説明

植物成長促進剤

【課題】
植物種子の出芽及び初期生育促進効果を持つ促進剤を提供すること。
【解決手段】
カルニチン又はその誘導体を含む植物成長促進剤。本発明の植物成長促進剤により、発芽率を上昇させたり、茎の伸長や肥大を促進させたりすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カルニチンを含有する植物成長促進剤及び植物成長促進方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カルニチンの人に対する生理作用としては、生体内で脂肪酸の代謝、正常な心拍動の維持、抗疲労などが知られている。一方、植物に対する作用としては、カルニチンを植物に吸収させた植物体を製造すること(特許文献1参照)、植物病原体真菌の制御と生物的ストレスの軽減すること(特許文献2参照)が知られているが、いずれの先行文献もカルニチンによる植物種子の発芽率及び初期生育の向上に関して何ら言及していない。
【0003】
作物を栽培する上で、植物種子の発芽率及び初期生育を向上させることは、必要な生育量を確保し、安定した収量を得るために重要なことである。出芽及び初期生育促進を図る従来技術として、過酸化カルシウムを植物種子に粉衣することやパクロブトラゾールを種子に与えることが知られている(特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−89572号公報
【特許文献2】特開2009−514807号公報
【特許文献3】特開平5−286813号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、多量の水を与えて植物種子を発芽させ、若芽と一緒に植物種子を食するスプラウトにおいては、過酸化カルシウムは水に対して不溶性である事から均一かつ充分な生育促進が難しい。また、パクロブトラゾールの無毒性を示す最小量は0.02mg/Kg 体重/日と非常に低い値であり、残存した場合人体への影響が懸念される。スプラウトの栽培期間の短縮や収穫量を増大させるためには高い発芽率と初期成育、特に大きく伸長し太い若芽が望まれている。
【0006】
そこで、本発明の目的は、植物種子の出芽及び初期生育促進効果を持つ促進剤を提供する事にある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、従来技術の問題点に鑑みて鋭意研究を重ねた結果、カルニチンが植物の成長を促進させることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、カルニチンを含む植物成長促進剤に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の植物成長促進剤により、発芽率を上昇させたり、茎の伸長や肥大を促進させたりすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(1)カルニチン又はその誘導体
本発明において使用するカルニチンは、市販されているものを使用することもできるし、公知又は新規な方法で製造したカルニチンを使用することもできる。公知の方法としては、例えば、以下の製造方法が知られている。(イ)ジクロロプロパノールを酵素反応(ハロヒドリンエポキシダーゼ及びニトリルヒドラターゼ)によりシアノ化及びアミド化した後、4級アミノ化し、加水分解等を行うことにより得られるL−カルニチン;(ロ)エピクロロヒドリンを順次、4級アミノ化、シアノ化、アミド化、光学分割等に供して得られるL−カルニチン;(ハ)ブチロラクトンを開環、4級アミノ化、微生物による反応等に供して得られるL−カルニチン;(ニ)クロロアセト酢酸エチルを不斉還元、4級アミノ化、加水分解等に供して得られるL−カルニチン。
【0011】
これらの中でも、(イ)で得られるカルニチンを好適に使用することができる(WO2008/056827号パンフレット参照)。当該方法によれば、収率が高く、また、不純物も抑制されたカルニチンを使用することができるからである。
【0012】
