説明

植物の栽培方法

【課題】植物を栽培する際、栽培用培地表面へのコケや藻、雑草等の発生・増殖を防止でき、かつ、病気や害虫の発生を防止でき、水および肥料が培地へ浸透され易く、しかも、植物が健全に生育できる、植物の栽培方法を提供する。
【解決手段】植物を、pH7から9の植物由来の炭化物で被覆した栽培用培地で栽培する。植物由来の炭化物として好ましくは、籾殻燻炭を用いる。これにより、栽培用培地表面へのコケや藻、雑草等の発生・増殖を防止し、病気や害虫の発生を防止し、健全な植物を栽培することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物の栽培方法に関するものであり、詳しくは、植物由来の炭化物を用いた植物の栽培方法に関する。
【背景技術】
【0002】
露地栽培、ハウス栽培を問わず、植物を栽培する際には、土壌表面にコケや藻、雑草等が発生・増殖することがある。土壌表面にコケや藻、雑草等が発生・増殖すると、植物に与えられるはずの水分や養分が奪われてしまい、植物の成育が妨げられるといった問題が生じる。そこで、ビニル製あるいは不織布製のシートや、木材チップ、籾殻などで土壌を被覆し、日差しを遮ることで、コケや藻、雑草等の発生・増殖を抑制することが行われている。また、除草剤を散布することによって、コケや藻、雑草等の発生・増殖を抑制することも行われている。
【0003】
土壌をビニル製や不織布製のシートで被覆する方法では、日差しを遮ることにより、雑草等の発生・増殖を抑制することができる(特許文献1参照)。しかし、シート上に肥料を散布することになるため、シート上にコケや藻が発生・増殖してしまう。また、シート上に水や肥料を散布することになるため、水や肥料が土壌に吸収されにくくなる。さらに、土壌がシートで覆われているため、土壌表面が乾きにくく、病気や虫害が発生し易い。
【0004】
土壌を籾殻で被覆する方法では、日差しを遮ることにより、コケや藻、雑草等の発生・増殖を抑えることができる(非特許文献1参照)。しかし、2〜3ヶ月程度の期間はコケ等の発生・増殖を防ぐことができるが、それ以上の期間植物を栽培する場合、籾殻自身が腐敗することによって、病気や害虫の発生が発生したり、コケや藻、雑草が発生・増殖したりする。また、籾殻が腐敗する過程で土壌中の窒素分を消費してしまうため、栽培する植物に必要な窒素分が不足し、結果的に肥料の散布量が増えることになる。このように、土壌を籾殻で被覆する方法は、栽培期間の長い植物の栽培には適していない。さらに、浸透性の低い籾殻の上に水や肥料を散布することになるため、籾殻が水や肥料を弾いてしまい、水や肥料が土壌に浸透しにくくなる。
【0005】
市販されている籾殻燻炭を土壌表面に被覆する方法では、日差しを遮ることにより、コケや藻、雑草等の発生・増殖を抑えることができる(非特許文献2参照)。しかし、通常市販されている籾殻燻炭は、pHが12程度と高く、栽培する植物の生育を著しく阻害する場合がある。
【0006】
このように、植物を栽培する際、土壌表面へのコケや藻、雑草等の発生・増殖を防止でき、かつ、病気や害虫の発生を防止でき、水および肥料が土壌に浸透し易く、植物が健全に生育できる技術は存在しなかった。以上の背景より、土壌表面へのコケや藻、雑草等の発生・増殖を防止できる植物の栽培方法が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000−050740
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】赤木歳通著、「月刊現代農業」農山漁村文化協会出版、2005年11月発行
【非特許文献2】古賀綱行著、「別冊現代農業」農山漁村文化協会出版、2004年7月発行
