説明

植物培養装置及びこれに用いる培養容器

【課題】本来期待される微少重力状態に近い浮遊・自由落下ないし回転運動によるランダムな動きを実現し、植物細胞に対して重力方向の認識を撹乱させ、苗条原基の再分化を促進して効率よく多くの苗条原基を作製することができる植物培養装置を提供せんとする。
【解決手段】複数の培養容器2を軸中心に回転させる回転手段3と、培養容器2を所定の角度範囲で上下に傾動させる傾動手段4とを備え、各培養容器2は有底の管体よりなり、周壁内面から内側に向けて突出し且つ底部まで延びる突条部が複数設けられている。回転手段3と傾動手段4により培養容器2に対して回転及び傾きを与えることにより、植物細胞における重力方向の認識が撹乱され、成長点細胞が多方向に再分化して効率よく苗条原基を作製することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、培養容器内で植物の茎頂よりなる植物細胞を培養し、苗条原基と呼ばれる分裂組織の小集塊を作出するのに最適な植物培養装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ドーム状の茎頂の植物細胞を約1mm長で切り取って特定の培地溶液中で可視光線下、培養して苗条原基を得、その成長点から植物を再生する苗条原基法が知られており、この培養で得られる苗条原基は遺伝的に安定で大量増殖能を有していることから、林業や農業等の各分野で種々の植物の再生に利用されている(特許文献1参照)。この種の培養装置としては、従来、棚型(静止型)、振動型及び回転型の装置が知られている。棚型の装置は、棚に培養容器を静止状態で置いて培養するものであり、振動型の装置は、上部の載置皿に三角フラスコよりなる培養容器を置き、該載置皿を左右方向或いは八の字方向に振動させる振動モータを備え、培養容器を振動させることにより内部の培養液により多くの酸素を取り入れ、植物細胞の成長点の分化を促進するものである。しかしながら、棚型、振動型の装置では得られる苗条原基の再分化率にはばらつきが多く、商業ベースで安定的に大量且つ格安に作ることには限界がある。
【0003】
一方、回転型の培養装置は、光透過性のあるアクリル製の回転円板を軸が略水平ないし15度上方を向くように縦方向に設置し、該円板上に複数の取付孔を設け、各取付孔に円筒形状の試験管よりなる培養管を挿着して回転円板を回転させることにより、培養管内の植物細胞の重力方向を撹乱させ(重力刺激を受けない状態にさせる)、成長点の分化に関して本来、重力方向と逆向きに出るシュートを複数方向に分化させるためのものである。しかしながら、このような回転型の装置は、円板の取付孔にほぼ横倒しの状態に挿着され回転円板と一体的に360度ゆっくりと回転するが、培養管が断面円形の試験管であって、しかも内部の培養液がほぼ比重1で粘性の低いものであることから、培養管が回転しても内部の植物細胞は円形曲面状の管内面を回転方向に少し移動した後、重力で元の底部にスライド移動して戻り、その間に浮遊や回転などの運動は僅かであり、ほぼ培養容器の真下の位置に着地する姿勢に多様性が少なく安定的に留まっているのが現状であり、よって培養には時間を多く必要とする。
【0004】
したがって、回転型の培養装置においても、得られる苗条原基の数は1ヶ月で平均で5〜10個と工業規模の培養としては十分でなく、また、1つの培養管に入れる植物細胞は通常1個であることから、苗条原基を大量に得るためには培養管を多数設置できる大型の円板が必要であり、これを回転させる駆動モータの負荷が大きくなるとともに、多数の培養管を円板に設置する作業も煩雑となり、さらに培養装置自体の重力バランスがとり難くなり安定性・強度の点でも様々な問題が生じる。このため、現実的には設置できる培養管は最大でも200本程度が限界であり、1度の培養で得られる苗条原基の数も1ヶ月で最大2000個程度が限界であった。
【0005】
また、同じように植物細胞の重力方向を撹乱させる培養装置として、2軸以上で回転させる培養装置も提案されているが(例えば、特許文献2、3参照。)、複雑な構造となりコストアップが避けられない。また、実際の植物細胞の形状は真球ではなく、例えば16角錐や18角錐のような複雑形状であり、培養容器の底部で安定姿勢になる傾向にあり、その着地姿勢に多様性を与えることは難しかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9−308401号公報
