説明

植物体の保存処理剤

【課題】植物体の天然の良さを維持しつつ、長期間の保存を可能にする植物体の保存処理剤及びその処理方法の提供を目的とする。
【解決手段】微粉末ポリマーを有機溶媒に溶解又は分散させた樹脂含有溶液と媒染剤とを混合したことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は生花、観葉植物、あるいはそれらを乾燥させたドライフラワーの長期保存に適した植物体の保存処理剤及びそれを用いた植物体の保存処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
これまで生花、観葉植物等の植物体を観賞用、装飾用に保存する方法として、フリーズドライ技術、シリガゲル等による乾燥技術等を用いたドライフラワー化する方法が公知である。
しかし、ドライフラワーは強制乾燥時に変色したり、あるいは残留水分により部分的に枯れたり、しおれたりする不具合もあった。
また、ドライフラワーの変色を防止するために植物体の表面に樹脂をコーティングすることも行われているが、樹脂コーティングでは植物体の自然らしさが失われてしまう問題があった。
【0003】
近年、プリザーブドフラワー技術による植物体の保存方法が開発されている。
プリザーブドフラワーは切花をメタノール、エタノール等の低級アルコールを用いて脱水、脱色し、続けてポリエチレングリコール、高級エーテル等の不揮発性で比較的安全性の高い溶液を用いて植物体中の水分と置換し、さらに続けて染料を着色及び乾燥させる物である。
しかし、従来のプリザーブドフラワー技術では、未だ湿気にも弱く退色したり変色したりする場合もあった。
【0004】
特許文献1には、植物体を乾燥し、次に脂肪酸エステル、パラフィンワックス等の溶液に浸漬することで表面にそれらを吸着させ、さらに疎水性樹脂を表面コートする技術を開示する。
また、同公報には脂肪酸エステル等に有機溶剤を混合し、染料や顔料を加える方法についても開示する。
しかし、同技術は疎水性樹脂の植物体への浸透性が不充分であり、染料や顔料の色安定性に問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−231515号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、植物体の天然の良さを維持しつつ、長期間の保存を可能にする植物体の保存処理剤及びその処理方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る植物体の保存処理剤は、微粉末ポリマーを有機溶媒に溶解又は分散させた樹脂含有溶液と媒染剤とを混合したことを特徴とする。
生の植物体に含有する色素は媒染剤によりそのまま安定化させてもよいが、乾燥させた植物体等を対象にする場合には新たな染料で染色し、媒染剤にて色素の安定化を図ってもよい。
【0008】
本発明に係る保存処理剤は、微粉末ポリマーを有機溶媒に溶解又は分散させた樹脂含有溶液と、媒染剤又は/及び染料とをそれぞれ個別容器に充填したキットとして販売し、それぞれの液を個別に使用しても混合して使用してもよい。
【0009】
上記のような保存処理剤をそのまま用いて植物体を浸漬処理してもよいが、生又は乾燥させた植物体を、微粉末ポリマーを有機溶媒に溶解又は分散させた樹脂含有溶液に浸漬するステップと、次に媒染するステップ又は染色するステップに分けて処理してもよい。
【0010】
次に本発明に至った経緯を説明する。
特許文献1に記載のように、疎水性樹脂を植物体の表面にコートするだけでは植物体の内部が安定せず表面の強度が向上しても内部が変形し、立体感が失われたり変質する問題があった。
そこで、本発明者は誠意研究した結果、微粉末状のポリマーを原材料に用いることで上記課題を解決できた。
即ち、微粉末状のポリマーを有機溶媒に溶解又は分散させることで、植物体の内部組織中の水がこの有機溶媒に置換されるだけでなく、植物体の組織構造を維持したまま樹脂分が組織内に浸透固化させることができたものである。
従って、本発明における微粉末ポリマーとは植物体の内部組織に浸透することができる大きさをいい、500nm以下のナノサイズレベルの平均粒径をいう。
これらの微粉末ポリマーはナノポリマーとして市販されているものを使用できる。
【0011】
本発明に用いる微粉末ポリマーの種類としては、溶解できる有機溶剤の種類との関係も考慮して選定されるが、アクリル、ポリスチレン、酢酸ビニル等が例として挙げられる。
これらのポリマーはベンゼン、キシレン、トルエン等の芳香族系有機溶媒の他にアセトンや酢酸エチル等の極性溶媒又はさらにこれら極性溶媒とアルコール類の混合溶媒にも溶解する。