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、植物を栽培する際、栽培用培地表面へのコケや藻、雑草等の発生・増殖を防止でき、しかも、病気や害虫の発生を防止でき、水および肥料が培地へ浸透され易く、植物が健全に生育できる、植物の栽培方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは鋭意研究の結果、植物をpH7から9の植物由来の炭化物で被覆した栽培用培地で栽培することにより、栽培用培地表面へのコケや藻、雑草等の発生・増殖を防止できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、植物をpH7から9の植物由来の炭化物で被覆した栽培用培地で栽培することにより、栽培用培地表面へのコケや藻、雑草等の発生・増殖を防止できる。また、pH7から9の植物由来の炭化物は、浸透性や通気性が高いため、病気・害虫の発生を防止でき、水および肥料が栽培用培地へ浸透しやすく、健全な植物を栽培することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】チャの栽培期間とコケ・藻の抑制率の関係を示すグラフである。
【図2】チャの栽培期間と雑草の抑制率の関係を示すグラフである。
【図3】丸葉ユーカリの栽培期間とコケ・藻の抑制率の関係を示すグラフである。
【図4】丸葉ユーカリの栽培期間と雑草の抑制率の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明では、植物を、pH7から9の植物由来の炭化物で被覆した栽培用培地で栽培する。
【0014】
(対象植物)
本発明は、どのような植物に対しても適用することができる。草本植物よりも栽培期間の長い木本植物に適用されることが、本発明の効果を顕著に発揮できる点で好ましい。木本植物としては例えば、ユーカリ属(Eucalyptus)植物、マツ属(Pinus)植物、スギ属(Cryptomeria)属植物(スギ(Cryptomeria japonica)など)、サクラ属(Prunus)植物(サクラ(Prunus spp.)、ウメ(Prunus mume)、ユスラウメ(Prunus tomentosa)など)、アボカド属(Avocado)植物、マンゴー属(Mangifera)植物(マンゴー(Mangifera indica)など)、アカシア属(Acacia)植物、ヤマモモ属(Myrica)植物、クヌギ属(Quercus)植物(クヌギ(Quercus acutissima)など)、ブドウ(Vitis)属植物、リンゴ(Malus)属植物、バラ属(Rosa)植物、ツバキ属(Camellia)植物(チャ(Camellia sinensis)など)、ジャカランダ属(Jacaranda)植物(ジャカランダ(Jacaranda mimosifolia)など)、ワニナシ属(Persea)植物(アボカド(Persea americana)など)、が挙げられる。このうち、ユーカリ、マツ、スギ、サクラ、マンゴー、アボカド、アカシア、ヤマモモ、クヌギ、ブドウ、リンゴ、バラ、ツバキ、チャ、ウメ、ユスラウメ、ジャカランタ等に適用した場合に、より本発明の効果を発揮しうる。中でもユーカリ属植物、マツ属植物、スギ属植物、サクラ属植物、マンゴー属植物、ツバキ属植物が好ましく、特に、ユーカリ、マツ、スギ、サクラ、マンゴー、アボカド、チャ等に本発明を適用すれば、大きな効果が得られる。
【0015】
本発明の栽培方法は、上述の植物の種、種を育苗容器で培養することにより得られた苗、シュート、あるいは接ぎ木苗のいずれにおいても適用することができる。シュートとは、発根能を有する未発根の組織全般をいう。該組織としては、枝、茎、頂芽、腋芽、不定芽、葉、子葉、胚軸、不定胚、苗条原基等が例示される。シュートの由来は特に限定されず、温室や屋外に生育している植物個体から得られたものでもよいし、組織培養法により得られた培養組織であってもよいし、天然の植物体の一部の組織であってもよい。シュートは、挿し穂の母本植物や、多芽体から効率良く取得することができる。中でも、挿し穂(母本植物から得た挿し穂)、組織培養法により母本植物から採取した器官を無菌的に培養することで得た多芽体、もしくは前記器官を無菌的に育成して得た茎葉であることが好ましい。