上記カルニチンの光学活性の種類は限定されない。例えば、光学的に純粋なL体又はR体のカルニチン、ラセミ体のカルニチン、光学活性に偏りがある(L体又はR体のどちらかがもう一方よりも多く含まれる)カルニチンを使用することができる。好ましくは、L−カルニチンである。
【0013】
また、上記カルニチンは、電気的に中性であっても、正電荷を帯びていても、負電荷を帯びていてもいずれでもよい。これらの中でも、4級アミノ基の正電荷とカルボキシル基の負電荷により分子内で電気的に中性となっているもの(以下、「カルニチン分子内塩」ということがある。)が好ましい。
【0014】
更に、本発明においては、上記カルニチンだけでなく、カルニチンの誘導体も使用することができる。当該誘導体の種類は限定されず、例えば、カルボキシル基がエステルを形成したもの、水酸基がエステルを形成したものを挙げることができ、これらの中でも、アセチルカルニチン、プロピオニルカルニチン等が好ましい。また、塩による植物の成長阻害等の害が生じない限り、カルニチンの塩を使用することも可能である。
【0015】
(2)カルニチンによる植物の成長促進
本発明における植物成長促進とは、発芽後の成長促進だけでなく、発芽の促進も含む。発芽の促進とは、発芽率の上昇(播種した種子のうち、発芽する種子の割合の増加)や、種子から発芽するまでの時間の短縮を含む。発芽後の成長促進とは、茎の伸長・肥大、根の伸長・肥大、葉の成長等を含む。
【0016】
本発明の植物成長促進剤が処理される被処理体としては、植物であれば限定されない。例えば、植物の種子、カルス、発芽直後の若芽、成長中の植物体等を挙げることができる。
【0017】
本発明において対象となる植物の種類は特に限定されないが、例えばキュウリ、メロン、カボチャ、スイカ等のウリ科、ナス、トマト、ピーマン、トウガラシ等のナス科、エンドウ、インゲン等のマメ科、タマネギ、ネギ等のユリ科、ダイコン、カブ、ハクサイ、カンラン、ハナヤサイ、ブロッコリー、カラシナ等のアブラナ科、ニンジン、セルリー等のセリ科、ゴボウ、レタス、シンギク等のキク科、デルフィニウム等のキンポウゲ科、シソ等のシソ科、パンジー等のスミレ科、キヌア、ホウレンソウ等のアカザ科等、ロベリア等のキキョウ科、アズキ、大豆、エンドウ等のマメ科の野菜類や、ソバ等のタデ科、小麦、大麦、オーツ麦、ライ麦、米、キビなどのイネ科の穀物類、リンゴやナシ、サクランボ、モモなどのバラ科、キウイフルーツなどのツバキ科、ブドウなどのブドウ科の果実類、ブナやクヌギなどのブナ科、スギやヒノキなどのヒノキ科の植物が挙げられる。
【0018】
本発明における植物成長促進方法は、カルニチンを上記の植物に接触させる(以下、カルニチンによる「施用」ということがある。)ことである。カルニチンが種子や植物体に接触できれば、その方法や態様については限定されない。
【0019】
本発明の植物成長促進剤は、粉体(固体)のまま使用することもできるし、溶媒に溶解又は分散させて、溶液又は分散液として使用することもできる。溶媒の種類は植物に害を及ぼさなければ限定されないが、カルニチンが溶解し、使用が容易なので、水を使用するのが好ましい。
【0020】
植物成長促進剤を粉体として使用する場合は、栽培培土にそのまま撒いても良く、必要に応じて事前に栽培培土に混和しても良い。培土に播種する場合には、播種する前に予め培土と混和しておいてもよいし、播種の後に本発明植物成長促進剤を混和してもまいてもよい。発芽後の植物に施用する場合も同様に、当該植物体を植える前に予め培土と混和しておいてもよいし、植えた後に本発明植物成長促進剤を混和してもまいてもよい。
【0021】
水溶液として使用する場合は、カルニチンを含む水溶液に、種子や発芽後の植物体を浸漬させることもできるし、種子や発芽後の植物体に噴霧することもできる。栽培培土に散布、混和又は供給することもできる。その態様としては限定されず、じょうろ、スプリンクラー、霧吹き等、いずれの方法を用いることも可能である。
【0022】
本発明において、培土とは、土や砂だけではなく、脱脂綿、スポンジ等、種子が発芽でき、植物が生育できる基盤となるものを含む。
【0023】
