接触してしまいスムーズな回転が阻害されるといったことを抑制できる。
【0024】
請求項5に記載の発明は、請求項4に記載の椅子の起倒装置において、少なくとも前記支持部が前記第1ストッパーに当接する位置の近傍において、前記支持部を前記第1の方向に回転するように付勢する付勢部材を備えることを特徴とする。
【0025】
このように構成された椅子の起倒装置では、支持部が停止位置となる直前には付勢部材によって付勢されて支持部が前記第1の方向に回転し、支持部は第2ストッパーと当接する前に第1ストッパーに当接した状態となる。そのため、第2ストッパーは予め所定の位置にある支持部に向けて変位すればよく、上述したように第2ストッパーと支持部とが接触してスムーズな回転が阻害されることがより確実に抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】実施例の起倒装置による座体の変位を説明する側面図
【図2】実施例の起倒装置の側面図(A)および平面図(B)
【図3】実施例の起倒装置の側面図
【図4】変形例の起倒装置を示す側面図
【図5】変形例の起倒装置を示す側面図
【図6】従来の起倒装置の例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下に本発明の実施形態を図面と共に説明する。
[実施例]
(1)全体構成
本実施例の椅子1の起倒装置11(以降、単に起倒装置ともいう)は、図1(A)〜(C)に示すように、人が着座可能な座体3の位置を変位させるものであり、一例として階段式移動観覧席において利用されるものである。
【0028】
階段式移動観覧席は、前方へ引き出して階段状に展開できると共に後方へ移動させながら上下に重合させてそれぞれ収納できる多くの段床からなるものである。
起倒装置11は、図1(A)に示すように、椅子1全体が倒れて、起倒装置11が設けられる下側の段床5aに沿った位置に座体3が位置し、上側の段床5bとの間に椅子1が収納可能な形態から、図1(B)に示すように起倒装置11を中心に椅子1が立ち上がり、図1(C)のように椅子1が起立して座体3が上方に位置するようになる形態までの間で座体3を変位させることができる。
【0029】
このような座体3の変位は、起倒装置11が支持部13を回転させることによって実現される。椅子1は座体3以外にも背もたれ7やひじ掛け9を備えており、それらも支持部13の回転に伴って変位し、適宜設けられたリンク機構によって適切な位置に移動する。例えば図1(C)の状態では着座に適した位置となる。なお座体3は図1(C)のように垂直に立った状態から、座体3の回転軸3aを中心に回転して水平とすることで着座できるようになる。
【0030】
起倒装置11のみを拡大した側面図を図2(A)に示す。また上方から見た平面図を図2(B)に示す。
起倒装置11は、椅子1の下端と連結する支持部13の他に、出力シャフト15、第1小歯車17、第1大歯車19、第2小歯車21、第2大歯車23、リンク部25、第1ストッパー27、第2ストッパー29、コイルバネ31などを備える。第1小歯車17、第1大歯車19、第2小歯車21、第2大歯車23はいずれも平歯車である。
【0031】
支持部13は、水平方向に設けられた回転軸33を中心に回転可能であって、回転軸33から距離を有する位置にて座体3を支持している。支持部13は図2(A)に示す矢印A方向に回転して所定の位置となったときに第1ストッパー27と当接し、矢印A方向への回転が抑制される。
【0032】
出力シャフト15は、起倒装置11の外部に設けられたモーターなどの図示しない駆動装置と連結しており、駆動装置の回転力を伝えるように構成されている。この出力シャフトの伝える回転力によって座体3が変位する。出力シャフト15には第1小歯車17が固定されていて、出力シャフト15と共に回転する。
【0033】
第1大歯車19は、第1小歯車17の下方に配置されており、第1小歯車17とかみ合って回転する。第2小歯車21は第1大歯車19と同一の回転軸41に固定されていて、第1大歯車19と共に回転する。
【0034】
第2大歯車23は、回転軸43を中心に第2小歯車21とかみ合って回転する。第2大歯車23の外周には第2大歯車23の直径方向に突出するように第2ストッパー29が固定されている。また第2大歯車23には円柱状の突起部45が回転軸43と平行に突出するように設けられている。
【0035】
リンク部25は、支持部13と第2大歯車23とを連結するものであって、第2大歯車23の回転に伴って支持部13を回転させる。リンク部25の一端には突起部45よりも径の大きい長穴47が形成されており、長穴47に突起部45が挿入されることによってリンク部25と第2大歯車23とが連結する。突起部45の先端は、脱落を防止するためフランジ状に形成されている。また、リンク部25の他端は、支持部13に設けられた回転軸49と連結している。