【特許文献2】特公平7−89798号公報
【特許文献3】特開2003−9852号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明が前述の状況に鑑み、解決しようとするところは、本来期待される微少重力状態に近い浮遊・自由落下ないし回転運動によるランダムな動きを実現し、植物細胞に対して重力方向の認識を撹乱させ、成長点の再分化率を向上させて効率よく多くの苗条原基を作製することができる植物培養装置を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、前述の課題解決のために、有底の管体よりなり、周壁内面から内側に向けて突出し且つ底部まで延びる突条部を、周方向に沿って単又は複数設けてなる培養容器と、前記培養容器を軸中心に回転させる回転手段と、前記培養容器を所定の角度範囲で上下方向に傾動させる傾動手段と、を備えたことを特徴とする植物培養装置を構成した(請求項1)。
【0009】
ここで、前記回転手段が、前記培養容器を間に載せて回転させる複数の回転ローラと、前記回転ローラを同期的にシンクロした状態で同一方向に回転させる駆動手段とよりなり、前記傾動手段が、前記複数の回転ローラを支持している支持フレームを所定の角度範囲、例えば一定の角度位置を中心に上下に10°づつ上下併せて20°の角度範囲で、上下に傾動させるクランク機構よりなる装置が好ましい(請求項2)。
【0010】
また、前記培養容器が上端に開口部を有し、複数の前記培養容器を、一方の底部を他方の開口部から挿入して該他方の前記突条部の上端部に載置させることによりスタッキング状態で使用可能としたものが好ましい(請求項3)。
【0011】
特に、前記培養容器の底部外周部に筒状の環状片を設けるとともに、前記突条部の上端部に、前記開口部から挿入される別の培養容器の前記環状片が係合する凹溝を設け、前記一方の底部が当該係合状態で他方の突条部の上端部に載置されるものが好ましい(請求項4)。
【0012】
また本発明は、上記した植物培養装置に用いる培養容器であって、上端に開口部を有する有底の管体よりなり、周壁内面から内側に向けて突出し且つ底部まで延びる突条部を、周方向に沿って単又は複数設け、複数の当該培養容器を、一方の底部を他方の開口部から挿入して該他方の前記突条部の上端部に載置させることによりスタッキング状態で使用可能な培養容器をも提供する(請求項5)。
【0013】
ここで、より具体的には、前記周壁内面における軸中心に120度離間した対称な位置に、合計3つの各突条部をそれぞれ突設してなる容器が好ましい(請求項6)。
【0014】
また、底部の外周部に筒状の環状片を設け、前記突条部の上端部に、前記開口部から挿入される別の培養容器の前記環状片が係合する凹溝を設けてなるものが好ましい(請求項7)。
【0015】
特に、前記底部を下側凸の部分球面状に構成するとともに、その外周部の前記環状片を、前記部分球面状の最下部の位置より下方に延びる長さに設定してなるものが好ましい(請求項8)。
【0016】
また、前記突条部が、合成樹脂材料により容器本体と一体成形され、軸中心に向けて突出する板状のフィン(リブ)であるものが好ましい(請求項9)。
【発明の効果】
【0017】
請求項1に係る発明に係る植物培養装置によれば、培養容器が回転することにより突条部により培養液中の植物細胞が持ち上げられ、それに伴い内部の植物細胞の移動、浮遊及び不規則な回転が促進され、しかも培養容器の傾斜方向も変化するために培養液はわずかに回転しながら潮汐運動を行い、植物細胞の移動距離が大きくなり、不特定方向への回転も促進されて着地姿勢もランダムとなる。そして、さらに回転することで植物細胞が培養液中を突条部の壁面に沿って滑り落ち、その際には上記傾斜方向の変化も加わり、落下の際には複雑に回転しながら落ちることとなり、微少重力状態による不規則な運動となる。したがって、植物が感知する重力方向を不特定に撹乱することで成長点細胞が多方向に再分化し、効率よく苗条原基を作製することができる。
【0018】
請求項2に係る植物培養装置によれば、回転手段が前記培養容器を間に載せて回転させる複数の回転ローラと、前記回転ローラを同期した状態で同一方向に回転させる駆動手段とよりなり、前記傾動手段が、前記複数の回転ローラを支持している支持フレームを所定の角度範囲で上下方向に傾動させるクランク機構よりなるので、従来のように回転円板に培養管を挿着していたものに比べて培養容器の装着もローラ間に置くだけで済むので容易であり、作業性が向上するとともに、従来の回転型装置に比べて培養容器を増やしても装置をコンパクトに抑えることが可能である。更に、従来の回転型装置では円板を大型化すると装置が不安定化する課題があったが、本発明ではそのような懸念が生じず、安定した装置構成とすることができる。