【0016】
本発明においては、植物のシュートを栽培するにあたり、シュートとして組織培養法により得た多芽体を用いてもよい。多芽体は、本発明を適用してクローン苗を生産しようとする植物から、頂芽や腋芽等を切取って、これを組織培養して誘導することができる。多芽体を、母本植物から採取した器官を無菌的に培養して得る方法としては、例えば、前記の木本植物から、多芽体を形成させるには、特開平8−228621号公報に記載の方法、条件に従って行い得る。
【0017】
本発明においては上述したように、植物のシュートを栽培するにあたり、シュートとして挿し穂を用いてもよい。挿し穂としては、緑枝(当年枝)や熟枝(前年以前に伸びた枝)の他、芽や葉も用いることができる。木本植物の場合では緑枝や熟枝を挿し穂として用い、草本植物の場合では葉や芽を挿し穂として用いるのが普通である。
【0018】
(植物由来の炭化物)
本発明の植物由来の炭化物の原料としては、例えば、木、竹、草、農作物残渣などが挙げられる。農作物残渣の炭化物としては、例えば、穀類の殻皮やヤシ殻などの収穫残渣や、ヤシのような油糧植物の搾り粕などの炭化物が挙げられる。このうち、穀類の殻皮の炭化物が浸透性や通気性が高いため好ましく、籾殻の炭化物(籾殻燻炭)がより好ましい。
【0019】
本発明の植物由来の炭化物は、大きい場合は適当な粒径となるように粉砕して用いることができ、粒径を2〜15mm、好ましくは5〜8mmとすることにより、適度な浸透性と通気性となり得る。植物由来の炭化物として、籾殻の炭化物(籾殻燻炭)を用いる場合、炭化処理後の粒径が5〜8mm程度となるため、粉砕処理が不要となり得る。
【0020】
本発明の植物由来の炭化物のpHは7〜9であり、7.5〜8.5であることがより好ましい。pHが7未満、あるいは9より大きいと、植物の生育が阻害される傾向がある。
【0021】
本発明の植物由来の炭化物の炭化度は、植物由来の炭化物の全質量に対して60質量%以上であることが好ましく、80質量%であることがより好ましい。炭化度が60質量%未満であると、コケや藻、雑草等の発生・増殖を抑えられる期間が短くなる傾向がある。炭化度は、従来公知の方法で測定することができるが、例えば、電気抵抗値を測定することにより算出することができる。
【0022】
本発明の植物由来の炭化物を製造する方法は、特に限定されないが、例えば、原料となる植物を乾燥させ、炭化処理すれば良い。炭化処理は、内燃式と外燃式に大別され、内燃式は炉内で原料の一部を燃焼し、その熱によって炭化温度を維持するものである。外燃式は炉の外側を灯油バーナなどで加熱することによって炭化温度を維持するものである。炭化処理に使用する炭化炉は、従来公知のもので良い。炭化炉は回分式と連続式に大別され、回分式には簡易式や平炉式等の開放型、炭窯式やトロリー式、攪拌式等の密閉式、連続式にはロータリー式や反復揺動式等の回転式、流動床式や多段攪拌式等のものが挙げられる。
【0023】
炭化処理条件は、原料となる植物の種類によって異なるため、特に限定されない。籾殻の場合、一般に400〜600℃で、1〜2時間、炭化処理することにより炭化物を得ることができる。植物の炭化物のpHは、炭化処理の時間を調整することによって調整し得る。市販されているpH12程度の植物の炭化物と比較して、pH6〜8の植物の炭化物は、炭化処理時間を80%程度とすることで製造し得る。また、本発明の植物由来の炭化物は、原料である植物の形状を80%以上保っていると、浸透性や通気性が良好であり、植物を健全に生育させることができるため好ましい。