【0036】
なお、突起部45が長穴47に挿入することで連結していることから、支持部13と第2大歯車23との間には遊びが生じ、この遊びにより、支持部13は第2大歯車23の回転に伴わずに少しの範囲で回転可能となる。
【0037】
第1ストッパー27は、支持部13の回転軸33よりも上方において起倒装置11の筐体51に固定されていて、上述したように支持部13が矢印A方向に回転したときに当接する。第1ストッパー27はボルトを回転させることで支持部13に向けた突出量が調整できるように構成されている。
【0038】
第2ストッパー29は、第2大歯車23の回転に応じて変位する。そして、支持部13が第1ストッパー27と当接する位置にあるときには、回転軸33よりも下側において支持部13と当接する位置に変位して、矢印A方向とは反対の矢印B方向(図2(A)参照)への支持部13の回転を抑制する。なお、第2ストッパー29もボルトを回転させることで突出量が調整できるように構成されている。
【0039】
コイルバネ31は、起倒装置11の筐体51に固定されている軸53に一端が係止し、支持部13に固定されている軸55に他端が係止している。このコイルバネ31は、支持部13が矢印A方向に回転するように常時付勢している。
【0040】
起倒装置11の動作を図3(A)〜(D)を用いて説明する。図3(A)〜(D)ではコイルバネ31は省略している。
図3(A)には、支持部13が転倒した位置、即ち図1(A)のように座体3が段床5aに沿った位置にある場合の起倒装置11を示している。この状態から出力シャフト15の回転力を受けて第2大歯車23を時計回り方向に回転させると、図3(B)に示すように、支持部13が立ち上がるように回転し、さらに回転することで図3(C)に示す位置となる。
【0041】
ところで、支持部13は座体3などを支持しているため、それらに加わる重力が、支持部13を矢印B方向に回転させる力として加わる。しかしながら支持部13が立ち上がるにつれて、上述した重力が作用する矢印B方向の回転力は小さくなる。
【0042】
そのため、図3(B)に示す状態では支持部13は第2大歯車23に引っ張られることによって回転するものの、さらに支持部13が立ち上がると、支持部13はコイルバネ31の付勢力によって矢印A方向に回転し、図3(C)に示すように、第2大歯車23に引っ張られることなく第1ストッパー27と当接する位置に移動する。
【0043】
さらに第2大歯車23が回転すると、第2ストッパー29は第2大歯車23の回転と共に変位し、図3(D)に示すように、支持部13と当接する。このとき支持部13はいずれの方向にも回転することができず、固定された状態となる。
【0044】
出力シャフト15が逆方向の回転力を与えると、第2ストッパー29は支持部13から離脱し、それによって支持部13の矢印B方向の回転が可能となる。
支持部13が第2ストッパー29に加えた荷重は、第2大歯車23によって受けられる。また、第2大歯車23が当該荷重を受ける方向(図3(D)の矢印C)は、当該荷重を受ける位置と第2大歯車23の回転軸43とを結ぶ直線の方向と同一である。換言すると、荷重を加える位置から荷重を加える方向に向かった先に回転軸43が存在している。そのため、支持部13によって第2ストッパー29に荷重が加えられても、第2大歯車23を回転させるための力とならない。
【0045】
よって、第2大歯車23は、第2ストッパー29に加わる荷重によって回転することが抑制されるため、座体3に人が着座するなどして支持部13が矢印B方向へ回転する方向の大きな荷重が加わっても、第2ストッパー29が変位しにくくなっており、支持部13は起立した状態が維持される。
【0046】
なお第2ストッパー29の支持部13に当接する先端は球面状に形成されている。そのため、スムーズに図3(D)の位置に変位する。
(2)効果
本実施例の起倒装置11において、支持部13が第1ストッパー27と当接するときには第2ストッパー29が変位して当接し、支持部13の回転を抑制する。このような構成であれば、支持部13が起立した状態において支持部13のがたつきを低減するためには、支持部13と第1ストッパー27と間の隙間と、支持部13と第2ストッパー29との隙間と、の両方を小さくすればよい。
【0047】
従って、2つのストッパーの少なくとも一方の突出量を調整するだけで、支持部13が起立した状態のがたつきを抑制できる。
また、支持部13に固定されている第2ストッパー29にて支持部13の回転を抑制するため、複雑なリンク構造を用いて回転を抑制する構成と比較して構造を単純にすることができ、製造時の加工精度のばらつきに起因するがたつきが発生しにくくなる。また、部品点数を下げて製造コストを低減することもできる。