【0019】
請求項3に係る植物培養装置によれば、複数の培養容器を一列にスタックした状態で回転ローラの間隙に載せて装着でき、生産性を向上させることが容易となる。
【0020】
請求項4に係る植物培養装置によれば、培養容器のスタッキング状態が係合により安定化し、回転時に容器相互間でばたつきが生じたりせず、また、容器間の隙間を確実且つ安定姿勢で確保することも可能となり、容器内に酸素がスムーズに供給される。
【0021】
請求項5に係る培養容器によれば、本発明の植物培養装置を用いて効率よく大量に苗条原基を作製することができる。
【0022】
請求項6に係る培養容器によれば、対称な合計3つの突条部により内部の植物細胞の不規則な運動を確実に促進できるとともに、落下時に自由運動しながら着地姿勢をランダムにするように微少重力状態を作出できる。
【0023】
請求項7に係る培養容器によれば、複数の容器を重ねてスタッキング状態で装着する際、環状片と凹溝の係合により姿勢が安定化し、回転時に容器相互間でばたつきが生じたりせず、また、容器間の隙間を確実且つ安定姿勢で確保することも可能となり、更には多くの培養容器を一列にスタッキングすることを可能にする。
【0024】
請求項8に係る培養容器によれば、底部を下側凸の部分球面状に構成したので、植物細胞が落下や回転により動いても角部などに当たって痛むことがなく、苗条原基の品質を確実に維持できる。また、このように底部が丸いので培養容器単独で扱う際に不安定であるが、外周部の前記係合のための環状片を、前記部分球面状の最下部の位置より下方に延びる長さに設定したので、従来の培養管では専用スタンドが必要であったのに対し、当該環状片により安定してテーブルの上等に単独で置くことができ、作業性が向上する。
【0025】
請求項9に係る培養容器によれば、突条部が合成樹脂材料により容器本体と一体成形され、軸中心に向けて突出する板状のフィンとしたので、当該容器を効率よく製造でき、軽量なものとすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
次に、本発明の実施形態を添付図面に基づき詳細に説明する。
【0027】
図1は、本発明に係る植物培養装置の全体構成を示す説明図であり、図1〜5は代表的実施形態を示し、図中符号1は植物培養装置、2は回転円板、3は培養容器、4はクランク機構をそれぞれ示している。
【0028】
植物培養装置1は、図1に示すように、複数の培養容器2と、これら培養容器2を軸中心に回転させる回転手段3と、培養容器2を所定の角度範囲で上下方向に傾動させる傾動手段4とを備えている。各培養容器2は、有底の管体よりなり、図2に示すように周壁内面21aから内側に向けて突出し且つ底部22まで延びる突条部5が複数設けられている。各培養容器2には培養液とともに植物細胞が入れられており、該培養容器2を回転手段3と傾動手段4により回転及び傾きを与えることにより、植物細胞における重力方向の認識が撹乱され、成長点を多く出現させることができるものである。本発明は、苗条原基法により再生可能なすべての植物に適用できる。
【0029】
回転手段3は、図4及び図5にも示すように、培養容器2を間に載せて回転させる対を為す複数の回転ローラ30と、前記回転ローラ30を同期された状態で同一方向に回転させる駆動手段31とより構成されている。駆動手段31は、本例では基台33に設置された駆動モータM1によりベルト駆動されるウォーム軸34と、該ウォーム軸34により回転ローラ30の軸を回転させるウォームホイール35とを備えたウォームギア駆動により構成されているが、これに限らず、その他のギア駆動により各回転ローラ30を連動させるものや、その他ベルト駆動、例えばキャタピラ状のタイミングベルトを使用したものや、チェーン駆動などにより連動されるもの等、種々のものを採用できる。ベルト駆動やチェーン駆動の場合、本例のように各回転ローラの一端側のみで連動させるものに限らず、隣接する回転ローラ間を一端側と他端側で交互に連動させるとともに、一の回転ローラのみ駆動することですべてを同期駆動させるようにしてもよい。本例ではウォーム軸34にウォーム34aがほぼ全長に設けられているが、各ウォームホイール35に対応してウォームを断続的に設けてもよい。