【0024】
(植物の栽培)
本発明では、pH7〜9の植物由来の炭化物で被覆した栽培用培地で植物を栽培する。栽培用培地を植物由来の炭化物で被覆する方法としては、栽培用培地上に上述の方法により得られた植物の炭化物を散布することにより、栽培用培地表面を完全に覆うことができれば特に限定されないが、通常は栽培用培地上に植物の炭化物を厚さ0.5〜1.5cm程度となるように散布することにより行うことができる。これにより、栽培用培地表面へのコケや藻、雑草等の発生・増殖を効率的に抑制でき、かつ、病気・害虫の発生を抑制することができる。
【0025】
本発明において、植物としてシュートを用いる場合、pH7〜9の植物由来の炭化物で被覆した栽培用培地または培地で植物を栽培することにより、シュートからの発根を行うこともできる。
【0026】
(栽培用培地)
本発明の栽培用培地とは、後述の支持体に、水あるいは液体培地を保持させたものをいう。
【0027】
本発明で用いる液体培地は、無機成分、炭素源、ビタミン類、アミノ酸類及び植物ホルモン類等を含み得る。
【0028】
無機成分としては、窒素、リン、カリウム、硫黄、カルシウム、マグネシウム、鉄、マンガン、亜鉛、ホウ素、モリブデン、塩素、ヨウ素、コバルト等の元素や、これらを含む無機塩が例示される。該無機塩としては例えば、硝酸カリウム、硝酸アンモニウム、塩化アンモニウム、硝酸ナトリウム、リン酸1水素カリウム、リン酸2水素ナトリウム、塩化カリウム、硫酸マグネシウム、硫酸第1鉄、硫酸第2鉄、硫酸マンガン、硫酸亜鉛、硫酸銅、硫酸ナトリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、ホウ酸、三酸化モリブデン、モリブデン酸ナトリウム、ヨウ化カリウム、塩化コバルト等やこれらの水和物が挙げられる。無機成分として、上記具体例の中から1種を選択して、或いは2種以上を組み合わせて用いうる。本発明で用いられる液体培地においては、窒素、リン、カリウムが必須元素として含まれることが好ましい。よって、これら無機成分の具体例のうち、窒素、リン、カリウム、窒素を含む無機塩、リンを含む無機塩、及びカリウムを含む無機塩が好ましく、窒素、リン、カリウム、窒素を含む無機塩がより好ましい。無機成分は、液体培地中の濃度が、1種の場合は約1μM〜約100mMとなるように添加することが好ましく、約0.1μM〜約100mMとなるように添加することがより好ましい。2種以上の組み合わせの場合はそれぞれ約0.1μM〜約100mMとなるよう添加することが好ましく、約1μM〜約100mMとなるように添加することがより好ましい。
【0029】
炭素源としては、ショ糖等の炭水化物とその誘導体;脂肪酸等の有機酸;エタノール等の1級アルコール、などの化合物を使用することができる。炭素源として、上記具体例の中から1種を選択して、或いは2種以上を組み合わせて用いうる。炭素源は、液体培地中に約1g/l〜約100g/lとなるよう添加することが好ましく、約10g/l〜約100g/lとなるように添加することがより好ましい。しかし、栽培を炭酸ガスを供給しながら行う場合には、培地は炭素源を含む必要は無く、含まないことが好ましい。ショ糖等の炭素源となりうる有機化合物は微生物の炭素源ともなるので、これらを添加した培地を用いる場合には、無菌環境下で栽培を行う必要があるが、炭素源を含まない培地を用いることにより、非無菌環境下での栽培が可能となる。
【0030】