【0048】
また、本実施例の起倒装置11では、座体3に荷重が加わっても第2大歯車23が回転しにくい。よって、その回転を抑制するための何らかの機構を設けたり、出力シャフト15に回転力を与えるなどして第2大歯車23の回転を抑制したりすることが必須ではなくなる。
【0049】
また、本実施例の起倒装置11では、リンク部25の長穴47によって遊びが設けられ、支持部13は第2大歯車23の回転に伴わずに少しの範囲で回転可能となる。従って、第2ストッパー29がスムーズに適切な位置まで変位して支持部13と当接することができる。
【0050】
仮に上述した遊びがない場合、第2ストッパー29が適切な位置まで完全に変位する前に支持部13に接触してしまったときに、それにより支持部13が引っかかり第2ストッパー29のスムーズな変位が阻害されてしまう虞がある。しかしながら本実施例の構成では、支持部13と第2ストッパー29とが接触したとしても、遊びがあるため第2ストッパー29は支持部13を押しのけて変位でき、スムーズな変位を実現できる。
【0051】
また同様の理由により、支持部13が起立した位置から転倒した位置に移動するとき、即ち支持部13と第2ストッパー29との当接が解除される際にもスムーズな変位が実現できる。
【0052】
また、上述した遊びがなければ、製造時の加工精度を高めたり、引っかかりが生じにくいように設計する必要があるが、本実施例のように遊びを設けることで、そのような必要がなくなる。
【0053】
さらに、本実施例の起倒装置11は、コイルバネ31によって矢印A方向に付勢しているため、支持部13は第2ストッパー29と当接する前に第1ストッパー27に当接した状態となる。そのため、第2ストッパー29は予め所定の位置にある支持部に向けて変位すればよく、上述したように第2ストッパー29と支持部13とが接触してスムーズな変位を阻害されることがより確実に抑制できる。
【0054】
(3)対応関係
上記実施例において、第2大歯車23が本発明の回転体に対応し、コイルバネ31が本発明の付勢部材に対応する。
【0055】
[変形例]
以上、本発明の実施例について説明したが、本発明は、上記実施例に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の形態をとり得ることはいうまでもない。
【0056】
例えば、上記実施例においては、第2ストッパー29が第2大歯車23に固定される構成を例示したが、それ以外の構成であってもよい。例えば、図4(A)〜(D)に示すように、第2ストッパー61が、筐体51に取り付けられた保持部63に保持される構成が考えられる。第2ストッパー61は、その軸方向に変位可能に保持部63に保持されている。
【0057】
第2大歯車65には押出片67が設けられており、図4(A)〜(C)のように、押出片67が第2ストッパー61と接触するまでは第2ストッパー61は変位しないが、図4(D)に示すように、押出片67が第2ストッパー61と接触すると第2ストッパー61は押出片67に押されて支持部69側に変位する。支持部69には第2ストッパー61と当接する当接片71が設けられており、第2ストッパー61と当接片71とが当接することで、支持部69の矢印B方向への回転が抑制される。
【0058】
このように、第2ストッパーは第2大歯車に固定されていなくとも、上記実施例の起倒装置11と同様に支持部の回転を抑制することができる。
また、図5(A),(B)に示すように、第2大歯車75に突起77を設け、第2ストッパー79を、回転軸81を中心に回転する保持部83に固定し、突起77が保持部83を押すことで第2ストッパー79を変位させるように構成してもよい。
上記構成では、支持部13が第1ストッパー27と当接する位置にあるときには、第2大歯車75に設けられた突起77が受ける荷重の方向(図5(B)における矢印D)は、当該荷重を受ける位置と、第2大歯車75の回転軸43と、を結ぶ直線の方向と同一である。
そのため、支持部13によって第2ストッパー79に荷重が加えられても、第2大歯車75を回転させるための力とならないので、座体に人が着座するなどして支持部13が矢印B方向へ回転する方向の大きな荷重が加わっても、第2ストッパー79が変位しにくくなっており、支持部13は起立した状態が維持される。
【0059】
また、図5(C),(D)に示すように、第2大歯車87に設けられた第2ストッパー89には、先端に係合凸部91が設けられており、支持部93には、係合凸部91と係合する溝95が形成される構成であってもよい。
【0060】