植物種子に浸漬させる場合は常時または断続的に浸漬し、根以外を水溶液の外に常時又は断続的に維持させる事が良好な蒸散作用が見られ生育が進む事から望ましい。
【0024】
植物種子は、回転する容器、例えば、カールスプラウトの製造に利用される回転ドラム内で、本発明の植物成長促進剤と接触させることもできる。この場合、植物種子の根は当該植物成長促進剤に断続的に浸漬し、根以外も前記水溶液の外に断続的に維持される。回転ドラムの運転条件は、例えば、毎分1回転程度の速度で回転することが適当である。
【0025】
本発明の植物成長促進剤の施用量はスプラウトの種類や生育状態、施用間隔、施用回数、製剤の種類等に応じて適宜調節するとよい。
【0026】
植物成長促進剤を播種前の栽培培土に水溶液として予め施用しておく場合、例えば、栽培培土100cm当り5〜5000ppm、好ましくは60〜600ppmの濃度でカルニチンを80〜120mL栽培培土に与えることが好ましい。粉体にて混和する場合は、例えば、100cm当り7〜460mg、好ましくは10〜400mgとなるように処理する。
【0027】
植物成長促進剤を播種後の植物種子、育苗期の苗に水溶液として施用する場合は、例えば5〜5000ppm、好ましくは60〜600ppm、の濃度でカルニチンを植物に直接処理すればよい。散布量は、植物種子の種類によって適宜変更されるが、通常1日に100cm当たり4〜12mL、好ましくは8〜10mLに相当する量とすることができる。これに相当する量を複数回に分けて施用してもよい。散布回数は通常1日に6回程度、好ましくは3回程度とすればよい。
【0028】
散布する形態は特には限定されない。例えば、霧吹き、スプリンクラー、農薬等散布用噴霧器などの器具を用いることができる。また、植物の栽培培土に散布または混和する場合は、例えば、100cm当り1〜5000mg、好ましくは6〜600mgとなるように処理する。これに相当する量を複数回に分けて施用してもよい。複数回に分けて処理する場合には、通常1日に1〜3回、5〜15日に渡って行うことができる。好ましくは1日に1〜2回、8〜12日に渡って行うと良い。
【0029】
生育環境としては、植物体及び水溶液は20〜35℃の温度に維持すればよい。好ましくは25〜30℃である。温度を20℃以上とするのは、本発明の植物成長促進剤が充分に吸収されるようにするためである。また、35℃以下とするのは、本発明の植物成長促進剤が充分に吸収されるとともに、褐変、萎れなどを避けることができるからである。
【0030】
栽培培土に種子を撒き、暗発芽種子には直接光が当らない環境下で栽培3日〜10日間、好ましくは8〜10日間、発芽及び植物成長剤を散布し、その後照光下で1〜4日間、好ましくは2日間、発芽及び植物成長剤を散布する事が生育には好ましい。光発芽種子には光が当る環境下で本発明の植物成長促進剤を散布すればよい。
【0031】
本発明の植物成長促進剤は、カルニチンの他に添加剤としてその他の成分を添加することができる。当該添加剤の種類は、植物の成長促進が阻害されなければ限定されない。例えば、オーキシン類、サイトカイニン類、エチレンガス、エチレン発生剤、ジベレリン類、窒素化合物、リン酸化合物等、従来から市販され、使用されてきたものが適宜利用できる。より詳細には、オーキシン類ではインドール酢酸、インドール酪酸、α−ナフタレン酢酸等、サイトカイニン類はゼアチン、ベンジルアデニン、カイネチン等、ジベレリン類ではGA3、GA4、GA7等、エチレン発生剤では2−クロロエチルホスホン酸等、窒素化合物ではチオ尿素、硝酸カリウム、硝酸アンモニウム等、リン酸化合物ではリン酸カリウム等が挙げられる。また、種類は限定されないが、害虫駆除薬、害虫忌避薬も添加することができる。これらの添加剤は単独で又は2種以上を混合して使用することができる。これらの添加剤の使用態様、使用タイミングについても限定されない。
【0032】
本発明の植物成長促進剤は、それを含む肥料としても使用できるし、それを含む培土としても使用することができる。さらに、植物の種子と、本発明の植物成長促進剤を含む肥料及び/又は本発明の植物成長促進剤を含む培土とを含む植物栽培キットとして使用することもできる。
【実施例】
【0033】