ビタミン類としては、例えば、ビオチン、チアミン(ビタミンB1)、ピリドキシン(ビタミンB4)、ピリドキサール、ピリドキサミン、パントテン酸カルシウム、イノシトール、ニコチン酸、ニコチン酸アミド及び/又はリボフラビン(ビタミンB2)等を使用することができる。ビタミン類として、上記具体例の中から1種を選択して、或いは2種以上を組み合わせて用いうる。ビタミン類は、液体培地中の濃度が、1種の場合は液体培地中に約0.01mg/l〜約200mg/lとなるように添加することが好ましく、約0.02mg/l〜約100mg/lとなるように添加することがより好ましい。2種以上の組み合わせの場合はそれぞれ、液体培地中に約0.01mg/l〜約150mg/lとなるよう添加することが好ましく、約0.02mg/l〜約100mg/lとなるように添加することがより好ましい。
【0031】
アミノ酸類としては、例えば、グリシン、アラニン、グルタミン酸、システイン、フェニルアラニン及び/又はリジン等を使用することができる。アミノ酸類として、上記具体例の中から1種を選択して、或いは2種以上を組み合わせて用いうる。アミノ酸類は、液体培地中の濃度が、1種の場合は液体培地中に約0.1mg/l〜約1000mg/lとなるように添加することが好ましく、2種以上の組み合わせの場合は、それぞれ液体培地中に約0.2mg/l〜約1000mg/lとなるよう添加することが好ましい。
【0032】
また、植物ホルモン類としては、例えば、オーキシン類及び/又はサイトカイニン類を使用することができる。オーキシン類としては、ナフタレン酢酸(NAA)、インドール酢酸(IAA)、p−クロロフェノキシ酢酸、2,4−ジクロロフェノキシ酢酸(2,4D)、インドール酪酸(IBA)及びこれらの誘導体等が例示され、これらから選択される1種以上又は2種以上を組み合わせて用い得る。また、サイトカイニン類としてはベンジルアデニン(BA)、カイネチン、ゼアチン及びこれらの誘導体等が例示され、これらから選択される1種以上又は2種以上を組み合わせて用い得る。植物ホルモン類としては、オーキシン類のみ、サイトカイニン類のみ、或いはオーキシン類とサイトカイニン類の両方を組み合わせて用いうる。植物ホルモン類は、1種を用いる場合には液体培地中に約0.01mg/l〜約10mg/lとなるように添加することが好ましく、約0.02mg/l〜約10mg/lとなるように添加することがより好ましい。2種以上の場合にはそれぞれ、液体培地中に約0.01mg/l〜約10mg/lとなるよう添加することが好ましく、約0.02mg/l〜約10mg/lとなるように添加することがより好ましい。
【0033】
なお、本発明においては、植物組織培養用培地として公知の培地に、必要に応じて炭素源、植物ホルモン類を適宜添加等して、液体培地として用いてもよい。かかる植物組織培養用培地としては、例えば、MS(ムラシゲ−スクーグ)培地、リンスマイヤースクーグ培地、ホワイト培地、ガンボーグのB−5培地、ニッチニッチ培地等を挙げることができる。中でも、MS培地及びガンボーグのB−5培地が好ましい。これらの培地は、必要に応じて適宜希釈等して用いることができる。
【0034】
本発明において支持体とは、栽培する植物を支持するためのものをいう。支持体は、栽培の期間中、シュートを支持した状態で保持できるものが好ましい。支持体としては、従来慣用の支持体を用いることができ、特に限定されない。支持体としては例えば、砂、赤玉土等の自然土壌;籾殻燻炭、ココナッツ繊維、バーミキュライト、パーライト、ピートモス、ガラスビーズ等の人工土壌;発泡フェノール樹脂、ロックウール等の多孔性成形品などを挙げることができる。かかる支持体にそのまま水あるいは液体培地を散布する、あるいは、支持体に育苗容器内に入れ水あるいは液体培地を保持させることにより、栽培用培地が調製され得る。
【0035】
(育苗容器)