なお、上記実施例および変形例では、第2ストッパーが第2大歯車によって変位する構成を例示したが、その他の部分、例えば第1大歯車19や出力シャフト15に連結されており、それらの動作によって変位する構成であってもよい。
【0061】
また、上記実施例においては、突起部45が長穴47に挿入されることにより第2大歯車23と支持部13との間に遊びが設けられる構成を例示したが、穴の形状は長穴以外であってもよい。穴の径が少なくとも一部において突起部45の径より大きい径であれば、遊びを設けることができる。
【0062】
また、リンク部25に突起部が設けられ、第2大歯車23に長穴などの穴が設けられる構成であってもよい。また、リンク部25と第2大歯車23との連結部(本発明における第1の連結部)に変えて、リンク部25と支持部13との連結部(本発明における第2の連結部)を、突起と長穴により連結させてもよいし、両方の連結部を突起と長穴により連結させてもよい。
【0063】
また、長穴を設けず、遊びを設けないように構成されていてもよい。
【符号の説明】
【0064】
1…椅子、3…座体、3a…回転軸、5a,5b…段床、7…背もたれ、9…ひじ掛け、11…起倒装置、13…支持部、15…出力シャフト、17…第1小歯車、19…第1大歯車、21…第2小歯車、23…第2大歯車、25…リンク部、27…第1ストッパー、29…第2ストッパー、31…コイルバネ、33…回転軸、41…回転軸、43…回転軸、45…突起部、47…長穴、49…回転軸、51…筐体、53…軸、55…軸、61…第2ストッパー、63…保持部、65…第2大歯車、67…押出片、69…支持部、71…当接片、75…第2大歯車、77…突起、79…第2ストッパー、81…回転軸、83…保持部、87…第2大歯車、89…第2ストッパー、91…係合凸部、93…支持部、95…溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転力を伝えるシャフトと連結し、当該シャフトの回転力によって人が着座可能な座体の位置を変位させる椅子の起倒装置であって、
水平方向に設けられた回転軸を中心に回転可能であって、前記回転軸から距離を有する位置にて前記座体を支持可能である支持部と、
前記支持部が前記回転軸を中心として第1の方向に回転して所定の位置となったときに前記支持部と当接し、前記第1の方向への前記支持部の回転を抑制する第1ストッパーと、
前記回転軸と略平行に設けられる回転軸を中心に回転可能であって、前記シャフトの回転力を受けて回転する回転体と、
前記支持部と前記回転体とを連結しており、前記回転体の回転に伴って前記支持部を回転させるリンク部と、
前記回転体の回転に応じて変位する第2ストッパーと、を備え、
前記第2ストッパーは、前記支持部が前記第1ストッパーと当接する位置にあるときには前記支持部と当接する位置に変位して、前記第1の方向とは異なる第2の方向への前記支持部の回転を抑制する
ことを特徴とする椅子の起倒装置。
【請求項2】
前記第2ストッパーは、前記回転体に固定されている
ことを特徴とする請求項1に記載の椅子の起倒装置。
【請求項3】
前記回転体は、前記支持部が前記第1ストッパーと当接する位置にあるときには、前記第2ストッパーに前記支持部から加えられる荷重を受けるように構成されており、
前記回転体において受ける前記荷重の方向は、前記回転体において前記荷重を受ける位置と、当該回転体の回転軸と、を結ぶ直線の方向と同一である
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の椅子の起倒装置。
【請求項4】
前記リンク部と前記回転体とを連結する第1の連結部と、前記リンク部と前記支持部とを連結する第2の連結部と、のうちの少なくともいずれか1つは、前記リンク部およびその連結相手側のいずれか一方に設けられる棒状の突起部が、他方に設けられて少なくとも一部が前記突起部よりも大きい径を有する穴に挿入されることによって連結している
ことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の椅子の起倒装置。
【請求項5】
少なくとも前記支持部が前記第1ストッパーに当接する位置の近傍において、前記支持部を前記第1の方向に回転するように付勢する付勢部材を備える
ことを特徴とする請求項4に記載の椅子の起倒装置。

【図6】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−254111(P2012−254111A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−127406(P2011−127406)
【出願日】平成23年6月7日(2011.6.7)
【出願人】(000116596)愛知株式会社 (37)
【Fターム(参考)】