【0030】
回転ローラ30は、枠状の支持フレーム32により複数本平行に配され、該支持フレーム32は各ローラの両端を回転支持している。本例では回転ローラ30を3本以上設け、培養容器2を2列以上装着できるように構成しているが2本のみ設けたものでもよい。また、回転ローラ30の長さは培養容器2を複数個、例えば10個程度スタッキング状態で装着できるだけの長さを有しているが、1個のみ装着できる長さとしてもよいし、また装置の規模により10個以上に長く連結できる長さにすることも勿論よい。更に、本例では回転ローラ30の両端にフランジを設け、傾斜した状態で下側となるフランジで回転ローラ間に載置した最下部の培養容器の底部を支持する構造であるが、このようなフランジの代わりに支持フレーム32の各回転ローラ間に培養容器底部の中心部を支持する支持棒を突設したものでもよい。
【0031】
支持フレーム32は、ウォーム軸34を軸として基台33に枢支されるとともに、傾動手段4によって、上下に約20°の範囲で往復傾動できるように支持されている。本例のようにウォーム軸34により端部で枢支されるもの以外に、途中部で支持されるものでも勿論よい。また傾動の角度範囲はとくに限定されるものではないが、本例では培養容器の開口部から培養液等が漏れないように開口部側が上になるような範囲内で傾動される。傾動手段4は、クランク機構40より構成されている。クランク機構40は、基台33に設置された駆動モータM2によりクランクホイール41をベルト駆動し、該クランクホイール41から延びる支持アーム42を支持フレーム32に枢支している。これにより、図6、7にも示すように、複数の回転ローラ30の互いの相対位置関係を維持したまま所定の角度範囲で上下に傾動させることができ、2次元的な同一平面上の回転ではなく、3次元的な動きとされる。
【0032】
つまり、培養容器2はゆっくりと回転しながら同時に上下方向に揺らされることとなり、内部の植物細胞も培養液中で多軸に回転し、不規則な姿勢の自由落下をする動きを繰り返す。傾動手段4は、クランク機構40以外にカム機構など、その他の機構で実現することもできる。また、本例では、傾動手段4の駆動モータM2を上述の回転手段3の駆動モータM1と別のモータとし、それぞれ最適な回転数で培養容器の回転と傾動がシンクロするように適宜調整容易に構成されているが、共通のモータを用いることも勿論可能である。さらに、駆動モータを支持フレーム32側に固定し、該駆動モータのクランク軸から支持アームを延ばして基台33側に枢支する構造でもよい。この場合にも駆動モータを回転手段の駆動モータとして兼用することも可能であり、クランク軸のクランクから延びる支持アームで傾動駆動するとともにクランク軸のモータ中心軸から延びるベルト等で回転ローラを回転駆動することで実現できる。
【0033】
回転手段3と傾動手段4の動きは、回転手段3による回転方向の力ベクトルと傾動手段4による上下傾動方向の力ベクトルを最適にシンクロ同期させ、両者の力のベクトルが相殺し合うことなく培養容器内の培養液が適切な潮汐運動を反復するように設定される。本例では、図6、7に示すように、支持フレーム32の上側に、前記回転ローラ30及びこれに載置される培養容器2の全体を覆うように枠フレーム36が設けられており、該枠フレーム36の外側に透明なビニールシート等のシート37を被せることで培養容器2内に埃等が浸入しないように構成し、また該枠フレームの内側に蛍光灯やLEDランプ等の照明装置38が設けられている。
【0034】
培養容器2は、図2に示すように、上端に開口部20を有する有底の管体よりなり、開口部20から底部にわたり断面形状が従来の培養管(試験管)の底部と同様の球面状の円形とされている。周壁内面21aには、内側に向けて突出し且つ底部22まで延びる突条部5が周方向に沿って単又は複数設けられている。本例では、細胞の移動距離をより大きくするために周壁内面21aにおける軸中心に120度離間した対称な位置に合計3つの各突条部5がそれぞれ突設されている。培養容器2の素材はポリカーボネート樹脂などの合成樹脂製や、ガラス製等の光透過性のものが適用できる。本例では、光透過性の合成樹脂で構成され、突条部5は合成樹脂材料により容器本体と一体成形され、軸中心に向けて突出する板状のフィンとされているが、このような板状のものに何ら限定されず、例えば図9に示すように周壁を内側に屈曲した形状として突条部5を構成することや、その他、様々な形態が可能である。