本発明においては、栽培用培地を納めるための育苗容器を用いることもできる。育苗容器としては、従来慣用の容器を用いることができ、特に限定されない。例えば、育苗ポット、プラグトレーなどが例示される。育苗容器は密閉型でもよいし開放型のいずれをも用いることができる。育苗容器として密閉型のものを用いる場合は、容器内への炭酸ガス供給が可能な容器であることがより好ましい。このような育苗容器としては、二酸化炭素透過性の膜で蔽われた開口部を有する容器が例示される。このような容器を用いることにより、培養環境の湿度をも容易に調整しうる。開口部の形状は特に問わない。二酸化炭素透過性の膜の材料は特に限定されず、ポリテトラフルオロエチレンなどが例示される。また、膜の孔径も特に限定されず、約0.1μm〜約1μmのものなどが例示される。
【0036】
(栽培条件)
植物を栽培する際の栽培条件としては、用いる植物の種類に適するように適宜設定すればよく、植物の種類や苗、シュート等の状態、栽培用培地の種類などにより一概に規定することは難しいが、例えば、温度は、約20℃〜約30℃であることがより好ましい。光強度は、光合成有効光量子束密度として表され、約10μmol/m2/s〜約1000μmol/m2/sであることが好ましく、約50μmol/m2/s〜約500μmol/m2/sであることがより好ましい。植物のシュートを用いる場合には、通常は約2週間〜約5週間で、シュートからの発根が観察されるようになる。以上のようにして、植物の苗や収穫物を得ることができる。
【0037】
[作用]
本発明では、植物をpH7から9の植物由来の炭化物で被覆した栽培用培地で栽培することにより、栽培用培地表面へのコケや藻、雑草等の発生・増殖を防止できる。その理由は、以下のように推察される。
【0038】
栽培用培地をpH7から9の植物由来の炭化物で被覆することで、日差しを遮ることができ、栽培用培地表面へのコケや藻、雑草等の発生・増殖を防止することができる。そして、植物由来の炭化物のpHが7から9の中性付近であるため、植物の生育を阻害することがない。
【0039】
また、本発明のpH7から9の植物由来の炭化物は、浸透性が高いため、潅水や施肥時に、水や肥料が植物由来の炭化物下の栽培用培地に効率的に浸透することができる。さらに、本発明のpH7から9の植物由来の炭化物は、通気性が高いため、栽培用培地表面が適度な乾燥度合いとなり、コケや藻、雑草等の発生・増殖を抑制し、かつ、病気や害虫の発生を抑制することができ、さらに植物由来の炭化物自体が腐敗することはないため、植物の生育を阻害することがない。したがって、本発明によれば、健全な植物を栽培することが可能となると推察される。
【実施例】
【0040】
次に実施例に基づき、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0041】
[実施例1]
チャ(Camellia sinensis)の当年生枝から、5〜20cmの長さ、節が1〜3節、葉が2〜6枚程度に伸長した穂木を切り出し、葉の先端側約半分を切除し、挿し穂を調整した。
【0042】
次に、調整した挿し穂54個体を、栽培用培地に隣り合った挿し穂の葉と葉が重なり合わないように挿し付けた。栽培用培地としては、支持体(バーミキュライトとピートモスの等量混合したもの)に、液体培地(発根促進剤として10mg/l IBAを添加した、5倍希釈ガンボーグB5培地混合無機塩溶液)を保持させたものを用いた。なお、支持体は、プラグトレー((株)東海化成社製 商品名 RL−50PT、上径は縦5cm×横5.2cm、下径は縦2cm×横2.4cm、深さ7.8cm、セル数54)に充填した。
【0043】
栽培用培地表面に、下記の方法で製造した籾殻燻炭(pH:8、炭化度:80%)を厚さ1cmになるように被覆した。
【0044】
<籾殻燻炭の製造>
籾殻200Lを簡易式の炭化炉に投入し、約400〜600℃で、2時間炭化処理を行うことにより製造した。
【0045】