以下に実施例によって本発明をより詳細に説明するが、これによって本発明が限定されるものではない。
【0034】
〔実施例1〕栽培土への施用
まず、上記(イ)の方法(WO2008/056827号パンフレット)により得られたカルニチン試料約3gを測りとり、純水50mLで希釈して超音波洗浄器で10分間混合し、試料が完全に溶解した溶液を調製した(カルニチン濃度:60000ppm)。続いてこれを水で10倍希釈(カルニチン濃度:6000ppm)、100倍希釈(カルニチン濃度:600ppm)、1000倍希釈(カルニチン濃度:60ppm)して、3種類のカルニチン水溶液を作成した。
【0035】
シャーレ(内径100mm、ポリスチレン製)に厚さが1cmになるように脱脂綿を敷き詰めた。このシャーレを3枚準備した。上記3種類のカルニチン水溶液を、それぞれのシャーレに、脱脂綿が完全に湿るようにシャーレ1枚当たり約30mL注ぎ入れた。
【0036】
ブロッコリーの植物種子を1枚のシャーレにつき20粒乗せた。その際に種と種の間を充分に空けた。当該シャーレを25℃暗所にて静置した。暗所で8日間栽培した後に、2日間照光下で栽培した。なお、脱脂綿が乾燥しないように駒込ピペットを用いて1日当り2mL〜5mLの各カルニチン水溶液を脱脂綿に直接水溶液を滴下した。
【0037】
播種から10日後に、発芽した植物種子の数を数え、根元をハサミで切り収穫した。直ちにスプラウトの根元から葉元までの中心点の直径をノギスで測定した。また、茎の長さ(根元から茎の先端)もノギスで測定した。結果(発芽した種子における平均値)を表1に示す。
【0038】
〔比較例1〕栽培土への施用
カルニチン水溶液の代わりに水を使用した以外は、実施例1と同様に実験を行った。結果(発芽した種子における平均値)は表1に併せて示す。
【0039】
〔実施例2〕スプラウトへの施用
実施例1と同様にして、3種類の濃度のカルニチン水溶液を含んだ脱脂綿を敷いた各シャーレ(3枚)を準備した。
【0040】
そこに、大根の種子をシャーレ1枚につき20粒乗せた。その際に種と種の間を充分に空けた。当該シャーレを25℃暗所にて静置した。暗所で8日間栽培した後に、2日間照光下で栽培した。なお、各カルニチン水溶液3mLを毎日9時、12時、15時の3回に分けて霧吹きを用いて植物種子または幼芽に直接散布した。
【0041】
発芽した種子の数を数えた後に、根元をハサミで切り収穫した。直ちにスプラウトの根元から葉元までの中心点の直径をマイクロメーターで測定した。また、茎の長さ(根元から茎の先端)もノギスで測定した。結果(発芽した種子における平均値)を表2に示す。
【0042】
〔比較例2〕スプラウトへの施用
カルニチン水溶液の代わりに水を使用した以外は、実施例1と同様に実験を行った。結果(発芽した種子における平均値)は表2に併せて示す。
【0043】
【表1】

【0044】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルニチン又はその誘導体を含む植物成長促進剤。
【請求項2】
カルニチン又はその誘導体を種子又は植物体に接触させる、植物成長促進方法。
【請求項3】
種子又は植物体を100cm当り1〜5000mgのカルニチン又はその誘導体を含む培土を用いて栽培する、請求項2記載の方法。
【請求項4】
種子又は植物体に5〜5000ppmの濃度のカルニチン又はその誘導体を含む溶液を4〜12mL/100cm2/日の量で散布する、請求項2記載の方法。
【請求項5】
請求項1記載の植物成長促進剤を含む肥料。
【請求項6】
請求項1記載の植物成長促進剤と含む培土。
【請求項7】
植物の種子と、請求項5記載の肥料及び/又は請求項6記載の培土とを含む、植物栽培キット。

【公開番号】特開2011−225479(P2011−225479A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−96099(P2010−96099)
【出願日】平成22年4月19日(2010.4.19)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】