【0035】
培養容器2が回転すると、一定の角度(ほぼ11時の方向)まで突条部5で植物細胞を持ち上げ、その角度を超えると突条部5から植物細胞が培養液中を下方向に向かって自由落下する。回転ローラ30に載置する装置の構造上、培養容器2は従来の回転円板に挿着していた培養管に比べて大きさ(容積)を比較的自由に設定でき、2個以上、例えば10個の植物細胞を入れて培養することも可能である。
【0036】
培養容器2の底部22は、下側凸の部分球面状に構成されており、その外周部には部分球面状の最下部よりも下方に延びる長さの環状片23が筒状に突設されている。また、突条部5の上端部5aには、開口部20から挿入される別の培養容器2の環状片23が係合する凹溝5bが設けられ、図3に示すように、複数の当該培養容器2を、一方の底部22を他方の開口部20から挿入して該他方の前記突条部5の上端部5aに載置させることにより、前記環状片23が凹溝5bに係合し、安定した姿勢でスタッキング状態で使用可能に構成されている。このように培養容器2を複数連結することで、効率よく培養できると同時に、酸素の供給を確保する構造となっている。
【0037】
尚、培養容器2はスタッキング状態で開口部20と上側の容器との間に空気流通用の隙間が維持されるように寸法設定され、前記安定した係合姿勢で回転によっても当該隙間が動くことなく安定維持されるように構成されているが、開口部20近傍の側壁に開口孔を設けることでも対処できる。また、図8に示すように、前記環状片や凹溝を省略することも勿論可能である。
【0038】
培養容器2は、例えば本例では、回転ローラ30によって1分間に約2回転の速度で回転されると同時に、回転ローラ30ごと上方に約15°傾斜した位置から上下に10°づつ合計20°の範囲を1分間に約2往復の速さで傾動されるが、これら回転/傾動の速さは植物細胞の種類に応じて適宜設定される。これら回転及び上下傾動の速さは植物細胞の種類の応じて適宜設定される。
【0039】
図10は、植物培養装置1の動作時の培養容器2内部の様子を容器の断面図で示した説明図である。回転方向は時計回りとする。回転位置(a)〜(b)において、培養液中の植物細胞が突条部5間の周壁内面21a(内周面)上を移動するが、回転方向に移動しても重力で真下の6時の位置に戻る動きを繰り返す。尚、図面上、傾動動作が現れないが、実際には回転方向からずれた斜めの方向に移動する。
【0040】
位置(b)〜(c)では、突条部5が真下の位置にきて、植物細胞が培養液中を回転方向に持ち上げられる。植物細胞は容器2内の周壁内面21aと突条部5の側壁5cとの間の隅部に集まり、浮遊し、重力方向の認識の撹乱が促進される。
【0041】
位置(c)〜(d)では、植物細胞が突条部5の側壁5c上に着地して移動しはじめる。着地姿勢は当初の容器2の周壁内面21a上での位置とは異なる可能性が高い。その後、植物細胞が突条部5の側壁5c上を先端側に斜めに移動し、培養液中を下方に落下しはじめる。回転方向の回転と同時に傾動方向にも回転が加わっているため、落下の際には複雑な多軸回転落下となる。
【0042】
位置(d)〜(e)で再度、容器2の周壁内面21aに着地するが、前記した複雑な回転落下の結果、当初の姿勢とは異なるランダム性が高い着地姿勢となり、重力方向の認識に撹乱が生じる。その後も(a)〜(e)を繰り返すことで、植物細胞は浮遊、回転、移動を繰り返し、微少重力に近い状態で運動を反復する。従来の培養装置では培養容器の底部を安定姿勢で僅かな回転運動をともなって滑落移動していた植物細胞が、本例の装置によれば確実に上記微少重力に近い撹乱をさせることができるのである。
【0043】
本発明者がナンヨウアブラギリ(ジャトロファ)の茎頂細胞を用いて培養実験して確認したところによると、従来の円板よりなる回転型装置で上記細胞を培養して形成される苗条原基が1細胞から1ヶ月で10個であったのに比べ、本発明の容器を用いた装置によれば、2週間で20個の苗条原基を再分化させることが可能であり、1ヶ月では従来に比べて4倍ほどの数になった。例えば、培養容器10個をスタッキング状態でローラ間に載置し、これを11本の回転ローラ30により10列搭載する、すなわち合計100個の培養容器を搭載するとともに、1個の培養容器2に10個の植物細胞を入れて、製造される苗条原基は1ヶ月で約4万個となる。植物培養装置1の上に植物培養装置1を二段ないし三段以上に載せることも可能であり、省スペースで大量の培養が可能である。