温湿度の制御が可能な温室内で、温度が25〜35℃、湿度が65%以上の環境下で、2ヶ月間栽培し、挿し穂からの発根を促した。その後、温湿度の制御をしていないビニル温室へ移動し、栽培を行った。温湿度制御が可能な温室内で栽培を開始した時点から、36週間栽培を行った。4週毎に栽培用培地表面のコケや藻の抑制率、雑草の抑制率を測定し、また、36週間後の植物の生存率、発根率、得苗率、苗高を評価した。図1にコケ・藻の抑制率、図2に雑草の抑制率、表1に生存率、発根率、得苗率、苗高を示した。
【0046】
<コケ・藻の抑制率(%)>
プラグトレー内の栽培用培地表面に占めるコケ及び藻の面積をプラグトレー内の栽培用培地表面上のコケ及び藻の繁茂面積を目視により計測し、以下の式により算出した。
コケ及び藻の全繁茂面積/栽培用培地表面の全面積×100(%)
<雑草の抑制率(%)>
1個体以上の雑草が繁殖しているセルの数/全セル数×100(%)
<植物の生存率(%)>
栽培終了後に生存する個体数/全個体数×100(%)
<植物の生存率(%)>
栽培終了までに発根した個体数/全個体数×100(%)
<得苗率(%)>
栽培終了後の地上部の植物の高さが9cm以上の個体数/全個体数×100(%)
<植物の苗高(cm)>
植物の地上部の長さを計測し、平均の苗高を算出した。
【0047】
[比較例1]
籾殻燻炭(pH:8、炭化度:80%)の代わりに、籾殻を用いた以外は、実施例1と同様にして植物を栽培した。
【0048】
[比較例2]
籾殻燻炭(pH:8、炭化度:80%)の代わりに、市販の籾殻燻炭(シララ社製、商品名:くん炭、pH:12、炭化度:100%)を用いた以外は、実施例1と同様にして植物を栽培した。
【0049】
[比較例3]
籾殻燻炭(pH:8、炭化度:80%)の代わりに、不織布(ダイヤテック社製、商品名:ふわふわ ブラック)をプラグトレー上面全体に被覆し、挿し穂の挿し付け部に穴を開けた以外は、実施例1と同様にして植物を栽培した。
【0050】
[比較例4]
籾殻燻炭(pH:8、炭化度:80%)で栽培用培地を被覆しなかった以外は、実施例1と同様にして植物を栽培した。
【0051】
【表1】

【0052】
[実施例2]
栽培する植物として、丸葉ユーカリ(Eucalyptus pulverulenta)の発根苗を用い、支持体として、赤玉土、鹿沼土、バーミキュライト、ピートモスを等量混合したものを用い、温湿度の制御をしていないビニル温室内で28週間育苗を続けた以外は、実施例1と同様にして植物を栽培した。図3にコケ・藻の抑制率、図4に雑草の抑制率、表2に生存率、発根率、得苗率、苗高を示した。
【0053】
丸葉ユーカリ(Eucalyptus pulverulenta)の発根苗は、以下のようにして得た。丸葉ユーカリから得た組織を、固体培地(ゲランガム 2.5g/L、シュークロース 20g/l 、BAP 0.05mg/lを含むムラシゲ−スクーグ無機塩(MS無機塩)培地)で継代培養を繰り返し、得られた外植体から2〜5cmに伸長した茎葉(シュート)を切り取り、シュートを調整した。得られたシュートの基部を、2mg/l IBAを含むMS無機塩溶液を含浸させた発泡フェノール樹脂製多孔性支持体(スミザースオアシス社製、商品名:オアシス)に挿し付け、温度25℃、炭酸ガス濃度1000ppm、光合成有効光子束密度51.3μmol/m/Sの赤色光照射下で、1ヶ月培養を行い、発根苗を得た。
【0054】
[比較例5]
籾殻燻炭(pH:8、炭化度:80%)の代わりに、籾殻を用いた以外は、実施例2と同様にして植物を栽培した。
【0055】
[比較例6]
籾殻燻炭(pH:8、炭化度:80%)の代わりに、市販の籾殻燻炭(シララ社製、商品名:くん炭、pH:12、炭化度:100%)を用いた以外は、実施例2と同様にして植物を栽培した。
【0056】
[比較例7]
籾殻燻炭(pH:8、炭化度:80%)で培地を被覆しなかった以外は、実施例2と同様にして植物を栽培した。
【0057】
【表2】

【0058】
[実施例3〜7]