従って、媒染剤を上記樹脂含有溶液に混合する場合にはアルコールを加えた混合溶媒を用いるのが好ましい。
【0012】
本発明において、さらに特徴的なのは媒染剤を用いて植物体の色素の安定化、あるいは染料の安定化を図った点にある。
媒染剤は草木染めにおいて、従来から広く用いられてきた物を本発明に適用することができる。
植物の色素には、大きくフラボノイド、ベタレイン、カロチノイド、クロロフィルの4つが知られていて、フラボノイドはアントシアニン、フラボン、フラボノール、カルコン、オーロン等の色素の総称である。
これらの色素を固着安定化させるのに金属イオンを含有する溶液が用いられる。
媒染剤の代表例にはみょうばん(硫酸アルミニウムカリウム)、酢酸アルミニウム、木酢酸鉄、酢酸銅、あるいはこれらの金属の硫酸塩、塩酸塩等が例として挙げられ、pH調整しながら使用される。
【発明の効果】
【0013】
本発明にあっては、植物体の組織中に微粉末ポリマーの樹脂分を浸透させたので、花、葉等の植物体の組織構造をそのまま立体的に維持させつつ、樹脂成分にて固化できるので植物体の天然の形態、感触をそのまま維持した新鮮な外観のまま長期に保存することができる。
また、媒染剤を組合せることで生の植物体のものはそのまま色素の安定化を図ることができ、ドライフラワーにしたものや脱色した乾燥済みの植物体に合っては染料の固着、安定化を図ることができ、植物体を天然色のまま、あるいは染料で染めた新たな色合いをそのまま残しながら保存することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の実施例について以下説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【実施例1】
【0015】
平均粒子径300nm以下のアクリルポリマーをトルエン及びMEK(メチルエチルケトン)の1:1混合溶媒に溶解した樹脂含有溶液にシリカゲルにて乾燥させた赤色のバラの花及び黄色のバラの花を約5秒間浸漬及び乾燥し、次にイソプロピルアルコールとメチルアルコールの1:1混合溶媒に溶解した媒染液に約5分浸漬し、その後に乾燥させた。
花の表面は浸漬処理前と同様の外観、感触であり、6ヶ月間空気中に放置したが変色は認められなかった。
【実施例2】
【0016】
先の微粉末アクリルポリマーをキシレンに溶解した樹脂含有溶液90mlに対してポリスチレンをメチルエチルケトン(MEK)に溶解した溶液を10mlの割合で混合した処理剤に脱色白色したバラの花を浸漬した結果、花の表面がやや固くなった感触の花が得られ、6ヶ月間空気中放置で変色が無かった。
また、樹脂で固定した白色のバラをメチルアルコールとイソプロピルアルコールの混合溶媒に溶解した青色染料に浸漬し、青色に染めた。
この場合も6ヶ月間放置で変色はなかった。
【実施例3】
【0017】
観葉植物アイビーは葉の厚みが厚いことから、生の葉を先に用いた微粉末状のアクリルポリマーを溶解したキシレン溶液に酢酸ビニルを質量でアクリルに対して約10%加え、この樹脂含有溶液に浸漬することで固定し、表面がサラサラするまで乾燥させた。
次に、イソプロピルアルコールとメチルアルコールの1:1に混合溶媒に酢酸銅を溶解した媒染剤に60分間浸漬し、乾燥させた。
これによりグリーン色が安定化された。
【実施例4】
【0018】
実施例1にて用いた樹脂含有溶液にメチルアルコールに溶解した酢酸銅からなる媒染剤を90ml:10mlの割合で混合し、処理液に観葉植物アイビーを約2〜3秒間浸漬し、その後に乾燥させた。
乾燥はドライヤーで溶剤を揮発させた後に常温乾燥してもよく、または溶剤をドライヤーで揮発させた後にシリカゲルにて乾燥させてもよい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微粉末ポリマーを有機溶媒に溶解又は分散させた樹脂含有溶液と媒染剤とを混合したことを特徴とする植物体の保存処理剤。
【請求項2】
さらに染料を混合したことを特徴とする請求項1記載の植物体の保存処理剤。
【請求項3】
微粉末ポリマーを有機溶媒に溶解又は分散させた樹脂含有溶液と、媒染剤又は/及び染料とをそれぞれ個別容器に充填したキットであることを特徴とする植物体の保存処理剤。
【請求項4】
生又は乾燥させた植物体を、微粉末ポリマーを有機溶媒に溶解又は分散させた樹脂含有溶液に浸漬するステップと、
次に媒染するステップを有することを特徴とする植物体の保存処理方法。
【請求項5】
生又は乾燥させた植物体を、微粉末ポリマーを有機溶媒に溶解又は分散させた樹脂含有溶液に浸漬するステップと、
次に染色するステップを有することを特徴とする植物体の保存処理方法。
【請求項6】
請求項1又は2記載の保存処理剤に浸漬し、その後に乾燥させることを特徴とする植物体の保存処理方法。