【0044】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこうした実施例に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の代表的実施形態に係る植物培養装置の全体構成を示す斜視図。
【図2】同じく植物培養装置に搭載される培養容器を示す説明図。
【図3】同じく培養容器をスタッキング状態にした様子を示す縦断面図。
【図4】同じく植物培養装置の平面図。
【図5】同じく植物培養装置の要部の説明図。
【図6】同じく植物培養装置の側面図。
【図7】同じく側面図。
【図8】培養容器の変形例を示す説明図。
【図9】培養容器の他の変形例を示す説明図。
【図10】動作時の培養容器内部の様子を示す説明図。
【符号の説明】
【0046】
1 植物培養装置
2 培養容器
3 回転手段
4 傾動手段
5 突条部
5a 上端部
5b 凹溝
5c 側壁
20 開口部
21a 内面
22 底部
23 環状片
30 回転ローラ
31 駆動手段
32 支持フレーム
33 基台
34 ウォーム軸
34a ウォーム
35 ウォームホイール
36 枠フレーム
37 シート
38 照明装置
40 クランク機構
41 クランクホイール
42 支持アーム
M1 駆動モータ
M2 駆動モータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有底の管体よりなり、周壁内面から内側に向けて突出し且つ底部まで延びる突条部を、周方向に沿って単又は複数設けてなる培養容器と、
前記培養容器を軸中心に回転させる回転手段と、
前記培養容器を所定の角度範囲で上下方向に傾動させる傾動手段と、
を備えたことを特徴とする植物培養装置。
【請求項2】
前記回転手段が、前記培養容器を間に載せて回転させる複数の回転ローラと、前記回転ローラを同期した状態で同一方向に回転させる駆動手段とよりなり、前記傾動手段が、前記複数の回転ローラを支持している支持フレームを所定の角度範囲で上下方向に傾動させるクランク機構よりなる請求項1記載の植物培養装置。
【請求項3】
前記培養容器が上端に開口部を有し、複数の前記培養容器を、一方の底部を他方の開口部から挿入して該他方の前記突条部の上端部に載置させることによりスタッキング状態で使用可能とした請求項1又は2記載の植物培養装置。
【請求項4】
前記培養容器の底部外周部に筒状の環状片を設けるとともに、前記突条部の上端部に、前記開口部から挿入される別の培養容器の前記環状片が係合する凹溝を設け、前記一方の底部が当該係合状態で他方の突条部の上端部に載置される請求項3記載の植物培養装置。
【請求項5】
請求項1〜4の何れか1項に記載の植物培養装置に用いる培養容器であって、
上端に開口部を有する有底の管体よりなり、
周壁内面から内側に向けて突出し且つ底部まで延びる突条部を、周方向に沿って単又は複数設け、
複数の当該培養容器を、一方の底部を他方の開口部から挿入して該他方の前記突条部の上端部に載置させることによりスタッキング状態で使用可能な培養容器。
【請求項6】
前記周壁内面における軸中心に120度離間した対称な位置に、合計3つの各突条部をそれぞれ突設してなる請求項5記載の培養容器。
【請求項7】
底部の外周部に筒状の環状片を設け、前記突条部の上端部に、前記開口部から挿入される別の培養容器の前記環状片が係合する凹溝を設けてなる請求項5又は6記載の培養容器。
【請求項8】
前記底部を下側凸の部分球面状に構成するとともに、その外周部の前記環状片を、前記部分球面状の最下部の位置より下方に延びる長さに設定してなる請求項7記載の培養容器。
【請求項9】
前記突条部が、合成樹脂材料により容器本体と一体成形され、軸中心に向けて突出する板状のフィンである請求項5〜8の何れか1項に記載の培養容器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−78386(P2011−78386A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−235569(P2009−235569)
【出願日】平成21年10月9日(2009.10.9)
【出願人】(508214352)日本バイオエナジー株式会社 (3)
【Fターム(参考)】