栽培する植物として、サクラ(実施例3)、アボカド(実施例4)、マツ(実施例5)、スギ(実施例6)の発根苗、およびマンゴーの接ぎ木苗(実施例7)を用い、支持体として、赤玉土、鹿沼土、バーミキュライト、ピートモスを等量混合したものを用い、育苗容器として植木鉢(直径55cm、高さ50cm)を用い、温湿度の制御をしていないビニル温室内で20週間育苗を続けた以外は、実施例1と同様にして植物を栽培した。20週後のコケ・藻の抑制率を表3に示す。
【0059】
サクラ、アボカド、マツ、スギの発根苗は、サクラ、アボカド、マツ、スギの当年生枝から挿し穂を採取し、2mg/l IBAを含むMS無機塩溶液を保持させた発泡フェノール樹脂製多孔性支持体(スミザースオアシス社製、商品名:オアシス)、2mg/l IBAを含むMS無機塩溶液を含浸させた発泡フェノール樹脂製多孔性支持体(スミザースオアシス社製、商品名:オアシス)に挿し付け、温度25℃、炭酸ガス濃度1000ppm、光合成有効光子束密度51.3μmol/m/Sの赤色光照射下で、1〜2ヶ月培養を行うことにより得た。また、マンゴーの接ぎ木苗は、台木(台湾産マンゴー種子を、バーミキュライトとピートモスの等量混合用土の入った4号プラスチックポット内で3ヶ月生育させたもの)にアーウィン種の枝を接ぎ、温湿度の制御をしていないビニル温室内で4週間養生することにより得た。
【0060】
[比較例8、11、14、17]
籾殻燻炭(pH:8、炭化度:80%)の代わりに、籾殻を用いた以外は、実施例3〜7と同様にして植物を栽培した。
【0061】
[比較例9、12、15、18]
籾殻燻炭(pH:8、炭化度:80%)の代わりに、市販の籾殻燻炭(シララ社製、商品名:くん炭、pH:12、炭化度:100%)を用いた以外は、実施例3〜7と同様にして植物を栽培した。
【0062】
[比較例10、13、16、19]
籾殻燻炭(pH:8、炭化度:80%)で栽培用培地を被覆しなかった以外は、実施例3〜7と同様にして植物を栽培した。
【0063】
【表3】

【0064】
以上の結果から、pH7〜9の籾殻燻炭で被覆した栽培用培地で栽培した場合、コケ・藻、雑草の抑制率が高いことから、コケ・藻、雑草の発生・増殖を効果的に長期間に渡って抑制することができることがわかる。また、生存率、発根率、得苗率はいずれも高いことから、植物の苗を効率良く取得することができる。また、本発明の方法で栽培した植物は、苗高が大きくて成育が良く、苗高だけでなく葉の広がり、色、ツヤが良好であったため、健全な植物の苗や収穫物を効率良く取得することができることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物を、pH7から9の植物由来の炭化物で被覆した栽培用培地で栽培する、植物の栽培方法。
【請求項2】
前記植物由来の炭化物の炭化度が、60%以上である、請求項1に記載の植物の栽培方法。
【請求項3】
前記植物由来の炭化物が、籾殻燻炭である、請求項1または2のいずれかに記載の植物の栽培方法。
【請求項4】
前記植物の栽培を、育苗容器を用いて行う、請求項1から3のいずれかに記載の植物の栽培方法。
【請求項5】
植物のシュートを、pH7から9の植物由来の炭化物で被覆した培地で栽培し、前記植物のシュートから発根させる、請求項1から4のいずれかに記載の植物の栽培方法。
【請求項6】
前記植物のシュートが挿し穂である、請求項5に記載の植物の栽培方法。
【請求項7】
炭化度が60質量%以上であり、かつ、pH7から9の植物由来の炭化物で被覆した、栽培用培地。
【請求項8】
植物由来の炭化物が、籾殻燻炭である、請求項7に記載の栽培用培地。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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